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授業実践報告:「知識と対策」で聴くリスニング Effective Strategies for Successful Listening

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授業実践報告:「知識と対策」で聴くリスニング

Effective Strategies for Successful Listening

數見 由紀子

Kazumi, Yukiko

Abstract

This brief report describes an English listening course which focused on helping students broaden their knowledge of vocabulary and grammar, as well as the English phonetic system in order to help them increase their listening ability. It also stressed the importance of sentence structure, offering suggestions on how to utilize the students’ existing knowledge as an effective strategy for successful listening.

1. はじめに

本稿は筆者が金沢大学共通教育科目の「英語I(リスニング)」として行った授業の実践報告である。

この授業では、音声以外の側面の重要性を意識した書きとりをとおして、日本語話者に共通の傾向や その対策を受講者に身につけてもらう。時間をかけた書き取りのなかでこうした知識と対策の効果を 実感させ、将来的にはリアルタイムの聴解への発展を目指す。

以下、2節でリスニングに関わるさまざま側面について述べ、3節で授業の概要、4節では授業で行 った三つの書きとり形式を紹介する。5節では音声以外の言語的側面に関する対策、6節では英語音声 に関する対策をそれぞれ具体的に述べる。7節では学習意欲を維持するための工夫に触れ、8節では今 後の改善の可能性を探る。

2. 総合学習としてのリスニング:「音」を正確に聴きとれなくても「ことば」は聴きとれる

リスニングが苦手という学生は、英語の音を正確に聴きとれないことが原因であると考えているこ とが多い。たしかにそれも大きな要因ではあるが、話し言葉の理解には、外国語でも母語でも、音声 以外にさまざまな要素が関与している。一連の音声を聴いて内容を理解するには、文法や語彙などの 言語的な知識はもちろん、発話の背景や文脈、話し手の特徴や傾向、さらにそれに基づく推測や予測、

想像力なども深く関わってくる。言い方を変えれば、音を正確に聴きとれなくても、他の側面から多 くの部分を補えるということである。反対に、音を聴きとれても(あるいはそっくり再現できても)

それが英語として捉えられなければ聴解には不十分である。

ここで報告する授業は、リスニングにおける音声以外の側面の重要性を学生にまず認識してもらう ことから始まる。おおまかな道筋として、リスニングのイメージを「音を正確に聴きとる」から「音 以外の情報を最大限に活用して聴く」へ切り替えてもらい、そのうえで具体的な対策を示していく。

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こうしたイメージの切り替えについて以下で具体的に述べる。

2-1. 言語以外の側面に注意を向ける

授業では、音声以外の側面のうち、背景となる知識やいわゆる「常識」などの重要性についても適 宜言及する。こうした情報により話し手が話す内容を予測しやすくなることを伝えると同時に、教材 にニュースを用いることから、日頃から社会情勢について関心を向けるように促す。試験では、時勢 を反映した内容を取り上げ、ヒントとなるキーワードを意図的に含めて出題することもあるが、日本 で報道されている内容であっても、キーワードがヒントとして生かされないことも多い。返却の際、

ニュース内容を初めて知った学生に驚きの反応が起きることも多い。リスニングの準備態勢を整える ために、こうした一般的な情報への関心を刺激することがまず必要となる。

2-2. 音声以外の言語的側面に注意を向ける

つぎに、文法や語彙などの音声以外の言語的側面に着目させる。これらが知識としてではなく、す ぐに使える実践的な文法力や語彙力である必要性も強調する。こうした側面を考慮した具体的な対策 については5節で述べる。

ここでは、これらの側面に注目させるために授業で取り入れている方法について紹介する。瞬時に 判断する聴き方や限られた回数だけ聴く方法では、習熟度によって、学習者のもつ文法や語彙の知識 が反映されにくいことがある。そのため、後述する課題と試験では、十分な時間をかけて音声以外の 側面も考慮しながら一語一句を書きとる方法を取り入れている。聴きとったものを整理する段階を設 け、文脈や文構造から抜けている箇所を推測するなどして音声全体を書きとる形式を、ここでは仮に

「スロー(slow)・リスニング」と呼ぶことにする。「スロー・リスニング」では、辞書で綴りを調べ たり、聴きとれなかった箇所を再度聴いて確認することもでき、文法知識の効果的な活用や複数の可 能性を検討することも容易である。

