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造形過程のモデル織 田 芳 人*

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(1)

長崎大学教育学部人文科学研究報告 第52号 17〜31(1996)

造形基礎論ノート(3)

造形過程のモデル

織 田 芳 人*

The note of Fundamentals for Artistic Work (3)

    Model of the Artistic Process          Michito ODA

1一はじめに

 いわゆる造形行為とは、単純にとらえれば、何らかのイメージを色と形を用いて表現す る(実在させる)行為であるともいえるだろう。1)そのときイメージは心のなかにある,

あるいは脳のなかにあるといえるかもしれないが,ともかく現実の存在をともなっていな い。一方、表現されたものは現実の存在である。そこで造形行為を,イメージが実在の物 体に置き換えられる過程ととらえて図式化すれば、図1のように表わすことができるだろ

う。これが、造形行為を表わす最も単純で基本的なモデルと考えられる。しかし,このま までは抽象的すぎるので,この単純なモデルにもう少し具体性を与えて,実際の造形行為 を過程という視座からとらえるようなモデルを呈示したい。

2一モデル

最初に,モデルという語の意味について少し触れておきたい。吉川弘之はモデルについ

て次のように述べている。

すなわちモデルとは,人間があるものを理解しようとしたとき,立つ立場によって関 連してくる対象物の属性だけを抽出して考察できるような抽象的表現,その対象物の 抽象的表現なのである。DNAモデルは遺伝機構,フィードバックモデルは制御機構の みを抽出して考えたいときに,対象をもっともよく理解させてくれる対象物の抽象的

表現である。2)

さらに吉川は,ファッションモデルという場合のモデルの意味にも触れて,

……

tァッションモデルも抽象的表現である。それは,人々が衣服を着るという立場 に立つとき,人々がどのように見えるかという点だけを抽出して見せる装置であると

*長崎大学教育学部美術科教室

(2)

(a) イメージ → 絵画作品

イメージ →  造形作品 (・)イメージー(藝)一絵画作品

図1 造形行為の基本的モデル 図2 平面的な造形[絵画]の制作過程

いう意味において,DNAやフィードバックモデルとまったく同一のものである。3)

と述べている。すなわち「モデルは,人がある対象を認識しようとするとき,立場あるい

は関心に応じて対象から必要な属性を巧みに抽出するために有効な装置」4)なのである。

 このことからも理解されるように,本論における造形過程のモデルとは,造形行為をよ り深く認識するための「有効な装置」ととらえられるだろう。

 さて造形過程のモデルというとき,造形が平面的であっても立体的であっても,また再 現的であっても非再現的であっても,それらを包摂するようなモデルが望ましい。ところ でイメージを表現するという意味からは,再現的に表現しようと非再現的に表現しようと,

それちは同じ過程として考察することができるだろう。そこで,平面的な造形と立体的な

造形とに分けて考察していこう。

3一平面的な造形

(1)過程

 実際に平面的な造形を試みるとき,どのような過程をたどるのだろうか。そこで,絵の 具でキャンヴァスに絵を描こうとする場合を考えてみよう。まず,いきなりキャンヴァス に絵の具で描いていくこともある。過程という視点からは,イメージが直接的にキャンヴ

ァス上に定着されて絵画作品となる(図2(a))。

 しかしまた,描こうとするものを別の紙に鉛筆とかコンテでスケッチしておいてから,

そのスケッチに基づいてキャンヴァスに向かうこともある。特に,大きなサイズの絵を描 こうとするときにはよくおこなわれる方法だろう。そのときのスケッチを一般にエスキス とよんでいる。この場合は,イメージが別の紙の上にエスキスとして定着され,そののち

キャンヴァスの上に絵画作品として再定着されるといえよう(図2(b))。

 図2に示した二つの過程は,再現的な絵画であっても非再現的な絵画であっても,同じ

ようにありうる。恣意的にだが,スイスの画家フェルディナント・ホドラーと英国の画家

ブリジット・ライリーの制作例を見てみよう。図3はホドラーの「夢」という作品(ポス

ター原画)とそのエスキスである。また図4はライリーの場合で,直接のエスキスは明ら

かにされていないので,エスキスとしてきわめて近いと思われるものをあげた。いまエス

キスの例と述べたが,じつは図録には「習作」とある。しかし,これらはエスキスと見な

せるものである。なお「習作」については,あとで触れることにする。

(3)

