シェルピンスキー・ガスケット上の自己回避過程 の族の見本関数の性質
大塚隆史
目 次
1
導入2
2
グラフ上の自己回避ランダムウォークの構成3
2.1
プレ・シェルピンスキー・ガスケットグラフ, パス空間. . . . 3 2.2
パス空間上の確率測度と生成関数. . . . 5
3
連続な自己回避過程の存在8
3.1
シェルピンスキー・ガスケットF
とその上のパス空間. . . . 9 3.2
パスの族の空間とその上の確率測度の整合条件. . . . 10
4
見本関数の性質15
4.1
短時間挙動を支配する指数. . . . 15 4.2
重複対数の法則. . . . 21
1 導入
シェルピンスキー・ガスケット上の非マルコフ的なランダム・ウォークは,これまで 様々なモデル設定の下研究されてきた. 第一に挙げられるのは,歩数を固定するごとに 自己回避的なパスに等確率を与えて定義される自己回避ウォークである
([7], [8]).
これ を「通常の」自己回避ウォークとよび, パスが自己回避である他のモデルと区別する.シンプル・ランダム・ウォーク(等確率で隣の点に移るもの)からループを消して得ら れるループ・イレーズド・ウォークは
G. Lawler
により導入された非マルコフ的なラ ンダム・ウォークであり,
シェルピンスキー・ガスケット上においても研究されている([9], [12]).
ループ・イレーズド・ウォークも自己回避性をもつが,「通常の」自己回避ウォークとは異なる分布をもつ. 自己反発ウォークは一度通った点に再び訪れることを 妨げられる非マルコフ的なランダム・ウォークである
([4]).
自己反発ウォークは必ず しも自己回避的でないが,自己反発ウォークからループを消去して得られるループ・イ レーズド・ウォークの族は自己回避的であり,
元の自己反発ウォークの「反発の強さ」をパラメーターとして「通常の」自己回避ウォークとループ・イレーズド・ウォークを 連続的につなぐモデルとなる
([10]).
ランダム・ウォークに関する基本的な問題として次の二つが挙げられる. 一つ目は, ランダム・ウォークは連続極限をもつか, である. 連続極限とは,グラフの辺の長さを
0
へ近づけたときの極限のことである.
例えば, Z
d上もしくはシェルピンスキー・ガス ケット上のブラウン運動はそれぞれのグラフの上でのシンプル・ランダム・ウォークの 連続極限として得られる.
二つ目は,
平均2
乗変位はべき乗的な振る舞いをするか,
で ある. すなわちX(n)
を原点からスタートしたランダム・ウォークのn
歩目の位置とし, その原点からのユークリッド距離を| X(n) |
とするとき,E[ | X(n) |
2]〜n
2νのようなべき乗則(スケーリング則)は何らかの意味で成り立つか
,
また指数ν
はどの ような値となるか, という問題である. 多くのモデルで, ここで現れた指数が連続極限 の短時間挙動を支配する指数と等しいことが知られている.本研究では,自己回避的なパスに対して,より一般的な形で確率測度を帰納的に定め自 己回避ウォークの族を構成し,その性質を調べた. 先に挙げた「通常の」自己回避ウォー ク
,
ループ・イレーズド・ウォーク,
自己反発ウォークからループを消去して得られる ループ・イレーズド・ウォークの族などはこの一般的なモデルに含まれる. これにより 連続極限の存在や見本関数の性質などをモデルによらず統一的に証明できた.本論文の構成は以下のとおりである. 2章ではまずプレ・シェルピンスキー・ガスケッ ト・グラフを構成し,自己回避的なパスの空間に帰納的に確率測度を定めた. さらにパ スの「長さ」(歩数)の分布を考えるため歩数の生成関数を導入し
,
その性質をまとめ た. 3章では前章で定義したプレ・シェルピンスキー・ガスケット・グラフの辺の長さ を0
に近づけていくとき,
自己回避ウォークの連続極限が存在することと,
その連続極 限の確率過程が持つ性質を調べた. 射影極限に関するコルモゴロフの拡張定理と分枝過 程の極限定理が本質的な役割を果たしている. 4章では見本関数の性質を証明した. 指 数型のタウバー型定理を適用するために[11]
での議論を参考にした. 重複対数の法則の 証明は[4]
を参考にした.2 グラフ上の自己回避ランダムウォークの構成
2.1
プレ・シェルピンスキー・ガスケットグラフ,
パス空間定義
2.1 (プレ・シェルピンスキー・ガスケットグラフ). O = (0, 0), a = (1/2, √
3/2), b = (1, 0), G
0= { O, a, b } , E
0= {{ Oa } , { Ob } , { ab }}
とおき,F
0= G(G
0, E
0)
とおく
.