2-3. 音声的に弱い部分に注意を向ける

英語は文アクセントによるハイライトが比較的明確で、キーワードを聴きとることはそれほど難し くない。それもあってか、ある程度の長さの英語を聴いてキーワードを拾い、それらを組み合わせて 大意を推測する練習は広く行われているようだ。この方法は内容理解の面で効率がよく、学習者にも 大意がわかることで安心感が得られる利点がある。(この授業でも、ニュース全体の概要の推測ではこ の方法を勧めている。)

しかしこの方法では、文中で相対的に弱く目立たない機能語は取り残されやすい。機能語には句や 文の構造を示す前置詞、接続詞、関係詞のほか、指示関係を示す代名詞が含まれ、文を復元するため の重要な情報源である。そのため、機能語をしっかり押さえられなければ、キーワードから大意が理 解できても、細部に関しては「消化不良」の状態に陥る可能性がある。

この授業では、「スロー・リスニング」で音声全体を書きとるトレーニングを行い、音声的に弱い部 分に意識を向けさせる。実際に、よく使われる助動詞の連続(have beenなど)の音形に慣れるだけ

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でも、文の形が見えやすくなり、リスニングが格段にしやすくなる。

3. 授業の概要

ここで授業の概要を簡単に紹介する。授業の重点は、リスニングに対する学生の意識の変化を促す ことと、学生がさまざまな対策を試しながら英語を正確に聴きとるまでのプロセスを体験することに ある。リスニングの素材にはニュースの音声を用いるが、その理由は、ニュースが原稿を基にしてい ることと発音が明瞭なことにある。母語話者が自然なスピードで話す英語は、学習者にとって聴きと りにくいことが多く、自然な発話では言い直しなどで文の形が整っていないこともある。その意味で、

ニュース音声はリスニングの練習に適した素材であると筆者は考えている。

授業では4節で述べるように、複数の書きとり形式を取り入れ、音以外の情報も取り込んだ総合的 なリスニングのトレーニングを行う。授業期間中に飛躍的にリスニング力を向上させるというより、

学生が自分の傾向を知り、将来的に活用できる対策を身につけることを目指している。

学習目標としては次の3点を設定している。

(1) 音声の情報に加えて、語彙や文法の知識、想像力や推理力などを駆使しながら英語を聴けるよ うにする。

(2) 自然な速さで話される英語の音声イメージをつかみ、実践的なリスニングの力を伸ばす。特に、

文中で相対的に弱く短くなることの多い機能語の音形に慣れ、句や文の構造を復元できるように する。

(3) イギリス英語の音声特徴をアメリカ英語と対比しながら学び、地域による違いに対応できるよ うにする。

厳密なスクリーニングは行わないが、第1週のガイダンスでニュース音声を数回聴かせ、その段階で 内容を理解できた学生には上級の授業を勧めている。

教材は、BBCのニュースが収録されたDVDが付属するBBC - Understanding the News in English Sakae Onoda & Lucy Cooker編著 (金星堂)を使用している。(この教材は同じタイトルのシリーズで 毎年新しい号が出版されており、筆者は毎年、その年の最新号を用いている。)

授業では毎回ニュースを一つずつ取り上げている。授業の準備として、ニュース音声(約15秒)を 書きとる課題とニュース全体(2-3分)の概要の推測を課している。毎回、課題の提出と小テストがあ り、このほかに試験を2回実施する。

授業の進め方は基本的に次のとおりである。

(1) 課題の回収、前の回の課題・小テストの返却 (2) 前の回の課題・小テストに関するフィードバック (3) 課題の範囲の音声に関する情報交換(ペア/グループ)

(4) ニュースのビデオ視聴、概要の確認

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(5) 聴きとりのポイントの解説、小テスト

(6) 課題の範囲以外の音声の聴きとり練習(ペア/グループ)

成績評価は総合点(課題・小テスト・試験の得点の合計)に基づく評価で、内訳は以下のとおりで ある。

課 題:20%(4点満点×10回=40点)

小テスト:20%(4点満点×10回=40点)

試 験:60%(60点満点×2回=120点)

合 計:200点満点

4. 形式の異なる三つの書きとり

授業では、少しずつ形式の異なる三つの書きとりを課題・小テスト・試験として行っている。この うち、課題と試験は「スロー・リスニング」形式で、小テストは回数を限って聴く形式である。形式 に幅をもたせることで、学生の好みや習熟度のばらつきにある程度対応できるよう工夫した。それぞ れの詳細を以下で述べる。

4-1. 課題:できるだけ多く書きとる/カタカナ表記も可

毎週提出してもらう課題は典型的な「スロー・リスニング」形式で、音声を文字や記号で記録する トレーニングである。聴いた音声をできるだけ抜けのないように書きとることで、音声的に弱い部分 への意識を高めることが主な目的である。手順は以下のとおりである。

