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景気循環論の核心
一投資と貯蓄一
武 井 邦 夫
[目次] 1 固定資本の現物更新と価値更新の不均衡 はじめに 再生産表式では対外関係は捨象されている。ま
1.固定資本の現物更新と価値更新の不均衡 た残存固定資本や資本の回転も同様である。それ 2.資本の蓄積過程と貯蓄・投資 ゆえ、ここにおいては景気循環論を展開すること 3.近代経済学的接近の検討(1) はできない。しかし、蓄積準備金と現実的蓄積と 4.近代経済学的接近の検討(2) の不均衡、ならびに1固定資本の減価償却分と現物 5.むすび 更新額の不均衡を一般的に説明することはできる。
それゆえ、それは景気循環論の展開にとっては不 はじめに 可欠の基礎的部分である。
今日世界資本主義は戦後未曾有の不況に襲われ まず前者についてマルクスは「それゆえ、一方 ている。これが今後どのくらい続くか予測の限り では貨幣に実現された剰余価値の一部分が流通か ではないが、あるいは資本主義経済は現在歴史的 ら引き上げられて蓄蔵貨幣として積み立てられる な大転換期に入りつつあるのかもしれない。経済 とすれば、それと同時に絶えず剰余価値の一部分 学はシスモンディ、マルサス以来の長い恐慌論研 は生産資本に転化させられるのである」(『資本 究の歴史を持っているが、依然としてその解明に 論』第2編 第17章「剰余価値の流通」 訳本 成功しているとは言い難い。恐慌論の二大潮流と 大月版全集24巻427頁)と述べている。しかし、
しては労賃騰貴を強調する「資本過剰説」と実現 この両者の均衡は偶然に過ぎない。再生産表式論 困難又は部門間不均衡を強調する「商品過剰説」 ではこの問題については全く言及がない。
とが対立してきたが、それぞれ固有の難点を有し 後者については第20章「単純再生産」第11節「固 ている※1)。これに対し投資と貯蓄の不均衡に景 定資本の補墳」において詳しく論及されている。
気循環の原因を求める理論は不当に軽視されてき マルクスは1(1000v+1000m)と200011cとの部 た。ここではこの第3の説の核心部分について間 門間交換を問題にし、第II部門で固定資本の減価 題点を解明することにする。またこの点に関する 償却が200行われた場合、第1部門の生産手段の 近代経済学の成果をも併せ検討することにする。 価値200を実現する貨幣の源泉問題に迫って行く。
※1)前者の難点は好況期における資本構成不 「この問題には固有の困難があり、またこの問題 変型の蓄積を前提にしている点と実証的裏付け はこれまでおよそ経済学者によって取り扱われた
を全く欠いている点である。これについては※ ことのないものだから、われわれは問題のあらゆ 6)参照のこと。また後者の難点は価格変動に る可能な(少なくとも可能に見える)解決、また よる資本移動を通じての均衡回復を無視してい はむしろ問題そのものの提起を、順々にみてゆく るために万年恐慌論になり、周期性が説けない ことにしよう」(同上559頁)と言って次のように という点にある。 問題を定式化する。
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11000v+1000m う広い面に移し、諸矛盾のためにいっそう大きな 活動範囲を開くだけである」(同上577頁)。貿易に II 1800c +200c(d) ただしdは損耗分 よっても解決されない場合には物価変動が起こり、
この場合、2001mが売れ残るが、それを実現 若干のタイム・ラグを経て失われた均衡が回復さ する貨幣が第1部門から出て来るというのは馬鹿 れる。もしそれが暴力的に行われるならば、恐慌 げた想定である。それは第II部門から出るしかな が生ずるであろう。マルクスはこれについて「こ い。第II部門の固定資本の寿命は様々だから、一 のようにして、不変な規模での再生産にもかかわ 方で価値更新(減価償却)に努める者があれば、 らず、そこには恐慌 生産恐慌 が生ずるこ 他方では現物更新を行う者もある。200c(d)を とになるであろう」(『資本論』第2巻第3編第20 実現するための貨幣は第II部門の現物更新を行う 章「単純再生産」大月書店版全集24巻576頁)と 資本家から出るのである。以下マルクスの説明を 言っている。
