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カナダ経済史学とProf. Harold Adams Innis

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カナダ経済史学とProf. Harold Adams Innis

その他のタイトル The Inter‑relationship between the Crowth of the Canadian Economic History and Prof. Harold Adams Innis

著者 豊原 治郎

雑誌名 關西大學商學論集

巻 15

号 5‑6

ページ 347‑367

発行年 1971‑02‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00021160

(2)

(347) 23 

カナダ経済史学と

Prof.Harold A darns Innis 

豊 原 治 郎

は じ め に

1968

8

月から

1

カ年間,筆者は在外研究を命ぜられ,アメリカ及びカナ ダに留学し,前者ではハーバード経営大学院でハイディ教授

(Prof.Ralph W. 

Hidy)

に師事し,アメリカ産業革命期商品流通と商人活動の史的特質につい て,後者ではトロソト大学・イースタープルーク教授

(Prof.W. Tom Easter brook)

, トレント大学・マクミラ`ノ教授

(Prof. D. S.  Macmillan)

に接触,

カナダ経済史学・経営史学発達史についてそれぞれ研究する機会に恵まれた。

前者の研究についてはハイディ教授の温い御指導により「アメリカ商品流通 史論」として一本化出来(未来社より近刊予定),後者については本稿をスター

トに今後牛歩ながらまとめて行く所存である。

まず,本稿で取り上げようとするハロルド・アダムス・イニス教授

(Prof. Harold Adams Innis,  1894‑1952

ー以下単に

Innis

と略記する)とカナダ 経済史学との相互関係について,その分析の狙いを若干述べ,導入部とした ぃ。端的に申して本稿論題の意味はカナダ経済史学史における

Innis

の位置 付けということになる。

Innis

帰天後約

20

年を経た今日も尚,彼のツルエッ

トは長く且つ濃くカナダ経済史学界に投影されており,

1967

年に

Prof.W. T. 

Easterbrook

Prof.M. H. Watkins

とによって展望された「カナダ経済史

(1) 

学界の現況」と題する学界動向によっても明らかなように,その具体的な研 究作業には種々差異はあっても,その発想・問題意識・研究方法・研究目的

(1)  W. T. Eaterbrook and M.H. Watkins, Approaches to  Canadian Economic 

History  : A Selection of Essays edited  and with  an  Introduction by W. T. 

Easterbrook and M. H. Watkins, Toronto, 1967, pp. ixvii. 

(3)

24 (348) 

カナダ経済史学と

Prof.Harold Adams Innis(

豊 原 )

等において,彼の地の経済史学界には

Innisの感化力は依然として強く働き

続けている。現地での若干の研究に従事した筆者も亦,カナダ経済史学研究 を本格樹立せしめた祖が正に

Innis自身であることを確認せざるを得なかっ

(2) 

た。史学史上,

TorontoSchool"の王座を占め,所謂 LaurentianSchool" 

(3) 

の創設者であり,所謂

stapleapproach"

をカナダ経済史学に初めて導入し た人物であった

Innis

は ,

1969

年現在これ等の

3

分野における後継者として,

それぞれ,

Prof.W. T, Easterbrook. Prof, Donald Grant Creighton,而して

(4) 

Prof. Melville H. Watkinsを持っている。これ等3

人の

TorontoSchool" 

に属する史家達によってカナダ経済史学はヨリー層精緻化され, ヨリー層レ ペル・アップされて来ているが,それだけに他面ヨリー層強烈且つ鮮明に

Innisのシル=ットがそこに投影されている。 1952

年帰天した

Innisを悼ん

で綴った

Dr. 紅thurH

Cole

の追悼文

(1953

年)に,「彼ー

Innis

ー は 単 に カナダの経済史学研究とその教育とにおける指導的人物

(theleading spirit) 

(2) 

この言葉は

C.R.Fayが1934

1

月発表の一論文(内容は

Innis

の4 冊の著 書と

1

冊の編著とに対する書評)において使用している。

Fay

によると「

Toro nto School'

とはトロント大学・経済学部

(theDepartment of Political Econo‑

my)で訓練を受けた学徒達によって構成されており,同学・近代史学部 (theDe‑

partment of Modern History)

における研究者は無関係である」

[C.R. Fay, "The  Toronto School of Economic History" (Economic History: A Supplement of  The Economic Journal, Vol. 111,  No. 9,  Jan.,  1934, pp. 16871)] 

(3)  Prof. M.H. Watkinsによれば,この Innis

StapleApproach'

