観光客の地域内モビリティサービスに対する 支払意思額の要因分析

平成 30 年度 修士論文

観光客の地域内モビリティサービスに対する 支払意思額の要因分析

首都大学東京大学院 都市環境科学研究科

観光科学域

17842407 那須 和生

指導教員 清水 哲夫

1

要旨

近 年 ，観 光 地 に 幹 線交 通 に よっ て 到 着し た 後 に 観 光 地間 を 周 遊す る た め に利 用 す る 地 域 内 交通（ 二 次交 通 ）に 一 定の 視 線 が 向 け られ る よ うに な っ た

二 次交 通 の 充 実 は，地 域 内 での 観 光 客 の滞 在時 間 の 増 加 や，地 域 その も の の 魅力 の向 上 に 寄 与 す る もの と し て期 待 さ れ ている

し か し，現 在 各観 光 地 で 行わ れ て いる 二 次 交 通 施 策 の多 く は， “ 現 状の 路 線 を上 手 く 活 用 し 観光 客 の 増加 ，利 便 性の向 上 を 図 る ”も のに 留 ま っ てお り ，観 光交 通 需 要 の 調 査を 踏 ま え新 た な 路 線・サ ー ビ ス の 検 討 を行 う と いう プ ロ セ スを踏 ん で い る 施 策の 例 は 少な い

こ の 原 因 の 一 つ と し て 地 域 内 観 光 交 通 需 要 調 査 の 方 法 論 の 未 整 備 が 挙 げ ら れ る

観 光 交 通 は 日 常 交 通 と は 異 な り ， 周 遊 性 や 観 光 活 動 と 交 通 と の 相 互 依 存 性 ， 時 間 的 な 変 動 性，需 要の 随 意 性 など の特 性 を 持 ち，そ れ ら の二 次 交 通 の特 性に 対 応 し た デ ー タの 取 得 ，分 析 の 方 法論の 開 発 は 未 だ 十分 と は 言え な い

観 光 交 通 需 要 調査 の 内 容は 主 に， 「 移動実 態 の 把 握」と「意 識・意 向 の 把握 」の

つ に 分 け る こ とが 出 来 る が， 「 移 動実態 の 把 握 」に つ いて は ，近 年 技術 の 革新 に よ り ， 携 帯 電話 端 末や

カ ー ド デー タ か ら 取 得 され る 位 置情 報 デ ー タなど の ビ ッ グ デ ー タ に よ る 二 次 交 通 利 用 特 性 の 調 査 手 法 が 広 く 考 え ら れ る よ う に な っ た

一 方 で ，「 意識・意 向 の把 握 」に つ い て も 一 定数 の 蓄 積が あ る も のの

具 体 的 な 交 通 サ ー ビ ス の 利 用 意 向 と 観 光 行 動 と の 関 係 性 に つ い て は 分 析 さ れ て い な い

利 用 意 向 を 把 握 す る 一 つ の 手 法 と し て

仮 想 的 な 交 通 サ ー ビ ス を 提 示 し て そ の 利 用 意 向 を 尋 ねる 表 明 選好 法 に よ る調査 手 法 （

調 査 ） が あ る

調 査 では

提 示 し た 交 通 サ ー ビ ス に 対 す る 支 払 意 額 を 尋 ね る こ と に よ り

交 通 サ ー ビ ス に 貨 幣 価 値 を 与 え

導 入 す べ き 最 適 な 交 通 サ ー ビ ス の 提 案 や 検 討 が 出 来

サ ー ビ ス 供 給 計 画 の 策 定に も 利 用す る 事 が 期待で き る

支 払 意 思 額 調 査 に つ い て は 日 常 交 通 を 対 象 と し た 研 究 は い く つ か 見 ら れ る も の の

二 次 交 通 に お け る 研 究 は 筆 者 の 知 る 限 り 存 在 せ ず

本 調 査 は 二 次 交 通 に お け る 調 査 の 適 応を 検 討 する

こ れ ら を 背 景 とし て ，本 研 究で は「 利用 意 識 ・意 向 の 把握 」の 一 つ と して 支払

意 思 額 の 把 握 を 行 う た め の 手 法 の 体 系 化 に 向 け て 以 下 に 示 す 二 つ の 目 的 を 設

定 し た

2

1

） 地 域 内 モ ビ リ ティ サ ー ビ スに 対 する 観 光 客 の 支 払意 思 額 の調 査 分 析 手法の 検 討 及 び 提 案 を行 う

2

）地 域 内 周 遊行 動 に お ける ，モ ビ リ ティ サ ー ビ ス に 対す る 観 光客 の 支 払 意思額 に 影 響 を 与 え る要 因 を 明ら か に す る

以 下 ， こ の 二 つの 研 究 目的 に 沿 っ て，本 論 文 の 研 究 成果 を 示 す

1

） 地 域 内 モ ビ リ ティ サ ー ビ スに 対 する 支 払 意 思 額 の調 査 分 析手 法 の 検 討及び 提 案 を 行 う

時 間 的 な 変 動 性 な ど の 点 に お い て 日 常 交 通 と は 異 な る 特 性 を 有 す る 観 光 交 通 は ，そ の 特 性 を考 慮 し た より 細 か いニ ー ズ の 変 動 に対 応 し たサ ー ビ ス の利用 状 況 の 設 定 が 必 要 で あ る

意 識 調 査 等 で 提 示 す る 仮 想 的 状 況 を 設 定 す る に あ た り

二 次 交 通の 利 用 意 向に 影 響 を 与え る要 因 を（

）利 用 目 的（

）地 域 特 性（

） 利 用 時 間 帯（

）交 通 手 段（

）求 め られ る 交 通 サ ー ビス 水 準（

）個 人 属 性の

つ に 分 類 し

対 象 を 正 確 に 評 価 す る た めの

要 因 の 規 定 プ ロ セ ス並 び に

不 要 な 要 因 の 排 除 の プ ロセ ス を 整理 し た

支 払 意 思 額 の 具体 的 な 把握 手 法 と しては

型 を 採 用 し

多 属 性 評価 行 う ため

同 じ 回 答 者 に 複 数 回 聞 く こ と で 統 計 的 に 必 要 な サ ン プ ル 数 を 確 保 す る 工 夫 を 行 い

支 払 意 思 額 曲 線 の パ ラ メ ー タ を 推 計 す る た め に

ダ ブ ル バ ウ ン ド 二 項 選 択 方 式 に よ っ て 得 ら れ た 結 果 に 対 し て

ラ ン ダ ム 効 用 理 論 を 適 用 し 最 尤 法 に よ っ て 推 計 を 行 う モデ ル を 提案 し た

2

） 地 域 内 周 遊 行 動に お け る ，モ ビ リテ ィ サ ー ビ ス に対 す る 支払 意 思 額 に影響 を 与 え る 要 因 を明 ら か にす る

提 案 し た 調 査 手 法 を 検 証 す る ケ ー ス ス タ デ ィ と し て

新 潟 県 南 魚 沼 市 の 観 光

施 設

魚 沼 の 里 を 対 象 と し て ア ン ケ ー ト 調 査 の 設 計 ・ 実 施 を 行 っ た

利 用 状 況 の

設 定 に つ い て は

文 献 調査 や 現 地 観光 関連 事 業 者 に 対 する ヒ ア リン グ 調 査，観光

地 の 分 布 等 の 観光 地 特 性の 整 理 ，交 通基 礎 デ ー タ 等 の収 集 の 結果 か ら 地 域内モ

ビ リ テ ィ サ ー ビス に 対 する 課 題 の 抽出を 行 い 「 運 転 手 が施 設 内 で 飲酒 を 行 うた

め に 一 度 宿 へ 車 を 停 め て か ら 来 訪 す る た め に 用 い る 輸 送 サ ー ビ ス に 対 す る 支

3

払 意 思 額 」と 現 実 的 な観 光 行 動を 設 定し

目 的 地 での 活 動 内 容を 規 定 し たシ ナリ オ に 反 映 さ せ た

更 に

そ れ ぞ れ の シ ナ リ オ に お け る モ ビ リ テ ィ サ ー ビ ス に 対 す る 支 払 意 思 額 に 影 響 を 与 え る 要 因 構 造 の 分 析 を 行 っ た

モ デ ル の 説 明 変 数 と し て ，運 賃 の 他 に ，運 転頻 度 ，乗 降 車場か ら 宿 泊 施 設 まで の 徒 歩距 離 ，利 用 時間 帯 ，観 光 施 設で の ア ク ティ ビ テ ィ内 容を 使 用 し た

結 果 ，日中 に 魚 沼 の里 と 宿泊 施 設 を 結 ぶ 輸 送サ ー ビ スに 対 し て ，路線 バ ス 型 の 交 通サ ー ビ スに 対 し て は運転 頻 度 の 高 い グ ル ー プ に お い て

円 （ 中 央 値 ） の 支 払 意 思額 が あ る こと ， 更 に 運 行 時 間 短縮 の 時 間価 値 が

円

分 ， 乗 降 車 場 か ら宿 泊 施 設 までの 徒 歩 時 間 の 短 縮 価 値 が

円

分 の 様 に 各 変 数 の 価 値 を 貨 幣 換 算し 表現 す る こ と が 出 来た

ま た ，ア ンケ ー ト 実 施日 に お け る観 光客 の 周 遊 行 動 属性 で グ ルー プ を 分 け

そ れ ぞ れ パ ラ メ ータ 推 定 を行 い ，地 域 内モ ビ リ テ ィ サ ービ ス の 利用 意 向 に 影響を 及 ぼ す 要 因 の グ ル ー プ 間 の 違 い に つ い て 分 析 を 行 っ た

