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巫俗儀礼の音 : 韓国済州島の事例から

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(1)

巫俗儀礼の音 : 韓国済州島の事例から

著者 櫻井 哲男

雑誌名 国立民族学博物館研究報告

巻 10

号 3

ページ 551‑573

発行年 1986‑02‑22

URL http://doi.org/10.15021/00004392

(2)

櫻井   巫俗儀礼の音

巫 俗 儀 礼 の 音

韓 国 済 州 島 の 事 例 か ら

櫻 井 哲 男 *

Musical Sounds in Korean Shamanistic Ritual

—A Case Study of Cheju Island—

Tetsuo SAKURAI

The musical sounds used in Korean shamanistic ritual are the human voice, the chang-gui (drum) sound, the puk (drum) sound, the ching (gong) sound, the sOlsswe (small gong) sound, the yoryong (bell) sound and the parang (cymbal) sound. These sounds are combined as follows : (1) human voice (solo or accompanied by the chang-gui); (2) the puk, the ching, the solsswe;

(3) the yoryOng; (4) the parang—less a musical instrument than a tool of divination—. Three and 4 are used separately.

In shamanistic ritual these sounds are sometimes used independently, and sometimes incidentally with dance or ritual posturing. The sounds have three main functions: (1) working upon gods; (2) mutual communication between gods and man;

and (3) enjoyment of gods and man.

Analyzed musically, only the vocal expression has a clear melodic movement, which becomes more patterned and musical when mental distance to a god seems nearer. That is, there is a certain relationship between the distance to the god and the musicality.

Rhythmically, the trisection of a beat is a dominant principle and the variations of trisection (2 to 1, 1 to 2) maintain superiority in building-up rhythm. The characteristic feature of rhythm is not only its various vocal expressions from verbal to musical grade, but also in various physical movements such as dancing.

Then thus appears to be a fundamental characteristic of Korean folk music and performing arts.

*国立民族学博物館第 5研究部

551

(3)

国立民族学博物 館研究報告  10 巻 3号

1. 序

2. 儀 礼 の構 成 と音 3. 音 の 種類 とそ の機 能

4. 音楽 的 検 討 5. 結 び

1. 序

  韓 国 には 肱 妊 テ ) と呼 ば れ る巫 俗儀 礼 が あ る。 ん 漉 は儀 礼 と して の 要素 ,神 話 や民 諌 と して の要 素 , 歌 や 音楽 と して の 要 素 ,演 劇 や 舞 踊 と して の要 素 な どを主 要 な要 素 と して構 成 さ れて い る。 ku tに は多 くの種 類 が あ るが1 》 , 音楽 的 な面 か らみ るな らば,

ど の儀 礼 で もそ の 中で 必 ず 巫者 が文 句 を 〈唱 え る〉 部 分 と 〈 歌 う〉 部 分 とが あ る。 た とえば kutの構 成 要素 の 中 で研 究 者 に も っ と もよ く と り あ げ られ て きた く本解 >Po n グ癖 は,単 純 な旋 律 にの せ て唱 え られ る もの で あ る。 また儀 礼 の 中で 巫 者 が さま ざ

まな 所 作 をす る場 面 が あ るが ,多 くの 場 合 ,所 作 に合 わ せ て伴 奏 の音 楽 ( 難 子) が演 奏 され る。 この よ うに 枷 は 〈唱 〉 と 〈歌〉 と 〈楽 〉 とか ら成 り立 って い る と いえ る。

これ らの 音楽 的 な要 素 は単 に儀 礼 の添 え もの と して付 属 して い るの で はな く, その重 要 な 一部 で あ り儀 礼 の進 行 に欠 か せ な い もの に な って い る。

  本 稿 の ね らい は済 州 島 の 事例 を通 して 韓 国 の 巫俗 儀 礼 にお け る音 の世 界 に光 をあ て る こ とで あ る。 その 方 法 と して, 儀 礼 に現 わ れ る音 を儀 礼 との か か わ りと音楽 性 の両 面 か ら分 析 し,両 者 の 関係 を 明 らか に しよ う と した 。 使 用 した資 料 は1 9 84年 2月 に筆 者 が韓 国済 州 島 で行 な った現 地 調 査 に よ って得 た もので あ る。 ハ ングル の ロー マ字 転 写 は M cCune− Rei s c hauer方式 に従 った 。

2. 儀 礼 の構 成 と音

  ま ず 済 州 島 T 里 で 1984年 に 旧 正 月 の 〈新 過 歳 祭 〉 と して 行 な わ れ た 〈本 郷 堂 kut>

を 例 と して , 巫 俗 儀 礼 に ど の よ う な 音 が 現 わ れ る か を 見 よ う。 玄 容 駿 は , 済 州 島 の 巫 俗 儀 礼 を , そ の 目 的 に よ って 通 過 儀 礼 , 季 節 儀 礼 , 予 祝 儀 礼 , 治 病 儀 礼 , 生 産 儀 礼 , 建 築 儀 礼 の 6種 類 に 分 類 して い る [ 玄 容 駿 1980;12−13]2) 。 こ れ に よ れ ば 新 過 歳 祭 は 1)kutの種 類 につ いて は , 2 E喜音 [ 19 83:1 23 −1 27 ],柳東 植 [1 983:291 −295]を参 照 され た い。

2)巫 俗 儀 礼 は多 種 多様 な の で , さま ざ ま な基 準 に よ る分 類 が可 能 で あ る。 しか し, た と え ば金   泰坤 は済 州 島 の巫 俗儀 礼 を 14種類 に分 け て い る [ 金 泰 坤 1 982:35 2−354]が , そ の分 け方 にみ   られ るよ うに, 儀礼 の規 模 に よ る もの , 目的 に よ る もの ,祀 る神 に よ る もの な どが 混在 して い   る もの が 多 いの で , こ こで は玄 容 駿 に よ る 目的別 分 類 の みを あげ て お く。玄 容 駿 は ま た ,済 州   島 の 巫 俗 儀 礼 を ま ず 一 般祭 ( 家祭 ) と 堂 祭 ( 部 落 祭 ) と に 分 け , さ ら に 祭 の規 模 に よ って   pi n ■o m,小 ku t ,大 k utとい うよ うに も整理 して い る [ 玄 容駿 1 972:270−271 ] 。

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(4)

櫻井  巫俗儀礼の音

季 節 儀 礼 の 一 つ で あ り, 新 年 に 招 福 を 祈 願 す る祭 で あ る 。 本 郷 堂 は堂 祭 ( 部 落 祭 ) を 行 な う場 所 で あ り , 各 村 に 一 つ あ る 。 済 州 島 の 本 郷 堂 で は , 新 過 歳 祭 の 他 に く迎 燈 〉,

〈マ ブ リム 祭 〉, 〈シ マ ンク ッ ク 祭 〉 な ど の 部 落 祭 が 行 な わ れ る [ 崔 吉 城 1980: 105]。

  T 里 で は 1979年 か ら , 村 の 申 し合 わ せ で お お や け な 形 で の kt t tは や ら な い こ と に し て い た 3 ) 。 と こ ろ が 村 に い ろ い ろ と良 か らぬ こ と が 起 き た の で , 部 落 祭 と して の 本 郷 堂 kutを 5年 ぶ り に や る こ と に な っ た 。 択 日 は 陰 暦 1月 7 日で あ っ た が , そ の 前 日 に

〈不 浄 〉 が あ っ た (この 場 合 , 村 人 の 一 人 が 死 ん だ ) の で , 11日 に延 期 さ れ た 。 と こ ろ が 10日 に ま た く不 浄 〉 が あ り ( 今 度 は村 の 犬 が 道 路 で 車 に ひ か れ て 死 ん だ ), 陰 暦

1月 12日 (陽 暦 2月 13日)に 再 延 期 さ れ た の で あ る。 (な お , T 里 に 住 む 巫 者 の P 氏 に よ る と , そ れ が あ る と祭 日 を 延 期 しな け れ ば な ら な い 〈不 浄 〉 の 期 間 は , 祭 日 の 前 日 ま で の 3 日間 で あ る。 ま た , 祭 を 延 期 で き る の は 3回 ま で で , そ れ 以 上 く不 浄 〉 が 重 な れ ば 祭 は 中 止 さ れ る と い う。)

  K utの 基 本 的 な 構 成 は , そ の 種 類 に よ っ て 異 な る 。 ま た , 同 じ種 類 の kutで あ っ て も, 巫 者 に よ っ て もや り方 が 異 な る 場 合 が あ る。 部 落 祭 と して の 本 郷 堂 肋 の 構 成 も , 村 に よ っ て 異 な る と い う よ り, あ る 村 で そ れ を 主 に 司 る こ と に な って い る 巫 者 (こ の

