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─ ─ 訳者はしがき

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Academic year: 2021

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講 演

訳者はしがき

植 野 妙 実 子

 「現代議会制の比較法的研究」(2018年度まで代表は植野妙実子,現在代 表は佐藤信行)においては,2018年度,「憲法裁判の基礎理論」(代表は畑 尻剛)とともに「独仏日の憲法裁判─課題と展望」という研究テーマの 下に,共同研究助成を獲得して研究活動を行った。まず,2018年 ₇ 月24日 に,ドイツのフライブルク大学のマティアス・イェシュテット教授による

「憲法裁判所≠憲法裁判所:フランス憲法院とドイツ連邦憲法裁判所の比 較的な観察」をテーマとする講演が行われた。その折,日本比較法研究所 が,中央大学の協定校であるフランスのエックス・マルセイユ大学から招 聘した,グザヴィエ・マニョン教授が「フランスにおける憲法院及び憲法 裁判についての紹介」を寄稿し,コメンテーターとして参加した。その議 論の中で,マニョン教授は,フランスにおける憲法裁判導入の遅れの原因 として,絶対主義王政下の裁判官による政治や行政への介入,すなわち裁 判官政治に対する懸念があったことが大きかったと説明した。

 グザヴィエ・マニョン教授は,40歳代後半の新進気鋭の憲法学者であ り,保守色の強いエックス・マルセイユ大学の公法学において,新しい風 を吹き込んでいる存在といえる。憲法院・憲法裁判の研究の第一人者であ り,現在ルイ・ファヴォルー研究所の研究所長として,憲法裁判比較国際 学会を主催している。

 さらに ₇ 月25日は,グザヴィエ・マニョン教授が「フランスの事後的違 憲審査制─その特異な『先決』問題解決のあり方」をテーマに講演を行

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比較法雑誌第53巻第 ₂ 号(2019)

事後的違憲審査制の実際と課題,展望について議論された。事後的違憲審 査制と事前的違憲審査制にはそれぞれの役割があり,双方に存在意義があ るとのマニョン教授による指摘があった。

 同共同研究において,「現代議会制の比較法的研究」は,12月12日にフ ランスのポー大学からユーベール・アルカラス講師を招聘して「フランス における合憲性優先問題

QPC

の動向」をテーマに講演も開催している。

この内容に関しては次号に掲載予定である。

 ユーベール・アルカラス講師は,グザヴィエ・マニョン教授と同様に,

エックス・マルセイユ大学法学部のルイ・ファヴォルー教授の弟子筋にあ たり,将来を嘱望されている研究者である。憲法裁判研究の専門家でもあ るが,とりわけ,同性婚を含む「結婚の自由」という今日的問題の研究者 でもある。講演後の議論において,アルカラス講師が,確かにフランスの 合憲性審査は抽象審査であるが,個々の裁判官の頭の中では,具体的な事 例に照らして考えており,その意味では具体的審査の側面ももっている,

と指摘していたことが印象的であった。

 ここでは ₇ 月24日及び25日に行われたグザヴィエ・マニョン教授のコメ ントと論文の翻訳を掲載した。なお,フランスの憲法裁判に関連するもの として,次の四つの本があるので紹介しておきたい。

植野妙実子編『フランス憲法と統治構造』中央大学出版部2011年 植野妙実子『フランスにおける憲法裁判』中央大学出版部2015年 ベルトラン・マチュー著・植野妙実子=兼頭ゆみ子訳『フランスにおけ

る事後的違憲審査制』日本評論社2015年

ルイ・ファヴォルー著・植野妙実子監訳『法にとらわれる政治』中央大 学出版部2016年

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フランスにおける憲法院及び 憲法裁判についての紹介

Présentation du Conseil constitutionnel et de la justice constitutionnelle en France