そ の 結 果 ， 例 え ば

午 前 中 に 施 設 へ 来 訪 す る グ ル ー プ は

午 後 に 来 訪 す る グ ル ー プ と 比 較 し

運 行 時 間 短 縮 に 対 す る 価 値 が 高 く

徒 歩 時 間 の 短 縮 に 対 す る 価 値 は 低 い こ と が 読 み 取 れ る な ど

地 域 内 モ ビ リ テ ィ サ ー ビ ス に 対 す る 支 払 意 思 額 へ 影 響 を 与 え る 要 因 と し て ，個 人属 性 や 目 的地 で の 活 動内 容だ け で な く，周 遊 行 動属 性 ご と の違 いが 認 め ら れ た

最 後 に

推 定 結 果 を 用 い

提 案 し た 交 通 サ ー ビ ス の 事 業 収 支 の シ ミ ュ レ ー シ ョ

ン を 行 っ た

4

目 次

要 旨

目 次

第

章 序 論

1.1

研 究 の 背 景 と目 的

1.2

論 文 構 成 と 研究 手 法

1.3

既 往 の 関 連 研究 と 本 研究 の 位 置 づけ

第

章 二 次 交 通 の 特性 と 需 要調 査 に 必 要な視 点 の 整 理

2.1

二 次 交 通 の 定義 と 特 性の 整 理

2.1.1

観 光 交 通 の 特徴 ・ 観 光 行動 の 特性

2.1.2

観 光 地 に お いて の 交 通 の役 割

2.1.3

市 場 特 性

2.1.4

観 光 交 通 の 種類 ・ 分 別

2.2

観 光 行 動 調 査手 法 の 整理

第

章 地 域 内 モ ビ リ テ ィ サ ー ビ ス に 対 す る 支 払 意 思 額 の 調

査 方 法 の 検 討

ア ン ケ ー ト 設計 に 対 する フ レ ー ムワ ー ク

3.2

便 益 測 定 法 の種 類

3.3

評 価 手 法 の 選定 ・ 適 用可 否 の 検 討

3.4

調 査 方 法 の 設定

3.5

仮 想 的 状 況 の設 定

3.6

調 査 範 囲 の 設定

3.6.1

利 用 目 的

3.6.2

地 域 特 性

3.6.3

利 用 時 間 帯

3.6.4

対 象 交 通

3.6.5

求 め ら れ る 交通 サ ー ビ ス属 性

3.6.6

個 人 属 性

3.7

回 答 形 式 の 設定

3.8

推 定 モ デ ル の設 定

5

第

章 具 体 的 な 観 光地 に お ける ア ン ケ ート調 査 手 法 の 検 証

4.1

対 象 地 の 概 要

4.1.1

研 究 対 象 地 の選 定 と 理 由

4.1.2

観 光 圏 制 度 の概 要

4.1.3

広 域 的 な 地 域の 概 要 （ 雪国 観 光圏 の 概 要 ）

4.1.4

魚 沼 の 里 概 要

4.2

ア ン ケ ー ト の作 成

4.2.1

調 査 手 法 の 決定

4.2.2

調 査 範 囲 の 決定

4.2.3

サ ー ビ ス 属 性と 水 準 の 選定

4.2.4

シ ナ リ オ の 作成

4.2.5

回 答 方 式 の 選択 と 推 定 モデ ル の設 定

4.3

調 査 概 要

4.3.1

ア ン ケ ー ト 調査 概 要

4.3.2

調 査 日 の 気 象条 件

4.4

ア ン ケ ー ト 調査 結 果

4.4.1

サ ン プ ル 属 性集 計 結 果

4.4.2

提 示 し た サ ービ ス 水 準 と利 用 意向 の 回 答 割 合

4.4.3

ラ ン ダ ム 効 用モ デ ル を 用い た 昼夜 別 の パ ラ メ ータ の 算 出

4.4.4

ラ ン ダ ム 効 用モ デ ル を 用い た 交通 機 関 別 の パ ラメ ー タ の算 出

4.4.5

ラ ン ダ ム 効 用 モ デ ル を 用 い た 目 的 地 で の 活 動 内 容 ・ サ ー ビ ス 水 準 別 の パ ラ メ ー タ の算 出

4.4.6

各 変 数 の 価 値

4.4.7

個 人 属 性 別 の支 払 意 思 額モ デ ルと 各 変 数 の 価 値

4.4.8

行 動 属 性 別 の支 払 意 思 額モ デ ルと 各 変 数 の 価 値

4.4.9

パ ラ メ ー タ の価 値 の 比 較

第

章 結 論 と 提 言

5.1.1

各 章 の ま と めと 結 論

5.1.2

推 定 結 果 を 用い た 地 域 への 提 言

5.1.3

今 後 の 課 題

6

参 考 文 献

図 表 リ ス ト

付 録 ・ 巻 末 資 料

7

第 1 章 序論

1.1

研 究 の 背 景 と 目的

1962

年 の 全 国 総 合 開発 計 画 （ 一全 総） 以 降

全 国 の 幹 線 交 通網 の 整 備 が着 実 に 進 め ら れ て き た

観 光 地 訪 問 者 が 出 発 地 か ら 観 光 地 へ 向 か う 際 に ま ず 利 用 す る 幹 線 と な る 観光 ア ク セス 交 通（ 主 に新 幹 線・飛 行 機 な ど：以後

一 次 交 通 ）は

常 に 興 味 の 対 象 で あ り 続け

現 在 多 く の 研 究 の 蓄 積 が あ る

さ ら に 近 年

観 光 地 に 一 次 交 通 に よ っ て 到 着 し た 後 に 観 光 地 間 を 周 遊 す る た め に 利 用 す る 地 域 内 交 通（ 主 に 路 線 バ スな ど：以 後

二 次 交 通）に も 一 定 の 視 線が 向 け られ る よ う にな っ た

例 え ば

日 本 観 光 振 興 協 会 では

年

月 か ら 全国 の 二 次 交通

観 光 振興 に 関 わ る 企 画 乗車 券・共 通 パ ス等 を まと め た デ ー タ ベー ス お よび

二 次 交 通 先進 事 例 を イ ン タ ー ネ ッ ト サ イ ト 上 で 公 開 を 始 め

各 種 関 係 組 織 の 二 次 交 通 施 策 検 討 へ の 活 用 を 促 し て い る

ま た

機 関 紙 観 光 文 化 （ 公 益 財 団 法 人 日 本 交 通 公 社

） で は

二 次 交 通 を メ イ ン テ ー マ と し て 取 り 上 げ

そ の 中 で 近 年 の 二 次 交 通 を め ぐ る 環 境変 化・課 題 に つい て 事例 を い く つ か 挙げ て 紹 介し

地 域 内 交 通の 観 光 需 要 取 り 込み の 可 能性 を 示 唆 した

観 光 庁（

）で は

等 の 情 報 通信 技 術 を 利 活 用 し 旅 行 者 の 域 内 旅 行 動 態 分 析 を 行 い

旅 行 者 の ニ ー ズ に 応 じ た 観 光 振 興 施 策 の 検 討 を 行 な っ て お り

技 術 革 新 に よ り 二 次 交 通 に つ い て の 調 査 手 法 の 幅 の 広 が りを 見 せ てい る

少 子 高 齢 化 が 進む 社 会 情勢 の 中 「 稼 ぎ手 」減 少 し て いる 地 方 部に お い て

観 光

は 新 た な 産 業 分 野 で あ り

地 域 活 性 化 の た め に 大 変 期 待 さ れ る 様 に な っ て い る

観 光 立 国 推 進 の施 策 と して

「 観 光 立 国推 進 基 本 法（

）」が 制 定 さ れ

こ の中

の 施 策 展 開 の 一つ と し て制 定 さ れ た観光 圏 政 策（観 光 庁 の 定め た「観 光 圏 の整

備 に よ る 観 光 旅客 の 来 訪及 び 滞 在 の促進 に 関 す る 法 律（

～ ）」）の 認 定 観光

圏

地 域（

年

月

日 現 在 ）で み て も

整 備 計 画 の 中で 二 次 交 通が 課題

と し て 明 記 さ れ て い る も の は 半 数 地 域 を 占 め

二 次 交 通 の 課 題 は 目 下 最 大 の 課

題 の 一 つ と 言 っ て も 過 言 で は な い

各 観 光 地 の 現 場 レ ベ ル で も

二 次 交 通 が ボ ト

ル ネ ッ ク と な り「周 遊 プ ラン が 出 来 ない 」

「 現 状 の サー ビ ス レ ベル で は 車 以外

で の 来 訪 し か 考え ら れ ない 」と問 題 意識 と し て 認 識 され て い るも の の

そ れ らを

踏 ま え 実 際 各 地で 行 わ れて い る 二 次交通 施 策 の 多 く は

「二 次 交 通 を利 用 し たモ

デ ル ツ ア ー の 開発 」や「 周 遊パ ス の 作成 」

「 情 報 整 備」

「 バ ス 車内 表 示 等の改

8

善 」 な ど で あ り

“ 現 状 の 路 線 を 上 手 く 活 用 し 観 光 客 の 増 加

利 便 性 の 向 上 を 図 る ”も の に とど ま り

観 光 交 通 需要 の 調査 を 踏 ま え 新 たな 路 線・サ ー ビ スの 検討 を 行 う と い う プロ セ ス を踏 ん で い る施策 の 例 は 少 な い

