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土地収用法 における訴訟上の問題点 1)

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(1)

土地収用法 における訴訟上の問題点 1 )

秋 山 義 昭

目 次 1.はじめに

2.土地収用手続 と争訟手段の特殊性

3.

事業認定取消訴訟における周辺住民の原告適格

4.収用裁決に対す る執行停止の申立て

5.

収用手続 と事情判決

6.

おわ りに

1

.は じめに

昭和

2 6

年 に土地収用法が制定 され,以来

4 0

年余 り同法 は,公共事業 に必要 な 土地所有権等の強制取得 に関す る要件,手段,効果 と損失補償 について規定す る一般法 と して,「公共の利益 の増進 と私有財産 との調整 を図 り, もって国土 の適正且つ合理 的な利用 に寄与す る」(同法 1条) うえ に重要 な役割を果 た し て きた。土地収用制度 は,元来,一方 において公共の利益 とな る事業の迅速 ・ 円滑 な遂行 と,他方 において私有財産 の保護 を図 るとい う二つの 目的を調整す る制度 として,公正 ・慎重 な手続 と適正 な補償 につ いて配慮す ることが基本的

1

)本稿 は,平成

2

1 0

23

日,東京有楽町よみ うりホールで開かれた全国収用委員会 連絡協議会主催の第73回全国土地収用研究会において, 「土地収用の手続 と行政訴 訟」 と題 して行 った講演の速記録を もとに,内容の一部変更 も含め,整理 して書 き 改めたものである。

〔 1

17

(2)

118 第42

2・3

に要請 され る。また,その実際の運用にあたっては,土地を国土の一部 として 適正かつ合理的に利用す るという政策的な理念 も考慮 されねばな らない。

収用は,特定の公益事業のために行われるものであるか ら, これによって土 地所有者等の受 ける損失 は,特別の犠牲 として,公平負担の見地か ら当然に補 償 されな くてほな らないが (憲法29条 3項),他面,収用 は,土地所有者等の 意思を無視 して行われる強制取得であることか ら,行政庁が法によって付与 さ れた種々の強制的権限を違法に行使 しうる危険性を常 に秘めているといってよ い。行政庁による適法な財産権の侵害に対 し,生 じた損失を完全 に補填すべ き は当然であるが,違法な権限行使による土地所有者等の権利侵害に対 して も十 分な救済の手段が講 じられていなければな らない ことはいうまで もない。

土地収用法上の権限行使 (行政処分)に畷庇があり,あるいは申請 に対す る 権限行使の不作為があるときは,国民の権利救済の途 としては,現行制度上, 行政庁に対する不服 申立てのほか,行政事件訴訟法 (以下 「行訴法」 とい う。)

に基づ く裁判所 に対す る行政訴訟の提起の二通 りがある。土地収用手続 につ き,土地所有者等が行政訴訟 2),就 中,抗告訴訟を提起す ることは数の上か らいえば必ず しも多 くはないようであるが,近時,大規模な公共事業が増大 し, 多数当事者の所有権その他の権利に直接 ・間接に影響を及ぼす機会が多 くなっ てきていることを思えば,今後,抗告訴訟の提起 も必然的に増加 し,その重要 性が一段 と高まることが容易に予想 され るところである。

そ こで,本稿では,土地収用手続 における争訟手続の特殊性をまず明 らかに し,従来特に判例の上で問題 とされて きたい くつかの論点を とりあげて,整理

・検討す ることによって,解釈論上の一定の方向性を見出そ うとす るものであ

2

)土地収用法上,収用委員会の裁決の うち,損失の補償 に関す る訴え は, これを提起 した者が起業者であ るときは土地所有者 または関係人を,土地所有者 または関係人 であるときは起業者 を,それぞれ被告 と しなければな らない とされてお り (

1 33

2

項),行政事件訴訟法上 は,いわゆ る形式的当事者訴訟 にあた る(行訴法

4

条)0

これ も一種 の行政 (事件)訴訟で はあるが,本稿では考察の対象を抗告訴訟の問題 に限定 し,当事者訴訟 には必要 な範囲で触れ るにとどめた。

(3)

土地収用法 における訴訟上の問題点

119

る。

2.

土地収用手続 と争由手段の特殊性

(1) 収用手続 における職権主義 と当事者主義

土地収用法 は,大 まかにいえば,財産権の強制取得 にあたって,収用の対象 となる財産権の範囲を限定 し,最終的にはそれを取得す るための側面 と,それ の対価を中心 として補償を決定す る側面 に分 けることがで きる。

一応,手続の進行に関 して,当事者の意思いかんにかかわ らず,裁判所な り 行政委員会な りが 自発的に行動 しうる建前をとる手続を職権主義的手続,進行 の主導権を当事者に与える考え方を当事者主義的手続 と定義す るな らば,土地 収用法 は,収用手続の上述の二つの側面 に応 じて,手続 自体を,比較的職権主 義的色彩の濃い手続 と比較的当事者主義的色彩の濃い手続 に分離 し,それぞれ

ある程度異なった しくみを とっているといえる。

た とえば,事業認定 は,現行法では,建設大臣または都道府県知事 によって, 具体的な事業あるいは事業計画が,土地の適正かっ合理的な利用に寄与す るか どうか とい うす ぐれて公益的な判断がなされることを前提に しているので (法

20

条), これはどち らか といえば,職権主義的色彩の濃い手続 として構成 され ている。

これに対 し,通常の収用裁決手続 は, この両方の性格が組み合わさってでき ているといえる。すなわち,収用す る土地の区域 と権利取得の時期,明渡 しの 期限を内容 とす る側面では,職権主義的色彩の濃い手続が とられているのに対 し,損失補償の額に関 しては,どち らか といえば当事者主義的な取扱いかなさ れている。

この手続上の性格的な区別 は,具体的な法律構成上 の相違 とな って現われ る。た とえば,法

4 8

2

項 によれば,収用委員会 は,権利取得裁決 については, 裁決 申請書の添付書類によって起業者が申立てた範囲で,かつ,事業に必要な 限度 において裁決 しなければな らないことになっている。 ここで 「事業に必要 な限度」 とは,当事者の申立てに拘束 され ることな く,む しろ事業認定が存在

