《実践報告》高等学校における漢詩のリライト授業 ―相互理解、表現としての漢詩―
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(2) 横浜国大国語教育研究 No.43(2018) 骨奪胎する形で生徒に考えさせた。また、出来上. きたとするものがずいぶん多かった」と述べてい. がった作品に対しての添削は行わず、押韻や送り. る。. 仮名の不足などの誤りは不問とし、リライト活動. 一方で、江川氏の実践報告にあった生徒の感想. 中に気づいた場合に指摘して修正する程度にとど. の中には題材決めや創作が難しいという意見があ. めた。そのほかにも今回のリライト作品において. った。生徒が題材を決め、読解した上でアレンジ. ・平仄は問わない。. を加えることはかなりの技術を要するように感じ. ・造語は鑑賞する人が分かるレベルであれば用い. る。また、江川の実践は事前に漢詩十一点につい. ても構わない。. ての授業があり、漢詩創作に至るまでに生徒の漢. ・押韻は日本語の音読みで母音が同じであればよ. 詩に関する知識、技能が定着した上で実践に臨ん. い。. でいたことがわかる。 次に森野iiの高校二年生を対象とした漢詩創作. といった近体詩とは異なるルールを設け、生徒が リライト活動に取り組みやすくした。. 授業の実践を挙げる。森野は生徒が受験で使わな い漢詩について、 「受け身の授業になってしまいが. 三 過去の漢詩・漢文教育実践との比較. ち」であることに注目し、 「基礎的な力を身に着け」. 次に本章では筆者が参考にした先行研究につい. させるという目的で漢詩創作活動を行っていた。. て紹介する。今回の「漢詩のリライト作品づくり」. 森野の実践は. 授業における先行実践として、漢詩創作授業の江. ①教科書内の漢詩を説明し、口語訳を生徒に書か. 川順一と森野知子の実践報告がある。二つの実践. せて添削をおこなうことで漢詩の基本事項を修. と今回の筆者による実践を比較することで本実践. 得させる活動。. の持つ独自性を明らかにしていく。. ②日常生活などの簡単な出来事について短い漢詩. まず江川iによる高校二年生を対象とした漢詩. を作らせ、文法を確認する活動。. 創作の授業を挙げる。江川は「生きている」言語. ③「卒業生を送る」というテーマで日本語の作文. として漢詩を活用できるようになることを目的と. を作成する活動。. した実践を行っていた。江川の実践は. ④ ③で作った作文を漢詩に作り変える活動。. ①漢詩の作り方を説明し、生徒個人でリライト作. という七時間構成の実践をおこなっていた。森野. 品の典拠となる(もしくはオリジナル)の漢詩. の実践の特徴は、漢詩の書き下し文を細かく指導. を図書館などで探す活動。. し、短文での漢詩づくり練習などの下準備の後、. ②実際に生徒が漢詩をリライトして個々の作品を. 漢詩創作の活動に入っており、江川の実践と比べ. 作る活動。. ると漢詩を苦手とする生徒に対しての工夫がなさ. ③生徒間でお互いの作品を評価し、優秀賞を決め. れている部分にある。また、作品を添削して生徒. る鑑賞活動。. に返却することで、生徒が間違えている部分を修. の三つの活動を四時間構成でおこなっている。. 正できるように授業を展開していた。その他にも. 江川の実践の特徴としては図書館で自由に典拠. 日本語で作文をしてから漢詩に訳すという活動を. となる漢詩作品を決めさせるなど、生徒の創作活. 行っていることも特徴的である。. 動の自由度が高く、形式も絶句から律詩まで生徒. 一方で、森野自身の反省として「テーマを決め. の裁量に任せているという点にある。そのため生. てしまったこと」が述べられている。森野はテー. 徒も作品づくりに達成感を感じており、江川自身. マを統一していたが、その内容を書けない生徒が. も「この活動によって、己の感懐を盛ることがで. いたとある。また、日本語で作文をさせる活動に 126.