Prof. Douglass  C.  Northによってアメリカ経済史学界に導入され,「アメリカ経済成長

諸要因の再考」の契機となった

(MelvilleH. Watkins,'"Staple Theory of Econ‑

mic Growth" ‑ The Canadian Journal  of Economics and Political  Science,  vol.  XXIX, No.2, May, 1963, p.  142).  Innis

D.C. North

との学説上の結 び付きについては筆者が留学中コロンビア大学で親しく教示を受けた

Prof.Stuart  W. Bruchey• も明示している (S.W. Bruchey,'Douglass C. North on American 

Economic Growth'‑Explorations in Entrepreneurial History, 2nd Series, Vol.  1, ~o. 2,  Winter, 1964, p.  149). 

(4)  Prof.  W. T. Easterbrookはトロント大学経済学部教授で現在学部長, Prof. D. G. Creighton

は同学歴史学部教授,而して,

Prof.  M. H. Watkinsは経済

学部準教授である

(Universityof Toronto, Faculty of Arts and Science:  1968 1969, Calendar, pp. 21,  27, 28,

。 )

(4)

カナダ経済史学と Prof.Harold Adams Innis(豊原) (349) 25 

となっただけではなく,カナダの社会科学分野全体に亘る知的進歩の指導者

(5) 

兼推進者ともなった」との一節があるが,筆者が訪れた1

969

年春の彼の地の 学界動向をみると,この

Dr. Cole

AMemoir '

は単に

1952

年より以 前の事実についての至言であっただけではなく,現時点においてもそのまま 適用出来る言葉ではなかろうか。

かくして,筆者は多少逆説的表現になるが,カナダ経済史学史の特質を考 察する場合,最も有効なアプローチの一つが

Innis

の経済史学研究活動を取 り上げ,これを一方では史学史的な,他方では伝記的な,それぞれの視角か ら追跡・分析することにあると考えるに至った。以下,第

1

節としてカナダ 史学の生成・成立•発展過程における Innis の史学史的位置付けを取り上げ,

而して第 2節においては

Innis

の生涯を伝記的に追跡しながら,その中で彼 の経済史学研究の特質について若千考察してみようと思う。第

1

節において 吾々はカナダ史学の潮流ー一この潮流から「カナダ経済史学」が生れて来る のでありー~の中で Innis が占めていた比重を烏廠図的に確めることが出来 るであろう。而して,第

2

節において,その5

9

年の生涯の約

3

分の

2

を経済 史家としての研究活動に投じ,その経歴が示す通り,不断の全力投球を続け,

その研究成果として,著書2

0

冊,編著

7

冊,訳書

1

冊,論文1

03

篇,書評論

(6) 

9

篇 書 評1

15

篇 研 究 ノ ー ト

7

篇 そ の 他2

9

篇という超人的な研究業績

(5)  Dr.  A.  H. Cole.  "Harold Adams Innis,  1894‑1952‑A Memoir" (The 

Economic History Review, Second Series,  Vol. VI No. 2,  Dec., 1953, p.  184). 

尚,追悼文としては.

Edward C.  Kirkland, "Harold Adams Innis,  1894‑1952" 

(The J ournal of Economic History,  Vol.  X111,  No.  1,  Winter,  1953,  p.  1);  Alexander Brady,  "Harold Adams Innis  1894‑1952"  (The  Canadian Journal  of Economics and Political  Science, Vol.  19,  No. 1,  Feb.,  1953,  pp.  8797), 

がある。

(6) 

この

Innis

の旭大な研究業績リストについては,

JaneWard, compiled: "The  Published Works of H. A. Innis" (The Canadian Journal  of Economics and  Political  Science,  Vol.  19,  No. 2,  May, 1953,  pp. 23344)

が最も信頼出来る

ものであり,筆者もこの資料に依拠して筆者なりに分類・計算した。筆者が「その

他」としたのは

Innis

が他の研究者の著・編書に「前文」・「序文」・「序論」等を寄

稿している業績をまとめたものである。

(5)

26 (350)  カナダ経済史学と Prof.I;Iarold Adams Innis(豊原)

を残した

Innisの,公人・私人としての伝記的分析を試み,彼の経済史家活

動の特質について若干考察してみようと思う。

1

節 史 学 史 的 背 景

19

世紀後半から20 世紀中葉に及ぶ約一世紀間におけるカナダ史学史上,大 別して

5つの史風が存在する。 BritannicSchool; School of Political Nation‑

alhood; Frontierism;  Laurentian School;  Metropolitanism, 

これである。

前 2者はイギリス史学の感化をそのまま反映したものであり,第 3者はアメ リカ史学,特に

Prof.Frederick J. Turner (186

.

