秋田県由利町を中心とする河川濯概と溜池濯概の特色
藤 田 真 利 子
キーワー ド:河川濯概 溜池濯概 秋田県由利町
Ⅰ は じめに
水田潅概の様式 は地域の水利事情を反映 し、長い 年月をかけて形成 される。そのため、各地域 によっ て異なった特性がみ られる。福岡
( 1 9 9 3 )
は、溜池 卓越地である秋田県山本町を事例に、分布 と利用形 態の面か ら地域的特色を明 らかに した。由利町では、子吉川を水源 とした河川濯概が大部 分である。取水 は矢島町の滝沢頭首工でなされてい る。本荘市 にまたがる貼川流域の一部では、河川 と 併用 して溜池濯概が行なわれている。取水源 は大谷
‑ 河川 ‑‑ ‑等高線 一 ・一 軒町村界 匡 詔 大谷鯛 池受益御 国 囲 滝沢感官工受益榔
第
1
図 研究対象地域および滝沢頭首工 と大谷地溜 池の受益範囲( 2 0 0 2
年)(国土地理院発行
1:5 0 , 0 0 0
地形図 「本荘」
「矢島」( 1 9 8 5
年修正測量)、「滝沢地区県営 ため池等整備事業概要書」 お よび 「ため池等整備事業大谷地地区位置図」 よ り作成)
地溜池である (第
1
図)。本稿では、由利町 と本荘市の一部 を事例 とし、河 川港概 と溜池濯概 との比較か ら、農業水利の特色を 明 らかにすることである。
Ⅱ 由利町における河川澄渡
滝沢頭首工の取水 による水 田濯概面積 は
61 0 ha
、 幹線用水路の総延長 は約1 0 km
であ り、頭首工 は約3 0 0
年前 に築造 されたと伝え られている。 それ ら水 利施設の改修事業 は、子吉川の水害が繰 り返 される と共 に幾度 も行われて きた。 しか し改修事業 は、1 9 8 5
年の県営滝沢地区ため池等整備事業を最後 に完 了 している。滝沢頭首工を含め由利町の河川濯概地 区は、由利町滝沢堰土地改良区 (以下滝沢堰土地改 良区 と略す)が管理を行 っている。第
2
図に滝沢頭首工 による受益範囲全体の水路系 統を示 した。取水 された水 は自然流下 し、山本分水 工で、右岸の滝沢幹線用水路、左岸の平の脇幹線用 水路 とに分水 される。近年、農村基盤総合整備パイ ロッ ト事業1)と港概排水事業が実施 され、圃場の大 区画化 と用排水路の整備が進んだ。揚水機 は
4
箇所 に設置 されている。各揚水機 には 運転者が1
名ずつお り、滝沢堰土地改良区か らの委 託で任務に当たる。運転者 は揚水機の稼動 に関 して、土地改良区の指示を受 けず、農家の希望や現状 に即 して行 う。 このため、運転者 は機械 に詳 しく農作業 の経験 に富んだ人が長期にわたって従事 している。
水管理 は、滝沢堰土地改良区が受益範囲を
1
1区域 に分 け、幹線水路維持管理規程を設 けている。 さら に支線水路 ・小用水路 は各担当区域で自治的な管理 が行われている。1
1区域 は、 5
つの水利組合 と6
つ の集落が管理 している。各区域 には、管理責任者 と 呼ばれる水路現場担当が1
名ずつおかれ、水路の掃 除 ・濯概用水調節を行 っている。 また、土地改良区 の連絡員的な役割を持っ協力員 も置かれている。‑ 3 9‑
Akita University
琵≡詔 受益 郡 司 ・‑‑‑ 等 高線 O分水1..℡‑ 幹線用水路 田捜せ 幹線用水路 (暗渠) ‑ 支線用水路 一・一 支線用水路(暗渠) ニ‑ 幹線排水路 1.・‥..支線排水路 、∧〜 支線排水路 (暗渠)
◎ 揚水機
( a:
大令b:
平の脇C:
怒沢d:
前郷本招)第
2
図 滝沢頭 首工受益範 囲 の濯概 システム( 2 0 0 2
年) (滝沢堰土地改良区資料1:1 0 , 0 0 0
「滝沢堰用水系統図」
および秋田県由利町発行1:1 0 , 0 0 0
「由利町全図」 よ り作 成)滝沢頭首工 にお ける
2 0 0 1
年1
月1
日〜1 2
月3 1
日の 取水量 は第3
図 に示 した。 由利 町の降水量 は4
月が 最 も少 ない 。 しか し、烏海 山の融雪水 が安定 して流 入 す るため河川水量 は豊富 であ る。 よ って、子吉川 か らの取水 には、代掻 き作業 が天候 に左右 されず可 能 にな るとい う利点 が あ る。非濯概期 の取水 は
、 9
月か ら1 0
月 にお いて防火用 水 ・生活用水 の補給 ・環境保全用水 で あ り、水路維 持 目的 の用水 とい う考 え方 がみ られ る。3 5
30
25
取 20 水 畳 15
1 .