(3) 横浜国大国語教育研究 No.43(2018) おいて「独特の詩を書いてきて、こちらとしても、. モチベーションは生徒によってまちまちである。. それを漢文にすることなど要求できず、そのまま、. 単語などの小テストでは努力する生徒が多いもの. 提出せざるをえない状況」があったようである。. の、授業中における発言は一部の生徒に限られて. 以上に挙げた先行実践の他にも小嶋iiiによる韻. おり、しっかりと理解できていない生徒も少なく. 字や平仄などについても深く掘り下げた漢詩づく. ない。また、質問をする生徒もいるものの文法的. りなど、様々な形で漢詩創作の授業実践がなされ. な知識に関してのものがほとんどで、あまり古典. ている。そういった実践を踏まえたうえで、本実. の内容や背景知識などに関して興味を示す生徒は. 践では生徒の自由度は低くなってしまうものの、. 見受けられない。これらは古典ができないことに. 生徒が取り組みやすいように詩作活動は班で行い、 対する苦手意識、 「古典の内容は難しくてわからな 教科書内の作品を典拠として漢詩のリライト活動. いものである」という先入観が原因だと考えられ. を行わせることとした。また、作品を鑑賞し合う. る。そういった意味で、この授業で少しでも古典. 時間を設け、生徒間での交流をはかることで、漢. に関して「分かった」、 「楽しい」という感覚を持. 詩を苦手とするに生徒に対しても取り組みやすい. ち、苦手意識をなくすきっかけづくりをしてもら. ような指導方法に配慮した。. いたい。 7.各授業内容・ねらい. 四 本実践の指導案. 【第1回】 「漢詩を読んで流れをつかむ」. 1.日時. 授業内容. 平成二十九年 計四回. 2.対象学年. ①本単元の最後に漢詩をリライトするということ. 横浜市内私立A高校(以下A高と称す). を説明し、これから扱う漢詩に関して「筆者が. 高校二年生 文系 四十名. 何を漢詩に読み込んだのか」という内容面を意. 3.科目・単元. 識させる。. ・高校古典B. ②実際に扱う漢詩を全体で音読し、漢詩のリズム. ・使用教科書 新編古典B. 高等学校国語科用文. や大まかな内容について生徒にイメージさせる。. 部科学省検定済教科書(東京書籍). ※初回の授業はテスト返却があったため、授業内. ・単元・教材 「鹿柴」 「秋風引」. 容を全体説明や音読にとどめた。. 「漢詩をリライトしよう」 4.単元(題材)の目標. 【第2回】 「「鹿柴」の風景をイメージしよう」. ・漢詩の構造を理解し、内容が把握できるように. 授業内容(プリントⅠ使用). なる。. ①繰り返し音読し、漢詩のリズムをつかんでもら. ・漢詩に対して自分なりの考えを持ち、理解を深. う。. められる。. ②詩にある単語の意味・描写について説明し、こ. 5.教材観(題材観). の作品がどのような風景を描いているのかを生. 二つの作品は内容もシンプルで、比較的生徒が想. 徒に考えさせる。. 像しやすいものを扱っている。それに加え、五言. (発問)「この風景はどんな雰囲気なのか」. 絶句で短いためリライトしやすく、文法の確認を. 「何故そう感じるのか」. するのにも最適だと判断した。. ③作品の書き下しを生徒にさせ、返り点や押韻な. 6.生徒観. どの文法事項を確認する。. このクラスの生徒は文系であるが、授業に対する. (プリントⅠ) 127.
