日本多 国籍企 業 の技術 戦略進化 とその問題点(上)
一 ア ンケ ー ト調査 に よる 日米比 較 分 析 を基 に一
關 智 一
目 次
1.は じ め に
2.米 国 多 国 籍 企 業 の技 術 戦 略 進 化 と そ の 理 論 的 含 意 2‑1.米 国 多 国 籍 企 業 の 持 続 的 競 争 優 位 性 2‑2.米 国 多 国 籍 企 業 の技 術 戦 略 進 化
2‑2‑1.内 的 成 長 時 代 の技 術 戦 略 進 化 2‑2‑2.外 的 成 長 時 代 の技 術 戦 略 進 化 2‑3.米 国多 国籍企 業研 究 の理論 的含 意
3.日 本 多 国 籍 企 業 の 技 術 戦 略 進 化 に 関 す る 実 証 分 析 3‑1.ア ンケ ー ト調 査 の概 要
3‑2.日 本 多 国 籍 企 業 の技 術 戦 略 進 化
3‑2‑1.日 本 多 国 籍 企 業 の 技 術 開発 戦 略 進 化 3‑2‑2.日 本 多 国 籍 企 業 の 技 術 管 理 戦 略 進 化 3‑‑3.技 術 戦 略 進 化 に 関 す る 日米 比 較 分 析
3‑3‑1.技 術 開 発 戦 略 進 化 に 関 す る 日米 比 較 分 析 3‑3‑2.技 術 管 理 戦 略 進 化 に 関 す る 日米 比 較 分 析 4.日 本 多 国 籍 企 業 の 技 術 戦 略 上 の 問 題 点
4‑1.日 本 多 国 籍 企 業 の技 術 開 発 戦 略 上 の 問 題 点 4‑2.日 本 多 国 籍 企 業 の技 術 管 理 戦 略 上 の 問 題 点 5.お わ りに
本号掲載 以下,次 号掲 載予 定
1.は じ め に
本稿 で は,筆 者が これ まで行 って きた第二次世界大戦 後の米 国多 国籍企業 に よる技術 戦略進化 に関す る研 究成 果 を踏 まえ,そ こか ら得 られ た理 論的含 意 を
〔197〕
ベ ー ス に,現 代 の 日本 多 国 籍 企 業 の技 術 戦 略 進 化 との比 較 分 析 を行 う。 比 較 分 析 の 前 提 とな る 米 国 多 国 籍 企 業 の デ ー タ は,主 に文 献 資 料 か らの 二 次 資 料 を 中 心 と した もの で あ るが,日 本 多 国籍 企 業 の デ ー タ は,今 回 筆 者 が ア ン ケ ー ト調 査 に よっ て 得 た 一 次 資 料 を使 用 して い る。
本 稿 の 考 察 目的 は,以 下 の 二 点 で あ る。す な わ ち,第 一 に"戦 略(Strategy)"
の 不 在 を指 摘 さ れ て 久 しい 日本 多 国 籍 企 業 が,自 らの 「コ ア ・コ ン ピ タ ン ス (CoreCompetence)」 で あ る"技 術(Technology)"に お い て,こ れ ま で 一 体 どの よ う な"技 術 戦 略(TechnologyStrategy)"を 展 開 して きた の か と い う点 を 明 らか にす る こ と,そ して 第 二 に米 国多 国 籍 企 業 の技 術 戦 略 の 進 化 過 程 との 比 較 分 析 か ら,近 年 のITや バ イ オ とい っ たハ イ テ ク産 業 分 野 で伸 び 悩 む, 日本 多 国籍 企 業 の技 術 戦 略 上 の 問 題 点 を浮 き彫 りに す る こ と,の 二 点 で あ る1)。
2.米 国 多 国籍 企 業 の 技 術 戦 略 進化 と その理 論 的 含 意
2‑1.米 国 多 国 籍 企 業 の 持 続 的 競 争 優 位 性
筆 者 は こ れ まで,主 に文 献 ・理 論 研 究 を 中 心 に,第 二 次 世 界 大 戦 後 の米 国 多 国籍 企 業 に よ る技 術 戦 略 の 歴 史 的変 遷 を 明 らか にす る こ と を試 み て きた2)。 そ
1)HamelandPrahaldに よ る と,コ ア ・コ ン ピ タ ン ス と は,企 業 が 過 去 か ら受 け 継 い で きた 歴 史 的 財 産(ブ ラ ン ド,資 産,特 許 権,搭 載 ベ ー ス,流 通 イ ンフ ラ な ど) そ の も の で は な く,そ れ ら を 管 理 し た り展 開 した りす る こ とで 将 来 的 な 利 益 を生 み 出 す 能 力=「 企 業 力(Competence)」 で あ る とい う。 そ して,そ う した具 体 例 の 一 つ と し てHamelandPrahaldが 指 摘 して い る の は,や は り 「戦 略(Strategies)」
で あ っ た 。 つ ま り,本 稿 で の技 術 戦 略 そ の も の こ そ が,具 体 的 な コ ア ・コ ン ピ タ ン ス の 一 つ と し て 位 置 付 け ら れ 得 る,と い う こ と で あ る。 こ の 点 に 関 し て は,HameLG.andPrahalad,C.K.,(1994),CompetingfortheFuture,Harvard
BusinessSchoolPress,Chapter9.(一 條 和 生 訳 『コ ア ・コ ン ピ タ ンス 経 営 一大 競 争 時 代 を勝 ち抜 く戦 略 』 日本 経 済 新 聞 社,1995年,第9章),を 参 照 の こ と 。 2)文 献 研 究 の 成 果 と して は,拙 稿(2000)「 多 国 籍 企 業 の 技 術 戦 略 サ イ ク ル に 関 す
る一 考 察 一 米 国 多 国 籍 企 業 に よ る技 術 管 理 戦 略 の 展 開 を 中 心 に」 日本 経 営 学 会 編
『日本 経 営 学 会 誌 』 第5号 ,同(2002)「 第 二 次 世 界 大 戦 後 の 米 国 多 国i籍企 業 に よ る技 術 戦 略 の 進 化 過 程 」 国 際 ビ ジ ネ ス 研 究 学 会 編 『国 際 ビ ジ ネ ス 研 究 学 会 年 報 一 中小 企 業 に と っ て の グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン』 第8号
,が あ る 。 ま た,理 論 研 究
日本 多 国籍 企業 の技術 戦 略進 化 とそ の問題 点(上) 199 して,そ こ か ら明 らか に され た理 論 的 含 意 と は,第 二 次 世 界 大 戦 以 降 の米 国 多 国籍 企 業 の 技 術 戦 略 が,こ の 半 世 紀 の 間 に様 々 な試 行 錯 誤 を 経 な が ら 「進 化
(Evolution)」 し続 け,こ の こ とが 米 国 多 国籍 企 業 の 「技 術 覇 権(Technology Hegemony)」 を維 持 せ しめ る原 動 力 とな っ て き た,と い う こ とで あ っ た 。