005
0 0
( m 3 / S )
1 2 7 3
4 5 6 7 8 9 10 ll 12(刀) 第3
図 滝沢頭首工 にお ける取 水量( 2 0 0 1
年1
月 1日〜1 2
月3 1
日) (滝沢堰土地改良区資料「 2 0 0
1年滝沢頭首工取水量」 より 作成)積雪期問 にあた る
1
1月〜 3
月 は、 ス ク リー ン凍結 な どの問題 が生 じるため取水 は行 われ ない。今後 は 冬期用水 の実現 が期待 されて いる。以上 か ら、河川港概地 区 は子吉川 の水量 が豊富 で あ るため、安定 した取水 が可能 とな って い る。
用水 の需要 が高 まる初期濯概期 と
7
月 の中干 し後 には、受益範囲 内で2‑3
日程度 の農作業時期 の調 整 が行 なわれ る。調整 において、代掻 き開始 時期 は 最下流部 の森子集落が最優先 されて い る。この ことか ら、取水 が容易 な上流部 や水源 に近 い 地域 へ の配水量 が多 くな るとい う上流優位 の考 え方 はみ られない。 よ って、受益範 囲 内 に特別 な水利慣 行 はない と推測 され る。
Ⅲ
大谷地 溜池 による水 田澄渡1
. 大谷地溜池 の歴史大谷地溜池 (写真 1) は、南 由利原高原 の中腹、
写真
1
大谷地溜池( 2 0 0 2
年4
月2 0
日) 池 の周 囲 はサイ ク リング ロー ドに整備 され、 キ ャ ンプ場 が隣接 している。40‑
Akita University
標高
3 7 0 m
付近 に位置 し、1 9 1 0
年 に築造 された秋 田 県最大の人工湖である。その貯水量 は3 5 3
万m
3で、受益面積 は由利町 と本荘市の一部を含む
8 7 6 ha
であ る。鮎川 は、年間を通 じて水量が少な く、渇水時には 鮎川普通水利組合 と子吉普通水利組合間での水争 い が絶えなか った。その水争 いの解消を目的に
1 9 4 2
年 に県営貼川筋用水改良事業で大谷地溜池の嵩上げ工 事が開始 され、1 9 5 5
年 に完了 した。また、溜池 は鮎川発電所 において発電用水 として も利用 されている。
2 .
受益範囲の濯概 システム大谷地溜池の用水 は、鮎川頭首工 により衡助川か ら取水 される。その後、溜池に設置 された取水塔を 通 じて鮎川へ流れ込む。鮎川か らの取水 は中流部 に ある堰口頭首工で行われ、鮎川流域 と本荘市の水田
艶 』 受益晩四 ・一一 幹線用水路 ‑ .,幹線用水路 (時勢 叫 支線用水路 .ー ヰ 幹彩紺F水路 一一一着支線排水路 一・・‑・一等高線 + 壕
口 吐出口
●揚水機
( a:
岡本b:申下野C:
玉ノ池d:償法e
;船岡 f:静崎9:
後野h・.境川 )第
4
図 大谷地溜池受益範囲 (子吉土地改良区管理 地区)の濯概 システム( 2 0 0 2
年)(子吉土地改良 区資料
1:5 , 0 0 0
「本荘市子吉土地改良区2
工区管理施設平面図」および聞 き取 り調査 より作成)へ配水 される。
は じめに、本荘市子吉地区について述べ る (第
4
図)。 この地区は本荘市子吉土地改良区 (以下子吉 土地改良区 と略す)の管轄である。子吉地区は河岸 段丘上に位置 しているため、揚水機の役割が大 きく、8
箇所設置 されている。かつては、地区南部 に存在 した宮下池が濯概用水 として使用 されていた。 しか し、1 9 5 8
年 に子吉川を水源 とす る玉 ノ池揚水機が設 置 されたことにより、水利 に余裕が生 じ、干拓開田 された。揚水機の稼動 に関 しては、河川濯概地区 と ほぼ同様である。この圃場では、用水の反復利用がみ られる。幹線 排水路の水を揚水機で堰上 げ、地下 に埋設 された管
を通 じ、吐出口より再 び用水 として圃場へ戻す。
次 に貼川流域の水田であるが、由利町鮎川土地改 良区 (以下鮎川土地改良区 と略す)の管轄である。
用水 は、鮎川か らの自然流下で配水 され
、 3
つの頭 首工 により取水 されている。揚水機が鮎川 と子吉川 の合流付近 に1
台設置 されているが、 これは子吉川 を水源 とす るものである。3 .