要約すれば次のようになる。 恐慌が生ずるのは第2の場合である。これにつ いてマルクスは
1200m商品 「1はその生産を縮小しなければならないことに II aK… 200G(減価償却資金)+ なり、それはこの生産に携わる労働者と資本家に Il bK… 200c(d)商品… とって恐慌を意味する。あるいはまた1は過剰な 供給をすることになり、これもまた恐慌を意味す 200G 200G る。それ自体としては、このような過剰は害悪で IlaK←→1←→IlbK はなく、かえって利益である。だが資本主義的生
200m 200c(d) 産では害悪なのである」(同上577頁)と言ってい
る。
Il aKは200の減価償却資金を以て1より200m 部門間での交換について生じたことは第1部門 の生産手段(固定資本として機能すべき)を買い、 内の交換でも生じる。ここでは固定資本の大きさ
1はその貨幣でIlbKより200c(d)の価値ある生 がより増大しているために、問題はより深刻とな 活手段を買う。結局200の貨幣の所有者がII aKか る。たとえば第1部門が4000c+1000v+1000mで
らIlbKに変わったことになる。問題はaとbとの あるとし、毎年400c償却・補填されるとすると 不均衡が生じた場合である。 a400c(商品)
◇第1の場合 b 400G(貨幣)+400c(商品)
1200m であれば、均衡が取れるが、
IIa・・220c(貨幣)+b・・200c(商品) a 400c
この場合には20の貨幣が生産手段に転化できな b 360G(貨幣)十400c(商品)
い。 ならば、aで40、 bで40の価値ある商品が売れ残
◇第2の場合 る。第1部門をシュピートホフのように間接消費 1200m(商品) 財と収益財に分類すれば、より迂回的である前者 Ila・・180c(貨幣)+b・・200c(商品) の方に過剰生産が集中するであろう。
この場合には1で20mが、 IIで20cが売れ残る。
前者の場合には生産手段の輸入が必要となり、 それゆえ問題は好況期の蓄積を通じてこのよう 後者の場合には輸出が必要となる。「しかし、外 な不均衡の発生の必然性を論証することである。
国貿易は、それがただ諸要素を(価値から見ても) その場合、蓄積準備金と現物的蓄積の不均衡を関 補j眞するだけでないかぎり、ただ諸矛盾をいっそ 連させて分析する必要がある。
景気循環論の核心 75
2 資本の蓄積過程と貯蓄・投資 「この生産様式の独自な性格は、既存の資本価値
(1)固定資本の価値と寿命 をこの価値の最大可能な増殖のための手段とする 生産力の発展は固定資本の総額を増大させ、ま ことに向けられている。それがこの目的を達成す た労働手段の材料の耐久性増大や機械設備の改良 る諸方法は、利潤率の低下、既存資本の減価、す などを通じて、その寿命を長期化する。他方、急 なわち、すでに生産されている生産力を犠牲とし 速な陳腐化の危険増大を通じて価値破壊と短命化 ての労働の生産力の発展を含んでいるのである」
をもたらす。これについてマルクスは『資本論』 (『資本論』訳大月書店判全集25巻a、313頁)。
第2巻で次のように言っている。
「だから、資本主義的生産様式の発展につれて充 明らかにマルクスは固定資本の運動に即して景 用される固定資本の価値量と寿命とが増大するの 気循環過程を考察しようとしていた。その際、重
と同じ度合で、産業の生命も各個の投資における 要なのは主要矛盾という概念である。原理論にお 産業資本の生命も、多年にわたるものに、たとえ ける資本主義の主要矛盾を固定資本の運動に即し ば平均して10年というようなものになるのである。 て考えれば上記の文章に尽きる。これについては 一方で固定資本の発達がこの生命を延長するとす すでに考察したので※2)先へ進もう。