ただしG(G
0, E
0)
でG
0 を頂点, E
0 を辺の集合とするグラフを表す.
また相 似写像f
i: R
2→ R
2, i = 1, 2, 3
をf
1(x) = 1
2 x, f
2(x) = 1
2 (x + a), f
3(x) = 1 2 (x + b)
のように定める. これらを用いてグラフの再帰列{ F
N}
∞N=0をF
N+1= f
1(F
N) ∪ f
2(F
N) ∪ f
3(F
N)
で定める.
F
N をプレ・シェルピンスキー・ガスケットグラフとよぶ.G
N をF
N の頂 点, E
N をF
N の辺全体の集合とする.
F
0F
1F
NO a
b O a
b O a
b 1
2
−12
−N図
1:
プレ・シェルピンスキー・ガスケット・グラフ定義
2.2 (自己回避的なパスの空間). N ∈ Z
+= { 0, 1, 2, . . . }
に対して,F
N 上の辺で 結ばれた頂点間を移っていく有限長のパスで,O
からスタートしa
にヒットしたとき止 まり,
一度通った場所に二度と戻らないものの全体Γ
N を次のように定める.
すなわち,
Γ
N= { w = (w(0), w(1), . . . , w(n)) : w(0) = O, w(n) = a, w(i) ∈ G
N,
{ w(i), w(i+1) } ∈ E
N, w(i) ̸ = a, 0 ≤ i ≤ n − 1, w(j) ̸ = w(k), 0 ≤ j < k ≤ n, n ∈ N} .
このときw
の「長さ」をℓ(w) = n
とする.
定義
2.3 (到達時刻). w ∈ Γ
N, M ≤ N
とするとき, 到達時刻の列{ T
iM(w) }
mi=0を次 のように定める.
T
0M(w) = 0,
T
iM(w) = inf { j > T
iM−1(w) : w(j) ∈ G
M\{ w(T
iM−1(w)) }} , i ≥ 1.
ただし
inf ∅ = ∞ , m = inf { m
′∈ N : T
mM′+1(w) = ∞}
とする.T
iM(w)
はw
がG
M の 点に(i + 1
)回目に到達した時刻を表している.
このとき同じ点を続けて複数回訪れる ときは1
回と数える.定義
2.4 (
粗視化写像).
粗視化写像Q
M: ∪
∞N=MΓ
N→ Γ
M を次のように定める. (Q
Mw)(i) = w(T
iM(w)), i = 1, 2, . . . , m.
ここで,
m
は定義2.3
で述べたものである. このように粗視化写像を定めたとき,Q
K◦ Q
M= Q
K, K ≤ M,
w ∈ Γ
N, M ≤ N ⇒ Q
Mw ∈ Γ
N,
が成り立つ.定義
2.5 (
脱出時刻,
スケルトン). T
Mを各頂点がG
Mの要素,
各辺がE
M の要素であ る閉三角形で,上向きであるもの全体の集合とする.T
M の要素を2
−M-三角形とよぶ.
w ∈ Γ
N, N ≥ M
に対し2
−M-三角形の列 ( △
1, △
2, . . . , △
k)
と,それらからの脱出時刻 の列{ T
iex,M(w) }
ki=0を次のように定める.{ T
iM(w) }
mi=0を定義2.3
の到達時刻とする.まず,
T
0ex,M(w) = 0,
△
1: △ ∈ T
MでO, w(T
1M)
を含むもの.
と定める. 次に,J (i) = inf { j ≥ 0 : j < m, T
jM(w) > T
iex,M−1(w), w(T
j+1M(w)) ∈ △ /
i} ,
ただしinf ∅ = ∞ , k = min { i ≥ 1 : J(i) = ∞}
とおく. i = 1, . . . , k − 1
に対して,
T
iex,M(w) = T
J(i)M(w),
△
i+1: △ ∈ T
Mで, w(Tiex,M), w(T
J(i)+1M)
を含むもの.と定める. 最後に
T
kex,M(w) = T
mM(w)
と定める. このように定めた
( △
1, △
2, . . . , △
k)
をパスw
の2
−M-スケルトンとよぶ.
今後
σ
M(w)
でw
の2
−M-スケルトンを表す表記も用いる.