1

.

1

.

93

.

2

.

)

. の影響を受けたも  

のであり,その意味において,これ等 3史風は他律的な学風と称することが 出来るが,これに対して,後 2者は一方ではイギリス及びアメリカ史学界か らのインパクトを受けながらも,他方ではカナダの政治・経済・社会・文化 等の諸風土に適合させながら,自律的にカナダ独自の史風として構成された ものである。かくして,私見によれば,カナダ近代史学は,後 2者 , 特 に

'Laurentian  School

によってその基盤が定礎され,それが更に

Metro‑

politanism'

継承され,今日に至っているのである。以下,これ等諸史風に ついて関説する。

'Britannic School'

は元来1

9

世紀後半〜20 世紀初期の所謂イギリス帝国主義 を信奉する人々によって創設されたもので,イギリス帝国内における「イギ リス人による新しい共同社会としてカナダを位置付け,イギリス帝国の全政 治機構の一環としてカナダを理解し,従ってイギリスの政治・経済・社会・

文化諸制度を積極的に導入し,カナダ人はイギリス帝国民としての資格を与

(1) 

えられるべきであるという立場を採った。このようなイギリス帝国の権威へ の傾斜ほ1776 年の独立戦争,

1812

年の

Mr. Madison's  War及び1861

年の

Civil  War

において, アメリカの強烈な政治的・軍事的圧迫を受け, その

(1) 

その代表的研究者として,

WilliamKingsford (The History  of  Canada,  10 

vols.,  Toronto, 188798); Sir George Parkin; J. C. Dean; A. G. Bradley;  A.  MacMechan,及びJ.Hannayがある。特に, J.Hannayの著書名はこの学派の

真姿を象徴的に表示している。日

<,HowCanada was Held for the Empire: The  Story of the War of 1812 (Toronto, 1905)と

(6)

カナダ経済史学とProf.Harold Adams Innis(豊原) (351)  27 

都度敗退し続けて来たイギリスが

19

世紀後半から

20

世紀初頭にかけて国是と して

CanadaBritish'

の確保を決定することによって,対アメリカの警戒心 と敵意とをカナダに燃え続けさせようとする態度の反映に外ならない。

しかし,

20

世紀に入り,イギリスの対アメリカ観が次第に軟化し,それに 伴い,対カナダ政策も質的変化を起し,従来の植民地保護政策から政治的従 属政策に転換して来た。このような政治情勢を背景として新しい史風・

Sc

(2) 

hool of Political  Nationalhood'

が誕生した。この学派の特徴は次の 3 つに まとめ得よう。①次第に勃興して来る国民主義思潮を反映して,主として政 治史・制度史の立場から「イギリス帝国主義」への批判を試みようとし,具 体的には,植民期政治文書,外交文書,法律,政治制度の史的研究に従事し たが,Rその実,対「イギリス帝国主義」批判を抜本的なものではなく,従 来のイギリスによる植民地支配を脱しようとしながら 他方では「新生カナ ダ連邦の在り方を,

anew British  Commonwealth'

として位置づけようと する一種の過渡的な史風である。その意味では第

1

BritannicSchool'

と 範疇的に同ーグループに入るであろう。而して,⑧この史風は,かくして,

余りにも,政治史的,制度史的な変遷に重点を置いたために,カナダ自体の ユニークな社会経済的要因の持つ比重を軽視或いは無視したこと及び五大湖 を介して同一大陸上相隣接しているアメリカからの諸方面に亘るインパクト に積極的考慮を払わなかった点に重大な弱点を持つこととなり,やがて

1920

年代後半における第

3

の史風としての

Frontierism'

の榛頭を齋らすことと なった。

Frontierism'

への移行における先駆的論文は,

1923

Dr. W. A. 

(3) 

Mackintosh

がアメリカ史家

Prof. F. J.  Turner

FrontierTheory'

を援 用して,

Economic Factors  in  Canadian History"

を発表した時点まで糊

(2) 

この学派に所属する人々として,

ChesterMartin (Empire and Commonwea‑

tlh,  Oxford, 1929);  R. G. Trotter (Canadian Federation, Toronto, 1924)

をは じ め ,

WillaimSmith,  G. E. Wilson,  D.  C.  Harvey,  Chester  New,及び G.

