博 士 論 文
河道湾曲部における横越流量公式に関する研究
STUDY OF DISCHARGE EQUATION OF LATERAL OVERFLOW LOCATED IN THE CURVED PART OF RIVER
2020 年 3 月
石 原 正 義
岡 山 大 学 大 学 院
環 境 生 命 科 学 研 究 科
< 目 次 >
第1章 序論 ... 1
1.1 研究の概要 ... 1
1.2 研究の背景 ... 2
1.3 本研究の目的 ... 3
(1) 遊水地および調節池による洪水調節の概念 ... 4
(2) 越流堤形状の事例と概念 ... 5
1.4 既往の研究 ... 8
(1) 正面越流を基本とする横越流量の補正 ... 8
(2) 流量係数一定の場合の理論解 ... 8
(3) 主流が常流の場合の簡易実験式 ... 9
(4) 湾曲水路の曲率を考慮した横越流流量算定式 ... 9
(5) 蛇行河川での溢水・越水氾濫流量とその予測 ... 10
1.5 論文の構成 ... 11
第2 章 越流堤形状と流量係数に関する検討 ... 14
2.1 はじめに ... 14
2.2 越流堤形状と流量係数に関する検討 ... 15
(1) 越流堤形状の決定の考え方 ... 15
(2) 越流堤天端に小堤を設置した事例 ... 16
(3) 流量係数の評価 ... 17
(4) 越流堤天端形状の改良効果 ... 18
(5) 越流堤周辺の流況... 19
(6) 越流堤形状と流量係数 ... 20
2.3 まとめ ... 22
第3 章 河川水理模型実験での横越流量の検討 ... 24
3.1 はじめに ... 24
3.2 従来の横越流公式による横越流量と河川水理模型実験での横越流量 .... 25
4.2 研究概要 ... 29
4.3 直線基礎水路実験 ... 33
(1) 実験概要 ... 33
(2) 実験装置 ... 33
(3) 実験条件 ... 35
(4) 直線基礎水路の実験結果と考察 ... 37
4.4 湾曲基礎水路実験 ... 41
(1) 実験概要 ... 41
(2) 実験装置 ... 41
(3) 実験条件 ... 43
(4) 湾曲基礎水路の実験結果と考察 ... 45
4.5 湾曲基礎水路解析 ... 50
(1) 解析の目的 ... 50
(2) 準三次元モデルの基礎式 ... 51
(3) 解析ケース(外岸・内岸) ... 55
(4) 解析結果(外岸・内岸) ... 57
(5) 解析ケース(曲率半径) ... 64
(6) 解析結果(曲率半径) ... 67
4.6 水路湾曲部の横越流堤の流量公式の検討 ... 82
4.7 まとめ ... 88
第5 章 河道湾曲部の横越流量の流量公式の検証 ... 90
5.1 はじめに ... 90
5.2 実河道水理模型実験による横越流量の流量公式の検証... 90
(1) 実河道水理模型実験の概要 ... 90
(2) 横越流量の流量公式の検証 ... 94
5.3 まとめ ... 96
第6 章 結論 ... 97
6.1 本論文の結論 ... 97
6.2 今後の課題と展望 ... 99
第1章 序論
1.1 研究の概要
本論文は,洪水制御施設の一つである遊水地や調節池における越流堤の越流 現象に関して分析し,河道湾曲部における越流量を求める公式を提案するもの である.
遊水地や調節池は,地形条件や社会的制約条件により,河道の直線部だけで なく湾曲部にも設置する場合がある.既往の研究により,直線水路での横越流 に関しては,多くの研究が行われているが,遊水地等を設置する蛇行河道の多 い中上流域の湾曲河道を対象とした横越流に関する研究事例は少ない.また,
越流堤の天端形状についても,台形堰,刃型堰,円弧堰など形状が異なる場合 の越流に関しても研究事例は少ない.河道湾曲部では河道断面方向に2 次流が 形成され3 次元の流れが生じる中,越流堤を設置した場合,さらに横越流によ る常流と射流が混在する複雑な流れとなる.このため,遊水地等の精度の高い 横越流量を求めるためには,水理模型実験または3 次元解析や準三次元解析に よる手法が用いられており,時間,費用,労力が懸けられてきた.そこで,本 論文では,既往の河道水理模型実験の結果と分析,基礎的な直線水路及び湾曲 水路を用いた実験及び解析の実施により,簡易に河道湾曲部における横越流量 を算出しうる公式を提案する.また,越流効率が高い,つまり越流堤や遊水地 に係るコストを縮減でき,また,維持管理にも優れた越流堤の天端形状につい ても提案する.
以下について,水理実験及び 3次元解析による研究を行い,河道湾曲部での 横越流量を精度高く求める公式を提案し検証を行った.
(1) 越流堤形状と越流効率に関する研究
(2) 直線及び湾曲基礎水路設置される横越流堰の横越流量の実験及び解析に よる研究と公式の提案
(3) 実河道湾曲部における横越流量と横越流公式による横越流量の検証
2 1.2 研究の背景
H27関東・東北豪雨,H24・H29九州北部豪雨,H30西日本豪雨,R1台風19 号等,毎年のように大洪水による災害が発生している.下流域への洪水ピーク 流量を減少させる治水対策の一手法として上流域へ設置する遊水地や調節池が ある.本研究で対象とする横越流堤(堰)は,洪水を一時的に貯留しピーク流 量を減らすため,河川堤防の一部区間を切下げ,遊水地等へ流入させる特殊堤 である.しかし,河道流量を調整する遊水地等において,河道の地形条件が多 岐にわたること,常流と射流が混在する複雑な水理現象であること等の要因に より,治水計画に即した流量調整機能を有する施設の設計を行うことは容易で はない.
出典:https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000762803.pdf
図 1.1 令和元年台風第19号後の荒川第一調節池
1.3 本研究の目的
本研究の目的は,河道湾曲部での横越流量を精度高く求める公式を導くこと である.
洪水制御施設の一つである遊水地や調節池において,越流堤は,地形条件や 社会的制約条件により,河道の直線部だけでなく湾曲部にも設置する場合があ る.既往研究により,直線水路での横越流に関しては多く検証されているが,
遊水地や調節池を設置する蛇行河道の多い中上流域の湾曲河道を対象とした横 越流に関する研究事例は少ない.また,越流堤の天端形状が異なる場合の横越 流に関しても研究事例は少ない.そこで,以下について水理実験及び3 次元解 析により検討を行い,河道湾曲部での横越流量を精度高く求める公式を提案す る.
