読み書き障害の就学前における
アセスメントの方法について
大 山 久美子
† 1 問題意識 特別支援教育が制度化されて 10 年が過ぎた が、学習障害および読み書き障害への理解は当 初期待したほどには進んでいない。大学入試セ ンター試験における受験上の配慮をはじめ支援 の制度は整いつつあり、IT 技術の進歩により教 科書の音声読み上げソフトもすでに開発されて いる。しかし、制度や技術があっても、読み書 き障害の早期発見が実現しなければ、せっかく の制度や技術が生かされることはない。 滋賀大キッズカレッジ(現 SKC キッズカレッ ジ)は、不登校や学力不振、発達障害などによ り学習につまずいている子どもたちの読み書き のアセスメントと指導を行っている NPO 法人 であるが、小学校高学年あるいは中学生以降に なって自尊心の低下や学習への強い拒否感を持 つようになってから相談に訪れ、読み書き障害 が発見されるケースが少なくない。早期発見・ 早期対応の必要性を痛感するところである。 日本語では読み書き障害の出現率が低いと 思われているためか危機感が持たれにくい。確 かにかな文字の読み書きは簡単に見えるが、漢 字は形も複雑で音と文字の対応は不規則であ り、3 種類の文字を使いこなして正しく表記す ることはけっして簡単ではない。 ディスレクシアつまり読み書き障害について は、国際ディスレクシア協会が以下のように定 義している。「ディスレクシアは神経学的な原因 による特異的な学習障害である。その特徴は、正 確かつ、あるいは流暢に単語を認識することの † 学校教育専攻 障害児教育コース 障害児教 育領域 担当教員:白石惠理子 困難さ、つづりの稚拙さ、単語を音声に変換す る(デコーディングの)弱さにある(国際ディ スレクシア協会,訳:加藤醇子,2002)」1) 。こ の定義にあるように読み書き障害の主要な原因 は音韻意識の弱さにある。 音韻とは、ことばを発音する規則の一つで、 ことばを発音する単位に相応した記憶単位であ り、音韻は言語によって異なる。音韻の最小単 位は音素であり、音節は音素の組み合わせのパ ターンとして考えられるが、音声言語のリズム やイントネーションのような韻律に着目した場 合の単位はモーラとよばれる。日本語は音素、 モーラ数が少ないため、かな文字の読み書きに 限って言えば、読み書きの負荷の少ない言語と いえる。これに対し、英語の場合は音素のパター ンの組み合わせは複雑であり、英語の書記素は 文字と音の結びつきが一定ではないため、英語 は最も複雑な書記素−音韻対応のある言語であ るといわれる。そのため、英語を話す国々にお けるディスレクシア(読み書き障害)の出現率 はヨーロッパの他の国よりも高率で、10 ∼ 12% といわれる2) 。 日本語の音韻意識と読みとの関係について、 天野3) は、ひらがな読みの前提として最低でも 積み木などの補助手段を借りて、語頭音を抽出 できる水準に達していることとし、音韻分解・ 抽出の行為は、特にそのための指導をしない場 合でも、通常は 4 歳期の前半から後半にかけて 発達するとしている。そのため、音韻意識の発 達の時期を考慮すれば、読み書き障害のリスク は 3 歳児健診ではまだわからない。先行研究4) から、かな読みの前提となる音韻意識の力を調 べることで、就学前に読み書き障害の発見が可 能になると考えられる。本研究では、一つの幼 稚園で 7 年間にわたり年長児(計 121 名)に実施してきた検査結果を分析し、就学前のアセス メントの方法と有効性を検討する。 2 目的と方法 就学前における読み書き障害のアセスメン トを実施し、就学後の追跡調査の結果との比較 検討を通して、就学前におけるアセスメントの 方法の有効性を検討する。 3 就学前における読み書き障害のアセスメント ⑴ 対象、実施期間、場所、検査者 滋賀県内のA私立幼稚園に在園する 2011 年∼ 2017 年の年長児(男児 67 名、女児 54 名、計 121 名。年齢の範囲:5 歳 7 ヶ月∼ 6 歳 7 ヶ月)を対 象とする。いずれの年度も、就学前 6 カ月以内 となる 11 月∼ 12 月の間で、当該幼稚園の相談室 等にて、筆者が個別検査の方式で行った。 ⑵ 検査の手続き ①音韻意識課題 音韻意識課題として、抽出課題、抹消課題、逆 唱課題を実施した。練習課題には、幼児にとっ てなじみの深いと思われる「くるま」を用いた。 課題単語は、親密度の高い有意味単語 4 語と無 意味単語 1 語で構成した。