(1) テキスト付属のDVDを用いて、ニュースの冒頭15秒程度の音声を書きとる。

(2) 下書きを整理してから清書し、テキストを参照して書きとった内容を確認・訂正する。

(3) 追加・訂正した箇所を中心に、指定範囲の音声を再度聴いて確認する。

この作業がきちんと行われていれば、書きとられた内容の正確さにかかわらず満点(4点)を与える。

ただし、できるだけ多く書きとることを重視するため、空白が多い場合は程度により減点対象とする。

また、書きとれない場合にどのくらいスペースを空ければよいかの判断にも英語の力が反映される傾 向があるため、適切なスペースを確保することも大事な練習であると考えている。

課題は試験に向けたトレーニングでもあるため、細部に注意を向け、文構造なども考えながら丁寧 に聴くことを推奨する。確認の段階の分析をとおして、学生が徐々に自分の傾向を知ることを最終目 標とする。

書きとり作業については次のようなアドバイスを与えている。

(a) 綴りが不確かな場合→辞書を活用して調べる

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(b) 適当な英語が思いつかない場合→音声記号やカタカナで記入する (c) 句や文にならない場合→ 文の構造を考慮して推測しながら再度聴く

(a)の辞書の活用については、知っている語の綴りを確認するだけでなく、未知の語を音から推測する ことも含まれる。(b)のカタカナや音声記号の使用は、英語として書きとれない場合にも空白を残さず、

できるだけ音声全体を記録してもらうための工夫である(たとえば、語全体が不明で[p]のみが聴きと れた場合、その位置に[p]を書き留めておく)。 (c)の文構造の推測は、文が成り立つために必要な要素 を考えるトレーニングである。

4-2. 小テスト:ポイントを設定して聴く/第二候補まで記入可

作業自体を評価して「努力点」を与える課題に対し、小テストは「実力テスト」の位置づけである。

形式も1語ずつの空所補充型とし、変化をつけている。課題と違って英語しか記入できないが、辞書 使用可としている。配点は4点満点(1語1点で4問)である。

小テストの大きな特徴は、日本語話者に共通する傾向や聴きとりにくいポイントを教員が解説して から、これに焦点を絞って聴きとりを行う点である。これにより受講者の目的意識を高めると同時に、

説明の理解とそれを応用する練習の機会にもしている。1回に二つの聴きとりのポイントを取り上げ、

一方を復習、もう一方で新しい項目を扱う。

小テストでは答案を「第二候補」まで記入できる形式をとっている。一つの語に解答欄を二つ設け、

候補を一つに絞れない場合は第二候補も記入してもらう。第一候補と第二候補に採点上の区別はなく、

どちらか一方が合っていれば得点を与える。(この形式の導入のきっかけは、解答欄外に消されずに残 っていた語である。筆者にも、迷った末に書いた答えが間違いで、書かなかった方が正解だった、と いう経験が何度もある。)

「第二候補」記入形式は学生の心理的負担を減らすための工夫であったが、教員にとっても大きな 利点が二つあることがわかった。一つは、学生が迷っている点を知ることができることで、もう一つ は、複数の候補を考慮しやすくなることである。実際には、綴りがあやふやな場合に2通りの綴りを 書くなど、本来の意図とは異なった使い方をする学生もいるが、複数の可能性を探ることが将来的に は適応性や柔軟性を高めることにつながると考え、この形式を継続している。

4-3. 試験:はじめて聴くニュースを書きとる/英語のみで第一候補に絞って記入

学期中に2回行う試験は、課題と小テストをとおして身につけた力を発揮する機会であると同時に、

集中して取り組める貴重な学習機会でもある。この機会を最大限に生かすために、素材は授業で扱っ ていないニュース(試験日の1週間以内のもの)を用いる。初めて聴くニュースを使うことで、実際 に運用できる力を測りやすくなる。試験のコンセプトは、学生が自らの力でニュース内容を「勝ち取 る」ことである。

素材は、BBC のニュースから一般的な話題(戦争、犯罪、事故、特定の文化・宗教、政治に関わ ることは避ける)で、適度な速さで発音の明瞭なものを選択する。課題と同様の「スロー・リスニン

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グ」形式で、ニュースの冒頭部分(15秒程度)のうち、指定箇所(23箇所に分割、計33語程度)

を書きとってもらう。身体的なストレスを考慮し、時間は60分に制限してある。ニュースを録音した カセットテープと簡易プレーヤーを人数分用意し、受験者が自分のペースで音声を聴くことができる ようにしている。