(1) 越流堤形状と越流効率に関する研究
(2) 直線及び湾曲基礎水路設置される横越流堰の横越流量の実験及び解析に よる研究と公式の提案
(3) 実河道湾曲部における横越流量と横越流公式による横越流量の検証
4
(1) 遊水地および調節池による洪水調節の概念
本研究の主目的を明確にするため,遊水地による洪水調節に関する概念,用 語及び洪水調節のイメージ図について,図 1.2及び図 1.3に示す.図 1.3 に示 す②の2山波形が遊水地の計画条件として,次の2点から効率的である.
・洪水ピーク時において下流河道における計画流量を満足する.
・カット後2山目の流量も計画流量を満足する最小規模の調節容量である.
つまり,図 1.3 の①では調節容量に余裕があり(調節容量過大,遊水地面積 を小さくすることでコストを縮減できる),③では調節容量に余裕がない(調節 容量不足,カット後流量が計画流量を上回るおそれがある)といえる.図 1.2 の着色部の「洪水調節容量」は,越流堤形状に依存するため,越流堤形状の諸 元を精度高く設定することが,遊水地計画及び設計において非常に重要となる.
図 1.2 遊水地における調節効果イメージ図
図 1.3 遊水地における各流量調節波形のイメージ図
①1山波形
カット前流量ピークとカット後流量ピークが同 時刻に生じる波形。
調節容量を十分に確保しており、遊水地か ら逆流が生じない。
②2山波形
カット前流量ピーク時と逆流時に2山が生じ る波形。
洪水ピーク時と減水期に同程度の流量とな り効率的に洪水調節が行われている。
③後1山波形
カット後流量ピークがカット前流量ピークの 後にある波形。
調節容量が不足しており、遊水地から逆流 時の流量が大きくなる。
カット後 Q カット前
T
カット後 Q カット前
T
カット後 Q カット前
T
(2) 越流堤形状の事例と概念
越流堤は,河道沿川に設置される特殊堤防であり,多くは台形断面であるが,
都市河川や堀込河川では,矩形断面や河川改修完了までの暫定施設として刃型 堰(角落し)を設置する場合もある.
天端幅が広い台形や広頂堤形は構造的に安定性が高く形状も複雑ではないが 越流効率は,天端幅が狭い矩形や刃型の方が優位である.
図 1.4 越流堤断面形状の事例
台形の越流堤の事例として,図 1.5 に鶴見川多目的遊水地(横浜市)を,矩 形及び刃型の越流堤の事例として,図 1.6 に妙正寺川鷺宮調節池(東京都)を 示す.
堤防(地盤高)
越流堤
堀込河川
池側 川側
堤防(地盤高)
越流堤
堀込河川
池側 川側
刃型堰(暫定) 越流堤
堤防 堤防河川
池側 川側
台形 矩形 刃型
6
参照:https://www.google.co.jp/maps
図 1.5 鶴見川多目的遊水地(台形断面)
越流堤
参照:https://www.google.co.jp/maps
図 1.6 妙正寺川鷺宮調節池(矩形・刃型断面)
越流堤
8 1.4 既往の研究
本研究に関連する既往の研究を以下に示す.
(1) 正面越流を基本とする横越流量の補正
Hager1)3)は,正面越流量を基本とする横越流量の補正に関する研究を行って
おり,横越流に関する3 種の補正項を乗ずることによって定式化している.
𝑞𝑞=−𝑛𝑛∗𝑞𝑞𝑎𝑎𝜔𝜔 ... (1.4.1) 𝜔𝜔=ℎ′− 𝑤𝑤′
1− 𝑤𝑤′ 𝜔𝜔𝜃𝜃0�1−(Φ+𝑖𝑖0)� 1
𝜔𝜔𝜃𝜃02−1�1 2⁄ � ... (1.4.2) 𝜔𝜔𝜃𝜃0=� (ℎ′− 𝑤𝑤′)(1− 𝜌𝜌)
1− 𝜌𝜌ℎ′−(1− 𝜌𝜌)𝑤𝑤′�
1 2⁄
... (1.4.3)
ここに,𝑛𝑛∗は越流方向の数で片側越流のとき1,両側越流のとき2,𝑞𝑞𝑎𝑎は横越 流項を一様な長方形水路下流端に設けた場合の同じ𝐻𝐻における単位幅当たりの 越流量,𝜌𝜌 は越流水脈の圧力係数,ℎ′=ℎ/𝐻𝐻,𝑤𝑤′=−𝑤𝑤/𝐻𝐻,𝑤𝑤は堰高,𝐻𝐻は水路 底を基準とするエネルギー水頭(=ℎ+𝜐𝜐2/2𝑔𝑔)をそれぞれ示している.
(2) 流量係数一定の場合の理論解
De Marchi1)は横越流における流量係数一定の場合の理論解に関する研究を行
い,次に示す式を提案している.中川ら 1)は,横越流堰による流量分配機能の 研究を行い,堰の高さおよび長さを種々変化させた横越流刃形堰についてその 越流特性を実験的に考察している.そしてその測定結果にもとづいて従来の横 越流量諸公式の問題点を検討するとともに,とくに主流が射流状態の場合につ いて,横越流量推定の方法を確立し,あわせて特性曲線法による主流水面形の 解析を試みている.
𝑞𝑞=−𝐶𝐶′(ℎ − 𝑤𝑤)3 2⁄ ... (1.4.4) 𝐿𝐿=�2𝑔𝑔𝐵𝐵
𝐶𝐶′ �𝜙𝜙 �ℎ1
𝐻𝐻 � − 𝜙𝜙 � ℎ0
𝐻𝐻 �� ... (1.4.5)
𝜙𝜙=2𝐻𝐻 −3𝑤𝑤 𝐻𝐻 − 𝑤𝑤 �
𝐻𝐻 − ℎ ℎ − 𝑤𝑤�
1 2⁄
−3 tan−1�𝐻𝐻 − ℎ ℎ − 𝑤𝑤�
1 2⁄
... (1.4.6)
一様な長方形水路で𝐶𝐶′および𝐻𝐻が一定として上式は提示された.ここに,𝐿𝐿 は横越流堰幅,𝐶𝐶′は堰の流量係数,ℎ0,ℎ1はそれぞれ横越流堰上流端,下流端 での水深を表す.
(3) 主流が常流の場合の簡易実験式
室田ら 2)は遊水地計画の基本設計の簡便化を目的として横越流堰の評価に関 する研究を行い,次に示す実験式を提案している.
𝑄𝑄𝑤𝑤=𝐶𝐶𝑤𝑤𝐿𝐿(𝐻𝐻𝑎𝑎− 𝑊𝑊)3 2⁄ ... (1.4.7) 𝐶𝐶𝑤𝑤 =−0.076𝐹𝐹𝑎𝑎+ 0.29(𝐿𝐿 𝐵𝐵⁄ )−0.70 ... (1.4.8)
ここに,𝐻𝐻𝑎𝑎,𝐹𝐹𝑎𝑎は横越流堰がなく,𝑄𝑄𝑤𝑤が等流状態で流下した場合の水路底 面を基準とするエネルギー水頭,フルード数である.なお,室田らの同論文及 び水理公式集1)2)では,次の誤記となっているためここに修正する.
