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―百貨店の撤退を事例として―

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Academic year: 2021

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地方都市における大規模核店舗撤退・跡地利用の実態と周辺に及ぼす影響

―百貨店の撤退を事例として―

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム

MJU17715 柳澤 拓道

1.概要

本研究は、全国地方都市中心市街地の百貨店 の撤退と跡地利用の実態及び周辺地価への影響 について、明らかにしたものである。

まず、事例調査により百貨店跡地の半数以上 が4年以上低未利用地化していること、用途転 換される場合は半数以上が公共複合施設となっ ていることなどを明らかにした。次に、百貨店 撤退後の跡地利用を商業用途等に固執する場合、

死荷重が発生する可能性があることを、理論モ デルを用いて明らかにした。最後に、撤退と跡 地利用による地価への影響を計量的に分析し、

撤退による負の影響が600m圏であること、人 口50万人未満の中小都市においては商業用途 や公共複合施設用途で跡地利用されると、かえ って周辺地価が下落傾向にあること等を明らか にした。

調査結果と理論・実証分析の結果を踏まえて、

管理不全となった空きビル・更地の負の外部性 の解消、商業用途からの用途転換支援による死 荷重の解消、市街地再開発事業の権利者調整等 取引費用の軽減、行き過ぎた施策介入(地方公 共団体による床取得等)の是正を提唱する。

調査対象は、2000年以降の地方都市(東京都、

神奈川県及び埼玉県内を除く人口100万人以下 の市町村1。)における百貨店の撤退事例で、サ ンプル数は67件である。

2.地方都市百貨店撤退の状況

事例調査により百貨店跡地の半数以上が4年 以上低未利用地化していること、人口が縮減し ている都市ほど低未利用地の期間が長くなる傾 向にあること、撤退後に用途転換された場合は 半数以上が公共複合施設となっていることなど を明らかにした。

1 100万人を超える都市については、不動産需要が旺盛

で空きビル・更地の問題が起こるケースが少ないこと、

周辺の競合商業施設が多く、地価を被説明変数とした分 析に適していないことから対象から外した。

図1:百貨店撤退後の低未利用地期間

図2:用途転換の内訳(一部用途転換含む。)

3.都市の縮小と付け値曲線のシフト

バブル崩壊後の地価公示価格の下落に表れて いるように、地方都市中心市街地の都市経済は 概して衰退し続けている。商業等、住宅等の付 け値曲線も都市の衰退とともに下にシフトして いると考えられ、図3のように商業等の付け値 曲線はRcからRc’へのシフト、住宅等の付け値 曲線はRhからRh’へのシフトで表される。

この場合、土地の価値を最大限に発揮する最 有効の利用を考えると、商業等の最有効エリア はCからC’へ、住宅等の最有効エリアはHか らH’へ移動及び縮小する。また、付け値がマイ ナス(Y軸よりも下)になっている領域では、

新規の商業等の営業は困難で、既存の商業等が 撤退後、空きビル・更地化すると考えられる。

1年 22%

2年 16%

3 4年 7%

12%

5 0%

6年 3%

7年 18%

8 2%

9 3%

10 5%

10年以上 12%

介護施設, 1 医療施設, 1 オフィス, 1

ホテル, 2 パチンコ店,

2 マンション,

3 公共複合,

11

(2)

2 図3:付け値曲線のシフト(都市縮小後)

4.用途固執による死荷重の発生

商業等の付け値がマイナスに転じているエリ アにおいては、一度店舗等が撤退した場合、用 途転換ができない限り空きビル・更地化するこ とになる。また、付け値がプラスであっても既 に商業が最有効でなくなっているエリアにおい ては、個別店舗の採算が合う限りは店舗を継続 している可能性があるが、この場合でも、住宅 等が最有効であるにも関わらず、商業等を継続 している場合はRh’とRc’の差分について死荷 重が発生していると考えられる。

この状況において、例えば中心市街地におい て大型店舗等が撤退した場合に、行政の介入(行 政による床の取得、賃借料の補助等)によって 商業施設の維持をしようとする場合は、死荷重 を再現することとなるので、用途転換を含めた 支援を検討する必要があると言える。

5.百貨店の空きビル・更地化に負の外部性があ る場合

百貨店が撤退して空きビル・更地化した場合 に、買い回り人口や賑わいの喪失(正の外部性 の喪失)、当該空きビルや更地が管理不全による 景観悪化(負の外部性)等により、当該撤退が 周辺の商業地に外部性を持っている場合は、死 荷重にどのような影響があるだろうか。

この場合、図4のとおり、撤退した百貨店周 辺の付け値曲線Rc’が下にシフトし(Rc’’)、そ の分だけ死荷重が増加すると考えられる。

図4:付け値曲線のシフト(百貨店撤退後)

一般に百貨店等の大型核店舗の撤退に際して 行政が床取得等の介入を行う場合、撤退によっ て都市や中心市街地の賑わいが失われることを 名目に行われることが多いが、本モデルの理論 で言えば、Rc’がRc’’へシフトすることを防ぐ介 入であると考えられる。