取水量第
5
図は、2 0 0 1
年の鮎川頭首工における取水量 と、大谷地溜池か らの放流量を示 した ものである。溜池 の放流量 は、用水需要が高 まる初期濯概期や中干 し 後 に最大値
1 . 4 7 m
3/
Sを示 している。特 に3
月中旬から
5
月中旬の放流量 は一定である。 これは濯概用水 確保のため、発電所側 は濯概期 に溜池の貯水量 を満 水位 に保持す ることが義務づ け られている2)か らで ある。由利町における濯概期の降水量 は
6
月か ら7
月に(m3/8)
6.
05. 0 4. 0 3. 0 2. 0
1 . 0
0 . 0
‑ 取水塵
‥ ‑ 放流垂
価
I 過 l、.I l 凧 nI u u t 、ノ\〜.一、̲'ftW明 しゝ 第
5
図 鮎川頭首工 における取水量 と大谷地溜池からの放流量
( 2 0 0 1
年1
月1
日〜1 2
月3 1
日) (「 2 0 0 1
年鮎川発電所取水量報告書」 および 「鮎川発電所 放流量調書」 より作成)‑4 1‑
Akita University
かけて最 も多い。鮎川頭首工 における取水量は
6
月、7
月、 9
月 に最大値5, 0 0 mソ
Sを示すが、 これは集中 豪雨 によるものである。子吉地区は、水需要の高 まる時期 は一時的な水不 足 に陥 る。 しか し、上流部が優先的に水を使用 し、
順 に下流部へ と配水 され るという認識の下で農作業 が行われている。 この地区は昔か ら用水不足 に悩 ま されて きたため、上流優位の考え方が根強 く残 って いるといえる。
4.
大谷地溜池濯概地区における水利施設 と水管理 鮎川発電所 は1 9 6 6
年 に建設 され、翌年 に東屋興業 株式会社3 )
が営業運転を開始 した。発電 された電力は東北電力株式会社へ売電 されている。
濯概期間中の発電 は、土地改良区が濯概用水 とし て放流 した水量で行 うことが原則である。非濯概期 は、発電所が電力の需給状況 に応 じて使用水量 を調 整す る。
大谷地溜池および御助川 より大谷地溜池 に至 る導 水路等 は、鮎川 。子吉土地改良区 と鮎川発電所の共 同管理施設である。 これ らの取水操作 は、濯概期 は 土地改良区、非濯概期 は発電所が行 う。 また、維持 管理 は発電所が行 い、費用 も負担 している。
発電事業が開始 されたことにより、労力や費用の 面で、受益範囲内の農家の負担が軽減 されている。
水管理 について、子吉土地改良区は受益範囲を
8
区域 に分 け、各区域 に生産組合が存在する。その中 の水利係が土地改良区か らの委託 により水路管理の すべてを担 っている。鮎川土地改良区は、滝沢堰 ・子吉土地改良区のよ うに特定の水路現場担当者 は存在せず、受益範囲内 の各集落の総代 と常任委員が、年
2
回幹線水路の清 掃等を行 っている。Ⅳ おわ りに
本稿では、秋 田県由利町 と本荘市の一部を事例 と し、河川濯概 と溜池濯概 との比較か ら、農業水利の 特色 を考察 して きた。 その結果以下の ことが明 らか になった。
1
. 河川濃蘭地区の取水 は積雪期問に行われない ため、期間が限 られた ものである。大谷地溜池 によ る取水 は、発電用水 にも使用 されていることか ら周 年的である。2 .
河川濯概地区の水路 は用排分離が進み、溜池 濯概地区は用水の反復利用がみ られた。3.
水管理 については水路現場担当者がおかれて いる。河川濯概地区は管理責任者 と呼ばれ、子吉地 区においては生産組合の水利係がその役割を担 う。4.
用水需要の高 まる代掻 き等の時期 は、溜池濯 概地区は上流優先 という認識の下で農作業が行われ る。河川港概地区においては特別な水利慣行 はみ ら れなか った。5 .
大谷地溜池の用水使用 目的は、濃蘭 と発電で ある。発電事業が始 まったことにより、受益範囲内 の農家は、労力や費用の面で負担が軽減 されている。 本論文を作成するにあた り、本大学の肥田 登先 生か ら終始貴重 なご指導 とご助言を頂 いた。現地調 査にあたっては、鮎川土地改良区、子吉土地改良区、滝沢堰土地改良区の方々か ら御協力を頂いた。末筆 なが ら、以上の方々に深 く感謝 いた します。
注
1 ) 1 9 7 7
年〜1 9 8 8
年 までに3, 0 0 0 ha
の水 田の土地基 盤整備が完了、原則 として3 0 a
区画 とな った。2 ) 1 9 6 6
年3
月2 3
日に子吉 ・鮎川土地改良区および 東星興業株式会社3
者間の契約書第5
条 による。3)
東北電力関連会社。本社 は仙台市である。文 献
秋田県土地改良史編纂企画委員会編
( 1 9 85 ):
『秋田 県土地改良史』秋田県土地改良事業団体連合会,1 0 97 p.
福岡静香