M. Wrong

がある。

(3)  Prof. F. J. Turner

FrontierTheory'しま1893

年開催の

AmericanHistorica1  Association

で発表した彼の研究報告

TheSignificance of the Frontier in Ameri‑

can History'

に初めて展開されている。

(7)

28 (352)  カナダ経済史学とProf.Harold Adams Innis(豊原)

(4) 

り 得よう。この

Turnerism'

信奉のカナダ史家達の発想の基礎には,①第

•第 2 の史風への批判的態度,②アメリカ西部とカナダとを地理的・政治的,

社会経済的,文化的同胞意識で理解しようとする姿勢,而して,⑧自然環境 的史観を採ろうとする立場

(Environmentalists)

ーが在る。さて,この

Fr ontierism'

のカナダにおける展開には

3

段階がある。第

1

は熱狂的に

Turn‑

erian  Fashion'

を模倣した時期であり,具体的にはカナダ政党の史的特質に 関する

Prof. F. H. Underhill

の研究,カナダが国境を超えて北アメリカ的

Frontier

運動の一部を構成するという

Prof.W. N.  Sage

の研究,カナダ 西部への植民活動と自然環境との相関々係を分析した

Prof. A.  S.  Morton 

(5) 

の研究等がこれに属する。第

2

段階はいわば模倣型から次第に批判型に移る 時期であり,

1830

年に発表された

Prof.A. R. M. Lower

の論文,

TheOr‑

igins  of Democracy in  Canada'

がその典型的なものであった。基本的には

'Frontier'

的な自然環境を核とする「新世界の力」を強調しながら,他方,大 西洋を渡って到来したヨーロッバ伝統の持つ大きなインパクトをも重視しよ

(6) 

うとするのが

Prof. Lower

の立場である。而して第

3

段階は従来の

Tur‑

nerism'

への反動として,カナダにおける「西部」の強調よりも,むしろ,

組織力,統制力を備え,合理的にそれを運用することによって,政治的・経 済的な大発展を遂げている大都市

(Metropolis)

の持つ比重をヨリー層高く評

(4)  W. A.  Mackintosh,  "Economic Factors in  Canadian  History"  (Canadian 

Historical Review, Vol. 1,  No. 1,  March, 1923, pp. 1225). 

(5)  F.  H. Underhill,  "Some Aspects of Upper Canadian Radical  Opinion  in  the  Decade before  Confederation"  (Canadian  Historical  Association  Report,  1927);  do.,  "The Development of National Political  Parties in  Canada"  (Ca nadian Historical Review, Vol.  XVI, No. 4,  1935); W. N. Sage,  "Some As‑

pects of  the  Frontir  in  Canadian  History"  (Canadian Historical  Association  Report, 1928); A. S.  Morton, History of  Prairie  Settlement,  Toronto, 1938;  do.,  A History of the  Canadian West to 18701, Toronto, 1939. 

(6)  A. R. M. Lower, "Some Neglected Aspects of Canadian History"  (Can‑

adian Historical Association Report, 1929; J. L. McDougall,  "The Frontier  School and Canadian Histo(CanadianHistorical Association Report, 1929) 

を参看。

(8)

カナダ経済史学と

Prof.Harold Adams Innis(豊原) (353) 29 

(7) 

価する史風である。この史風を採る史家逹は教条主義的に

Turnerism'

を援 用せず,カナダ「西部」がこの国の史的発展のエネルギー源であり,主軸と なっていることを認めながら,他方,政治的・経済的な組織力と機動力とに 富むカナダ「東部」の史的比重をも併せ考えようとする立場を表明している。

要するに,

Frontierism'

は一方において旧来のイギリス史学のシルエットを 拭い,新しいアメリカ史学的アプローチを移入する点において積極的な貢献 をしたが, しかし,他方では種々の側面において問題点を残した。端的に申 して,西部と東部との対立,西部農民と東部商工業市民との利害関係の対立 等を余りにも単純化しすぎ,北アメリカ的特色と自然環境的感化力との過大 評価ほ却ってヨーロッパからのインパクトとカナダ自体の社会経済的・人的 要因の過小評価を生み,やがて第 4の 批 判 的 史 風 ―

LaurentianSchool'‑

の登場を促進することになる。

'Laurentian School'

を提唱し,自らもその視角に立ってカナダ経済史学研 究を展開し,所謂

stapleapproach'

を確立した人物が正に

Innis

なのであ

(8) 

る。シカゴ大学に留学した彼は,師.