正:𝐶𝐶𝑤𝑤=−0.076𝐹𝐹𝑎𝑎+ 0.29(𝐿𝐿 𝐵𝐵⁄ )−0.70 ... (1.4.9) 誤:𝐶𝐶𝑤𝑤=−0.076𝐹𝐹𝑎𝑎+ 0.29(𝐿𝐿 𝐵𝐵⁄ )−0.70 ... (1.4.10)
(4) 湾曲水路の曲率を考慮した横越流流量算定式
朝位ら 4)5)6)は,湾曲水路の横越流公式の流量係数の検討に関する研究を行
い,曲率半径の影響を考慮した氾濫流量算定式の形式,とりわけ,流量係数の 形式をいくつか仮定し,その有効性を検討している.
10
𝐿𝐿/𝐵𝐵は横越流堰幅と水路幅に関する無次元パラメータ,1− 𝑊𝑊/𝐿𝐿は横越流堰形
状に関する無次元パラメータ,𝐹𝐹𝐹𝐹は水路を流れる流体の無次元パラメータ,
1− 𝐵𝐵/𝑅𝑅は曲率半径に関する無次元パラメータである.
(5) 蛇行河川での溢水・越水氾濫流量とその予測
秋山ら 4)は,蛇行河川における溢水及び越水氾濫流量の横越流特性に関する 研究を行い,模型実験及び本間公式と河道・氾濫原包括解析に基づき考察し,
本間公式に横越流量特性を考慮した氾濫流量公式の開発とその予測精度の検証 を行っている.
以上のように直線河道における横越流に関する研究は多くなされており,越 流公式も実用化されている.しかし,湾曲水路や蛇行河川における研究例は少 なく,実用的な流量を提示するためには更に多くの知見を蓄積する必要があ る.そこで,本研究では,実河川の水理模型実験及び湾曲部をモデル化した基 礎水路実験により,横越流に関する水理機能を評価するとともに,施設計画や 設計等の実務レベルで適用しうる横越流量算定公式の検討を行い,提案するも のである.
1.5 論文の構成
本論文の構成を以下に示す.
1章では,序論として,本研究の背景,目的,既往の研究,論文構成を示 す.
2章では,越流堤形状と流量係数に関する検討について,既往の実験結果よ り整理を行い,越流効率の高い形状を示す.
3章では,過去に実施した河川水理模型実験の結果を整理し,直線河道と湾 曲河道での越流量の違いや要因を分析する.
4章では,単一矩形断面での基礎水路実験により,直線水路と湾曲水路での 越流量の違いを分析する.また,適用範囲の拡充を目的として,基礎水路形状 を再現した準三次元解析を行い,曲率半径が異なるケースの公式を提案する.
5章では,3章で整理した実際の河道を再現した水理模型実験等での河道湾 曲部の横越流量の流量と4章で考案した流量公式から算定した流量を比較し,
公式の検証を行う.
6章では,以上を結論としてとりまとめ,また,今後の課題と展望について 論じた.
12
論文構成 一覧
第1章 序論 1.1 研究の概要 1.2 研究の背景 1.3 本研究の目的 1.4 既往の研究 1.5 論文の構成
第2章 越流堤形状と流量係数に関する検討
2.1 はじめに
2.2 越流堤形状と流量係数に関する検討 2.3 まとめ
第3章 河川水理模型実験での横越流量の検討
3.1 はじめに
3.2 従来の横越流公式による横越流量と河川水理模型実験での横越流量 3.3 まとめ
第4章 基礎水路実験及び解析による横越流量に関する研究 4.1 はじめに
4.2 研究概要
4.3 直線基礎水路実験 4.4 湾曲基礎水路実験 4.5 湾曲基礎水路解析
4.6 水路湾曲部の横越流堤の流量公式の検討 4.7 まとめ
第5章 河道湾曲部の横越流量の流量公式の検証
5.1 はじめに
5.2 実河道水理模型実験による横越流量の流量公式の検証 5.3 まとめ
第6章 結論
6.1 本論文の結論 6.2 今後の課題と展望
【参考文献】
1) 土木学会,水理公式集,[平成11年版],pp.250-251 2) 土木学会,水理公式集,[2018年版],pp.404-405
3) Willi H. Hager: Lateral Outflow Over Side Weir, J. Hydraulic Engineering, ASCE, Vol. 113, No.4, pp.491-504, 1987.
4) De Marchi,G.: Essay on the performance of lateral weirs, L'Energia Elettrica, Milan, Italy, Vol.11, pp.849-860, 1934.
5) 中川博次,中川修:横越流堰の越流特性について,京大防災研究所年報,
1971,第 11号B,pp.249-265.
6) 室田明,福原輝幸,鋤田義浩:横越流堰の越流量の評価に関する研究,土木 学会論文集,1985,第363号/Ⅱ-4,pp.249-252.
7) 秋山壽一郎,重枝未玲,津崎周平:蛇行河川での溢水・越氾濫流量とその予 測に関する研究:水工学論文集 第52巻,2008.2.
8) 朝位孝二,河元信幸:曲率半径を考慮した湾曲水路の横越流公式の検討,土 木学会論文集B1(水工学),Vol.72,pp.Ⅰ_577-Ⅰ_582,2016.
9) 朝位孝二,白水達也,河元信幸:湾曲水路における横越流箇所と横越流量特 性の関係に関する実験的研究,土木学会論文集 B1(水工学),Vol.73,No.4, pp.Ⅰ_709-Ⅰ_714,2017.
10) 朝位孝二,河元信幸,白水達也,白水元:湾曲水路の内側破堤と外側破堤の 流出特性に関する研究,土木学会論文集B1(水工学),Vol.74,No.4,pp.Ⅰ _637-Ⅰ_642,2018.
11) 流量公式集[2018年版]pp.398-403
12) 本間仁:低溢流堰堤の流量係数,土木学会誌,第26巻,6号,pp.635~645,
9号,pp.849-862,1940.
14
第2章 越流堤形状と流量係数に関する検討
2.1 はじめに
越流堤は,洪水調節の目的で堤防の一部を低くした堤防であり,その断面形 は,堤防と同様に台形の場合や都市河川のような矩形断面河道においては刃型 の場合もある.本章では,断面形と流量係数の関係について検討し,越流効率 の向上について検討を行った水理模型実験の結果を整理したものである.