       造形基礎論ノート(3)造形過程のモデル      19

(2)エスキス

 エス.キ・ス「esquisse」はもともとフランス語で,

  最初の,たいていは粗いスケッチ(たとえば絵画のための,あるいは彫像のひな型の   ための)      『ウェブスター英語辞典』5)

という意味である。ここで指摘しておきたいのはエスキスのサイズであり,図3・図4に 示したエスキスもそうだが,一般に幅20cmから30cmあたりの小さいと感じるサイズのも のが多いようである。

(3)スケッチ

 いまスケッチと記したが,造形分野におけるスケッチの意味は,

  物体や風景の主要な特徴を表わした粗い線画で,しばしば予備的な習作として描かれ   る。       『ウェブスター英語辞典』6)

  詳細を省いて本質的な特徴を示すために,単純にすばやく描かれた線画や彩画で,特   に,予備的なそうしたもの。      『ランダムハウス英語辞典』η

とある。これらのことからもわかるように,スケッチは予備的な性格の強い,線を主体と

して描かれたものといえる。

雲州細

}め     しメびういうこ

熱∴{・

    蝋

1媒_.1…畔

!.

,船騨讐 1

し。_.

「夢」のための習作 1897年 22.5×15cm

石墨,色鉛筆(青),墨,紙

図3 フェルディナント・ホドラー

ご夢

「夢」,ポスター原案 1897年 98×69cm

石墨,色鉛筆墨,水彩,グワッシュ,紙

(4)

ねじれのための習作1963年 34×23cm

鉛筆,グワッシュ,方眼紙

「下降」

91.5×91.5cm 感光乳剤,板

撚撚撚撚撚撚魏

1965/1966年

図4 ブリジット・ライリー

4一立体的な造形

(1)過程

 ここでは立体的な造形の一つの例として,塑像彫刻を取り上げてみよう。一つには,い きなり粘土で像をつくっていくこともできるだろう。その場合は,イメージが直接,粘土

の塊として現われてくることになる(図5(a))。また一つには,粘土や何か別の素材で小さ

なものをつくってみて,それに基づいて大きくすることもできる。この小さなものは一般 にマケットとよばれている。そのとき,イメージは別の小さなものとして定着され,その

のち塑像として再定着されると考える(図5(b))。

 しかし,そうした過程のまえに,描くという過程すなわち素描が含まれることが多い。

この素描は「彫像のひな型のため」にあるものなので,エスキスとよぶことができよう。

そこでエスキスの段階を組み入れると,イメージ→エスキス→マケット→作品という流れ になるだろう(図5(c))。図5に示した三つの過程は,再現的な彫刻であっても非再現的な

(a) イメージ → 彫刻作品

(b) イメージ

(c) イメージ

一(乏)一

彫刻作品

一(§)一(遍)一

彫刻作品

図5 立体的な造形[彫刻]の制作過程

(5)

造形基礎論ノート(3)造形過程のモデル 21

彫刻であっても,同じようにありうるものである。一例として英国の彫刻家ヘンリー・ム アの制作過程をあげておこう(図6)。エスキスからマケットへ,そして作品へと具現化さ れていった過程がよく示されている。

(2)マケット8)

 マケット「maquette」もエスキスと同じく,もとはフランス語であり,

彫刻や建築をつくるための三次元の小さな模型あるいは習作。

       『ランダムハウス英語辞典』9)

計画されたものに対する,たいていは小さい予備的な模型で,特に,立案されたもの の概観や構成を判断するためにつくられる。たとえば,

a.計画された彫刻作品のろう,あるいは粘土による模型。

b.部屋とその内部の家具や装飾様式の模型。

C.建物の模型。      『ウェブスター英語辞典』10)