抽出、抹消、逆唱の 各課題は、有意味語は、2 モーラ 1 語(たこ)、 3 モーラ 1 語(たぬき)、4 モーラ 2 語(くつし た、あさがお)、無意味語 3 モーラ 1 語(るお ひ)を使用した。 a .抽出課題 抽出課題は、口頭で与えた課題語から指示 された場所の音を抽出する課題である。検査者 が、2 モーラ語の「たこ」を口頭で提示し、「1 番目の音は何ですか?」とたずねた。「たぬき (2 番目)」、「くつした(2 番目)」「あさがお(3 番目)」、「るおひ(3 番目)」。正答に 1 点を与え た(満点 5 点)。 b .抹消課題 抹消課題は、口頭で与えられた課題語から、指 示された音を取る課題である。検査者が、2 モー ラ語の「たこ」を口頭で提示し、「『た』を取っ たら何になりますか?」とたずねた。「たぬき (ぬ)」、「くつした(し)」、「あさがお(あ)」、「る おひ(る)」。正答に 1 点を与えた(満点 5 点)。 c .逆唱課題 逆唱課題は、口頭で与えられた課題語を逆に 言う課題である。検査者が 2 モーラ語の「たこ」 を口頭で提示し、「反対から言うと何になります か?」とたずねた。正答に 1 点を与えた(満点 5 点)。 ② ひらがな 1 文字読み課題 清音 46 文字の読み課題をA 4 横向きの用紙 1 枚に印刷した。字体は教科書体で 48 ポイントの 大きさの文字で、縦書きに 1 行に 5 文字を印刷 し、最後の 1 行は 6 文字とした。ひらがなは順 不同で並べた。検査者は、右の行から順に続け て読むように指示した。1 文字につき 1 点とし た(満点 46 点)。 ③ ひらがな単語読み課題 ひらがな単語読み課題として、有意味単語 は、2 モーラ語 3 語(いぬ、うし、そら)、3 モー ラ語 4 語(はさみ、とけい、かえる、さかな)、 4 モーラ語 3 語(あいさつ、にわとり、 なかよ し)の 10 語は清音の文字で構成した。さらに、 拗音を含む 2 モーラ語 1 語(きしゃ)と促音を 含む 2 モーラ語 1 語(しっぽ)を加え、全部で 12 語の単語の読みを取り上げた。課題語は、A 6 横向きの用紙に、教科書体で 40 ポイントの文 字で 1 語ずつ印刷した。正答に 1 点与えた(満 点 12 点)。なお、文字と文字の読みの間隔が 1 秒以上あいた場合はつぶ読みと判断し、0.5 点減 点した(満点 12 点)。 ④ ひらがな単語書き課題 ひらがな単語の聴写課題として、2 モーラ語 4 題(つえ、さけ、ほし、せみ)、3 モーラ語 2 題(たぬき、えほん)を取り上げた。すべて清 音で構成される単語とした。正答に 1 点を与え た(満点 6 点)。 ⑶ 結果 ① 音韻意識課題 a . 抽出課題 音韻抽出課題は、2 モーラ語の抽出(語頭音) は 116 名(95.87%)、3 モーラ語の抽出(語中 音)は 113 名(93.39%)、非単語の 3 モーラ語 (語尾音)で 101 名(83.47%)の子どもが通過し た。4 モーラ語の抽出(語中音)になると 2 問 とも正答できたのは 75 名(61.98%)、1 問正答
できたのは 39 名(32.23%)だった。抽出課題 の平均点は 4.29 点(満点 5 点)だった。 図 1 音韻抽出課題の結果 b .抹消課題 音韻抹消課題は、2 モーラ語の抹消(語頭音) は 100 名(82.64%)、3 モーラ語の抹消(語中音) は 96 名(79.34%)、非単語の抹消(語頭音)は 69 名(57.02%)の子どもが通過した。4 モーラ 語の抹消(語中音・語頭音)になると 2 問とも できたのは 43 名(35.54%)、1 問正答できたの は 33 名(27.27%)だった。45 名(37.19%)は 2 問ともできなかった。 抹消課題の平均点は 3.17 点(満点 5 点)だった。 c .逆唱課題 音 韻 逆 唱 課 題 で は、2 モ ー ラ 語 は 99 名 (81.82%)、3 モーラ語は 63 名(52.07%)、非単語 は 37 名(30.58%)の子どもが通過した。4 モー ラ語 2 問とも正答できたのは 16 名(13.22%)、1 問正答できたのは 18 名(14.88%)、2 問とも正 答できなかったのは 87 名(71.90%)だった。逆 唱課題の平均点は 2.05 点(満点 5 点)だった。 図 2 音韻逆唱課題の結果 d.音韻意識課題全体(15 点) 音韻意識課題全体の平均点は 9.53 点(満点 15 点)で、約 6 割であった。 ② ひらがな 1 文字読み ひらがな 1 文字読み課題では、46 文字全部が 読めた子どもが 67 名(55.37%)、1,2 文字を除いて 読めた子ども 36 名と合わせると 103 名(85.12%) となった。43 文字以下が 18 名(14.88%)、この うち 9 文字以下の子どもは 4 名(3.3%)だった。 平均点は 42.54 点(満点 46 点)だった。 ③ ひらがな単語読み ひらがな単語読みでは、12 題全問読めた子 どもが 64 名(52.89%)、1,2 題だけ正答できな かった子どもを含めると 90 名(74.38%)だっ た。9 点以下の子どもは 31 名(25.62%)、この うち 0 点は 8 名( 6.61%)だった。平均点は 9.84 点(満点 12 点)だった。 図 3 ひらがな単語読み課題の結果 ④ ひらがな単語書き ひらがな単語書き課題は、満点の 6 点の子ど もは 40 名(33.06%)だった。6 割以上の得点で ある 4 点以上の子どもは 78 人(64.46%)だっ た。0 点の子どもは 18 名、1 点の子どもは 12 名 で合わせて 30 名(24.79%)だった。平均点は 3.8 点(満点 6 点)だった。 ⑤ 音韻意識課題とひらがな読み書き課題との 相関 表 1 音韻意識課題とひらがな読み書き課題との相関 㡢㡩ᢳฟ 㡢㡩ᾘ 㡢㡩㏫ၐ ࡦࡽࡀ࡞ ᩥᏐㄞࡳ ࡦࡽࡀ࡞༢ㄒㄞࡳ ࡦࡽࡀ࡞༢ㄒ᭩ࡁ *:弱い相関あり **:相関あり
4 卒園児の読み書き検査 ⑴ 対象、実施期間、場所、検査者 2011 年∼ 2017 年の卒園児 121 名のうち調査 希望者 51 名(男児 28 名、女児 23 名)を対象 とする。2018 年 7 月∼ 8 月のうちの 2 日間。筆 者と研修を受けた大学生で実施した。書きの課 題、すなわち、①ひらがな聴写課題、④学年相 当の漢字の書き課題は、集団検査の方式で行っ た。読みの課題、すなわち、②ひらがな読み (RAN)課題、③学年相当の漢字の読み課題は、 個別検査の方式で行った。場所は、この幼稚園 の相談室等である。 表 2 卒園児の読み書き検査調査の希望者の内訳 Ꮫᖺ ᑠ㸯 ᑠ㸰 ᑠ㸱 ᑠ㸲 ᑠ㸳 ᑠ㸴 ୰ 1 ィ ேᩘ 㸲 㸷 㸯㸮 㸴 㸯㸮 㸶 㸲 㸳㸯 ⑵ 検査の手続き ①ひらがな聴写課題 ひらがな聴写課題は、聞いた単語や文をひら がなで書く課題であるが、滋賀大キッズカレッ ジ作成のスクリーニング検査ツールを用いた。 課題は、全部で 20 問、単語が 16 題、文が 4 題 である。課題に用いられた単語は、すべての直 音 71 文字(清音・濁音・半濁音)が網羅され、 モーラ数も 2 ∼ 6 モーラ語が複数ずつ選択され ている。また、特殊音節を含む単語や短文も取 り上げている。検査者が 1 単語ずつ読み上げ、子 どもは記入用紙に聴写した。読み上げる際に、 一音ずつ区切らないように留意し、課題語は 2 回ずつ読み上げた。正答には 1 点を与えた(満 点 20 点)。小学校での系統的な文字指導後であ るため、追跡調査では字体の誤りや鏡文字等は 誤答とした。 ② ひらがな読み(RAN)課題
RAN(Rapid Automatized Naming)課題も、 滋賀大キッズカレッジ作成のスクリーニング検 査ツールを用いた。A 4 用紙を横向きにし、ひ らがな単語、ひらがな非単語を各々 4 列× 5 行、 これら 20 単語を反復し計 60 語提示した。ひら がな単語は、小学生にとって親密度の高いもの から 2 音節、3 音節、4 音節、5 音節、促音、拗 音単語を選出したものである。ひらがな非単語 については、有意味単語の音の入れ替えではな く、単語を解体し完全な無意味語となるように した5) 。有意味語、無意味語の順で実施した。 読み間違いは、記録用紙にチェックし、所要時 間をストップウォッチで計測した。 ③ 学年相当の漢字の読み課題 小学校 2 年生以上の子どもについて、現在の 学年の一つ下の学年の漢字の読みの検査を実施 した。検査課題は、これも滋賀大キッズカレッ ジ作成のスクリーニング検査ツールで、小学校 の学年配当の漢字を取り上げて作成されたもの を用いた。熟語の場合、当該学年以前に学習す る漢字との組み合わせとなっている。子どもが 問題用紙の漢字を含む単語を読み上げ、その解 答を検査者が記入用紙に記入した。その際、正 答、誤答、無答の別がわかるように記入した。 正答には 1 点を与えた。 表 3 漢字の読み課題学年別課題数 Ꮫᖺ ᑠ ᑠ㸰 ᑠ㸱 ᑠ㸲 ᑠ㸳 ᑠ㸴 ㄢ㢟ᩘ㸦㢟㸧 ④ 学年相当の漢字の書き課題 小学校 2 年生以上の子どもについて、現在の 学年の一つ下の学年の漢字の書きの検査を実施 した。これも滋賀大キッズカレッジ作成のスク リーニング検査ツールで、書き困難のある子に とっても取り組める量であること考慮して 40 問 としている。40 問は、問題番号が大きくなるに つれ難易度も高くなる。問題文作成上、1 問中 に 2 個以上の学年配当漢字を含む場合や、学年 が上がるにつれ下学年漢字が含まれる問題文に なっているが、分析の対象は当該学年より 1 学 年下の配当漢字のみとする6) 。正答に 1 点を与え た(満点 40 点)。とめやはねなど字体としての 誤りではないものは減点対象とはしなかった。