れば、他方では、同様に資本主義的生産様式の発 ※2)主要矛盾は段階的に推移し、それに応じ 展につれて絶えず進展する生産手段の不断の変革 て資本主義の発展段階が推移する。また「主要 によって、この生命が短縮されるのである。した 矛盾と副次的矛盾」、「根本的矛盾と派生的矛 がってまた資本主義的生産様式の発展につれて、 盾」という二つの矛盾概念は全く別物である。
生産手段の変化も、それが肉体的に生命を終わる 派生的矛盾が主要矛盾となり、根本的矛盾が副 よりもずっと前から無形の摩滅のために絶えず補 次的矛盾となる。 これについては武井「資本 墳される必要も、増大する。大工業の最も決定的 主義の根本矛盾と主要矛盾」(『思想』1970年7 な諸部門については、この生命循環は今日では平 月号)同「資本主義社会における主要矛盾の概 均して10年の周期をもつものと推定してよい。と 念」(『現代の理論』1972年1月号)参照
はいえ、ここでは特定の年数が問題なのではない。
ただ、次のことだけは明らかである。このような、 ②矛盾の激化と解決
連続的な、いくつもの回転を含んでいて多年にわ それゆえ、景気循環の各局面は固定資本の価値 たる循環に、資本はその固定的成分によって縛り 更新と現物更新のギャップを中心に分析しなけれ つけられているのであるが、このような循環によ ばならない。
って、周期的な恐慌の一つの物質的な基礎が生ず まず不況末期から好況の初期にかけては、固定 るのであって、この循環のなかで事業は不振、中 資本の更新投資が大量にかつ集中的に行われる。
位の活況、過度の繁忙、恐慌という継起する諸時 それは波及効果を通じて純投資を刺激し、景気上 期を通るのである。資本の投下される時期は非常 昇の原動力となる。粗投資[更新投資+純投資]
に種々さまざまである。とはいえ、恐慌はいつで は粗貯蓄[減価償却+蓄積準備金]を遥かに上回 も大きな新投資の出発点をなしている。したがっ るのである。また懐妊期間中は固定資本投資は需 てまた社会全体として見れば多かれ少なかれ次の 要効果としてのみ作用し、供給効果を及ぼさない。
回転循一環のための一つの新た一な物質的基 これら二つの原因によって景気は力強く上昇し、
礎をなすのである。」(『資本論』大月書店版全集24 最好況期[中期]に突入する。
巻24頁) 好況中期[最好況期]では更新投資は衰えて減 また第3巻においてはこれを受けて、次のよう 価償却分を下回ろうとするが、純投資がその落ち に述べている。 込みを上回るので、景気はなおも上昇する。蓄積
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はまず「継ぎたし的投資」と「工場新設投資」と 需要の減退は生活手段生産部門よりは生産手段 に分類されるが、後者では構成高度化的蓄積が進 生産部門、特に後者の内部交換部門において強く 行するから、その普及につれて徐々に陳腐化の危 作用する。※3)
険が増大する。競争の激化と経験の積み重ねを通 ※3)シュピートホフは財貨を間接消費財と収 じて資本家はその危険の前に戦標し、大量生産を 益財と直接消費財とに分類し、過剰生産は専ら 通じて固定資本の早期回収を図り、陳腐化[道徳 間接消費財[鉄・石炭・木材・煉瓦・セメント 的磨損]の危険回避に全力をあげる。こうして生 など収益財の生産に用いられる財貨]生産部門 産は空前のブームを呈してくる。業績が向上する に起こることを明らかにした。また、これは後 企業は懐妊期間中の生産停止を嫌って、償却の済 に見るように「加速度原理」によっても証明さ んだ固定資本の現物更新を延期しようとするから、 れる。
固定資本収支[現物更新と償却資金のバランス]
はますます悪化し、ついに純投資分を呑みこんで [要点]
しまうようになる。 以上を記号を以て説明しよう。
またこのころになると懐妊期間を通過した資本 固定資本 =Fc
は次々に生産力化して供給を圧迫する。このよう 流動資本 =Zc(流動不変資本)
にして好況末期では貯蓄が投資を上回り、社会全 +Zv(流動可変資本)