よ うな 巫 者 の こ と を 済 州 島 で は mae i n  si mbang と 呼 ぶ ) に よ っ て 左 右 さ れ る 。 した が って 近 所 の 村 で あ る か ら と い っ て ま っ た く 同 じ ん漉 が 行 な わ れ る と は 限 らな い が , 本 郷 堂 kutの 基 本 的 な 構 成 を 知 る た め に 1例 を あ げ れ ば ,  T 里 に 近 い 金 寧 里 の 本 郷 堂 編 は , 涯 月 面 上 貴 里 の そ れ と ほ ぼ 同 じで あ り , 次 の よ う な 構 成 を 持 っ て い る [ 文 化 財 管 理 局 1969:273−274,240− − 243]。

  ① 招 神 (主 君 刈 )

  ②   列 名 一 参 加 者 家 族 名 列 挙 (司ドぱ音 瑠 )   ③ 本 郷 堂 神 招 神 (喜 替 マ 司 )

  ④   三 献 官 拝 礼

  ⑤ 厄 払 い (ヰ 告丘 唄 亘陪 )   ⑥ 招 福 祈 疇 (子 舎 号 司 昊 音 )   ⑦   送 神 (呈 社 )

  済 州 島 の kutは 基 本 的 に は 「請 神 一 共 宴 ・祈 願 一 送 神 」 [ 玄 容 駿 1972:275−276;

1980二15] と い う 3部 構 造 を 持 っ て お り , これ は 韓 国 の kutの 一 般 的 な 構 成 と も一 致 3) 済 州 島 の多 くの村 で は, 朴 政権 が政 策 の 1つ と して掲 げ た いわ ゆ る 〈セ マ ゥル運 動 〉 (農村   生 活 の近 代 化 を お しす すめ る運 動) に呼 応 して , 19 70年 代 に, それ ま で行 な って いた公 的 な 巫   俗 儀 礼 (た とえ ば部 落 祭) を 廃 止 した。 現 在 は 固有 の 民俗 文 化 を見 直 す 気運 に も乗 って , この   間 隠 然 と生 き続 けて い た個 人 的 な巫 俗儀 礼 ( た とえ ば治 病 kut ) ば か りで な く,   T 里 の例 の よ   う に公 的 な もの も しだい に復 活 しつ つ あ る 。

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(5)

                                    国立民族学博物館研究報告  1 0 巻 3号 す る [ 柳 東植 1 983:31 8] 。上 の金 寧 里 本 郷 堂 ku tの例 で は 中間 部 分 が ② か ら⑥ に分

かれ て い るの で あ る。 しか し, これ は あ くま で儀 礼 の 骨格 を なす 構 造 で あ って, 実 際 に は さ ま ざ まな神 に対 す る招神 や共 宴 お よび祈 疇 が追 加 され る。 つ ま り神 ( あ るい は 複 数 の諸 神 の グ ル ープ ) ご とに招 神 , 占い ,厄 払 いな どが行 な わ れ るた め ,一 つ の ま とま りを持 った こう した儀 式 が一 連 の 儀 礼 の 中 で しば しば重 複 し, 類 似 の もの が 前後 して 現 わ れ る こ とにな る。 そ こで , こ こで は T 里 本 郷 堂 kutの一 部 始 終 を 記述 す るの で はな く, ん厩 を構 成 す る大 きな ま と ま りの うち で最 も重要 な招 神 ( 大 きな ま とま り と して の 招神 は厄 払 いや 共 宴 ,祈 願 な どの 諸 要素 を含 ん で い る) を 中心 に と りあ げ , そ こで 用 い られ る音 を 呈 示 す る に と ど め る。

イ ) 祭 場 ・祭 物 ・巫 者

  T 里 の 主 な 集 落 は 済 州 島 一 周 道 路 の 外 側 (海 岸 沿 い ) に あ る が , 本 郷 堂 は 一 周 道 路 の 内 側 (山 側 ) に 約 100  m は い っ た 所 に あ る 。 10m × 6m の 土 地 の 外 側 を 石 埴 で 囲 っ た 祭 場 で , 西 側 に石 で 祭 壇 が こ し ら え て あ り , そ の 両 側 に 1本 ず つ 神 木 (エ ノ キ ) が あ る 。 左 側 が 〈爺 さ ん (苛 旦 噛 ) の 神 〉, 右 側 が 〈婆 さ ん (量 喫D の 神 〉の た め の も の で あ る 。 祭 の と き だ け 中 に テ ン トを 張 り , 神 竿 (暑 司 ) を 入 口付 近 に 立 て る (図 1 参 照 )。

  この kutで は 〈十 王 ( ス1讐 )〉 と い う神 を 迎 え る祭 ( s i wang− m aji= ス1暫 妻 。1) も行

図 1 祭 場 略 図

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(6)

櫻井  巫俗儀礼の音

図 2 祭 物 と そ の 配 置 ( 堂 神 )

な うの で ,祭 物 は堂 神 と十 王神 と に別 々 に供 え る。 堂神 へ の祭 物 は祭 場 に も と も とあ る石 の祭 壇 に供 え, 十 王神 へ の祭 物 はそ の 反対 側 の テ ン トの下 に しつ らえた祭 壇 に供 え る。祭 物 は飯 , 酒 , 果 物 , 干魚 ,鶏 卵 お よび ワカ メで あ る ( 図 2参 照 ) 。

 祭 を と り し きる主 巫 は T 里 在住 の ベ テ ラ ンP氏 ( 男 ,6 5歳 )が つ とあ る予 定 で あ っ た が ,急 に個 人 的 な問 題 ( 女 性 関係 に起 因 す る家庭 内不 和 ) が 起 きたた め その 弟 子 で あ る済 州市 在 住 の M 氏 ( 男 ,3 8歳 ) に任 さ れ た。 助 巫 は女 性 2人 で あ る。

ロ) 列 名 ( 参 加 者 家 族 名 列 挙 )

  儀 礼 そ の も の の 構 成 要 素 で は な い が , 一 般 参 加 者 に と って は 〈拝 礼 〉 と な ら ん で 能 動 的 に神 々 に か か わ る数 少 な い 機 会 で あ る 。 巫 者 を 通 じ て お の お の の 家 族 ( 特 に 兵 役 , 船 員 な ど で 遠 く に い る 者 , 海 外 在 住 の 子 女 な ど ) の 名 を , 安 否 を 問 う意 味 も こ め て 神 神 の 前 に 列 挙 す る 。 姓 名 だ け で な く, 年 齢 , 今 ど こ に行 っ て い る か な ど , 本 人 を 特 定 で き る 事 項 も一 緒 に 挙 げ る。 巫 者 は こ れ を 単 調 な リズ ム に の せ , ご く簡 単 な 節 を つ け て 唱 え る (楽 譜 1参 照 )。 こ れ に は 順 序 が あ る。 す な わ ち 上 t angol , 中 t ange4 下 t angot の 順 に , 名 を 唱 え て も ら うの で あ る4) 。

ハ ) 招 神

  こ の 事 例 の 場 合 , 招 神 は 堂 神 に 対 す る も の と十 王 神 に 対 す る も の の 2つ あ り , そ れ ぞ れ を 別 に 行 な っ た 。 招 神 は , 主 巫 が 行 な う創 世 神 話 的 な 解 説 に始 ま る 。 そ れ は 「宇 宙 開 關 , 日 月 星 辰 の 発 生 , 山 水 , 国 土 の 形 成 , 国 家 , 人 物 の 発 生 と い う ふ う な 太 初 的 な 事 実 の 解 説 」 か ら始 め , 「神 話 的 , 歴 史 的 解 説 が だ ん だ ん 絞 ら れ て 寮 神 を す る 場 所 と 日 時 を 告 げ る 段 に な り,こ れ を 告 げ る と , 實 神 を す る 旨 を 歌 い , 神 霊 に 降 臨 を 請 う」

の で あ る [ 玄 容 駿 1972:271]。 こ の 解 説 は 杖 鼓 (を ユ ) の 伴 奏 に の せ て 唱 え る の で あ 4) 信者 が巫 者 に対 して 顧客 の よ うな 関係 に あ る と き, この信 者 を t a n golと呼 ぶ が ,済 州 島 で は   そ の 関係 の 深 さ に応 じて この よ うに上 , 中 ,下 の 3ラ ンクに 分 けて い る 。t an so lにつ い て は重   松 [1 980:99−101 ]を参 照 され た い。

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国立民族学博物館所究報告  1 0 巻 3号

楽 譜 1 列 名

楽 譜 3 鳴 り物の リズム

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櫻井  巫俗儀 礼の音

楽 譜 2a 一 般 辞 説   1

※ 実 音 は 1オ ク タ ー ブ 下 ( 開 始 音 H )

楽 譜 2b 一 般 辞 説 2

※ 実 音 は オ ク ター ブ と短 3度 下 (開 始 音 A )