授業で焦点をあてたすべての項目を網羅することはできないが、後述の日本語母語話者に共通する 傾向はニュースのトピックにかかわらず頻繁に現れるため、学生が身につけた成果を試す機会として は十分に機能していると考える。

試験中は辞書の活用を推奨している。これには主に二つの目的がある。一つは既知の語について綴 りを確認させるためである。綴りに関しては、間違って覚えたまま気づかずに使い続ける場合も少な くないが、試験の設定語数は33語程度のため、1語ずつ綴りを確認するよい機会となる。もう一つは、

音形から未知の語を探す練習である。文脈や文法知識を駆使して推理する聴き方を促進し、和英辞書 の活用も促す。これまでに、householderやbinge drinkingのbingeなど、試験前には知らなかった 語を学生が探りあてた例がある。

配点は1語を2点とし、60点を上限とする(10%ほどの余裕をもたせた語数を設定しているため、

実際の点数は60点を超える可能性もある)。元の語がわかる程度の綴りの間違いや、「本体部分」(辞 書掲載形)と「付属部分」(活用語尾、三単現の-s、複数語尾の-sなど)のうち「本体部分」が合って いる場合などは1点を与える。音声面や日本語話者の傾向を配慮した基準も設けている。たとえば、

定・不定の区別が困難な場合が多いため、aとtheは入れ替わっていても1点を与えるのがその一例 である。また、派生的に関連がなくても日本語話者からみて音声的に似ていると思われる語には部分 点を与える場合もある。

5. 音声以外の言語的側面に関する「知識と対策」:音に依存せず広く情報を活用する

この節では、音声以外の言語的な側面(文法や語彙の知識など)に着目させるために授業で行って いる方法をいくつか紹介する。

5-1. 前置詞の推測:動詞や名詞句との関係に着目させる

前置詞の聴きとりは、音声以外の情報を活用させるトレーニングとして効果的である。英語では強 調や対比などで強く発音される場合を除き、前置詞は文中で相対的に弱くなり、いわゆる「弱形」と 呼ばれる音形となる。特に1音節の前置詞は母音が弱化すると語全体の音の情報が少なくなり、日本 語話者の耳には音の「かけら」のように感じられる。このため、音を正確に聴きとっても、音形の似 ている前置詞の識別が難しい場合がある(たとえばofとforなど)。2音節以上であっても、母音で始 まる前置詞は、母音が前の語に「吸収」されてしまい、聴きとりにくくなることもある(たとえばin やonなど)。

授業では、こうした音声面からみた前置詞の特徴を説明し、音声以外の情報を活用した聴きとりを 提案する。小テストで、動詞との関係や前後の名詞句とのつながりに注目させながら、可能な前置詞 を最初に予想させる。特に自動詞については、depend onやlisten toのように後続する前置詞に一定

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のパターンがあることが多く、それを学生に意識させることは文法面の基礎固めにもなり、辞書の活 用を促す機会ともなる。また、名詞句をつなぐ前置詞の役割に着目させることは、句の構造を考える 練習になる。

5-2. 文法知識の活用:文の構造と動詞の型を再確認させる

文法としては当然の知識であっても、リスニングという観点から捉え直すと、それが新たな意味を もつことがある。たとえば、英語の平叙文が「主語+(助動詞+)動詞」という基本的なパターンで 始まるという簡単な事柄であっても、音に集中している最中は忘れられ、意識されないことがある。

課題や試験では、書きとったものを整理して文の形に復元する段階を設け、文の構造を意識させる。

これにより、それまで個別に書きとられていた情報も文の要素として見直され、つじつまの合わない 部分や欠けている部分が明らかになる。その後に改めて音声を聴くと、ある程度の予測が働き、聴き とりやすくなる効果がある。授業中に「ここは動詞がないとおかしい」、「ここは名詞のはず」という 声が聞こえてくるようになれば、あとは時間の問題である。こうしたトレーニングを繰り返すことで、

理想的には音声を聴きながらこうした側面が同時に考慮されることを目指す。

動詞の形についても、書きとりのなかで再認識させることは大きな意味がある。動詞自体の意味を 知っていても、実際にどのように使われるかを知らなければ、聴きとりの支障となりやすいためであ る。これは5-1節で述べた前置詞の聴きとりとも深く関係し、learn something fromのように動詞と 前置詞が隣接していない場合は特に文の構造が捉えにくくなるため、注意を促している。こうした関 係に敏感になることはリーディングにも有益で、英語の総合力を高めることにもつながる。