定義
2.6 (スケルトンの要素のタイプ). w ∈ Γ
N, N ≥ M, σ
M(w) = ( △
1, . . . , △
k)
とす るとき,i = 1, . . . , k
に対して, あるn(i) ∈ N
が存在してT
iex,M−1(w) = T
n(i)M(w)
が成り 立つ.
このとき△
i∈ σ
M(w)
はT
iex,M(w) = T
n(i)+1M(w)
ならばタイプ1, T
iex,M(w) = T
n(i)+2M(w)
ならばタイプ2
であるとする.w ∈ Γ
Nが自己回避的であることより全ての2
−M-スケルトンの要素 △
i∈ σ
M(w)
のタイプが決定する.2.2
パス空間上の確率測度と生成関数Γ
N上の測度を帰納的に定義することによってプレ・シェルピンスキー・ガスケット・グラフ上の自己回避ウォークを定義する.
定義
2.7 (Γ
0上の確率測度).(O, a), (O, b, a) ∈ Γ
0に対してP
0[ (O, a) ] = 1, P
0′[ (O, b, a) ] = 1
のように確率測度P
0, P
0′ を定める.定義
2.8 (Γ
1上の確率測度).
図2
のようにΓ
1の要素をw
1∗, . . . , w
∗10と表す. w
∗1, . . . , w
∗10∈ Γ
1に対して,∑
10i=1
p
i= ∑
10i=1
q
i= 1, p
1, . . . , p
7, q
1, . . . , q
10≥ 0, p
8= p
9= p
10= 0
を 満たす実数p
1, . . . , p
10, q
1, . . . , q
10を用いてP
1[ w
∗i] = p
i, P
1′[ w
i∗] = q
i, i = 1, . . . , 10,
のように確率測度P
1, P
1′ を定める.命題
2.9 ( △
iによるパスの分割). w ∈ Γ
N, N ≥ M, σ
M(w) = ( △
1, . . . , △
k)
とする.
こ のとき各△
i∈ σ
M(w) (1 ≤ i ≤ k)
に対して,その分割をw |
△i= [w(n), T
iex,M−1≤ n ≤ T
iex,M]
のように定める
.
必要ならば平行移動,
回転, 2
N−M倍のスケール変換によって, Q
Mw(T
iex,M−1)
をO, Q
Mw(T
iex,M)
をa
と対応させてw |
△iをΓ
N−M の要素と同一視する. 簡単のた め同一視されたΓ
N−Mのパスに対しても同じ記号を用いる.逆に,
N ≥ M
として, スケルトンになりうる2
−M-三角形の列 ( △
1, . . . , △
k)
と,w
′i∈ Γ
N−M, i = 1, . . . , k
が与えられたとき,w ∈ Γ
N が一意に定まる.b O
a w
∗1w
2∗w
3∗w
4∗w
5∗w
∗6w
7∗w
8∗w
9∗w
10∗図
2: Γ
1のパス定義
2.10 (Γ
N+1上の確率測度).w ∈ Γ
N+1(N ∈ N )
に対して,P
N+1[w] = ∑
v∈ΓN: σN(w)=σN(v)
P
N[v]
∏
k j=1P
1∗[w |
△j]
P
N′ +1[w] = ∑
v∈ΓN: σN(w)=σN(v)
P
N′[v]
∏
k j=1P
1∗[w |
△j],
のように確率を定める. ただし
P
1∗は△
j∈ σ
1(v) = ( △
1, . . . , △
k)
に対して△
jがタイ プ1ならばP
1,
タイプ2ならばP
1′とする.注
2.11.
定義2.10
のように与えたP
N+1, P
N′ +1がΓ
N+1上の確率測度であることを確 かめるにはP
N+1[Γ
N+1] = 1, P
N′ +1[Γ
N+1] = 1 (1)
となっていることを確かめればよい. 帰納法を用いて証明する. まずP
2[Γ
2] = P
2′[Γ
2] = 1
を示す.O
を含む2
−1-三角形を △
1, a
を含む2
−1-三角形を △
2, b
を含む2
−1-三角形を
△
3とする. このとき命題2.9
より,P
2[Γ
2] = ∑
w∈Γ2
∑
v∈Γ1; σ1(w)=σ1(v)
P
1[v]
∏
k j=1P
1∗[w |
△j]
= ∑
v∈Γ1; σ1(v)=(△1,△2)
P
1[v] ∑
w1∈Γ1
P
1∗[w
1] ∑
w∈Γ1
P
1∗[w
2]
+ ∑
v∈Γ1; σ1(v)=(△1,△3,△2)
P
1[v] ∑
w1∈Γ1
P
1∗[w
1] ∑
w2∈Γ1
P
1∗[w
2] ∑
w3∈Γ1
P
1∗[w
3]
= ∑
v∈Γ1; σ1(v)=(△1,△2)
P
1[v] + ∑
v∈Γ1; σ1(v)=(△1,△3,△2)
P
1[v]
= ∑
v∈Γ1
P
1[v] = 1.
