主体文化の構造
―「二面性」態度の実証的検証 ―※
A structure of subjective culture
― An empirically analysis of the two aspects attitudes ―
稲 垣 亮 子
Ryoko Inagaki
Abstract:
Within the cultural thoughts and behavioral patterns of the subjective culture of Japanese society, there exists an element that holds the two conflicting concepts in “ura and omote” and in “honne and tatemae.” In this study, we empirically analyzed the structure of subjective culture from the viewpoint of these two concepts using the act of making requests, in which normativeness is the desired behavior, as the object of social attitudes. We formulated the hypothesis that the attitudes in “ura and omote”
and “honne and tatemae” occur simultaneously in a mutual interaction of a request for the purpose of maintaining human relationships. Using factor analysis, one-way analysis of variance, and multiple linear regression analysis, it was demonstrated that among the three total factors (affect, behavior, and cognition, which are the elements of attitude structure), two concepts showed simultaneous occurrence and a causal relationship. As a result, these two concepts, which had only been explained theoretically, were empirically proven to be the structure of the subjective culture of Japanese society.
0.はじめに
文化的思考や行動パターンには,概念的には異なる複数の側面がみられることがある。日本 社会においてそれらは,日本の言語文化にも表れているように「ウラとオモテ」「ホンネとタテ マエ」に代表される2つの側面をもった思考や行動である。本研究の目的は社会的態度として の「主体文化」の構造を明らかにすることであった。主体文化とは,行動規範などの人間活動 を指す「客体文化」をつくり出す各種の心理過程である(田中,1982)。客体文化が観察可能 な人間の活動を含むのに対し,主体文化は,社会に対するある文化集団特有の知覚の仕方から 成っている。本研究で扱った社会的態度の対象行動である依頼には,規範性が要求される。な ぜなら,依頼は依頼者側の利益の獲得を目的として行われるため,依頼相手の意識や行動に影 響を与えるからである。つまり,相互作用としての円滑な人間関係を保持するための規範的行 動が要求されるのである。行動の規範性は客体文化として捉えることができることを述べたが,
行動的規範性は,社会的態度という日本の主体文化によって構築されていると捉えられる。さ らに,日本社会における規範性には,前述の「ウラとオモテ」「ホンネとタテマエ」に代表され る2つの側面を持った態度への期待が大きいことが考えられる。そこで本研究では,中心的論 点を2つの概念から構成される「二面性」とし,その「二面性」の観点から日本社会における 社会的態度としての「主体文化」の構造を実証的に分析した。なお,以下の「態度の定義」に おいて,態度は「感情」「認知」「行動」の3つの成分で構成されていることを述べるが,その 3成分と日本の言語文化における表現的特徴との関係性については、稲垣(2011)で検証して いる。
1.態度の定義
我々は日常的に「失礼な態度」や「日頃の態度の悪さ」など,外に現れる行動そのものに対 して態度ということばを用いる。しかし,本研究で分析対象とした社会的態度とは,心理学で 扱われる「態度」とした。その定義は「直接観察することはできないが,様々な対象に対して 一定の仕方で反応させるような個人内部の傾向性(安藤,2007)」である。まず,態度は『「感 情的成分」「認知的成分」「行動的成分」(ローゼンバーグら)』の3つの成分によって構成され ている。さらに,態度は集団の影響を受けて形成される(原,2004)。つまり,「所属集団の規 範,基準,価値に一致するように態度が形成される(クレッチら)」のである。また,態度は「パ ーソナリティと異なり,常に一定の人物,集団,物事などの対象や状況に関連している(シェ フリとキャリントン)」「習慣と異なり,価値あるいは好悪の感情を伴う(シェフリとキャリン トン)」「持続的な特性をもつ点で,欲求や一時的な情動状態とは異なる(シェフリとキャリン トン)」ことが指摘されている。すなわち,態度とは個人にとって比較的安定しており,容易に は変化しにくい構成概念であると言える。加えて態度は「欲求充足を促進する働きがあり,態 度が示す行動を遂行することによって快や報酬を最大にし,苦痛や罰を最小にすることができ る(カッツ)」という機能を有している。