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国立民族学博物館研究報告  1 0巻 3号

楽 譜 4 歌 ( 女 性の 助巫 によ る)

遠 実 音 は 1オ ク タ ー ブ 下 ( 開 始 音 e)

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櫻井  巫俗儀礼の音

楽 譜 5 請 神 辞説

※ 実音 は長 7度下 ( 開始音 F)

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国立民族 学博物館研究報告  1 0巻 3号 り, ご く簡 単 な 旋 律 形 態 を 有 して い る (楽 譜 2a,2b 参 照 )。 済 州 島 の 神 々 は 数 多 くの 神 門 を 通 っ て 降 り て く る の で , 巫 者 は そ の 神 門 を 1つ 1つ 開 け な け れ ば な らな い 5) 。 こ の と き , 鳴 り 物 の リズ ム に の せ て 踊 り な が ら の 所 作 が つ く ( 楽 譜 3参 照 )。 占 い に よ って 神 門 が 開 い た こ と を 確 認 す る と , 神 々 の霊 が 来 臨 す る 道 を は らい 清 め る 。 こ の 部 分 で は 踊 り や 所 作 に 加 え て 歌 が 歌 わ れ る ( 楽 譜 4参 照 )。 さ ら に 招 神 の た め の 〈辞 説 〉 を 唱 え る ( 楽 譜 5参 照 )。 神 々 が 降 臨 す る と祭 物 を 供 し, 祈 願 し, 占 い , 共 宴 を す る。

祈 願 は 唱 え ご と で あ り, 簡 単 な 旋 律 を 有 す る 。 共 宴 は歌 と舞 踊 に よ っ て 成 り立 っ て い る。

  Kutに お い て 巫 者 が 行 な う行 為 (perf orm ance)の す べ て の 種 類 は , 以 上 に お い て す で に 出 つ く し て い る 。 そ の 行 為 と は , 舞i 踊 , 所 作 , 歌 , 唱 え ご と で あ る。

二) そ の他 の 構成 部 分

  小 さな構 成 部 分 と して の 招神 ,祈 願 ,共 宴 な ど は大 きな ま とま りと して の招 神 に も 含 まれ る もの で あ った が , 勧 の それ 以外 の重 要 な 構 成 要 素 と して 〈本 解〉 が あ る。

〈 本 解 〉 は神 に まつ わ る神 話 的 な物 語 を 唱 え る 部 分 で あ り, 杖 鼓 の伴 奏 に よ って主 巫 が旋律 的 に唱 え る。 唱 え る内容 は異 な るが , 唱 え方 は 〈辞 説〉 と同様 で あ る。 ま た , k utの最 後 に行 な わ れ る送 神 の部 分 で は 5 〃 吻 一 s o r i ( 刈辛 刈  土 司) と い う歌 が歌 われ

る こ とが あ る [ 韓萬 榮 1 97 9:1 9] 。

  これ以 外 に, 枷 の 中 で神 に対 す る もの で な く, 参 会者 に対 して 巫 者 が 託宣 を述 べ る 〈 神 意伝 達 〉 の 部分 が あ る。 これ は ご く簡 単 な旋律 形 態 を持 つ祈 願 や く 本 解 〉 な ど の唱 え ご とよ り, さ らに単 純 な調 子 を 備 え た もので あ るが , か とい って 日常 的 な会 話 調 と も異 な った 調 子 で語 りか け る もの で あ り,多 少 の 韻律 性 は有 して い る ( 楽譜 6参 照 ) 。

3. 音 の種 類 とその機 能

  済 州 島 の 巫 俗 儀 礼 に 用 い ら れ る 音 は , 人 ( 巫 者 , お も に主 巫 ) の 声 と , 楽 器 ( 打 楽 器 群 ) と に大 別 で き る 6 ) 。 楽 器 の 種 類 は以 下 の 通 り で あ る。

5) k utに お いて 神 々が 神 門 を通 って 降 りて くる と い う の は, 韓 国 で も済州 島 だ け に特 有 の思 想   のよ うで あ る。李 符 永 [ 1 980:72 −74 ]を参 照 さ れた い 。

6) 済州 島を 含 む韓 国 の多 くの地 域 で は, 巫俗 儀 礼 に用 い る楽器 は太 鼓 類 およ び ゴ ング類 ,す な   わ ち打 楽 器 群 で あ るが ,京 畿 道 の 一部 お よ び全 羅 道 で は, これ らに笛 や弦 楽 器 が加 わ る 。張 師   助 ・韓萬 榮 [ 1975:1 81 ],劉 信 [ 1 982:1 24]を 参 照 され た い。

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櫻 井  巫俗儀礼の音

楽 譜 6     神 意伝 達

※ 実 音 は 1オ ク タ ー ブ と長 2度 下 ( 開 始 音 A )

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        国立民族学博物館研究報告  10 巻 3号

・Chang・ gui 杖 鼓 c hangr goの な ま っ た 呼 び 名 。  Chang− gu と も 発 音 す る 。 杖 鼓 は 中 が く び れ た 2面 の 締 め 太 鼓 ( 牛 皮 ) で あ り, 片 側 を竹 の バ チ , も う片 側 を 手 で 打 つ 。 済 州 島 の 杖 鼓 は半 島 本 土 の もの よ り や や 小 型 で あ る 。 お も に 主 巫 が , 歌 っ た り唱 え た り

し な が ら 自分 で 打 つ 。

・Pαrang  小 型 シ ンバ ル 。 標 準 語 で は Che gd i m で あ る。 こ れ も , お も に 主 巫 が 舞 い な が ら打 ち 鳴 らす 。

・Puk  牛 皮 の 2面 の 締 め 太 鼓 。バ チ は竹 の棒 で あ る。 助 巫 が打 つ 。

・Chi ng  直 径 30−40  cm の ド ラ。 ぶ ら下 げ て 助 巫 が 打 つ 。

・ε∂薦 ω6 直 径 20−25 cm の カ ネ ( 鉦 ) 。 標 準 語 で は kkwae n. ar gar iで あ る 。 ザ ル (あ る い は フ ル イ ) を 伏 せ た よ う な 台 の 上 に 横 に 置 い て 2本 の 細 い 木 の バ チ で 打 つ 。 こ れ も助 巫 で あ る。

       

  以 上 の 5種 類 の 巫楽 器 は, 韓 国 の どの地 域 で も使 わ れ る もの で あ る。 これ以 外 に,

ふ つ う楽 器 で はな く巫具 と して 扱 わ れ るので あ るが ,yo r ]b n g ( 揺鈴 ) も巫 俗 儀 礼 に お い て音 を 出す 道 具 ( 音具 ) で あ り, 広 い 意味 の楽 器 とい え る。 これ は元来 仏 教 の儀 礼 で使 って いた もの が , 巫俗 に も と りい れ られた の で あ る。 揺 鈴 も, お もに 主 巫 が鳴 ら す。

  表 1は, これ らの声 や楽 器 が どの よ うな組 み合 わ せ で どの よ うな 場 面 に 鳴 らされ る の か を ,T 里 本 郷 堂 kutの 中 の 〈 十 王迎 え〉 の部 分 の初 め か ら途 中 まで を 例 に と って 示 した もの で あ る。 この表 に示 した 部分 の 時間 的 経 過 は,途 中 に1 0分 間 の 小 休 止 を は さん で約 4時 間 半 で あ る。 表 か らわ か るよ うに , そ の間 ,完 全 に無 音 の 部 分 は きわ め て わ ず かで あ り,儀 礼 の行 な わ れ て い る間 は ほ とん ど絶 えず 何 らかの 音 ( 声 あ るい は 楽 器 の音 ) が 鳴 って い る。 勧 と い う もの は ,通 常 こ の よ う に常 に巫 者 の 声 と楽器 の

音 が伴 って 進 行 す る もの で あ る。

  表 1にお け る場 面 と内容 につ いて , 若 干 の説 明 を しよ う。 まず 招 神 祭 の 開 始 を楽 器 の 音 によ って 告 げ ,主 巫 が 自 ら杖 鼓 を 打 ちな が ら 〈一 般 辞 説〉 を唱 え る。 途 中 で一 旦 唱 え るの をや め , 太 鼓 と ドラと カ ネの はや しに乗 っ て舞 い踊 る7 ) 。 これ は神 々を迎 え る準備 で あ る。 ひ と しき り踊 る と再 び唱 え始 め る。 これ が か な り( 本 事例 で は約 3 0 分 ) 続 い た後 に, 舞 い踊 りな が ら s an Panと呼 ぶ 占 具 を用 いて , 地 上 と天 上 の あ い だ に1 2 あ る とさ れ る神 門 が 開 い て い る か ど うか を 占 い , そ の結 果 を 参会 して い る村人 た ち に 語 る。 次 に主 神 で はな い小 さ な神 々や霊 た ち ,た とえ ば 過去 の不 幸 な事 件 で死 ん だ者 7 )〈 舞i い〉 と 〈 踊 り〉の違 いについて, 日本民俗学では多 くの議論がな され てき た。筆者は,