こ の 現 状 の 理 由 の

つ と し て は

地 域 内 観 光 交 通 需 要 調 査 の 方 法 論 の 未 整 備 が 挙 げ ら れ る

多 く の 観 光 地 に お い て

地 域 内 二 次 交 通 サ ー ビ ス に 対 す る 観 光 客 の ニ ー ズ が 適 切 に 把 握 で き て お ら ず

結 果 施 策 の 検 討 が 十 分 に 出 来 て い な い

現 在 ま で 二 次 交 通施 策 の 検討・実施 の ため に

二 次 交 通 調 査 と 題し た 調 査 等が 行わ れ て い る 地 域 も散 見 さ れる が 「 調 査 結果 が 実 際 の 観 光交 通 事 業に 結 び つ かない 」

「 デ ー タ の 活 用の 仕 方 が分 か ら な い・使 え な い 」と 言 っ た 声が 地 元 か ら聞 かれ る ケ ー ス が み ら れ る

二 次 交 通 事 業 計 画 の 根 拠 と な る よ う な 実 践 的 な 需 要 調 査 手 法 の 必 要 性 が 観 光 地 の 現 場 か ら 聞 か れ

需 要 調 査 手 法 に 対 す る 体 系 化 が 求 め ら れ て い る

二 次 交 通 の 調 査・計 画手 法 に つ いて の学 術 的 な 蓄 積 が少 な い こと に 対 し て

森 地（

）は

）通 年 的 に 問 題 を 顕在 化さ せ る 都 市 交 通に 対 し

観 光 地 は 一時 的

季 節 的 な 問 題 で あ る 事

） 都 市 規 模 的 に あ る い は モ ー タ リ ゼ ー シ ョ ン の 進 展度 別 課 題 が 共 通 し て い る 都 市 交 通 に 対 し

世 界 共 通 に 観 光 地 を 類 型 化 す る 場 も な く

観 光 地 交通 の 専 門 家集 団 も 存 在し ない 事

）観 光 地 そ れ ぞれ が 有 する 個 性自 身 に 意 味 が あ り

そ れ ぞれ の 演 出 とし て計 画 が な さ れ てき た 事

）観 光 地 の 交通 計 画 は

観 光 地 計 画 と 不 可 分 で あ り

都 市 交 通 計 画 の 様 に 中 心 的 課 題 と し て 交 通 を 取 り 出 し た 分析 や 政 策展 開 を 行 う風土 が な か っ た こと の

点 を 挙 げ て いる

通 勤・通 学 を タ ー ゲ ット に 開 発 され る定 時 定 路 線 の 日常 交 通 と，周 遊 性や 観 光 活 動 と 交 通 との 相 互 依存 性 ，時間 的な 変 動 性 ，需 要 の 随 意性 な ど の 特性 を持 っ て お り

旅 行 者 が 望 む 時 間 に

行 き た い と こ ろ へ 行 け る 事 が 重 要 な 観 光 二 次 交 通 で は 考 え た 方 が 異 な る た め

真 の 観 光 交 通 需 要 を 捉 え る た め に は

日 常 交 通 と 同 等 の 調 査 で は な く

観 光 客 の 特 性 に 即 し た 独 自 の 調 査 を 行 い

そ れ を 反 映 さ せ た 路 線 ・ サ ー ビス が 提 案さ れ る プ ロセス が 求 め ら れ てい る

地 域 内 公 共 交 通に 係 る 交通 施 策 検 討の主 な 流 れ は

図

に 示 す 通 り

）現 状 分

析 に よ る 交 通 課 題 の 提 起

） 交 通 課 題 克 服 に 向 け た 検 討 の 方 向 性 の 決 定

） 調

査 内 容・ 手 法 の決 定

）分 析

）施 策 の 検 討 評 価 で ある

ニ ー ズ 把 握 調 査を する

に あ た っ て 関 東運 輸 局（

）は

「 交 通 の 運 行 の 効 率化 や 利 用促 進 」を 図る事

9

と

「 交 通 サ ー ビス に 対 す る潜 在 的 なニー ズ 」に 対 応 す る事 の

つ の 目 標 に 対す る 具 体 的 な 施 策を 明 ら かに す る 事 を目的 に 調 査 設 計・調査 の 実 施 を行 う べ きと し て い る

目 的 を 設 定 し た の ち に 行 わ れ る 観 光 交 通 需 要 調 査 の 内 容 は 主 に ，「移 動 実 態 の 把 握 」と 「 意 識・ 意 向 の 把握」 の

つ に 分 け る こ と が 出来 る

移 動 実 態 の 把 握 」 に つい て は ，近 年 技 術 の革新 に よ り ， 携 帯電 話 端 末や

カ ー ド デ ー タ か ら 取 得 さ れ る 位 置 情 報 デ ー タ な ど の ビ ッ グ デ ー タ に よ る 二 次 交 通 利 用 特 性 の 調 査 手 法 が 広 く 考 え ら れ る よ う に な っ た

一 方 で ，「 意 識 ・ 意 向 の 把 握 」 に つ い て も 一 定 数 の 蓄 積 が あ る も の の

具 体 的 な 交 通 サ ー ビ ス の 利 用 意 向 と 観 光 行 動 と の 関 係性 に つ いて は 分 析 されて い な い

利 用 意 向 を 把 握 す る 一 つ の 手 法 と し て

仮 想 的 な 交 通 サ ー ビ ス を 提 示 し て そ の 利 用 意 向 を 尋ね る 表 明選 好 法 に よる調 査 手 法 （

調 査 ） が あ る

調 査 で は

提 示 し た 交 通 サ ー ビ ス に 対 す る 支 払 意 額 を 尋 ね る こ と に よ り

交 通 サ ー ビ ス に 貨 幣 価 値 を 与 え

導 入 す べ き 最 適 な 交 通 サ ー ビ ス の 提 案 や 検 討 が 出 来

サ ー ビ ス 供 給 計 画 の 策定 に も 利用 す る 事 が期待 で き る

支 払 意 思 額 調 査 に つ い て は 日 常 交 通 を 対 象 と し た 研 究 は い く つ か 見 ら れ る も の の

二 次 交 通 に お け る 研 究 は 筆 者 の 知 る 限 り 存 在 せ ず

本 調 査 は 二 次 交 通 に お け る 調 査 の 適応 を 検 討す る

こ れ ら を背 景 と し て ，本 研究 で は「 利用 意 識・意 向 の 把 握 」の 一 つと し て 支 払意 思 額 の把 握 を 行 う た めの 手 法 の体 系 化 に 向けて 以 下 に 示 す 二 つの 目 的 を設 定 し た

1

） 地 域 内 モ ビ リ ティ サ ー ビ スに 対 する 観 光 客 の 支 払意 思 額 の調 査 分 析 手法の 検 討 及 び 提 案 を行 う

2

）地 域 内 周 遊行 動 に お ける ，モ ビ リ ティ サ ー ビ ス に 対す る 観 光客 の 支 払 意思額

に 影 響 を 与 え る要 因 を 明ら か に す る

10

図

地 域 別 の 各 主 体 の 役 割 分 担

11

図

公 共 交 通 に 係 る 交 通 施 策 検 討 （ 需 要 調 査 ） の 流 れ ・ 構 造

12 1.2

論 文 構 成 と 研 究手 法

本 研 究 で は

地 域 内 モ ビリ テ ィ サ ービ スに 対 す る 支 払 意思 額 の 調査 手 法 を 提 案 し

認 定 観 光 圏 の 一 つで あ る 雪 国観 光圏 を ケ ー ス ス タデ ィ と して

仮 想 的 に 観 光 客 が 二 次 交 通を 利 用 する と い う シナリ オ を 設 定 し

各 交 通 サー ビ ス 水 準別 の 二 次 交 通 に 対 する 支 払 意思 額 を 問 う調査 を 行 う

シ ナ リ オ で 設定 さ れ た 条件 下 で の

個 人 属 性

行 動 属 性

観 光 客 の 置 かれ て い る 状 況 など に よ る観 光 客 特 有の評 価 構 造 を 分 析 する

本 論 文 は 以 下 の全 五 章 で構 成 さ れ る

第 一 章 で は

本 研 究 の 背景 ・ 目 的 につ いて 言 及 し

二 次 交 通 を 取り 巻 く 環 境の 変 遷 と

実 務 的 な ニ ー ズに 応 え る デー タの 課 題 及 び

取 得 方 法 ・調 査 手 法 の必 要 性 に つ い て 言 及し て い る

ま た

既 往 研究 を レ ビ ュ ー した 上 で 本研 究 の 位 置づけ を 行 い

本 研 究 に お け る社 会 的 及 び学 術的 意 義 に つ い て言 及 し た

第 二 章 で は

二 次 交 通 の特 性 を 整 理し

一 次 交 通 や 日 常交 通 の 需要 調 査 手 法と 比 較 し ， 二 次 交通 の 需 要調 査 に お いて必 要 な 分 析 視 点， 内 容 を整 理 し た