体の有効需要が減退する。他方では供給が増大し 剰余価値 =M て来るので、利潤率はますます低下する。そうな 固定資本減価償却額=dfc ると蓄積準備金が蓄積可能な額に達しても、実物 固定資本現物更新額=fc 的蓄積は見送られるようになる。そこで粗投資(固 固定資本純投資額 =fcm 定資本現物更新額+純投資額)は粗貯蓄額(固定 流動資本純投資額
資本減価償却額+蓄積準備金額)を下回るように (流動不変資本+流動可変資本)
なる。有効需要が減少するので商品の売れ行きが =zcm+zvm 鈍くなり、利潤率低下がさらに進行する。こうな 蓄積準備金 =am
ると生産条件の劣等な資本から脱落して行かざる dfc<fc…需要増大 をえない。この場合、賃金上昇も利潤率低下に一 dfc>fc…需要減退
役買うが、その役回りは副次的なものに止まる。 am<fcm+zcm+zvm…需要増大
第1表 景気局面における投資と貯蓄
景気局面 固 定 資 本 蓄 積 総需要 総供給 物価
価値更新 現物更新 準備金 現物蓄積
好況初期 dfc < fc am 〈 fcm十zcm十zvm ↑ 〉 ↑ ↑
好況中期 dfc > fc am 〈 fcm十zcm十zvm ↑ 〉 ↑ ↑
好況末期 dfc > fc am > fcm十zcm十zvm ↓ < ↑ ↓
恐 慌 ↓ 〈 ↑ ↓
不況初期 dfc > fc am > 0 ↓ < ↓ ↓
不況末期 dfc < fc am < fcm十2cm十zvm ↑ 〉 ↑ ↑
景気循環論の核心 77
am>fcm十zcm十zvm…需要減退 St=sYt dfc十am<fc十fcm十zcm十zvm…貯蓄く投資=
総需要増大…好況要因(インフレ・ギャップ) Sは貯蓄、sは所得のうち貯蓄される割合、 Yは dfc+am>fc+fcm+zcm+zvm…貯蓄〉投資= 所得、添え字は期間を表す(Stは「t期における 総需要減退…不況要因(デフレ・ギャップ) 貯蓄」を意味する。以下これに準ずる)。消費Cは
定義により所得マイナス貯蓄に等しい。したがっ 3 近代経済学的接近の検討(1) て
次にR℃.0.マシューズ著『景気循環』(海老沢
道進訳・至誠堂刊)における景気循環論を検討し Ct=(1−s)Yt てみよう。彼の長所は理論と実証分析がマッチし
ていることである※4)。 同様に、定義により所得は消費プラス投資(1で
※4)「彼の循環理論はつねに具体的実証性に立 表す)に等しい。したがって 脚しており、投資に関する理論づけに限らず、
その他景気循環に関係するもろもろの部面につ Yt=Ct+lt
いても生きた経済実態に根を置いている。この ∴Yt=(1−s)Yt+lt ような意味から本書はきわめて充実した内容を sYt=lt
持つところの景気循環の理論といえよう」(同上、 It訳者序)。 ①Yt= s
まず乗数理論と加速度原理を検討してみよう。 この最後の行が乗数関係である。
1) [乗数理論] 実際には循環過程における貯蓄と所得との関係
「先験的な根拠からも、また経験的な根拠からも、 は第1図に示された型に近い。PS線はおのおの 投資は変動において決定的な役割を演じるように の所得水準において貯蓄される額を示し、その傾 思われる。したがって、景気循環論の中心問題は 斜は限界貯蓄性向を示す。もし、所得がORなら 投資変動の解明である」(同上9頁)。 ば貯蓄はゼロであり、また所得がOR以下ならば
「循環の説明として、さまざまの形でもっとも広
第1図く支持されている投資仮説は加速度原理である」
(同上11頁)。
「第1に、投資水準は乗数過程を介して所得およ 投 び消費水準を決定する。第2に、所得水準は必要 資 ●
ネ資本ストックの規模に影響し、したがって投資 貯 S
によって資本ストックを付加しようとする誘因に 葦 田
影響を与える一加速度原理」(同上11頁)。
「もし、最初の投資増加が1000ポンドで、限界貯 0
R 所得
蓄性向が1/10であるならば、所得が10,000ポンド だけ上昇した時、均衡が達せられる。なぜならば、
この額が追加貯蓄1,000ポンドをひきおこすのに P 必要な額だからである。限界貯蓄性向の逆数一
ここでは10一は乗数と呼ばれる(同上13頁)。
貯蓄は負である。 変化額に依存する。これら二つの関係はどのよう にして調和できるか。