2.文化的思考と行動パターン
以下では,主体文化としての態度構造と捉えられる日本社会における文化的思考や行動パタ ーンを主に「二面性」の視点から概観する。
2-1.「ウラとオモテ」「ホンネとタテマエ」
まず,竹内(1995)による日本型の利益追求の仕方とホンネとタテマエの関係である。竹内 によると,「日本人」は他人や世間,自分の関係する集団を自分に与えられた状況として捉え,
その状況の中で利益を求める場合,次のように行動するという。第一に,他人とトラブルを起 こさないようにうまくやっていく。第二に,他人の攻撃や非難をうまく回避するか,抑止する。
第三に,自分の嫌なことは他人にとっても嫌なことであると考え,他人の嫌がることはしない
ように自制することが指摘されている。また,ホンネとタテマエについて,利益の追求のため にはその動機をタテマエの裏に隠して行動し,この隠された自己利益や本当ならしたい,ある いは,したくないことがホンネと呼ばれることを述べている。タテマエとホンネはもともと食 い違っているものであるため,両者の折り合いをどうつけるかが問題であるが,それは簡単な ことではないため,次のような手段がなされるという。第一に,ホンネはできるだけ抑圧して,
外に出さないように勤める。第二に,タテマエこそ自分のホンネである,あるいは,ホンネに 一致していると信じるように努める。最後の手段として,タテマエなど無視して常にホンネを 言う。しかし,これは当然のことながら,摩擦を引き起こし,非難され,時には排除される恐 れがあることが指摘されている。
次に土居(1985)による「ウラとオモテ」「ホンネとタテマエ」の概念である。土居は「物 事をオモテとウラの両面においてとらえる意識が日本語で特に発達している」ことを指摘して いる。例えば「表を立てる」「表を繕う」「裏を見る」「裏をかく」という表現がある。つまり,
これらの表現からオモテとは外に出すもの,ウラは外に出さずに内にしまっておくものである ことがわかる。また,「顔が輝いている」「顔が曇っている」「考え深い顔だ」という顔にかかわ る言い回しは,顔が心を表現する関係において,直接的には顔のことをいいながら間接的には 顔に現れた心のことを意味している。すなわち,上記の表現や言い回しは,オモテはオモテだ けを現すのでなく,また,ウラを隠すためだけのものでもなく,ウラを表現する,あるいは,
ウラがオモテを演出していることを意味している。そのため,人はオモテを通してウラも見て いる。したがって,ウラとオモテは概念的にははっきり区別されるが,別々に存在するのでは なく,相互に密接に関係しており両者相俟って一つの存在を形成することが指摘されている。
また,ホンネとタテマエの関係についても「建前はオモテに現れているが,本音はウラに隠れ ている」という。つまり,「オモテとウラ」と同様に,両者の存在は相互補間の関係にあること が強調されている。ここで,同氏が付加している点は,「ウラとオモテ」「ホンネとタテマエ」
の形成過程である。つまり,「ウラとオモテ」「ホンネとタテマエ」の駆使は生得的に備わった のではなく,人間関係を維持するために社会の中で習得された「生活の知恵」という点である。
また,ホンネとタテマエは「甘え」との関係性においても指摘がなされている。本来甘えは,
利己主義の実践を期待するものである。しかし,甘えることによって自分が利益を得ることは,
相手に迷惑や負担をかけるという懸念が生じる。しかし,タテマエを守っている限りは甘えを あてにできるという。そしてタテマエによって処理されない甘え的心情である思惑はホンネと してしまい込む,つまり,ホンネとタテマエが同時に自覚されていることが精神のバランスを 保つ理由として述べられている。さらに,土居(2000,2007)では,ホンネとタテマエが同時 に作動しないと人間関係はぎくしゃくしたものになりやすいことが指摘されている。つまり,
甘え的心情が持ち込まれる間柄において,間柄の人間関係の維持を考慮するために,「すまない」
「申し訳ない」という謝罪と感謝の2つの意図をもつ表現が使われるという。それと同時に遠 慮が働くのは,図々しいと非難され,相手から嫌われるのではないかとの危惧があるからであ
るという。前述の両氏の見解は,南(1980)の日本社会における「和」の意識は,争い事の回 避であるという指摘と共通している。さらに,安藤(1994)においても,日本社会において謝 罪を表明することは,否定的な評価を回避する手段として有効であることが指摘されている。
以上の「ウラとオモテ」「ホンネとタテマエ」の2つの側面は日本社会において,人間関係の 維持のための文化的思考と行動パターンといえる。加えて,中根(1967)の日本社会における 行動指標としての「タテとヨコ」「ウチとソト」の人間関係の位置取りがその思考や行動パター ンに態度として含まれると,規範性の働きは一層強くなることが考えられる。
2-2.待遇行動
待遇行動とは,円滑な人間関係を保持するためのコミュニケーション手段である。したがっ て,依頼という相互作用には欠かすことのできない手段といえる。菊池(1997),井出(1990), 生田(1997)による待遇行動としての依頼表現の規定因を統合すると,以下のような要因が挙 げられる。まず,依頼者と相手との年齢や身分などの力関係や親疎関係,近寄りがたい・避け たい,好感的・親しいなどの社会的・心理的距離の要因である。また,依頼内容が相手に与え るコストに対する依頼者の認識も依頼表現の規定因として重要な要因となる。
3.目的
以上,日本社会における文化的思考や行動パターンを概観した。人間関係の維持において「ウ ラとオモテ」「ホンネとタテマエ」の相反する2つの概念は,主体文化としての態度構造を形成 する重要な観点であると考えられる。しかし,これらの文化的思考や行動パターンは理論的,