が成り立つ. 同様に
P
2′[Γ
2] = 1
も分かる.P
N, P
N′ が(1)
を満たすと仮定する. v ∈ Γ
N の2
−N-
スケルトンに含まれる2
−N-
三 角形の個数をk(v)
で表すとするとP
N+1[Γ
N+1] = ∑
w∈ΓN
∑
v∈ΓN; σN(w)=σN(v)
P
N[v]
∏
k j=1P
1∗[w |
△j]
= ∑
v∈ΓN
P
N[v] ∑
w1∈Γ1
P
1∗[w
1] · · · ∑
wk(v)∈Γ1
P
1∗[w
k(v)]
= ∑
v∈ΓN
P
N[v] = 1
(帰納法の仮定),
が成り立つ. P
N′ +1に関しても同様に示せる.
注
2.12.
仮にp
i= 0, i = 8, 9, 10
でないとすると,P
N[Γ
N] < 1, P
N′[Γ
N] < 1
となって しまうことが上記の考察より分かる.以上でパス空間に一様分布を帰納的に与えることができた. 次にパスの「長さ」の分 布を扱うために生成関数を定めてその性質を調べる.
定義
2.13 (
生成関数). w ∈ Γ
Nに対して,
タイプ1,
タイプ2のσ
N(w)
の要素の個数を それぞれs
1(w), s
2(w)
とする. 2つの生成関数の列{ Φ
N(x, y) }
∞N=1, { Θ
N(x, y) }
∞N=1を次のように定める.
Φ
N(x, y) = ∑
w∈ΓN
P
N[w]x
s1(w)y
s2(w), (2) Θ
N(x, y) = ∑
w∈ΓN
P
N′[w]x
s1(w)y
s2(w). (3)
命題2.14.
定義2.13
の生成関数は以下の再帰式を満たす.Φ(x, y) = p
1x
2+ (p
2+ p
3)xy + p
4y
2+ (p
5+ p
6)x
2y + p
7x
3,
Θ(x, y) = q
1x
2+ (q
2+ q
3)xy + q
4y
2+ (q
5+ q
6)x
2y + q
7x
3+ q
8x
2y + (q
9+ q
10)xy
2,
とおくとき,
Φ
1(x, y) = Φ(x, y), Θ
1(x, y) = Θ(x, y), (4) Φ
N+1(x, y) = Φ
N(Φ(x, y), Θ(x, y)), Θ
N+1(x, y) = Θ
N(Φ(x, y), Θ(x, y)). (5)
証明. Φ
についてのみ証明する.Θ
についても同様に証明できる.Φ
N+1(x, y) = ∑
w∈ΓN+1
P
N+1[w]x
s1(w)y
s2(w)= ∑
w∈ΓN+1
∑
v∈ΓN;σN(v)=σN(w)
P
N[v]
∏
k i=1P
1∗[w |
△i]
(定義2.10)
= ∑
v∈ΓN
∑
w|△1∈Γ1
· · · ∑
w|△k∈Γ1
P
N[v]
∏
k j=1P
1∗[w |
△j]
(命題2.9)
× x
s1(w|△1)+s1(w|△2)+···+s1(w|△k)y
s2(w|△1)+s2(w|△2)+···+s2(w|△k)= ∑
v∈ΓN
P
N[v] ∑
w|△1∈Γ1
P
1∗[w |
△1]x
s1(w|△1)y
s2(w|△1)× · · · × ∑
w|△k∈Γ1
P
1∗[w |
△k]x
s1(w|△k)y
s2(w|△k)= ∑
v∈ΓN
P
N[v]
∏
k i=1( ∑
w|△i∈Γ1
P
1∗[w |
△i]x
s1(w|△i)y
s2(w|△i))
= ∑
v∈ΓN
P
N[v]Φ(x, y)
s1(v)Θ(x, y)
s2(v)= Φ
N(Φ(x, y), Θ(x, y)).