St=sYt−Z Yt二lt/s ① It=v(Yt−Yt−1)② ただしsは限界貯蓄性向、Z[第1図のOPに等
しい。所得0のところで生じる負の貯蓄額]は常 第1の方程式を第2の方程式に代入すると
数である。
Y・ζ一(Y・−Y・−1)
Ct=Yt−St= (1−s)Yt十Z
Yt=Ct十It=(1−s)Yt十Z十lt=lt/s十Z/s
= VYt−1 所得は限界貯蓄性向の逆数を投資に掛け、それ V−S
に常数を加えたものに等しい。常数Z/sは第1 v=3,s=1/2ならば所得は各期20%だけ成長す 図のORに等しい。そして貯蓄をゼロならしめる る。期首における資本を250、所得を100とすれば のはこの所得水準である。常数項の存在は、たと
え、投資がゼロであっても、所得は正の値すなわ 第2表
ちZ/sをとることを意味する。
期間 所 得 投 資 期首における資本
2)[加速度原理]
加速度原理は何が投資水準を決定するのかを明 1 100.0 50.0 250
らかにしようとする。 2 120.0 60.0 300
もし、ある代表的な産業において、それぞれ10
3 144.0 72.0 360
ポンドの価値を持つ生産物年50単位の産出に1000
ポンドの価値のプラントおよび設備を必要とする 4 172.8 86.2 432 ならば、年産出に対する資本額の比率は2である。
これは綴資水準が国民所得増力噸の関数である 常数式がY・一吾+÷ならば
ことを意味する。これが加速度原理である。
もし・vを正常な資本一産出比率とすれ1よ Y・−vと,(Y・−1)∴となる・
もっとも単純な形での加速度原理は、代数的に次 のように書くことができる。
この結果は前の結果と似ているが、もしYがZ/
It=v(Yt−Yt−1) S以下の水準でスタートするならば、乗数と加速 度原理の両方を満足させるためには、累積的拡張 ある期間に行われる投資額は、前期以降の所得 ではなく、その反対でなければならないという違 増加に正常な資本産出比率を掛けたものに等しい いがある。
額だけ、資本ストックを引き上げるような大きさ ところで、このような加速度原理は、期間2に である。 おける投資水準を決定するものは期間1と期間2
の間における所得増加であることを明らかにする 3)[乗数と加速度原理の交互作用] が、それが可能であるためには所得の変化が生ず
乗数式にしたがえば、所得水準は投資水準に依 るやいなや、直ちに投資額の変更ができなければ 存し、また加速度原理によれば投資水準は所得の ならない。現実にはそのようなことは不可能であ
景気循環論の核心 7g
第3表 It=v(Yt−1−Yt−2)・加速度原理・
期間 Z 1 Y C (期首におけるK)
1 50 0 100 100 60 Y・一雫一+÷…乗鯉論
2 50 0 100 100 60
3 75 0 150 150 60 Ct= (1−s)Yt十Z
4 75 十30 210 180 60 Kt=Kt−1十It−1
5 75 十36 222 186 90 v;3/5,s=1/2とおけば
6 75 十7 164 157 126
75 V5
一35
│50
81 T0
115 P00
133 X9
It− ?iY・−1−Y・−2)
9 75 一19 113 131 49
Yt=21t十2Z
10 75 十38 225 188 30
11 75 十68 285 218 68 Ct_⊥Yt+Z
12 75 十36 222 186 135 2
300@ 第2図
280 260
240 Y C
220
200 C
180 160
140 K K
120 Y
100 80 Z
Z 60
40 Y
20 I h
±0 一20 一40 一60
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
80 茨城大学政経学会雑誌 第62号
る。なぜなら投資の計画決定やその実行に時間を ぶつかって景気がダウンするということは残念 要するからである。したがって実際にはt期の投 ながら実証できない※6)。
資は前期のt−1期の所得が前々期のt−2期の所 ④またこの理論の欠陥は純投資のみを考慮して固 得に比べてどのくらい増加しているかによって決