という意味である。

 ヘンリー・ムアは世界的に著名な芸術家の一人であるが,その旺盛な制作力から生まれ た数多くのマケットを私たちに見せてくれたという意味からもいっそう貴重な存在といえ るだろう。ムアの手になるマケットは,長さ(あるいは高さ)20cm前後のものが多く,な かには10cm近くの小さなものもあって,全体的に小さいという印象を受ける。そのような マケットについて,ヘンリー・ムアは次のように語っている。

「家族」1944年 3q.8×30.5cm インク,水彩

    著     ごミ

    毒

    漆

。難・ ン漁ゲミ障臨晦藤 癖締三

「家族」1944年 13ユcm高さ テラコッタ

「家族」1949年 152.4cm高さ ブロンズ

図6 ヘンリー・ムア

(6)

 私はもはや素描を直接,彫刻制作に活用することはしない。一枚の素描は,ひとつ の地点からの眺めを示すだけだから,一枚の素描を彫刻に変えようとすれば,私がか つてしたように他からの眺めを作り出さなければならない。しかし素描の示す最初の 眺めは,必要以上に重要なもの,〈鍵〉になる眺めとして残ってしまう。

 ここ何年もの間,私は彫刻をどこから見ても興味深いものにしようと考えてきた。

そこで私は,素描からではなく,手のひらにのるような小さなマケットから彫刻を作 るようにした。どの角度からも眺められ,制作していくことができるからである。11)

 「横わたる母と子」という作品の制作過程(図7)では,先にマケットをつくり,それを 見ながらスケッチしてアイディアを練ったことが,それぞれの制作年代から推測される。

次いで,それらのアイディア・スケッチに基づいてワーキング・モデル12)をつくり,さら に,それを拡大して最終的な作品をつくっている。

マケット「着衣の横たわる母と子」

1980−81年 21cm長さ,石膏

醗糟饗欝・.犀.騨.

ワーキング・モデル

「着衣の横たわる母と子」1982年 75cm長さ,石膏

魚皇磁、弄、、銚,照詠

彫刻のためのアイデア

「横たわる母と子」1982年 30.7×23.4cm,木炭,ボールペン

「着衣の横たわる母と子」1983年 265cm長さ

フロンズ

図7 ヘンリー・ムア

(7)

造形基礎論ノート(3)造形過程のモデル 23

 絵画(平面作品)は一つの方向から見られるものであり,彫刻(立体作品)はあらゆる 方向から見られるものである。見られる以上は,絵画は一角度から見られるときに意味を もてばよいが,彫刻はアラン・ボーネスも指摘するように「どの角度から見られようと意

味を持たなければならない」13)。それを満たすためには,彫刻はあらゆる方向から見てつく

ることが要求されるだろう。それゆえムアは,あらゆる方向から見てつくっていく彫刻制 作の初期段階として「どの角度からも眺められ,制作していくことができる」「手のひらに のるような小さなマケット」を試みているのである。

 このようなマケットの意味から逆に導かれることだが,「あらゆる方向から」と「一つの 方向」からとの違いがあるにしても,彫刻制作の初期段階としてのマケットが小さいこと と,絵画制作の初期段階としてのエスキスが小さいこととは,同じ次元の問題と考えられ

る。

(3)模型14)

 マケットの意味を示すときに用いた「模型」の意味は,

①同形のものを造るための型(かた)。ひながた。ぼけい。

②実物と形を似たものに造ったもの。     『広辞苑第四版』15)

①実物の形をまねて作ったもの。

②同形のものを作るためのかた。いがた。

『国語大辞典』16)

それそのものではないが,それと同じ形につくったもの。モデル。

④物になぞらえ(大きさを縮めまたは拡大し)て造ったもの。

◎ 理論探求の必要から,対象とする現実を抽象化し,問題の骨組みがよくわかるよ

 うに設定したもの。

◎ 論理学・数学で,抽象的理論体系の実例となるもの。    『岩波国語辞典』17)