  前者を旋回運動 ,後者を跳躍運動 とす る折口信夫説 に従 うが,韓国巫俗儀礼における巫者の身   体運動にはこの両方の要素 が含まれていると思われるので,本稿で は 〈舞i い踊 り〉 と表現 した。

5 6 2

(14)

櫻井   巫俗儀礼の音

表 1  swang・m ai (十 王 神 迎 え ) の 一 部

場 面 内 容 巫 者 の 行 為 音

備考 i看刈 ( 招神祭) 開始

一 般 辞 説

冠r 悉 景 。}暑 芒早 6 ド召 柔ろ 囲 苓 λ 肝 壱

請 神 辞 説 層 朔 ♀ ( 迎 神 )

SEE 唱

一 般 辞 説

せ斗号層君

唱舟計音

問 神

せモ哩噌 人情蓋三碧 甚 早 ◇ド召

λ刊F ぢ

早叫 ス1 唐組薯暑。 }     ( 堂神本解)

組司 苦( 請神)

甚 早 。}招 杢 ス1 登 音 ( 焼 紙)

開始の儀

天 地 創造 ・人 間創 造 の物 語 り

神 門 の よ うす を見 る 神意伝達

諸霊を酒でなだめる 神 門の きよ め とお は ら

堂 神 は じめ, 諸 神 を 招 く こ とば 神 々を 迎 え に 出, 歓 迎

の意 を表 す る 米 を ま い て場 を きよ め

天 地 創 造 ・人 間 創 造 の物 語 り

日と国 の 話 (国の 歴 史

, 島 の歴史 ,村 の 歴史 )

祭 をす る理 由 ,村 の 由来

神 々に来 否 を 問 う 神 門を あけ る 守 門将 た ちに 感謝 の 酒 を献 じる 神 門 を あ けた い き さ つ

神 門 の きよ め と お は らい

悪 鬼 ど もを は ら う 堂 神 に まつ わ る物 語

‡王神以下諸神を招 参列者が神 々を拝す る 神意伝達

もろもろの願い ごと を

捧げる

楽器を鳴 らす 唱 え て は舞 い 踊 り舞 い 踊 って は唱 え る 舞 い 踊 りと 占い の所 作

参 会者 に語 る 舞 い踊 りと酒 を ま く 所 作

舞 い 踊 り ・所 作 と歌

唱 え る 所作

礼 ときよめの所作 唱え て は舞 い踊 り舞 い踊 って は唱 え る 唱え る

唱 え る 神 刀占いの所作

作 作 所 所

参会者 に語る 舞い踊 りと所作 神 刀 でお は らい の所 作

唱 え る 舞い踊 りと所作

語る 紙を焼 く

揺 鈴,3楽 器 ( 太 鼓 , ドラ, カネ ) 唱 え る→ 声 +杖 鼓 舞 い 踊 る → 3楽器

( 太 鼓,ドラ,カ ネ)

3楽 器 ( 太 鼓 , ドラ,

カ ネ)

3楽器 ( 太 鼓 , ドラ,

カネ )

舞 い 踊 りと所 作 → 3 楽 器 ( 太 鼓

, ドラ,カ ネ) , シ ンバ ル 歌 → 声 +杖 鼓 +太 鼓 声 +杖 鼓

揺 鈴 ,3楽 器 ( 太 鼓 , ドラ, カ ネ)

3楽 器 ( 太 鼓 , ドラ,

カ ネ)

唱え る →声 +杖鼓 舞 い 踊 る → 3楽 器

( 太 鼓 , ドラ, カ ネ)

声 +杖鼓 声+杖鼓

3楽 器 (太 鼓, ドラ,

カ ネ)

3楽 器 ( 〃  ) 3楽 器 ( 〃  ) 声

3楽 器 (太 鼓 , ド ラ,

カ ネ ), シ ンバ ル 3楽 器 〃  )

声+杖鼓

揺 鈴 , 3楽 器 (太 鼓 , ド ラ,カ ネ ),シ ンバ ル

無 音 )

( 無 音)

楽 譜 2

楽 譜 3

楽 譜 4

楽 譜 5

楽 譜 6

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国立民族学博物 館研究報告  1 0巻 3号 た ちの怨 霊 を 酒 を も って な だ め,鎮 め る。 また , 神 々が や って 来 る道 を清 め, お は ら い をす る。 本 事 例 で は, この 中で 歌 が 歌 わ れた 。 迎 神 とは ,神 がや って来 る道 の 途 中 まで 主 巫 が 出迎 え にで か け る こ とで あ る。 本 来 は堂 か ら5里 の道 の り まで歩 いた と い うが ,現 在 は形 式 的 に堂 の 出入 口 まで 行 くだ け で あ る。 本 事 例 で は この迎 神 に続 く

<きよ め〉 の あ と,〈一 般辞 説 〉 か らの 過程 を もう 1度 くり返 す 形 にな って い るが , こ れ は招 く主 神 が 堂 神 と十王 神 の 2つ で あ る こと に よ る。 ま た 〈堂 神本 解〉 が かな り後 の ほ うで行 なわ れ て い るが ,本 来 これ は も っ と前 に行 な わ れ るべ き もの とい う。 この よ うに儀 礼 の順 序 に関 して や や混 乱 が み られ るの は, 最近 ,巫 俗 儀 礼 が全 体 と して 縮 小 化 の傾 向 に あ り, そ の 中 で儀 礼 の 構 成 も正 統 的 な もの か ら次 第 に変 化 して きて い る た めで あ る。 こ こに示 した過 程 の 中で 音 が ま った くな いの は ,拝 礼 と焼 紙 の部 分 だ け で あ る。 ( 焼紙 とは , もろ も ろの 所願 を こめた 白紙 を 火 で燃 や す こ と。 そ れ に よ って , 願 い がみ な神 に 聞 か れ る とい う。)

  さて , ひ とつ の場 面 に用 い られ る音 の組 み合 わせ と, そ れ が そ れ ぞ れ対 応 して い る 場 面 との 相 関 に つ いて ,少 な くと も次 の 3つ の点 を指 摘 で き るで あ ろ う。 第 1に,声 は単 独 で 使 わ れ る こ と もあ るが , 多 くの場 合 , 杖 鼓 c ha n gu iの伴 奏 , あ る い は杖 鼓 と太 鼓 ρ協 の伴 奏 を伴 う。通 常 ,杖 鼓 は主 巫 が打 ち太 鼓 は助 巫 が た た くので ,〈辞 説〉

な ど を唱 え る場 面 で は, 主 巫 が 自 ら杖 鼓 を打 ちな が ら唱 え る。 しか し主 巫 が歌 を歌 う 場合 は, 伴奏 と して の杖 鼓 は太 鼓 と同様 に助 巫 が受 け持 つ こ とが多 い。 声 が 単 独 で使 わ れ るの は,参 会 して い る村人 た ち に巫 者 が神 意 を語 る場 面 で あ り,声 が杖 鼓 の伴 奏 を伴 うの は,巫 者 が神 々 に対 して本 解 その他 を 唱 え る場 面 で あ り,杖 鼓 の ほか に太 鼓 も伴 奏 に加 わ るの は , この 例 で は巫 者 が き よめ とお は らいの 歌 を 歌 う場面 で あ る。 す なわ ち, 声 とそ の他 の音 との 組 み合 わせ は 3種 類 あ るが , それ ぞ れ に異 な る場 面 が対 応 して い るの で あ る。 第 2に, 太 鼓 ρ眈 と ドラ c h i n g と カ ネ 認 ∬ω8の 3つの楽 器 は,

常 に セ ッ トにな って鳴 らされ て い る。 これ らはい ず れ も, 主 巫 が 舞 い踊 り, あ る い は さま ざ まな所 作 を行 な う場 面 にお い て ,助 巫 が打 ち鳴 らす もの で あ る。 逆 に言 え ば , 主 巫 は助 巫 た ちの 鳴 らす これ ら 3つ の楽 器 の リズ ム に乗 って 舞 い, 踊 り,所 作 を行 な うの で あ る。主 巫 が声 を用 い る場面 ,す なわ ち主 巫 が参 会 者 に語 り,神 に 向か って 唱 え あ るい は歌 う場 面 で は, これ らの楽 器 が鳴 らされ る こ とはな い。 第 3に ,揺 鈴 ノo γ 一 クδ㎎ は主 巫 が必 要 に応 じて 鳴 らす も ので あ るが, これ も主 巫 に よ る所 作 の 1つ で あ る