(4)

120

42巻 2・3

す ることを前提 とす るか ら,収用委員会 として は,裁決 申請 にかか る土地が事 業 のために必要 か否 か につ いて判断権 を有 しない3)。 これ に対 し,損失補償 の方 は

,4 8

3

項の規定 によれば,収用委員会 は,起業者,土地所有者,関係 人 らが意見書 によって申立てた範囲を越えて裁決で きない ことにな ってお り, その意味で当事者主義的な構造が とられてい るといえ る。

また, この点 は,当事者 の意見を述べ る権利の相違 に も現われている。 すな わち,法

6 3

1

項 によれば,収用す る土地の区域等 について は,原則 として 申 請書等の縦覧期間内に出 した意見書等 に記載 した事項を説 明す る範囲内で しか 口頭で意見を述べ ることはで きないのに対 し,損失補償 に関す る事項 について は,法

63

2

項 によ り,当事者 は審理 においていっで も新 たに意見書 を提 出 し, または口頭で意見を述べ ることがで きるとされてい る。

( 2 )

他 の行政委員会 との比較

収用裁決手続 の特殊性 をみ るために,他 の類似行政委員会での手続構造 との 比較をす ることが有益であろ う

独立 した職権行使の認 め られた合議制 の行政委員会 とい って も,当該委員会 に与 え られた機能,職務権限によって手続 も相 当に異 なる。

まず,国の レベルで,独禁法違反の行為があ る場合 にその排除措置を命ず る 権 限を有す る公正取 引委員会を とりあげてみ ると,同委員会 における違反処理 手続 は広 い意味での行政手続であ るが,実質的には裁判所での手続,す なわち 司法手続 に似 た慎重 な手続 (準 司法手続)を踏んで行 われ る。ただ, この場合, 準 司法手続 とはい って も,その手続構造をみてみると,違反処理手続 は,まず 公正取 引委員会が 自 ら審査 をな し,独禁法違反 あ りと認めれば被審人 (違反行 為を していると して審判開始決定を受 けた者,独禁法

5 0

2

項) に対 して勧告 し,被審人が これに応 じない ときには自 ら審判開始決定 を し, 自 ら審判手続 を 主宰 し,審決す るとい う一連の手続 によ って進行す る。

3)小揮道‑ 『

逐条解説 ・土地収用法』 (ぎょうせ い,昭和

62

年)549

(5)

土地収用法 にお け る訴 訟上 の問題点

121

刑事訴訟 において は,普通,捜査 ・起訴 の機関 (すなわち検察官) と裁判機 関 (すなわち裁判所)が さい然 と区別 され,それぞれ別個独立の機関によって 手続が進め られ るのに対 し,公正取 引委員会 の方 は, 自 ら捜査 ・起訴 を し, 自

ら裁判 をす るとい う刑事訴訟 に もみ られない非常 にユニー クな手続を採用 して いるところに大 きな特色がみ られ る

4)0

また,労使紛争 の調整 ・解決,労組組合法で禁 じられた使用者 による不当労 働行為の審査 を任務 とす る行政委員会 と して,中央および各都道府県 に,中央 労働委員会,地方労働委員会が設 け られてい る。そ して, この うちの労働委員 会の不 当労働行為審査手続 は,当事者 (すなわち,不当労働行為救済の申立人 と被 申立人)がそれぞれ 自 ら主張 し,それを立証す ることによって手続が進行 す るとい ういわば当事者主義的構造を基本 とす る。 これ は,労使紛争 その もの が本来対等な当事者 間の団結権侵害をめ ぐるものであ り,それを労働委員会が 当事者の主張 ・証拠 によ って裏づ ける形で一定の判断 (救済命令 ・棄却命令) を下す とい う, どち らか といえば当事者主義的な,民事訴訟的処理 にな じみや すい紛争形態であることによるものであろ うと思われ る。

しか しなが ら,労働委員会の審問手続 は,当事者主義的色彩が濃厚で はあ る が,民事訴訟 とは異 な り,そ こにかな り職権主義的な手続が加味 されていると‑

い うことがで きる0

た とえば,労働委員会 は,職権 によって事実の認定 に必要 な証拠を とり調べ ることがで きるとす る職権証拠調べ の規定 を置 き(労働委員会規則

33

5

項), 労働委員会 は,審 問の場 に職権で証人 に出頭 を求 め,質問す ることがで きる(労 組法27条

3

項) とされている。 さ らに,労働委員会 は,その事務 を行 うために 必要があると認めた ときは,使用者 あるいは労働組合等 に対 して出頭,報告の 提 出,必要 な帳簿書類 の提 出を求め,あ るいは工場 ・事業場 に臨検 ・検査す る

4)

もっとも,独禁法が採用す るこのよ うな手続 に対 しては, 「裁判制度の普遍的理念 である公平の保障を著 しく欠 く」 として批判 (吉川大二郎 「公正取引委員会の審判 手続」民商法雑誌60 65頁) し,あるいはその安易な運用を戒める声 (今村成 和 『独 占禁止法 (新版)

』2 4 3‑2 4 4

貢)が強い。

(6)

122

42巻 2・3号

ことができるといった強制権限の発動 に関す る規定が置かれている (労組法

2 2

1

項)。また,審査手続で は,厳密な意味での当事者処分権主義を採用 して いないので,救済命令の内容 も申立人の請求す る救済内容 に必ず しも拘束 され る必要はな く,労働委員会 は,不当労働行為の具体的内容,使用者の態度,今 後の労使関係の見通 しなど,諸般の事情を考慮 して,当該不当労働行為を排除 す るのに最 も適切 と考える救済命令を発す ることがで きると解 されている5)0