つ ま り,今 日 の 「戦 略 経 営 論(StrategicManagement)」 に お け る 「RBV (ResourceBasedView)」 の 観 点 か ら説 明 し直 す とす れ ば,米 国多 国 籍 企 業 は 自 らの 「組 織 能 力(Capabilities)」 に よ っ て 技 術 戦 略 を 絶 え 間 な く進 化 させ 続 け て きた 結 果,と くに ハ イ テ ク 産 業 分 野 に お い て 競 合 他 社 の真 似 の で き な い
「持 続 的 競 争 優 位 性(SustainableCompetitiveAdvantage)」 を獲 得 し得 た, と考 え る こ とが で き る の で あ る3)。
例 え ば,2001年7月17日 発 表 の 「文 部 科 学 省 ・第7回 技 術 予 測 調 査 」 に よる と,米 国 は バ イ オ テ ク ノ ロ ジー(Biotechnology:生 命 工 学)や バ イ オ イ ンフ オ マ テ ィ ク ス(Bioinformatics:生 命 情 報 科 学)と い っ た 「生 命 関 連 分 野 」 の 三 種 類 全 て と,ITや ソ フ トウ ェ ア とい っ た 「情 報 関 連 分 野 」 の 三 種 類 全 て に お い て,日 本 や 欧 州(EU)に 技 術 面 で の比 較 優 位 を持 つ の に 対 し,日 本 が 米 国 に比 較 優 位 に あ る技 術 分 野 は,ク リー ン ・エ ネ ル ギ ーや 環 境 ホ ル モ ン対 策 とい っ た 「環 境 関 連 分 野 」 の 「窒 素 酸 化 物 排 出 規 制 ・技 術 の普 及 」 の み とな っ て い る(表1参 照)。 こ う した 調 査 結 果 か ら も明 らか な通 り,確 か に今 日 の ハ イ テ ク産 業 分 野 に お い て,米 国 多 国 籍 企 業 の 技 術 優 位 性 は際 立 っ て い る の で あ る。
で は何 故 に,米 国 多 国籍 企 業 の 技 術 戦 略 は模 倣 困 難 性 が 高 く,競 合 他 社 の そ れ よ り も比 較 優 位 に あ り続 け られ 得 る,と 考 え られ る の で あ ろ う か 。 筆 者 の こ れ まで の 文 献 研 究 で は,上 記 の 疑 問 を解 く鍵 は,や は り米 国 多 国籍 企 業 の そ の 独 特 な技 術 戦 略 に あ る,と の 見 解 を得 て い る。 数 多 くの先 行 研 究 に よっ て も繰
の 成 果 と し て は,拙 稿(2001)「 多 国 籍 企 業 理 論 の 再 構 築 に 関 す る 一 考 察 一 レ デ ィ ン グ 学 派 の 内 部 化 理 論 に お け る 特 許 効 力 否 定 の 背 景 を め ぐ っ て 」 神 戸 大 学 経 済 経 営 学 会 編 『国 民 経 済 雑 誌 』 第183巻 第5号,が あ る。
3)こ の 点 に 関 し て は,Saloner,G,Shepard,AandPodolny,J.,(2001),Strategic
Manage〃zent,JohnWiley&Sons,Chapter3。(石 倉 洋 子 訳 『戦 略 経 営 論 』 東 洋 経 済 新 報 社,2002年,第3章),を 参 考 と した 。
表1文 部 科 学 省 ・第7回 技 術 予 測 調 査(2001年7月17日 発 表)
主 な 重 要 技 術 実 現
予測 年
研 究 が進 ん でい る国 ・地域
日 本 米 国 欧 州
◇ 生命関連分野
糖 尿病,高 血圧,動 脈 硬化 に関係す る遺伝
子 群 を突 き止 め,患 者 の病 因 を明確 に判 定 2013 ○ ◎ △ DNA塩 基 配 列情 報 か ら酵 素 な ど新 しい た
んぱ く質 の機 能 を推 測 す る手法 の 開発 2009 ○ ◎ △
細 胞 がが ん化す る信 号 の伝達 を止め てが ん
細 胞 を正常 化 させ る治療 法 の普 及 2020 ○ ◎ △
◇ 環境関連分野
窒 素酸 化物 排 出規制 ・技 術 の普及 2011 ◎ △ ○
ゼ ロエ ミ ッシ ョン技 術 が進 み,産 業廃 棄物
の埋 め立 て量が 半減 2018 ○ △ ◎
環境 ホル モ ンの人体 へ の健康 障害 が解 明 2015 △ ◎ ○
◇ 情報関連分野
ハ ッ カ ー の 攻 撃 か らプ ラ イバ シ ー や 機 密 が 保 護 で き る 信 頼 性 の 高 い ネ ッ トワ ー ク シ ス テ ム の 普 及
2010 ○ ◎ △
1月2,000円 以 下 で 毎 秒150メ ガ ビ ッ トの 大 容 量 ネ ッ トワ ー ク を 自 由 に利 用 で き る 環 境 の 実 現
2009 ○ ◎ △
ソ フ トウェア検 証技術 が 進 み,誤 りのな い
大規 模 ソフ トウェ アの短期 開発が 可能 に 2019 ○ ◎ △
(原 注)研 究 が 進 ん で い る 順 に,◎ → ○ → △ (出 所)「 日本 経 済 新 聞 」2001年7月18日 付 。
日本多 国籍 企業 の技術 戦 略進化 とそ の問題 点(上) 201 り返 し指 摘 され て きた よ う に,米 国多 国 籍 企 業 の技 術 戦 略 の 歴 史 を振 り返 る と, そ こ に は 二 種 類 の技 術 戦 略 の 存 在 を確 認 す る こ とが で きる4)。 す な わ ち,優 れ た 「技 術 革 新(lnnovation)」 を 実 現 す る た め の 戦 略 で あ る 「技 術 開 発 戦 略 (TechnologyDevelopmentStrategy)」 と,そ の技 術 的 成 果 を 最 適 に 「専 有 (Appropriation)」 す る た め の 戦 略 で あ る 「技 術 管 理 戦 略(TechnologyCon‑
trolStrategy)」,こ の 二 種 類 の技 術 戦 略 の存 在 で あ る5)。
そ して,こ う した 二 種 類 の 技 術 戦 略 は,米 国 多 国籍 企 業 を取 り巻 く国 内 外 の 事 業 環 境 や 米 国 政 府 に よ る 政 策(競 争,外 交,通 商 等),米 国多 国 籍 企 業 自身 の組 織 能 力 の 蓄 積 状 態 な ど に影 響 を 受 け な が ら,そ れ ぞ れ が 交 互 に"主 流"の 技 術 戦 略 と して 台 頭 を繰 り返 して き た と考 え られ る(表2参 照)。 ま た,そ れ ぞ れ の技 術 戦 略 はそ の 台頭 に際 して,必 ず か つ て の主 流 技 術 戦 略 の 行 き詰 ま り や 失 敗,あ る い は そ こ か ら派 生 した新 た な 問 題 の 発 生 を直 接 的 な 契 機 と し,そ
表2内 的成 長時 代 にお け る米 国 多国籍 企 業の技 術戦 略進 化 時期 第 二次 世界 大戦 後
〜1950年 代
1960年 代 〜 1970年 代 前 半
1970年 代 後 半 〜 1980年 代 前 半