定義
2.15 (
平均値行列). Φ, Θ
の平均値行列M = (m
ij)
1≤i,j≤2を(1, 1) ∈ R
2でのΦ, Θ
のヤコビ行列として定める.M = [
∂∂x
Φ(1, 1)
∂y∂Φ(1, 1)
∂
∂x
Θ(1, 1)
∂y∂Θ(1, 1)
]
注
2.16. (1, 1)
は写像(x, y) → (Φ(x, y), Θ(x, y))
のR
2+での固定点である.注
2.17. (i, j)
成分はタイプi
の2
0-
三角形からタイプj
の2
−1-
三角形が生まれる個数 の平均を表している.i = 1, 2
に対して(i, 1)
成分と(i, 2)
成分の和は一つ細かい段階で できる三角形の個数の平均なので, 2
以上3
以下となることが分かる.
すなわち, Φ, Θ
は各項が2
次以上3
次以下の多項式なので,2 ≤ m
i1+ m
i2≤ 3, i = 1, 2
が成り立つ.定理
2.18.
平均値行列M
は最大固有値λ
をもつ.λ
はp
1, . . . , p
10, q
1, . . . , q
10の連続 関数で2 ≤ λ ≤ 3
を満たす.
証明
. M
の各成分は非負なので, フロベニウスの定理より最大固有値が存在する.M
の各成分はp
1, . . . , p
7, q
1, . . . , q
10の多項式であるから, M = (m
ij)
1≤i,j≤2とおくと,
λ = m
11+ m
22+ √
(m
11− m
22)
2+ 4m
12m
212
と表せる. 従って最大固有値
λ
はp
1, . . . , p
7, q
1, . . . , q
10に関して連続. さらにフロベニ ウスの定理より,λ
に対する各成分が正の固有ベクトルをとれる. これをv =
t(v
1, v
2)
と書き,Mv, λv
の各成分を比較すると,次の連立方程式を得る.
m
11v
1+ m
12v
2= λv
1, m
21v
1+ m
22v
2= λv
2.
(6)
よって
v
1, v
2が正なのでλ
はλ = m
11+ v
2v
1m
12= m
21+ v
1v
2m
22と表せる. 注
2.17
より2 ≤ m
i1+ m
i2≤ 3, i = 1, 2
であることに注意すると,v
1> v
2ならば
λ = m
11+ v
2v
1m
12≤ m
11+ m
12≤ 3, λ = m
21+ v
1v
2m
22≥ m
21+ m
22≥ 2,
が成り立ち,v
2> v
1ならばλ = m
21+ v
1v
2m
22≤ m
21+ m
22≤ 3, λ = m
11+ v
2v
1m
12≥ m
11+ m
12≥ 2,
が成り立つ. 従って2 ≤ λ ≤ 3
が成り立つ.3 連続な自己回避過程の存在
プレ・シェルピンスキー・ガスケット・グラフの辺の長さを
0
に近づけていくとき, 自己回避ウォークの連続極限が存在することを証明し,その性質を調べる.3.1
シェルピンスキー・ガスケットF
とその上のパス空間定義
3.1 (
シェルピンスキー・ガスケット).
プレ・シェルピンスキー・ガスケット・グ ラフの列{ F
N}
に対して,F = cℓ( ∪
∞N=0F
N)
とおく. ただし,
cℓ(A)
は集合A
の閉包を表す.F
をシェルピンスキー・ガスケットとよぶ.
定義
3.2 (
連続なパス).
C = { w ∈ C
o([0, ∞ ) → F) : w(0) = O, lim
t→∞
w(t) = a }
とおく. ただし
C
o([0, ∞ ) → F)
は[0, ∞ )
上連続なF-値関数の全体を表す. C
は距離d(u, v) = sup
t∈[0,∞)
| u(t) − v(t) | , u, v ∈ C
に関して完備可分距離空間を成す. ただし,
| x − y | , x, y ∈ R
2はユークリッド距離で ある.定義
3.3 (
到達時刻). w ∈ C
に対してG
M への到達時刻の列{ T
iM(w) }
mi=0をT
iM(w) =
0, i = 0
inf { t > T
iM−1(w) : w(t) ∈ G
M\{ w(T
iM−1(w)) }} , i ≥ 1
のように定義する
.
ただしinf ∅ = ∞ , m = inf { m
′∈ Z
+: T
mM′+1(w) = ∞}
とする.