と記されている。

 ここで対象とする模型は,『岩波国語辞典』における④の意味に近いだろう。近いという のは,なぞらえるための実物は何も存在していないからである。それゆえ,ここでの模型 の意味は,いずれは存在することになるはずの物を想像してつくったものということにな る。また,模型は何のためにつくるのかを考えれば,想像する形(色も含む)すなわちイ メージをより明確にしょうとするためであり,ときには実在の抽象化を図ってその本質を 表現しようとする場合もあるだろう。そういった点からは,◎の意味もいくぶん含んでい

るといえる。

 しかし現代美術評論家の中原佑介は,美術に模型はないという。中原は,そのことを野 外彫刻コンクールでの模型による審査の例を引きながら述べている。以下に中原の考えを

要約してみよう。

まず大きさという点から,模型とそれを大きくした彫刻とでは,かならずしも似た

(8)

印象を与えない。第一,大きさの違いの与える印象の違いがある。さらに構造の点で,

模型はそのまま大きくできないということもしばしば起こる。そこで彫刻の模型は,

「模型」というよりも一個の彫刻作品といっていい。模型とそれを大きくした彫刻とい

う大小二つの作品があるといえる。

 なぜなら絵画にしても彫刻にしても,それを実際に使用するということがない。す なわち実用性がない。実用的なものということになると,ある大きさがどうしても必 要になる。たとえば人の入れない建築は建築とはいえないが,美術作品にはそうした 実用性から要求される大きさの範囲というものがない。大きくても小さくても作品と

して成立する。

 また素材という点からも,たとえばステンレススティールの作品の原型を紙でつく るような場合,ステンレススティールの彫刻があり,紙の彫刻があるということが通 用する。いいかえれば,実用性のない模型は美術作品と見なすことができる。18)

 そうでなくても美術作品というものは,制作者が作品といえば作品であり,一方で観者 が作品と見なせば作品となる性格のものといえる。そうしたあいまいなコンテクストのな かでは,作品と見なそうと模型と見なそうと,どちらでも「通用する」だろう。

 しかし,とりあえず本論では,造形分野における模型と作品とをサイズの違いで区別し ておき,模型はマケットと同じ類のものととらえておくことにする。

5一一般的な造形過程のモデル

(1)イメージと実在

 これまで平面的な造形と立体的な造形に分けて,それぞれの過程を考察し,図式化して きた。次には,そうした平面的な造形の過程と立体的な造形の過程とを統一的にとらえる ようなモデルを考えてみよう。平面的と立体的とに係わりなく,造形行為を考察するため である。そこで,本論の起点であるイメージについて,いま少し考察を加えよう。吉積健 は映像を論じるにあたって,次のように記している。

想像界 実在界

イメージー q三三)

    /

イメージ → 平面作品

想像界 実在界

イメージー

q一管スキスー)

イ…ζ(乏)

    /

イメージ →  立体作品

(a)平面的な造形の過程 (b)立体的な造形の過程

図8 想像界と実在界との係わりからとらえた造形過程

(9)

造形基礎論ノート(3)造形過程のモデル 25

 日本語表記の「映像」に限らず,フランス語や英語の綴りである「image」,さらに ドイツ語の「Bild」においても,その今日に慣用化されている概念は,意識に生じる心 的な映像概念から,テレビジョン工学の領域におけるような,物理的・工学的な映像 概念に至るまで極めて広範囲に及んでいる。したがって,「映像」にかかわる美的,な

いしは芸術的問題の考察をすすめるにあたっては,いずれにせよそこで使用する概念

を,ある程度までは前もって規定しておく必要があろう。19)

 本論で用いているイメージとは,主として視覚イメージであって,はじめに「そのとき イメージは心のなかにある,あるいは脳のなかにあるといえるかもしれないが,ともかく 現実の存在をともなっていない」と記したように,「心のなかに浮かぶ像」を指している。

いま「主として視覚イメージ」と断っておいたのは,造形に係わるイメージは視覚イメー ジだけともいいきれないからである。しかし,少なくとも本論を進めるにあたっては,そ うした厳密性を求めなくても差し支えないだろう。