2.2 越流堤形状と流量係数に関する検討
(1) 越流堤形状の決定の考え方
越流堤は,遊水地等の洪水調節施設と合わせて設計し,その基本設計段階に おいて,越流堤の延長,天端高,及び断面形状(以下,越流堤諸元)は,一次 元の不等流計算や不定流計算に越流公式を組み合わせて決定する.次の実施設 計段階において,水理模型実験等により検証を行い,最終的な越流堤諸元を決 定する.
越流堤の流況は横越流現象であり,越流水は河道の流れの影響を受けて越流 堤に対して平行に流れながら,本川下流側と遊水地側に流下する.この場合,
越流水は,越流堤天端上を越流堤に対し斜めに越流するため,所定の洪水調節 流量が得られない場合には越流堤長を延長する等の対応が必要となる.越流堤 の延長は事業費の増加につながるため,越流効率の向上が水理模型実験におけ る重要な改良点となる.
16 (2) 越流堤天端に小堤を設置した事例
表 2.1 は,越流堤表法肩部に突起を設けた越流堤形状の改良事例である.こ
れらの越流堤は,筆者等が所属する技術研究センターにおいて検討されたもの である1).
表 2.1 に示す越流堤の被覆工は全てコンクリート製であり,越流堤頂部の構
造も全てコンクリート製である.(a)は,法勾配1:0.5 のRC製越流堤の一部を 低くして法肩に台形の突起を設けた構造である.(b)は,幅 3.0m 管理用通路を 有する台形断面の越流堤である.この表法肩部に台形の小堤を有する構造とし ている.(c)は(b)と同様の構造であるが,小堤の高さが1.5mあり他の事例に比 べて高い構造となっている.小堤天端を円形とすることで,越流効率の向上と 越流堤天端へのなめらかな流入を狙った構造となっている.但し,周辺条件に より越流堤の天端幅が 32.5mであり,小堤が無い場合は広頂堰となり越流効率 が悪いことが推察される.
表 2.1 越流堤天端に小堤を設置した事例
越 流 堤
表法肩部に 設置した 小堤の断面形
(a) (b) (c)
構造形式 RC RC RC
全天端幅 1.0m 5.1m 32.5m 管理用通路 無し 有り(B=3.0m) 有り(B=3.0m)
本 川 諸 元
ピーク流量:Qu 63 m3/s 75 m3/s 2,410 m3/s 川 幅:B0 6.6 m 12.7 m 72.0 m 水 深:h0 2.7 m 5.0 m 10.0 m 河床勾配:Ib 1/100 1/2,000 1/430
(3) 流量係数の評価
表 2.2の𝐶𝐶1は,水理模型実験で計測された調節流量,越流水深,及び越流堤 長から式(2.2.1)によって逆算した値である.𝐶𝐶2は,越流堤(a),(b)を台形堰の 越流公式,(c)を長頂堰の越流公式により推算した値である.
𝐶𝐶1 =𝑄𝑄c/(B・h3/2) ... (2.2.1)
越流堤(a)は,越流公式による流量係数よりも 7%小さな流量係数となってい
る.越流堤(b)は,越流公式による流量係数を約 28%,越流堤(c)は約5%上回っ ている.𝐶𝐶1 が横越流における値であること,𝐶𝐶2 が正面越流を想定しているこ とから,越流堤天端の小堤が越流効率向上に有効であるといえる.また,越流 堤長短縮によるコスト縮減につながると考えられる.
表 2.2 流量係数
(a) (b) (c)
調節流量 ;Qc(m3/s) 3.20 17.40 50.30
越流水深 ;h(m) 0.33 0.33 0.52
越流堤長 ;B(m) 13.00 49.80 85.00
越流係数(1) ;C1 1.30 1.84 1.58 越流係数(2) ;C2 1.48 1.44 1.50 C1:調節流量による逆算値
C2:越流公式による推定値 越流堤
18 (4) 越流堤天端形状の改良効果
表 2.3は,図 2.1の越流堤(d)の逆算流量係数を比較したものである.越流堤
(d)は,台形断面と天端に小堤を有する断面形の2種類について水理模型実験を 実施している.天端小堤の流量係数は,台形断面の1.34倍となっている.越流 水深と流量係数が一定条件とすると,台形の越流堤が天端小堤と同じ調節流量 となる越流堤長は,134mとなる.即ち,越流堤天端部の改良により越流堤長が 約26m短縮され,コスト縮減に寄与したといえる.
表 2.3 越流堤天端形状と流量係数
図 2.1 越流堤(d)の断面形
台 形 法肩小堤 調節前流量 ;Qu(m3/s) 196.0 196.0
調節流量 ;Qc(m3/s) 54.0 103.6
越流水深 ;h(m) 0.6 0.6
越流堤長 ;B(m) 70.0 107.6
越流係数(1) ;C1 1.51 2.02 越流堤 (d)
(5) 越流堤周辺の流況
図 2.2 は,越流堤(d)の水理模型実験における越流堤周辺の流況写真である.
写真手前が下流,左側の本川から右側の遊水地に越流している.台形の越流堤 は,本川に平行な流れが越流堤天端で卓越し,可視化染料が本川を流下してい る.一方,法肩小堤では,小堤を超えた流水が遊水地側に流入しており,本川 に対して横断方向の流れの形成が見られる.
図 2.2 越流堤周辺の流況(左:台形せき,右:法肩小堤)
20 (6) 越流堤形状と流量係数
ここで,正面越流での越流堤形状と流量係数について整理する.正面越流堤 については多くの研究や検討がなされおり,その特性値である流量係数につい ても,本間 2)らが提案した実験式が示されている.これらの式や実験結果より 流量係数を算出した形状図と流量係数を図 2.3 に,また,算定式等を図 2.4 に 示す.
図 2.3 越流堤形状と流量係数
このように,堤防形状で流量係数に差が生じるということは,同じ水位でも 越流量に差が生じることを意味しており,例えば,半円形では台形に比べ35%
増の越流量になる.つまり,堤防形状を変え,流量係数を変えることで,遊水 地の越流堤長を短くしコストを減じたり,越流堤高を高くし調節容量を増やし たりする効果を期待できる.