第 三 章 で は

地 域 内 モ ビリ テ ィ サ ービ スに 対 す る 支 払 意思 額 の 調査 手 法 を 検 討 し た

第 四 章 で は

対 象 地 と した 魚 沼 の 里に おけ る 二 次 交 通 を利 用 す ると い う シ ナ リ オ を 設 定 し

ア ン ケ ート 調 査 を 実施 し

支 払 意 思 額の 調 査 手 法適 応 の 検 討を 行 っ た

具 体 的 に は

支 払 意 思 額 曲 線の パラ メ ー タ を 推 計す る た めに

ダ ブ ル バ ウン ド 二 項 選 択 方 式に よ っ て得 ら れ た 結果に 対 し て

ラ ン ダ ム 効 用理 論 を 適 用し 最 尤 法 に よ っ て 推計 を 行 った

モ デ ル の 説明 変 数 と し て ，運 賃 の 他に ， 運 転 頻 度 ， 乗 降 車 場 から 宿 泊 施設 ま で の 徒歩距 離 ， 観 光 施 設で の ア クテ ィ ビ テ ィ内 容 を 使 用 し た

第 五 章 で は

以 上 の ま とめ と

算 出 し た支 払 意 思 額 モ デル を 利 用し

新 た な 二 次

交 通 施 策 に お ける 収 益 モデ ル を 構 築した

モ デ ル を構 築 す る 上で

法 的 外 目 的税

や 協 力 金 な ど 収益 安 定 策の 検 討 や

な ど の 新 交 通 の活 用 等 を 踏ま え た 検討

を 行 っ た

13 1.3

既 往 の 関 連 研 究と 本 研 究の 位 置 づ け

本 節 で は

交 通 サ ー ビ ス に 対 す る 支 払 意 思 額 を 選 好 表 明 法 に よ り 推 定 し た 既 往 研 究 に つ い て 概 観 す る

交 通 サ ー ビ ス に 対 す る 支 払 意 思 額 を 分 析 し た 研 究 は 多 数 存 在 す る が

分 析 手 法 の 違 い や

評 価 対 象 と す る 交 通 機 関

交 通 サ ー ビ ス 属性 に 違 い が あ る

選 好 表 明 法 に は

， 環 境 変 化 に 対 す る 支 払 意 志 額 を 直 接 た ず ね る 仮 想 評 価 法

や ， 複 数 の 環 境 政 策 の 代 替 案 を 提 示 し て 選 好 を 尋 ね る コ ン ジ ョ イ ン ト 分 析

価 格 感 度 測 定 法 など の 評 価 手 法 があ る

選 好 表 明 法 は

バ イ ア ス の 回 避 など を 理 由 に

評 価 対 象 を 限 定 し た 上 で 最 も 適 切 な 手 法 を 用 い て 評 価 す る 必 要 が あ る

重 回 帰 モ デ ル 式に よ り 評価 し た も のには

例 え ば 伊藤 ほ か（

）が あ る

コ ミ ュ ニテ ィ バ ス のサ ー ビ ス 水準 が変 更 さ れ た 時 の利 用 意 向（ 利 用状 況 の変 化 ） を 把 握

利 用 頻 度 の変 化 ・ 運 賃収 入を 予 測 す る モ デル の 開 発を 行 っ た

コ ン ジ ョ イ ン ト分 析 に より 評 価 を 行った 大 野 ほ か（

）は

市 町 村 乗 合 バ ス に 対 す る 住 民 の 税 金 支 払 意 思 を 価 格 感 度 測 定 法 を 用 い 測 定 し

バ ス 交 通 の 必 要 性 や サ ー ビ ス 水 準

住 民 の 価 値 観 に よ る 差 を 検 証

バ ス サ ー ビ ス 水 準 に 関 し て

「 バ ス の 運 行 本数 」が 最 も重 視 さ れてい る 事 を 示 し た

ま た

田 邊（

）は

選

択 型 コ ン ジ ョ イン ト 分 析を 利 用 し ，地域 住 民 の 望 む 自治 体 バ スの サ ー ビ スとは

何 か ，そ し て 住 民は そ の サ ービ ス に 対し て ど の 程 度 の支 払 意 思額 を 持 つ のか推

定 す る た め

同 じ 市 内 に 居 住 す る 住 民 で は あ る も の の

居 住 地 が 交 通 不 便 地 域 と

離 れ て お り

直 接 的 な 受益 者 と は なり にく い 住 民 を 対 象と し た 分析 を 実 施 した

藤 原 ほ か （

） は

道 路 整 備 評 価 に

住 民 の 意 識 構 造 を 反 映 さ せ る た め に 主

観 的 便 益 と い う新 た な 指標 を 導 入 し

マニ ュ ア ル（ 案）で 計 測の 対 象 とな っ てい

る 自 動 車 利 用 者 の 立 場 で の 走 行 時 間 短 縮 便 益

走 行 費 用 減 少 便 益

交 通 事 故 減 少

便 益 と い う 三 便 益 以 外 に

住 民 の 関 心 が 高 い 自 動 車 利 用 者 の 立 場 で の 走 行 快 適

性 の 変 化

歩 行 者 の 立 場 で の 歩 行 安 全 性 の 変 化

沿 道 居 住 者 の 立 場 で の 生 活 環 境

へ の 影 響 の

つ の 整 備 効 果 項目 に 対 して 主 観 的 便 益 額の 推 計 を

ア ン ケ ー

ト 調 査 か ら 行 い

定 量 的 な 評 価 を 行 っ た

さ ら に 主 観 的 便 益 が 性 別 ・ 年 齢 別 な ど

の 個 人 属 性 の 違い に よ り異 な る こ とを明 ら か に し た

14

ま た

地 方 都 市 の 生 活 交 通 手 段 確 保 の た め の

循 環 バ ス 導 入 に 対 す る 住 民 の 利 用 意 思 と 運 賃 評価 を ロ ジッ ト 型 価 格感度 測 定 法（あ る 商 品 に対 し

① 安 い と 感じ る ② 高 い と 感 じる ③ 高 すぎ て 買 わ ない④ 安 す ぎ て 買 わな い の

つ の 価 格 を 問う ） の 適 用 に よ り 行っ た

実 験 運 行 で は事 業採 算 性 の 取 れ な い

円 を 運 賃 と して 設 定 し て い た が

こ の 調 査 に よ り

運 賃 収 入 が 人 件 費 と 燃 料 費 を 併 せ た 金 額 と 同 等 で あ る

に し て も 利 用 意 思 のあ る人 が 見 込 め る 事を 示 唆 した 岸 ほ か（

） の 研 究 な ど が ある

表

既 往 研 究 ＜ 交 通 サ ー ビ ス に 対 す る 支 払 意 思 額 調 査 ＞

ま た

特 定 の 評 価 対 象 者 や

特 定 の 交 通 サ ー ビ ス に 着 目 し て 支 払 意 思 額 を 評 価 し た 先 行 研 究 もあ り

伊 勢（

）は

買 い 物 弱 者 を 対象 に

個 人 属 性 と 地域 属性 を 考 慮 し た 買 い 物 支 援 施 策 の 支 払 意 思 額 に 関 す る 要 因 分 析 を 行 っ た

具 体 的 に は

個 人 属 性

周 辺 交 通 環 境

周 辺 買 い 物 環 境

買 い 物 困 難 度

買 い 物 行 動 実 態 と 併 せ て

各 種 買 い 物 支 援 施 策 の 充 実 の 必 要 性 と 利 用 意 向

支 払 意 思 額 に つ い て ア ン ケ ー ト に よ り 調 査 を 行 っ た

バ ス や タ ク シ ー な ど の 既 存 効 用 交 通 の 利 用 頻 度 と 絡 め た 分 析 は 行 っ て い な い も の の

支 払 意 思 額 の 規 定 要 因 と そ の 影 響 度 を 明 ら か に し

そ の 他 の 買 い 物 行 動 様 式 の 利 用 頻 度 に 関 す る 分 析 結 果 と の 比 較 に お い て の 知 見 を 得 た

こ れ と 近 似 し た も の で 古 川 ほ か （

） は

住 民 の 将 来 の 買 い 物 支 援 サ ー ビ ス や 公 共 交 通 の 利 用 意 向 を 調 査 し

そ れ ら サ ー ビ ス の 維 持 に 対 す る 支 払 意 思 額 に つ い て 分析 を 行 っ た

結 果

個 人 属 性 の 差 や

居 住 地 に よ る 差 を明 ら か に し た

評価対象 分析手法 評価対象としたサービス水準

伊藤ほか（2014） コミュニティバス 重回帰分析 運賃、運行間隔、移動時間、支払種別（無料、定期、不定期）

大野ほか（2000） 乗合バス 価格感度測定法、コンジョイント 税額（一年）、バス停までの距離、運行本数、バスの役割に対する意識 南ほか（2016） 乗合タクシー コンジョイント分析 同乗する利用者の性別、早まる出発時間、相乗りする際の運賃、

坂本ほか（2009） バス近接通知サービス CVM 運行頻度、定時性、現状のバス利用状況、携帯でのバスロケの利用の有無 高木ほか（2009） コミュニティバス ロジットモデル 運行間隔、運賃、バス停までの徒歩時間、