簡 単のためΓ
Nのパスの到達時刻と同じ記号を用いている.定義
3.4 (
粗視化写像). N ∈ Z
+に対してQ
N: C → C
を次のように定める. (Q
Nw)(i) = w(T
iN(w)), i = 0, 1, 2, . . . , m,
(Q
Nw)(t) =
(i + 1 − t)(Q
Nw)(i) + (t − i)(Q
Nw)(i + 1), i ≤ t < i + 1, i = 0, 1, . . . , m
a, t ≥ m
w ∈ C
に対して到達時刻を定めたので,2
−M-スケルトン,
脱出時刻の列{ T
iex,M}
ki=0も定義
2.5
に倣って定義できる.
定義
3.5 (パスの線形内挿). w ∈ Γ
N, N = 0, 1, 2, . . .
に対して, 線形内挿を以下のよ うに定義する.w(t) =
(i + 1 − t)w(i) + (t − i)w(i + 1), i ≤ t < i + 1, i = 0, 1, 2, . . . , ℓ(w) − 1
a, t ≥ ℓ(w)
この内挿により
w
をC
の要素とみなせる.
このとき,
到達時刻,
粗視化写像,
脱出時 刻, スケルトンはΓ
N の要素として定義されたものと同じである. 以後Γ
N とその部分 パス空間は,
線形に内挿されたものであるとする.
3.2
パスの族の空間とその上の確率測度の整合条件定義
3.6 (
パスの族の空間).
パスの族の空間Ω ˆ
を次のように定める. Ω = ˆ { ω = (w
0, w
1, . . . ) : w
N∈ Γ
N, w
N◃ w
N+1, N = 0, 1, 2, . . . }
ただし,w
N◃ w
N+1はσ
N(w
N) = σ
N(w
N+1)
であることを表す.定義
3.7 (像空間上の確率測度). ω ∈ Ω ˆ
に対して,最初の(N + 1)
個の要素を対応させ る射影をπ ˆ
N とする. つまり,ˆ
π
Nω = (w
0, w
1, . . . , w
N) ∈ Γ
0× Γ
1× · · · × Γ
N.
以下のように,像空間
π ˆ
NΩ ˆ
に対して確率測度P ˆ
N, P ˆ
N′ を帰納的に定める. まず(w
0, w
1) ∈ ˆ
π
1Ω ˆ
に対して,w
0= (O, a)
のときP
0[w
0] = 1, w
0= (O, b, a)
のときP
0′[w
0] = 1
となる ことに注意して,P ˆ
1[(w
0, w
1)] = P
0[w
0]P
1[w
1], P ˆ
1′[(w
0, w
1)] = P
0′[w
0]P
1′[w
1],
と定める
.
次に(w
0, w
1, . . . , w
N) ∈ π ˆ
NΩ ˆ
に対してσ
N−1(w
N−1) = ( △
1, . . . , △
kN−1)
と するとき,P ˆ
N[(w
0, w
1, . . . , w
N)] = ˆ P
N−1[(w
0, w
1, . . . , w
N−1)]
k
∏
N−1j=1
P
1∗[w
N|
△j],
P ˆ
N′[(w
0, w
1, . . . , w
N)] = ˆ P
N′−1[(w
0, w
1, . . . , w
N−1)]
k
∏
N−1j=1
P
1∗[w
N|
△j]
と定める. ただし,
P
1∗は△
jがタイプ1のときP
1,
タイプ2のときP
1′であるとする.このように定義された確率測度の列
{ P ˆ
N}
∞N=0, { P ˆ
N′}
∞N=0は次の整合条件を満たすこ とが分かる.P ˆ
N[(w
0, w
1, w
2, . . . , w
N)] = ∑
v∈ΓN+1;wN◃v
P ˆ
N+1[(w
0, w
1, w
2, . . . , w
N, v)], P ˆ
N′[(w
0, w
1, w
2, . . . , w
N)] = ∑
v∈ΓN+1;wN◃v
P ˆ
N′ +1[(w
0, w
1, w
2, . . . , w
N, v)].
従って,コルモゴロフの拡張定理を適用できて,以下の定理を得る.
定理
3.8 ( ˆ Ω
の測度).Ω ˆ
上の確率測度P
が存在してP ◦ π ˆ
−N1= ˆ P
N, N ∈ Z
+,
を満たす.
ここでP ◦ ˆ π
N−1はπ ˆ
N で誘導される像測度を表す.
注
3.9.