 さて,イメージは心のなかの世界に存在するものといえ,また無形の存在ともいえる。

一方,エスキスやマケット,あるいは絵画や彫刻とよばれる最終的な作品は,実在の世界 に存在するものであり,有形の存在である。そこで,心のなかの世界を想像界とし,実在 の世界を実在界とよぶことにして,さらに造形過程の考察を進めていこう。

 先に「イメージが……エスキスとして定着され,そののち……絵画作品として再定着さ れる」と述べたが,じつは心的な活動がまったくないままに,エスキスとして実在してい るものが絵画作品へ移される(一般には拡大される)ということはきわめてまれであると

いえよう。20)そこで平面的な造形の過程を示した図2(b)は,想像界と実在界とのあいだを

イメージが移動し変化する過程として,図8(a)のように描きなおせるだろう。同じことは

立体的な造形の過程についてもいえ,したがって図5(c)は図8(b)のようになる。21)いま「イ

メージが移動し変化する」といったが,想像の世界にあるイメージが何の変化もなく実在

丁HE INTERACTION OF MIND AND HAND

lMAGING AND MODELLING  lNSIDE THE HEAD     ト既YIMPRESSION

一翻 羅、

CONFRON丁ING REALITY

OUTSlDE THE HEAD

〃羅畿

グ騰慰

銑騨

司圏■■■  噸■■■■  (■■■■  嘲■■■圏  司■■■■     口■■■幽 口■■■♪ ■■■騨D ■■■■) ■■■■ρ  ■圏■■

丁HE POTEN刊AL OF MORE DEVELOPEDTHINKING  τHE PO丁ENmAL OFMORE DEVELOPED SOLUr「10NS

図9 デザイン・プロセスにおける作業能力評価のモデル

(10)

化されるということはほとんどないと考えられるからである。もとのイメージが,それを 実在化したものとわずかでも異なるからこそ,制作者はエスキスやマケットというかたち で検討するのである。また,エスキスやマケットに基づいて最終的な作品をつくる過程を,

多くの制作者が自ら手がけるのも,同じ理由によるといえよう。

 ところで図9は,デザイン・プロセスにおける作業能力評価のモデルとして描かれたも のである。そこには,作業能力を心の働きと手の働きとの相互作用のなかにとちえようと

していることがよく示されており,想像界と実在界との係わりのなかに活動をとらえよう

とする考え方は本論と同じといえる。

(2)習作

 平面的な造形の過程と立体的な造形の過程とを統一的にとらえるようなモデルを考え出 すには,それぞれの過程を表わしている別々の用語を共通の用語に置き換えなければなら ない。まず平面作品や立体作品については,単に「作品」という語で包摂することができ よう。したがって問題は,エスキスやマケットをどのような語で包摂するのかということ

になる。

 ところで,習作という語は絵画に対しても彫刻に対しても用いられるが,その意味は,

絵画・彫刻・音楽・文学などで,練習のためにつくった作品。エチュード。

       『広辞苑 第四版』22)

文芸,絵画,彫刻,音楽などで,練習のために作品を作ること。また,その作品。エ

チュード。      『国語大辞典』23)

とある。こうした意味からは,習作はエスキスやマケットよりも最終的な作品に近いとい え,図式化すれば図10のようになるだろう。しかし実際に,絵画・彫刻といった造形分野

想像界

イメージ

イメージ

実在界

<(こめ

イメージ →  平面作品

想像界

イメージ

イメージ

イメージ

実在界

聴く三i)

ζ(乏)

<(こり

イメージ →  立体作品

(a)平面的な造形の過程 (b)立体的な造形の過程

図10 造形過程における「習作」の段階

(11)

造形基礎論ノート(3)造形過程のモデル 27

で「習作」とよばれているものを見てみると,いわゆる最終的な作品に比べて粗い描き方 やつくり方のものが多い。いま「習作」にあてられている英語「study」(フランス語では

「6tude」)の意味を見てみよう。造形分野における「study」は,

教育上の練習として,観察または効果のメモや記録として,あるいは最終的な作品の ための指針として制作されたもの。        『ランダムハウス英語辞典』24)