森田ほか（2018） 自動運転 CVM,コンジョイント 燃料、自動運転レベル、自動運転で事故減、オプションの追加料金

藤原ほか（2000） 道路 CVM 道路の車幅、歩道の整備、騒音、

河野ほか（1996） 道路 パラメータ推定 料金、所要時間、遅れ時間、混雑レベル

田邊（2005） バス コンジョイント 運賃、運賃割引の有無、一便あたりの最低利用者数、税金（年）

森山ほか（2002） バス コンジョイント 運賃、運行本数、買い物宅配サービス、

新倉ほか（2008） 鉄道 離散選択ロジットモデル 料金、時間、着席可能性、混雑率

藤生ほか（2011） 鉄道 生存分析 利用頻度、乗換回数、所要時間、遅延回数、遅延時間、総所要時間、余裕時間、路線

15

ま た

福 祉 有 償 運 送 に 着目 し た 研 究と して

猪 井 ほ か（

）は

事 業 の 持 続 性 の 検 討 を 行 う た め

利 用 者 の 支 払 意 思 額の 調 査 を 行 っ た

結 果

赤 字 発 生 要 因 を 示 し

高 所 得 者 に は 運 行 対 価 を 上 げ る な ど

個 人 の 経 済 状 況 に 合 わ せ た 対 価 設 定 な ど の 必 要 性 を 示し た

森 田 ほ か（

）乗 用 車 の 自動 運 転 機能（ 人 工 知 能 に 運転 を 任 せ る機 能 の 内

特 定 の 条 件 下 で 運 転 を 任 せ る 条 件 付 き 自 動 運 転 と 乗 車 中 は 全 て 自 動 運 転 に 任 せ る 完 全 自 動 運転 ） の それ ぞ れ に 対する 支 払 意 思 額 を

及 び コ ン ジ ョ イン ト 分 析 の 両 方 を行 い 比 較し な が ら 評価を 行 っ た

予 約 運 賃 に 着 目し た 川 崎ほ か（

）は

現 在 の 乗り 合 い タ クシ ー に イ ール ド マ ネ ジ メ ン ト の 導 入 を 想 定 し た 場 合 に お い て 予 約 期 限 別 の 運 賃 に 対 す る 支 払 意 思 額 を 表 明 選 好 法 に よ り 評 価 し

イ ー ル ド マ ネ ジ メ ン ト を 導 入 す る 際 は 事 前 予 約 に よ る 割 引 運 賃 と 予 約 期 限 の 組 み 合 わ せ に よ っ て

利 用 者 数 と 収 益 が 変 化 す る こ と を し めし た

南 ほ か（

）は

知 ら な い 人と の 相 乗り タ ク シ ー サ ービ ス に 関す る 支 払 意思 額 を コ ン ジ ョ イ ン ト 分 析 を 用 い て 算 出 し た

結 果

同 乗 者 の 性 別 の 重 要 度 が 男 女 で 大 き く 異 な るこ と を 示し た

新 倉 ほ か（

）時 間 帯 別 混 雑 率の 推計 を 行 い 混 雑 の実 態 を 把握 し

利 用 者 の 混 雑 緩 和 に 対 す る 支 払 い 意 思 額 に つ い て 検 討 を 行 い

夜 間 の 混 雑 緩 和 の た め の 施 策 実 現 へ 向 け た ケ ー ス ス タ デ ィ を 行 い

藤 尾 ほ か （

） は

鉄 道 サ ー ビ ス の 遅 延 を 原 因 と す る 損 失 時間 縮 減 に 対 する 支 払 意 思 額 を 推 定 し

結 果

利 用 回 数

損 失 時 間

縮 減 時 間

遅 延 遭 遇 率 が 支 払 意 思 額 の 期 待 値 に 影 響 を 与 え て い る こ と が 明 ら か と な っ た

他 に も 「 交 通 渋 滞 に よる 肉 体 的 不快 感」に 対 す る 価 値意 識 調 査を 行 っ た

河 野 ほ か（

）や

バ ス 近 接 通 知 サー ビ スの 利 用 意 向を

に よ っ て 調 査し た坂 本 ほ か （

）

等 が あ る

ま た

少 数 で は あ る が

観 光 客 を 対 象 とし た 研 究 も 存 在 し

い ず れ も 訪 日 外 国 人

旅 行 客 を 対 象 とし た 調 査を 行 っ て いる

野 瀬 ほ か（

）は 都 区 内 に おけ る 仮想

の 交 通 パ ス に 対 す る 外 国 人 旅 行 者 の 支 払 意 思 額 及 び 交 通 パ ス 購 入 に よ る 心 理

的 ・ 時 間 的 負 担の 軽 減 と支 払 意 思 額との 関 連 性 を 考 慮す る 分 析 を

を 適 用

し 行 っ た

結 果

交 通 パ ス の 利 用 に お け る 公 共 交 通 機 関 利 用 時 の 負 担 感 の 軽 減 を

16

構 成 す る 要 素 と 支 払 意 思 額 と の 関 係 性 を 明 ら か に し た

ま た

早 川 ほ か （

） は

訪 日 外 国 人 の ニ ー ズ に 対 応 し た 交 通 施 策 を 検 討 す る た め

， ジ ャ パ ン レ ー ル パ ス を 対 象 に

国 別 の 支 払 意 思 額 を 算 出 し

東 京 圏 に お け る フ リ ー パ ス に 対 す る 選 好 に つ い て コン ジ ョ イン ト 分 析 により 検 討 を 行 っ た．

図

地 域 内 モ ビ リ テ ィ サ ー ビ ス の 価 値

ま た

地 域 内 モ ビ リ テ ィ サ ー ビ ス の 価 値 と し て

利 用 を 前 提 と す る こ と に よ り 発 生 す る 価 値 だ け で は な く

環 境 質 を 次 世 代 に 残 し た い と い う 動 機 か ら 発 生 す る 遺 産 価 値 や

ほ か の 人 間 が 利 用 す る と い う 前 提 と し て 発 生 す る 代 位 価 値

環 境 質 が 存 在 す る とい う 情 報・状態 が 得 られ る こ と か ら 発生 す る 存在 価 値 な どが挙 げ ら れ

主 に 地 域 住 民 を対 象 と し た支 払意 思 額 調 査 が 行わ れ て いる

遺 産 価 値 に つ いて は

湧 口 ほ か（

）は 存 続 が危 ぶ ま れ てい る 路 線バ ス を

17

対 象 に オ プ シ ョン 価 値（ 現 在 の路 線 バス サ ー ビ ス の 維持 に 対 する 支 払 意 思額

路 線 バ ス 廃 止 に 対す る 支 払意 思 額

将 来 の路 線 バ ス 維 持 に対 す る 支払 意 思 額）を計 測 し た

川 端 ほ か（

）は 国 外 で 研 究が 進 ん で い る 表明 選 択 法

を 提 案し

富 山 ラ イ ト レ ー ル お よ び 富 山 地 方 鉄 道 を 対 象 に し て 鉄 道 運 行 の 廃 止 や 最 寄 り 駅 の 廃 止 と い っ た 仮 想 的 な プ ロ フ ァ イ ル を 設 定 し て

オ プ シ ョ ン 価 値 と 消 費 者 余 剰 を 算 出 し，そ の オプ シ ョ ン 価値 便益 の 持 つ 意 味 を吟 味 し，公 共 交 通機 関の 正 当 な 評 価 の ため に オ プシ ョ ン 価 値を含 め た 検 討 の 重要 性 を 指摘 し た．他 にも

運 輸 政 策 研 究 機構 は 地 方鉄 道 を 対 象都と し

存 在 効 果 の 便 益 額を 算 出 し，鉄 道存 続 と バ ス 代 替 の費 用 便 益分 析 を 行 った事 例 が 存 在 す る．

代 位 価 値 に つ いて は

中 西 ほ か（

）は 公 共 交 通 空 白地 区 に おけ る ア ク セス 公 共 交 通 に 着 目 し

そ の 利 用 者 と 非 利 用 者 の 交 通 環 境 や 補 助 の 違 い に よ る 支 払 意 思 額 構 造 に つ い て 分 析 を 行 っ た

パ ラ メ ー タ 推 定 の 結 果

分 類 別 に 重 要 と し て い る サ ー ビ ス 属性 が 異 なる こ と を 示した

川 端（

）は コ ミ ュ ニ ティ バ ス の運 営 主 体 の 違 い が 非 受 益 地 域 市 民 の 内 発 的 動 機 に 働 き か け

サ ー ビ ス に 対 す る 支 払 意 思 に 及 ぼ す影 響 を 定量 的 に 把 握した

存 在 価 値 に つ い て は

黒 川 ほ か （

） は 長 野 県 上 田 交 通 別 所 線 を 対 象 に

竹 田 ほ か （

） は

地 方 鉄 道 の 存 続 に 対 し て

存 在 効 果 も 含 め た 支 払 意 思 額 評 価 を 行 っ た

鉄 道 ま た は

バ ス 代 替 の い ず れ の 手 段 で あ っ て も

自 動 車 に よ る 移 動へ 転 換 す る よ り も こ れ ら 公 共 交 通 を 存 続 す る 方 が 社 会 的 便 益 が 大 き い こ と を 定 量 的 に 示 し た

