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桑ノ木山のシマホルトノキ突然枯死について
島田 律子(東京都環境局・東京都専門委員)
要 約
父島の桑ノ木山で 2012 年 9 月以降に、シマホルトノキの大径木 2 本が急速に衰弱して枯 死する現象が見られた。枯死木を調査したところ、2010 年に発生が確認された南根腐病の 病徴とは異なり、生育環境の変化や気象的な要因に加えて、ファイトプラズマによる衰弱 の可能性も疑われた。
父島の桑ノ木山にはシマホルトノキ(Elaeocarpus photiniaefolius Hook. et Arn.,小笠原 固有種)の大径木が多数生育している。その果実の種子はアカガシラカラスバトの重要な 餌として利用されており、NPO 法人小笠原自然文化研究所(以下 I-Bo)では、2010 年よ り結実量の多い大径木を選定し、定点カメラを利用したハトの採食状況のモニタリングを 継続して行っている。この調査を通じて、定点カメラを設置していたシマホルトノキの大 径木(幹回り 2m50cm、樹高約 8m)1 本が 2012 年の 9 月、急激に衰弱し枯死に至ったこ とが判明した(図 1)。I-Bo の堀越和夫氏より、枯死の原因は 2010 年に発生が確認された
研究ノート
図 1 定点カメラを設置したシマホルトノキ
首都大学東京 小笠原研究年報 第 37 号 2014
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(島田ら、2013)南根腐病の罹病によるものではないかとの情報を受け、筆者が 2013 年 9 月に枯死したシマホルトノキを調査した。枯死したシマホルトノキからは南根腐病の特徴 的な病徴は確認できなかったが、調査木の周辺には南根腐病と思われる特徴を示し枯死し た樹木(シマホルトノキ以外は樹種不明)が数本観察された。そこで、2013 年 11 月に小 笠原諸島の菌類調査のため来島した森林総合研究所升屋勇人氏に枯死したシマホルトノキ を確認してもらった結果、根部において南根腐病の病徴が確認できなかったことから、枯 死の原因は南根腐病によるものではないと結論づけられた。また、同一の沢沿いに隣接し て生育するシマホルトノキの大径木(幹回り 2m20cm、樹高約 7m)にも枝の衰退枯死と 早期落葉が認められたことから、生育環境の変化や気象的な要因が関与する可能性も考え られるが、ファイトプラズマによる衰弱の可能性も疑われるとの所見であった。その数か 月後、この衰退が認められたシマホルトノキも枯死した(図 2)。
内地に分布する近縁のホルトノキ[Elaeocarpus sylvestris (Lour.) Poir var. ellipticus (Thunb.) Hara]ではファイトプラズマによる萎黄病が報告されており、本病にかかると、
葉の早期落葉、葉の小型化、枝枯れなどが樹冠全体に現れ、これらの症状が数年かかって 徐々に進行し最後には全身枯死にいたる。またファイトプラズマは接ぎ木伝染、およびヨ コバイ等の吸汁性の媒介昆虫により永続的に伝搬される(河辺・菊池・楠木・大野・加藤 ら 2001)。
ホルトノキ萎黄病は小田原市で天然記念物の指定を受けていた樹齢約 200 年生のホルト
図 2 2013 年 11 月以降枯死を確認したシマホルトノキ
島田:桑ノ木山のシマホルトノキ突然枯死について
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ノキ数本に甚大な被害を与え枯死させており(河辺ら、1999)、天然記念物の指定が解除さ れた(小田原市文化財保護委員会、2013)。ホルトノキとシマホルトノキは同属の近縁種で あり、桑ノ木山のシマホルトノキが枯死に至った経緯はファイトプラズマによる衰弱症状 に酷似している。ファイトプラズマの遺伝子診断法はすでに確立されており ( 河辺ら、
2000)、枯死の原因がファイトプラズマによるものかどうかの診断を行う必要がある。また 特定のヨコバイがファイトプラズマを媒介していることから(難波、2006)、シマホルトノ キ枯死に媒介昆虫が関わっているのかを解明することが望まれる。
謝辞
本調査を進めるにあたり、情報提供を頂いたNPO法人自然文化研究所・堀越和夫氏、
梅原祥子氏また調査協力およびご教唆を頂いた独立行政法人森林総合研究所・升屋勇人氏、
独立行政法人農業生物資源研究所・佐藤豊三氏に深くお礼申しあげる。
文 献
小田原市文化財保護委員会(2013)市指定文化財「旧MRAアジアセンター ODAWARA のホルトノキ」の指定解除について.平成 23 年度第 2 回小田原市文化財保護委員会 会議概要,1-3.
河辺祐嗣・菊池泰生・楠木学・大野啓一郎・加藤貞一(2001)ファイトプラズマによるホ ルトノキ衰弱枯死被害-ホルトノキ萎黄病ともうひとつの新病害-.樹木医学研究 5(1):39.
河辺祐嗣・楠木学・宮下俊一郎・菊地泰生(2000)樹木ファイトプラズマ病の遺伝子診断 法の開発.独立行政法人森林総合研究所,平成 12 年度研究成果選集 2000.
河辺祐嗣・楠木学・大野啓一郎(1999)ファイトプラズマによるホルトノキ萎黄病(新称).
日本植物病理学会報 65: 654.
島田律子・向哲嗣・小野剛・大林隆司・佐藤豊三・佐橋憲生・秋庭満輝・太田祐子・升屋 勇人・服部力(2013)父島・母島における南根腐病の発生状況および宿主植物.小 笠原研究年報第 36:71-77.
難波成任(2006)病原菌が媒介昆虫を識別する仕組みを解明.東京大学農学生命科学研究 科プレリリース