5-3. 語彙の補強:音声イメージを確認する/音から未知の語を探る

知っている語彙が多ければ聴きとりにも有利であるが、語の綴りや意味・用法を知っていても、音 形が把握されていなければ、うまく聴きとれないことがある。授業では語彙をできるだけ増やすこと を推奨すると同時に、綴りから予想される音のイメージと実際の音形に隔たりがある語(figureなど)

を取り上げ、綴りや意味を知っていても音形からアクセスしにくい語をできるだけ減らしていく。

これと並行して、音声情報から未知の語を探り、語彙を増やすトレーニングも行う。音形から綴り を予想しやすい語を使って、その音を聴いてもらい、「この音形をもつ語が存在する」という前提で、

綴りを推測させ、辞書で探させる。発音と綴りの対応を意識することで、それまで知らなかった語を つきとめる経験を一度でもすれば、音から語を推測する大きな動機付けになる。この方法がある程度 身につけば、語彙の不足を恐れずに聴くことができるようになる。

6. 音声に関する「知識と対策」:英語音声の特徴と日本語母語話者の傾向を知る

ここまで音以外の側面についての対策を見てきたが、音の情報を最大限に生かすことも重要である。

そのためには、英語の音声の特徴と日本語母語話者に共通する聴きとりの傾向を知り、あらかじめ対 策を立てておくことが有効である。音自体は正確に聴きとれなくても、必要な知識と実践的な対策を もつことによって、内容の聴きとりには大きな成果が現れる。授業ではさまざまな傾向を小テストで

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集中的に取り上げて意識を高めたり、同じように聴きとった学生に挙手してもらい、共通の傾向を認 識させるなどの工夫を行っている。以下で具体的な対策を紹介する。

6-1. rとlは音以外で区別する

日本語の母語話者にとって[r]と[l]の識別は難しい。(英語のr音の表記には、IPAではinverted rが 使われているが、本稿ではrで代用する。)日本語では[r]も[l]も使われないため、いずれの音にもなじ みがなく、必然的に言語獲得のなかでこの二つの音の識別を行う機会もない。また、ローマ字の影響 もあってラ行の子音を[r]音と思っている学生も少なくない。もちろん、トレーニングにより二つの音 に慣れ、識別が可能になることもあり、調音のしくみを知ることで聴きとりがしやすくなることもあ る(この授業でも、6-5節で触れるように調音について解説やトレーニングを行っている)。そうした 可能性は排除しないが、これと並行して、[r]と[l]を識別できなくても、内容理解への影響を最小限に 抑える方法を試してもらう。

具体的な対処法は、「[r]か[l]か区別できない音」が聞こえたときに最初から一方に決めるのではなく、

[r]と[l]の両方の可能性を思い浮かべることである。仮に [r]と[l]を当てはめてできる二つの候補のうち、

どちらかに思い当たる語がある場合でも、必ず二つの音を入れ替えた語の可能性を考慮するようにす

る。[r]と[l]の識別が不確実な段階では、知っている語をはじめに選ぶと、知らない語を見逃す可能性

がある。そのため、可能な語の候補をすべて考慮し、音以外の側面から絞り込む方法を勧める。

文脈や品詞などの音声以外の情報を考慮した結果、 [r]と[l]のいずれを当てはめても適当な語がない 場合や、逆に、[r]と[l]のどちらを当てはめても適切な語となり、決め手に欠ける場合もある。しかし、

次の節で見るように、これは [r]と[l]の聴き分けに特有の問題ではない。

授業では音以外の側面を考えながら聴くため、音の識別や同定(identification)は前提としない。

不確実な場合に即座に答えを出すのではなく、考えうるすべての可能性を探り、最適な候補を絞る作 業を継続的に行うことで、最終的にその検索や判断をリアルタイムでできるようになることが最終目 標である。

6-2. 区別しにくい語のペアをおさえておく

前節の[r]と[l]をはじめ、[b]と[v]など、日本語話者の区別しにくい音について、それらの音が含まれ る語の「ペア」をあらかじめ知っておくのは効果的である。ここでいう「ペア」には、有名なriceと liceのように一つの音のみが異なる語のペアだけでなく、 problemとprogram(me)、troubleとtravel、

valuableとvariableのように、複数の箇所が異なっても、日本語話者にとって語全体が似ていると感

じられる語の組み合わせも含まれる。特に、hasとis、haveとofのような使用頻度が高い語のペアに ついては繰り返し取り上げて意識させる。

こうしたペアについて、「troubleとtravelは日本語話者にとっては双子のようなもので、どちらか 一方を最初に思い浮かべた場合でも他方の可能性をつねに考えるように」と学生に伝えておく。また、