しかし、当該介入の効果を支持する客観的な 検証は、これまでされてこなかった。

6.検証する仮説

本章では前項に掲げた問題意識から、以下の 2つの仮説について、資本化仮説に基づくヘド ニックアプローチにより、地価の対数値を被説 明変数とした重回帰分析をおこなった。

仮説① 百貨店撤退跡地が低未利用地(空き ビル及び更地を含む。以下同じ。)化した場合 は、正の外部性の喪失及び負の外部性が生じ、

当該都市及び百貨店跡地周辺の地価を下げる 仮説② 後継テナントがある場合及び用途転 換した場合は、地価の下げはない(改善する。)

7.仮説①の検証

百貨店の空きビル・更地化が周辺の地価に与 える影響を計測するために次式の推計モデルを 用いて、固定効果モデルによるパネルデータ分 析を行う。

被説明変数は、調査対象百貨店から半径1k m圏内の地価公示価格及び都道府県地価調査価 格の対数値とした。説明変数は、百貨店撤退後 の影響を距離圏別に推計するため、低未利用地 となっている場合をマークする「空きビル更地 化ダミー変数」と「200m圏ごとの距離ダミー」

の交差項のほか、景気変動等全国的な社会経済 情勢をコントロールするために「年次ダミー」、 各都市別の地価上昇・下落トレンドをコントロ ールするために都市別タイムトレンド変数を用 いた。

推計式①

lnLP(地価)it

=β0(定数項)

+β15(空きビル更地化ダミー

×200m圏ごとの距離ダミー)

+β625(年次ダミー)

+β26~(都市別タイムトレンド変数)

+δi εit

i:地価ポイント t:年次 +δi:固定効果 εit:誤差項

(3)

3 仮説①の推計と結果の説明

推計結果によれば、大都市地価及び中小地価 ともに概ね600m圏(徒歩7~8分)に百貨店 が空きビル更地化したことによる負の影響が存 在することが実証された。また800m圏(徒歩 10分)以上には有意な影響が出ておらず、百貨 店の撤退は商店街等一定範囲の地価に負の影響 を及ぼすが、当該都市全体の地価に負の影響を 与えることはないことが実証された。

表1:推計結果①

8.仮説②の検証

百貨店の後継用途が周辺の地価に与える影響 を計測するために次式の推計モデルを用いて、

固定効果モデルによるパネルデータ分析を行う。

被説明変数は、調査対象百貨店から半径600 m圏内2の地価公示価格及び都道府県地価調査 価格の対数値とした。説明変数は、百貨店撤退 後の跡地用途別の影響を推計するため、「百貨店 撤退後ダミー」と「用途別ダミー変数」の交差 項3のほか、景気変動等全国的な社会経済情勢 をコントロールするために「年次ダミー」、各都 市別の地価上昇・下落トレンドをコントロール するために都市別タイムトレンド変数を用いた。

推計式②

lnLP(地価)it

=β0(定数項)

+β1(百貨店撤退後ダミー)

+β2(百貨店撤退後ダミー×後継商業ダミー)

+β3(百貨店撤退後ダミー×住宅ダミー)

+β4(百貨店撤退後ダミー×公共複合ダミー)

+β5(百貨店撤退後ダミー×その他施設ダミー)

+β625(年ダミー)

+β26~(都市別タイムトレンド変数)

+δi(固定効果) εit(誤差項)

2 仮説①の検証の結果を受けて、地価への影響が見込ま れる百貨店跡地から600m圏を対象とした。

3 空きビル更地化のときと地価を比較するために、推計 式②-1、②-2では、「百貨店撤退後ダミー×空きビル更 地化ダミー」を除いている。

i:地価ポイント t:年次 +δi:固定効果 εit:誤差項

仮説②の推計と結果の説明

推計結果によれば、大都市においては、跡地 に商業施設が入った場合、約6.2%の地価上昇 効果があった。また住宅施設が入った場合、約 4.1%の地価上昇効果があった。その他の用途に ついては統計的に有意な結果は出なかったが、

跡地利用がされると概ね地価が改善される傾向 にあることが分かった。

一方、中小都市においては、跡地に商業施設 が入った場合約6.3%の地価下落効果があり、

公共施設が入った場合約4.8%の地価下落効果 があった。その他の用途については統計的に有 意な結果は出なかったが、跡地利用がされると 概ね地価が下落傾向にあることが分かった。

これは、中小都市においては、公共団体や第 三セクターが床を取得して周囲の地価を上昇さ せるような魅力を発揮しない公共床や商業床で 埋めていることや、更地のときと比較して開発 期待がなくなることなどが要因として考えられ る4

低未利用地の場合よりもかえって地価を悪化 させる傾向にあるのは、跡地利用前の開発期待 に比して、実際の跡地利用が、少なくとも周辺 の商業地にとっては地価に反映されるような魅 力を有していないことを示している。

公共複合施設が入った場合、大都市では有意 にプラスとはならず、中小都市においては有意 にマイナスとなった。公費を投入して床を取 得・賃借しても、必ずしも周辺地価の改善は見 込むことはできず、むしろ低未利用地時よりも 悪化させる傾向にあることが分かった。