と記されている。これによれば,造形分野における「study」は最終的な作品となる以前の 段階を指していることは確かだが,その意味する範囲はエスキスやマケットといった段階 から最終的な作品の一歩手前の段階までかなり広いように思われる。この「study」のよう な意味で用いることのできる語があれば,平面的な造形の過程と立体的な造形の過程とを

統一的にとらえられることになる。

(3)原型

 先に要約した中原の評論(4(3)参照)のなかで興味を引くのは,彼が「原型」という語 を用いていることである。彼自身そのことに触れて,「『原型』という言葉を使ったけれど

も,美術作品の場合は,模型でなくて原型ということで済んでしまうかもしれない……」25)

と記している。中原が原型という語をどのような意味で用いたかについてはそれ以上の記 述がないので,一般的な意味で用いたと考えるほかないけれども,それでは,その一般的

な意味とは何だろうか。原型という語の意味は,

①鋳物(いもの)などのもとになる型。

②洋裁で平面製図の基礎となる型紙。

③[哲](Prototypusドイツ)自然哲学的な生物学において,生物の諸種の類群か

 ら抽象された,現存生物の根原となる型。ゲーテらが論じた。三型。

       『広辞苑 第四版』26)

① もとの型。

② 彫刻,鋳物などのもとになる型。油,土,石膏(せっこう)などで作る。

③洋裁などで,服を作るときに基本となる製図の型。

④書誌学で,本に関して,損傷などを受ける以前の形態をいう。

⑤生物学で,生物の諸種の発生的な類似から類推された現存生物の根源の型をいう。

⑥ 心理学で,表面にあらわれた現象の背後にあって,その現象を発生させるものを

 いう。      『国語大辞典』27)

でき上ったものの,もとになった型(かた)。

④鋳物などを作るもとになる型。

◎ 発生的に似ているものから抽象された類型。〉生物学・心理学で多く使う。「元

  型」とも書く。      『岩波国語辞典』28)

と説明されている。このように「原型」は「もとになる型」であることから,私は別の論

(12)

文でマケットの段階を原型の段階と見なした29)が,さらに,模型という語を包摂している,

あるいは包摂できると考えている。中原の「模型でなくて原型ということで済んでしまう かもしれない」という控えめな表現にはそういう意味も含まれていると受けとれなくもな

い。

 「原型」はマケットや模型の意味を含むととらえたが,加えて「原型」がエスキスの意味 も含むととらえるならば,「原型」は立体的と平面的とにかかわらず,造形における作品以 前の段階を示す語として用いることができる。ここで,いま記した「原型」の意味を見て みれば,「原型」が指し示す内容は抽象的であって,立体や平面の区別はないといえよう。

したがって「原型」はエスキスの意味も含むととらえることもできる。また習作も,最終 的な作品に近い段階とはいえ,その作品の前段階であることから,「原型」に包摂させるこ

とができるだろう。それゆえエスキスやマケットそして習作をも含んだ意味で「原型」を 用いると,平面的な造形の過程と立体的な造形の過程の統一的なモデルとして,図11に示 すようなモデルを呈示することができる。

 いま,ここに呈示したモデルは平面的な造形の過程と立体的な造形の過程の統一的なモ デル,いいかえれば一般的な造形過程のモデルであるとした。しかし,それを考察するに あたって伝統的な絵画や彫刻を例としてあげたように,一般的な造形とはいっても主とし て伝統的な絵画・彫刻やそれらの周辺であって,新しいアート(ハイ・テク・アートやヴ ィデオ・インスタレイションなど)をも視野に入れたものではない。ここに呈示したモデ ルがそうしたアートまでも包摂できるモデルなのかどうか,あるいは,包摂する新しいモ デルが呈示できるかどうかは,これからの課題である。

(4)イメージと原型の連関

 いま呈示した一般的な造形過程のモデルにもどれば,まず動機となるイメージがある。

そのイメージが実在化されて原型となる。次いで,その原型が新たなイメージを生む。そ して,そのイメージが実在化されて作品となるのである。そのような過程をモデルは示し ている。しかし,実際の造形過程というものはそれほど単純ではない,とだれしも思うだ