⑶ 結果 ① ひらがな聴写課題 表 4 ひらがな聴写課題各学年の正答率の平均と最高・最低 Ꮫᖺ ᑠ ᑠ ᑠ ᑠ ᑠ ᑠ ୰ ᖹᆒ㸦㸣㸧 ᭱㧗㸦㸣㸧 ᭱ప㸦㸣㸧 表 5 ひらがな聴写課題 誤答一覧 ㄢ㢟ㄒ ㄗ ⟅ ࠺ࡶࢁࡇࡋ ࠺ࢁࡶࡇࡋ㸦ᑠ 3㸧ࠊ࠾ࡶࢁࡇࡋ㸦ᑠ 4ࠊᑠ 6㸧 ࡸࡁࡹ࠺ ࡸࡁ࠺㸦ᑠ 1㸧 ࡂࡹ࠺ࡹ࠺ ࡂࡹ࠺ࡋࡹ࠺㸦ᑠ㸰㸧ࠊࡂࡹ࠺ࡺ࠺㸦ᑠ 3㸧ࠊࡂࡹ࠺ࡾࡹ࠺㸦ᑠ 5㸧 ࡕࡹ࠺ࡋࡷ ࡕ࠺ࡋࡻ㸦ᑠ 1㸧 ࡣࡗࡨࡻ࠺ ࡣࡗࡨࡗ࠺㸦ᑠ 1㸧ࠊࡣࡨࡻ࠺㸦ᑠ 1㸧ࠊࡣࡗࡨ࠺㸦ᑠ 2ࠊᑠ 3㸧ࠊࡣࡗࡨࡼ࠺ 㸦ᑠ 3㸧 ࡛ࢇࡋࡷ ࡛ࢇࡋࡻ㸦ᑠ 1㸧 ࡋࡹࡗࡥࡘ ࡋࡹࡥࡘ㸦ᑠ 1ࠊᑠ 2㸧ࠊࡋࡗࡥࡘ㸦ᑠ 1ࠊᑠ 5㸧ࠊࡋࡹ࠺ࡥࡘ㸦ᑠ 2㸧ࠊࡋࡥࡘ 㸦ᑠ 3㸧ࠊࡋࡘ࠺ࡱࡗ㸦ᑠ 3㸧 ࡋࡻ࠺ࡀࡗࡇ࠺ ࡋࡷࡹ࠺ࡀࡗࡇ࠺㸦ᑠ 1㸧 ࡌࡹࡂࡻ࠺ࡕࡹ࠺ ࡌࡂࡻ࠺ࡕࡹ࠺㸦ᑠ 1ࠊᑠ 2ࠊᑠ 3㸧ࠊࡖࡹࡂࡻ࠺ࡕࡹ࠺㸦ᑠ 1㸧ࠊ ࡌࡹ࠺ࡕࡹ࠺㸦ᑠ 1㸧ࠊࡌࡷࡹࡋࡹࡕࡹ࠺㸦ᑠ 1㸧ࠊࡌࡂࡼ࠺ࡕ࠺㸦ᑠ 3㸧 ② ひらがな読み(RAN)課題 表 6 ひらがな読み(RAN)課題 単語読みと非単語読みの時間の平均 Ꮫᖺ ᑠ ᑠ ᑠ ᑠ ᑠ ᑠ ୰ ༢ㄒ 㸦⛊㸧 㠀༢ㄒ㸦⛊㸧 ③ 学年相当の漢字の読み課題 表 7 学年相当の漢字の読み課題各学年の正答率の平均と最高・最低 Ꮫᖺ ᑠ ᑠ ᑠ ᑠ ᑠ ᑠ ୰ ᖹᆒ㸦㸣㸧 ̿ ᭱㧗㸦㸣㸧 ̿ ᭱ప㸦㸣㸧 ̿
5 考察 ⑴ 読み書き障害のリスクが発見された子どもの 就学前と就学後の検査結果の分析 追跡調査において読み書き障害のリスクが 発見された子どもの読み書き検査の結果は<表 10 >のとおりで、学年順にAからМ児の 13 名で ある。これは追跡調査の参加者 51 名の 25.49%に あたるが、追跡調査の場合、保護者が学習の困難 に気づいて参加を希望されたケースが多くなっ ており、全員に実施した就学前の検査よりも比 率が高くなっていると考えられる。ひらがなの 読み書きで困難があるレベルから、ひらがなで は大きな問題はないが、漢字の書きで困難が出 ている子ども等、症状の程度もタイプも様々で ある。このうち、小 4 のF児、小 3 のH児およ びI児、小 1 のМ児の 4 名については、滋賀大 キッズカレッジの詳しいアセスメントを受けた 結果、読み書き障害の診断が出ている。 まず、診断が出ている 4 名について見ていく。 F 児は就学前には単語読みもひらがな読みもで きなかったが、就学前に診断を受け、就学直後 からキッズカレッジの学習室で音韻と漢字の指 導を受けてきた結果、ひらがなの読みの流暢性 には苦手があるが、ひらがなの読み書きは正確 にできるようになり、独特の誤字(図 4 上段の 書字)はあるものの漢字の読み書きの習得も進 んでいた。早期発見・早期対応が成功している 事例である。 これに対して小 3 の I 児は、学校では読み書 き障害に気づかれておらず、特別な指導も受け てこなかったため、ひらがなの読み書きにも困 難があり、特に RAN の非単語読みでは小 3 の 学年平均 85 秒(滋賀大キッズカレッジ調査)に 対して I 児は約 240 秒と流暢性において著しい 困難がある。漢字の習得も進んでおらず、2 年 生漢字の書きの検査では無答が多かった。全体 的な発達に遅れはないにもかかわらず学校での 学習全般に著しい遅れが出ているという。 小 3 の H 児は、就学前の読みには問題がな かったが単語書きは 0 点だった。