支 払 意 思 額 の 研 究 に つ い て は 上 記 の よ う な 蓄 積 が あ る

評 価 対 象 や 視 点 は

様 々 で あ る が

そ の 多 く は 日 常 交 通 を 対 象 と し た も の で あ り

観 光 客 の 支 払 意 思

額 要 因 に つ い て

特 に 地 域 内 モ ビ リ テ ィ サ ー ビ ス に つ い て 言 及 し て い る も の は

現 時 点 で は 存 在せ ず

こ の 点 に お いて 研究 の 新 規 性 が ある と 言 える

18

第 2 章 二次交通 の特性と需要調 査 に必要な視 点の整 理

2.1

二 次 交 通 の 定 義と 特 性 の整 理

本 節 で は

観 光 交 通 の 特 性 に つ い て 日 常 交 通 と 比 較 し な が ら 整 理 し

二 次 交 通 の 需 要 調 査 に おい て 必 要な 分 析 視 点，内 容 の 整 理 を 行う

日 常 交 通・観光 交 通を 計 画 す る 上 で

住 民・観 光 客 それ ぞ れ のニ ー ズ を 満 た す交 通 を 提供 す る こ とが第 一 の 目 標 で あ る が

そ れ ぞ れ 移 動 特 性 が 違 う 上 に

提 供 す る 上 で 重 要 視 す る ポ イ ン ト も 異 な る

例 え ば

地 域 交 通 は 地 域 住 民 の 日 々 の 生 活 の 最 低 限 を 保 証 す る こ と や

地 域 間 の 公 平 性 を 保 つ こ と な ど

公 共 サ ー ビ ス と し て の 位 置 付 け が 計 画 設 計 段 階 で 大 き く 影 響 を 及ぼ す 重 要 な 部分 で あ る と 言 え る

一 方

観 光 交 通 は

“利 用 し た い と き に許 容 で きる サ ー ビ ス水準 の 交 通 が 受 容価 格 内 で提 供 ”さ れ てい る 事 が 重 要 で あ り

よ り 利 用 者 の ニ ー ズ に 即 し た サ ー ビ ス の 提 供 が 求 め ら れ る

2.1.1

観 光 交 通 の 特 徴・ 観 光 行動 の 特 性

本 著 で は

「 観 光 」と は「 余 暇時 間 の中 で

日 常 生 活 圏 を 離 れて 行 う 様 々な 活動 で あ っ て

触 れ 合 い

学 び

遊 ぶ と い う こと を 目 的 と す る も の 」 と定 義 し （ 観 光審 議 会 答 申「 今後 の 観 光政 策 の 基 本方 針 」 （

））

「 観 光 交通 」と は

観 光 を目 的 と し た 移 動 を 意 味 す る

通 勤 や 業 務 交 通 を 主 体 と し た 日 常 交 通 で は

一 般 的 に 規 則 的 で 安 定 し た 交 通 特 性 を 示 す の に 対 し て

観 光 交 通 は 観 光 の 多 様 な 活 動 内 容 や 行 動 パ タ ーン を 反 映し た 特 有 の交通 現 象 と な っ てい る

表

各 種 交 通 の 特 徴

19

観 光 交 通 の 特 徴は

表

の 示 す 通 り

通 勤 や 業 務 交 通 を主 体 と した 日 常 交 通と 大 き く 異 な る

日 常 交 通 は

移 動 目 的 ご と に

パ タ ー ン や

移 動 時 間 帯

求 め ら れ る サ ー ビ ス 内容 （ 時 間価 値 ） が 決まっ て お り

全 体 と し て

あ る 程度

日 の 行 動 パ タ ー ン が 固 定 化 さ れ て お り

そ れ ら を 反 映 し た 交 通 計 画 を 形 成 し て い る

一 方

観 光 交 通 は 非 日 常 利 用 で あ る た め

不 定 期 な 利 用 が な さ れ る だ け で な く

パ タ ー ン に お いて も 日 常交 通 の よ うに固 定 し て お ら ず

人

人 の 行 動 パ タ ーン が 多 様 に 存 在 す る

ま た

時 間

曜 日

季 節

天 候

イ ベ ン ト の 有 無 等 の 要 因 に よ り

目 的 だ け で な く

外 的 要因 に よ っ て も

日

日 異 な る 行 動 パ タ ー ンを 形 成 する

故 に

行 動 調 査 に お い て

人

人 の 行 動 パ タ ー ン を 詳細 に 把 握す る 必 要 がある だ け で な く

日 単 位 で の 需 要 予 測 お よ び 反 映 を 行 っ て い く 必 要 が あ る 場 合 も あ る と 考 え ら れる

ま た

観 光 客 の 置 か れ て い る 状 況 に よ っ て

求 め ら れ る サ ー ビ ス 内 容 （ 時 間 価 値 ） の 変 動 が 大 き く 認 め ら れ る 点 が 特 徴 と し て 挙 げ ら れ る

例 え ば

観 光 地 へ の 来 訪 経 験 の 有 無や

日 の 旅 行 ス ケジ ュー ル

利 用 時 間 や 周 り の環 境

観 光 客 本人 の 状 態 に よ っ て

同 一 人 物 で あ っ て も

同 じ 二 地 点 間 の 移 動 に 対 し て 求 め ら れ る 交 通 サ ー ビ ス の 水 準 が 大 き く 変 動 す る こ と が 考 え ら れ る

同 一 人 物 で あ っ て も

同 じ 二 地 点 間 の 移 動 に 対 し て 求 め ら れ る 交 通 サ ー ビ ス の 水 準 が 異 な る 場 合 が あ る と 言 う 事 は 日 常 交 通 で も 言 え る 事 だ が

日 常 交 通 の 場 合 は 目 的 別 に 求 め ら れ る サ ー ビ ス 内容（ 時 間価 値 ）の 振 れ幅 が 小 さ い と 考え ら れ

全 体 利 用 者数 が多 い 点 も 含 め て

全 体 を 平 均 し て 計 画 を 立 て る 事 は 比 較 的 合 理 的 で あ る と 言 え る だ ろ う

一 方

観 光 交 通 は 上 述 の 通 り

利用 者 が 少 な い 中 で 移 動 パタ ー ン が 多 いう え に

求 め ら れ る サ ー ビ ス 内 容 （ 時 間 価 値 ） の バ リ エ ー シ ョ ン の 多 く

全 体 を 平 均 し て 計 画 を 立 て る 事 は 得 策 と は 言 え ず

よ り 個 々 の ニ ー ズ に 合 致 し た 交 通 サ ー ビ ス の 提 供 が 求 め ら れ る と 言 え る だ ろ う

現 在 策 定 さ れ て い る 交 通 計 画 を 見 て も

日 常 交 通 の 利 用 者 ニ ー ズ と 別 に 観 光 目 的 の 利 用 者 ニ ー ズ を 聞 い て い る も の は 多 く 見 ら れ る が