このように,労使紛争の具体的解決 という紛争形態の相違 に基づ く手続の差 異 はあるが,基本的には当事者主義的手続 という点では,労働委員会での紛争 処理方式 は,収用裁決における補償裁決 に似た ものがある。 しか し,労働委員 会の救済命令 に関す る訴訟の方式 としては,当事者間での訴訟 とい うのではな く,労働委員会を被告 とす る命令の取消訴訟を提起す ることになってお り, こ の点で,補償に関す る争いは,収用委員会を被告 とす るのではな く当事者を し て争わせ るとす る収用法上の考え方 とは異な っている。ただ,立法論 としては, 労働委員会の救済命令 について も,補償裁決 と同 じく, これを形式的当事者訴 訟 として争わせ る訴訟形態 も一考 に値す るもの と思われる。

(3)争訟手続の特殊性

上 ri=述べた収用手続 における二つの側面 に合わせて,収用裁決を争 う手続 も,法 は,(丑収用 自体 についての争訟,②損失補填 についての争訟の二つに分 離 している。

そ して,(丑については,収用 自体を一種の公権力の行使 とみて,行政上の不 服 申立て,あるいは行訴法上の抗告訴訟で争 うとしているのに対 し,② につい ては,裁決に不服でその裁決を否定 しようとして争 う点か らみれば抗告訴訟の 一種 ともいえるが,損失補填 に関す る事項に関 しては,裁決手続で当事者主義

・処分権主義が適用 されていることに も現れているよ うに,当事者の自由な処 分 に委ねて も直接公益 に影響す るところは少ないとの配慮か ら,む しろ直接利

5

)最判昭和

5 2

2

月23日 (民集

31

1

93

頁)0

(7)

土地収用法 における訴訟上 の問題点

12 3

害関係を有す る当事者間で争わせた方が適当であるので,当事者訴訟 として構 成 した ものである

6 )0

このように,収用法上の性格を異にす る二つの側面に応 じて争訟手段を分離 . している点に,土地収用をめ ぐる行政争訟の大 きな特色があるといえる。

3.

事業認定取消訴訟 にお ける周辺住民 の原告適格

(1) 問題の所在

土地収用法上,事業認定がなされると様 々な法的効果が生ず ることになって いるが, このよ うな事業認定の効果の及ぶ範囲は,すべて起業地内の土地等に 限 られ る。 したが って,起業地内の土地等の所有者及び関係人が,事実認定の 取消訴訟を提起す る原告適格を有す ることについては疑いない。

しか し,都市計画事業,土地区画整理事業,公共施設の設置 といった大規模 な事業の実施 は,当該事業の施行範囲に属す る地域に止 ま らず,その付近住民 の生活環境 にも様 々な影響を及ぼす ことが少な くない。それに伴い,近年 は, 公共施設や大規模事業の付近住民が,環境利益の侵害 といったことを理 由に, 事業認定その他 これ ら事業に介在す る行政処分を とらえて,その取消訴訟を提 起す る事例が増えてきている。 ところが, これを土地収用の問題 に即 してみる

と,建設大臣または都道府県知事 による事業認定があった場合,事業認定を起 業地内の土地等の所有者及び関係人以外の付近住民が取消 しを求める出訴資格

(原告適格)を有するかが問題 となる。

一般 に,取消訴訟 における原告適格 については,行訴法

9

条が,「処分の取 消 しの訴え・・‑・は,当該処分‑‑の取消 しを求めるにつ き法律上の利益を有す る者 に限 り,提起す ることがで きる。」 と定めている。 したが って,処分の直 接の相手方 はもとより,直接の相手方以外の第三者,あるいは地域住民,付近 住民であって も,処分の取消 しを求めるにつき 「法律上の利益を有す る者」で あれば,取消訴訟を提起する資格,すなわち原告適格が認め られるということ

6

)最判昭和58

9

8

日 (判例時報1

096

63

頁)0

(8)

12 4

42

2・3

になる。問題 は, この場合の 「法律上 の利益」 とは何かであるが,近時の判例 は, これを 「法律上保護 された利益」,す なわち, 「行政法規が私人等権利主 体 の個人的利益を保護す ることを 目的 と して,行政権の行使 に制約を課 してい

ることによ り保障 されている利益」 と解 してい る

7)0

ただ,行政法規が,付近住民の利益 を個別具体的に保護 してい るとみ るべ き か どうか は,実際問題 としてはやや唆味で,時 には裁判所 の窓意的な解釈 によ ると思 われ るもの もみ られ る

8)

。 また,判例 は, これを どち らか といえば厳 格 に解す る傾 向にあ る。

学説 は,裁判所 の このよ うな傾 向に対 し,原告適格 の範囲を不 当に狭 め るこ とにな るとして一般的に批判的である。確か に,立法者 も,原告適格の ことを 念頭 に置 いて法律 を制定す るわけで はない し,法律 の規定 の仕方 に原告適格の 有無の判定基準を求 め るの は, いかに も立法の偶然 によって左右 され る結果 と

もな りかねない。そ こで,学説 の中には,行訴法

9

条 の 「法律上 の利益」を 「 律上保護 された利益」で はな く,「法律上保護 に値す る利益」 と解 し, よ り柔 軟 に原告適格 を認 め るべ きとす るもの もあ る9)が,判例 は,今 日,「法律上保 護 された利益」説 に立 ち,付近住民の利益を行政法規が個別 ・具体的 に保護す

7)

最判昭和

5 3

3

1 4

日 (民集

32

2

21

1頁),最判昭和

57

9

9

日 (民集

36

9

1 679

頁),最判昭和

60

1 2

17

日 (判例時報

11 79

57

頁),最判平成元年

2

1 7

日 (民集

43

2

56

頁)

8

)たえば,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律

24

1

項に規定す

「(

核物質汚染物や原子炉による)災害の防止上支障がないものであること」と の許可基準は,下級審の裁判例では一致 して周辺住民の具体的個別的利益を保護 し たものと解されている (松山地判昭和