台形
流量係数C=1.37
矩形
流量係数C=1.55
半円形 流量係数C=1.85 狭頂形
流量係数C=1.80
図 2.4 越流堤形状と流量係数の算定
越流堤形状と越流係数 越流水深 h= 0.2 m
越流堤高 W= 2.6 m
台形堰
天端幅 L= 1.00 m
越流水深 h= 0.2 m
堰高 W= 2.6 m
h/L= 0.2 h/L<1/2,m1=0~1/3,m2=2/3付近
越流係数 C= 1 . 37 = 1.24+1.64(h/W)
長方形堰
天端幅 L= 1.00 m
越流水深 h= 0.20 m
堰高 W= 2.6 m
h/L= 0.20 h/L<1/2,m1=m2=0
越流係数 C= 1 . 55
刃型堰( 狭頂堰)
天端幅 L= 0.10 m
越流水深 h= 0.20 m
堰高 W= 2.6 m
h/L= 2.00 h/L≧1.5~1.9
越流係数 C= 1 . 80 = 1.785+0.237(h/W)
二次元標準越流頂
越流水深 h= 0.20 m
堰高 W= 2.6 m
流量 Q= 100.0 m3/s
越流堤長 B= 150 m
流速 V= 3.333 m/s
速度水頭 hv= 0.567 m
全水頭 hd= 0.767 m =h+hv
曲率半径 R= 0.71 m =0.920hd
越流係数 C= 1 . 85 = 1.704×(1+0.648H/R)^0.5
22 2.3 まとめ
本章では,台形の越流堤形状に比べ,天端に小堤(狭頂形や半円形)を設置 した越流堤形状が越流効率の向上,事業コスト縮減の手段となり得ることを示 した.従来通りの天端平場も確保し,維持管理上のスペースも確保しうる.ま た,越流堤形状と流量係数の関係を示し,越流堤形状に対する越流量に対し定 量的に評価しうる指標を示した.
特に,正面越流に対し,横越流は本川の流向の影響を受け,また,越流水深 も小さいことが多いため,越流堤形状を工夫することで越流効率を向上させら れる.また,河道湾曲部では本川に 2次流が形成されるため流向の影響により 横越流量が変化すると考えられる.次章では,湾曲部を含む河道の河川水理模 型実験についての検討結果を示し,直線水路での横越流公式による横越流量と 湾曲水路(河道)での横越流量に関する検討を行う.
図 2.5 越流効率が高く維持管理を考慮した越流堤形状の例
越流効率の高い
越流堤形状 維持管理上の
スペースの確保
河 道 遊水地
越 流 堤 堤 防
【参考文献】
1) 市山誠,石原正義,片山直哉:越流堤天端形状の改良による越流効率向上に関 する考察,土木学会第72回年次学術講演会pp.217-218,2017
2) 本間仁:低溢流堰堤の流量係数,土木学会誌,第 26 巻,6 号,pp.635~645,9 号,pp.849-862,1940.
24
第3章 河川水理模型実験での横越流量の検討
3.1 はじめに
ここでは,横越流量の計算値の精度検証を目的として,従来の横越流公式により 求めた計算値と実河川模型の実験値を比較し,どのようなケースで精度が高い,ま たは低いかを整理した.筆者所属部署で昭和60年代から実施している横越流に関す る水理模型実験のうち,常流の条件で,直線河道5件と湾曲河道10件の15件を抽出し,
次頁の表 3.1に示す.なお,図 3.2~図 3.4は,実河川データや設計条件を元に再
現した水理実験模型の写真であり,周辺の土地利用の制約条件より,湾曲部の外岸 側ではなく内岸側へ調節池を設置する事例もあることが分かる.
このように,実河川での遊水地等の流量調節施設の設計においては,水理模型実 験によりその施設形状諸元を設定することが多い.しかしながら,机上の水理計算 や水理検討のみで設計及び施工している施設において,流量調節機能として不十分 な事象も生じている.
本章では,前述のような実河川模型に基づく越流特性を整理し,既往の越流量算 出方法での計算値と実験値の乖離を明らかにするとともにその要因を分析する.
3.2 従来の横越流公式による横越流量と河川水理模型実験での横越流量
図 3.1に,表 3.1の実験諸条件より,室田らの式を用いて算定した横越流量の計
算値と計測した実験値を示す.なお,室田らの式は,直線水路及び刃形堰の実験に より導いた簡易実験式であり,主流が常流を条件としたもので,適用範囲は越流堤 長/水路幅L/B=3~9,堰高/水路幅W/B=0.25~0.6,越流していないときのフルード数 Fr0=0.1~0.4である.抽出した15件の実験は,実河道条件での水理模型実験であるた め,適用範囲外のケースも含まれる.今回,抽出した直線河道5件での相関が0.96と 比較的高いことに対し,湾曲河道10件での相関は0.60と低い結果であることからも 水路や河道の湾曲の平面線形が,横越流量へ大きく影響を及ぼすことが解る.
図 3.1 横越流量 計算値と実験値(室田らの式 刃形堰)
0 10 20 30 40 50 60 70
0 10 20 30 40 50 60 70
実験値Qc(m3/s)
計算値Qc'(m3/s) 直線河道
湾曲河道
直線河道R² = 0.9609 湾曲河道R² = 0.5958
26
表 3.1 実河川模型での実験諸元及び実験値と計算値
越流量 越流係数 定数 越流量 計算値
Qc Qc' /実験値
1/n B(m) L/B W/B (m) (m/s)H0(m) Fr L(m) T(m) W(m) 1:n 1:n ho(m)Q(m3/s)(m3/s) Qc/Q Cw b (m3/s)
1 15 300 直線 直線 12.70 1.57 0.17 2.34 2.07 0.40 0.43 20 円弧 2.15 0.5 1.5 0.19 49 3.1 0.06 0.10 0.136 2.4 76%
2 15 300 直線 直線 12.70 2.36 0.17 2.47 1.82 0.44 0.37 30 円弧 2.20 0.5 1.5 0.27 46 8.1 0.18 0.09 0.118 3.5 43%
3 15 300 直線 直線 9.80 2.55 0.22 2.47 2.84 0.68 0.58 25 円弧 2.20 0.5 1.5 0.27 66 5.6 0.08 0.07 0.115 4.4 79%
4 15 300 直線 直線 9.80 2.55 0.22 2.36 2.58 0.55 0.54 25 円弧 2.15 0.5 1.5 0.21 61 4.7 0.08 0.07 0.115 3.4 72%
5 25 1500 直線 直線 52.30 1.15 0.06 3.64 2.01 0.75 0.34 60 5.00 3.10 2.0 2.0 0.54 270 30.2 0.11 0.13 0.152 21.8 72%
6 20 900 直線 湾曲 26.15 2.29 0.10 3.19 2.43 0.97 0.43 60 1.00 2.53 0.5 0.7 0.67 156 61.8 0.40 0.09 0.120 22.0 36%
7 15 2000
湾曲 後の 直線
緩湾曲 25.20 1.59 0.20 5.33 1.88 0.51 0.26 40 0.50 5.00 0.5~2.0 2.0 0.33 75 17.4 0.23 0.12 0.136 7.6 44%
8 20 280 緩湾曲 緩湾曲 16.40 5.95 0.10 2.11 3.08 0.89 0.68 97.5 0.50 1.70 0.0 0.0 0.41 80 39.1 0.49 0.03 0.086 12.5 32%
9 20 270 緩湾曲 緩湾曲 10.40 9.13 0.16 2.02 2.56 0.65 0.58 95 0.50 1.70 0.0 0.0 0.32 50 19.3 0.39 0.03 0.074 6.6 34%
10 10 300 湾曲 直線 7.60 5.92 0.18 1.62 2.19 0.52 0.55 45 3.50 1.35 0.5 1.5 0.27 23 15.4 0.67 0.04 0.086 3.3 21%
11 20 240 湾曲 直線 31.20 1.92 0.13 4.80 2.58 1.08 0.38 60 3.00 4.05 2.0 3.0 0.75 260 60.0 0.23 0.10 0.127 29.6 49%
12 10 10000 湾曲 直線 15.10 2.65 0.16 2.81 1.47 0.52 0.28 40 3.00 2.40 2.0 2.0 0.41 35 20.5 0.59 0.09 0.114 6.1 30%
13 20 700 湾曲 直線 20.40 0.98 0.08 2.28 2.07 0.80 0.44 20 2.00 1.70 2.0 2.0 0.58 59 14.5 0.24 0.13 0.161 8.0 55%
14 15 1200 湾曲 湾曲 23.50 1.70 0.11 3.29 1.07 0.71 0.19 40 1.00 2.63 0.5 0.7 0.66 65 36.1 0.56 0.12 0.133 12.7 35%
15 15 150 湾曲 湾曲 19.80 5.05 0.09 2.00 3.24 0.79 0.73 100 7.66 1.75 2.0 3.0 0.25 93 18.2 0.20 0.04 0.091 10.9 60%
※ 赤字は計算値と実験値で50%以上の差が生じたケースを示す.