思弁的な見解によって説明された構造である。
そこで,本研究では,主体文化として態度構造を相反する2つの概念の観点から実証的に検 証することを目的とした。
分析内容とその仮説は,以下のとおりである。
分析① 依頼という利益を目的とした対象行動において,態度構造を構成する3つの要素のう ち,感情要素を構造的に分析する。また,感情構造と依頼相手との関係を明らかにする。
仮説① 構造的に分析された感情には,相反する2つの概念が含まれる。また,その感情は依 頼相手によって生起したり抑制されたりすることが予測される。
分析② 態度構造を構成する行動要素を依頼の方略と定義して構造的に分析する。また,感情 構造との関係において,感情が方略に与える影響を分析する。
仮説② 相反する2つの感情は,同じく相反する2つの概念を含んだ方略に影響を与えること が予測される。
分析③ 態度構造を構成する認知要素と行動の関係を分析する。
仮説③ 人間関係の親疎とコストの大小によって依頼の方略は使い分けられる。つまり,ヨコ あるいはウチの関係に対して,タテあるいはソトの関係では,相反する方略が用いられること
が予測される。同様に,コストの小さい依頼に対して,コストの大きい依頼にも相反する方略 が用いられることが予測される。
本研究では以上の仮説を検証するために,分析のための各要素,各変数を以下のように定義,
設定した。
前述のとおり,態度構造は3つの構成要素から成っている。そこで,依頼の行動における態 度構造の構成要素のうち感情要素は,相互作用としての依頼時の感情を表す表現,行動要素は,
依頼の方略とした。また,認知要素は,待遇表現の規定要因である,相手との社会的・心理的 距離と依頼内容が相手に与えるコストとした。そして,分析・仮説①には,依頼相手における 下位尺度得点の差異を検証する。②では,各因子得点を独立変数と従属変数とし,因果関係を 検証する。③では,人間関係とコストにおける方略の下位尺度得点の差異を検証する。なお,
「1.態度の定義」で述べた,態度形成に影響を受ける集団とは日本社会であり,態度の機能 は,本研究で対象とした依頼の目的の達成のための働きとした。
以上のように,態度構造を構成する感情要素,認知要素,行動要素を定義づけ,実証的な分 析を行った。
4.予備調査 4-1.方法
本調査の質問項目とその構成の検討を行うため,質問紙調査による予備調査を行った。
予備調査は大学生を対象として行った。大学生を対象とした理由は,彼らの年齢に由来する。
つまり,態度としての文化的思考や行動パターンが既に習得され,その態度が可塑的に形成さ れていると考えられるからである。以下,調査参加者,調査の実施方法,質問紙の構成を示す。
4-1-1.調査参加者
調査参加者は愛知県下の大学生と大学院生288名(男性95名,女性193名)で平均年齢は19.6 歳(SD=1.7)であった。
4-1-2.調査方法
調査は全て無記名で行った。講義担当者の許可を得て実施した集団回答形式と,個別配布個 別回収で実施した。調査は2008年5月から6月に実施した。調査参加者には実施時に口答に よる説明合意を得た。また,回答は調査参加者の自由意志であることを教示した。実施時間は
15~20分であった。
4-1-3.質問紙の構成
質問紙はフェイスシート,『「依頼相手」と依頼内容の想起』および,「感情評定尺度」から構 成されていた。
『「依頼相手」と依頼内容の想起』は,調査参加者が日常生活で経験した依頼の行動を1つ想 起させ,その「依頼相手」と内容を[例]を参考にして記述式で回答を求めた。なお,依頼内 容はその行動に伴う感情をより忠実に想起,評定するための援用として記述を求めたものであ
り,予備調査において内容の分析は行っていない。
[例] 「アルバイト先の人」に貸したDVDを返してほしいという依頼。忘れているのか もしれないが,アルバイト先で顔を合わせても返してくれる気配がない。買ったばかりで 自分もまだ最後まで観ていないので本当は貸したくなかった。
「感情評定尺度」は,依頼時に生起すると考えられる感情の言語的表現から45項目を尺度 化した。項目は,日本社会における依頼行動と対人認知に伴い、かつ、相反する語義や概念を もつと考えられる感情を表す表現である。そして,45項目に対して「1:全く感じなかった」か ら「5:非常に感じた」の5件法で回答を求めた。
4-2.予備調査の結果と考察
4-2-1.依頼相手のカテゴリ化
記述内容から「依頼相手」のカテゴリ化を行った結果を表1に示す。表1で示されているよ うに,「友人」「アルバイト先」「親・家族」「部活・サークル」「恋人」「先生」「その他」という結果で あった。調査参加者の経験による依頼という操作上,参加者の周辺に位置する人物や参加者が 日常生活で接する機会が多いと考えられる相手が選択されていた。
表 1 依頼相手の分布状況
依頼相手 度数 相対度数(%)
友人 134 46.5
アルバイト先 68 23.6
親・家族 40 13.9
部活・サークル 13 4.5
恋人(彼氏・彼女) 12 4.2
先生 11 3.8
その他 10 3.5
合計 288 100.0
4-2-2.感情要素の構造
依頼行動に伴う感情である45 項目の感情尺度に対して因子分析を行った。まず,顕著なフ ロア効果のみられた6項目「08.つけ込む」「15.照れくさい」「16.足元を見る」「38.言いこめる」
「43.ご機嫌をとる」「44.引き止めたい」を分析から除外し,残りの39項目に対して主因子法,
Promax回転による因子分析を行った。固有値の減衰状況(9.996,4.220,3.286,1.635…)