の で ,揺 鈴 が 鳴 ら され るの は上 の 3つ の楽 器 が 助 巫 に よ って 鳴 らさ れ るの と時 を 同 じ く して い る と い う結 果 にな って い る。 しか しこれ は揺 鈴 が 3つ の 楽 器 と セ ッ トに な っ て 使 わ れ る こ とを 意 味 して い るの で はな い。 それ は,上 の 3楽 器 が 鳴 らさ れ る多 くの

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櫻 井  巫俗儀礼の音

場合 に揺 鈴 が 用 い られて いな い こ とで もわ か る。 む しろ, 揺 鈴 は助 巫 が鳴 らす これ ら の楽 器 と は別 に, 独 立 して使 わ れ て い るの で あ る。 シ ンバ ル Pa r an g も揺 鈴 と 同様 に 必 要 に応 じて主 巫 が用 い る楽 器 で あ る。 しか しこれ は単 独 の所 作 と して で はな く, 舞i い踊 りの 中で シ ンバ ル を手 に持 ち,摺 り合 わせ るの で あ る。

  巫俗 儀 礼 にお け る音 の組 み合 わ せ は,以 上 の よ う に 3種 類 に整 理 す る こ とが で き る が , す で に 明 らかな よ うに ,儀 礼 の 特 定 の 場 面 な い し巫者 の特 定 の行 為 と音 ( お よ び その 組 み合 わせ ) の 種 類 との間 に, あ る程度 の対 応 関 係 が み られ る。 これ は, そ れ ぞ れ の 音 が儀 礼 に お け る さま ざ ま な機 能 と結 び つ い て い る こ とを示 す もの とい え よ う。

  韓 国 の 巫俗 儀 礼 は, 司祭 ,治 病 , 予 言 ,遊 戯 な どの 社 会 的機 能 を持 って い る [ 朴 桂 弘 1 983:1 28−1 31 ] 。 しか しこ こで問 題 に しよ う と して い るの は, 儀 礼 が全体 と して 持 って い る社 会 的 な機 能 で はな く, ひ とつ の 儀 礼 の 中 で個 々の構 成要 素 が持 って い る 機 能 と, 儀 礼 に お け る音 の 世界 との か かわ りで あ る。 巫俗 儀 礼 にお け る音 の世 界 は,

これ まで 巫 楽 , 巫歌 あ る い は巫 俗 にお け る歌 舞 とい う形 で言 及 され て きた。 巫 楽 が 宗 教 的 な機 能 だ け で な く娯 楽 的 な機 能 も持 って い る [ 赤松 ・秋 葉 1 938:234] と い う点 は ,今 日一 般 に認 め られて い る よ うに み え る。 柳 東 植 は, 「 歌 舞 は, 神 霊 と交 わ る技 術 と して の エ クス タ シー に入 ら しめ る機 能 を持 って い る。 しか し,信 者 の立 場 か らす る と, 歌 舞 は神 霊 を 招 待 して , 彼 らを楽 しませ る もので あ る。 」 と述 べ て い る [ 柳 東 植 1 97 6:1 81 ] 。 また 韓 国 巫楽 研 究 の 第 一 人 者 で あ る李 輔 亨 は, 巫 楽 は儀礼 の 中 で神 を 呼 び 出す こと, 神 に侍 り歩 み進 む こ と,神 が 降 りる道 を 清 め る こ と, 神 を た て ま つ る こ と,神 に祈 願 す る こ と,神 を楽 しませ る こ と,神 の 働 き,神 を送 る こ とな ど と結 び つ い て い る, と指 摘 し [ 李 輔 亨 1 982:227 ] , 一 般 に巫 楽 の 音楽 的特 徴 に は地 域 差 が あ るに もかか わ らず , 「 似 た機 能 を 持 つ 巫歌 が , 地 域 は異 な って も似 た 音楽 的 特 徴 を持 って い るの を み る と, 巫楽 は , あ る程 度 儀 礼 の機 能 に合 致 して 表 出 さ れて い る と み る こ とが で き る。」 と述 べ て い る [ 李 輔 亨 玉 982:2 29] 。 この よ う に音楽 と して の巫 楽 や巫 歌 に つ い て ,儀 礼 の 機 能 との か かわ りを論 じた もの は あ るが , そ れ は音 と い う

レベ ルか ら分 析 した もの で はな い 。 巫俗 儀 礼 に お け る音 の組 み合 わ せ を ,筆 者 は上 の よ うに 3つ に分 け て みた が , こ こで は そ の順 序 に従 って述 べ て み よ う。

  ま ず 巫者 の声 は, 場面 に従 って 3つ の 使 わ れ 方 が あ った 。 その 1つ は〈 一 般 辞 説 〉,

〈 請 神 辞 説〉, 〈本 解〉 お よ び祈 薦 な ど, 神 々 に対 して 唱 え る とい う行 為 に使 わ れ る も の で あ り, 巫者 自身 に よ る杖鼓 の伴 奏 がつ くの が 普通 で あ る。 これ らは儀 礼 の 中 心 的 な 構 成部 分 で あ り,時 間 的 に も最 も大 きな部 分 を 占 め る。 そ の唱 え ご とはす べ て , 人 の世 界 の こ とを神 に対 して 伝達 す る とい う機 能 を 持 って い る。 2番 目は ,巫 者 が 占 い

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国立民族学博物館研究報告  1 0 巻 3号 表 2 巫 俗 儀 礼 に お け る 音 の 機 能

音 の 種 類 機 能 附 随 行 為

声 +杖 鼓 (+太 鼓 ) 太 鼓 + ドラ + カ ネ

揺 鈴

(シ ン バ ル = 占具 )

{ 雑 需 ミ薬神から人への意志伝達

舞i 踊 ・所 作 ( 神 へ の 働 き かけ)を 助 け る 神 へ の働 きか け

神 か ら人 へ の意 志 伝達

舞 踊

舞i 踊 ・所作

所 作

舞 踊 ・所作

に よ って神 意 を得 た 結果 を ,参 会 の 村 人 た ち に語 る と き に声 を使 う。 これ に は何 も楽 器 が つか ず , 声 だ けで あ る。 この場 合 の く語 り〉 に は, 初 めの 場合 と逆 に神 の 意志 を 人 間 に対 して伝 達 す る とい う機 能 が あ る。 3番 目 に, 巫 者 が 歌 う とき の声 が あ る。 こ れ に は ほ とん ど の場 合 舞i い 踊 りが つ くの で , む しろ歌 舞 と言 った ほ うが よ いか も知 れ な い。 この 場合 の歌 と舞 い踊 りは, 神 を楽 しませ , 同 時 にそ の 場 に集 って い る人 も楽 しむ もの で あ る。 す なわ ち神 と人 との 〈共楽 〉 とい う機 能 を 持 つ。 以 上 の よ うに巫 俗 儀 礼 にお け る人 の声 の 使 わ れ か た と その機 能 は,要 約 す れ ば ,① 唱 え る ( 杖 鼓伴 奏 )     人 か ら神 へ   伝 達 ,② 語 る ( 声 の み)    神 か ら人 へ一 伝 達 , ③ 歌 う ( 杖 鼓

だ け, また は杖 鼓 と太 鼓 の伴 奏 )     神 と入    共 楽 , とな る。

  次 に太 鼓 , ドラ, カ ネの 3打 楽 器 が 使 わ れ るの は, 占い , お祓 い な どの さま ざ ま な 所 作 あ るい は舞i い踊 りな ど, 巫者 の 身 体 的 な 運 動 が儀 礼 の 中 心 とな って い る場面 で あ る。 所 作 に して も舞 い踊 り に して も, 主 巫 は助 巫 の打 ち鳴 らす これ ら 3楽 器 の リズ ム に合 わせ て 体 を 動 かす 。 だ か ら楽 器 の 鳴 ら しか た も, 儀 礼 の 場 面 に応 じて速 度 や 強弱 を変 えな け れ ば な らな い。 ま た 巫俗 儀 礼 にお け る所 作 はす べ て 神 に 向 か って 行 な わ れ る もので あ り, 舞i い踊 り も招神 ,神 の 降 臨 な ど,神 の関 心 を ひ き,神 を近 くに呼 び寄 せ ,神 の 臨 在 を仰 ぐた めの行 為 で あ る。 これ らの点 か ら次 の よ うに言 う ことが で き る

で あ ろ う。 す な わ ち巫 俗 儀 礼 にお け る 3つ の 打楽 器 は, 直 接 的 に は主 巫 の身 体 運 動 を 助 け , それ によ って儀 礼 を ス ム ース に進 行 させ る とい う機 能 が あ るが ,大 き くみ れ ば 主 巫 の身 体 運 動 と一 緒 にな って ,神 に対 す る さま ざ ま な働 きか けを行 な う行 動 の一 翼