53

4

25

日・判例時

事 齢91

3 8

頁,高松高 判昭和

59

1 2

1 4

日 ・判例時報

11 36

3

頁,福島地判昭和

59

7

23

日 ・判例時

11 24

34

亘,水戸地判昭和

60

6

25

日 ・判例時事

酎1 64

3

頁)。ところが,火 力発電所パイプライン設置認可処分の要件としてあげられた技術基準の 「電気工作 物は,人体に危害を及ぼ し,又は物件に損傷を与えないようにすること」(電気事 業法

48

2

項 1号)については,裁判所はこれを周辺住民の個別的利益を保護する ものではなく,公益の実現を目的とするもの」でしかないという(東京地判昭和

59

6

1 3

日 ・判例時報

11 38

58

貢)0

9

)原田尚彦 「訴えの利益

」(

弘文堂,昭和

48

年)

1

頁以下,兼子仁 「行政争訟法

」(

筑摩 書房,昭和

48

年)

297

貢など。

(9)

土地 収用法 にお け る訴 訟上 の問題点

125

る趣 旨の ものか どうか とい う観点か ら,原告適格の有無を判断 してお り, これ はほとん ど揺 ぎない もの とな っている。

(2) 土地収用法20条 3号の解釈

上述 のよ うな近時の判例の定着 した傾向を前提 とす ると, さ しあた って,土 地収用法20条

3

項が事業認定の要件 と して定 めている 「事業計画が土地 の適正 かつ合理的な利用 に寄与す るものであ ること」の規定の解釈が問題 とな る。

最近の学説 ・判例 によれば, この規定 は,当該土地がその事業の用 に供 され ることによって得 られ るべ き公共の利益 と,それによって失 われ る私的ない し 公共 の利益 とを比較衡量 し,前者が後者 に優越す ると認 め られ ことを意味す る が,ここで比較衡量すべ き諸価値 の中には,起業地 内の財産 的価値 のみな らず, 起業地及 びその周辺 における文化的,宗教的,景観的,環境 的な, いわば社会 的な価値 を も含 む と説 かれて い る1秒 。 この よ うな社会的価値を享受す る利益 は,起業地 内の居住者のみな らず起業地外 の周辺居住者 にまで拡 ってい る場合 も多 いであろ うか ら,同規定 は,付近住民のかか る社会的利益 を保護 してい る と解 されないで もない。

しか し,最近 の判例 は,土地収用法20条 3号 の趣 旨は,土地が適正かつ合理 的に利用 され ることにな るか否かを専 ら国民経済的,専門技術的な観点 に立 っ て起業地内の土地等の権利者の不利益 と土地収用 によ り実現 され る事業 によ り もた らされ る公共の利益 を比較衡量す ることによ って判断すべ き義務 を行政府 に課 したに とどまるものであ り,同号が付近住民 に対 して環境利益 を個別 的 ・ 具体 的 に保 障す る趣 旨を含 む もの と解す る ことはで きない

L l l

), その他,土

1 0 )小津 ・前掲書262

,60 2

貢,小高剛 「土地収用法

」(

一法規,昭和55年)1

58

真, 東京高判昭和48

7

1 3

日 (行裁例集2

4

6・7

号533号頁),大津地判昭和58年11

28

日 (行裁例集34

1

1号2002頁)0

l l )

東京地判 昭和5

8

1

1月11日 (行裁例集34

1 1

1 903

頁),東京高判 昭和59

7

1 8

日 (行裁例集35 7号941頁),最判昭和60

6

28

日 (土地収用法実務提要

4‑44

53

頁)0

(10)

126

42

2・3

地収用法および関連法規 には,周辺住民につ き騒音等の被害を受 けない利益を 個別的 ・具体的に保護す る趣 旨の規定 は見当た らない12)として,事業認定の 取消 しを求める付近住民の原告適格を一貫 して否定 している。

確かに,土地収用法 は,元来, 「公共の利益の増進 と私有財産 との調整」を 図 ることにその 目的があり,上述の社会的価値を考慮すべ き点 について も規定 はやはり抽象的であって,起業地周辺の住民の利益を個別的 ・具体的に保障 し ているもの と解す ることは困難であろう13)0

ただ,土地収用法上,手続的に 「一般の者」が公聴会で意見を述べ ることが で きるとされ

( 23

1

項),事業認定 申請書等を 「公衆」の縦覧に供す ること が要求 され

( 2 4

2

項), 「利害関係を有す る者」 は意見書を提 出す ることが で きるとされている

( 25

条)。 これ らの規定 にい う 「一般の者」,「公衆」,「利 害関係を有す る者」には,通常,起業地内の土地等の権利者 に限 られず,周辺 住民を も含むであろうと思われ る。そ うす ると,法がわざわざ周辺住民に対 し て も意見表明の機会を与えている所以の ものは,事業認定に際 し,生活環境上 の影響を受 けるおそれのある付近住民 に対 して,事業認定手続 に関与す ること のできる手続上の権利を認め, もって事業認定の裁量統制 と侵害発生の予防的 機能を期待 した もの と解せ られ る余地がある。 このように解す ることがで きる とすれば, この面か ら原告適格を根拠づけることも法理論的には不可能でない ところであろう14) 0

1 2 )東京地判 昭和59

7

6

日 (行裁例集35

7

846

亘),大阪高判昭和

6 3

6

2 4

(行裁例集39

5・6

号498貢)0

1 3 )小津 ・前掲書602

頁。

1 4 )荏ll )掲記の判例 は, これ らの手続規定を 「

行政庁の判断をで きる限 り公正妥 当な もの とす るため専門的学識経験者利害関係人な どの意見 を参考 にさせ よ うとす るも のであ って」,個 々の利害関係人の受 ける権利利益 の侵害 について 「個別的な防禦 の機会を与えよ うとす るもので はない」 と判示す る。

(11)

土地収 用法 にお け る訴 訟上 の 問題 点

1 27

4.

