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社会科教育分科会
昭和43年版小学校学習指導要領は,「H本の農業」 (第五学年)の取扱いについて次の ように述べている。
目標 わが国に近代産業が発達してきた歴史的背景や国土の開発に注がれてきた先人の 業績を理解させ,国土に対する愛情を育てるとともに,産業の発達に伴うこれからの社会 生活について考えさせる。
内容 (2>日本の農業について,おもな農作物とその分布,土地利用や生産技術の而から みた特色などを理解させ,農業生産と国民生活との関係,増産その他のくふうに努めてき た人々のはたらきなどについて考えさせる。
⑦自分たちの身近な地域の農業生産の様子と比較しながら,日本の農業においては稲 作が特に重要な地位を占めている事実を調べたり,稲作の盛んな地方,特色ある畑作や畜 産が行われている地域を地図に記入しながら,各地の農業生産にみられる増産や省力のた めの人々のくふうの事例について理解すること。
⑦耕地面積,農業生産高,農家の所得などを示す資料を利用しながら,日本の農業は 国土の地形,気候などの条件を反映した特色,たとえば狭い耕地から多くの収穫をあげる
くふう,自然災害とのたたかいなどのもとに営まれていることを理解すること。
附属小学校では移行期間に先立って,新指導要領に基づく教育実験を行なってきたが,
以下紹介するのは,昭和43年度における,附属小学校片野稜威雄教諭による実験授業,
「日本の農業」 (第五学年)単元の紹介である。なお,教科書は現行(昭和33年版)学習 指導要領準拠の東京書籍発行のものである。
単元開姶に先立って,次頁のような構造図が想定され,これに基づいて,日々の授業が
展開されることとなる。この構造図について若干の問題点が指摘されるであろう。第一に
構造図作成の際,これとN本の農業にかんする社会科学的体系とはいかなる関係にあるの
か。また,これを小学校第五学年の教材とするとき,児竜の認識程度はどの程度に考慮さ
れるべきか。換言すれば,学問内容を教材化する際に,その中心観念は何か,それを構成
する基本的要因は何か,また具体的内容は何かということである。これを定める一つの原
則はやはり学習指導要領ということになろう。片野教諭は,「日本の農業は改善されつつ
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ある」という中心観念をそこに見出したのである。そして,
として眺めるということだけではな く,人間の営みとしてとらえようと した。この試みの成否は以下の諸点 と関連する。
第二に,日々の授業は構造図の意 図を達成するために最善のものであ ったかどうか。しかし,いわゆる授 業研究にはここでは触れることがで
きないので,この間のプロセスは完 全であったと仮定しておきたい。
第三に,この構造図の有する意図 は,児童の認識においてどの程度達
iヨ本の農業を単に経済的現象 臼II本の農業」 (第五学年)構造図
狭い耕地 少ない収入 多い農業人m I l l 1
立 米作 土地開発/霊
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成されたか。すなわち,事前の児童の認識が事後においていかに変容したか。この評定に はいくつかの方法が考えられるが,此度のそれは,単元終了後の児童による作文である。
それは「日本の農業についてわかったこと」というものであった。この作文を検:討するこ とによって,教育実験全体の成否がある程度分明となると同時に,一,二,三の諸点にも アプローチできるであろう。
まず,中心観念「改善のすすむ農業」は児童のほとんど全員に理解されていることが明 らかとなった。これは作文からもうかがえるし,また,片野教諭の話によれば,構造図中 の太黒枠をブランクにして児童に示したところ,彼らは直ちに「改善のすすむ農業」と答 えたのである。しかし,これだけで構造図が成功したとはいえまい。ではここで,作文を 少しく検討してみよう。
最も優等生的な作文は,構造図に即応して,(1にれまでび)日本の農業の欠陥,を指摘し
(2>生産を高める諸々の努力,を具体的に述べ,(3)米作申心からの立地条件に応じた転換,
に触れ,(4にれからの農業,を展望し,総体的に臼ヨ本の1ゴ!ξ業は改善されつつあるjとす るものであろうか。児童0)実際の作文では,教諭の授業時のアクセン1・とか,児竜の関心 や作文能力のちがいなどによって,多様な内容が示されている。児童26名の作文を若干の 指標で分類すれば次のとおりである。
・「改良のすすむ農業」の視点を明確にもつもの・・………・…18名(69%)
。これを具体的に指摘するもの …・・………・…15名(58%)
。なお今後に問題が残るとするもの ………s・t…16名(62%)
:祉 会 科 教 育 分 科・会
305。問題点のうち,特に兼業農家に言及しているもの………一一12名(46%)
児童の大半は,改善されている諸点を認めながらも,農業人口の流出や僅かの利益などと いう欠陥を雷保してy・るといえよう。農業に対する偏見は,文章上にはみられないが,明 るい展望もそれほど示されていない。日本の産業構造における農業の位置づけは,教諭の ねらいの一つでもあったが,それは農業人口の工業への流入という形でしかとらえられて いない。なお,未消化のままであるけれども生産者米価への言及が,2名ばかりある。
ζのような児童の理解はどこまで本質的な社会認識として身についているのであろう か。たしかに,知識,概念としてはかなりの理解度を示している。しかし,我々はここで 電大なことを看過してはならない。それは兼業農家に対する言及である。兼業農家とは何 か。一言でいえば,農家だけでは暮してゆけないことの現れである。「改善のすすむ農業」
を理解した児童の多くが,兼業農家の存在を指摘している(10名),のである。この理由は おそらく,日本の農業の問題を彼ら自身の問題として受けとめようとする主体的な姿勢が 弱いためであろう。また,このような姿勢を生み出したのは,児童の生活環境にもよるが 指導自体にも問題があるのではないか。新指導要領には,農業を発展させるための人間の 努力が称揚されている。まさにそれは「改善のすすむ農業」なのであろう。しかし,児童 にとって,そのような農業は無縁のものであって,辛い,苦しい農業のイメージは払拭で きない。このような現実を離れたところで教育内容を与えても,彼らの認識を深化させる ことはできず,問題解決どころか,皮相な,しかも矛盾した感想におわってしまうのであ る。社会の生々しい現実を偽りなく児童に示すことをおそれてはならない。これが第一,
第二の問題点に対する解答でもある。
片野教1諭が新指導要領に準拠して構造図を作成し,単元の授業を展開されたことは先に 述べた。また,教諭が始めから終りまで真剣にこの実験にとりくまれたことはいうまでも ない。児童は単元終了時,教諭の意図を完全に理解した。まさしくこの実験は成功したよ うにみえる。しかし,前段でみたように,それは机上の理解であり,彼らが農村の実態を 想起するとき,二つの矛盾した像のオーバーラップを見たのである。彼らは混乱するはず である。混乱しないとすれば,それはおざなりの理解でしがなかったからであろう。この 原因は新学習指導要領の現状認識の不徹底さにあるし,それに拠った構造図にある。片野 教諭の意図は不成功に終った。否,逆説的にいえば,成功したのである。けだし「学習指 導要領から出発して学習指導要領を否定する」ことが,片野教諭や我々の使命であろうか
ら。
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後記 貴璽:な資料を貸与され,