(4) 横浜国大国語教育研究 No.43(2018) 都合上、今回は班による作品創作がメインとな った。そのため、後述する作品群は班における 作品である。 ②作品を班ごとに回覧し、配った付箋に一言コメ ントを書いて鑑賞会をおこなった。 ③班ごとで作品に対する評価をチェックし、教師 による学習のまとめを行った。 (プリントⅡ) 【第3回】 「 「秋風引」の心情を理解しよう」 (プリントⅠを「秋風引」に改めたものを使用) ①「鹿柴」の復習を行い、生徒に改めて内容を把 握させる。 ②単語や描写の確認により、作品内における作者 の孤独な心情を生徒につかませる。 (発問) 「どこに秋の要素があるのか」 「作者にとって秋は何なのか」. (プリントⅢ 生徒記入済み). ③作品の書き下し練習。 【第4回】 「漢詩をリライトしよう」 (プリントⅡ、Ⅲ使用) ①グループを作り、漢詩のリライト作品を作らせ る。 (発問) 「あなただったら、作者の感じたものをど. 五. う書きますか?」. 生徒の漢詩作品と評価について. 〈リライト活動における生徒の様子〉. 〈リライト活動について〉. 授業の理解度の差などから、班ごとに活動の様. 五人班を作り、 「鹿柴」か「秋風引」のどちら. 子は大きく異なっていた。ほとんどの班はある程. の漢詩をリライトするのかを各班で決めさせ作. 度までは作業が進むものの、漢詩全体のバランス. 業をさせた。まず個人にプリントⅡを配り、自. がおかしくなってしまったり、肝心の最後の句に. 分で作品を考えさせた後、グループで相談し合. 入れる語句が決まらなかったりとかなり苦戦して. い、完成版をプリントⅢにペンで清書させた。. いた。特に漢文が苦手な生徒が集まっている班は. 漢詩をリライトさせる際の注意点として、原作. 中々題材が決まらず、授業者がヒントを出すなど. の作品内容を踏まえてリライトすることや押韻. して対応した。だが、全体としてはそれぞれの生. について注意して言葉を選ぶような指示を行っ. 徒が当てはまる語句を出し合い、それに関するエ. た。また、今回は詩語表を用いない授業実践の. ピソードを語り合うなどリライト活動に積極的に. ため、電子辞書の使用、造語を用いても良いこ. 取り組む姿が多く見られた。. となどを追加ルールとして設定した。なお、本 来であれば個人での作品も十分に作る時間を与. 作品①. えてチェックをしたかったのだが、授業時間の. 帰路不見人 128. 題材「鹿柴」テーマ「夜の帰り道」 帰路人を見ず.
(5) 横浜国大国語教育研究 No.43(2018) 但聞足音響. 但だ足音の響きを聞く. 雑談で話していた夏についてのテーマで決まった. 月光入足元. 月光足元に入り. らしく、様々な言葉を個人が出し合いながらリラ. 復家光我照. 復た家の光我を照らす. イトしていた。ある意味、身近な思い出としての. (筆者注: 「復家光我照」は正確には「家光復照我」 。) 〈評価・様子〉. 「夏」がうまくリライトに生かせていた。 作品に関して、 「鹿柴」において王維が表現した. この班は比較的授業にいつも積極的に取り組ん. 「誰もいない自然の中で佇む作者」という情景を. でいる生徒が多く、今回のリライト作業でも五人. うまく取り入れており、波の音を聞きながら、夕. で熱心に取り組んでいた。また、言葉の推敲もし. 日に照らされた海を眺める作者の姿がとても印象. ており最後まで作品づくりを行っていた。. 的である。. 作品に関して、 「鹿柴」における静かな雰囲気を. 〈他の生徒からの一言コメント例〉. 生徒の日常における「帰宅の時の静けさ」に変換. ・涼しげな感じがすごくよかった。. しており、より身近な例として「鹿柴」の内容を. ・純粋な気持ちが伝わってきました。 (筆者注:作. リライトしている。また、聴覚的な「足音」と視. 品のタイトル「純粋」という言葉に注目してい. 覚的な「月光」という部分で「鹿柴」における風. る。 ). 景描写を踏襲しており、 「復た」という表現を登校 と下校という意味で利用するなど、原作の表現を. 作品③. うまく活用している。また、 「月の光」と「家の光」. (書き下し文). という対照的な光を表現することで、人気のない. 部屋不見人. 部屋人を見ず. さみしい家路から、家の明るい光が「我」を照ら. 但聞円盤響. 但だ円盤の響きを聞く. すという光の表現分けをしており、他の生徒から. 感想入携帯. 感想携帯に入り. 「この気持ち分かる」や「これ見たら家に帰りた. 復懸次旅行. 復た懸ける次の旅行. くなってきた」などの共感の声が上がっていた。. (筆者注: 「部屋」は日本語である。 ). 〈他の生徒からの一言コメント例〉. 〈評価・様子〉. ・光に焦点が当たっていてとても良い。. 題材「鹿柴」 テーマ「ライブ落選」. この班では作品のテーマがなかなか一つに決ま. ・いつもの一日がきれいに書けてるなと思った。. らず、生徒の方向性がバラバラであった。また、. ・最後の一文(筆者注:一句のこと)があたたか. 「円盤(CD) 」や「旅行(ツアー) 」など少しわ. いと思った。. かりづらい表現があり、授業者は他の班が内容を とらえられるのかについて少し不安に思っていた。. 作品②. 題材「鹿柴」テーマ「純粋」. しかし、実際に鑑賞の時間になると他の班員が「こ. 海辺不見人. 海辺人を見ず. の円盤ってどういう意味?」というように直接質. 但聞波風響. 但だ波風の響きを聞く. 問したり、質問した後に「これってCDのことか!」. 返景入海光. 返景海に光入り. と鑑賞していた生徒が推測して理解していたりす. 復照橙陸上. 復た照らす橙の陸の上. る場面があった。このように生徒が「自分から進. 〈評価・様子〉. んで漢詩の内容を理解しようとし、推測する」と. この班は比較的スムーズに話し合いが進み、早. いう活動を引き出したという意味で、この作品は. い段階で作品が完成していた。作品①の班とは違. とても授業者の手助けになってくれた。. い、この班は最初それぞれが関係のない夏の雑談. 作品の内容に関しては「ライブの抽選に落ち、. をしていた。しかし、いざ五人が作るとなった際、. 音楽で心を慰めていたら友達からの感想が届いた。 129.
