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Title
生活習慣と口腔の健康
Author(s)
加藤, 哲男
Journal
歯科学報, 115(3): 198-201
URL
http://doi.org/10.15041/3673
Right
1 はじめに 歯周病は,バイオフィルムであるデンタルプラー ク中に潜む歯周病原細菌が原因で起きる感染症であ る。しかしその発症と進行には,遺伝的要因とスト レスや喫煙などの環境要因も密接に関係している。 そのため歯周病は,生活習慣病としても捉えられる ようになってきている1) 。また近年,歯周病と糖尿 病,あるいは肥満は密接に関連していることが示さ れ,メタボリックシンドロームと歯周病とのかかわ りあいが指摘されている。そのかかわりあいのメカ ニズムの中で重要なはたらきをしているのがサイト カインである。サイトカインは,リンパ球などが産 生する糖タンパク質で,恒常性を維持するためには たらいている。しかし,細菌感染などで過剰に産生 されると,それらは生体に障害的に作用するように なる。 2 運動の歯周病予防効果 Saito ら2) は,太っているヒトとやせているヒト で,歯周病罹患の危険度を比べたところ,肥満度が 高くなると歯周炎の罹患率が高くなっていることを 示した。肥満の原因としていろいろ挙げることがで きるが,運動不足もその大きな要因と考えられる。 我々は,運動が炎症性サイトカイン産生に与える 影響についてマウスを用いて調べた3) 。まずマウス を,運動グループと対照グループに分け,運動グ ループは,回転かご式強制走行装置を用い,1時 間(5rpm)運動させた。運動終了直後,血清中の インターロイキン‐6(IL-6)量と腫瘍壊死 因 子α (TNFα)量を測定した。その結果,運動によって 血清中 IL-6レベルは,有意に 上 昇 し(p<0.05), TNFα レベルは逆に減少していた。TNFα は,代 表的な炎症性サイトカインであり,生体に種々の障 害をもたらす(図1)。 この2群のマウスに対し,代表的な歯周病原細菌 であるAggregatibacter actinomycetemcomitansの内毒 素(LPS)を投与すると,対照グループでは TNFα の顕著 な 上 昇 が 見 ら れ た が,運 動 グ ル ー プ で は TNFα は検出できなかった。IL-6も炎症性サイト カインであるが一方で TNFα 産生を抑制する。運 動すると筋肉細胞から IL-6が産生 さ れ,そ れ が TNFα 産生を抑制するものと思われる(図2)。以 上のことは,運動が歯周病原細菌内毒素によって引
教育ノート
生活習慣と口腔の健康
Lifestyle and oral health
加藤 哲男 東京歯科大学化学研究室 教授 略歴 1981年横浜市立大学文理学部理科卒業,1982年東京歯科大学微生物学講座 助手,1989年歯学博士(東京歯科大学)取得,1990年米国テキサス州立大学サンア ントニオ・ヘルス・サイエンス・センター留学,東京歯科大学微生物学講座講 師,助教授,東京歯科大学化学研究室准教授を経て2010年より現職。研究テー マ:唾液ペプチド・米ペプチドの抗菌作用の解析 Tetsuo Kato キーワード:生活習慣,歯周病,炎症性サイトカイン
Key words:lifestyle, periodontal disease, inflammatory cytokine
(2015年2月4日受付,2015年3月4日受理,歯科学報 115:198−201,2015.)
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き起こされる TNFα の産生誘導を抑制し,歯周炎 に抑制的に作用することを示唆している。 3 歯周病の増悪因子「喫煙」 歯周病において,喫煙者は非喫煙者に比べ,罹患 リスクが高いことが報告されている4) 。一般に,喫 煙は肺癌の原因となったり,循環器系にも悪影響を 与えたりする。たばこの煙に含まれる高濃度の一酸 化炭素が,喫煙によって血液中に侵入し,それが血 管壁を障害して動脈硬化を引き起こす。またニコチ ンは血管を収縮させることにより高血圧の原因とな る。長期間喫煙を続けている人の歯周病の罹患リス クは,肺ガンのそれと同程度である。さらに喫煙 は,歯周治療や口腔内の外科的処置の予後に悪影響 をおよぼす。 Makino ら5) は,ニコチンがサイトカインネット ワークに影響をおよぼすか否かマウスを用いて検討 した。マウスに1ヶ月間ニコチンを投与すると, 種々のサイトカインレベルに影響がみられるように なり,ことにインターフェロンγ(IFN-γ)レベルが 上昇することを示した(図3)。IFN-γ は A. actino-mycetemcomitansによって誘導される骨吸収を助長 すると報告されており6),ニコチンによって上昇し た IFN-γ が歯周病の進行に関わっている可能性があ る。 4 歯周病の発症に大きく関わっている免疫 感染症や癌などから,私たちの身体を守っている のが免疫である。免疫は大きく分けて,多様な抗原 に対してリンパ球や抗体を中心に特異的に作用する 獲得免疫と,おもにマクロファージや白血球,抗菌 性タンパク質などによって担われ非特異的に作用す る自然免疫とがある。唾液は,口腔内の環境を維持 している。そこに含まれる唾液タンパク質はタンパ ク質分解酵素の作用を阻害したり,細菌の繁殖を抑 えたりするように働いている。抗菌性の唾液タンパ ク質としてはリゾチーム,ヒスタチン,シスタチ ン,ディフェンシンあるいはラクトフェリンなどが 挙げられ,それぞれ重要なはたらきを担っている7) 。 シスタチンは,システインプロテアーゼ阻害作用の あるタンパク質である。シスタチンの獲得免疫への 関与を検討した結果,ファミリー2のシスタチンは ヘルパー T 細胞に作用し,細胞性免疫調節に関わ るサイトカインを誘導するなどして,免疫系の調節 にはたらいていることを明らかにした8) 。ヒスタチ 図1 TNFα の示す障害作用 図2 運動によって産生された IL-6が,歯周病原細菌内 毒素による TNFα 産生誘導を抑制する 図3 ニコチン投与マウスとコントロールマウスの血清中IFN-γ 量の比較5) *:p<0.002(Mann-Whitney U-test) 歯科学報 Vol.115,No.3(2015) 199 ― 15 ―