グザヴィエ・マニョン

訳 

植 野 妙 実 子

**

 フランスにおいて憲法裁判の出現は,奇跡のようなもの,より正確にい えば,偶発性の連続の結果ともいえる。実際,その源は1958年の憲法制定 に㴑るが,その憲法制定者たちの意図は,憲法院の役割として議会の「番 犬」であることを委ねただけであった。憲法裁判の効果

vertus

に賛同す るというよりも,議会が,憲法により議会に与えられたその役割から逸脱 することがないように監視することを考えた。さらに,憲法院は,「院」

でしかない,憲法「裁判所」ではないということが問題としてとりあげら れていた。

 その点から,1789年人及び市民の権利宣言及び1946年10月27日憲法前 文,これら二つの法文は,フランス憲法史における基本的権利の確立に貢 献するものであるが,これらの法文は,当初は法律の合憲性審査の根拠規 範ではなかった。少なくともいかなる憲法的価値もこれらの法文には与え られていなかったために,憲法前文におかれ,示されたのである。

 憲法制定の準備作業における,より詳しくは『憲法制定史のための文

 エックス・マルセイユ大学教授  Xavier Magnon

 Professeur de lʼUniversité dʼAix-Marseille

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比較法雑誌第53巻第 ₂ 号(2019)

書』1)における,1789年宣言及び1946年憲法前文への言及をしたことにつ いての議論の紹介がある。ヴァン=グラフェシュプ氏により提案された修 正,憲法自身の中で前文への言及をすべきだとの考えは採用されなかった が,政府委員レイモン・ジャノ2)は,次のように答えている。「あなたた ちが前文を参照するときから,あなたたちはそれらに憲法的価値を与える ことになるのです。現在の判例においては,1789年宣言も1946年憲法前文 も憲法的価値をもっていません。憲法的価値は,憲法院を戧設したときか ら,現実のものとなるのであり,その前にはかなりの困難が立ち塞がって いるといえます。つまりそれはあなたたちの多くがおそれているところの 裁判官政治に広い範囲において向かうのではないかというものです」( ₂ 巻254頁)。1789年宣言や1946年憲法前文に憲法的価値を認めることを拒む ことは,憲法院の設置,そして憲法院に委ねられた役割と結びついていた のである。

 第五共和制の前の二つの共和制における政治体制を反省して,合理化さ れた議会主義の下で議会の「番犬」として存在することが,憲法制定者た ちが考えた憲法院に属する役割であった。憲法院に認められた立法府の枠 づけの任務は,次の二つの方法として具体化されている。

 一つは,憲法に定められた三つの手続によるものである。それは憲法院 が,憲法34条と37条により定められた法律と命令の管轄の尊重を確認する ことであり,憲法41条,61条 ₂ 項,37条 ₂ 項の手続によるものである。憲 法院は,憲法により立法府に帰属するとされた権限の管轄を立法府が逸脱 していないかを確認することができ,34条により定められた立法府に限定 的にあてられた事項のリストを確認することができる立場にある。

1) Documents pour server à lʼhistoire de lʼélaboration de la Constitution du 4 oc- tobre 1958, Documentation française, 1991.

2) レイモン・ジャノ(1917─2000)は,第二次世界大戦中にドイツに捕まるも 脱獄し,レジスタンス運動に従事した。1958年の第五共和制憲法の起草には,

二つのグループが携わった。そのうちの第二段階でのグループはド・ゴール直 属のグループで,ルネ・カッサンとレイモン・ジャノが率いていた。

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 もう一つは,組織法と議院規則の憲法院の義務的審査によるものであ る。前者については,この審査を経なければ,組織法は完全なものとはみ なされない。後者については,憲法の明文化や活用において,議院の過剰 な憲法上の権力行使を避けるために設けられたものである。

 議会はこのように,憲法34条により議会に属するとされた領域からでる ことができないばかりでなく,第三共和制や第四共和制の下であったよう な議院規則の採択により,あるいは組織法の場合も同様であるが,憲法上 の原則を回避することはできないこととなった。