第3図まる。これを数式で表せば
It=v(Yt−1−Yt−2)
v=3/5,s=1/2,Y=100,Z=50、資本スト ックK=60と仮定し、常数Zが3年目に25増加し たとすると、第3表のような結果が得られる。
これをグラフで表せば第2図のようになる。
4)[問題点]
これによってYと1、YとCとの関数関係は一目 瞭然である。振幅は時間の進行と共に大きくなる。
これによって恐慌直前の狂乱的バブルの形成過程
が明らかにされる。もっとも激しく変動するのは 時 間
1(投資曲線)であり、もっとも緩く変動するの
はC(消費曲線)である。このことは景気循環が 定資本の更新を問題にしていないこと、
専ら投資の変動によってもたらされるということ ⑤貯蓄と投資の間のタイム・ラグを考慮していな を示している。投資が変動すれば所得・消費は変 いことである。
動し(乗数理論)、所得が変動すれば投資は変動す ※5)「実際問題としてもっともらしい値がパラ る(加速度原理)。従って景気循環論の核心は投資 メーターにあてはめられる時、純粋な加速度原 の変動理論である。利潤率が一定であれば、乗数 理に基づくモデルは減衰的循環よりもむしろ反 理論の妥当性は確立する。しかし、利潤率が低下 減衰的循環を生む一定傾向がある」(マシューズ すれば、資本投下は行われない。利潤率の変動に 『前掲書』40頁)反減衰的循環とは第3図のよ ついてはここでは何も語られていないのである。 うな循環である。
また加速度原理について言えば、 ※6)「上昇過程が後の段階に至るまで不安定な
①固定資本の懐妊期間について 性質を留保し、その後全般的な完全雇用の出現 生産力化するまでに長期の時間を要する固定資 によって阻止されるという見解にとって、過去 本が果たして一定期間中に建設され得るか、ま の循環記録は都合が良いというものではない。
た適正量を超過しないかどうかについては疑問 下方転換の大体の原因が労働力ボトル・ネック が多い。 の範囲拡大と全く無関係であったという歴史的
②さらにv一定という前提に問題がある。所得が 事例をあげるほうが、これの正反対の場合をあ 低下すれば、貯蓄率と利潤率が低下する。 げるよりも確かに容易である。たいていのブー
いずれも投資額を質・量共に変動させる。 ムでは、そのピークにおいてさえ、すくなから
③さらに構成が一定のままで蓄積が第1図のよう ざる失業が存在した。それに労働力は十分な伸 に反減衰型で行われれば※5)、一定の時点で労 縮性をもち(移民流入、婦人雇用の増大、時間 働力の壁にぶつかるであろう。この理論を信奉 外勤務および農業や国内サービス業等の生産性 する論者に完全雇用天井理論をとるものが多い の低い雇用領域からの労働者移動を通して)、完 のはそのせいである。しかし、完全雇用の壁に 全雇用の衝撃が激しくなるのを防止する。引用
景気循環論の核心 81
できる事例としては、上昇の後期で貨幣的天井 iIt=iaYt−1−ibiKt が作用する兆候のあった場合のほうがむしろ多
かった。しかし、これが一般的原則であったと 彼はこの式を「資本ストック調整原理」(capital はもちろん言えない」(マシューズ 前掲書、21 stock adjustment principle)と呼び、 aが正常な 1頁)これは完全雇用ボトル・ネック論者に対 資本一産出比率に等しく、bが1に等しいとい しては「頂門の一針」であろうご う特殊な場合が加速度原理であると言う。「資本 一産出比率は、投資における変動の原因が何で 4 近代経済学的接近の検討② あれ、ブームでは低く、スランプでは高いという 1)資本ストック調整原理 傾向がある」。
以上のような問題点につき、マシューズに即し 2)固定資本の置換とスクラップ化
てさらに検討してみよう。 次に第4章「投資」第3節「循環過程における マシューズは「加速度原理そのものを統計的に 置換とスクラップ化」(同書88〜92頁)を検討しよ 吟味しようとする試みが行われてきたが、その大 う。まず彼の叙述を整理して表示すれば第4表の 多数はこの仮説を許容するものではなかった。こ ようになる。