収用裁決に対する執行停止の申立て

(1) 執行不停止の原則 と執行停止の申立制度

行訴法

25

1

項は, 「処分の取消 しの訴えの提起 は,処分の効力,処分の執 行又 は手続の続行を妨げない」 と規定す る。取消訴訟の提起 により処分の効力 等が 自動的に当然に停止 され るとす る執行停止原則を採用す るか,それ ともそ の逆に,取消訴訟が提起 されて も当然には当該処分の効力等が停止 され ること にはな らないとする執行不停止の原則を採用す るかば立法政策の問題である。

わが国においては,執行停止原則を とると,訴えの提起により行政の円滑な運 営が阻害 され,それに加えて濫訴の弊が生ず るおそれがあることなどか ら,行 訴法

25

1

項で執行不停止の原則を とることとした

1 5 )。

しか し,執行不停止の原則の下では,取消訴訟が提起 されて も処分の効力等 が停止 されないため,本案判決が言い渡 される前に回復不能な既成事実が形成 され,原告がたとえ勝訴判決を得て も,現状回復が困難で裁判所 による有効な 権利保障が期待で きない場合が生 じうる。勝訴時の権利 ・利益の実現を保全す るというのであれば,通常,民事訴訟法上の仮処分の制度が考え られるのであ るが,行訴法 は,公権力の行使 にあたる行為について,民事訴訟法上の仮処分 の適用を排除 している (行訴法

4 4

条)。

そ こで,行訴法 は,

1

項で執行不停止の原則を掲 げなが らも,「処分,処分 の執行又 は手続の続行により生ず る回復の困難な損害を避 けるため緊急の必要 があるときは,裁判所 は,申立てにより,決定を もって,処分の効力,処分の 執行又 は一部の停止 (以下「執行停止」とい う。)をす ることがで きる

」 (2

項) と定め,一定の場合について,裁判所が処分の執行等を暫定的に停止 させ る途 を拓いた。 これは,上述のような理 由か ら,原告にとって裁判所による権利救

1 5 )1 9 6 0

年 の ドイツ行政裁判所法

( VwGO v. 21 . 1.1 9 6 0 )8 0

1

項 は

,

異議審 査請求および取消訴訟 は,停止の効力 を有す る」と規定 し,執行停止 の原則 を定 め, 一定 の場合 に,裁判所が申立てによ り停止の効力を命ず ることがで きるとしている

(

8 0

5

項)。 この点で,わが国の場合 とは逆の制度を採用 している。

(12)

128

42

2・3

済が空洞化 され ることのないよう,いわば,仮処分制度適用排除の代償的措置 として,行訴法が特に認めた ものといえる。

(2) 執行停止 申立事件

土地収用手続,なかで も収用裁決 は土地所有者,関係人等の権利関係に大 き な影響を及ぼすので,収用裁決の執行停止の申立てがなされ ることは比較的多 い。従来の執行停止申立事件を概観す ると,却下事例が大部分であるが,中に は認容 されているもの もみ られ る。以下,裁判所の決定例を とりあげて,事案 の概要およびその認容理 由,却下理 由をみることにす る。

(丑 東京地裁決定昭和39年

7

月1

3

日 (行裁例集

1 5

3

号1

41 3

貢)

起業者 は宮城県。塩釜漁港修築工事の うち,臨港鉄道敷設工事およびこれ に伴 う一級国道45号線付替工事のため,建設大臣が事業認定。申立人 は,起 業者が裁決手続を続行すれば,申立人が営む造船事業に回復すべか らざる損 害を与えるので,裁決手続の根幹をなす事業認定の効力停止を求めたもの。

決定 は,事業認定があって も,収用委員会の裁決があるまでは申立人 は従 来通 り造船事業を継続できること,手続が続行 され収用裁決が行われたな ら ば回復困難な損害が生ず ることもあ り得 るが,その場合には,収用裁決取消 訴訟 において,当該裁決の執行停止を申立てることによって救済を受けるこ

とがで きるとして,申立てを却下。

本件 は,抗告審東京高裁決定昭和3

9

年1

2

1

日 (訟務月報

1

1巻

4

号583貢) で支持 された。

② 東京地裁決定昭和29年1

2

9

日 (行裁例集

6

巻1

2

号2976貢)

起業者 は京阪神急行電鉄。京都駅拡張用地取得のため事業認定があり,京 都府収用委員会が収用裁決を したので,本件土地上 に店舗を有 し土産物屋を 営んでいる者が,収用裁決執行停止を申立てた もの。

決定 は,裁決が執行 されると転廃業のやむなきに到 るなど,回復の著 しく 困難な損害が生ず ることが予想 され るが,収用裁決を遵法 とするだけの疎明 がなされていないとして却下1① 。

(13)

土地収用法 にお け る訴訟上 の問題点

129

しか し,本件 の抗告審大阪高裁決定昭和

30

1 2

21

日 (行裁例集

6

1 2

2963

頁) は,抗告人 には,著 しい窮迫 が生ず る ことは明 らかで あ り,事業 認定の一部 に公共性 の判断を誤 った違法の疑 いがあるとして認容。 これ は,

旧法 (行政事件訴訟特例法)下での珍 しい認容例であ る。

③ 秋 田地裁決定 昭和

33

9

1

日 (行裁例集

9

9

号2043頁)

収用委員会がな した土地収用法

1 23

条 によ る緊急 の必要が ある事業 のため の緊急土地使用 の許可 に対 し,執行停止 の申立てがな された もの。申立人 は, 本件認可決定が執行 され ると, 目的 とされてい る土地 を使用 され ることによ

り償 うことので きない損害を被 ると主張。

決定 は,特 に理 由を述べず,申立てに理 由あ るもの として認容。

④ 熊本地裁決定 昭和39年

6

3

日 (行裁例集

1 5

6

1 044

頁)

ダム建設事業 につ いての土地収用裁決 に関す るもの。 申立人 は,本件収用 裁決 の結果,収用土地が ダムサイ ト建設のため岩盤 に達す るまで表土が はぎ

と られ,その地上物件 は全て除去 され るので,回復困難 な損害を受 ける,本 件収用 は治水事業 とい う公益 に名 をか り,その実特定 の独 占資本 に奉仕す る