と因子の解釈可能性を考慮すると3因子構造が妥当であると考えられた。そこで再度3因子を 仮定して因子分析(主因子法,Promax回転)を行った結果を表2に示す。表2で示されてい るように.40 以上の因子負荷量を示した項目を各因子の下位尺度として採用した。なお,回転 前の3因子で39項目の全分散を説明する割合は44.88%であった。
第Ⅰ因子は14項目であった。負荷量の高い項目は「申し訳ない」「心苦しい」「すまない」「負
い目を感じる」「迷惑をかける」「遠慮した」「面倒をかける」「控えめにした」「図々しい」「間 が悪い」「厚かましい」「借りを作る」「恥ずかしい」「わがままを言っている」であった。つま り,相反する語義や概念をもつ項目で構成されており,相手への配慮と同時に,自分のわきま え性や慎みの欠如を認識している感情を表わしている因子と解釈できた。したがって,「二面性」
(α=.90)とした。
第Ⅱ因子は15項目から構成されており,負荷量の高い項目は「せかしている」「催促してい る」「駄々をこねている」「せがんでいる」「説き伏せている」「言わなくてもわかってほしい」
「空気が読めていない」「ゆだねている」「不躾だ」「媚びている」「無神経だ」「泣き落としてい る」「口説いている」「拝み倒している」「欲しがっている」であった。したがって,一方的かつ,
利己的な感情を表す項目と解釈できるため「強引」(α=.88)とした。
第Ⅲ因子は8 項目から構成されており,負荷量の高い項目は「当てにしている」「頼りにし ている」「力になってほしい」「甘えている」「期待している」「託している」「相手を利用してい る」「ねだっている」であった。したがって,他者依拠的な感情を表す項目と解釈できるため「依 存」(α=.83)とした。
以上のように3因子構造を得た依頼行動に伴う感情のうち,第Ⅰ因子は概念的には対極に位 置する感情を表現する項目から構成されていた。つまり,第Ⅰ因子は「ウラとオモテ」「ホンネ とタテマエ」の特徴である相反する2つの概念をもった因子と考えられる。
表 2 感情の因子分析結果(Promax回転後の因子パターン)
因子 項目内容 Ⅰ Ⅱ Ⅲ
二面性 20.申し訳ない .90 -.30 .11
(α=.90) 11.心苦しい .75 .06 -.16
30.すまない .74 -.27 .25
41.負い目を感じる .72 .10 -.04
40.迷惑をかける .71 -.12 .23
09.遠慮した .62 .00 -.13
36.面倒をかける .59 -.18 .40
24.控えめにした .55 .03 -.09
25.図々しい .54 .21 .04
26.間が悪い .51 .37 -.21
05.厚かましい .48 .25 -.14
39.借りを作る .47 .03 .19
06.恥ずかしい .42 .23 -.12
21.わがままを言っている .40 .27 .20
強引 34.せかしている -.08 .67 .07
(α=.88) 33.催促している -.14 .64 .00
10.駄々をこねている -.09 .62 .12
31.せがんでいる .08 .59 .18
19.説き伏せている .01 .57 .09
12.言わなくてもわかってほしい -.19 .56 -.24
42.空気が読めていない .30 .54 -.34
29.ゆだねている -.06 .53 .32
14.不躾だ .18 .53 -.03
22.媚びている .10 .52 .25
28.無神経だ .35 .51 -.20
35.泣き落としている .01 .51 .08
07.口説いている .08 .50 .03
27.拝み倒している .23 .48 .14
45.欲しがっている -.17 .44 .32
03.訴えている .09 .34 -.03
01.気持ちを汲み取ってほしい -.04 .31 .01
依存 13.当てにしている -.14 .05 .79
(α=.83) 02.頼りにしている -.07 -.16 .74
04.力になってほしい .08 -.12 .59
37.甘えている -.03 .25 .54
23.期待している .02 .13 .54
17.託している .07 .10 .52
32.相手を利用している -.16 .38 .49
18.ねだっている .13 .16 .44
因子間相関 Ⅰ Ⅱ Ⅲ
Ⅰ ‐ .36 .35
Ⅱ ‐ .13
4-2-3.依頼相手と感情の生起関係
依頼相手カテゴリに対する3つの感情の関係を検証するために,各因子の下位尺度得点を従 属変数に,依頼相手カテゴリを独立変数とした一元配置の分散分析を行った。その結果,二面 性と依存間に平均値の有意な差がみられた(二面性:F(6,277)=2.52, p <.05,依存:F(6,276)
=2.89, p <.01)。表3はその結果である。
表 3 感情の各得点と分散分析結果
感情 平均値 F値
二面性 39.37 2.52 *
(SD) (11.34)
強引 30.99 2.10
(SD) (10.25)
依存 23.03 2.89 **
(SD) (5.97)
その後,多重比較(TukeyのHSD法)を行った結果を表4に示す。表4に示されているよ うに,二面性は依頼相手カテゴリにおいて友人とアルバイト先との間に有意な平均値の差が,
また,依存は親・家族と部活・サークルとの間に有意な平均値の差がみられた。つまり,二面 性の感情は友人というヨコの存在に対して、社会的対人関係が要求されるタテの存在であるア ルバイト先で生起していた。また,依存の感情は最もウチの存在である親・家族に対してソト,
あるいは,タテの存在と捉えられるサークル・部活という関係では,抑制される結果となった。
表 4 依頼相手カテゴリにおける感情得点と分散分析結果
二面性 依存
(SD) (SD)
友人 37.74 * 親・家族 24.90 *
(11.49) (5.40)
アルバイト先 43.58 * サークル・部活 19.16 *
(9.80) (7.59)
依頼相手カテゴリ