1980年 代 後 半 〜 1990年 代 前 半
種類 技術開発戦略 技術管理戦略 技術開発戦略 技術管理戦略
目的 イ ノ ベ ー シ ョ ン グ ロ ー バ ル な専 有 グ ロ ー バ ル な
イ ノベ ー シ ョ ン グ ロ ー バ ル な専 有
内容 R&D拠 点 の
本 国集 中化 FDIに よ る 内 部 化
R&D拠 点 の グ ロ ー バ ル 化
プ ロパ テ ン ト政 策 に よる特 許権化 (出 所)筆 者 作 成 。
4)な か で も,菰 田 文 男 氏 の 先 行 研 究 か らは 多 くの 示 唆 を得 て い る。 代 表 的 な研 究 と して は,菰 田 文 男(1981)「 ア メ リ カ多 国 籍 企 業 の 技 術 戦 略 一技 術 ・情 報 の 国 際 的 ネ ッ トワ ー ク の 確 立 」 『東 亜 経 済 研 究 』(山 口 大 学)第48巻 第1・2号,が 挙 げ
ら れ る 。
5)こ の 点 に 関 し て は,拙 稿(2000)「 国 際 技 術 戦 略 」 林 悼 史 編 著 『IT時 代 の 国 際 経 営 一理 論 と戦 略 』 中 央 経 済 社,第5章,同(2002)「 米 国 多 国 籍 企 業 の技 術 戦 略 変 遷 に 関 す る一 考 察 一米 国 の 技 術 ヘ ゲ モ ニ ー を 支 え る もの 」 『商 学 討 究 』(小 樽 商 科 大 学)第52巻 第4号,同(2002)「 米 国 多 国 籍 企 業 の 技 術 戦 略 サ イ ク ル ・モ デ ル 」
日 本 経 営 学 会 編 『21世紀 経 営 学 の 課 題 と展 望 』(経 営 学 論 集 ・第72集)千 倉 書 房, も参 照 の こ と。
う した 閉 塞 状 況 の打 開 や 改 善,克 服 を期 待 され て い る。 そ して,第 二 次世 界 大 戦 後 か ら1990年 代 前 半 に か け て の,い わ ゆ る 「内 的 成 長 時 代(lnternal GrowthEra)」 の 技 術 開 発 戦 略 と技 術 管 理 戦 略 に は,こ う した両 者 の 「因 果 関 係(CausalRelation)」 の 存 在 を 指 摘 し得 る と考 え られ る の で あ る。
例 え ば,第 二 次 世 界 大 戦 後 か ら1950年 代 の 米 国企 業(後 に多 国 籍 化)の 主 流 技 術 戦 略 とは,当 時 の 米 国 経 済 の 隆 盛 を 背 景 と した,積 極 的 な イ ノベ ー シ ョン 活 動 に代 表 され る。 自動 車 産 業 に代 表 さ れ る当 時 の 主 力 産 業 分 野 にお い て 米 国 企 業 の 技 術 優 位 は揺 る ぎ な く,ほ ど な く米 国 経 済 は 「パ ック ス ・ア メ リカ ー ナ (PaxAmericana)」 と称 さ れ た 黄 金 期 を迎 え る。 そ して,こ う し た 米 国経 済 の 繁 栄 を 支 え た の が,当 時 の 米 国 企 業 に よ る旺 盛 なR&D投 資 に裏 打 ち さ れ た 技 術 開 発 戦 略 で あ っ た 。
次 に,1960年 代 か ら1970年 代 前 半 の 米 国 多 国 籍 企 業 の 主 流 技 術 戦 略 は,か つ て の技 術 開発 戦 略 に取 っ て 代 わ り,こ れ ま で に蓄 積 して きた 開発 技 術 か ら得 ら れ る 利 潤 を グ ロー バ ル に 極 大 化 す る こ とを 目指 す,技 術 管 理 戦 略 へ と転 換 す る 。 こ れ は,か つ て の 技 術 開 発 戦 略 に よ っ て 生 み 出 さ れ た 既 存 の 米 国 産 優 位 技 術 を, 手 狭 に な りつ つ あ っ た米 国 市 場 か ら世 界 市 場 へ と移 す こ と を意 味 して い る 。 そ して,そ の際 に 選 択 さ れ た 方 策 とは,現 実 の 市 場 取 引 に 派 生 す る様 々 な コス ト
(=輸 出 で の 関税 や 輸 入 規 制,等)や リ ス ク(=ラ イ セ ン シ ング で の 機 密 漏 洩 や 迂 回 発 明,等)を 回 避 し得 る とさ れ た,FDI(=海 外 直 接 投 資)で あ っ た 。 しか し1970年 代 に入 り,ベ トナ ム 派 兵 や ニ ク ソ ン シ ョ ッ ク,石 油 シ ョ ック と い っ た 政 治 経 済 環 境 の変 化 に よ っ て 次 第 に米 国 経 済 の弱 体 化 が 進 む 中,そ の 間 隙 を 突 い た 日本 や 西 ドイ ツ(当 時)の 台 頭 が 顕 著 と な る 。 米 国 多 国籍 企 業 は,
こ れ ま で のFDIに よ る海 外 投 資 収 益 へ の依 存 体 質 か ら米 国 内 で の 合 理 化 努 力 を怠 り始 め,ま た 巨 額 化 す るR&Dコ ス ト等 へ の 対 応 策 と して ラ イ セ ン シ ング を志 向 し始 め る 。 こ う した ラ イ セ ン シ ン グ の恩 恵 を最 大 限 に享 受 し得 た 日本 企 業 は,最 先 端 の 外 国 産(=米 国 産)特 許 技 術 を 導 入 す る こ と で 「製 品 革 新 (ProductInnovation)」 の 開 発 コ ス トを 大 幅 に節 約 し,む し ろ 品 質 面 や 価 格 面 で の 改 良 に主 眼 に置 く 「工 程 革 新(ProcessInnovation)」 に特 化 す る こ とで,
日本 多 国籍企 業 の技術 戦 略進化 とその 問題 点(上) 203 一 気 に 米 国 多 国籍 企 業 と の 技 術 格 差 の 縮 小 とそ の 後 の 逆 転 に成 功 す る の で あ
る6)。
こ う した1970年 代 の 技 術 管 理 戦 略 の 転 換 に よ り,確 実 に技 術 優 位 性 に騎 りの 見 え 始 め た 米 国 多 国 籍 企 業 は,再 び そ の 主 流 技 術 戦 略 と して 技 術 開発 戦 略 を据 え る こ とで,失 わ れ た 技 術 優 位 性 の復 活 を 目指 し始 め る 。紆 余 曲折 を経 て米 国 多 国籍 企 業 が 辿 り着 い た新 た な イ ノ ベ ー シ ョ ン手 法 とは,こ れ ま で 国 内 に 限 定 して きたR&D機 能 を 海 外 へ と拡 張 し,グ ロ ー バ ル に知 識 創 造 活 動 を行 う とい う もの で あ っ た 。1980年 代 に入 る と米 国 多 国籍 企 業 は,自 らの組 織 をそ う した 新 活 動 に適 した 形 態 へ と よ り積 極 的 に変 革 し,ま た 世 界 中 のR&D拠 点 を コ ン ピ ュ ー タ ・ネ ッ トワー ク で 結 び付 け て い っ た の で あ る。 そ して,こ う した新 た な技 術 開 発 戦 略 に よ っ て 生 ま れ た技 術 的 成 果 こそ が,今 日のIT社 会 に お け る キ ーパ ー ツ で あ る ソ フ トウ ェ ァ で あ っ た 。