就学前ではひ らがなの書きのみの困難はリスク児には含めて いなかったが、H 児の場合は、就学後もひらが なの特殊音節の表記に混乱があり、さらに漢字 ④ 学年相当の漢字の書き課題 表 8 学年相当の漢字の書き課題各学年の正答率の平均と最高・最低 Ꮫᖺ ᑠ ᑠ ᑠ ᑠ ᑠ ᑠ ୰ ᖹᆒ㸦㸣㸧 ̿ ᭱㧗㸦㸣㸧 ̿ ᭱ప㸦㸣㸧 ̿ ⑤ 就学前のアセスメントと追跡調査の読み書き検査の結果の相関 表 9 就学前のアセスメントと追跡調査の読み書き検査の結果の相関 ࡦ ࡽ ࡀ ࡞ ⫈ ⫈㸦ᑠ 1 ࡢࡳ㸧 RAN ༢ㄒㄞࡳ RAN 㠀༢ㄒㄞ ࡳ ₎Ꮠㄞࡳ ₎Ꮠ᭩ࡁ 㡢㡩ᢳฟ 0.008 ***0.802 *-0.270 *-0.357 *0.362 *0.317 㡢㡩ᾘ 0.195 **0.645 -0.196 *-0.290 **0.459 *0.337 㡢㡩㏫ၐ 0.136 ***0.736 -0.159 *-0.312 *0.397 *0.228 ࡦࡽࡀ࡞ 1 ᩥᏐㄞࡳ 0.091 **0.645 **-0.588 **-0.569 ***0.843 *0.358 ࡦࡽࡀ࡞༢ㄒㄞࡳ 0.038 -0.926 **-0.418 **-0.448 ***0.806 **0.455 ࡦࡽࡀ࡞༢ㄒ᭩ࡁ 0.368 0.389 *-0.247 *-0.378 **0.451 *0.272 *:弱い相関あり **:相関あり ***:強い相関あり
の読みに問題はないが、書きにおいて独特の誤 字が多く(図 4 中段の書字)、書き障害との診断 が出ている。学校でも学習に集中できていない が、H 児もその背景に読み書き障害があること には気づかれていなかった。 小 1 のМ児は、就学前にはリスク児の基準に は達していなかったが、こだわりや対人関係の 苦手があり、就学前に専門機関で自閉スペクト ラム症の診断が出ており、協調運動の苦手もあ る。全体的な理解はよいが、書くことに強い苦 手があり、小 1 の段階で学校の課題をこなすの に苦労している。 以下の子どもたちは詳しいアセスメントは 受けていない。小 6 の A 児は、音韻意識にや や弱さはあったが、リスク児には含まれていな かった。しかし、就学後の RAN 非単語検査の 結果は、小 6 の平均 63 秒にたいして 106 秒であ り心配な結果である。漢字の読み書きにもやや 苦手がある。まもなく中学生になるが、日本語 よりも音韻構造が複雑な英語の学習において音 韻意識の弱さの影響が出る可能性がある。 小 5 の B 児は、就学前には読み書きの困難は 見られなかったが、漢字の書きにおいてリスク 児の基準には達しないレベルだが苦手があり、 学校での学習に集中できなくなっている。心配 した保護者が公的な相談機関に相談した。しか し、理解力はむしろ優れており漢字の読みには 問題がないためか、そこでは自閉スペクトラム 症の傾向は指摘されたが読み書き障害とは認め られなかった。 小 5 の C 児、D 児、E 児、小 4 の G 児は、い ずれも就学前ではリスク児には入っていなかっ たが、就学後には主に漢字の書きにおいて困難 が出ている。小 3 の J 児については、漢字の読 みはできており、書きの検査の正答率としては 平均値だが、小 2 の簡単な漢字での独特の誤字 (図 4 下段の書字)があり、経過観察が必要であ る。RAN 検査でも流暢性に課題がある。 小 2 の K 児は、就学後のひらがな聴写課題で 「ぬ」の文字が想起できず、特殊音節の表記の誤 答があり、小 2 での 70%は低い正答率であり、 RAN の非単語検査でも流暢性に課題がある。漢 字の読み書きには今のところ問題はないが、検 査課題は小 1 の課題であり、2 年生以上の漢字に なると熟語も増えて読みも難しくなるため、今 後が心配である。小 1 の L 児は、ひらがなの読 みについては RAN 課題でも問題はなかったが、 ひらがなの書きにおいて、特殊音節を中心に表 記の混乱があり今後が心配である。就学前の結 果を見れば、音韻意識にやや弱さがあり、ひら がな単語書きは 2 点(満点 6 点)であり、書き の苦手の傾向は見られた。 図4 漢字の誤字の例 ⑵ 音韻意識とひらがなの読み書きの関係 本研究の就学前の検査から、ひらがな読みが 可能になるためには一定の音韻意識が育ってい ることが必要であることが確認された。ひらが なの清音 4 モーラまでの単語読みができる子ど もたちは、4 モーラ語までの抽出課題ができて おり、2,3 モーラ語の抹消課題、2 モーラ語の 逆唱課題までがおおむねできていた。3 モーラ 語の逆唱課題になると 21 名、約 3 割の子どもが 得点できていない。3 モーラ語の逆唱は 6 歳前 半の通過課題であり7) 、年長児にとってはやや 難しい課題であり、清音の単語読みの必須条件 ではないようだ。 ひらがな 1 文字ずつが読めるだけでは、書か れている文字の意味を理解するという読むこと の目的は達成されない。1 文字ずつを総合して 一つの意味を持つ単語としてとらえることがで