課題をとおして自分の傾向を探り、音のイメージが似ている語に対する意識を高めるよう促す。

子音の違いのほか、policeとplaceなど、あいまい母音の有無に関しても同様の対策が有効である。

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また、[r]と[l]の場合と違って、両方の音が日本語で使われていても、[n]と[ŋ]や[ʒ]と[dʒ]のように、相 補的に分布している場合(音声環境により選択される異音どうしの場合)も識別が難しい(たとえば、

beingとbeen、measureとmajorなど)。また、[n]と[ŋ] については、invest inがinvestingと一 体化して聴きとられるような例にも関係するため、これにも注意を向けさせる。

6-3. 子音と母音を意識的に切り分ける

日本語では子音で終わる語が「ン」の形に限られる。語末の「ン」の後に母音で始まる語が続く場 合も、「ン」は基本的に撥音としての性質を保ち、音声的に語境界があいまいになることはない(千円 はセンエンと発音され、*センネンにはならない)。こうしたしくみをもつ日本語の母語話者にとって、

「子音+母音」の連続があれば、これを一つのまとまりとして捉えるのが自然である。

一方、英語では子音で終わる語は珍しくなく、そうした語の後に母音で始まる語が続けば、語境界 にかかわらず、子音と母音は音声の流れのなかで一体化する。この「子音+母音」の一体化は基本的 にすべての子音に関わるが、特に[n]と[r]の場合に聴きとりへの影響が大きくなる。[n]については上述 の「ン」の影響であり、[r]については「つなぎのr(linking r)」が関わっている。イギリス発音では

[r]は母音の直前でのみ発音される。そのため、単独では発音されない語末の[r]が、母音で始まる語が

後続する場合には顕在化する。こうした現象が語境界を見えにくくする影響は大きく、ある試験では 大半の学生がor evenをoliveと書きとったこともある。

対策としては、小テストで「子音+母音」の連続を子音の後で切る練習を徹底して行う。具体的に は、二つの空所を設け、一つ目の語が子音で終わり、二つ目の語が母音で始まるという条件を指定し て、書きとりを行う。子音の後で切る聴き方を繰り返すことで、音声的に連続していても、途中に語 境界が含まれる可能性をつねに意識できるようにする。

6-4. 音の連続を切り分ける/語境界をずらしてみる

前節とも関連するが、連続した音の流れに慣れ、意識的に切り離すトレーニングは英語のリスニン グでは不可欠である。このとき、どこで切るかによって可能な語の候補が影響されるが、この場合も すべての可能性を考慮することが重要である。

母音で始まる単音節語が連続する場合など、複数の語が一体化して書きとられることがある(たと

えば、in his own がunisonとなる)。この対策として、音声的に連続していると感じても、あえて切

り離す練習をする。さらに、意識的に語境界の位置をずらすトレーニングも取り入れている。これは、

音の連続をすべての可能な位置で切り離してみる方法である。(たとえば、CVVCCVC であれば、

CV.VCCVC、CVV.CCVC、CVVC.CVCなど)こうした練習を行うことで、動詞の原形の後に定冠詞

が続く場合に定冠詞が動詞の活用語尾として聴きとられる例(develop theがdeveloped)などにも注 意が向くようになる。また、母音で終わる語の後に母音で始まる語が続く場合の聴きとりにも効果が 期待できる。

6-5. 調音音声学の知識を身につける

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授業では調音的なトレーニングも取り入れている。一般に、自分が発音できる音は聴きとりもしや すいと言われ、そうした効果も期待してのことだが、主な目的は似て聞こえる音のグループ分けであ る。調音音声学の基礎的な知識があれば、音のグループ分けがしやすく、聴きとりに役立てることが できる。

一般的に、作り方(発音のしかた)が似ていれば、発せられる音声も物理的・音響的に似た性質を もち、物理的・音響的に似ている音は似た音として知覚されやすい。(腹話術のように、特別な音の作 り方をすることも可能だが、たいていはもっとも調音しやすい方法で音声を作っていると考えられ る。)閉鎖音や摩擦音などの調音様式、唇音や歯茎音などの調音位置、声帯振動の有無など、調音的な 観点を学ぶことによって、たとえば[f]と[θ]が入れ替わって聞こえる傾向などが理解されやすくなる。

知識だけでなく、学生が自分で実際に聴きとった結果がその傾向を反映していれば、実感としてよ り身につきやすい。ある試験で多くの学生がroyalをwarと書きとったが、これを学生に伝えたとこ

