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雇用機会としての農業(PDF:504KB)

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日本労働研究雑誌 1

提 言

雇用機会としての農業

生源寺眞一

 農業が変わった。40 年ほど農業・農村の調査研 究に携わってきた者として,こんな思いを強くし ている。農業が職業として選ばれる時代を迎えて いる。ここが大きく変わった。農業は農家の長男 が継ぐという通念は,すでに過去のものになった。 少なくとも若い世代には通用しない。数年前のこ とだが,大半の県に設置されている農業大学校の 入学者に占める非農家出身者の比率が 5 割を超 え,関係者の話題になった。農業大学校は農業や 農業関連の職を目指す若者のための教育機関であ り,この傾向は新規就農者に占める非農家出身者 の増加につながっている。  農業従事者の高齢化が著しい。けれども,日本 全体の平均値は数のうえで多数を占める水田作農 家の顕著な高齢化を反映しており,施設野菜や酪 農・畜産などの部門では若者や働き盛りも少なく ない。水田作でも野菜や果樹を組み合わせ,農産 物の加工や販売に取り組むなど,経営に厚みのあ る農業法人が各地で活躍している。農業を希望す る若者にとっては有力な就職先でもある。  農林水産省が新規就農者の数を推計している。 直近の 2014 年のデータによると,新規就農者つ まり学生や他産業従事者から転じて農業が主たる 仕事となった人は,合計で 5 万 7650 人に達して いる。このうち 27%,1 万 5290 人が 40 歳未満で あった。実は,新規就農者の半数近くは 60 歳以 上であり,これはこれで興味深い事実なのだが, 今回は若手の動向に焦点を絞ることにする。  新規就農者は三つのカテゴリーに区分される。 第一は自営農業就農者で自分の家の農業につく ケースであり,第二は雇用就農者,すなわち農業 法人などに雇われて農業を始める人々である。そ して第三がみずから農業経営を立ち上げる新規参 入者であり,いわば起業型の就農である。2014 年の 40 歳未満の新規就農者のうち 30%は雇用就 農者であり,13%は新規参入者であった。なかに は農家の子弟も含まれているだろうが,多くは非 農家出身に違いない。  農業はひとつの就職先なのである。もはや特殊 で閉鎖的な職業ではない。自営農業就農者につい ても,仕事を選んだ結果として農業についたケー スが大半だと思う。私の知る若手の農業者には, 次男や娘が継承した例や兄弟・姉妹による優れた 共同経営もある。若い農業者から共通して伝わっ てくるのは,農業の本質的な魅力に惹きつけられ ての選択という点である。ひとことで言えば,人 間の思い通りにならない生き物を相手にする農業 の難しさ,面白さ,そして達成感である。  むろん,課題もある。しばしば指摘されるのは 定着率の低さである。最近の例をあげると,昨年 の『食料・農業・農村白書』には「(40 歳未満の) 新規就農者の約 3 割は生活が安定しないことから 5 年以内に離農しており,定着するのは 1 万人と 推定されています」との記述があった。就農する 側と雇用する側の双方に克服すべき問題がありそ うだ。実態をよく把握する必要がある。  実態を把握するという点では,そもそも 5 年で 3 割の離職率をどうみるべきか。白書は暗黙裡に 高い率との判断に立っているようだが,厚生労働 省の「新規学卒者の離職状況に関する資料」を参 照してみると,業種や事業所の規模にもよるが, 5 年で 3 割が高いとは言えないように思う。言え ないように思う,などと曖昧な表現を用いたが, ここはしっかりした比較研究が必要だと考えるか らである。繰り返すが,農業はもはや特殊で閉鎖 的な職業ではない。そうであればなおのこと,農 業の実態を把握し,その改善を図る立場にある 人々にも,産業の垣根を越えた接近が求められて いる。むろん,研究者も含めてである。 (しょうげんじ・しんいち 名古屋大学大学院教授)

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