感情
* p <.05
予備調査では,本調査の設問項目の検討を行うとともに,分析①とその仮説①を検証した。
態度構造を構成する3つの要素のうち,感情要素を因子分析によって構造的に分析した結果,
第因子Ⅰにおいて「二面性」といえる相反する2つの感情をもった因子が抽出された。つまり,
自己利益を目的とした行動に対する態度にはウラとオモテ,ホンネとタテマエといえる感情の 要素が明らかとなった。また,その感情は依頼相手によって使い分けられていたことが明らか
* p <.05,** p <.01
となった。以上2つの結果から,分析①に対する仮説①は支持されたと考える。
4-2-4.本調査への問題点と検討項目
以上の予備調査の結果から,本調査で用いる「依頼相手の選択肢」,態度の構成要素としての
「認知要素」と「感情評定尺度」の検討を行った。まず,「依頼相手の選択肢」は予備調査でカ テゴリ化を行った項目を採用した。本調査の参加者も態度としての文化的思考や行動パターン が既に習得され,その態度が可塑的に形成されている年齢を想定したからであった。次に「認 知要素」は,依頼相手カテゴリに対して感情の生起と抑制が認められたことから,カテゴリに 対する,より詳細な対人認知項目の設定を行うこととした。対人認知に関する項目は本調査の 質問紙の構成5-1-3.d)とe)にて後述する。最後に「感情評定尺度」は,「ウラとオモテ」「ホン ネとタテマエ」の2つの側面を中心的論点として,態度構造を分析するという本調査の観点か ら「二面性」の下位尺度のうち,語義的,概念的には相反する感情を代表する表現である「迷 惑をかける」「わがままを言っている」「遠慮した」「図々しい」「厚かましい」「控えめにした」
を「感情評定尺度」として採用した。
5.本調査の方法 5-1.方法
予備調査と同様に大学生を対象とした質問紙調査による本調査を行った。以下,調査参加者,
調査の実施方法,予備調査の結果から作成された質問紙の構成を示す。
5-1-1.調査参加者
調査参加者は,愛知県と三重県下の日本語母語話者の大学生と大学院生 562 名であった。有 効回答度数は 531 名で,性別の内訳は男性 100 名,女性 431 名,平均年齢は 19.6 歳(SD=1.7)
であった。
5-1-2.調査方法
調査は全て無記名で行った。講義担当者の許可を得て実施した集団回答形式と,個別配布個 別回収で実施した。調査期間は2008年5月から7月と2009年9月であった。調査参加者に は実施時に口答による説明合意を得た。実施時間は15~20分であった。
5-1-3.質問紙の構成
質問紙は主に「依頼内容と依頼相手の想起」「対人認知」「行動評定尺度」「感情評定尺度」か ら構成されていた。
a)フェイスシート
性別と年齢の記入を求めた。
b)依頼内容の想起
調査参加者が日常生活で経験した依頼の行動を1つ想起させ(断られた場合も含む),その内 容を別紙の[例]を参考にして記述式で回答を求めた。なお,この設問は依頼に伴う態度をよ り忠実に想起,評定するための援用として記述を求めたものであり,本調査において内容の分
析は行っていない。
[例] 期限を約束して貸した本をまだ返してもらっていないので返してほしいと頼んだ。
課題を書くために必要な本で課題の提出期限が迫っている。
c)依頼相手
依頼を行った相手との関係を尋ねる項目であった。予備調査にて得られた依頼相手カテゴリ の結果を選択肢として設定した。そして,その選択肢から1つ選ぶように回答を求めた。
① 家族(父/母/保護者に相当する人/兄弟姉妹など) ② 友人 ③恋人(彼氏/彼女)
④ 部活・サークルなどの仲間 ⑤ 先生(講義担当者/所属ゼミの教員/指導教員など)
⑥ アルバイト先の人 ⑦ ①~⑥以外の人(たまたま居合わせた人/知らない人など)
d)人間関係距離
依頼相手に対する認知要因のうち,人間関係の社会的・心理的距離を尋ねる項目であった。
予備調査にて依頼相手のカテゴリに対する感情の表出には有意差が得られたため,カテゴリに 対する人間関係の認知程度を評定させる設問とした。対人認知の項目は菊池(1997),井出
(1990),生田(1997)の待遇行動としての依頼表現の規定因を参考に以下の5項目を設定し,
1~6段階で評定を求めた。
①相手との知人度
「1:全く知らない」~「6:非常によく知っている」
②相手との親密度
「1:全く親しくない」~「6:非常に親しい」
③相手に対する親しみやすさの程度
「1:非常に親しみ難い」~「6:非常に親しみやすい」
④相手に対する近づきやすさ
「1:非常に避けたい」~「6:非常に近づきやすい」
⑤相手との関係に対する維持度
「1:非常にギスギスしてもかまわない」~「6:非常に円滑にしたい」
e)依頼内容のコスト
設問d)と同様に,依頼相手に対する認知要因として,依頼内容のコストの程度を相手との
関係においてどのように認識しているのか,また,相手にどのように認識されると思われるか を尋ねる項目であった。人間関係距離と同様に菊池(1997),井出(1990),生田(1997)の 規定因を参考に以下の3項目を設定し,1~5段階で評定を求めた。
①依頼の頼みやすさ,または,頼みにくさ
「1:非常に頼みやすい内容」~「5:非常に頼み難い内容」
②相手に与える負担度
「1:非常に負担の軽い内容」~「5:非常に負担の重い内容」
③承諾度
「1:絶対に引き受けてくれるだろう」~「5:絶対に断られるだろう」
f)依頼方略尺度
態度構造の要素のうち行動を測定する尺度であった。言語的方略を含む依頼の方略を行動と し、日本社会において指摘されている文化的思考や行動パターンを相反する概念を観点として 尺度化を行った。それらの26項目に対して「1:全く当てはまらない」から「6:非常に当て はまる」の6件法で回答を求めた。
g)「二面性」尺度
態度構造の要素のうち感情を測定する尺度であった。予備調査の結果を元に相反する語義,