ろ、 [r]が唇の丸めを伴って発音されることが多く、[w]に似て聞こえることが自然に納得できたよう

だ。

調音的なトレーニングは目先が変わることもあってか、学生には好意的に受け入れられている。お 互いに隣りの学生に向かって発音してもらい、口元を観察してもらったりもするが、学生は楽しそう に取り組んでいる。

6-6. 弱い母音で始まる語/弱い母音で終わる語を意識する

弱い母音[ə]で始まる語は、 [ə]が前の語と一体化し、直後の強く発音される音節から始まる語として 聴きとられたり、[ə]がまったく聴きとられなかったりする(たとえばemissionがmissionと聴きとら れる)。この対策としては、書きとった語が英語としてなじみのない語の場合、[ə]を補ってみて適当な 語になるかどうかを確かめる方法がある。音は[ə]でも、綴りとしてはa-の場合(announceなど)や

o-(officialなど)の場合をはじめ、いくつか可能性があるが、まずは最も数が多いと思われるa-を補

ってみるように促す。母音のほか、弱いre-で始まる語(recessionなど)にも同様の注意を促す。

形容詞の比較級を作る-erや動詞から職業など表す名詞を派生する-er/-orなど、弱い母音[ə]で終わる 語の聴きとりにも注意が必要である。日本語では「子音+母音」が基本的なユニットであり、語が子 音で終わっているか、その子音の後に[ə]があるかどうかの識別は難しい。これまでに効果が感じられ た対策としては、「子音がはっきり聞こえたら、後ろに弱い母音があると考える」ことである。

また、語末で弱母音の後に三単現や複数語尾の-s が続く形も要注意である(たとえば teachers と

teaches)。この場合、音声的には判断が難しいため、文の構造から品詞を特定する方法が有効である。

6-7. イギリス発音の特徴を学ぶ

goやroadなどに含まれる母音は、アメリカ発音では日本語のオウのように聞こえるが、イギリス

発音では[əu]となり、日本語話者にはエウのように聞こえる傾向がある。その結果、エウに近い [ei]

として聴きとられる場合が多い(たとえば、growをgray/grey、goesをgaze)。英語の習熟度が高ま るにつれ、その影響は小さくなるようだが、特に1音節語については、母音が語全体の聴きとりに及

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ぼす影響は無視できない。そこで、あらかじめこの傾向を示し、注意を促している。

このほか、アメリカ発音の[æ]はイギリス発音では[ɑ]や[ɑː]に相当するが、これがしばしば [ɔː]と して書きとられる(たとえば、castleがcourseとなる)。6-3節で触れた、イギリス発音で [r]が母音 の前でしか発音されないことについても、この影響でfloorがflowのように聴きとられる例などを紹 介する。

6-8. 弱形の音形を身につける

6-2節で挙げたhasとis、haveとofのペアが音声的に似ているのは、弱形で母音があいまい母音に なり、語頭の[h]が聞こえにくくなっていることが原因である。弱形は説明よりも実際に聴いて実感す ることが効果的である。ある授業の課題で多くの学生がhistoric housesの下線部をcausesと書きと ったことがあるが、こうした例をフィードバックすることで学生の意識を自然に高めることができる。

また、機能語については機会を見つけて弱形を聴かせ、音形を定着させるよう努めている。

6-9. 二重母音の音声イメージを変える

英語の二重母音は日本語の二重母音とは異なり、多くの場合、最初の母音要素が強く、時間的にも

長い([ai]ではaが強く長いのに対し、日本語の「愛」ではアとイはほぼ均等である)。このように、

二重母音の音声イメージを変えることにより、聴きとりが格段にしやすくなる。たとえば、out は、

二重母音の二つ目の要素が弱く短いためatと聴きとられることが多いが、あらかじめ知識をもつこと でこれを解消できる。

7. 学習のサポートと学習意欲の維持

ここまでリスニングをしやすくするための「知識と対策」を見てきたが、以下では学生の学習意欲 を維持するための試みについて述べる。

7-1. 「発展的な間違い」を見つけて次の段階に押し上げる

この授業でよく体験することの一つに、音声への意識の高まりによると思われる「発展的な間違い」

がある。聴きとりにくいポイントを提示した後、学生の意識が高まり、おそらくはその影響で、それ まで簡単に聴きとれていた音が一時的に聴きとれなくなる現象である。たとえば、日本語話者が[θ]

を[s]と聞き違えるのはよく見られる傾向だが、その傾向と二つの音の違いに注意を向けた後では、[s]