しか し,こ う した ソ フ トウ ェ ア は コ ピ ーが 容 易 で あ る とい う技 術 的 な特 性 を 持 っ て い た た め,違 法 な 海 賊 行 為 に よ る被 害 が 問 題 視 さ れ て い た。 こ こ か ら米 国 多 国籍 企 業 は,ソ フ トウ ェ ア の グ ロ ー バ ル な専 有 を 目的 と し,そ の 主 要 な技 術 戦 略 を再 び技 術 管 理 戦 略 へ と転 換 させ る の で あ る。 す な わ ち,時 の 米 国政 府
を動 か し知 的 財 産 権(と くに 特 許 権)重 視 の 「プ ロ パ テ ン ト政 策(Pro‑Patent Poiicy)」 を実 現 させ る と,米 国 多 国 籍 企 業 は権 利 侵 害 を 行 う企 業 を 世 界 的 に 次 々 と告 発 し始 め,多 額 の賠 償 金 ・和 解 金 を獲 得 す る こ とで 海 賊 行 為 へ の 見 せ しめ と し,自 らの グ ロ ーバ ル な専 有 活 動 を有 利 に 展 開す る こ と に成 功 した の で あ る。 と こ ろが,次 第 に米 国 多 国籍 企 業 は,ソ フ トウ ェ ア に限 らず ハ イ テ ク 産 業 分 野 全 般 にお い て 自 らが 数 多 く所 有 す る基 本 特 許 の 存 在 を楯 に,莫 大 な技 術 料 徴 収 や 開 発 中止 を迫 る こ とで 競 合 他 社 の 技 術 的 キ ャ ッチ ア ップ を 阻 止 す る こ
と も視 野 に入 れ始 め,こ う した 技 術 管 理 戦 略 の ター ゲ ッ トに は 日本 や ア ジ ア の 企 業 が位 置 付 け られ る結 果 と な っ て い る。
6)こ の 点 に 関 し て は,拙 稿(2001)「 パ ッ ク ス ・ア メ リ カ ー ナ 崩 壊 に 関 す る 一 考 察 一 米 国 多 国 籍 企 業 の技 術 管 理 戦 略 分 析 を 中 心 に 」 『商 学 討 究 』(小 樽 商 科 大 学)第 52巻 第1号,を 参 照 の こ と。
この よ う に,確 か に 内 的 成 長 時代 の 米 国多 国 籍 企 業 の技 術 戦 略 変 遷 に は,か つ て の技 術 開発 戦 略 の 行 き詰 ま りや 失 敗,そ こか ら派 生 した 新 た な 問 題 の 発 生 を直 接 的 な契 機 と して,そ の 打 開 や 改 善,克 服 を 目指 した技 術 管 理 戦 略 へ の転 換 の歴 史 的 事 実 を確 認 す る こ とが で き る と考 え られ,ま た 逆 に技 術 管 理 戦 略 か ら技 術 開発 戦 略 へ の 転 換 に 際 し て も,こ の こ とは 全 く同様 で あ る。 す な わ ち, 内 的 成 長 時 代 の米 国 多 国籍 企 業 の技 術 戦 略 変 遷 に は,や は り両 技 術 戦 略 の 明 確 な"因 果 関 係"の 存 在 を指 摘 し得 る,と 考 え られ るの で あ る 。
2‑2.米 国 多 国籍 企 業 の 技 術 戦 略 進 化 2‑2‑1.内 的 成 長 時 代 の技 術 戦 略 進 化
そ も そ も,今 日の 米 国 多 国籍 企 業 の突 出 し た技 術 優 位 性 を生 み 出 した技 術 開 発 戦 略 も,確 実 なR&Dコ ス トの 回収 と新 規 開発 予 算 の拡 充 の た め の シス テ ム, す な わ ち技 術 を 中心 と した 拡 大 再 生 産 を保 障 せ しめ る技 術 管 理 戦 略 の存 在 無 く して は成 立 し得 ず,両 技 術 戦 略 の 因 果 関係 を こ こ で 改 め て 強 調 す べ き積 極 的 な 理 由 は 見 出 し難 い と も思 わ れ る。 つ ま り,こ う した 因 果 関 係 は根 本 的 ・基 本 的
な もの で あ り,決 して 目新 しい もの で は な い とい う こ とで あ る。
しか し,我 々 が 内 的 成 長 時 代 の米 国 多 国籍 企 業 の技 術 戦 略 変 遷 か ら得 る知 識 は,そ れ だ け で は ない 。 す な わ ち,我 々 は そ う し た歴 史 か ら,さ ら にそ れ ぞ れ の技 術 戦 略 の 内容 が か つ て の 同 戦 略 の そ れ と比 較 して,明 らか に そ の 内 容 を 進 化 させ て きた こ と に気 付 か され る の で あ る。 そ して,そ う した 個 々 の技 術 戦 略 進 化 は,あ た か も米 国 多 国 籍 企 業 の有 す る組 織 能 力 が,過 去 の 同戦 略 の 行 き詰 ま りや 失 敗 を教 訓 とす る学 習 効 果 を経 て,確 実 に レベ ル ア ッ プ した こ と に よ っ て も た ら され た こ と に気 付 くの で あ る 。
例 え ば,前 出 の 第 二 次 世 界 大 戦 後 か ら1950年 代 当 時 の技 術 開 発 戦 略 と,1970 年 代 後 半 か ら1980年 代 前 半 の そ れ とを比 較 す る と,米 国多 国i籍企 業 が イ ノベ ー
シ ョ ンに 対 す る考 え 方 や 認 識 を大 き く進 化 させ て い る こ とが 理 解 で き る。 つ ま り,1970年 代 後 半 に 入 る と,米 国 多 国籍 企 業 は 固 定 観 念 を捨 て,こ れ まで 国 内 中 心 で あ っ たR&D機 能 を国 外 へ も拡 大 させ る こ と で,グ ロ ーバ ル な イ ノベ ー
日本多 国籍 企業 の技 術戦 略進 化 とそ の問題 点(上) 205 シ ョン に よ る技 術 優 位 の 復 活 を 目指 し始 め て い る 。 す な わ ち,技 術 開 発 戦 略 の 進 化 で あ る 。 こ う した 背 景 に は,や は りか つ て の技 術 開 発 戦 略 の 行 き詰 ま りや 失 敗,す な わ ち もは や 国 内R&D機 能 だ け で は世 界 的 な イ ノ ベ ー シ ョン競 争 を 勝 ち抜 け な い,と す る 認 識 変 化 が存 在 して い た と考 え られ る の で あ る。
しか し,そ れ だ け で は な い。 こ う した技 術 開発 戦 略 の 進 化 を現 実 の もの と し た 最 大 の 要 因 は,や は り米 国多 国 籍 企 業 の優 れ た組 織 能 力 で あ っ た と考 え られ 得 る 。 例 え ば,BartlettandGhoshalら の 一 連 の 研 究 か ら も既 に 明 らか に さ れ て い る よ うに,米 国多 国 籍 企 業 の い わ ゆ る 「トラ ンス ナ シ ョナ ル ・イ ノベ ー シ ョ ン(TransnationalInnovation)」 の実 現 に は,ま さ に そ う した技 術 開 発 戦 略 の 進 化 に見 合 うだ け の,組 織 能 力 向 上 へ の地 道 な企 業 努 力 の 存 在 を指 摘 し得 る の で あ る7)。