(6) 横浜国大国語教育研究 No.43(2018) ライブはダメだったが、次のツアーに気持ちを切. 取って二度寝の様子を表現した作品になっている。. り替えようとする人物像」を描いたものである。. 描写として不自然な部分があるものの、生徒が日. 「鹿柴」における自然描写などはないものの、 「も. 常の風景を何とかして漢詩に込めようとした努力. の悲しげな雰囲気」という要素を抽出し、生徒の. がうかがえる。他の生徒からの感想も「とても共. 現実的な内容へと落とし込んでいた。また、他の. 感できる」というものが多く、漢詩を通じて他の. 生徒からの質問はあったものの「CD」を「円盤」. 人に自身の体験を伝えるという面に関しては、と. と表現するなど、生徒たちが自分の体験をうまく. ても工夫がなされていた。また、詩の展開として. 表現しようと工夫している様子がうかがえる作品. 「一度朝日で起きると思わせてから二度寝する」. である。. という内容は中々奇抜であり、テーマの「朝の目. 〈他の生徒からの一言コメント例〉. 覚め」という言葉とのギャップに関して鑑賞中に. ・すごい!旅行をツアーとするのがおもしろかっ. 面白いという声も聞こえた。. た。 (筆者注:生徒同士で推測し、質問して意味. 〈他の生徒からの一言コメント例〉. を理解していた。 ). ・気持ちがわかります。二度寝したい。. ・ライブに落選した悲しい気持ちが表れています。. ・普通に朝の目覚めの話かと思った二度寝してて. ・すごい!めっちゃ面白かったです。気持ちがわ. おもしろいです。. かる!. ・朝の風景が出ていて良い。めっちゃ共感できる 詩でした。. 作品④. 題材「鹿柴」 テーマ「朝の目覚め」. (書き下し文). 六. 考察と課題. 部屋不見人. 部屋人を見ず. 今回は漢詩を生徒自身の内容にリライトするこ. 但聞目覚響. 但だ目覚の響きを聞く. とで、生徒が持つ漢詩・漢文への苦手意識を軽減. 部屋入朝日. 部屋に朝日入り. させたいという目的に基づいて授業をおこなった。. 復眠布団上. 復た眠る布団の上. まず、この目的に関してだが、少なくとも漢詩を. (筆者注: 「部屋」は日本語。また、 「部屋入朝日」. リライトさせ、それを互いに鑑賞するという活動. は正しくは「朝日入部屋」。). においては、達成できたように思う。漢詩を作成. 〈評価・様子〉. 中に意欲的ではなかったり、中々決まらずに困っ. この班はメンバーに欠席がいたために人数が少. てしまっていたりした生徒も見受けられたものの、. なく、授業に関しても消極的な生徒が多かった。. 最終的にはすべての班がそれぞれ個性的なリライ. そのため、授業者が何度か活動に入って援助を行. ト作品を作ることが出来ていた。また、他の班の. いつつのリライト活動になった。活動がはじまっ. 鑑賞活動では「面白かった」などのありきたりな. た最初はテーマの段階でつまずいており、意見も. 感想を書いていた生徒もいたものの、 「この気持ち. 出ていない状況だった。しかし、授業者が話して. 共感できる」や「悲しい気持ちがしっかり伝わっ. いくうちに一人が意見を出すようになり、それに. てきた」など一言コメントの中にも、生徒がしっ. つられるように他のメンバーも語句などを発言す. かりと相手の作品を鑑賞していることが読み取れ. るようになっていった。最終的には少し鑑賞の時. た。. 間にずれ込んでしまったものの、なんとか作品を. 特に今回の実践において授業者が印象に残った. 完成させることができていた。. 場面として、作品③で挙げた生徒たちの姿がある。. 内容に関しては、 「鹿柴」の静かな雰囲気を読み. 普段の漢文の授業では質問がなく、こちらが指名 130.