いま,P ˆ
Nから構成されるΩ ˆ
上の確率測度の存在のみ述べたが,P ˆ
N′ も整合条件 を満たしているので,P ˆ
N と同様に対応するΩ ˆ
上の確率測度を定義できる. しかし,今 後連続極限とその見本関数の性質を調べるにはどちらか一方に対応するΩ ˆ
上の確率測 度が定義されていれば十分である. そこで,以後P ˆ
N に対応する確率測度P
のみ扱う.定義
3.10 (第 (N + 1)
成分への射影).Y
N: ˆ Ω → Γ
N をω
の第(N + 1)
成分への射影 とする.
このとき, Y
N は( ˆ Ω, B , P )
上のF -
値過程Y
N(ω, t)
とみなせる.
ただし, B
は筒 集合から生成されるΩ ˆ
上のボレルσ-加法族とする.
定理
3.11. P
をΩ ˆ
上の確率測度,Y
N を上で定義したΩ ˆ
の第(N + 1)
成分への射影と すると,P ◦ Y
N−1= P
Nが成り立つ. ここで
P
N は定義2.10
のものである.証明
. Y
N′: ˆ π
NΩ ˆ → Γ
Nをπ ˆ
NΩ ˆ
の第(N + 1)
成分への射影とすると, P ◦ Y
N−1= P ◦ π ˆ
N−1◦ (Y
N′)
−1= ˆ P
N◦ (Y
N′)
−1(7)
が成り立つ.
v ∈ Γ
N に対してP ◦ Y
N−1[v] = P
N[v] (8)
となることを帰納法で示す.
w
0= (O, a)
とすると,任意のv ∈ Γ
1に対してP ◦ Y
1−1[v] = ˆ P
1[(w
0, w
1) : w
1= v]
= P
0[w
0]P
1[v]
(P ˆ
1の定義)= P
1[v]
が成り立つ. 次に任意の
v ∈ Γ
N に対してP ◦ Y
N−1[v] = P
N[v] (9)
を仮定する.
u ∈ Γ
N+1に対してσ
N(u) = ( △
1, . . . , △
kN)
とすると,P ◦ Y
N−+11[u] = P ◦ π ˆ
−N1◦ (Y
N+1′)
−1[u] ((7)
式)= P
N+1ˆ ◦ (Y
N+1′)
−1[u]
(定理3.8)
= ˆ P
N+1[(w
0, . . . , w
N, w
N+1) ∈ π ˆ
N+1Ω : ˆ w
N+1= u]
= ∑
(w0,...,wN)∈πˆNΩ;ˆ σN(wN)=σN(u)
P ˆ
N[(w
0, . . . , w
N)]
kN
∏
i=1
P
1∗[u |
△i]
(定義3.7)
= ∑
wN∈ΓN; σN(wN)=σN(u)
P
N[w
N]
kN
∏
i=1
P
1∗[u |
△i]
(帰納法の仮定)= P
N+1[u]
(定義2.10)
定義
3.12 (タイプ毎の 2
−M-三角形の個数). w ∈ ∪
N≥MΓ
N, j = 1, 2, σ
M(w) = ( △
1, . . . , △
k)
に対してS
jM(w)
でσ
M(w)
内のタイプj
の2
−M-三角形の個数を表す.
すなわち
,
S
Mj(w) = ♯ { i : △
iがタイプj } .
また
S
M(w) = (S
1M(w), S
2M(w))
とする. このときw ∈ Γ
N ならばℓ(w) = S
1N(w) +
2S
2N(w)
が成り立つ.定義
3.13. S = (S
1, S
2), S
′= (S
1′, S
2′)
を( ˆ Ω, B , P )
上のZ
+-値過程で,
それぞれP
1, P
1′ の下でのS
1と同分布な確率変数とする.
すなわちS, S
′は任意のx, y ∈ Z
+に対してP[S = (x, y)] = P
1[S
1= (x, y)], P [S
′= (x, y)] = P
1′[S
1= (x, y)].
をみたすとする.
命題
3.14 (分枝過程). v ∈ Γ
M を任意に固定し,σ
M(v) = ( △
1, △
2, . . . , △
k)
とする.条件付き確率
P[ · | Y
M= v]
の下で各1 ≤ i ≤ k
に対して,{ S
M+N(Y
M+N|
△i), N = 0, 1, 2, . . . }
は2-
タイプの分枝過程である.
このとき各個体のタイプは,
三角形のタイプ と対応する. すなわち,タイプ1の三角形から生まれる三角形の子孫分布はS
の分布に, タイプ2の三角形から生まれる三角形の子孫分布はS
′の分布にそれぞれ等しい.