越流 水深 堤長/
川幅 上流
線形
計算値
堤長/
川幅 川幅 下流
線形 断面 形状
越流前 堤長 天端幅 高さ 流量
河道 部水 深
河道 部流 速
# 河床勾配 表法勾配 裏法勾配
河道条件
フルード 数 比エネル
ギー 模型
縮尺
越流堤形状 実験値
越流量 比率
図 3.2 実河川の水理模型実験の事例1 (M川:外岸越流)
図 3.3 実河川の水理模型実験の事例2 (Z川:内岸越流)
越流堤
越流堤
調節池
調節池 河道 河道
越流堤 調節池
遊水地B 河道
遊水地A 越流堤
河道
28 3.3 まとめ
以上を踏まえ,河川水理模型実験での横越流量についてまとめ,また,調節施設 計画・設計の検討においての留意点を以下に示す.
1) 直線河道の横越流量の計算値/実験値の比率は63~135%であり,実験断面形状に 近い矩形断面水路や都市河川かつ直線河道においては,室田らの式の適用がある 程度の範囲で期待できる.
2) 湾曲河道においては,横越流量の計算値/実験値の比率が20~113%とばらついて おり,同式での算定は困難と考える.
3) 特に,都市河川等での急激な水位上昇を横越流堤等の流量調節施設により制御す る場合,その精度が下流域の浸水被害に直接的に関わる.このため,これらの式 の適用範囲や精度を十分に理解した上で,施設形状の検討や設計に反映する必要 がある.
本検討結果より,水路湾曲部に設置される横越流堤の流量公式の精度向上を目的 として,直線及び湾曲基礎水路実験及び解析を行うものとする.
第4章 基礎水路実験及び解析による横越流量に関する研究
4.1 はじめに
本章では,直線基礎水路実験,湾曲基礎水路実験,湾曲基礎水路をモデル化した 準三次元解析を実施し,その結果より,横越流量に関する公式を提案するものであ る.
4.2 研究概要
本研究の概要を以下に示す.
直線基礎水路実験は,湾曲基礎水路実験を実施するにあたり,湾曲基礎水路と断 面形状,水路勾配,越流堰諸元,水理諸元等が同じ条件下における横越流量を計測 し,比較対照実験を目的として行うものである.
湾曲基礎水路実験は,上記の直線基礎水路実験に対し,水路の湾曲による横越流 量への影響量を把握することを目的として行うものである.
湾曲基礎水路をモデル化した準三次元解析は,上記の湾曲基礎水路実験を補完し,
水路の湾曲による横越流量への影響量を把握することを目的として行うものであ る.湾曲基礎水路実験と同形状の解析モデルにて同じ結果となるように同定した上 で,同解析条件にて,曲率半径の異なる湾曲水路モデルを用いて,横越流量を把握 する.
以上の,直線基礎水路実験,湾曲基礎水路実験,湾曲基礎水路解析の結果を総括 し,湾曲基礎水路の横越流量公式を提案するものである.
30
ここで,本研究での実験と解析の位置づけとして,水路幅曲率半径比B/Rと横越流 量の関係の概要図を次図に示し,以下にその考え方を述べる.
実験については,直線及び水路幅曲率半径比が大きいケースについて実施し,そ の補間ケースとして,準3次元解析を実施するものとした.解析モデルを同定するた め,実験と同条件のモデルについても構築し,横越流量等の結果が一致することを 確認した.解析による補間ケースについては曲率半径のみを変更したモデルを構築 し,その他の水位,流量,粗度係数等の条件は同じとして解析を行った.このよう に実験と解析を実施し,効率的に検証データを収集し,公式の検討へ反映するもの とした.
図 4.1 実験と解析の位置づけ
× × ×
水路幅曲率半径比 B/R
(直線)
0.0 0.5
0.4
(湾曲)0.2
0.1 0.3
横越流量 Q cu t
解析値 実験値
×
○
○
○
×
図 4.2 平面図 直線水路及び湾曲水路(曲率半径R=1.0,2.0m) 解析
実験及び解析
湾曲部 越流堰
湾曲部 越流堰
32
図 4.3 平面図 湾曲水路(曲率半径R=3.0,4.0m) 解析
解析 湾曲部 越流堰
湾曲部 越流堰
4.3 直線基礎水路実験
(1) 実験概要
本実験は,直線水路での横越流量を正確に把握し,湾曲水路との比較対照を 目的として実施するものである.
水路断面形状は矩形の単一断面,一定勾配の水路を用いて実験を実施した.
実験方法としては,水路側壁部に設置した刃形堰(天端幅 10mm)の長さ及び 流量の条件を変え,横越流量を測定し,算定式を考案するための基礎条件とし て整理した.
(2) 実験装置
実験装置は,貯水槽部・水路部・側壁部・横越流堤部・管路部により構成される.
実験装置の矩形水路部(水路長L=10m,水路幅B=0.40m,粗度係数 n=0.011,水 路勾配 i=1/1000,越流堤長 L=0.20,0.40,0.60,0.80m)は,図 4.4 及び図 4.5 に示すように直線部と湾曲部で構成され,水路下流端には水位調整ゲートを配 置する.なお,本直線水路実験では,湾曲部の上流側の直線区間を使用する.