ダム建設 のための もので,執行停止 によ って生 ず る公益 の阻害 はない と主 張。

決定 は, 申立人 の主張 に逐次反論 し,結局,「回復 困難 な損害 を避 け る緊 急 の必要があるとき」 に当た らない と して却下。

⑤ 宇都宮地裁決定昭和42年

3

1 6

日 (行裁例集

1 8

3

239

頁)

日光東照宮所有 の土地 につ いて,栃木県収用委員会が収用裁決。 これに対 し,東照宮が, この土地 は国立公園 日光 山内特別保護地 区の一部 として指定 されてお り, 自然公園法 による国立公園の区域 内にある国立公園事業の用 に

1 6 )

昭和

37

年制定の現行行訴法の下では,行政処分の違法性を疎明す る必要 は特 にない のであるが,行訴法以前の行政事件訴訟特例法下では,執行停止の申立てを認容す るには,本案 について理 由があるとみえること,すなわち,処分 に違法の疑 いがあ ることを要 し, この点についての疎明責任 は申立人 にあるとす るのが通説であった ので, この決定 は当時の通説 に従 った もの と思われ る。

(14)

1 30

4 2

2・3

供 している土地であるか ら,土地収用法

3

条29号,

4

条によって,特別の必 要がなければ収用できない土地であるが,特別の必要 もないのにされた本件 収用裁決処分 は違法である,右裁決が執行 されると,申立人に回復すべか ら

ざる損害が生ず るおそれがあ り,かつ収用の時期が切迫 しているとして,裁 決の執行停止を申立てた もの。

決定 は,収用裁決処分の効力が発生す ることにより,申立人に生ず る回復 困難な損害を避 ける緊急の必要性があ り,また,本案について理 由がないと みえるときに当た らないとして申立てを認容 した

1

7) 。

(参 名古屋地裁決定昭和5

0

6

25

日 (判例 タイムズ3

29

号23

3

頁)

地下鉄工事に関する事業認定処分および収用裁決につ き,当該地下鉄路線 が地下を通 ることになる土地所有者等がその執行停止を求めた もの。

決定 は,地下鉄の設置は多大の公共性を有す るものであ り,都市部にこれ を設置す るには民有地の地下を使用せざるを得ないこと,また これによって 土地所有者等の被 る土地利用の制限,騒音,振動等の被害 は,民有地の地下 を使用す る地下鉄の設置に必然の もので,一般的には金銭補償 により満足す べ きものであることか ら,回復困難な損害を避 けるための必要性 に欠 けると

して却下。

⑦ 横浜地裁決定昭和53年

8

4

日 (判例時幸

離22

号3

0

頁)

国鉄の線路増設予定地の収用裁決 につ き,収用地およびその近辺に居住す る者が,権利取得,明渡 しの時期が到来 し列車が運行 され ると,騒音等の被 害が もた らされるとして裁決の執行停止を申立てた もの。

決定 は,列車運行 によって特に被害が もた らされ るとはいえず,仮 に基準 を上回 ったとして も,社会通念上受忍の限度内にあ り,金銭賠償をもって足 りること,また,裁決の執行が停止 されると,極限状態に達 している通勤,

1 7 )

なお,本件の本案訴訟では,宇都宮地判昭和

4 4

4

9

日 (判例時報

55 6

2 3

頁), その控訴審東京高判昭和

4 8

7

1 3

日 (判例時報

7 1 0

2 3

頁)のいずれ も原告の請 求を認容 し,事業認定の違法,収用裁決の違法を認めている。

(15)

土地収用法 にお け る訴 訟上 の問題点

131

通学等の混雑状態が長期 に渡 って深刻化す るか ら,公共の福祉 に重大な影響 を及 ぼす ことにな ると して却下。

⑧ 大津地裁決定昭和

55

6

5

日 (行裁例集31巻

8

1 64 2

貢)

収用裁決 によ って,使用対象地 のずい道掘削がなされ ると, 申立人の境 内 地 の湧水が枯渇す るとして,執行停止を申立てた もの。

決定 は,上述の事態が発生す るのは,裁決を前提 としてなされ るずい道掘 削 によるものであ るか ら,ず い道掘削を停止すれば足 り,裁決の効力停止 は 必要 はない として却下。

抗告審大 阪高裁決定 昭和55年

8

6

日 (行裁例集31巻

8

1637

頁) も, 権利取得裁決の執行停止 につ いて は,権利取得裁決 自体 によって直接対象土 地 を起業者 に明け渡すべ き義務が生ず るもので はない,明渡裁決 の執行停止

について は,湧水量 に及ぼす影響 は少 ない として抗告棄却。

⑨ 神戸地裁決定 昭和

6 2

4

30

日 (判例地方 自治37号

37

頁)

兵庫県収用委員会がな した洪水調節等 を 目的 とす るダム建設のための収用 裁決 に対 し,土地所有者が執行停止 を申立てた もの。

決定 は,権利取得裁決,明渡裁決 のいずれ もそれ 自体執行力を有す るわ け で はないので,これ らの執行停止 を求 め る申立 て は,申立 自体が失 当で あ る, 仮 に この申立てを収用裁決の効力停止を求 める趣 旨に解 して も,その後 に続

く代執行 を停止すれば損害回復の 目的を達す ることがで きる,また,仮 に代 執行がなされた と して も,それによって被 る被害 は金銭賠償 によ って回復可 能であると して却下。

(3) 決定の傾 向

以上,土地収用手続 に関連す る執行停止 申立事件 を概観 し,裁判所 の決定の 動向を整理すればっ ぎのよ うになろ う

まず,事業認定,収用裁決 は,元来 それ 自体が公共性 の高 い事業 の実施 のた めに行われ るものであるか ら,通常 は行訴法25条 に定 め る執行停止 の消極要件 である 「公共 の福祉 に重大な影響を及 ぼすおそれがあるとき」 にあた ることが

(16)