(7) 横浜国大国語教育研究 No.43(2018) しても中々答えない生徒が自主的に内容を理解し. ョンを成立させていた。鑑賞活動における付箋の. ようと活動し、最終的にしっかりと自分で理解で. コメントを見れば、生徒がお互いに作品の内容を. きた姿からは、自主的な学びが生徒の中でしっか. 読み取り、漢詩の作品を通じて情報を共有してい. りと行えていたと感じられた。それだけにとどま. たのは明らかだろう。生徒が漢詩を通じて自身の. らず、今回の実践の中で全員の生徒たちは、普段. 体験を送受信し、コミュニケーションを図ること. 「苦手」としている漢詩にしっかりと向き合い、. ができたという結果は、漢詩の授業において生徒. 自身の体験や感覚を他の班に伝えるために自ら進. 間の双方向的な学びの可能性を示唆している。. んで漢詩に取り組んでいた。ただ知識を生徒に教. さらに言えば、以上にあげたような漢詩・漢文. える講義型の授業ではなく、生徒たちの感覚に合. を相互理解、交流のツールとして活用する経験を. わせて活動を取り入れるだけで、生徒のやる気や. 生徒が体験することは、生徒の意識に大きな影響. 勉強への向き合い方は大きく変わるのではないだ. を及ぼすのではないだろうか。本実践のような授. ろうか。. 業を継続的、発展的に繰り返し生徒の学習に取り. また、漢詩授業に関しても今回の実践から考察. 入れていくことで、生徒たちはより漢詩・漢文に. していきたい。漢詩教育において今回のような詩. ついて関心を持ち、 「苦手」という意識を軽減する. を作らせる授業はあまり珍しい形式ではない。二. ことが出来るのではないだろうか。この漢詩を現. の先行研究で挙げたように、江川氏や森野氏など. 代にも通用する情報交流のツールとして意識させ. は詩語表などを用い、生徒に漢詩を一から作らせ. たという点、そして漢詩を通じた生徒間の双方向. るような実践を行っている。そういった「正確な. 的なコミュニケーションの可能性を示したことに. 漢詩を作る」 、 「一から自分で漢詩を生み出す」と. おいて、本実践は今までにない新しい漢文教育の. いう点では、今回の授業実践は中途半端なものな. 視点の一つを提示できたのではないかと感じる。. のかもしれない。しかし、筆者は今回の実践によ. 本実践における課題としては、生徒が漢詩の特. り、漢詩を「相互理解、交流のツール」として利. 徴を修得しきれなかったこと、時間配分のあり方、. 用することを新たに提示したい。前述したように、. そして個人作業と班作業の使い分けが挙げられる。. 今回の実践はあくまで元々ある漢詩の一部をリラ. 作品紹介の部分でもあったように、本実践にお. イトするという内容であり、漢詩の定着度などま. いて前半部分の漢詩作品の解説に時間を割き過ぎ. だまだ課題も多い。だが一方で、生徒たちが漢詩. た結果、肝心のリライト活動・作品鑑賞の時間が. を「古典」ではなく、身近な情報発信ツールとし. 短くなってしまった。また、押韻などの漢詩の基. て利用できていたことは一つの結果である。作品. 本的なルールにおいても反復して学習させること. 自体は型が決まっていても、そこに込めるメッセ. ができず、生徒の理解度が曖昧なまま作品作りに. ージはまさしく生徒から出てきた感覚・感情であ. 入ってしまった。そのため、押韻を確認する時間. り、作品を交流することで生徒たちは自分の体験. が取れず、生徒の作品においても押韻の徹底が図. や経験を、漢詩を媒介として他の生徒に発信する. れなかった。生徒の作品を、学習内容である「近. ことが出来たのである。また、情報を発信するだ. 体詩」のレベルまでもっていくことができなかっ. けではなく、生徒たちが双方向的なコミュニケー. たことは改善すべき点である。. ションをおこなっていたことも注目すべきポイン. また、今回の実践における成果として「グルー. トである。本実践において、生徒たちはただ漢詩. プワークにおける学びの深まり」というものがあ. をリライトしただけではなく、その作品に対する. る。個人で作業をする際には進度が遅かった生徒. レスポンスなど、双方向においてコミュニケーシ. でも、班活動によって周りから支援を受け、積極 131.