 さらに二つの出来事が,元々の憲法制定者たちの予想を裏切ることとな り,変化が生じた。一つは,審査の準拠規範の拡大であり,もう一つは,

61条 ₂ 項の枠内での憲法院への議員の提訴の開始である。

 1971年 ₇ 月16日にもたらされた憲法院のいわば基本となる判決は,結社 の自由についてのものであるが,1958年10月 ₄ 日憲法前文の憲法的価値を 承認することで,法律の合憲性審査の準拠規範としての拡大を示した。前 文における二つの法文,1789年宣言と1946年憲法前文は,元々は参照され るものとしておかれていた。立法府はそれ以降,憲法裁判官の統制を受 け,これらの法文により承認された基本的権利の尊重の下におかれること になった。憲法院は立法府に対して,基本的権利の保護者となったのであ る。また,これら二つの法文に,不文の原則の総体というカテゴリーを加 える必要があるが,その存在は1946年憲法前文の中ですでに承認されてい た。すなわち,共和国の諸法律によって承認された基本原理というのがそ れである。さらに2005年 ₃ 月 ₁ 日の憲法改正により,環境憲章も付加され ている。

 ヴァレリー・ジスカールデスタンの主導により導入された1974年10月29 日の憲法改正により,憲法61条 ₂ 項の枠組の中で,憲法院への付託が60名 の国民議会(下院)議員,60名のセナ(上院)議員へと拡げられた。この 付託権者の拡大は,反対派の権利拡大へとつながるものとなり,憲法院へ

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比較法雑誌第53巻第 ₂ 号(2019)

正が生じさせた変化の重大さは当時まだ認識できてはいなかったが,それ でもモーリス・デュベルジェは,「民主主義のかけら」と呼んでいた(ル モンド紙,1974年10月11日)。実際には,憲法院は1971年 ₇ 月16日までに,

44件の判決を下しており,それは憲法施行後12年間で ₁ 年 ₄ 件以内の割合 であった。しかし,2018年までには763件にのぼり,1971年から2018年に かけては ₁ 年15件の判決を出し,1975年から2018年にかけては ₁ 年16件の 判決をだすにいたっている。

 したがって,フランスにおいては,70年代半ばまで,憲法裁判の発達を 待たなければならなかったが,そこには,質的には1971年の判決による基 本権の保護者としての憲法院の存在と,量的には1974年の憲法改正による 提訴権者の拡大という独自の条件があった。さらに,2008年 ₇ 月23日の憲 法改正による合憲性優先問題の設置により憲法裁判の完成をみることにな る。

 1958年10月 ₄ 日憲法においては,憲法院の権限は,次の四つの分野に分 けられる。選挙に関わる評議

consultations,管轄の配分,適合性審査そし

て諮問的権限である。

 選挙に関わる評議は,全体として広い権限をもっている。憲法院は,国 家の政治的選挙,すなわち議員,大統領,レフェレンダム(議員に関する 59条,大統領に関する58条,レフェレンダムに関する60条)の適法性,適 切性を審査する権限をもつ。その延長上として,これらの各種の選挙の準 備となる活動も審査するための権限をもつ(議員については1981年 ₆ 月11 日のデルマス判決3),大統領については2001年 ₃ 月14日のハッシュメイユ 判決4), レフェレンダムについても2000年 ₇ 月25日のハッシュメイユ判

3) デルマス判決は,憲法院が投票前の選挙問題についても自らに管轄があるこ とを認めたものである。ルイ・ファヴォルー=植野妙実子監訳『法にとらわれ る政治』中央大学出版部,2016年,168頁参照。

4) このハッシュメイユ判決は,大統領選挙に関する法律の適用についてのデク レの合法性審査を自らの管轄として認めたものである。Thierry S. RENOUX et alii, Code constitutionnel, LexisNexis, 2016, p. 914.