表2:推計結果②

4 更地の場合、市街地再開発事業の進行を待って、駐車 場、イベント広場等として暫定利用しているケースも多 い。一般的に、市街地再開発事業の機運が高まると開発 期待により周辺の地価も上昇するものと考えられるが、

本研究においてはデータの制約上、開発アナウンス効果 は独立して計測していない。

(4)

4

9.政策提言

調査・分析の結果、下記の政策を提言する。

①負の外部性の解消

地方大都市においては、特に視認性のある範 囲(200m)において、空きビル・更地化の負 の影響が強く生じていた。このような空きビ ル・更地化の負の外部性に対しては、空きビル や更地の管理保全義務(ピグ―税)を課すとと もに、著しく荒廃している場合にはペナルティ ーを課すことが有効である。

この点、居住用途の空家に関しては、空家等 対策の推進に関する特別措置法(平成26年法 律第127号)により、同法第2条第2項の「特 定空家等」に指定されると、固定資産税及び都 市計画税に関する住宅用地の軽減特例が受けら れなくなるペナルティーがある。一方、商業ビ ルは「特定空家等」として指定することはでき る5が、税制上のペナルティーはない。よって、

商業の空きビルを「特定空家等」として指定を したにもかかわらず、修繕等の措置が行われな い場合は、負の外部性に対応した課税強化を検 討することが考えられる。

また、単に空きビル更地のメンテナンスをす るだけでなく、地域に貢献する取り組みの例と して、空きビルの外壁や更地を囲う鋼板塀をア ート作品や地域の活動の展示等に活用し、周辺 の賑わいに貢献するよう指導することなども考 えられる。

②死荷重の解消、取引費用の軽減

百貨店撤退地域で商業用途が最有効でなくな っているにもかかわらず、商業用途に固執して 誘致等により商業を復活させた場合、死荷重を 再現することになる。よって必ずしも商業用途 に固執せず、他の需要が見込まれる用途への用 途転換支援も積極的に検討を行うべきである。

現在の中心市街地活性化施策は、経済産業省の 支援メニューを中心に商業振興の側面が強く 6、 自治体サイドでも商業用途での利用にこだわり を持っている例も多くみられる。

5 同法律第2条に定めるの「空家等」及び「特定空家等」

は、居住用途に限定されていないため、商業ビルも同法 律の「空家等」及び「特定空家等」に該当しうる。

6 中心市街地の活性化に資する調査、先導的・実証的な 商業施設等の整備及び専門人材の招聘に対して補助金 が交付される「地域・まちなか商業活性化支援事業」 中心市街地活性化基本計画に位置付けられたイベント 等のソフト事業に対して経費の50%を措置する「中心 市街地活性化ソフト事業」など。

この点、民間の需要を見極めて、コンパクト シティ化に資する住居、少子高齢化に対応する 子育て・介護福祉施設、インバウンド消費に関 連したホテルなど、幅広い用途の検討を行う必 要があるだろう。

商業地として復活させるという中心市街地活 性化の政策的コミットが、地権者の期待地価の 高止まりを生んでいる可能性も高く、用途転換 を含めたまちづくりのアナウンスメントを行政 が積極的にしていくことも、用途転換政策の実 効性を高めていくうえで有効であると考える。

また、実態調査では、用途転換に向けた市街 地再開発事業の計画が立ち上がっているにもか かわらず、権利者調整が進まずに、空きビル・

更地が長期化しているケースも見受けられた。

よって、取引費用軽減のための市街地再開発事 業の権利者調整支援など、用途転換の取引費用 を軽減する方策も有効であると考える。

③行き過ぎた施策介入の是正

百貨店撤退の地価への影響は600m圏であり、

一定の範囲に影響はあるものの、地方自治体が 策定する中心市街地活性化基本計画に定める中 心市街地全体7や、市域全域を衰退させるよう な影響は観測されなかった。また、公共施設が 入っても統計的には地価はかえって下落する傾 向にある。よって、中心市街地全体や、都市全 体が衰退してしまうというイメージ論で、ヴィ ジョンや需要のない公共施設の取得(ハコモノ 介入)をすることは慎重にならなければならな い。暫定利用のときの方がかえって周辺地価が 高いという例もあることから、地域の実情に応 じて広場としての永続利用も検討する余地があ る。

本論文の分析結果にも表れているように、多 くの施策介入は少なくとも周辺地価を改善する ことができていない厳しい現状がある。人口減 少社会、超高齢化社会を迎えた今こそ、印象論 によるまちづくりから脱却し、客観的なエビデ ンスと将来ヴィジョンに基づく都市経営として のまちづくりが求められている。

7 地方都市における、古くからの中心的な商店街は旧城 下町などに立地しており、ターミナル駅から離れた場所 に立地していることが多い。よって、中心市街地活性化 基本計画に定める「中心市街地」は、ターミナル駅等も 含めて、かなり広範な範囲にわたる傾向がある。

参照

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