概念をもつ感情表現6 項目を尺度化し,「二面性」尺度とした。そして,それらの項目に対し て「1:全く当てはまらない」から「7:非常に当てはまる」の7件法で回答を求めた。
5-4.結果
5-4-1.依頼相手に対する認知要因
表5は依頼相手の分布状況と認知要因との関係である。まず,依頼相手に対する社会的・心 理的距離を人間関係距離得点として算出した。その結果,平均値は24.91(最小値5,最大値 30,SD=4.44)であった。そこで,依頼相手に対する得点を平均値から2群に分け,それぞれ を人間関係「タテ群」と「ヨコ群」とした。次に依頼内容が相手に与えるコストの認識を負荷 度得点として算出した。その結果,平均値は7.62(最小値3,最大値15,SD=2.16)であった。
同様に,コストの認識に対しても得点を平均値から2群に分け,それぞれを負荷度「軽群」と
「重群」とした。そして,4群を依頼相手に対する認知要因とした。各群の分布の偏りには有 意差がみられた(「タテ群」n =185,χ2(df =6)=252.5,「ヨコ群」n*=346,χ2(df =6)=363.5,
「軽群」n*=351,χ2(df =6)=472.6,「重群」n =168,χ2(df =6)=131.0)。表5で示され ているように,人間関係に関しては「恋人」「家族」に代表される「ヨコ」の関係に対して「先 生」「部活・サークル」は対人認知において序列という社会性を必要とする「タテ」の関係であ った。また,負荷度に関しても社会的人間関係を必要とする相手に対して負担の重い依頼は避 ける傾向があった。
表 5 依頼相手における認知要因の関係
*** p <.001
依頼相手 度数 タテ群 (%) ヨコ群 (%) 軽群 (%) 重群 (%)
友人 245 94 38.4 151 61.6 180 73.5 64 26.1
家族 123 20 16.3 103 83.7 76 61.8 36 29.3
アルバイト先 90 46 51.1 44 48.9 51 56.7 39 43.3
恋人 27 1 3.7 26 96.3 14 51.9 13 48.1
部活・サークル 20 11 55.0 9 45.0 14 70.0 6 30.0
以外 14 5 35.7 9 64.3 7 50.0 7 50.0
先生 12 8 66.7 4 33.3 9 75.0 3 25.0
185 *** 346 *** 351 *** 168 ***
n (各群)
人間関係 負荷度
5-4-2.行動要素の構造
依頼の行動である26 項目の依頼方略尺度に対して因子分析を行った。まず,顕著なフロア 効果のみられた2項目を分析から除外した。次に,観測変数の妥当性を検証するため,KMO
の測定とBartlettの球面性検定を行なったところ,KNOの標本妥当性は,.808,Bartlettの
球面性検定では,0.1%水準で有意(p <.001)という十分な妥当性が得られた。残りの24項目 に対して主因子法,Promax回転による因子分析を行った結果,固有値の減衰状況(4.682,2.851,
1.953,1.367,…)と因子の解釈可能性を考慮すると3因子構造が妥当であると考えられた。
そこで再度3因子を仮定して因子分析(主因子法,Promax回転)を行った結果を表6に示す。
表6で示されているように.40以上の因子負荷量を示した項目を各因子の下位尺度として採用 した。なお,回転前の3因子で24項目の全分散を説明する割合は39.53%であった。
表 6 依頼方略の因子分析結果(Promax回転後の因子パターン)
第Ⅰ因子において負荷量の高い項目は、「相手を気づかいながら伝えた」「“悪いんだけど”“申 し訳ないのですが”など,お詫びをするように伝えた」「相手の態度や顔色をうかがいながら伝 えた」「頼みたい内容を相談するように伝えた」「相手に悪く思われないように取り繕うように 伝えた」「頼みたい理由を説明しながら冷静に伝えた」「頼みたいことを話し合うような方法で 伝えた」の7項目であった。そこで,この因子の構成は次のように解釈した。依頼相手に与え る図々しさを懸念する態度から,配慮と遠慮を表明し,自分の利益と相手のコストへの調和を
因子 項目内容 Ⅰ Ⅱ Ⅲ
調和呈示型遠慮 26.相手を気づかいながら伝えた .70 -.06 -.07
(α=.79) 12.「悪いんだけど」「申し訳ないのですが」など、お詫びをするように伝えた .69 -.16 -.10
20.相手の態度や顔色をうかがいながら伝えた .58 .10 -.10
01.頼みたい内容を相談するように伝えた .56 .02 .10
18.相手に悪く思われないように取り繕うように伝えた .56 .10 -.04
14.頼みたい理由を説明しながら冷静に伝えた .55 -.08 .08
16.頼みたいことを話し合うような方法で伝えた .52 .12 .06
09.頼みたい内容を説得するように伝えた .34 .33 .31
不均衡型利己 17.嫌味や皮肉を言うように伝えた -.12 .58 -.05
(α=.69) 24.相手のご機嫌を取ったり、お世辞を言ったりするように伝えた .31 .54 -.05 15.「メシ!」のように頼みたいことを単語だけ(一言)で伝えた -.35 .54 .14
25.頼みたいことを遠まわしに伝えた .13 .50 -.22
06.相手を非難しながら怒るように伝えた -.13 .47 -.04
22.頼みたいことを感情的に伝えた .15 .46 .15
23.頼みたいことをさりげなく伝えた .03 .44 -.09
10.ギャグっぽく、冗談を言うように伝えた -.17 .43 -.05
04.第三者にお願いして頼んでほしいことを伝えた .20 .38 .05
07.相手の良いところを強調しながら伝えた .18 .38 -.09
05.頼みたいことをそれとなく伝えた .14 .31 -.07