更 に そ の カ テ ゴ リ ー を 細 分 化 し

観 光 交 通 の 利 用 者 ニ ー ズ を 明 ら か に し 計画 策 定 に活 用 し て いる事 例 は あ ま り 見ら れ な い

更 に

観 光 交 通 は

発 生 頻 度 の 低 さ も 相ま っ て 捉 え る の が 非 常 に 困難 で あ る

こ

れ に つ い て は 近 年

技 術 の 革 新 に よ り

携 帯 電 話 端 末 か ら 取 得 さ れ る 位 置 情 報 デ

ー タ や

カ ー ド デ ー タ な ど の ビ ッ グデ ー タ に よ る 調 査 手 法が 広 く 考 え ら れる

20

よ う に な っ た

（ 表

）

ビ ッ グ デ ー タ によ り

需 要 変 動 の 非常 に大 き い 観 光 交 通に 対 し て

年 間 安 定 的 に か つ

ア ン ケ ー ト と比 較 し て も低 労力 ・ 低 予 算 で デー タ の 取得 を 期 待 でき る よ う に な っ た

そ の 一方 で

既 存 の ビッ グ デ ー タ に よる 観 光 客動 向 の 把 握に限 界 が あ る の も 事実 で あ る

個 人 の 行動 や滞 在 場 所 を 高 精度 で 把 握で き る 一 方で

行 動 の 要 因 を 直接 把 握 でき な い こ とや

観 光 行 動 か 否 かと 言 う 判断 に お い ては

デ ー タ の 取 得 方法 な ど に依 存 し

推 定 でし か 論 ず る こ とが 出 来 ない な ど の 制限 が 認 め ら れ る

ま た

実 際 に 起 こ った 行動 （ 顕 在 需 要 ）の み し か分 析 す る ことが 出 来 ず

潜 在 化 し た 需 要に つ い て は把 握す る 事 が で き ない

移 動 の 需 要 は 提供 さ れ て い る 交 通 サー ビ ス によ り 顕 在 化して い る も の で あり

こ う し た 需 要 への 対 応 と は 別 に

潜 在 化 し てい る 需 要 つま りモ ビ リ テ ィ ニ ーズ ま で 立ち 入 っ た 対応 が 求 め ら れ て いる

こ の 点 に お い て

既存 の 交 通 サ ー ビス の 再 考や 新 た な 交通サ ー ビ ス の 導 入 を議 論 ・ 検討 す る 際 に

観光 客 の ニ ー ズ を把 握 す る上 で は

ビ ッ グ デ ー タ か ら 取 得で き る 情報 だ け で は不十 分 で あ る と 言え る

表

観 光 行 動 調 査 手 法 の 種 類

21 2.1.2

観 光 地 に お い ての 交 通 の役 割

観 光 地 に お い ての 交 通 の役 割 に 関 して森 地 他（

）は 表

の 通 り

点 を 挙 げ 整 理 し て い る

さ ら に

同 著 に おい て

一 般 に 交 通 計 画の 目 標 は

円 滑（ 効 率）と 快 適 の

点 で あ る が

観 光 地 交 通計 画の 場 合

） ～

） の 役 割 を 個 別 観光 地 の特 性 に 合 わ せ い か に 調 整 し

目 標 設 定 す る こ と が 大 き な 課 題 で あ る と 述 べ て い る

観 光 地 自 体 の 魅 力 が 交 通 に よ り 大 き く 左 右 さ れ る と 言 え る

交 通 に よ り 観 光 地 内 の 人 の 流 れ

需 要 を 調 整 す る こ と に よ り

大 き く 観 光 地 特 性 ・ 環 境 を 変 化 さ せ る こ と に も 繋 がる

表

観 光 地 に お い て の 交 通 の 役 割

上 述 の 役 割 を 踏 ま え て

観 光 地 計 画 は 最 終 的 に ① 観 光 地 の 魅 力 向 上 と 観 光 地 訪 問 者 の 満 足 度 の 向 上 ② 観 光 資 源 容 量 内 で の 需 要 増 加

観 光 地 内 で の 滞 留 時 間 と 周 遊 性 の 拡 大③ 交 通 問題 （ 混 雑

事 故

快 適 性

環 境 問 題 ） の改 善 の

つ を 図る こ と が 課 題 で ある と 言 える と 述 べ ている

2.1.3

市 場 特 性

観 光 交 通 市 場 特 性 は 観 光 行 動 の 特 性 と 密 接 な 関 係 が あ り

併 せ て 考 慮 す る 必 要 が あ る

に お い て 記 述 し た 事 と 重 複 す る 部 分 も あ る が

観 光 交 通 市 場 特 性 に つ い て 代 表的 な も のを 以 下 に 述べる

1

） 変 動 性

同 じ 観 光 地 に お い て も

季 節 や 曜 日

天 候

イ ベ ン ト の 有 無 によ っ て 観 光 地 訪問

者 が 享 受 す る 効 用 が 大 き く 異 な る

例 え ば

東 京 都 に 立 地 す る 高 尾 山 は 年 間

22

万 人 以 上 が 訪 れ る 国 内 外 問 わ ず 人 気 の 観 光 地 で あ る が

こ こ に お い て 観 光 地 訪 問 者 は

月 上 旬 の 大 型連 休 間 と 秋季 紅葉 期

元 旦 に 集 中 し て いる

そ れ に 伴 い駐 車 場 の 不 足 や 周辺 の 渋 滞問 題 等 の 交通問 題 が

年 間 で お お よ そ

日 前 後 の 日 程 に 集 中 し て 発 生 し て い る

こ の よ う に 観 光 行 動 は 需 要 変 動 が 大 き く

ま た 不 規 則 な 波 動 を 示 す 場 合 も 多 々 あ る 反 面

季 節 等 そ の 時 々 の 魅 力 が 市 場 価 値 を 持 ち

需 要 を 拡 大 す ると い う 特性 が あ る

2

） 蓄 積 不 可 能 性 とサ ー ビ ス の属 地 性

観 光 需 要は

）で 記 述 し た よう に 変動 が 大 き く

そ の 時 々 によ っ て 享 受す る効 用 が 大 き く 異 な る

そ の 中 で

観 光 資 源 ・ 施 設 の 立 地

空 間 配 置 に 柔 軟 に 対 応 する 供 給 は 往 々 に し て 困 難 を も た ら す

交 通 は 年 間 の 利 益 に 対 応 す る 供 給 が な さ れ る た め

ピ ー ク 時 の 供 給 不 足 や サ ー ビ ス の 低 下 が 発 生 す る

ビ ー ク 時 に 合 わ せ た 設 定 で は ピ ー ク 時 以 外 の 供 給 過 剰 と な っ て し ま い 大 き な 赤 字 を 計 上 す る 恐 れ が あ る

ま た

観 光 地 間 の 移 動 の 短 縮 が 必 ず し も サ ー ビ ス の 向 上 に な る と は 言 え ず

移 動 を 楽し ま せ る こと は サ ー ビス の向 上 に な る ケ ース も あ る

3

） 様 々 な 構 成 主 体

観 光 市 場 を 構 成 す る 主体 は

観 光 地 訪 問 者

交 通 事 業 者

宿 泊 業 者 な ど の 観 光関 連 事 業 者 の 他 に も 行 政

地 域 住 民 な ど 様 々 で あ り 相 互 に 複 雑 に 関 連 し あ っ て 市 場 を 形 成 し て いる

4

） 効 用 か ら 見 た 混雑 の 二 面 性

混 雑 は

一 般 の 交 通 市 場 で は

サ ー ビ ス 水 準 の 低 下 や

環 境 問 題 を も た ら す 要因

で あ り

観 光 交 通 に お い て も 同 様 で あ り

そ れ だ け で な く

歴 史 的 ・ 文 化 的 雰 囲気

の 魅 力 低 下 等 の 問 題 を も た ら す

例 え ば 日 本 に お い て 登 録 さ れ て い る 世 界 遺 産

の

つ で あ る 白 川 郷 で は 大 量 の 自 動 車 に よ る 来 訪 者 の 問 題 は こ の 例 で あ る

一

方 で

そ の 混 雑 が 「 賑 わ い 」 と し て 観 光 地 の 魅 力 に 寄 与 す る 場 合 も あ り

バ ラ ン

ス を 考 慮 す る 必要 が あ る

23 5

） 地 域 社 会 と 観 光地 の 空 間 的・ 機 能的 重 複

多 く の 観 光 地 域 は 居 住 地 域 な ど と 重 複 あ る い は 隣 接 す る 特 性 を 有 し

道 路 な ど の 基 盤 施 設 を 共 有 し て い る

観 光 地 来 訪 者 は 居 住 者 の 生 活 空 間 へ 踏 み い る 事 と な り

混 雑 に よ る 居 住 者 へ の 影 響 や プ ラ イ バ シ ー の 問 題 な ど を 起 こ す こ と に も な る

例 え ば

江 の 島 の 江 ノ 電 は

観 光 客 利 用 者 の 増 加 が

地 域 住 民 の 日 常 利 用 に 支 障 を 及 ぼ す レ ベ ル に 達 し

対 応 を 求 め ら れ た な ど の 事 例 が あ る

交 通 に お い て も 一 定 数 の 重 複 活 用 が 認 め ら れ

観 光 交 通 計 画 を 行 う 上 で

地 域 住 民 の 活 動 を 考 慮 す る 必 要 が あ る

む し ろ

地 域 交 通 に お い て プ レ イ ヤ ー の 大 半 は 地 域 住 民 で あ り

不 定 期 で あ り 少 数 の 観 光 客 は 地 域 住 民 主 体 の 交 通 計 画 に よ っ て 形 作 ら れ た 交 通 体 系 の 中 で 観 光 行 動 を 行 う 場 合 が 多 い

そ の た め

観 光 客 の ニ ー ズ に 合 致 し た 交 通 体 系 に な っ て い な い 地 域 が 大 半 で あ り

地 域 住 民 の 活 動 を 中 心 と し な が ら も

観 光 客 ニ ー ズ を 取 り 込 め る よ う な 交 通 体 系 の 作 成 を 目 指 し て い く こ と が 求 め ら れ て きた

図

観 光 地 交 通 計 画が 観 光 地 に与 える 影 響 （ 森地

）

24

地 域 住 民 の 利用 す る 交通 を 土 台 として 観 光 交 通 を 考え る 必 要を 述 べ た が

地 域 の 実 情 と し て

年 々

利 用 者 が 減少 し

サ ー ビ ス レ ベ ルの 減 少 して い る 地 域交通 に 対 し て

不 定 期 で あ り少 数 の 観 光客 のた め に 一 定 程 度の サ ー ビス レ ベ ル を維 持 し

更 に 赤 字 が 膨 ら むこ と は 本 末転 倒で あ る と 言 わ ざる を 得 ない

本 研 究 で は

ま ず

地 域 交 通 の 住 民 利用 と 観 光 客利 用を 完 全 に 分 離 し

観 光 客の 交 通 サ ービ ス に 対 す る ニ ー ズを 明 ら かに し た う えで

既 存 交 通 と の 共存 や

観 光 客 独 自 の交 通 体 系 （ 旅 館 の 所有 す る 交通 サ ー ビ スの利 用 ）

料 金 制 度 （ 法 的外 目 的 税 等） に つ い て 検 討 を 行う

6

） 観 光 地 の 魅 力 への 大 き な 依存 性

観 光 地 選 択 に お い て

観 光 地 や 観 光 施 設 の 魅 力 ・ 資 源 特 性 の 影 響 が 大 き く

そ れ ら が 観 光 交 通 行 動 に 寄 与 す る こ と は 自 明 で あ る

観 光 資 源 の 魅 力 が 高 け れ ば

一 般 的 に 観 光 交 通 へ の 需要 は 集 中 す る

一 方 で

非 常 に 交 通 利 便 性 が 高 く と も

目 的 地 で あ る

観 光 地 や 観 光 施 設 の 魅 力 が 乏 し け れ ば そ も そ も 利 用 さ れ な い と い え る

観 光 交 通 計 画 は 地 域 資 源 そ の も の の 魅 力 を 適 切 に 見 極 め

最 大 の 効 用 を 得 ら れ る よ う 設 計す る 必 要が あ る

一 方 で

交 通 自 体 が 観 光 活 動 の 一 部 で あ る た め 観 光 交 通 が 観 光 地 の 魅 力 向 上 に 寄 与 す る 場 合 も 存 在 す る

