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巻頭言

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Academic year: 2021

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巻 頭 言

世界のサッカーファンを熱狂の渦に巻き込んだワールドカップ(W 杯)が終わった。 ブブゼラの響きも,今は懐かしく思えるから不思議である。豊かな天然資源があるにも 拘わらず,内戦や貧困,病気で国造りの進展が阻まれてきたアフリカではあるが,今や 新たな発展が赤道以南の国々にも及んでおり,W 杯によって世界がアフリカを再認識 できたことは意義深いことであった。 現在,アフリカの新しい声は世界に向けて発信され,確実に世界文化の色を塗り替え ている。その旗頭はナイジェリアの小説家チヌアアチェベである。彼は 1975年マサ チューセッツ大学で講演した折,英文学の傑作とされてきたコンラッドの小説『闇の奥』 (1902)における人種差別を批判し,西欧文化優位主義に一矢報いた。この小説はアフ リカの言語や文化を無視し,アフリカ人を暗い危険なジャングルという隠喩の一部に貶 めるものであるというものであった。彼の講演は大論争を引き起こしたが,現在ではコ ンラッドや他のアフリカを扱った作品をアチェベの批評なしには語れなくなったと言わ れている。 アチェベがそうした姿勢を培ったのは,英国統治下のイバダン大学時代であった。学 校で自国の言語の使用を禁じられた彼は,英語でコンラッドや『宝島』,ライダーハ ガードの『ソロモン王の洞窟』等貪るように読んだ。そして『闇の奥』では自分が蒸気 船に乗ってコンゴ川をって行く主人公マーロウではなく,川岸で叫び声をあげて飛び 跳ねている「野蛮人」の側にいることに気付く。さらにジョイスケアリの小説『ミス タージョンソン』(1939)では,白人官吏ルードベックに忠誠を尽くす陽気な道化役 ジョンソンの姿が,彼にアフリカ人の視点からアフリカ社会を描くことを模索させ始め た。放送局勤務を経て出版したのが,小説『崩れゆく絆』(1958)とそれに続く三部作 『もはや安楽なし』(1960)『神の矢』(1964)であった。 第一作『崩れゆく絆』は,古い慣習と新しい宗教観,伝統的な儀式と合理精神,文化 的衝突がテーマとなっている。キリスト教が伝来する以前とその後のナイジェリアの社 会の中で,主人公オコンクオは,道楽者の父親ウノカに反抗し,あらゆることに挑戦し 社会のトップにい上がる。レスラーとして,地域の有力者として,3人の妻を持ち 9 人の子どもに恵まれるが,隣村との平和協定で預かる人質の少年を殺した後,他の事件 のため一家は故郷からの立ち退きを命じられる。この物語は,キリスト教の伝来で社会 の変化に追いつけず没落する人間を描き,ギリシャ悲劇のような登場人物や構成の重厚 さを評価された。 本書は出版当時から 800万部以上を売り上げ,15カ国に翻訳され,現代アフリカ文 学の傑作として,アフリカの子どもの教科書になっている。変化の激しい現代社会に住 む私たちにとって彼のメッセージは有効である。「どこの地域の文化もその世界観は限 定的で部分的である。他地域の文化の世界観を理解することによって得ることはあるも のなのだ」。現在 79歳のアチェベは未だ健在である。先日 Newsweek誌の記者に対し, 自国の政治について汚職や政争を批判し,アフリカ諸国で発展を遂げた国には良い指導 者がいると指摘し,公教育や職業訓練の重要性を力説した。 (上野和子)

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