(7)

5)がある)。

 憲法院は, 同様に, 大統領選挙の候補者リストについても審査する

(1964年 ₃ 月14日デクレ ₇ 条)。憲法院はこれらのさまざまな選挙の適法性 訴訟において通常裁判所としてふるまう。法律の適法性の裁判をするので はなく,法律の適用を審査するのである。付託は広く開かれている。とい うのも,すべての選挙人が,適法性の評価が問題となった選挙のあり方を 確認するために憲法院に付託することができるからである。選挙に関わる 評議においては,憲法院は議員の失職(選挙法典

LO136条,任期中に被

選挙資格がないことも問える),議員の被選挙資格がないこと(選挙法典

LO160条)を宣言する。また議員の職にあるときに何らかの任務につく兼

職禁止にあたらないかも検討する(選挙法典

LO151条)。職権で議員の辞

任も確認する(選挙法典

LO136─₁条)。大統領選挙やレフェレンダムの施

行の結果を宣言する(憲法58条,60条)。レフェレンダムの施行について 政府により諮問を受けることがある(1958年11月 ₇ 日オルドナンス46条)。

 最後に憲法院は,選挙運動の収支について判断する。国民議会議員につ いては,選挙運動,収支の審査に関連する権限を行使する中で,選挙運動 収支及び政治資金に関する国家委員会が提訴する(選挙法典

LO136─₁条)。

大統領選挙については,候補者の選挙運動に対して提訴があったあとで委 員会はその収支を承認する,退ける,あるいは修正するが,候補者にとっ ては,この委員会の決定に対して憲法院へ訴訟として提訴することができ る(1988年に採用され,最後には2006年に改正された。普通選挙として行 われる共和国大統領の選挙に関する1962年11月 ₆ 日法の ₃ 編 ₃ 条)。

 また憲法院は,管轄の領域の尊重を保障する権限を有する。まず,法律 と命令の間のそれぞれの管轄の領域の尊重の問題があり,これはそもそも 憲法院の戧設にいたった理由でもあった。憲法41条及び37条 ₂ 項の手続に 関するものである。次に,比較的新しい憲法院の権限として,地方分権に 5) このハッシュメイユ判決においては,憲法院は「憲法60条により委ねられた

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比較法雑誌第53巻第 ₂ 号(2019)

ついての2003年 ₃ 月28日の憲法改正の結果生じた権限がある。憲法院は,

憲法74条 ₉ 項及び組織法に基づいて,自主権を与えられた海外地方公共団 体に,組織法により留保された管轄の領域の中で当該地方公共団体が活動 しているかを確認するために提訴を受ける(地位の採択に関する法律)。

 適法性の審査は主要な二つの領域と,質的にと同時に量的により付随的 な二つの領域について行われる。前者の二つの領域は,法律の合憲性審査 についてのものであり,事前審査もしくは事後審査として行われる。事後 審査は,合憲性優先問題として先決的方法で行われるものである(憲法 61─₁条)。この事後審査については,別稿において解説する。事前審査は,

組織法と議院規則については,義務的なものとして必ず行われる(憲法61 条 ₁ 項)が,国際条約は任意的なものとして行われ(憲法54条),法律に 対しても任意的なものとして行われる(憲法61条 ₂ 項)。任意的な方法に よる審査は,共和国大統領,首相,セナ議長,国民議会議長,もしくは60 名のセナ議員,60名の国民議会議員によって行われる。この事前審査は,

訴えによる抽象審査であるが,法律の場合は,その公布前,国際条約の場 合はその批准前に行われる。後者のその他の二つの領域についての審査 は,前者の領域のいわば周辺にあるものについての適法性審査であり,環 境アセスメントに関する組織法により示された要求による法律案による尊 重に関するもの(憲法34─₁条・39条・44条の適用に関する2009年 ₄ 月15日 組織法),及び憲法11条により定められた,議員のイニシアティブによる レフェレンダムの活用についての要求による尊重に関するもの(憲法11条 の適用に関する2013年12月 ₆ 日の組織法)がある。

 最後に,憲法院は,諮問的権限をもつ。そこで憲法院は,憲法16条の適 用の場合に,2008年 ₇ 月23日の憲法改正でもたらされたさまざまな態様に よって諮問を受ける。また,共和国大統領の権限停止(権限停止の宣言 1974年 ₄ 月 ₃ 日)や職務行使の障碍(憲法 ₇ 条)を確認する。

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