を担 うと い う役 割 が あ る。 働 きか けの 方 向 と して は人 か ら神 へ とい う こ とにな る。

  最 後 に揺 鈴 と シ ンバ ルで あ る。 ど ち らも主 巫 が 単独 で 用 い る。揺 鈴 は 「神 域 の門 を

開 け て神 を 招 くふ りをす る時 に鳴 らす 招 神 具 で あ る」 [ 張 簿 根 1 973:79 −8 0] とさ れ

る。 神 門 を 開 け る場 面 だ けで な く,招 神 祭 の 開始 時 ,迎 神 , 請 神 お よ び降 りた神 が座

す と きな ど,神 が あ の世 か らこの世 に来 て座 す とい う, 神 自身 の 一連 の動 き にか かわ

る場 面 で 鳴 らさ れ る。 神 の 関心 を ひ くとか , 遠 い場 所 に い る神 に呼 び か け る とい うよ

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櫻井  巫俗儀礼の音

うに, 感覚 的 ,空 間 的 に距 離 を 置 いた 所 か ら神 との 交 流 を 計 るので はな く, も っと直 接 的 に, そ の音 に よ って神 の来 臨 と臨 在 を招 くと い う機 能 を持 って い るの で あ る。 次 に シ ンバ ル は主 巫 が舞 い 踊 りな が ら鳴 らす が , この よ うな 場面 で は常 に助 巫 た ち の奏 す る 3つ の 打楽 器 が やか ま しく鳴 り響 いて い るの で ,主 巫 が 摺 り合 わせ る小 さな シ ン バ ル の音 は それ らに か き消 され て ほ とん ど聞 こえ な い。 この 場 合 の シ ンバ ル は,音 を 出 す た めの 道 具 と して の楽 器 本来 の機 能 を持 って い な い。 む しろ, この シ ンバ ル は神 意 を判 断 す るた め に用 い られ る占 具 と して の機 能 を よ り強 く持 って い る。 この よ うに , 揺 鈴 と シ ンバ ル は共 に神 の臨 在 や 意志 と直 接 か か わ る楽 器 と い うこ とが で きる。 しか

しそ の音 は, 揺 鈴 が人 か ら神 に向 か って招 聰 す る機 能 を持 って い るの に 対 して , シ ン バ ル は神 か ら人 に対 す る伝 達 機 能 を持 って お り,作 用 の方 向 が逆 で あ る。

4. 音 楽 的検 討

  こ こで は巫俗 儀 礼 にお け る音 を音 楽 的 な 面 か ら検 討 し, そ れ が これ まで に述 べ て き た音 の機 能 的 な面 とどの よ うに か かわ って い るか を 調べ て み る。玄 容 駿 は済 州 島 巫俗 儀 礼 にお け る言語 的表 現 を , 「 純 粋 歌 謡」 「半 歌 謡 」「韻律 的辞 説 」 お よび 「 純 粋 対 話 」

の 4つ に区 分 して い る [ 玄 容 駿 1 965:53 −5 5] 。 この区 分 は 「 韻 律 性 ( 音 楽 性)」 に よ る もので あ る こ とが示 唆 され て い る [ 玄 容駿 1 96 5:5 5] が , 明確 な根 拠 は示 され て い な い。 一 般 に韻律 性 ( 韻 律 的) あ るい は音 楽 性 ( 音楽 的) と い う言葉 は,分 析 的 に 言 え ば ,音 の高 低 お よび 長短 の組 み 合 わせ に よ って 作 られ る音 群 の現 象 的 な特 徴 を指 す 言 葉 で あ る。 した が って 当該 文 化 が 固 有 の 区分 法 を持 って い れ ば別 で あ るが , そ う で な けれ ば ,音 の高 低 や 長短 の組 み合 わ せ の上 で 明瞭 な 指 標 が な い か ぎ り, この よ う な区 分 は観 察 者 に よ る多分 に感 覚 的 な 評 価 に な らざ るを 得 な い 。 こ こで は韻律 性 に よ

って 音 の諸 現象 を区 分 す る こ とはせ ず , む しろ連 続 的 に と らえ て み る。

  韻 律 を形 成 す る音 の高 低 と長短 は, 音 楽 的 に は旋 律 と リズ ム にそ れ ぞ れ対 応 す る。

済 州 島 の 巫 俗儀 礼 に お いて旋 律 と リズ ムを 有 して い るの は, 伴 奏 の 有無 に かか わ らず 声 に よ って 表 現 さ れ る部 分 で あ り,す べ て 打楽 器 で あ る楽 器 演 奏 の 部分 に は旋 律 的 要 素 が な い。 そ こで声 に よ る表現 の類 型 と して す で に呈 示 した 楽 譜 ( 楽 譜 3を除 く) を,

旋律 の定 型 的 な 骨 組 み の単 位 ( こ こで はそ れ を 〈旋 律 素〉 と呼 ぶ) と リズ ム ( その 基 本単 位 を こ こで は 〈リズ ム素〉 と呼 ぶ) お よび リズ ムパ タ ー ンに注 目 して分 析 し, そ の 構造 の単 純 な もの ,非 定 型 的 な もの か ら複 雑 な もの ,定 型 的 な もの へ と配 列 した の が楽 譜 7で あ る。 以 下 ,楽 譜 7に沿 って分 析 結 果 を 検討 す る。

                                                      5 6 7

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国立民族学博物館研究報告

10巻 3号

楽 譜 7     分析 譜

① 〈 列 名 〉 旋 律 素

② 〈 神意 伝達 〉 旋律 素

③ 〈一 般 辞 説 1>音 列

④ < 一 般辞 説 2> 旋 律 素

⑤ 〈 請神辞 説 〉 旋 律 素

⑥ 〈 歌 〉 旋律 素

〈S6uje・sori 1>旋 律 素

〈S6uje・sori 2>旋 律 素

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櫻井  巫俗儀礼の音

  ① 〈列 名 〉 ( 楽 譜 1参 照 ) は こ こ に あ げ た 例 の う ち構 造 が も っ と も単 純 で あ る 。 d−

c−h の 3音 か ら成 る下 降 旋 律 型 で あ り , リズ ム は 基 本 的 に は 等 拍 , 時 に 1拍 の 2分 割 が 行 な わ れ る。 ② 〈神 意 伝 達 〉 ( 楽 譜 6参 照 ) の 旋 律 は A ,B, 2つ の 部 分 に 分 か れ る 。 A と B の あ い だ に完 全 4度 の 音 程 差 が あ る が , そ れ ぞ れ は 同 様 に 長 2度 の 2音 か ら 成 る 下 降 旋 律 を 基 本 と して い る。 リズ ム 素 と して は A (短 + 長 ), B (長 +短 ),   C (等 拍 ) の 3種 が み ら れ る が , A 型 が 支 配 的 で あ る。 ③ <一 般 辞 説 1> ( 楽 譜 2a 参 照 ) は 短 7度 と い う 比 較 的 広 い 音 域 に わ た る 5音 が 現 わ れ て い る が , 旋 律 素 に お い て も リ ズ ム に お い て も こ れ と い った 定 型 的 な 要 素 が な い 。 す な わ ち 旋 律 は 不 規 則 的 , リズ ム は 自 由 リズ ム で あ る 。 同 じ 〈辞 説 〉の 部 分 で も, ④ <一 般 辞 説 2> ( 楽 譜 2 b 参 照 ) で は 旋 律 も リズ ム も あ る 程 度 明 確 な もの を 持 っ て い る 。 旋 律 素 と して は 完 全 4度 枠 内 の 3音 の も の と , そ の 上 に 2音 が プ ラ ス さ れ た 5音 の も の と の 2種 類 が あ り , い ず れ も 下 降 型 で あ る 。 リズ ム 素 に も A (長 + 短 ), B (3分 割 ) の 2種 類 が あ り , 完 全 に は パ タ ー ン化 さ れ て い な い が , こ れ らの 組 み 合 わ せ に よ っ て 8分 の 12拍 子 の 部 分 と 8分 の 6拍 子 の 部 分 と を 形 成 して い る 。 ⑤ 〈請 神 辞 説 〉 (楽 譜 5参 照 ) 以 下 は , 旋 律 も リズ ム も共 に ほ ぼ パ タ ー ン 化 して い る 例 で あ る。 ⑤ の 場 合 , も っ と も基 本 的 な 旋 律 素 は A の 2音 山 形 旋 律 型 で あ り , B は A の 発 展 型 ,   C は A の 変 形 と み られ る 。 8分 の 12拍 子 に 固 定 し, リズ ム素 と し て は [長 +短 ]型 を べ 一 ス に , [短 + 長 ]型 も加 わ る と い う 形 で あ る 。 ⑥ の く歌 〉 ( 楽 譜 4参 照 ) は , 上 の 事 例 の くき よ め 〉 の 部 分 で 歌 わ れ た も の で あ る。 旋 律 素 は 2種 類 あ る が , e− d− c と い う 3音 下 降 旋 律 型 が 共 通 部 分 で あ る 。 8分 の 12拍 子 で , 基 本 的 な リズ ム パ タ ー ン は 1種 類 に 集 約 さ れ る 。 リズ ム 素 と し て は 3分 割 型 が 支 配 的 と い え る だ ろ う。 ⑦ , ⑧ は 本 事 例 に は現 わ れ な か っ た が , ど ち ら も済 州 島 の も っ と も 一 般 的 な 巫 歌 で あ る 5吻 6 − sor iの 分 析 で あ る。 楽 譜 資 料 は李 輔 亨 [1977] の 楽 譜 21 [ 李 輔 亨 1977=306] と 楽 譜 23 [ 李 輔 亨 1977:308] に よ っ て い る。