当直線区間において等流水位となっており,かつ2 次流が生じていないことを 確認した上で実施した.
流量については,上流の供給流量は電磁流量計により,横越流堰での越流量 は流量検定堰(直角三角堰JIS B8302)により計測した.なお,水路下流端の水 深は,下流流量に応じた等流水深となるように水位調節ゲートにより調節する.
越流堰は,堰高 W=0.100m の1 形状,堰長 L=0.20, 0.40, 0.60, 0.80m の 4 形状とした.水路部は,河床・側壁とも木製(表面塗装)とした.
以上の実験装置を製作し,定常状態での水路部・横越流部での水深 h 及び水 路上流端での上流流量Qup と横越流部での流出流量Qcutを計測した.
34
図 4.4 実験水路(水路長L=約12m, 幅B=0.4m, 高さH=0.3m)
図 4.5 平面図 直線・湾曲水路(曲率半径 R=1.0m)
横越流堰(W=0.10m,L=0.2,0.4,0.6,0.8m)
(3) 実験条件
実験条件を,下表に示す.
堰長Lは0.20, 0.40, 0.60, 0.80mの4形状,堰高Wは0.100mの1形状,
流量 Q は30, 40, 50l/sの 3 流量を条件とした.下流端水位は,図 4.6 に示
す等流水位と流量の関係H-Qとなるように水位調節ゲートにより設定した.水 位の設定方法としては,越流量を計測し,上流流量と越流量の差分から下流端 流量Qを算出し,水位調節ゲートにより,H-Qの水位Hに合わせる.水位調節 ゲートを上下させることで,越流量が変化するため,下流端の水位と流量が,
図 4.6のH-Qに収束するまで複数回トライアルを行い設定した.
表 4.1 直線水路実験での実験条件
曲率 水路幅 堤長 堰位置 堰高 湾曲
R B L θ W 内外 15 20 25 30 35 40 45 50
1 ∞ 0.40 0.20 - 0.100 直線 - - - ○ - ○ - ○
2 ∞ 0.40 0.40 - 0.100 直線 - - - ○ - ○ - ○
3 ∞ 0.40 0.60 - 0.100 直線 - - - ○ - ○ - ○
4 ∞ 0.40 0.80 - 0.100 直線 - - - ○ - ○ - ○
No 流量Q(l/s)
36
図 4.6 等流水位と流量の関係 H-Q (下流端水位の設定)
0.000.01 0.020.03 0.040.05 0.060.07 0.080.09 0.100.11 0.120.13 0.140.15 0.160.17 0.180.19 0.200.21
0.000 0.010 0.020 0.030 0.040 0.050
h(m)
Q(m3/sec)
H-Q
(4) 直線基礎水路の実験結果と考察
本直線水路実験での上流流量と横越流量の関係を図 4.7 に示す.横越流量は 上流流量の 6~25%である.また,図 4.8 に比エネルギーΔH0と単位幅横越流量 Qcut/Lの関係を示す.越流堤長に係らず,横越流量は越流水深の比エネルギーの 1.5乗に比例することが分かる.
図 4.7 上流流量 Qupと横越流量Qcutの関係 0.000
0.005 0.010 0.015 0.020
0.020 0.030 0.040 0.050 0.060
Qcut(m3/sec)
Qup (m3/sec) L=0.80
L=0.60 L=0.40 L=0.20
38
図 4.8 比エネルギーΔH0と単位幅横越流量Qcut/Lの関係
ここで,室田らによる常流での横越流量に関する実験式(1)~(3)を示す.式(1) は横越流量を求める式である.式(2)はその越流量係数をフルード数との関係性 より,また,式(3)は式(2)の係数 b を越流堤長・水路幅比との関係性より求める 式である.
QW = CWL�2g(Ha-W)3 2⁄ ・・・(4.3.1) CW = a Fa+b ・・・(4.3.2)
b = k�L B�
n
・・・(4.3.3) k= 0.29,n= -0.70
ここに,QW:横越流量,CW:流量係数,L:堰長,B:水路幅,Ha,Fa:堰がない 状態での堰上端の比エネルギー及びフルード数,W:堰高,g:重力加速度,a,b, k,n:係数を示す.
図 4.9に越流堤長・水路幅比L/Bと係数bの関係を示す.ここで,係数bは式
y = 0.8043x1.5375 y = 0.6187x1.5352 y = 0.4975x1.5358 y = 0.3244x1.4232
0.001 0.01 0.1
0.01 0.1
Qcut/L (m3/sec)
比エネルギー ΔH0=Δh0+V02/2/g(m)
L=0.20 L=0.40
L=0.60 L=0.80
3
2
(2)に示すとおり,流量係数 CWとフルード数Faの関係において切片を示し,ま た,式(3)に示すようにL/Bと線形関係にある.
本実験は,室田らの実験範囲での同比 L/B=3~9 より小さい 0.5~2 の範囲で 行っており,同係数 b は 0.16 と従来の 0.29 に比べ小さいことが分かる.つま り,同式の適用範囲である 3~9 より小さい範囲では式の見直しが必要である と言える.
図 4.9 越流堤長・水路幅比L/Bと係数bの関係
ここで,室田らの式による横越流量の計算値と実験値を図 4.10に示す.越流 量が大きくなるほど,横軸の計算値が大きくなり,縦軸の実験値と乖離してい ること分かる.
そこで,従来の係数 b に関して,横越流量の計算値と実験値を一致させるよ うに従来のk及び nをk=0.16,n=-0.35に見直した.その結果をグラフにプロッ トしたものが図 4.11 であり,計算値と実験値がよく一致していることが分か
y = 0.29x-0.70 y = 0.1577x-0.3380
y = 0.1612x-0.3262 y = 0.1586x-0.3570
0.01 0.1 1
0.1 1 10
係数b
越流堤長/水路幅比L/B
実験値及び計算値(室田ら) 実験値Q1=0.030
実験値Q2=0.040 実験値Q3=0.050
L/B=3~9 L/B=0.5~2
y = 0.16x-0.35
40
図 4.10 直線水路での横越流量の計算値と実験値(従来式)
図 4.11 直線水路での横越流量の計算値と実験値(修正式)
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1011121314151617181920 Qc_exp_S(10-3m3/sec)
Qc_cal_S(10-3m3/sec) L=0.80,R=∞
L=0.60,R=∞
L=0.40,R=∞
L=0.20,R=∞
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1011121314151617181920 Qc_exp_S(10-3m3/sec)
Qc_cal_S(10-3m3/sec) L=0.80,R=∞
L=0.60,R=∞
L=0.40,R=∞
L=0.20,R=∞
4.4 湾曲基礎水路実験
(1) 実験概要
本実験は,湾曲水路での横越流量を正確に把握することを目的として実施す るものである.
