博 士 ( 工 学 ) 中 村 大 輔 ず ´
学 位 論 文 題 名
超 音 速 非 定 常 流 れ 場 に お け る 水 素 の 白 金 触 媒 燃 焼
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
将来のスベースプレーンや超音速旅客機用のエンジンとして,スクラムジ エットエンジンが有望視されている.スクラムジェットエンジンは,マツハ6 以上の高速飛行中に作動するエンジンで,エンジン内部の流れを超音速状態 に保ったまま燃料を噴射し,燃焼させることが特徴である.低マツハ数時で は静温が十分に上がらないため,何らかの点火・保炎機構が必要であると考 えられる.その1.っの候補としてプラズマトーチが挙げられているが,外部 からの多大な電力供給が必要であることや大掛かりな設備を必要とすること などが構造重量の増大を招くため,航空機用エンジンに適用するには問題が ある.それに代わる点火・保炎機構として,比較的低温でも反応が進行し,
外部からのエネルギー供給や機械的設備がほとんど不要な触媒燃焼を用いた 手法が有効であると考えられる.しかし,これまで超音速流中における触媒 燃焼の基礎的な機構にっいて研究が行われた例はほとんど無く,不明な点が 多く残されている.
著者は,過去の研究において,白金線を用いた定常超音速予混合気流中に おける水素の触媒燃焼についての実験を行い,予混合気が理論混合比の時に 触媒反応発熱量が最大になること,熱線の設定温度をある温度以上にすると,
発熱量は熱線温度に依存しなくなることなどを明らかにした.発熱量が熱線 温度に依存しなくなる理由として,白金線近傍では水素または酸素の濃度がO に近く,触媒反応は主流から白金線近傍への化学種の輸送によって律速され,
発熱量は化学種の物質伝達によって決定されているとの結論を得た.しかし,
物質輸送速度と触媒反応速度との定量的な比較および詳細な検証はいまだ行 われていない.
触媒燃焼をスクラムジェットエンジンの点火・保炎機構として使用する場 合には,非定常に変化する超音速流中に韜ける作動特性を明らかにしておく ことも必要である.そのためには,超音速非定常流れ場での触媒燃焼の応答 性の評価など,非定常超音速流中における触媒反応の基礎的な燃焼機構につ いて明らかにする必要がある.著者が知る限り,そのような研究例は過去に ―1026―
おいて存在しない.
本研究では,触媒燃焼の発熱量が熱線温度に依存しなくなる現象について の機構解明と,超音速非定常流れ場中における水素の白金触媒燃焼の変化を 評価する手法の提案ならびに非定常場での触媒燃焼の変化の評価を目的とす る・
一
本 論 文 は6章 で 構 成 さ れ て お り , 内 容 は 以 下 の 通 り で あ る ,
第1章は序論であり,本研究にいたる背景を述べ,これまでの研究で得ら れ て い る 成 果 を 示 し , そ れ に 伴 う 本 研 究 の 目 的 を 述 べ て い る . 第2章では,本研究で使用する実験条件において,触媒燃焼発熱量の非定 常な変化がどのように検出されるかを明らかにすることを目的として,高圧 室と低圧風洞からなる衝撃波管を用い,低圧風洞内に設置したNi‑Ptダブルプ ローブに衝撃波を当て,それによってニッケル線と白金線それぞれに供給さ れ る 電カ の 変 化を 観 測する 実験につい て,その手 法を説明し ている.
第3章では,第2章で説明した実験の結果にっいて述べている.衝撃波通 過後の熟線への供給電カの変化率は熱線内の軸方向温度分布により,熟線の 持つ熱拡散率で決定されることや,供給電カの変化率への触媒反応の寄与分 は,熟線温度が400℃以上になると熟線温度に依存しないこと,水素濃度と強 い相関関係があることを明らかにした.
第4章では,衝撃波通過による触媒反応の基礎的な機構を調べるため,RICE 法 を 用 い た 数 値 計 算 に つ い て , そ の 手 法 に つ い て 述 べ て い る , 第5章では,第4章で説明した手法を用いて行った計算について,その結 果を示している.熱線をある温度以上にすると,触媒燃焼発熱量が熟線温度 に依存せず一定になる機構を明らかにした.また衝撃波通過後の発熱量の変 化は極めて速やかに起こるため,超音速非定常流れ場に対して触媒燃焼は極 めてよい応答性を持つことなどを明らかにした.
第6章 は 結 論 で あ り , 本 研 究 で 得 ら れ た 成 果 を 要 約 し て い る .
本論文で著者は,触媒燃焼発熱量が熟線温度に依存しなくなるのは,化学 種の白金線表面への吸着が,ある温度を境に温度依存性を失うために起こる こと,超音速非定常流れ場中での触媒燃焼は,衝撃波通過に対して非常に速 やかな応答性を持っていることなどを明らかにした.