想像界

イメージ

イメージ

実在界

一(こiり

ζ(◎

想像界 実在界

イメ%一

イメ_

ュ(◎

    4

イメージα。一1→原型a。一1

イ一瞬ζ(唖)

図11 一般的な造形過程のモデル 図12 イメージと原型の連関

(13)

造形基礎論ノート(3)造形過程のモデル 29

ろう。しかし,それでは具体的に,何がどのように単純ではないのだろうか。

 ところでイメージについて,小町谷朝生は次のように述べている。

われわれの制作物や表現は,まずイメージに起源する。それらの制作には,直接の動 機となる必要性や目的が,まずイメージを結ばなければならない。そしてつくられた 制作物や表現は,次の新しいイメージを刺激するものとなる。このようにして,イメ

ージはすべての仕事の動因となり,また次の仕事を生む母胎ともなる。30)

 要するに「イメージがあって作品ができ,その作品がまた新しいイメージを生む」とい うことである。しかし,このようなイメージの連鎖的作用は,作品との関係だけでなく,

「原型」の段階においても二度三度と起こり,ときには幾度となく起こると私は考えてい

る。31)そうした原型段階におけるイメージの作用が,「実際の造形過程はそれほど単純では ない」という思いを生じさせると考えられるのである。このようなイメージ(α、,α、,…,

α。.、,碕)と原型(a、,a、,…, a。.、)の連関,その結果としての作品Aという流れを図式

化すれば,図12のようになるだろう。実際の造形行為において,エスキスを数多く描く,

マケットをいくつもつくる,習作を繰り返すといった過程がここに見えてくる。

1)下記のように美学上、表現という語が表出と再現とを合わせたものと解釈される場合もある。

 「……,芸術も(少くとも模倣芸術においては)内的主観的状態の表出とともに外的客観的対象の描写  あるいはこの意味における模倣をふくむものである。この模倣すなわち「再現」と、「表出」とをあわ せて邦語の「表現」をもって表示するならば、芸術創作の本質はかような表現の形成にあるといえよ  う。」竹内敏雄編『美学事典 増補版』(弘文堂,1974年)175ページより引用。

2)吉川弘之「モデル論」『グラフィケーションNo.1』(富士ゼロックス(株),1982年)18ページより引

 用。

3)同上,18ページより引用。

4)同上,20ページより引用。

5)隔∂吻湾7壁皿くセ卿1漉7ηα♂∫o鰯1Dガ6 加鍔(ゾ飾6翫91醜五απ9%㎎θ観α∂万㎏砿G.&C.

 Merriam Co.,1961, p.777より引用(著者訳)。

6)ibid., p.2132より引用(著者訳,「drawing」を線画とした)。

7)7〕肋1〜α鋸。吻Eb%s6 Dゴ。 加鍔げ伽翫g♂勅煙死8%㎎¢魏θσ襯∂7ゴ吻64 E陸路, Random  House,1966, p.1335より引用(著者訳,「painting」を彩画とした)。

8)織田芳人「多面体による造形制作(6)II−iii.原型のサイズ」『長崎大学教育学部人文科学研究報告』

 第38号(1989年)57ページを参照。

9)7勉R侃40甥∬o%sθ1万6 ガ。ηαηげ伽翫91嘱目劒9%㎎ζ伽砺α∂万㎏64E伽ゴ。η, Random  House,1966, p.874より引用(著者訳)。

10)晩∂8 θ7七:τ力翻く西伽加 6㍑α ガ。πα1D翅。ηαηqプ伽伽81納五αηg%㎎θ襯α∂万㎏θ4, G.&C.