水路断面形状は矩形の単一断面,一定勾配の水路を用いて実験を実施した.
実験方法としては,水路側壁部に設置した刃形堰(天端幅 10mm)の高さ,長 さ,位置及び流量の条件を変え,横越流量を測定し,算定式を考案するための 基礎条件として整理した.
(2) 実験装置
実験装置は,直線水路実験と同様,貯水槽部,水路部,側壁部,横越流堤部,
管 路 部 に よ り 構 成 さ れ る . 実 験 装 置 の 矩 形 水 路 部 ( 水 路 長 L=10m, 水 路 幅
B=0.40m,粗度係数 n=0.011,水路勾配 i=1/1000,湾曲角度 90°,水路中心の曲
率半径1.0m,越流堤長L=0.20,0.40m,越流堤位置15°,45°,75°)は,図 4.12
及び図 4.13に示すように直線部と湾曲部で構成され,水路下流端には水位調整
ゲートを配置する.流量については,上流の供給流量は電磁流量計により,横 越流堰での越流量は流量検定堰(直角三角堰JIS B8302)により計測した.なお,
水路下流端の水深は,下流流量に応じた等流水深となるように水位調節ゲート により調節する.越流堰は,堰高W=0.050,0.075,0.100mの3形状,堰長L=0.20,
0.40mの2形状とした.水路部は,河床・側壁とも木製(表面塗装)とした.
以上の実験装置を製作し,定常状態での水路部・横越流部での水深 h 及び水 路上流端での上流流量 Qupと横越流部での流出流量Qcutを計測した.
42
図 4.12 実験水路(水路長L=約12m, 幅B=0.4m, 高さH=0.3m)
図 4.13 平面図 直線・湾曲水路(曲率半径R=1.0m)
水路中心の 曲率半径
R=1.0m 水路幅B=0.4m
越流堰 越流堰
(3) 実験条件
実験条件を,下表に示す.
曲率半径 R は 1.0m,堰長 L は 0.20, 0.40m の 2 形状,堰高 W は 0.050, 0.075, 0.100mの3形状,流量 Qは越流量に応じて15, 20, 25, 30, 35,
40, 45, 50l/sの6~7流量を条件とした.下流端水位は,直線水路実験と同様
に,図 4.14 に示す等流水位と流量の関係 H-Q となるように水位調節ゲートに
より設定した.水位の設定方法としては,越流量を計測し,上流流量と越流量 の差分から下流端流量Qを算出し,水位調節ゲートにより,H-Qの水位Hに合 わせる.水位調節ゲートを上下させることで,越流量が変化するため,下流端 の水位と流量が,図 4.14 の H-Qに収束するまで複数回トライアルを行い設定 した.
表 4.2 湾曲水路実験での実験条件
曲率 水路幅 堤長 堰位置 堰高 湾曲
R B L θ W 内外 15 20 25 30 35 40 45 50
1 1.00 0.40 - - - 堰無 - - - ○ - ○ - ○
2 1.00 0.40 0.40 45 0.050 外岸 - - - ○ - ○ - ○
3 1.00 0.40 0.40 45 0.075 外岸 - - - ○ - ○ - ○
4 1.00 0.40 0.40 45 0.100 外岸 - - - ○ - ○ - ○
5 1.00 0.40 0.20 15 0.050 外岸 ○ ○ ○ ○ ○ ○ - -
6 1.00 0.40 0.20 45 0.050 外岸 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ -
7 1.00 0.40 0.20 75 0.050 外岸 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ -
8 1.00 0.40 0.20 15 0.075 外岸 - ○ ○ ○ ○ ○ ○ -
9 1.00 0.40 0.20 45 0.075 外岸 - ○ ○ ○ ○ ○ ○ -
10 1.00 0.40 0.20 75 0.075 外岸 - ○ ○ ○ ○ ○ ○ -
11 1.00 0.40 0.20 15 0.100 外岸 - - ○ ○ ○ ○ ○ ○
12 1.00 0.40 0.20 45 0.100 外岸 - - ○ ○ ○ ○ ○ ○
13 1.00 0.40 0.20 75 0.100 外岸 - - ○ ○ ○ ○ ○ ○
No 流量Q(l/s)
44
図 4.14 等流水位と流量の関係 H-Q (下流端水位の設定) 再掲
0.000.01 0.020.03 0.040.05 0.060.07 0.080.09 0.100.11 0.120.13 0.140.15 0.160.17 0.180.19 0.200.21
0.000 0.010 0.020 0.030 0.040 0.050
h(m)
Q(m3/sec)
H-Q
(4) 湾曲基礎水路の実験結果と考察
本実験における非越流時の湾曲区間を拡大した水深縦断図を図 4.15 に示す.
横越流堰を設置せず横越流が生じていない場合では,湾曲区間において外岸側 の水位・水深が上昇し,内岸側では低下していることが確認できる.湾曲区間 の水位上昇・低下量が横越流量へ影響すること,また,堰の設置位置(上下流)
により横越流量が変化することが考えられることから,湾曲区間の水位につい ての推定式を検討した.常流での湾曲区間の水位上昇量(最大値)は,式(4)によ り求めることができる.
∆hx=BvgR2 1-(0.5B/R1 )2 ・・・(4.4.1)
ここに,∆h:水路内外岸の水位差,B:水路幅,v:流速,R:水路中心の曲率 半径
一方,図 4.15に示すように湾曲下流端から徐々に水深は上昇し湾曲上流端に
かけて低下していることが分かる.そこで,位置による水位上昇量∆h(θ)の推定 式(5)を考案し,実験値(同図のマーク○◇×)と推定値(同図のライン)がほ ぼ一致することを確認した.
∆h(θ)=∆h𝑥𝑥 �cos�π θ θm��
0.2
・・・(4.4.2)
ここに,θ:中心からの変化角度,θm:湾曲全角度を示す.
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図 4.15 水位縦断図(横越流堰なし)
10 15 20 25
4 5
6 7
水深h(cm)
縦断距離(m) 水深Q=50l/sec
水深Q=40l/sec 水深Q=30l/sec
湾曲区間
+45° +30°+15° 0°-15°-30°-45° 外岸側 内岸側 中 心
図 4.16 上流流量 Qupと越流量Qcutの関係(堰高 W=0.050m) y = 0.003x2 + 0.0877x - 0.0067
R² = 0.9977
y = 0.0011x2 + 0.2164x - 1.6838 R² = 0.9996
y = 0.0014x2 + 0.1903x - 1.1513 R² = 0.9996
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
Qcut(10-3m3/sec)
Qup(10-3m3/sec)
Qup-Qcut W=5.0 θ=15,45,75°
W=5.0,θ=15° W=5.0,θ=45° W=5.0,θ=75°