きるかどうかが重要である。この総合する力が 未発達である場合、1 文字ずつは読めても単語 は読めない、つぶ読みになる、1 文字を追うの に必死で書かれている内容がわからないという ことが起こる。読み書き障害であるかどうかを 見ていくとき、単語読みができるかどうかが重 要な点となる。 ひらがな単語書き課題と音韻意識課題との 相関を検討した結果、抽出、抹消、逆唱のいず れの課題でも弱い正の相関が見られた。単語書 き課題については読み課題ほど音韻意識との関 連は強くない。また、ひらがな書き課題ではほ とんど得点できなかった子どものうち約 4 割は 読み課題では問題がなかった。就学前において は、書くことについては家庭等で教えられてい るかどうかの影響が大きいと考えられる。 ひらがな聴写課題と就学前の音韻意識課題 の相関は、小学校 1 年生においては強い相関が 見られ、かな文字習得の初期においては音韻意 識の影響を強く受けることがわかった。また、 直音で構成される単語の正答率は高いが、特殊 音節を含む単語では高学年の子どもでも誤答が あった(表 5)。音韻意識に弱さがある場合、特 殊音節の表記の習得が難しくなる場合があるた め、これらの誤答を単なる不注意によるものと 片付けるのではなく、読み書き障害のリスクの 可能性を考える必要がある。 ⑶ 漢字の読み書き 漢字についても、漢字の読みと就学前の音韻 意識との関連が見られた。就学前のひらがな単 語読みと就学後の漢字の読み課題とでは強い相 関が見られた。音韻意識の弱さはひらがなだけ ではなく漢字の読みにおいても影響があり、ひ らがなの読みにおいて著しいつまずきの見られ た子どもは、就学後の漢字の読みにおいても困 難が出てくる可能性が高いといえる。 日本語の漢字は一つの漢字に複数(漢字に よっては多数の)読みがあり、複数の意味を持 ち、形も複雑な文字が多いため、学習者にかか る負荷は高くなる。漢字の書きと読みの検査と は正の相関が見られ、読みの苦手があれば書き の苦手も出てくる可能性があるといえる。漢字 の書き課題と就学前の音韻意識課題とは読みほ どの強いものではないが相関が見られた。滋賀 ᑠ 㸿 ᑠ 㹀 ᑠ 㹁 ᑠ 㹂 ᑠ 㹃 ᑠ 㹄 ᑠ 㹅 ᑠ 㹆 ᑠ 㹇 ᑠ 㹈 ᑠ 㹉 ᑠ 㹊 ᑠ ɐ 㡢㡩ព㆑ 㸴 㸵 ࡦࡽࡀ࡞ ᩥᏐㄞࡳ ࡦࡽࡀ࡞ ༢ㄒㄞࡳ ࡦࡽࡀ࡞༢ ㄒ᭩ࡁ ࡦࡽࡀ࡞⫈ 㸦ṇ⟅⋡㸣㸧 5$1 ༢ㄒㄞࡳ 㸦⛊㸧 5$1 㠀༢ㄒㄞ ࡳ㸦⛊㸧 ₎Ꮠㄞࡳ㸦ṇ ⟅⋡㸣㸧 ₎Ꮠ᭩㸦ṇ ⟅⋡㸣㸧 表 10 追跡調査において読み書き障害のリスクが発見された子どもの検査結果一覧
大キッズカレッジの小学生の漢字の書き検査の 正答率の平均は 5 ∼ 6 割という結果6) からみて も、漢字を正しく書くことは難しく、読み書き 障害のある子どもたちにとってはさらに習得が 困難な書記素であるといえる。 また、点数としては著しい落ち込みはなくて も、漢字の誤りに独特の特徴(図 4)がある場合 には注意が必要となる。読み書き障害の特徴の 一つに簡単な漢字で独特の間違いをするという ことがある。どういう誤り方をしているのか、 誤りの内容についても注意することが必要であ る。こういう誤りを偶然のケアレスミスと片付 けてしまっては、書き障害の多くが見逃されて しまう可能性がある。さらに、漢字の繰り返し 練習の直後にテストをすると正しく書けていた のに、間をおいたら覚えていないことが多く、 定着しにくいという特徴もある。本研究の追跡 調査のように 1 学年下の学年配当緒漢字を覚え ているかどうかの確認も必要であろう。漢字の 難易度は学年によって異なるため、同じ正答率 でも 5 年生配当漢字と 2 年生配当漢字とでは深 刻さが異なる。2 年生漢字の多くは教科の名称 など学校生活においても使用頻度の高い漢字で ある。高学年の漢字で落ち込みがあった子ども については、2 年生漢字、1 年生漢字の検査を行 い、どのレベルから書きのつまずきがあるのか を確認することが望ましい。 ⑷ 読み書き障害の就学前おけるアセスメントの 方法 本研究では、検査課題の有効性を検討するた めに年長児にとっては難しい課題も実施した。 しかし、先行研究からも 4 モーラ単語の逆唱は 7 歳後半の通過課題であり7) 、就学前の音韻意 識検査では 4 モーラ単語の逆唱は省略しても就 学前に必要な力を把握することは可能であると 考える。