つ ま り,今 日の ハ イ テ ク産 業 分 野 にお け る米 国多 国 籍 企 業 の 突 出 した技 術 優 位 性 と は,過 去 の 技 術 開 発 戦 略 か ら得 られ た 教 訓 を学 習 し,戦 略 そ の もの の グ ラ ン ド ・デ ザ イ ン を 時 代 に即 した 形 へ と大 胆 に描 き直 す と と も に,そ れ を 単 な る ビ ジ ョ ン提 示 に終 わ らせ な い た め に,必 要 と さ れ る 組 織 能 力 を着 実 に レベ ル ア ッ プ させ て い っ た結 果 に他 な らな い の で あ る。 技 術 開 発 戦 略 の 進 化 とは,外 観 の 進 化 だ け で は な く,こ う した 中 身 の 進 化 を伴 っ て こそ,初 め て そ の効 果 を 発i揮す る もの と考 え られ る の で あ る。
そ して,こ う した指 摘 は,技 術 管 理 戦 略 の 進 化 に つ い て も同様 に 当 て は ま る と思 わ れ る 。1960年代 か ら1970年 代 前 半 の 米 国 多 国 籍 企 業 の 技 術 管 理 戦 略 とは,
7)こ の 点 に 関 し て は,Bartiett,C.A.andGhoshal,S.,(1989),ManagingAcrossBorders 'TheTransnationalSolution,HarvardBusinessSchoolPress,Chapter7.(吉
原 英 樹 監 訳 『地 球 市 場 時 代 の 企 業 戦 略 一 ト ラ ン ス ナ シ ョ ナ ル ・マ ネ ジ メ ン トの 構 築 』 日 本 経 済 新 聞 社,1990年,第7章),を 参 照 の こ と 。 ま た,今 日 の 多 国 籍 企 業 研 究 の 関 心 の 多 く が こ う し た 組 織 問 題 に 集 中 し て い る こ と は,組 織 能 力 が も た ら す イ ノ ベ ー シ ョ ン へ の 期 待 と 決 し て 無 関 係 で は な い と 考 え ら れ 得 る 。 例 え ば, こ う し た 問 題 関 心 に よ る 研 究 と し て は,Ghoshal,S.andWestney,DE,(ed.),
(1993),OrganizationT加 醐yσ 〃4TheMultinationalCorporation,Macmillan.(江
夏 健 一 監 訳/IBI国 際 ビ ジ ネ ス 研 究 セ ン タ ー 訳 『組 織 理 論 と 多 国 籍 企 業 』 文 眞 堂, 1998年),が 挙 げ ら れ る 。
企 業 組 織 に市 場 機 能 を 代 替 させ る こ と で グ ロ ー バ ル な 専 有 を 目指 す 「内 部 化 (lnternalization)」 が 主 流 で あ っ た が,1980年 代 後 半 以 降 は世 界 的 な プ ロ パ テ ン ト化 の 潮 流 を背 景 に,知 的 財 産 権 の 法 的 拘 束 力 に依 拠 した合 法 的 独 占 の確 立 を 目指 す 動 きが 活 発 化 しつ つ あ る。 こ う した 一 連 の 流 れ は,確 か に技 術 管 理 戦 略 にお け る 進 化 に他 な らず,ま た そ う した 進 化 を実 現 せ しめ る 米 国 多 国籍 企 業 の 組 織 能 力 向 上 の企 業 努 力 に も,や は り 目 を見 張 る もの が あ る 。
例 え ば,プ ロ パ テ ン ト政 策 の浸 透 と共 に,主 要 な米 国 多 国 籍 企 業 の 取 締 役 会 の メ ンバ ー に は,日 本 で も馴 染 み の 深 い 「最 高 経 営 責 任 者(ChiefExecutive Of丘cer:CEO)」 や 「最 高 執 行 責 任 者(ChiefOperatingOiificer:COO)」,「 最 高 財 務 責 任 者(ChiefFinancialOfiicer:CFO)」 の 他 に,新 た に 「最 高 知 的 財 産 責 任 者(ChiefIntellectualPropertyOf丘cer:CIPO)」 が 加 え ら れ て い る。
また,本 社 の 知 的 財 産 部 門 は も と よ り,海 外 子 会 社 に さ え知 的 財 産 紛 争 を専 門 とす る 「特 許 弁 護 士(PatentLawyer)」 が 配 置 され る な ど,も は や 米 国 多 国 籍 企 業 に と っ て知 的 財 産 権 は企 業 価 値 の 源 泉 の一 つ と して 明確 に位 置 付 け られ て い る の で あ り,そ の 効 力 を最 大 限 に発 揮 す る た め に必 要 な組 織 能 力 の 開 発 に 余 念 が な い 。
この よ うに,内 的成 長 時 代 に お け る米 国 多 国 籍 企 業 の 技 術 戦 略 進 化 とは,因 果 関 係 を有 した技 術 開発 戦 略 と技 術 管 理 戦 略 の 交 互 台頭 の 結 果 と し て の,ま さ
に そ れ ぞ れ の技 術 戦 略 進 化 の 集 合 体 と して 認 識 し得 る と考 え られ るの で あ る 。 そ して,そ う した 技 術 戦 略 進 化 の背 景 に は,米 国 多 国籍 企 業 に よる 様 々 な企 業 努 力,す な わ ち 過 去 の 失 敗 か ら得 られ た教 訓 の 学 習 効 果 を ト ップ ・マ ネ ジ メ ン トが新 戦 略 と して 明 示 し,そ の戦 略 実 現 に必 要 な組 織 能力 を全 社 一 丸 と な っ て 開発 す る努 力 が存 在 して い た と考 え られ 得 る の で あ る。
2‑2‑2.外 的成 長 時 代 の 技 術 戦 略 進 化
で は 次 に,1990年 代 後 半 以 降 の 「外 的 成 長 時 代(ExternalGrowthEra)」
にお け る 米 国 多 国籍 企 業 の技 術 戦 略 進 化 につ い て,見 て い くこ と と した い 。 外 的 成 長 時代 の 技 術 戦 略 進 化 に は,か つ て の 内 的成 長 時 代 の そ れ と は異 な る,あ
日本多 国籍 企業 の技 術戦 略進 化 とそ の問題 点(上) 207 る大 きな 変 化 が 見 受 け られ る の で あ る。 す な わ ち,そ の 変 化 と は,技 術 開発 戦 略 ・技 術 管 理 戦 略 そ れ ぞ れ の進 化 が 同期 化 し て い る,と い う点 で あ る(表3参 照)。.