ンは,ヒスチジンを多く含む抗菌ペプチドで,真菌 である Candida albicans やレンサ球菌の発育を抑え る。歯周病原細菌 Porphyromonas gingivalis の表層多 糖はヒト歯肉線維芽細胞に対し細胞毒性を示す9) 。 その毒性に対して,ヒスタチンは抑制作用を示すこ とを明らかにした9) 。このように唾液タンパク質は, 歯周病の発症や進行に対して抑制的にはたらいてい る。加齢あるいはストレスなどによってこれらの機 能性タンパク質が量的にも質的にも衰えてくると, それは直接歯周病のリスクとなって健康にも影響し てくる。衰えた唾液タンパク質の機能を補うものと して,天然物から得られる機能性タンパク質を利用 していくことは有効であろう10−12) 。 内毒素(LPS)は,重要な歯周病原性因子の一つで あり,低体重児出産や早産の原因となることも報告 されている。それには,内毒素によって産生誘導さ れた炎症性サイトカインである TNFα や,やはり 炎症性物質であるプロスタグランジン E(PGE2 2)な どが関わっている。TNFα は,胎児の成長を妨げ 低体重 児 出 産 に 関 わ り,エ イ コ サ ノ イ ド で あ る PGE2は,その分娩促進作用により早産を引き起こ す。我々は,マウスを用いて,新生仔期に歯周病 原細菌 P. gingivalis および A. actinomycetemcomitans LPS にさらされることにより成育後免疫系に影響 がみられるか否か,サイトカイン量を中心に検討し た13)。タンパク質抗原刺激後の成育マウスのサイ トカインレベルを比べると,新生仔期 P. gingivalis LPS 投与群では液性免疫に促進的にはたらく IL-4,IL-5および IL-6の産生量が対照群に比べ 高 かった。また I 型アレルギーの原因となる IgE の血 清中レベルも,新生仔期 P. gingivalis LPS 投与群の 方が対照群 に 比 べ 有 意 に 高 か っ た(p<0.001)(表 1)。以上の結果から,新生仔期に P. gingivalis 内毒 素にさらされると,長期にわたって免疫系に影響が 認められることが示された。 5 おわりに 口腔内バイオフィルムであるデンタルプラークに は,500菌種以上の細菌が生息しており,その中の 齲 原性菌や歯周病原細菌は,それぞれの感染症を 引き起こす。近年になり,それらの細菌は口腔感染 症だけではなく,全身的にも影響をおよぼすことが 報告されている。また全身の状態が歯周病の発症と 進行に影響することも示され,とくに生活習慣と密 接に関わるメタボリックシンドロームとは相互に影 響しあいながらそれぞれの病状を悪化させる。歯周 病の発症には免疫系が鍵を握っている。免疫は,年 齢とともに低下してくることを考えると,やはり日 頃の口腔ケアがますます重要になってくる。 文 献 1)髙添一郎:口腔疾患と全身疾患.Bone,17:337−343, 2003.
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6)Teng YT, Mahamed D, Singh B : Gamma interferon positively modulates Actinobacillus actinomycetemcomitans-specific RANKL+
CD4+
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表1 新生仔期に内毒素投与されたマウスにおける成育後の 血清 IgE レベル13)
新生仔投与 IgE 量(ng/ml)
Porphyromonas gingivalis内毒素 41.2±2.8a)
コントロール 17.7±4.4b)
a)vs.b):p<0.001(Mann-Whitney U-test)
200 加藤:生活習慣と口腔の健康
12)Miura T, Iohara K, Kato T, Ishihara K, Yoshinari M : Basic peptide protamine exerts antimicrobial activity against periodontopathic bacteria, J Biomed Sci Engi, 3:1069−1072,2010.
13)Kato T, Kimizuka R, Okuda K : Changes of immunore-sponse in BALB/c mice neonatally treated with peri-odontopathic bacterial endotoxin. FEMS Immunol Med Microbiol, 47:420−424,2006. 別刷請求先:〒101‐0062 東京都千代田区神田駿河台 2−9−7 東京歯科大学化学研究室 加藤哲男 歯科学報 Vol.115,No.3(2015) 201 ― 17 ―