こ の 歌 は 〈音 頭 一 同 形 式 〉 を 持 ち , ソ ロ ( 音 頭 ) の 部 分 ( A ) と コ ー ラ ス (一 同 ) の 部 分 ( B) と を交 互 に 歌 う。 ⑦ と ⑧ を 比 較 す る と , 音 列 構 成 が 一 部 異 な る (A の 部 分 で ⑦ で は a が , ⑧ で は b が 使 わ れ て い る) こ と を 除 け ば , ほ ぼ 同 じ特 徴 が 現 わ れ て い る。

す な わ ち ソ ロ ( A)部 で は 長 6度 の 音 域 に わ た る 5音 が ほ ぼ 下 降 旋 律 型 を 示 して お り , コ ー ラ ス ( B) 部 で は 完 全 5度 に わ た る 4音 が 形 成 す る [ 谷 型 + 山 型 ] の 波 型 旋 律 型 に 共 通 性 が 認 め ら れ る ( た だ し⑧ の B は [山 形 +谷 型 + 山 形 ] と い う , よ り複 雑 な 形 を 持 って い る )。 リズ ム の 面 で は, ど ち ら も ke c t kor i − c hangdan と 呼 ば れ る リズ ム パ タ ー ン

に も とつ い て い る。

  以 上 の 分 析 の 結 果 を 次 の よ う に ま と め る こ と が で き る。

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国立 民族学博物館研究報 告  1 0巻 3号

 a) 〈列 名〉 は多 少 旋 律 的 な 要 素 を有 して は い るが , 儀 礼 自体 の 構 成 要 素 に比 して は るか に無性 格 な音 声 表 現 で あ る。

  b) 神 か ら人 間 へ とい う方 向 性 を持 つ 〈 神 意 伝 達〉 は,儀 礼 の 中で も っ と も単 純 で は あ る が, は っ き り と した韻 律 を持 った 音声 表 現 で あ る。

  c ) 人 間 か ら神 に捧 げ る とい う方 向性 を持 った 〈辞 説〉 は,非 定 型 的 な もの か ら韻 律 の 明確 な もの まで 幅 が広 い が ,旋 律 が定 型 化 して い る も の は リズ ム が固 ま らず , 逆 に リズ ムパ タ ー ンが 固 ま って い る もの は旋 律 の 構造 が単 純 で音 域 が狭 い。 儀 礼 の 中で は 〈神 意 伝達 〉 と 〈歌〉 との 中 間 的 な性 格 を 持 った音 声 表 現 で あ る。

  d) 神 と人 が 共 に楽 しむ た めの 音 声表 現 で あ る歌 は,旋 律 的 に も リズ ムの面 で もよ り複 雑 な構 造 が 定型 化 して い る。

  この よ うに, 巫 俗儀 礼 とそ れ に かか わ る部 分 で それ ぞ れ の 音 声表 現 が 持 って い る機 能 に従 って , そ の音 楽 的 性格 も異 な る こ とが 明 らか にな った 。 と ころで 韓 国の 基 層 文 化 にお いて 巫俗 が果 た して きた 役 割 は大 きな もの で あ り, 音 の 世 界 で もそ の影 響 は無 視 しえな い。 巫楽 は韓 国民 俗 音 楽 の重 要 な一 部 を 成 して お り, 巫 歌 によ る民 謡 圏 の設 定 とい うよ うな こ と も試 み られ て い る [ 李輔 亨 1 9 83:23 6−241 ] 。 この よ うに巫 俗 儀 礼 に お け る音 声 表 現 の 中 に韓 国民 俗 音楽 の基 本 的 な 性 格 を み よ う とす る観 点 か ら,旋 律 と リズ ム につ い て 2点 を付 記 して お きた い。

  1つ は言 語 表 現 の旋 律 化 の 問題 で あ る。本 稿 で と り あげ た 限 られた 例 だ けを と って もわ か る よ うに , 〈歌〉 と して表 現 され る以 外 に さ ま ざ まな 言 語表 現 が あ り, それ ら は 〈歌〉 ほど で は な い に して も 日常 的 な発 話 行為 とは 明 らか に違 う表現 形 態 を持 って い る。 韻律 の 明確 度 や リズ ムの 固 定度 に さ ま ざ まな レベ ル が あ り, そ の最 高 の レベル に あ る もの が く歌〉 で あ る。 日常 の発 話 行 為 と音 楽 的 行 為 の あ い だ を埋 め る もの は,

日常 生 活 の 中 にで はな く, 非 日常 的 な儀 礼 の 中 に あ る。 韓 国 の 巫俗 儀 礼 の 場合 ,旋 律 化 の 度合 は神 との 心理 的 な距 離 の 近 さ に比例 して い る よ う に思 え る。 す なわ ち遠 くに 存 在 す る神 との かか わ り にお いて は言 語 的 側面 と一 定 の 韻 律 性 が 強 調 さ れ, 神 の 臨在 を ま ちか に感 じ る ことの で き る場面 で は音 楽 的 な 表 現 に 意 が用 い られ る。 〈神 と人 と が共 に楽 しむ〉 場面 , す なわ ち人 が神 に心 理 的 に も っ と も近 づ く場 面 で ,必 ず 歌 が 歌 わ れ る ことが , この こと を端 的 に表 わ して い る。

  も う 1つ は リズ ムの 問題 で あ る。 一般 に韓 国の 音 楽 の 大 きな特 徴 の 1つ と して 「3 拍 子 の リズ ム」 とい う こ とが いわ れ るが ,民 俗 音 楽 の 基 底 に あ る と いわ れ る巫 楽 をみ

る限 り, 3拍 子 が 支 配 的 で あ る とは思 えな い。 む しろ 4拍 子 を基 本 と して い て , その 1拍 を 3分 割 した形 の 8分 の12 拍 子 な どの リズ ムパ タ ー ンが 支配 的で あ る。本 稿 に お

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櫻井  巫俗儀礼の音

け る事例 で は [ 長] と [ 短 ]の組 み合 わ せ , お よ び 3分 割 が 基 本 的 な リズ ム素 と して呈 示 され た が, 全 国 的 に は 2分 割 の リズ ム も存 在 す る [ 李 輔 亨  1 970:41 −46] 。 韓 国音 楽 の リズ ムパ タ ー ンで あ る各 種 の c h an gd a n も, その 基 本 的 な構成 要 素 に ま で分 解 す れば , 結局 は この [ 長] と [ 短 ]の 組 み合 わせ , 3分 割 お よび 2分 割 とい う 3つ の法 則 に よ って成 り立 って い る こと が明 らか で あ る。 と ころ で この [ 長]と [ 短 ]の長 さの 比 率 が 2対 1で あ る こ とが 多 い と ころ か ら,他 文 化 に な じん だ耳 に は単純 に合 計 して 3 拍 子 と受 け と られ やす いの で あ るが ,実 は この [ 長] と [ 短] はひ と ま と ま りと して , す な わ ち 1拍 と して と らえ られ るべ き単 位 で あ る。 そ れ は韓 国 の舞 踊 に お け る体 の 動 きの リズ ム を注 意 深 く観 察 す れ ば わ か る。 1つ の動作 が [ 強]と [ 弱 ]の 1対 か ら成 っ て お り, それ が 長 さと して は [ 長]と 「 短]に対 応 して い るの で あ る。 舞i 踊 に お け る こ の よ うな動 きの リズ ム は, 筆 者 の み る 限 り巫 俗 にお け る踊 りか ら古 典 的 な 国楽 に お け る舞踊 ま で, お よそ韓 国 の舞 踊 にす べ て共 通 して い る もの で あ る。 また 2対 1で 1対 とい う関係 は ,本稿 で み た よ うに音 声表 現 に 関 して も,少 な く とも巫 俗 儀 礼 に お いて は言 語 的 な表 現 か らも っ と も音 楽 的 な表 現 に至 る まで , ほぼ共 通 にみ られ る リズ ム素 で あ った。 以 上 の こ とか ら,韓 国巫 俗 音楽 の リズ ム に は, 第 1に 3分 割 , 第 2に 2分 割 とい う 2つ の原 理 が 支 配 し て お り, 前 者 に あ って は 3分 割 の 2が癒 着 して 2対 1