3 モーラ単語の逆唱も年長児にはやや 難しい課題であり、就学前の子どもにとって難 しすぎる課題のみでは、音韻意識と読み書き能 力との関連を把握できない可能性がある。さら に、就学前のひらがなの読み書きの力を調べる ことで、就学後のひらがなの読み書き、さらに は漢字の読みの力もほぼ予測することができる ため、ひらがなの 1 文字読みと単語読みの検査 も合わせて実施したい。ひらがな清音 46 文字の 読みにかかる時間は数十秒程度であるが、時間 の制約がある場合には、単語読みだけでも有効 であると考える。その場合、モーラ数が多くな ると読めなかったりつぶ読みになったりする場 合があるので、4 モーラ語単語まで検査するこ とが必要である。単語読みでつまずきのある子 どもについて、1 文字読みであればどの程度読 めているのか確認するということでもよい。ひ らがな単語書きについては、文字と音の対応が できているかどうかが就学前の課題であり、文 字の細部の正確さや形の美しさなどはこだわる 必要はないと考える。 ただ、就学前にはリスクありと判断する基準 に満たなかった子どもの中に、主に漢字の書き の苦手が確認された子どもが 8 名いた。これら の子どもたちには、それぞれ音韻意識の弱さや ひらがなの書きの苦手はあったが、いずれも就 学前においては読み書き障害のリスクの基準に は達していなかった。このように、ひらがなの 読みには大きな問題はなくても就学後の漢字の 書きにおいて困難が出てくるケースもあり、就 学前においてすべては予測できない可能性があ ることを知っておく必要がある。 ⑸ 日本語の読み書き障害の出現率 2012 年の文部科学省実施の「通常の学級に在 籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支 援を必要とする児童生徒に関する調査」8) の結 果、学習障害の可能性のある子どもは 4.5% との データが得られている。本研究の調査では、卒 園児の保護者対象ではあるが、文部科学省の調 査と同じ項目・同じ基準でアンケート調査も実 施した。その結果、本研究の調査で読み書き障 害のリスクが発見され、詳しいアセスメントで 診断が出た子どもでも 4 名中 1 名しか基準に達 しなかった。一つの要因として、学習面の「読 む」「書く」等の各々の領域について「15 ポイ ント中 12 ポイント」を超えるという基準値が スクリーニング検査の基準値としては高すぎる という問題が考えられ、この基準では多数の見 落とし生じる可能性が高い。例えば「音読が遅 い」という項目で「ときどきある」を選択した 2 ポイントだけであっても、詳しいアセスメン トをすれば読み書き障害が発見されるケースは けっして少なくない。学校の教師においても読
み書き障害の理解が進んでいない日本の現状で は、アンケート調査の方法ではなく、やはり直 接子どもに文字の読み書きをしてもらう直接検 査の方法をとるべきであろう。 どの程度の読み書き能力を基準にするかに よって、日本語における読み書き障害の出現率 も変わってくる。ひらがなの読み書きが何とか できるレベルの読み書き能力では小学校の通常 学級の学習をこなしていくことは困難であろ う。読むスピードが遅ければ授業のペースにつ いていけない、制限時間内にテストの解答がで きないということになるだろう。教科書の内容 が理解できない、テストの答えがわかっていて も書けない、宿題をこなすのに時間がかかる 等、子どもが日々の学校生活で困るレベルであ ろう。さらに、そう遠くない将来の高校入試では 制限時間内に相当量の文章を読みこなすことが 必要になってくる。成人後に自身が読み書き障 害(ディスレクシア)であることがわかった当 事者は、読み書きができないことは学齢期だけ の問題で終わることはなく、むしろ社会に出て からの方が深刻な問題となったという9) 。例え ば電化製品の取り扱い説明書や各種の契約書、 新聞や自治体の広報誌、そして現代ではスマー トフォンやパソコンで情報収集ができるだけの 読み書き能力が必要となってくる。社会生活や 学校の学習で必要とされる読み書き能力を基準 とすべきだと考える。 本研究で対象とした幼稚園は小規模な私立 幼稚園であるため、データの量としては十分な ものではないが、少人数であるために個別検査 が可能となり、検査課題の種類と量も確保す ることができたと考える。読み書き障害のス クリーニング検査を 7 年間継続してきた結果か ら、日本語における読み書き障害の出現率は少 なくとも 1 割は超えるのではないかと考える。 