03.お互いに心を許し合っていることを強調しながら伝えた .05 .23 .18
単刀直入 19.頼みたいことを率直に伝えた -.01 -.16 .63
(α=.57) 11.頼みたいことを正直に伝えた .27 -.22 .60
08.頼みたい内容だけを言って伝えた -.15 .04 .51
02.相手の反応は見ないで一方的に伝えた -.22 .26 .42
因子間相関 Ⅰ Ⅱ Ⅲ
Ⅰ - .23 -.26
Ⅱ - -.12
図る因子であると考えられた。そこで,この因子は「調和呈示型遠慮」と名づけた。
第Ⅱ因子において負荷量の高い項目は、「嫌味や皮肉を言うように伝えた」「相手のご機嫌を 取ったり,お世辞を言ったりするように伝えた」「“メシ!”のように頼みたいことを単語だけ
(一言)で伝えた」「頼みたいことを遠まわしに伝えた」「相手を非難しながら怒るように伝え た」などを含んだ8項目であった。そこで,この因子の構成は次のように解釈した。この因子 は、第Ⅰ因子とは対照的に,依頼相手に対するインバランスな態度が目立つ項目で構成されて いた。また,自分勝手で相手への配慮や遠慮も希薄さを意味する因子と解釈された。そこで,
「不均衡型利己」と名づけた。
第Ⅲ因子において負荷量の高い項目は,「頼みたいことを率直に伝えた」「頼みたいことを正 直に伝えた」「頼みたい内容だけを言って伝えた」「相手の反応は見ないで一方的に伝えた」の 4項目であった。そこで,この因子の構成は次のように解釈した。この因子は,第Ⅰ因子や第
Ⅱ因子で表れていたような感情的な印象や間接性を排除した直接性を表す項目で構成されてい た。そこで「短刀直入」と名づけた。また,内的整合性を検討するためにα係数を算出したと ころ「調和呈示型遠慮」でα=.79,「不均衡型利己」でα=.69,「単刀直入」でα=.57,という 値となった。
5-4-3.感情要素の構造
依頼時の感情である6項目の「二面性」尺度に対して因子分析(主因子法,Promax回転)
を行った。固有値の減衰状況(3.44,1.06,0.47,…)から明らかな2因子構造であった。表 7にその結果を示す。
表 7 「二面性」感情の因子分析結果(Promax回転後の因子パターン)
因子 項目内容 Ⅰ Ⅱ
非礼 4.私は図々しい .92 -.07
2.私は厚かましい .80 .08
6.私はわがままだ .75 -.08
1.私は迷惑をかけている .56 .23
配慮 5.私は控えめにした -.07 .85
3.私は遠慮した .06 .74
因子間相関 Ⅰ Ⅱ
- .57
第Ⅰ因子は,相手への心遣いや気配り欠けた感情を表していると解釈されたため,「非礼」と 名づけた。
第Ⅱ因子は,第Ⅰ因子の非礼を抑制する感情を表していると解釈できるため,「配慮」と名づ けた。また,2つの因子間には比較的強い正の相関が認められたことから,非礼と配慮は「二 面性」としては依頼時に同時に生起する感情であるという結果が得られた。
5-4-4.感情が行動に及ぼす影響
まず,態度の構成要素としての感情と態度の構成要素である行動との関係を検証した。行動 である「依頼方略」尺度と感情である「二面性」尺度に対して行った因子分析によって得られ た因子得点から各変数間の相関係数を算出した結果を表8に示す。表8に示されているように,
全ての変数間で有意差がみられた。特に,調和呈示型遠慮と非礼,配慮の間に比較的強い正の 相関があった。また,単刀直入と配慮の間には弱い負の相関があった。
表 8 依頼方略と感情の相関関係結果
調和呈示型遠慮 .28*** -.33*** .46*** .58 ***
不均衡型利己 -.17*** .26*** .22 ***
短刀直入 -.14*** -.31***
非礼 .66 ***
不均衡型利己 短刀直入 非礼 配慮
*** p <.001
次に,感情が行動に及ぼす影響を検証した。因子得点を用いて,依頼方略得点を従属変数に,
二面性得点を独立変数とした変数増減法による重回帰分析を行った。結果を表9に示す。表9 で示されているように,まず,「調和呈示型遠慮」方略はステップ2において「配慮」(β=.48,
p <.001),「非礼」(β=.16,p <.01)の双方の要因が選択された。したがって,ステップ2の 結果を「調和呈示型遠慮」影響を及ぼすBest-fit Modelとして解釈を行った。標準偏回帰係数:
βから要因の方向と規定力を判断すると,配慮の方がこの方略に大きい影響を及ぼしていた。
しかし,非礼の正の規定力も認められ,「調和呈示型遠慮」方略には相反する要因が同時に正の 影響を及ぼしていた。次に,「不均衡型利己」に関しては,二面性のうち,「非礼」(β=.26,p
<.001)のみが選択された。したがって「不均衡型利己」方略には「非礼」が正の影響を及ぼ していた。最後に「単刀直入」に関しては「配慮」(β=-.31,p <.001)のみが選択された。
標準偏回帰係数から要因の方向は負でという結果あった。したがって「単刀直入」方略には「配 慮」がマイナスの影響を及ぼしていた。
表 9 「二面性」感情と依頼方略の重回帰分析結果
** p <.01,*** p <.001
R R二乗 β t β t β t
ステップ 1 配慮 .58 .34 .58 15.52 *** .09 1.53 -.31 -7.21 ***
非礼 .26 5.91 *** .10 1.71
2 配慮 .59 .35 .48 9.98 ***
非礼 .16 3.20 **
*** *** ***
独立変数 「二面性」
調和呈示型遠慮 不均衡型利己 単刀直入
従属変数 「依頼方略」
F = 127.98 F = 34.95 F = 51.97 単
単
表10で示されているように,行動要素である依頼方略で認知要素との関係において平均値 に有意差が認められたのは「調和呈示型遠慮」方略のみであった(人間関係:F (1,506)=16.64,