 Merriam Co.,1961, p.1379より引用(著者訳)。

11)ヘンリー・ムーーア『ヘンリー・ムーア展』(東京新聞,1986年)76ページより引用(訳老不詳)。

(14)

12)ヘンリー・ムアの制作過程についての解説で,乙葉哲は「Working Model」を試作としている(ヘ  ンリー・ムーア『ヘンリー・ムーア展』(東京新聞,1986年)128ページを参照)。また後小路雅弘はヘ  ンリー・ムーアのファウンド・オブジェクトについての論文で,「Working Model」を制作原型として  いる(「Found Obj ect一ンリー・ムーアにおける自然と造形」九州藝術学会編『デ アルテ』第4  号(1988年)33ページを参照)。

13)アラン・ボーネス(後小路雅弘訳)「序文」『ヘンリー・ムーア展』(東京新聞,1986年)ユ8ページよ  り引用。

14)織田芳人「多面体による造形制作(6)II−iii.原型のサイズ」『長崎大学教育学部人文科学研究報告』

 第38号(1989年)55−56ページを参照。

15)新村出編『広辞苑 第四版』(岩波書店,1991年)2536ページより引用,用例省略。

16)尚学図書編『国語大辞典』(小学館,1981年)2338ページより引用,用例省略。

17)西尾実・他編『岩波国語辞典 第三版』(岩波書店,1979年)1088ページより引用,用例省略。

18)中原佑介「現代美術と模型」『グラフィケーションNo.1』(富士ゼロックス(株),1982年)26−28ペ  ージより,本論に係わる部分を著者が要約した。原文は,架空の人物AとBとの対話形式で記述されて  いる。

19)吉積健『メディア時代の芸術一芸術と日常のはざま』(勤草書房,1992年)149ページより引用。

20)まれな例としては,制作者が最終的な作品までは係わらない場合,いわゆる発注芸術のような場合な  どがあげられる。

21)ここに記した想像界と実在界との係わりから造形行為をとらえようとする考え方は,すでに下記の  論文において発表している。

 [1]織田芳人・竹林信雄「多面体による造形制作(4)II−ii.原型の有効性」『神戸犬学教育学部研究   集録』第70集(1983年)47−53ページ。

 [2]織田芳人「多面体による造形制作(5)III−ii.ソル・ルウィットの立体作品」『長崎大学教育学   部人文科学研究報告』第34号(1989年)39−50ページ。

22>新村出編『広辞苑 第四版』(岩波書店,1991年)1212ページより引用。

23)尚学図書編『国語大辞典』(小学館,1981年)1221ページより引用。

24)7物R侃40勉Ho%sεD∫6海。ηαη(ゾ巴町8 」納L侃g%㎎¢伽σ%妨嘱g顔E疏ゴ。π, Random  House,1966, p.1411より引用(著者訳)。

25)中原佑介「現代美術と模型」『グラフィケーションNo.1』(富士ゼロックス(株),1982年)27ページ  より引用。

26)新村出置『広辞苑 第四版』(岩波書店,1991年)823ページより引用。

27)尚学図書編『国語大辞典』(小学館,1981年)825ページより引用。

28)西尾実・他編『岩波国語辞典 第三版』(岩波書店,1979年)334ページより引用。

29)織田芳人「多面体による造形制作(6)II−iii.原型のサイズ」『長崎大学教育学部人文科学研究報告』

 第38号(1989年)56ページを参照。

30)小町谷朝生「1−1 イメージの起点」山本正男監修・小町谷朝生編『美術教育の実践一美術教育  学研究4』(玉川大学出版部,1985年)32ページより引用。

31)註21)に示した論文を参照。

(15)

造形基礎論ノート(3)造形過程のモデル 31

図版出典 図1 図2 図3 図4 図5 図6

著者作成 著者作成

『ホドラー展』(朝日新聞東京本社企画部,1975年)カタログNo.27,28(複写)

『ブリジット・ライリー展』(東京新聞,1980年)カタログNo.20,51(;複写)

著者作成

『ヘンリー・ムーア素描と彫刻展』(読売新聞社,1978年)カタログNo.165,『ヘンリー・ムーア   展』(東京新聞,1986年)カタログNo.30,46(複写)

図7 『ヘンリー・ムーア展』(東京新聞,1986年)カタログNo.58,59,62, d65(複写)

図8 著者作成

図9 Rogers, Maggie and Plaster, Jacky, Art Education in Initial Teacher Education:ANegoti−

  ated Education ∫o%吻認げ、4κ&P6s忽ηE4%ω 20%,13(2),1994, p.174(複写)

図10著者作成

図11著者作成

図12著者作成

参照

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