を[θ]と聞く逆の傾向が見られることがある。

一見すると、簡単なはずの[s]が聴きとれないのは「初歩的な間違い」のように思われ、それまで[s]

の聴きとりに問題がなかった学生であれば、あたかも「後退」しているかのように見える。しかし、

日本語で使われる[s]を日本語にない[θ]として聞くのは、不自然な間違いである。学習上は「発展的な 間違い」と見ることができ、[s]と[θ]の識別が完全にできていなくても、意識せずに聞いていた段階よ りも一歩進んだ段階にあると考えられる。一般に、選択肢が少なければ迷う余地が少なく、単純に答 えが決まるのに対し、知識が増えてさまざまな側面に注意を払うようになると、それ以前の間違いと

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は質的に異なる間違いが現れてくる。

この「発展的な間違い」は一種の過剰反応であり、過剰一般化(overgeneralization)と考えられる が、この反応が現れれば、次の段階へつながるステップとなる。この段階を見逃さず、学生に適切に フィードバックすることで、学習意欲を保てるよう配慮している。

「発展的な間違い」は他にもさまざまな形で現れる。たとえば、複数の語がつながって一つに聞こ えることに注意を向けた後、元々は一つの語を、複数の語に分解して聴きとる傾向が見られることが ある。また、同じことが綴りについても見られる。たとえば、majorを*majourと誤った綴りで書き とる例は、イギリス式の綴りのパターンを学んだことで生じた「発展的な間違い」である。

7-2. カタカナによる書きとりと音声再現の奨励:習熟度のばらつきを活用する

この授業では、習熟度のばらつきをできるだけ活用している。たとえば、課題では音の情報を文字 で写し取る作業に集中してもらうため、カタカナの使用も可としているが、ときどき音の連続を見事 なカナ表記で表す学生がいる(たとえば、to developを「トゥドュペラ」と表記)。ある程度の習熟度 に達した学習者には英語として書きとられるため、こうしたカナ表記は貴重であり、聴きとりの傾向 に注目させる際にヒントとなることが多い。

また、クラスのなかで音声の再現が上手な学生を見つけ、聞こえたまま再現してもらう。その場合、

再現した学生自身は英語を思いあたらなくても、他の学生にはこの再現がヒントになって「正解」に つながることも多い。こうした場面を筆者は何度も体験している。

習熟度のばらつきは困難な状況につながることもあるが、すべての学生がはじめから「正解」を聴 きとる展開では授業の意味も小さく、おもしろみにも欠ける。その意味で、教員が予想した典型的な 聴き違いの形を書きとった学生は、データ提供者として授業に貢献していると考えることができる。

机間巡視を行いながら学生の下書きを見せてもらい、うまく聴きとれていない例を探しておいて、後 で聞きにくいポイントの解説につなげていくこともある。これで傾向が明確になり、そのときは「正 解」を聴きとった学生にも、同様の聴き違いが起こり得ることを伝える機会ともなる。

8. 授業の改善の可能性

7-2節では習熟度のばらつきの活用について述べたが、これが望ましくない方向にはたらく場合もあ る。現行のシステムでは学期の第1週に受講者調整を行っているが、時間的にスクリーニングを行う ことは難しく、希望者が多い場合の人数調整のみのことが多い。初めから習熟度の違いがはっきりと 感じられる場合は教員側も気を遣ううえ、習熟度の高い学生と低い学生がお互いに遠慮して発言を控 えるようになることもある。学期の前半では、教員が学生の習熟度を把握し、快適な学習環境をつく れるように配慮することが重要となる。今後もこの点において努力したい。

このほか、小テストについても検討の余地がある。小テストでは、聴きとりのポイントに集中しや すいよう、他の要因をできるだけ排除することを心がけているが、実際の答案を見ると、予期しなか った要素が影響している場合がある。これについても、これまでの経験を生かして、当該のポイント が際立つ問題作成を工夫していきたい。

(13)

さいごに、試験の難易度の設定について触れておきたい。試験は、前年度までのデータを参考に、

平均が7割程度になるよう、書きとり範囲と語数を設定している。(2回の試験の平均が7割を大きく 下回る場合は成績評価基準を調整するなど、学生に不利益が出ないようにしている。)理想的には、1 回目よりも2回目の得点が高くなるような形を目指しているが、ニュース内容のほか、発音の明瞭度 やスピードなど複数の要素が関わるため、得点が予想と異なることもある。実際には1回目の試験の 結果を見て、2回目の難易度を調整することが多くなる。今後、1回目の試験の難易度をより安定した ものにするための可能性を探っていきたい。

参照

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