1 32

第 42巻 第 2・3

多 く,何かよほど大 きな 「回復困難な損害を避 けるため緊急の必要」がなけれ ば,執行停止が認 め られ ることは難 しい といえ る。確かに,現行の行訴法施行 後,執行停止が認 め られたの は⑤の事例が一件 あ るのみで あ る.ただ,このケー ス も由緒 あ る老杉を伐採す るとい うもので, しか も本案で は原告が全面勝訴 し ている,あ る意味で は特異 なケースであ った とい うことがで きる。

つ ぎに,申立てを却下す る理 由は多様であ るが,最近の決定では⑨ の事例 に み られ るよ うに,権利取得裁決,明渡裁決 いずれにつ いて もそれ 自体執行力を 有す るわけで はない, したが ってそれ らの執行停止 自体無意味である,仮 に執 行 の停止 ではな く効力の停止 を求 め るものだ と して も,代執行を停止すれば 目 的を達す ることがで きる, とす る却下例が 目につ く

確か に,処分の執行停止 を求め るとい う場合 に,その処分が執行の観念 を入れ る余地がない とい うので あれば,執行停止 自体が無意味であ る ことは当然で あろ う18)。 しか し,裁決 の場合,代執行を停止すれば足 りるとはい って も,代執行 の手続が とられ るか ど うか は事前 に分か るわけでな く,執行停止 の申立て もその手続が とられてか らにな らざるを得ない。そ うす ると, はた して これで仮の権利救済手続 として どこまで実行性が期待で きるか大 いに疑問である。 ともあれ, この種 の却下事 由は今後パ ター ン化す るであろ うことが予想 され る。

5.

収用手続 と事情判決

(1) 事情判決の制度

行訴法

31

1

項 は

,

「取消訴訟 につ いて は,処分又 は裁決が違法で はあ るが, これを取消す ことによ り公 の利益 に著 しい障害 を生ず る場合 において,原告の 受 ける損害の程度 ,その損害の賠償又 は防止の程度及 び方法 その他一切 の事情 を考慮 した うえ,処分又 は裁決を取消す ことが公共の福祉 に適合 しない と認 め

1 8 )

たとえば,庁舎の使用許可取消処分のような場合,使用許可の取消 し自体 は,別段 何 らかの執行行為を伴 うものではないか ら,処分の効力の停止 は考え られて も,処 分の執行の停止はあり得ない。参照,大阪高裁決定昭和

40

10

月1

5

日 (行裁例集16

1 0

1 756

頁)0

(17)

土地収用法における訴訟上の問題点

1 33

るときは,裁判所 は,請求を棄却す ることがで きる。 この場合には,当該判決 の主文において,処分又 は裁決が違法であることを宣言 しなければな らない」

と規定す る

この事情判決 と呼ばれ る制度 は,行政処分を違法だ として取消す ことが逆に 公共の福祉に重大な影響を及ぼ し,一方,それに較べれば原告の受 ける損害の 程度が小 さいような場合 に,いわば既成事実を尊重す ることにより,社会的, 経済的なロスを回避 しようとす るもので,諸外国に例をみないわが国独特の制 度である。

わが国で この制度が初めて とり入れ られたのは,昭和23年の行政事件訴訟特 例法 においてであるが,当時の この事情判決に関する規定 はやや大雑把で,当 時の裁判所 も事情判決を乱発す る傾向にあ り, しか もその中には,その趣 旨を 著 しく逸脱 していると思われ るものがかな り見受 け られた19) 。 そ こで,現行 行訴法

31

条 は,事情判決の要件を明確にす るとともに,原告の権利救済を も配 慮す ることとして,規定の整備を図 った。すなわち,現行法では,事情判決を な しうるのは,「処分を取消す ことによ り公の利益 に著 しい障害を生ず る場合」

のほか,さらに, 「原告の受ける損害の程度,その損害の賠償又は防止の程度 及び方法その他一切の事情を考慮」した うえで,結論 として処分の取消 しが「公 共の福祉に適合 しない」 と認める場合に限 ることとした。

したが って,現行法の下で この事情判決が適用 され る事例 は,極端に少な く なってきている。最近では,国会議員や地方議会議員の定数配分規定が著 しく 不均衡であるか ら憲法違反であるとして,選挙民が提起 した選挙無効訴訟で, 最高裁は,選挙 は違法であるが無効ではないとして請求を棄却す る判決を下 し

B D )O

もともと,この種の選挙訴訟 には行訴法

31

条 は適用 されない ことになっ てお り (公職選挙法

21 9

条), この規定を適用 して事情判決を下す ことはできな いので あ るが, この判 決 は,一 旦 行 なわれ た選挙 を無効 とす る と大 きな

1 9 )

秋山義昭 「行政事件訴訟法判例展望一事情判決‑」ジュリス ト

9 25

1 96

頁。

20 )

最判昭和

51

4

1 4

日 (民集

30

3

223

頁)0

(18)

1 34

4 2

2・3

混乱が予想 され るとして,いわば行訴法

31

条 に含 まれた 「一般的な法の原則」

を適用 して,一種の事情判決 を下す とい った手法 を とった ものであ る。その後 の同種事案 において,下級審判決が一斉 に これに従 い, また,最高裁 自らもこ れを踏襲す るに至 って21), この考 え方 は, この種訴訟 において判例法理 と し て ほぼ定着 した感が ある。 これは,事情判決 の法理 を適用す ることによる適用 範囲の拡大現象 といえ るが,現行法の下で は, これを除 き,適用事例 に一応落 着 きがみ られ る。

( 2 )

収用手続 における事情判決

上 で も述べたよ うに,現行法下で は事情判決の例 は極端 に少な くな ったが, 土地収用事業,土地 区画整理事業 とい った大規模 な公共事業の分野で は,なお 事情判決がい くつか下 されてお り, この分野が今 日の ほとん ど唯一 の適用事例

とな ってい る。

以下,事情判決の最近の事例を概観す る。

(丑 大 阪高裁判決 昭和

58

9

30

日 (判例 タイムズ

51 5

132

頁)