( また は !対 2) の関係 に分 割 され る こ とが多 い と結 論 づ け る ことが で き る。 これ は 同時 に韓 国 の 民俗 音 楽 一般 に対 して も, さ らに は韓 国の 伝 統 的 な音 楽 全 般 につ い て も あて は ま る基 本原 理 で はな い か と推 察 す る。

5. 結 び

 本 稿 で 述 べ た こ とを要 約 す れ ば次 の よ うに な る。 韓 国済 州 島 の巫 俗 儀 礼 で 用 い られ る音 に は, 人 ( 巫者 ) の 声 ,杖 鼓, 太 鼓 , ドラ, カ ネ, 揺 鈴 お よび シ ンバ ルの 音 が あ る。 そ の組 み 合 わ せ は, 声 が 単 独 な い し杖 鼓 の 伴奏 付 きで 1組 ,太 鼓 と ドラとカ ネ が 1組 , 揺 鈴 お よび シ ンバ ル が そ れぞ れ 単 独 で あ る。 た だ しシ ンバ ル は楽 器 と して よ り も占具 と して の 性格 が強 い。 これ らは儀 礼 にお いて独 立 に , あ るい は舞i 踊 , 所 作 な ど と と もに用 い られ ,神 へ の 働 きか け ,神 と人 相 互間 の意 志 伝 達 ,神 と人 との共 楽 とい う 3つ の主 要 な機 能 を果 た して い る。 これ らの 音 を音 楽 的 にみ る と,旋 律 を持 って い るの は声 を用 い る表 現 の みで あ る。 そ の音 楽 的 性格 に は非 定 型 的,言 語 的 な表 現 か ら 定 型 的 , 音楽 的 表 現 に至 る さ ま ざ まな段 階 が あ るが ,概 して神 との心 理 的 な距 離 が 近

い と思 わ れ る場 面 にお け る もの ほ ど, よ り定 型 的 で あ り, 音楽 的 に よ り複 雑 な 表 現 構

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国立民族学博物館研究報告   10 巻 3号 造 を持 って い る。 す な わ ち神 へ の接 近 度 と音 楽 の パ タ ー ン化 と の あ いだ に一 定 の関 係 が み られ る。 リズ ムの面 で は 1拍 を 3つ に割 る 3等 分 割 が 支配 的 な原 理 で あ り, 3等 分割 の変 種 と して の 2対 1あ る い は 1対 2 とい う比 率 か ら成 る基 本 単 位 も, リズ ムの 形 成 に お いて 優 勢 で あ る。 リズ ム にお け る こ う した 特 徴 は声 に よ る言 語 的 な段 階 か ら

音楽 的段 階 に至 るさ ま ざ まな 表 現 ば か りで な く舞 い踊 りな ど の身 体 運 動 に もみ られ,

そ れ が韓 国民 俗 音楽 ・芸 能 にお け る基本 的 な特 徴 で あ る こ とを強 く示 唆 して い る。

  巫 俗 儀 礼 は生活 の非 日常 的 な 局 面 で あ る。 その 意 味 で は 日常 生 活 にお け る音 の 世 界 と比 べて か な り特 殊 な性 格 を 持 って い る。 それ を具 体 的 に示 して い るの が音 の機 能 的 側 面 と音 楽 的 側 面 との関 係 で あ ろ う。 しか しその 一 方 で ,韓 国の 巫 俗 は民 俗 文 化 の主 要 な一 部 で もあ る。 音 の文 化 と動 きの文 化 の双 方 にか か わ る リズ ムの 問題 は, 民 俗 文 化 全 体 へ の 広 が りを持 つ もの で あ る。 この よ うに, 韓 国 に お け る音 の文 化 の 中で , 巫 俗 儀 礼 とい う 1つ の局 面 が持 って い る音 の世 界 の , 特 殊 性 と一 般 性 の 双方 にかか わ る

問題 を, 本稿 を通 じて 呈 示 で きた と考 え る。

付 記

  本稿 の も とに な った現 地 調 査 で は, 済 州大 学 校 民俗 博 物 館 の高 光 敏 氏 にた い へん お 世話 にな っ た 。 深 く感 謝 申 しあ げ る 。ま た 済 州大 学 校 の玄 容 駿先 生 と本 館 の重 松 真 由美 氏 に は草 稿 を読 ん で

いた だ き,表 記 法 の誤 りな どを 指摘 され た 。併 せ て 謝意 を表 した い。

  な お, 玄 容駿 著 『済 州 島巫 俗 の研 究 』 (第一 書 房 , 昭和 60年 7月30日発 行 ) は本 論 に 関連 す る 論 述 を多 く含 んで い る ( 特 に 第 4章 , 第 5章 , 第 6章 第 2節) が ,脱 稿 後 に 出版 され た た め本 論

中で は 引証 で きな か った 。

文 献

赤 松 智城 ・秋 葉隆

    193 8 『 朝 鮮 巫 俗 の研 究 ( 下 )』 大 阪 屋 号書 店 。 張 籍 根 ( CHANG,   Chu− gt t n)

    1973 『 韓 国 の 民 間信 仰  論 考 篇 』金 花 舎 。 張 師助 ( CHANG,   Sa− hun)・韓萬 榮

    1975 『国楽 概 論』 刈 音 大 学 校 出版 部 ( 刈 音)。

崔 吉城 ( CHOE,  Ki 1 − s 6ng)

    1 980 『 朝 鮮 の 祭 りと巫 俗 』第 一 書 房 。 王 甚 音 ( CHO,   Hung− yun)

    19 83 『 妊 号 潮 巫 』 碧 音 斗 ( 刈 音 )。

韓 萬 樂 ( HAN,  Man− y6ng)

    197 9 「 済 州 島斜 巫 楽研 究 一 兎 山せ テ 音  秀 組 苛 司一 」  『韓 国 国楽 研 究 』8−9:5−30。

玄 容 駿 ( HyON,   Yong− j un)

    1965 「 済 州 島 潮 巫俗 儀 礼 」 『 韓 国 言 語文 学 』3:45−61。

    1972 「 済 州 島の 巫俗 一 そ の儀 礼 形 式 に見 え る信 仰 複合 一 」 『 民 族 学研 究 』 36( 4):269−27 9。

    198 0 『 済 州 島巫俗 資 料 事典 』i 新丘 文化 社 ( 刈 含 )。

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櫻井  巫俗儀礼 の音 金 泰 坤 ( Ki M,   T, ae . gon)

    1 982 『韓 国 巫俗 研 究 』再 版 , 集文 堂 (刈音 )。

文 化 財 管理 局 ( M unhwa je   Kwal l i guk)

    1 969 『部 落祭 堂 』 ( 民俗 資 料 調査 報 告 書第 39号 )文 化 財 管 理局 (刈 音)。

朴桂 弘 ( PAK,  Kye ・ hong)

    1 983 『韓 国 民俗 学 概 論』 蛍 雪 出版 社 (刈金 )。

重松 真 由美

    1 980 「費 神 に み られ る女 性 の社 会 関係 一 一 pt国京 畿道 に お け る巫俗 の一 考 察一 」 『民 族学        研 究 』45( 2):93 −11 0。

李 輔 亨 ( YI ,   Po− hy6ng)

    1 97 0 「巫楽 長 短考 」『韓 国文 化 人 類 学 』3:33−47。

    1 977 「 第 五 篇 民 族芸 術   第一 章 音 楽斗 舞 踊 」 『 韓 国 民俗 総 合 調 査報 告 書   済 州道 篇 』 文 化 広        報 部 文 化 財管 理 局 (刈音 ), PP・285 −31 2。

    1 982 「韓 国巫 儀 式 斜音 楽 」金 仁 會 外 『 韓 国 巫俗 斜 総 合 的考 察 』 高 麗 大 学 校民 族 文 化 研 究 所         (刈音 ),  pp.207−230。

    1 983 「司 堺 司三 司 巫 歌 ・民 謡 圏 斜音 楽 文化 」 『韓 国文 化 人 類 学』 1 5:233−249。

李 符 永 ( YI ,  Pu− y6ng)

    1 980 「神 可 司 否斗   巫 俗」 『韓 国思 想 斜源 泉 』第 2版 , 博英 社 (刈 音),pp・60−95。

劉 信 ( Yu,   Si n)

    1 982 『国 楽 通 論』 世 光 出版 社 (刈 音)。

柳東 植 ( Yu,   Tong− s i k)

    1 97 6 『 朝 鮮 の シ ャー マニ ズ ム』 学生 社 。

    1 983 『韓 国巫 教 斜歴 史 舛 構 造』 第 4版 ,延 世 大 学校 出版 部 ( 刈 音)。

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参照

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