の仮説の当面する重要な理論的欠陥からみて、こ これを総括すれば
れは驚くにはあたらない」とし、このような問題 ブーム………スクラップ・置換〉継続使用 点をすべて考慮に入れようとするときわめて複雑 〉非置換・遊休化〉スクラップ・非置換 な定式の立て直しが必要となるが、「投資決意が
国民所得水準と同じ方向に変動し、既存の資本ス スランプ…………スクラップ・非置換〉非置換・
トックと逆の方向に変動する」という点は変わら 遊休化〉継続使用〉スクラップ・置換 ないとし、加速度原理を次のように修正する。 となる。
It=aYt−1−bKt,ただしaおよび七は常数 「最後に、スランプにおいては、生産の利益が 減るというだけの理由から『スクラップ化一非置 またi部門におけるそれは 換』のほうが『継続使用』よりも魅力的となる。
第4表 固定資本の動向
選 択 好 況 期 不 況 期
下降期回復期
1 継続使用〉スクラップ・置換 ◎
2 継続使用くスクラップ・置換 ◎
3 継続使用〉スクラップ・非置換 ◎
4 継続使用くスクラップ・非置換 ◎
5 スクラップ・置換〉スクラップ・非置換 ◎
6 スクラップ・置換くスクラップ・非置換 ◎
7 非置換・遊休化〉継続使用 ◎
8 非置換・遊休化く継続使用 ◎
9 非置換・遊休化〉スクラップ・置換 ◎
10 非置換・遊休化くスクラップ・置換 ◎
11 非置換・遊休化〉スクラップ・非置換 ◎
12 非置換・遊休化くスクラップ・非置換 ◎
82 茨城大学政経学会雑誌 第62号
逆にブームにおいては、直ちに置換できないか、 著しく均等でなければならない。… このよう あるいは需要がほんの一時的と考えられる場合、 なことが経済全体に及ぶとは明らかに全く考えら 殺到する需要を満たすため古い設備が鉄屑溜に放 れない。それゆえに、変動の説明一般として反響 棄されずに、しばらくの間役にたてられることが の可能性はあまり重きを置くべきでない。しかし ある。この理由によって、ブームよりスランプに ながら、特殊産業の経験においてはある程度重要 おけるほうが古い設備はいっそう容易にスクラッ なことである」(同書93〜3頁)。
プ化されることがある」(同上、90頁)。 ここでマシューズは「反響」の重要性につき、
第4表の内容は第1表の内容と一致している。 固定資本の寿命は全産業を通じて均等ではないと して、循環におけるその意義を軽視しているが、
2)[置換一反響と衝撃一] もしある特定の産業部門が国民経済において圧倒
「全資本が10年後に置換されねばならないと仮 的な比重を持つ「主導産業」であるとしたら、話 定しよう。もし、純投資がそれまでに10力年にわ は変わってくる。19世紀中葉の綿工業、またそれ たって均等なペースで実行されるならば、資本ス 以後の重工業部門における製鉄業もそういうもの
トックの各10%はそれぞれ1才、2才、3才等等 であった。
の年齢層となる。この場合、資本ストックの10%
は毎年規則的に置換期限に到達するであろう。し 3)[技術進歩の役割]
かし、もし、過去の投資のペースが円滑でなかっ 彼はシュンペーターの理論を下敷に技術進歩が たならば、事情は異なるであろう。たとえば、現 循環の原因となることを次のように述べている。
在の資本ストックの大きな部分の起点時期である 「純投資に対する技術進歩の効果は何であれ、陳 第1年目に、大ブームがあったとしよう。そして 腐化を早めて既存資本の寿命を縮めるかぎり、技 また同年以後は新投資は比較的少じしか行われな 術進歩は粗投資を高めるのが普通であろう。長期 かったと仮定しよう。資本ストックの不均等な年 において、もし企業家が技術の進歩率と陳腐化と 齢構成のため、第1年目のブーム以後10年目にあ を正確に予見し、これに応じて減価償却引当金を たる第11年目における置換の必要は、それ以後に 調整するならば、技術進歩のスピード・アップに おけるよりずっと大きいであろう。この「瘤」 基づく粗投資増大は、より高い企業粗貯蓄によっ