表3外 的成 長 時代 にお け る米国 多国 籍企 業の 技術 戦略 進化 時期
lT革 命
グローバ リゼ ーション
1990年 代 後 半 〜 現 在
種類 技術 開発戦略 技術管理戦略
目的 グ ロー バ ル な イノベ ー ション グ ロ ー バ ル な 専 有
内容 バ ー チ ャ ル ・コ ミュ ニ テ ィ
に よ る オ ー プ ンR&D化
専 用 解 析 ソ フ トに よ る 特 許 ポ ー トフ ォ リ オ 化 (出所)筆 者 作 成 。
これ は,外 的 成 長 時 代 の 到 来 の 契 機 と な っ た,い わ ゆ るIT革 命 や グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ン に よ る 世 界 的 な市 場 競 争 の激 化 に,そ の 最 大 の原 因 を帰 す る こ と が で き る と考 え られ る。 なぜ な らば,IT革 命 は 世 界 中 の企 業 が 自 由 に 知 識 や 情 報 へ とア ク セ ス し得 る"道 具"を 提 供 し,グ ロ ーバ リゼ ー シ ョ ン は世 界 中 の 企 業 にそ う した ツ ー ル に よ っ て グ ロー バ ル ・ビ ジ ネ ス を展 開 し得 る"場 所"を 提 供 して い る,と 考 え られ る か らで あ る。
つ ま り,こ う し た"道 具"と"場 所"が 新 た に 提 供 さ れ た こ と に よ っ て, ITを 活 用 して グ ロ ーバ ル 市 場 参 入 を 目指 す 企 業 が 急 増 した た め,ま す ま す 世 界 的 な企 業 間 競 争 が 激 化 し て い っ た,と 考 え られ 得 る の で あ る8)。い わ ゆ る,「メ ガ ・コ ンペ テ ィ シ ョ ン(MegaCompetition)」 の 激 化 で あ る 。 こ う して 米 国 多 国籍 企 業 の技 術 戦 略 は,急 激 な事 業 環 境 の 変 化 に対 応 す べ く,新 た な進 化 を促 さ れ る こ と と な っ た の で あ る。
で は,外 的 成 長 時 代 に お け る米 国 多 国籍 企 業 の 技 術 戦 略 進 化 とは,一 体 どの
8)こ の 点 に 関 して は,菅 原 秀 行(2002)「 知 識 経 済 と グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ン」青 木 健 ・ 馬 田 啓 一 編 『日本 の 通 商 政 策 入 門 』東 洋 経 済 新 報 社,第5章,の 議 論 が 参 考 とな っ た 。
よ う な も の で あ ろ う か 。
外 的 成 長 時 代 を代 表 す る技 術 開発 戦 略 で あ る 「オ ー プ ンR&D戦 略(Open R&DStrategy)」 で は,開 発 技 術 の ア ー キ テ ク チ ャ を ネ ッ ト上 に公 開 し,世 界 中 に散 ら ば る頭 脳 に協 力 を呼 び か け る こ とで,低 コ ス トに よ る 高 品 質 な イ ノ ベ ー シ ョ ンの 実 現 を 目指 して い る 。代 表 的 な技 術 的 成 果 に は,コ ン ピュ ー タ の 基 本 ソ フ トで あ るLinuxが 挙 げ ら れ る。 ま た,開 発 期 間 の 短 縮 化 も,オ ー プ
ンR&D戦 略 の大 きな 特 徴 の 一 つ で あ る 。
例 え ば,オ ー プ ンR&D戦 略 の 一 種 で あ る 「グ リ ッ ド ・コ ン ピ ュ ー テ ィ ン グ (GridComputing)」 が,一 台 の ス ー パ ー ・コ ン ピ ュ ー タで は膨 大 な時 間 を要 す る ゲ ノ ム 解 析 な どで 活 躍 して い る こ と は,記 憶 に 新 しい(図1参 照)。 ま た, こ う した 新 た な イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ス タ イ ル に対 応 し得 る た め の組 織 開 発 と し て,よ り水 平 的 な 分 散 型 ネ ッ トワ ー ク組 織 の 研 究 も進 め られ て い る。
一 方,外 的 成 長 時代 を代 表 す る技 術 管 理 戦 略 で あ る 「特 許 ポ ー トフ ォ リオ 戦 略(PatentPortfolioStrategy)」 で は,こ れ ま で の 米 国 の プ ロパ テ ン トの 思 想 を よ り強化 し,ITを 活 用 した機 動 性 あ る特 許 戦 略 の構 築 が 目指 され て い る9)。
イ ン タ ー ネ ッ トと専 用 ソ フ トを利 用 す る こ とで,こ れ まで 以 上 の 迅 速 か つ 正 確 な 特 許 情 報 分 析 が 可 能 とな り,バ リエ ー シ ョン豊 か な 戦 略 的専 有 活 動 が 可 能 と な っ て い る(図2参 照)。
例 え ば,自 社 の 基 本 特 許 の周 囲 に関 連 す る特 許(ビ ジネ ス モ デ ル 特 許 も含 む) の 壁 を築 く 「ク ラ ス タ リ ング(Clustering)」 や,競 合 他 社 の 基 本 特 許 に 関 連 す る周 辺 特 許 を 囲 い 込 む 「ブ ラ ケ ッ テ ィ ン グ(Bracketing)」 な どが そ の代 表 例 で あ る。 また,自 社 特 許 か ら技 術 的 思 想 の 多 くを 引用 して い る 企 業 を割 り出 し,そ こか ら提 携 や ク ロ ス ・ラ イ セ ン シ ング,M&Aの 可 能 性 を探 る こ と も可 能 と さ れ て い る。 そ して,こ う した 多 様 な 可 能 性 を実 現 す る上 で は,や は り前 出 のCIPOを 筆 頭 とす る 迅 速 な意 思 決 定 と戦 略 へ の 柔 軟 な 組 織 適 応 能 力 が 必 要
9)こ の 点 に 関 し て は,拙 稿(2001)「21世 紀 の 米 国 多 国i籍企 業 の 特 許 戦 略 モ デ ル ー イ ン ター ネ ッ トを 利 用 し た特 許 ポ ー トフ ォ リ オ 戦 略 」『商 学 討 究 』(小樽 商 科 大 学) 第51巻 第4号,を 参 照 の こ と。
日本 多国籍 企業 の技 術戦 略進 化 とそ の問 題点(上) 209
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(出 所)CIOInsight社 ホ ー ム ペ ー ジ
(URLhttp://www.cioinsight.com/article2/0,3959,1836,00.asp)よ り 。
図1グ リ ッ ド ・コ ン ピー テ ィ ン グ の 概 念 図
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(出 所)AuriginSystem社 ホ ー ム ペ ー ジ
(URLhttp://www.aurigin.com/aureka.html)よ り。
図2AuriginSystem社 の 特 許 ポ ー ト フ ォ リ オ 専 用 ソ フ ト ウ ェ ア の 使 用 例
と され て い る。
この よ うに,外 的 成 長 時 代 に お け る米 国 多 国籍 企 業 の技 術 戦 略 進 化 の 特 徴 と は,新 た に 「外 部 経 営 資 源(OutsideManagementResource)」 を 積 極 的 に利 用 す る こ とで,こ れ ま で の 「内 部 経 営 資 源(lnsideManagementResource)」
