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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

エネルギー分散型螢光X線分析による土器の産地同 定の試み

著者 長友 恒人, 市川 米太, 吉田 武男

雑誌名 古文化財教育研究報告

6

ページ 1‑7

発行年 1977‑06‑30

URL http://hdl.handle.net/10105/352

(2)

エネルギー分散型蛍光Ⅹ線分析による土器の産地同定の試み  

趣向遺跡出土土器について   

長友恒人・吉田武男・市川米太  

(奈良教育大学 物理教室)  

Ⅰ は じ めに   

遺跡から出土した土器の産地同定は,−−「般に土器の形態,文様,色調,胎士,製作技法をどの考古    学的特徴の肉眼観察から決定されるが,このような方法によらず,土器固有の自然科学的特質を手掛  

少にしてよカ客観的に同定することが近年試みられてきた。日本の土器についても須恵器の産地同走1)  

が精力的忙研究されているが,弥生時代以前に製作された土器についての報告は比較的少ない。   

本報告は自然科学的測定手段としてエネルギー分散型螢光Ⅹ線分析(以下螢光Ⅹ線分析と称す)装   置を使用して奈良県纏向遺跡出土の土器の元素分析の結果から産地を同定しようとする試みである。   

今回分析した土器試料は弥生後期から古墳時代にかけてのもの52点と比較のために供された北陸   産出土器2点であるが,考古学的には畿内産のみではなく,東海・山陰・瀬戸内・北陸・東海・東国   の系統とみなされるものが含まれておれ 器種や様式も多岐にわたっている。これらの試料をよ少確   実に産地同定するための基準となるべき各地方産出土器の分析鮭果がないので,測定結果に従って可    能ないくつかのクループに分類して,考古学的分類と此軟検討した。   

また今回試みた分析の結果から,須恵器以前の土器について螢光Ⅹ裾分析法による産地同定を確立    させるために留意すべき事柄についても検討した。  

Ⅱ測定の方法と結果  

螢光Ⅹ線分析法による産地同定の原理と測定の方法について軋本報告第5#2)に詳細収報告され   てぃるので省くが,今回の測定は二次ターゲット方式によるものである。  

分析に供された試料は化学分扁$垢に酸処理するために粉細したものの一部であれその粒度や量  

は一定していなかった。従って,微量含有成分の有無を検討したれ一定量の試料を加圧成型して定   量分析することは有力な分析手段になると考えられるが,今回はこれらを産地同定の目安にすること   はできなかった。試料が粉末であって,しかも粒度や量が一定しない今回のエうな場合,得られたエ   ネルギースペクトル中のいくつかの含有元素に対応するピークの相対強度を分析データとすることが  

−1−   

(3)

最も信頼性の高い方法と考えられる。   

測定によって得られた螢光Ⅹ稼のエネルギースペクトルでは,原子番号の/J\さいものから順に舶,  

Si,K,Ca,Ti,Cr,Mh,Fe,Cu,Zn,Ga,As,Br,Kr,Rb,Sr,Pbの17    種類の元素が確認されたが,これらの中には埋蔵中に周囲の土壌の影響を受けたと考えられるものも   

あ少,最終的にデータとして用いたのは比較的ピークが明瞭で結果的に分析に有効であった9元素6  

種類の相対強度である。それらはA且/Si(Ti)−  Tiを二次ターゲットとしたときのAEと  

Siの強度比,以下同様−  ,Ca/K(Ti),Ti/Rb(Mo),Ca/Rb(Mo),Ti/Cr   

(Ge),およぴMn/Cr(Ge)である。これらの値を各試料毎に示したものが第l表である。表で試    料番号欄にA,B,C,…… とあるのは螢光Ⅹ線分析による分類のクループであ少,産地系統は考  

古学的分痘3)を示す。   

A,B,C,……等の分類の根拠を明らかにするために表の値から作成したグラフの例が第1図   

と第2図である。第1図からわかるように39,45,75の試料はTi/Cr(Ge),Ca/K(Ti)   

の値ともに他の試料とは区別されてグルーブAを構成する。またこれらに比較的近い値をもつ84は    他の相対強度の値も似かよっていることからクループAに属するとみなすことが可能である。横軸に  

Si/A且(Ti),縦軸にCa/Rb(Mo)の値をとったグラフの第2図から,98,99,101の試料   がグルーブBを形づくることがわかる。これらのグラフからは必らずしも明確に他と区別できないC,   

D,E,Fの各グループもすべての相対強度について比較検討した結果分類されたものである。  

このような方法によって分類可能のものは全試料中23点であれ他は6種類の相対強度のいずれか    1つ以上についてバラツキが大きすぎるため分類することができなかった。  

Ⅱ考古学自勺分類との比較  

測定した試料が限られているので,今回の分析結果のみで考古学的分類と螢光Ⅹ線分析による分類    との対応を明確にすることはできない。  

しかし第1表から明らかをように河内系統とされる3試料はSi/A且(Ti),Ca/K(Ti)お    よびTi/Cr(Ge)の値が他の試料とは際立った遠いを示してお9,考古学的分類とよく一致する。   

21,22,23,24の4試料は考古学的に大和系統であるが,これらはグルーブCに属しているとす    る今回の分析結果と一致している。クループD中,104,105はそれぞれ古府クルビ遺跡(金沢)お    よび南新保−D遺跡(金沢)産出の聾であり,76は考古学的に北陸系統と分類されたものであるが,   