特にN = 0
のとき,S
M(Y
M|
△i) =
(1, 0), △
iがタイプ1のとき,(0, 1), △
iがタイプ2のとき.このとき次の
(1)–(4)
がなりたつ.(
1
) 子孫分布の生成関数g
1, g
2をg
1(x, y) = E[x
S1y
S2], g
2(x, y) = E[x
S1′y
S2′],
とおくとき,g
1(x, y) = Φ(x, y), g
2(x, y) = Θ(x, y)
が成り立つ. ここでE
はP
の下での期待値を表す.(2)
M
を定義2.15
の平均値行列とするとき,E[S
M+N(Y
M+N|
△i) | Y
M= v] = S
M(v |
△i)M
N.
(3)
P [S
1+ S
2≥ 2] = P [S
1′+ S
2′≥ 2] = 1.
(4)
E[S
ilog S
i] < ∞ , E[S
′ilog S
i′] < ∞ , i = 1, 2.
定義
3.15 (
時間のスケール変換). w ∈ C
に対して時間のスケール変換U
N(α) : C → C, α ∈ (0, ∞ ), n ∈ N
を次のように定める.(U
N(α)w)(t) = w(α
Nt).
定理
2.18
の最大固有値λ
でスケールされたF -
値過程Y
N をX
N とする.
すなわち,
X
N= U
N(λ)Y
N, N ∈ N .
命題
3.16.
時間をスケール変換しても,パスが通過するスケルトンは変わらない. すな わち,σ
M(X
N) = σ
M(X
M) = σ
M(Y
M), M ≤ N, a.s.
特に
X
N(T
iex,M(X
N)) = X
M(T
iex,M(X
M)) = Y
M(T
iex,M(Y
M)), M ≤ N, a.s.
注
3.17. σ
M(X
N) = ( △
1, . . . , △
k)
とおくとT
jex,M(X
N) = λ
−N∑
j i=1(S
1N(X
N|
△i) + 2S
N2(X
N|
△i)), 1 ≤ j ≤ k.
が成り立つ
.
命題
3.14
と優臨界分枝過程の収束定理より次の命題が従う. ここで,u =
t(u
1, u
2)
をM
のλ
についての成分正の右固有ベクトル, v = (v
1, v
2)
をM
のλ
についての成分正 の左固有ベクトルとする. ただし,| u | = | v | = 1
を満たすものとする.命題
3.18 (
優臨界分枝過程の極限定理).
任意にv ∈ Γ
Mを固定し, σ
M(v) = ( △
1, △
2, . . . , △
k)
とする. 条件付き確率P[ ·| Y
M= v]
のもとで,各i(1 ≤ i ≤ k)
に対して次が成り立つ.(1) 各
i ∈ { 1, . . . , k }
に対して, { λ
−(M+N)S
M+N(X
M+N|
△i), N = 0, 1, . . . }
はN → ∞
のとき,あるR
2-値確率変数 S
∗M,i= (S
∗1M,i, S
2∗M,i)
に概収束する.(2)
{ S
∗M,i, i = 1, . . . , k }
は独立な確率変数列である.(3) ある確率変数
B
1, B
2が存在して,S
∗M,iは△
iがタイプ1のときλ
−MB
1v
と, タイプ2のときλ
−MB
2v
と同分布である.
(4)
P [B
i> 0] = 1, E[B
i] = u
i, i = 1, 2.
B
1, B
2は正の確率密度関数を持つ.(5)
B
1, B
2のラプラス変換をϕ
i(t) = E[exp( − tB
i)], i = 1, 2
と表すとする
. ϕ
iはC
上の正則関数で,
次の方程式の解である.
ϕ
1(λt) = Φ(ϕ
1(t), ϕ
2(t)), ϕ
2(λt) = Θ(ϕ
1(t), ϕ
2(t)), ϕ
1(0) = ϕ
2(0) = 1.
証明
. (1) − (3)
と(4)
のE[B
i] = u
iはマルチタイプ優臨界過程の一般論の極限定理か ら従う. P [B
i> 0] = 1
はΦ, Θ
の各項が2
次以上であることより従う.
ラプラス変換がC
上正則であることの証明は[6]
を参照.命題
3.19. σ
M(X
M) = ( △
1, . . . , △
k)
とする.△
iがタイプj
ならば,N
lim
→∞T
iex,M(X
N) =
dλ
−M(v
1+ 2v
2)B
jが成り立つ.