電力会社が変電所新設工事のために原告 ら所有 の土地 について収用裁決を 申請。 これ につ き原告 らが,事業認定 された起業地 の範囲外の土地約

20

m2が 収用 され た ことな どの違法事 由を主 張 して,収用裁決 の取消 しを求 めた も の

これ に対 し,一審判決 は,収用裁決の一部 に違法があ るとして原告 らの一 部 につ いて請求認容。 しか し,本件判決 は, この変電所 はすで に完成 してお り,収用裁決 を取消 し,現状 に復す るとなればいか に も公共の利益を害す る とい うことで,事情判決,す なわ ち請求棄却 を して いる。なお, この判決 は, 上告審最判 昭和

60

1 2

17

日 (月刊 用地

1986

1 0

月号

52

貢)で も支持 され た。

2

1)最判 昭和

60

7

月1

7

日 (民集

3 9

5

1 1 0 0

頁)。都議会議員 の選挙 につ き,最判 昭

6 2

2

月1

7

日 (判例時

事 酎2 4 3

1 0

貢)0

(19)

土地収用法 にお ける訴訟上 の問題点

135

② 大阪地裁判決昭和

5 7

1 2

2 4

日 (判例時報

1 0 7 8

6 4

頁) (卦 大阪高裁判決昭和

61

2

2 5

日 (判例時報

1 1 9 9

5 9

頁)

③ は②の控訴審。土地区画整理事業 による仮換地指定処分の取消処分およ び換地処分につ き,判決はいずれ もこれ ら処分 に重大かつ明白な畷症があっ て無効 としなが らも,本件換地処分後

2 0

年以上 もたっていること,利害関係 人が多数に及ぶ こと等によって, これ らの処分を無効 とす ることは公共の利 益 に著 しい障害を もた らす として請求棄却

22 )。

もともと,無効 の行政処分 には行訴法

31

条の規定 は適用 されないことになっているのであるが (行訴法

38

条), この判決 は,選挙無効訴訟の場合 と同様 に,行訴法

31

条の基礎 にあ

る 「一般的な法の基本原則」に従 って事情判決を下 した。

以上 にみたとお り,土地区画整理事業,土地改良事業,土地収用事業等,大 規模な事業の実施においては,判決時には事業が進展 してお り,処分の上 に積 み重ね られた法律関係 ・事実状態を覆滅す ることは困難が伴 うことが多 いの で,事情判決が比較的認め られ易い。そ して,その際,判例 は,要件 との関連 では,処分後の経過期間の長短,土地利用状況の変動の程度,利害関係人の範 囲等 と,他面,違法処分 により原告の受 ける損害の程度等を総合考慮 し,事情 判決の適否を決 している。

一方,事情判決の制度 は,行政の法律適合性の原則を犠牲 に して も,違法処 分の上 に積み重ね られた既成事実を尊重 しようとす る制度であるか ら,学界で

もこの制度の存在 自体に消極的な評価を下す ものがないわけではないZD。

しか し,違法処分によって作 り出された状態が社会のために大 きな利益を提 供 してお り,反面,原告に生 じた損害が軽少で,それについては別途補填ない し防止す る手段が講 じられるというのであれば,あえてその処分を取消 さず,

22 )従来 も,土地区画整理事業については,事業が大規模で,処分の取消 しが多 くの利

害関係人 に影響を及 ぼす ものであるところか ら,事情判決が下 され る例 は多か っ た。たとえば,長崎地判昭和

43

4

30

日 (行裁例集

19

4

823

頁),広島地判昭 和59年1

0

1 7

日 (判例時報11

5 3

1 50

頁)等。

23 )佐藤英善 「

行政事件訴訟法第31条論 (

‑)

」早稲 田法学47

3

号398頁。

(20)

1 36

42

2・3

既成事実の方を尊重す ることの方が社会経済的にみて好 ま しいということにな ろ う24) 。 今後 は,む しろ この制度 を有効 に活用 し,実質的に国民の権利保護 を図 る方向が見当されて然 るべ きもの と思われる。

6.

おわ りに

土地収用手続 と関連する行政訴訟上の諸問題 とはいって も,実際問題 として は行政訴訟の数 自体そう多 くはないようである。現在,民事訴訟の数 は,地裁 の第一審事件で年間約

1 2

万件前後 といわれているが,行政訴訟の数 は, ここ

1 0

数年をみて も年

800

件前後,その うち抗告訴訟 は7

00

件前後 とな っている

2

9 。

収用関係の抗告訴訟 ともなれば,さ らに数 は少な く,平成元年度の事業認定庁, 収用委員会を被告 とす る抗告訴訟を合わせて も,新規提起事件数で

6

件,翌年 度への繰越事件数で

33

件にとどまっている

2

ED .

しか し,平成元年度の収用委員会に対す る裁決の申請 は

1 2 7

件で,前年度 に 比較す ると

1 5

件 の増加 とな ってお りZn,大規模公共事業の増大,市民的な レ ベルの法治主義思想の浸透,権利意識の高揚等 とともに今後裁決申請 も増加す

ることが予想 され る。また,実際には訴訟 までには至 らない対行政庁相手の潜 在的な紛争 も決 して少な くないように思われ る。収用法における訴訟上の問題 は,本稿で扱 った もののみでな く, このほかにも事業認定処分の収用裁決取消 訴訟 における違法性の承継,損.失補償に関す る訴えの性質をは じめ,判例 ・学 説で古 くか ら論 じられてきた問題 は多い。 これ らを含め,判例理論の分析 と, 私権の保護 と公共の利益の増進を図 るとい う土地収用法の理念の上 に立 った解 釈論的な問題解決がなお一層急務 となるであろうと思われる。

24 )

秋 山 ・前掲論文

20 0

頁。

25 )

漬秀和 「実務を通 じてみた行政訴訟制度の問題点」公法研究

5 2

1 6 8

貢。

26 )

月刊用地

N o . 27 7 ,7 0

頁.

27 )

月刊用地

N o . 27 7 ,49

,50

頁。

参照

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