学 位 論 文 審 査 の 要 旨 f ´
主査 教授 工藤 勲 副査 教授 工藤一彦 副査 教授 藤田 修 副査 助教授 永田晴紀
学 位 論 文 題 名
、超音速非定常流れ場における水素の白金触媒燃焼
将来 の スペー スプレーン や超音速 旅客機用 のエンジ ンとして ,スクラ ムジェ ッ ト ェン ジ ンが 有 望 視さ れ て いる . スク ラムジェ ットエン ジンは, マッハ6以 上 の 高速 飛行 中に作動す るエンジ ンで,エ ンジン内 部の流れ を超音速 状態に保 っ た まま 燃料 を噴射し, 燃焼させ ることが 特徴であ る.低マ ッハ数時 では静温 が十 分に上が らないた め,何ら かの点火・保炎機構が必要であると考えられる.
こ の 点火 ・保 炎機構とし て,比較 的低温で も反応が 進行し, 外部から のエネル ギ ー 供給 や機 械的設備が ほとんど 不要な触 媒燃焼を 用いた手 法が有効 である.
著 者 は, 過去 の研究にお いて,白 金線を用 いた定常 超音速予 混合気流 中におけ る 水 素の 触媒 燃焼につい ての実験 を行い, 予混合気 が理論混 合比の時 に触媒反 応 発 熱量 が最 大になるこ と,熱線 の設定温 度をある 温度以上 にすると ,発熱量 は 熱 線温 度に 依存しなく なること などを明 らかにし た.発熱 量が熱線 温度に依 存 し なく な る理 由 と して , 白 金線 近 傍で は水素ま たは酸素 の濃度がoに近く,
触 媒 反応 は主 流から白金 線近傍へ の化学種 の輸送に よって律 速され, 発熱量は 化 学 種の 物質 伝達によっ て決定さ れている との結諭 を得てい る.しか し,物質 輸 送 速度 と触 媒反応速度 との定量 的な比較 および詳 細な検証 はいまだ 行われて い な い. 触媒 燃焼をスク ラムジェ ットエン ジンの点 火・保炎 機構とし て使用す る 場 合に は, 非定常に変 化する超 音速流中 における 作動特性 を明らか にしてお く こ とが 必要 である.そ のために は,超音 速非定常 流れ場で の触媒燃 焼の応答 性 の 評価 など ,非定常超 音速流中 における 触媒反応 の基礎的 な燃焼機 構につい て明 らかにす る必要が ある.
本研 究 では, 触媒燃焼の 発熱量が 熱線温度 に依存し なくなる 現象につ いての 機 構 解明 と, 超音速非定 常流れ場 中におけ る水素の 白金触媒 燃焼の変 化を評価 す る 手法 を 提案 し 、 非定 常 場 での 触 媒燃 焼 の 変化 の 評価 を 目 的と し ている.
本論文 は6章で構 成されており,内容は以下の通りである.
第1章は序論 であり, 本研究に いたる背景 を述べ, これまで の研究で 得られ て い る 成 果 を 示 し , そ れ に 伴 う 本 研 究 の 目 的 を 述 べ て い る ,
第2章では,本研究で使用する実験条件において,触媒燃焼発熱量の非定常 な変化がどのように検出されるかを明らかにすることを目的として,高圧室と 低圧風洞からなる衝撃波管を用い,低圧風洞内に設置したNi‑Ptダブルプ口ー ブに衝撃波を当て,それによってニッケル線と白金線それぞれに供給される電 カ の 変 化 を 観 測 す る 実 験 に つ い て , そ の 手 法 を 説 明 し て い る . 第3章では,第2章で説明した実験の結果について述べている.衝撃波通過 後の熱線への供給電カの変化率は熱線内の軸方向温度分布により,熱線の持つ 熱拡散率で決定されることや,供給電カの変化率への触媒反応の寄与分は,熟 線温度が400℃以上になると熱線温度に依存しないこと,水素濃度と強い相関 関係があることを明らかにしている・
第4章では,衝撃波通過による触媒反応の基礎的な機構を調べるため,RICE 法 を 用 い た 数 値 計 算 に つ い て , そ の 手 法 に つ い て 述 べ て い る . 第5章では,第4章の手法を用いて行った計算について,その結果を示して いる.熟線をある温度以上にすると,触媒燃焼発熱量が熱線温度に依存せず一 定になる機構を明らかにしている.また衝撃波通過後の発熱量の変化は極めて 速やかに起こるため,超音速非定常流れ場に対して触媒燃焼は極めてよい応答 性を持つことなどを明らかにした.
第6章は 結諭 を述 べてい て, 本研 究で得 られ た成 果を 要約し てい る.
これを要するに,著者は触媒燃焼発熱量が熱線温度に依存しなくなるのは,
化学種の白金線表面への吸着が,ある温度を境に温度依存性を失うために起こ ること,超音速非定常流れ場中での触媒燃焼は,衝撃波通過に対して速やかな 応答性を持っていることを明らかにした.これは宇宙推進工学の発展に貢献す るところ大ぬるものがある.よって著者は北海道大学博士(工学)の学位を授 与される資格あるものと認める.