Prof.Chester W. Wright

をはじめ,

Prof.  C. S.  Duncan及びProf. Thorstein Veblen

等の感化を強く受け,そ の影響を見事に結実させた

1927

年発表の論文,

The Fur Trade  in  Canada: 

(9) 

An Introduction to  Canadian Economic History

において,この新史風の

(7)  J.  B.  Brehner, "Canadian and North American History" (Canadian  His

torical  Association Report, 1931; A. R.  M. Lower,  North American Assault  on the Canadian Forest  (Toronto, 1938);  F.  Landon, ・western  Ontario  and  the American Frontier (Toronto, 1941)

等がその代表的研究者である。

(8) 

カナダにおいて「経済史学」的研究を試みた最初の人物は

Prof.Adams Sho‑

rtt (18591931)

であり,主として通貨・信用・銀行業面における貨幣流通史研 究に従った

(W. A.  Mackintosh,  "Adam Shortt, 1859‑1931"  (The  Canadian  Journal of Economics and Political  Science,  May,  1938,  Vol. 4,  No. 2,  pp.  16476,参看)。

(9) 

この論文ほ

theUniversity of Toronto Studies in History and Economics,  Vol. V, No. 1,  (pp.  172)

に所収されており

(DonaldGrant Creighton,  Harold  Adams Innis:  Portrait of a Scholar,  Toronto, 1957, p. 66)

,その後

1930

年にほ

Yale  University  Press

から公刊された

(pp. 444)

。この著書によって

Innis

f

「北アメリカにおける指導的経済史家の一人としての地位を確立した」

(Alexander Brady,  "Harold Adams Innis, 1894‑1952" (The Canadian Journal of Economics  and Political  Science, Vol. 19,  No. 1,  Feb., 1953, p. 90). 

(9)

30 (354)  カナダ経済史学と Prof.Harold Adams Innis(豊原)

基礎を確立させている。この新しい立場は,端的に申して,

St.Lawrence  River水系が単にカナダ国内の全交通体系の主軸となっただけでなく,カナ

ダの政治・社会・経済・文化諸方面における独自の史的発展のエネルギー源 となったことを大前提とし,具体的には,

Montreal

を中心とした

theCo~- mercial Empire of the St.  Lawrence'が毛皮・魚類・木材・小麦・鉱物類等

の所謂

staples'

の通商を通じてカナダ市場を掌握し,次いで五大湖以南のア メリカ「西部」市場の支配をめぐって

NewYork

及びアメリカ大西洋沿岸 諸都市群と競争をまじえ,その結果,輝かしい勝利を,

St.Lawrence River

を 軸として大西洋岸から蓬か太平洋岸に及ぶ広大な平原に新しいカナダ国民経 済を成立させることを以て飾った史的過程を追跡する史風を特色としている。

別言すれば,この学派はカナダの史的発展を西部農村

(Frontier地帯)から

ではなく,東部商工業都市から説き起こそうとした。所謂

staples'

の生産・

販売関係を公分母として,カナダ経済発展の史的特質を探ろうとする立場

('staple  approach'

!),であり,

Frontier農民層よりも遥かに広い視野と展望

とを持ってカナダ国民経済の成立と発展とを促進した都市企業家・商人・エ 業家等の野心的行動を追跡しようとする立場なのである。私見によれば,

'Frontierism'

批判を媒体として誕生したこの

Laurentian School'

によっ て初めてカナダ独自の史学が成立したと考えられ,その意味で,筆者は,こ の学派誕生を以てカナダ近代史学の成立と定めたい。別言すれば第

1

•第 2 の史風のようなイギリス史学の強烈な感化も,第 3の史学のようなアメリカ 史学の直接的インパクトも生産的に処理・吸収し,カナダ独自の政治・社会

・経済・文化・自然から生れる風土に適合し,それ故に一方ではカナダの史 的発展を従来の諸学派に比較して,ヨリ社会経済史的な〔或る意味ではヨリ 経営史的な〕色彩を持っているが,他方ではそれだけョリー層独自的に把握 することの出来る史学としての特色をこの学派は持っているものと考えたい。

「はじめに」において筆者が

Innis

をカナダ近代史学の祖として位置付けた 意味も亦ここにある。

'Laurentian School'は現在, Prof.J. M. S.  Carelessの所謂 Metropo

(10) 

litanism'に継承されている。 Innisの主張する立場の一つ,東部商工業大都

参照

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