を利 用 す る だ け で は 決 して成 し得 な か っ た,こ れ まで に な い 新 た な イ ノベ ー シ ョンや 専 有 の 可 能 性 を切 り開 い て い る 点 にあ る,と 言 え よ う。 す な わ ち,外 部 経 営 資 源 の 積 極 的活 用 に よ り,技 術 開 発 戦 略 ・技 術 管 理 戦 略 そ れ ぞ れ の進 化 に,
日本多 国籍 企業 の技術 戦 略進 化 とそ の問題 点(上) 2刀 こ れ ま で に は 認 め ら れ な か っ た 独 自 性 の 存 在 を 発 見 し 得 る の で あ る 。す な わ ち, 進 化 の 同 期 化 で あ る 。
例 え ば,米 国 の イ ン タ ー ネ ッ ト技 術 に 対 す る 関 連 法 案 の 整 備 状 況 に つ い て 見 て も,技 術 開 発 に 関 わ る 「次 世 代 イ ン タ ー ネ ッ ト 開 発 法(NextGeneration InternetResearchAct)」 と 技 術 管 理 に 関 わ る 「デ ジ タ ル2000年 著 作 権 法
(DigitalMillenniumCopyrightAct)」 は,共 に1998年10月 に 成 立 し て い る(表 4参 照)。 前 者 は,1998年 か ら3年 間 に 毎 年1億 ド ル の 予 算 を 投 入 し,米 国 国 防 総 省 や 米 国 航 空 宇 宙 局(NASA)と い っ た 政 府 機 関 及 び 大 学,産 業 界(主 に 米 国 多 国 籍 企 業)が 参 加 す る,「 次 世 代 イ ン タ ー ネ ッ ト(NextGeneration Internet;NGI)」 開 発 計 画 に 関 連 す る 法 律 で あ り,後 者 は,ネ ッ トワ ー ク 上 で や り取 り さ れ る デ ジ タ ル 画 像 や 音 声,文 字 等 の 著 作 物,す な わ ち 「デ ジ タ ル ・
表4代 表 的 な米 国の イ ンタ ーネ ッ ト関 連法 案(要 旨)
① イ ン タ ー ネ ッ トの 能 力 を 向 上 させ, そ の 性 能 を 改 善 す る た め に,高 度 ネ ッ
ト ワー キ ン グ 技 術 の研 究 開 発 及 び 実 験 を支 援 す る こ と 。
高 度 ネ ッ ト ワ ー キ ン グ 研 究 を 支 援 し,新 しい ネ ッ トワ ー キ ン グ 技 術 を実 証 す る た め に,大 学,連 邦 政 府 の研 究 機 関 そ の 他 の 適 切 な研 究 協 力 機 関 等 を 含 む 多 数 の研 究 サ イ トを 接 続 す る 高 速 テ ス トベ ッ ド ・ネ ッ トワ ー ク を 開 発 す る こ と 。
重 要 な 国 家 目標 又 は 省 庁 の 使 命 に適 合 し た 高 度 イ ン ター ネ ッ ト ・ア プ リ ケ ー シ ョ ン を 開 発 し,実 験 す る こ と。
大 統 領 技 術 諮 問 委 員 会 は次 世 代 イ ン タ ー ネ ッ ト計 画 の 実 施 状 況 を 審 査 し, 大 統 領 に 報 告 す る こ と。
デ ジ タ ル2000年 著 作 権 法
① ネ ッ トワー ク上 で や り取 りされ る画 像 や 音声,文 字等 へ のア クセ ス を効 果 的 に コ ン トロー ルす る技 術 的手段 を は ず した り,そ れ らの複 製等 を防止す る 手段(コ ピー プロテ ク シ ョン)を はず すた め の機器 の製 造等 を禁 止す る規 定 を設 定(1996年 のWIPO著 作 権 条 約 及 びWIPO実 演 ・レ コー ド条 約 に 対 応)。
著作 権 侵害 が 問題 とな る場合 のサ ー ビスプ ロバ イ ダや 非営 利教 育機 関 の責 任 を限定 し,そ の際 の条件 等 に関 して 規 定 を設 定。
コ ンピュ ー タの保守 ・修 繕 に必要 な 行 為 に対 す る著作 権 の適用 除外 に関す る規 定 を設定 。
特 定 のオ リジナル ・デザ イ ンの保 護 に関 す る規定 を設 定。
(出所)郵 政 省 編(1999)『 通 信 白 書(平 成11年 版)』 大 蔵 省 印 刷 局,10〜11頁 。
コ ン テ ン ツ(DigitalContents)」 の 効 果 的 な保 護 を 目 的 とす る,デ ジ タ ル化 時 代 の 著 作 権 制 度確 立 に 関 連 した法 律 で あ る 。 米 国多 国 籍 企 業 の技 術 戦 略 の 同 期 化 を バ ック ア ッ プす る た め に,米 国 政 府 も技 術 開発 戦 略 ・技 術 管 理 戦 略 そ れ ぞ れ の 進 化 に必 要 な 二 種 類 の 法 整 備 を,同 時 進 行 で 進 め て い っ た と考 え られ得 る の で あ る。
しか し,こ う した 同 時 進 化 は逆 に,か つ て の 内 的 成 長 時 代 の よ う に技 術 開発 戦 略 と技 術 管 理 戦 略 の どち らか 一 方 が 主 流 とな り,そ の 失 敗 の 教 訓 を学 習 し組 織 能 力 を レベ ル ア ッ プ させ る 時 間 的余 裕 が,も は や メ ガ ・コ ンペ テ ィ シ ョ ンを 生 き る企 業 に は 与 え ら れ て い な い こ と を 意 味 して い る と も言 え よ う10)。 つ ま り,激 化 す る世 界 的 な市 場 競 争 か ら生 まれ た苦 肉 の 策 が,技 術 開 発 戦 略 と技 術 管 理 戦 略 の 同 時 進 行 で あ っ た,と も考 え られ る とい う こ とで あ る。 しか しそ の 一 方 で
,外 的 成 長 時 代 にお け る 米 国 多 国 籍 企 業 の技 術 戦 略 が,こ れ まで の 内 部 経 営 資 源 の 範 囲 内 とい う制 約 か ら解 放 され,無 尽 蔵 に存 在 す る 外 部 経 営 資 源 を 積 極 的 に利 用 し得 る"意 義"は,や は り大 き い。
な ぜ な らば,か つ て の 内 的成 長 時 代 の米 国 多 国籍 企 業 で は,自 社 が 有 す る だ け の 限 定 さ れ た 経 営 資 源,す な わ ち 内 部 経 営 資 源 の 範 囲 内 に お い て 技 術 戦 略 進 化 を志 向 せ ざ る を得 な か っ た た め,技 術 開発 戦 略 か技 術 管 理 戦 略 の どち らか 一 方 に特 化 す る必 要 性 が 存 在 して い た の に対 し,外 的 成 長 時 代 で は外 部 経 営 資 源 を積 極 的 に取 り込 む こ と に よ っ て そ う した 制 約 が 取 り払 わ れ,そ れ ぞ れ が 目指 す 独 自の 進 化 の 可 能 性 を追 求 す る こ とが 可 能 と な っ た,と 考 え られ る か らで あ る11)。
10)外 的 成 長 時 代 の技 術 戦 略 進 化 の 背 景 に も,や は りそ う し た 進 化 を 支 え る 米 国 多 国 籍 企 業 に よ る,地 道 な 組 織 能 力 の レベ ル ア ッ プ 努 力 が 存 在 して い る と考 え ら れ る。
こ の 点 に 関 し て は,現 在 研 究 中 に あ る 。
11)し か し一 方 で は,こ れ ま で の 因 果 関 係 が 失 わ れ た こ と に よ り,技 術 開 発 戦 略 ・技 術 管 理 戦 略 の 独 自進 化 が 互 い に 軋 礫 を起 こ す 可 能 性 も 否 定 で き な い 。 オ ー プ ン R&D戦 略 の 代 表 例 で あ るLinuxで は,公 開 し て い る プ ロ グ ラ ム に 対 し著 作 権 や 特 許 権 を 設 定 しな い こ と を最 大 の 特 徴 と して い る 。 こ れ に対 し,特 許 ポ ー トフ ォ リ オ 戦 略 の 目 的 は,隙 間 の 無 い 特 許 包 囲 網 の 構 築 に あ る 。 両 者 の 対 立 は,明 白 で あ る 。 例 え ば,今 日で は 世 界 各 国 の 政 府 や 自治 体 が 安 全 性 や コ ス ト面 か らLinux