p <.001;負荷度:F(1,514)=5.33,p <.05)。一方,「不均衡型利己」と「単刀直入」の方略 には,「単刀直入」の人間関係に有意傾向がみられるにとどまった(単刀直入:F(1,509)=3.44,
p <.10)。つまり,図1でも示されているように,「調和呈示型遠慮」方略は,ヨコの人間関係
に対して,タテの関係において多く用いられ,負荷の軽い依頼内容に対して,重い内容におい て多く用いられていた。すなわち,非礼と配慮という二面性の感情の影響を同時に受ける方略 のみが人間関係と負荷度という認知要因おいて使い分けられていたことが明らかとなった。
表 10 依頼方略における認知要因得点と分散分析結果
†<.10,* p <.05,*** p <.001
最後に分析③とその仮説③の検証について述べる。分析③では,態度構造を構成する認知要 素と行動の関係を分析した。認知要素は人間関係においてタテの関係とヨコの関係の要因,ま た,依頼のコストについては,その負荷が軽い認知と重い認知要因として,行動との関係を分 析した。その結果,行動要素として3つの依頼方略のうち,「調和呈示型遠慮」方略のみが,認 知要因において使い分けが生じていた。「調和呈示型遠慮」方略は分析②において相反する概念 を有する性質をもっていないことが明らかとなった。しかし,「二面性」の感情の影響を受けて いたという特徴から,人間関係とコストへの配慮が方略の使い分けに現れていたと考えられる。
したがって仮説③は「二面性」感情を媒介としていたという点で間接的に支持された結果とな った。
6.総合的考察
本研究では,日本社会における文化的思考,または,行動パターンとして認識されている「ウ ラとオモテ」「ホンネとタテマエ」という相反する概念を中心的論点として,その「二面性」の 観点から,態度構造としての主体文化の構造を実証的に分析,検証することを目的としていた。
その結果,態度構造の3つの要素とされる感情要素,行動要素,認知要素の各構造が「二面性」
の観点から明らかとなった。
第一に,感情要素の構造は,依頼の行動という自己利益の実現という態度対象において,相
F値 F値
タテ ヨコ 軽 重
依頼方略 調和呈示型遠慮 3.47 3.09 16.64 *** 3.21 3.44 5.33 *
(SD) (.99) (1.10) (1.09) (1.00)
不均衡型利己的 1.80 1.76 .66 1.77 1.77 .00
(SD) (0.64) (.61) (.62) (.64)
短刀直入 4.43 4.56 3.44 † 4.52 4.45 .96
(SD) (0.79) (.83) (.83) (.76)
負荷度 人間関係
単
手への配慮をタテマエとしながらも,その裏に隠された自己利益の獲得というホンネの感情が 相互関係的に,あるいは,表裏一体となって表れることが明らかとなった。また,その感情も 人間関係において使い分けられることが明らかとなり,社会的人間関係の維持,トラブルの回 避という意識によって生起すると考えられた。第二に,行動要素の構造は感情とは異なり,「二 面性」の概念を含んではいないことが明らかとなった。つまり,依頼の方略としての行動は表 に現れるタテマエに相当するため,利益獲得というホンネの裏に隠されたと考えられる。しか し,前述のようにオモテに表れないホンネとしての感情の影響は受けるという特徴をもってい た。最後に認知要素との関係も明らかとなった。それは,「ウラとオモテ」「ホンネとタテマエ」
という「二面性」は人間関係の維持としての規範性としての働きを担うという点である。つま り,依頼相手との人間関係を序列のあるタテの関係と捉えるか,ヨコの関係と捉えるかによっ て,依頼方略としての行動を捌いていた点である。また,依頼の内容が相手に与えるコストも 計算し,人間関係と同様に方略を操作しいていた点も挙げられる。さらに,認知要因に応じて 匙加減を変化させていた方略は「二面性」感情の影響を受けており,より精緻的に対人関係を 考慮して態度を操っていたと考えられた。すなわち,人間関係においてトラブルの原因となり 得る問題を排除しつつ,好印象を与えるという規範的働きをもった態度構造が明になったと考 える。以上,態度構造の各要素を「ウラとオモテ」「ホンネとタテマエ」という2つの側面を論 点として検証した結果,日本社会における主体文化の構造を「二面性」の観点から実証的に明 らかにできたと考える。
今後の課題として以下の点を挙げる。
本調査では,調査参加者の経験による依頼の行動を対象としたため,その依頼内容や依頼相 手は参加者の日常生活に比較的関わりの深いものとなった。したがって,今後は状況や対人関 係などの条件を操作することが必要である。また,日本社会における文化的行動パターンの概 念として,直接性や利己主義の回避がしばしば指摘される。本調査ではこれらについて,前述 のとおり,操作条件の影響で詳しい考察を行なうことができなかったが,結果の中にある一定 の傾向性はみられた。そこで,今後は前記の概念が態度構造に関わる可能性を検討する必要が あると考える。最後に,態度の対象は多種多様である。したがって,今後はその対象を変化さ せることで異なる側面から日本社会における主体文化の構造を明らかにすることを今後の課題 とする。
参考文献
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生田少子(1997)「ポライトネスの理論」『言語』26(6) p.66‐71 大修館書店 石村貞夫 デズモンド・アレン(1997)『すぐわかる統計用語』 東京図書株式会社 井出祥子(1990)『講座 日本語と日本語教育 言語学要説(下)』 明治書院
稲垣亮子(2011)「社会的態度の構成要因と言語の関係性」『言語文化』19 p.11‐20 愛知淑徳大学言語