これらは今回の測定ですべての相対強度について似かよった値を示してお力,対応性がよい。同様に    クループEは考古学的分類が瀬戸内系統,Fは東海系統,Gは大和系統であって両者の分類はよく対    応している。  

(4)

一方,今回の測定結果に従って分類したもののうち,考古学的分類と異なる様子を示すものもいく    つかある。例えば,34,48の試料は山陰系統とされているが,どの相対強度を比較してもグルーブ   

D即ち北陸系統により近いとみるのが妥当である。山陰系統とされるものはこの他にも28,101を除    いて北陸系統と区別することが困難である。ただ第2図にみられるように山陰系統は北陸系統と比較   

してSi/A且(Ti)の値が一般的に′」、さいのは興味深い。第3図はすべての相対強度を比較するため    にグラフ化したものであるが,上記のことがこの図から説明される。また 93,99,101の8試料    は考古学的に互いに異なる系統に属しているにもかかわらず,螢光Ⅹ線分析による結果は第8図によ   

ってひとつのグルーブを構成するとみる方が妥当である。また84は大和系統とされているが,Ca/   

K(Ti),Ca/Rb(Mo)の値の/(ラッキの大きい他の大和系統のものから更に離れておb,むしろ    クループAに属するとみることができる。  

Ⅳ おわ り に  

今回の測定によって分類できた試料は52試料中23点にすぎず,十分な結果とはいえない。しかも,   

試料数が限られてお力,螢光Ⅹ線分析によって分類された各グループに属する試料が2〜5点と少な    かったため,分類にあたって相対強度のバラツキは考慮されなかった。それにもかかわらず,前項で    述べたように考古学的分類による産地系統との対応があることは明らかであり,螢光Ⅹ線分析法によ   る産地同定の可能性を示していると考えられる。またよ少進歩した焼成技術によって製作された須恵   器と異なり窯跡が通有されておらず,焼成条件が一定していない須恵器以前の土器の産地分析では,  

焼成によって構造上の変化を受けたとしても原子レベルの現象を情報手段とするこの分析法は有利を    面をもつとも考えられる。   

いずれにしても,螢光Ⅹ練による産地同定を可能にするには測定上いくつかの改善が必要である。  

まず第1に同一土器の材質の均一性が保障されなければならない。須恵器についての放射化分析の結  

果(転,   含有元素の変動係数(註1)が10釘以下であることを示しているが,よ少古い土器の螢光Ⅹ   線分析法についてもこのことを確認する必要がある。また,試料の形態についても,粒度を均一にす  

ることに神経質になる必要はないにしても,微量成分の有無や,元素の含有率を分析の目安にするた   めには一定量の試料を成形して測定することが必要である。次に試料の選択に関連しては主に2つの  

ことに留意しなければならない。即ち産地同定の基準にな少得るものと試料数の間簸である。今回の  

分析でも北陸産出の2点がかな少良い一致を示したことに見られるように考古学的に産地分類の基準   とな少得る試料の含有元素が定量的にもよい一致を示すことは螢光Ⅹ線分析法による産地同定の可否  

を決定する重要な事柄である。また測定結果を統計的に処理できるだけの試料教を測定することが望   ましい。少なくとも20点以上の試料を測定しなければ統計的処理は意味をもたないであろうし,産地  

−3−   

(5)

同定の結果の確かさを論じることもできをい。   

今後は,以上の点に留意しつつ土器の産地同定の試みを継続する予定である。   

謝辞  

今回の測定に際し,試料の提供や考古学的を面の助言をいただいた橿原考古学研究所の伊達莱泰,  

石野博信氏に深く感謝する。この研究は文部省科学研究費,特定研究の一「環として行なったものであ    る。  

証1.  

分析値のバラツキを表わす因子の一種で,次式に従って計算される。  

lX才一Ⅹlミ/(〝−1)  

Ⅴ(痴)=    ×100  

但し,乃;分析個数,Ⅹi;個々の定量値,Ⅹ;Ⅹiの平均値  

参考文献   

(1)例えば,三辻利一 考古学と自然科学 第5号(1972)   

(2)長友恒人・市川米太 奈良教育大学古文化財教育研究報告 第5号(1976)   

(3)安田博幸・湯本美知子・青園恭子・則近薫 纏向 桜井市教育委員会術(昭和51年)   

(4)三辻利一一 考古学と自然科学 第9号(1976)  

(6)

親展  

8   ○糾  

6  

︵芦︶ミ巾U  

093  

○  

ム﹁  

Ti/Cr(Ge)  

第1岡 Tl/Cr(Ge)とCa/K(Ti)の相関図  

よ£ 鬼1a  

漣  

︵星︶q竺巾U   0l−   ○鈷  

013   

0叫  011  0  

0 0  

0  

03  

局 一戦   

10    12   1ム  

Si/Al(Ti)  

第2図 Sl//Al(Ti)とCa/Rb(Mo)の相関図  

−5−   

(7)

Si/AL   Ca/K   Ti/Rb Ca/Rb   Ti/Cr Mn/Cr  

第3固 相対強度のパターン  

(8)

第1表 分 析 値   

参照

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