日本多 国籍 企業 の技 術戦 略進 化 とそ の問題 点(上) 2ヱ3 2‑3.米 国 多 国籍 企 業 研 究 の 理 論 的 含 意
で は,こ れ まで の考 察 結 果 を整 理 しな が ら,冒 頭 の"疑 問"に 立 ち返 り,そ の"解"を 求 め る こ と と した い。 筆 者 の考 え で は,そ の 解 と して 以 下 の よ う な 説 明 が 成 り立 つ と考 え て い る。
す な わ ち,こ れ ま で の 考 察 か ら我 々が 容 易 に理 解 し得 る こ とは,や は り内 的 成 長 時 代 ・外 的 成 長 時代 を通 じて 米 国 多 国 籍 企 業 の持 続 的 競 争 優 位 性 で あ る技 術 戦 略 の 進 化 過 程 が,同 企 業 の 半 世 紀 に 渡 る試 行 錯 誤 の歴 史 そ の もの で あ っ た, とい う点 で あ る 。 つ ま り,こ こ か ら我 々 は,米 国 多 国 籍 企 業 の技 術 戦 略 進 化 の 歴 史 が,ま さ に 同 企 業 固 有 の もの で あ る が故 にそ の模 倣 困 難 性 は極 め て高 い と 考 え られ る こ と,さ らに そ う した 進 化 そ の もの の 原 動 力 が,ま さ に米 国多 国 籍 企 業 自身 に よ る飽 くな き組 織 能 力 の レベ ル ア ッ プ努 力 に よ っ て 支 え られ て きた
と考 え ら れ る こ と,を 理 解 し得 る の で あ る 。
「能 力 に基 づ く競 争 優 位 性 を持 続 的 競 争 優 位 性 にす る た め に は,競 争 優 位 性 の要 因 を他 者 に わ か りに く く模 倣 し に くい もの にす る か,他 者 に 追 い つ か れ る 前 に学 習 に よ っ て そ の組 織 能 力 を改 善 し,さ ら に先 を行 くか の,ど ち らか の 道 を と らね ば な らな い12)。」
上 記 のRBVの 理 論 で は,持 続 的 競 争 優 位 性 の 獲 得 に は,"模 倣 困 難 性 の確 立"
と"組 織 能 力 の 改 善"が 二 者 択 一 の 関 係 と して 描 か れ て い るが,前 出 ま で の 米 国 多 国 籍 企 業 の ケ ー ス か ら も明 らか な通 り,両 者 は む し ろ ワ ンセ ッ トの 関係 に あ る と考 え る方 が 自然 で あ る よ うに 思 わ れ る 。 な ぜ な らば,21世 紀 の メ ガ ・コ
を採 用 す る ケ ー ス が 急 増 し,こ う し た 流 れ に 逆 ら えずMicrosoft社 も2001年5月 に これ ま で 非 公 開 で あ っ たWindowsの 設 計 情 報 の 開 示 を,米 国 に お い て 守 秘 義 務 契 約 を 結 ん だ 政 府 や 自 治 体 な ど に 限 定 し開 始 し,日 本 で も2003年 か ら 電 子 政 府 ・自 治 体 向 け に 「シ ェ ア ー ドソ ー ス イ ニ シ ア テ ィ ブ」 制 度 を 開 始 す る と し て い
る 。 「日本 経 済 新 聞 」2002年11月28日,12月2日,2003年2月25日,2月26日,
2月28日 付 。 しか し,Microsoft社 が こ れ ま で に 築 き上 げ たWindowsの 特 許 ポ ー トフ ォ リ オ 網 を 捨 て 去 り,莫 大 な ラ イ セ ン ス 収 入 を 放 棄 す る と は 考 え 難 い 。 ま た,Microsoft社 が 従 来 の 特 許 ポ ー トフ ォ リ オ 戦 略 へ の 取 り組 み を 弱 め る と も考 え 難 く,や は り今 後 何 らか の 問 題 が 発 生 す る で あ ろ う こ と は,想 像 に 難 く な い 。 こ の 点 に つ い て は,今 後 も注 意 深 く観 察 す る こ と と し た い 。
12)Saloner,Shepard,andPodolny,(2001),op.cit.,p.49.(邦 訳,61頁).
ンペ テ ィ シ ョ ンに お い て は,両 者 を 同 時 に 追 及 して い く こ と こ そ が,不 確 実 性 に満 ち た 世 界 市 場 を舞 台 とす る多 国 籍 企 業 の 最 善 の 生 き残 り策 で あ る,と 考 え
られ る か らで あ る 。
つ ま り,こ れ ま で の 考 察 か ら も明 らか な通 り,米 国 多 国籍 企 業 は 試 行 錯 誤 を 繰 り返 し なが ら技 術 戦 略 を進 化 させ 続 け る こ と,す な わ ち模 倣 困 難 性 の 確 立 と 組 織 能 力 の 改 善 を 同 時 追 及 して い く こ と に よ っ て,自 らの持 続 的 競 争 優 位 性 を 今 日ま で保 持 し得 て きた こ とが 理 解 で き る の で あ る。 そ して,こ う した 米 国多 国 籍 企 業 研 究 の 理 論 的 含 意 を ベ ー ス に,今 度 は 日本 多 国籍 企 業 の 現 状 を眺 め て み る と,我 々 は 同企 業 の 持 続 的 競 争 優 位 性 が 非 常 に 不 安 定 な もの で あ る こ と に 気 付 か さ れ る の で あ る 。
と くに外 的 成 長 時 代 以 降 の 日本 多 国籍 企 業 は,1980年 代 に半 導 体 な どで 一 時 は 世 界 の頂 点 に 登 りつ め た ハ イ テ ク 産 業 で の 技 術 優 位 性 を,新 た なITや バ イ オ テ ク ノ ロ ジー な どで 完 全 に米 国 多 国籍 企 業 に奪 回 され,今 日で は猛 追 す る韓 国 や 台 湾,中 国 と い っ た ア ジ ア の新 興 多 国 籍 企 業 に,金 型 や 機 械 加 工 とい っ た ロ ー テ ク産 業 で の 技 術 優 位 性 ま で を も奪 わ れ つ つ あ る と言 わ れ て い る。 ま た, 豊 か な 文 化 ・哲 学 に根 ざ した 独 自の デ ザ イ ンカ と品 質性 に よ っ て,こ れ ま で も
日本 に 比 して ブ ラ ン ドカ に 勝 っ て きた 欧 州 多 国 籍 企 業 に は,新 た に 環 境 や エ コ ロ ジ ー,人 間工 学 とい っ た 分 野 に お い て,大 き く発 想 力 ・技 術 力 と も に差 を付 け られ つ つ あ る とい う。
今 日の ハ イ テ ク 産 業 分 野 にお い て は,ソ フ トウ ェ ア に代 表 さ れ る よ う に,初 期 の 開 発 コ ス トを 除 け ば そ れ を 大 量 生 産 す る 上 で ほ とん ど追 加 コ ス トを要 せ ず,そ の た め 大 規 模 な製 造 装 置 も不 要 と な る た め 工 程 革 新 に 依 存 す る こ とが 少 な い と さ れ て い る13)。 す な わ ち,か つ て の 日本 多 国 籍 企 業 が 得 意 と した 工 程 革新 を活 か す こ とが で き な い,と 考 え られ て い る の で あ る。 一一方,中 国 の 巨大 市 場 や 廉 価 な労 働 力 を求 め て,積 極 的 に ア ジ ア 地 域 へ の生 産 拠 点 シ フ トを進 め て い っ た結 果,日 本 国 内 の 部 品 産 業 は 深 刻 な打 撃 を受 け,ロ ー テ ク技 術 の 流 失 ・
13)文 部 科 学 省 編(2002)『 科 学 技 術 白 書(平 成14年 版)』49頁 。