(hump)は、第11年に設置された資本が置換期 てすべて相殺されるであろう。かかる正確な予見 限にくる第21年目に繰り返される。これは第31年 が通常行われるかどうかは疑問かもしれない。し 目、第41年目というように再三繰り返される。 かしどのみち短期では粗貯蓄における相殺的動き このような最初のブームの反響(echo)の可 は全然期待すべきもない。もし、技術向上が不規 能性は多くのエコノミストの関心を呼び、変動持 則な間隔で行われるならば、粗投資はこれに対応 続の主たる説明としてしばしば提唱された。たと 的に変動し、他方、いやしくも減価償却引当金が えば、カール・マルクスは彼の時代における綿織 あるならば、その変化はきわめて緩慢なものであ 設備の平均寿命が10年であることを発見し、当時 ろう。それゆえに、粗投資の変動は有効需要の全 のイギリスにおける約10力年期限の循環とこれと 面に伝わるであろう」(同上、94頁)。
を対比した。他のエコノミストたちも同様に鉄道 ここで彼は事態の核心にふれてくる。「減価償 の10力年寿命を指摘した。なるほど、ただ一つの 却引当金」形成の動きを常に「極めて緩慢なもの」
ブームは資本ストック年齢構成における不均等を とし、これによって生じる投資と貯蓄の不均衡を もたらし、それとともに置換における反響効果の 好況の起因と見ているが、好況末期において粗投 可能性を生むであろう。しかし、反響効果が非常 資が急速に落ち込んだ場合には粗貯蓄の落ち込み に軽くないためには、その資本ストックの寿命は を上回ることも十分に考えられる。その点で両者
景気循環論の核心 83
の逆転的不均衡についてなんら触れていないのは ・建築の循環はどうも二〇年の規則性を持っら 納得できない。 しいこと、そのビヘイビアが国民所得のビヘイ むすび ビアとはかなり違っているということから、一
景気循環理論の核心はインフレ・ギャップ(投 部の学者は『建築循環』という言葉を使い、そ 資〉貯蓄)がいかにしてデフレ・ギャップ(投資 れを一般経済活動の変動とは全く別個の独立し
<貯蓄)に逆転するかにある。逆転の周期的必然 た現象であるとして扱うようになった」(同上13 性の根拠が産業資本の運動内部に存在することを 3〜5頁)。
論証しなければ、恐慌の周期的必然性を論証した 「住宅の耐久性が他の大部分の種類の資本に ことにはならない。その点で固定資本の独特の価 比べてことさら長いことを、建築変動の長期性 値回転を恐慌の周期性の物質的根拠に据えたマル と国民所得の短期変動に対するその非感磨性と クスの理論は極めて優れたものであった。その場 の主たる理由とみることは自然であるし、おそ 合に「大工業の決定的な部門」を想定する視点が らく正しいであろう。…住宅の耐久性が景気変 存在していたことはいうまでもない。マシューズ 動のテンポをスロー・ダウンする効果は、スラ
もまた「反響理論」において、固定資本の集中的 ンプの時に最もはっきり現れる」(同上136頁)。
投資に注目したが、主導産業の想定という発想が なかったため、これをさらに展開して景気循環論 の主軸に据えることができなかった。これはおそ らく、両者の時代的背景が違っていたからであろ う。つまりマルクスの時代には綿工業の「主導性」
については疑問の余地がないほど圧倒的であった のに対して、マシューズの時代にはもはやそのよ うな圧倒的比重を持?主導産業の想定が不可能で あったのではなかろうか。彼の「住宅建築投資」
重視はその現れの一つと言えよう※7)。景気循環 の周期性は何よりも原理論の世界でなされなけれ ばならないのである。
※7)「住宅建築は、一般に、固定投資のうちで 最も不安定な構成要素であると同時に最も重要
な投資の一つであって、ある期間には総投資の 四分の一もしくはそれ以上に達したこともある。
さらに住宅建築量は、主として都市公益事業の 建設などある種の投資水準を決定し、家具・備 品など耐久消費財需要に重要な影響を与える。
総投資に占める住宅建築の割合は、少なくとも アメリカにおいてはますます激しくなり、その ためにどちらかと言えば循環における重要性は 高まった」(同上、132頁)。
「しかしながら、住宅建築を独立して取り扱う ことを必要とする理由は、単にその量的な重要 性よりもそのビヘイビアの特異性による。・・