就学前には、ひらがな単語読みで約 5 割以下の 得点の子どものうち、ひらがな 1 文字読みが 44 文字以下、音韻意識課題で約 6 割以下の得点で、 しかもひらがな単語書きも 0 ∼ 1 点の子ども 13 名(10.7%)について、読み書き障害のリスクが あると判断した。この約 1 割はひらがなの読み 書きからつまずくリスクのあるレベルであり、 このリスクは就学前に読みについてはほぼ予測 することができると考える。さらに就学後に漢 字の読み書きの困難が出るレベルまで含めると 121 名中 24 名(19.83%)となった。このうち 4 名については、滋賀大キッズカレッジの詳しい アセスメントの結果、読み書き障害があること が確認されている。 英語と日本語とでは言語の書記素の性質が 大きく異なるので、英語と日本語の読み書きの どちらが難しいのか単純に比較することはでき ないが、英語に比べて読み書きが簡単なのはひ らがな、カタカナのかな文字だけであり、漢字 も含めた場合には日本語の表記は簡単とはいえ ない。漢字の読み書きの困難は、日本の社会で 生きていくためにはけっして軽いものではな い。英語での読み障害の出現率は 10 12% とも 言われている。日本語においても少なくともこ れに近い読み書き障害の出現率である可能性が あると考える。ひらがなの読み書きができない ような重度のレベルを基準とするならば、実際 に日々の学習で困っている多数の読み書き困難 のある子どもたちを見落としてしまう可能性が 高いといえる。「日本の識字率 99%」などとは根 拠不明の数値に惑わされず、子どもたちへの直 接的な読み書きの検査のデータを積み重ねてい くことにより、確かな出現率を明らかにしてい く必要がある。 ヒトが地上に誕生したのは 5 万年以上前、世 界最古の文字、メソポタミアの象形文字は 5000 年前、日本では 6 世紀ごろから文字の使用が確 認されている。そして、学制発布によりすべて の国民が文字の読み書きを義務付けられるよう になってから約 150 年、現行の教育制度は約 70 年、人類の長い歴史から見ればたかだか 70 年 である。現行の教育制度、教育課程、教育内容 や教育方法は、文字の読み書きが苦手な人々の 存在を考慮してつくられたものではないため、 様々な歪みが生じるのは必然といえる。勉強不 足、怠けているからだと片付けられてしまって いる子どもたちのうちの多くが、読み書き障害 である可能性が高いとするならば、日本の教育 の将来を考えるにあたり、より危機感をもって 日本語の読み書き障害の早期発見・早期対応の システム作りに取り組む必要があろう。
【文献】 1) 加藤醇子編著(2016)ディスレクシア入門―「読 み書きの LD」の子どもたちを支援する,日本評 論社. 2) タエコ N.ワイデル(翻訳:緒方明子)(2017) 英語と日本語における読み書き障害,LD 研究, 26(2),154 − 158. 3) 天野清(2005)かな文字の読み・書きの習得と音 韻(節)分析の役割,中央大学教育学論集,145 − 203. 4) 深川美也子・窪島務(2015)音韻意識と読み書き の発達の関係に関する研究動向―ひらがな読み 学習と指導における音韻意識の意義を中心に―. 滋賀大学教育学部教育実践総合センター紀要, 23,45 − 53. 5) 堀口真理子・窪島務(2012)ディスレクシア児 と健常児における RAN 成績の発達的特徴,パ イデイア:滋賀大学教育学部教育実践総合セン ター紀要,20,61 − 67. 6) 深川美也子・窪島務(2010)漢字書字に特異的 学習困難のある子どものスクリーニング法に関 する研究―滋賀大キッズカレッジ作成漢字書字 スクリーニング検査の検証―,滋賀大学教育学 部紀要 教育科学,60,63 − 79. 7) 原恵子(2008)通常の学級・通級における音韻 のアセスメント , LD研究,17(3),295 − 302. 8) 文部科学省(2012)通常の学級に在席する発達 障害の可能性のある特別な教育的支援を必要と する児童生徒に関する調査結果について. 9) 井上智・賞子(2012)読めなくても書けなくて も、勉強したい―ディスレクシアのオレなりの 読み書き―,ぶどう社 窪島務(2005) 読み書きの困難を克服する子どもた ち―「学習障害」概念の再構築,文理閣. 小池俊英・雲井未歓・窪島勉編著(2003)LD児のた めのひらがな・漢字支援―個別支援に生かす書 字教材,あいり出版. 窪島務(2019)発達障害の教育学―「安心と自尊心」 にもとづく学習障害理解と教育指導―,文理閣.