(8) 横浜国大国語教育研究 No.43(2018) 的に作業に取り組んで成果を挙げている場面が今. と考える。体験的に古典や言語を学ぶ実践例とし. 回はところどころで見られた。それを踏まえ、前. て、今回の漢詩のリライト授業はきっかけづくり. 半の典拠となる原作を理解する授業においても班. になるのではなかろうか。生徒が学習内容に自身. で活動させるとより生徒間の理解や双方向のコミ. との関連性を見出すことによって、授業に対する. ュニケーションが図れるかもしれない。しかし、. モチベーションは大きく変化する。本実践は、体. 班作業を行わせる場合は班の方向性がぶれてしま. 験として古典や言語を学ぶことによる、生徒の意. わないように留意し、うまく話し合いが進まない. 欲的な学習態度を引き出す実践の一つであると言. 班に関しては、授業者がその中に入って支援を行. えよう。. う必要がある。また、本実践のように個人作業と. 今回筆者がお世話になったA高校では古文の文. 集団作業を分ける場合、個々の生徒によって理解. 法など、基本事項に関して日頃から徹底して生徒. 度に大きな違いがある可能性があるので、班内で. たちに学習させており、文法を学ぶことに関して. これまでの授業を復習させ、理解度をある程度揃. 生徒の抵抗感があまりなかった。今回の創作では. えたうえで活動に移らせる工夫が必要である。. 活かすことができなかったが、近体詩のルールの あらましを理解していた生徒が見られた。また、. 七 おわりに. 生徒たちの連帯意識が強く、グループワークで作. 本実践を通して漢詩を生徒たちが創作し、それ. 品を作らせる際にも生徒同士で文法を確認し、フ. を共有することで、生徒が漢詩に対して積極的に. ォローし合う場面などが見られた。そういった意. 取り組むきっかけづくりになることが分かった。. 味では今回の実践では生徒たちの実力に頼る部分. また、漢詩を「古典」としてではなく、 「情報交流. が非常に多かったと言えよう。また、今回の実践. のためのツール」として扱うことで、生徒の意欲. に際してA高校の国語科の先生方に様々なアドバ. 的な授業態度を引き出すことができ、そうした授. イスをしていただき、たくさんの助力をいただい. 業形態に新たな可能性を感じる。今回のような「漢. た。最後にA高校の先生方、生徒の皆さんに感謝. 詩のリライト活動」にとどまらず、学校行事の感. を述べて、この実践報告を終えたいと思う。. 想を短い漢詩・漢文で表現して他の生徒とやり取 りさせるなど、様々な方法で漢詩を情報交流ツー. i. 江川 順一「漢詩創作の授業」(札幌国語研究 4,17-27,1999) ii 森野 知子「漢詩を作る~漢文に親しませる ために~」 (国語教育研究(39),77-86,1996) iii 小嶋 明紀子「高等学校における漢詩づくりの 実践」 (「新しい漢字漢文教育(51) 」 全国漢文教 育学会 2010). ルとして活用できるように思われる。また、活動 の中で漢詩・漢文の文法が生徒に経験として定着 し、身近なものとしてとらえられるきっかけにな るのではないだろうか。そういった漢詩・漢文を 日頃から活用する経験を積むことで、最終的には 中国古来の文学作品への関心にもつながり、古典. (横浜国立大学大学院教育学研究科). 作品に対して積極的に学ぶ姿勢を身に付けられる ように思う。さらに言えば、これは漢詩・漢文に とどまらず、日本古文にも同じことが当てはまる のではないだろうか。ただ知識を覚えるのではな く、実際に日頃から活用する訓練を積むことでそ れは経験として生徒に身に付き、より積極的に学 ぼうという姿勢を生み出すきっかけづくりになる 132.
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