例 え ば

複 数 の 観 光 地 同 士 の ア ク セ ス を 可 能 に す る こ と で

観 光 者 が 複 数 の 観 光 資 源 を セ ッ ト と し て と ら え

魅 力 が 向 上 す る 場 合 も あ る

逆 に

「 行 き に く い 」 と 言 う こ とが 観 光 資 源 の 希 少 性 を 高め

観 光 地 の 魅 力 を 向 上 さ せ る 場 合 も あ り

そ れ ぞ れ の 観 光 地 特 性 や 周 辺 の 状 況 を 含 め た 判 断 が 求 め ら れ る

逆 に

ガ イ ド バ ス や ラ ッ ピ ン グ バ ス な ど の 魅 力 の 向 上 が 観 光 地 そ の も の の 魅 力 向上 貢 献 する よ う な ケース も あ る

7

） 需 要 の 随 意 性

観 光 行 動 は 余 暇 活 動 で あ り

移 動 を 行 う 事 で

行 先 で の 目 的 を 必 ず 達 成 し な け

れ ば な ら な い と い う 類 で は な い

少 し の 環 境 の 変 化 で 観 光 客 は 移 動 先 を 変 え る

こ と が 出 来 る

観 光 客 は“ 利 用し た い とき に 許 容 で き るサ ー ビ ス水 準 の 交 通が受

容 価 格 内 で 提 供 ” さ れ て い る 事 が 重 要 で あ り

観 光 交 通 は そ の 需 要 を 十 分 に 把

握 し

利 用 者 の ニ ー ズ に即 し た サ ービ スの 提 供 が 求 め られ る

25 2.1.4

観 光 交 通 の 種 類・ 分 別

観 光 交 通 は

で 記 述 し た よ うに

非 日 常 な 場 所 へ の移 動 で 頻度 の 少 な い交 通 で あ る

ま た

日 常 交 通 よ り も 行動 範囲 は 広 範 囲 に 及ぶ

図

は 観 光 交 通を 分類 し て 示 し た も の で あ る

出 発 地 （ 居 住 地） か ら 出 発 し

観 光 地 で 観 光 活 動 を 行 い

帰 宅 す る ま で の間 の 交 通を 考 え る とき

観 光 地 ま で の「 観 光 ア クセ ス 交 通」と観 光 地 域 に お け る 「 周 遊 交 通 」 に 大 分 さ れ る

ま た

周 遊 交 通 に は 観 光 地 域 内 に お い て 観 光 地・ 観光 施 設 を めぐ る「 域 内周 遊 交 通 」と 複数 の 観 光 地域 を め く る際 に 用 い る 「 広 域 周 遊 交 通 」 に 分 け ら れ る

周 遊 性 を 持 ち

複 雑 な 交 通 流 動 を す る こ と も 観 光 交 通の 大 き な特 徴 で あ ると言 え る

図

観 光 に 関 す る 交 通 の 種 類

本 研 究 で は

観 光 地 訪問 者 が 出 発地（居 住 地 ）か ら観 光 地 へ 向か う 際 にま ず利

用 す る 幹 線 交 通（ 主 に 新 幹線・飛 行 機な ど ）の 観 光 アク セ ス 交 通を「 一 次 交通 」

観 光 地 に 幹 線 交通 に よ り到 着 し た 後に周 遊 す る た め に活 用 す る交 通（ 主 に 路線

バ ス な ど ） の 周遊 交 通 を二 次 交 通 と記載 す る

26

一 次 交 通 の 概 要

1962

年 の 全 国 総 合開 発 計 画（ 一 全総 ） 以 降

全 国 の 幹 線 交通 網 の 整 備が 着実 に 進 め ら れ て いる

平 成

年

月 現 在

日 本 全 国 の道 路 総 延 長 は

で あ り

圏 央 道 を は じ め と し て 依 然 整 備が 進 め ら れ て い る

道 路 事 業 以 外 で も

平 成

年 の 北 陸 新幹 線 の 高 崎駅 ― 金 沢駅 間 の 開 業 に つい て は メデ ィ ア で も大き く 取 り 上 げ ら れ

人 々 の関 心 の 高 いと ころ で あ る

幹 線 交 通 網 の整 備 は 「 都 市 間交 通 の利 便 性 の 向 上」や「住 民 の 生 活圏 の 拡 大」

「 物 価 の 低 下 」「 物 流 コ ス ト の 低 減 」 な ど の 恩 恵 を も た ら し

記 載 し た も の 以 外 に も 様 々 な メ リッ ト が もた ら さ れ

人 々の 生 活 を 豊 か にし た

観 光 に お い て も

一 次 交 通 の 発 展

つ ま り 高 規 格 幹 線 網 が 整 備 さ れ て い く に つ れ て

地 域 の 観 光 情 勢 を大 き く 変 えて いっ た 経 歴 が あ る

観 光 地 に お い て は

一 次 交 通 の 発 展 に よ る 多 く の 観 光 客 増 加 が 期 待 さ れ て 来 た

し か し

一 次 交 通 の 交 通 の 発 展 は 全 て の 観 光 地 に お い て 諸 手 を 挙 げ て 喜 ぶ こ と で は な い

一 次 交 通 の 発 展 は

観 光 地 域 間 の 競 争 を さ ら に 激 し い も の へ と 変 容 さ せ た

図

で 示 す 通 り

観 光 の 市 場 条件 は 幹 線 交 通 の発 展 に より 広 範 囲 に及ぶ よ う に な り

観 光 地 ま での 所 要 時 間・費用 等 の 交 通 抵 抗の 低 減 によ り 観 光 誘客の ポ テ ン シ ャ ル を 有 し た 人 口 が 増 加 し た 半 面

競 合 と な る 観 光 地 が 増 加 し た の で あ る

例 え ば 北 陸 新 幹 線 の 開 通 に よ り 長 野 県 の い く つ か の 地 域 に お い て は 開 業 前 と 比 較 し て 観光 客 の 減少 が 認 め られる 事 例 が あ る

（ ス ト ロー 効 果 ）

ま た

同 様 に 負 の 効 果 の 事 例 と し て

今 ま で 宿 泊 を 伴 っ た 観 光 を 行 っ て い た 層

が

高 規 格 幹 線 交 通 網 の発 展 に よ り

日 帰 り 圏 と な り

宿 泊 者 の 減 少 ・ 日 帰 り 観光

客 の 増 加

と な り

ト ー タ ル で 地 域 へ の 経 済 性 が 落 ち る 原 因 と も な る ケ ー ス が あ

る

こ れ に 煽 り を 受 け て

宿 泊 施 設 の 倒 産 が 相 次 い だ 地 方 部 の 観 光 地 も 多 数 存 在

す る

こ の よ う に 幹 線 交 通 の 発 展 は 観 光 地 に お い て 正 負 ど ち ら に 対 し て も 多 く

の 影 響 を 与 え て き た

こ れ ら の 変 化 に 対し て

負 の 効 果 が 出 る から

幹 線 整 備 を や

め る わ け に は い か な い

つ ま り

こ れ ら の 変 化 に 対 し て ど の 観 光 地 も た だ 結 果 を

享 受 す る 受 け 手 に 回 っ て は い け な い の で あ る

一 次 交 通 の 整 備 に 合 わ せ た 観 光

地 の 魅 力 増 加 や

新 た に 期 待 で き る 観 光 客 層 に 対 す る プ ロ モ ー シ ョ ン の 強 化 等

を 行 い

集 客 増 加 を 図 っ て い き

幹 線 交 通 網 整 備 に 依 存 す る こ とな く

選 ば れ る 地

域 ・ 魅 力 的 な 地域 を 形 成す る 必 要 性があ る の で あ る

27

図

観 光 の 市 場 条 件

二 次 交 通 の 概 要

観 光 活 動 に おい て

一 次 交 通 に より 観光 地 到 着 し た 後の 交 通 手段 全 般 を 指す

二 次 交 通 は

図

で 示 す 通 り

大 量 輸 送が 可 能 な

鉄 道 や 路 線 バス か ら

個 別 輸送 か つ 柔 軟 な 経 路設 定 等 のサ ー ビ ス の提供 が 可 能 な タ クシ ー ま で様 々 な 交 通手 段 が 存 在 す る

地 域 内 モビ リ テ ィ サー ビス を 検 討 す る 上で は

各 々 の 交 通 手段 特 性 を 最 大 限 に 活用 し て 観光 客 の ニ ーズに 対 応 し て い くこ と が 必要 に な る

図

二 次 交 通 の 種 類 と 輸 送 能 力 と 乗 降 方 式