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はじめに

戦後の高度成長期以前は身近に少なくとも現在より豊 かな自然があり、田舎では子どもたちは里山やその周辺 でよく遊んでいた。その後の開発によって身近な自然環 境は減少し、加えて核家族化、高学歴化、及びスポーツ クラブや習い事が一般化し、子どもを取り巻く環境は大 きく変化した。1989 年、文部省は、幼稚園教育要領に「環 境」領域を導入し、幼児教育に自然を含めた身の回りの 環境が重要であることを提示し、中央教育審議会答申

1

などを通して自然体験の重要性を唱え体験活動を推進し てきた。

自然体験の実態をみると、保育園児が家庭で飼ったり 捕まえたりしたことのある生き物は、カブトムシ、キン ギョ、クワガタ、ザリガニ、バッタで、ダンゴムシやミ ミズは少なく

1

。幼稚園児でも「木に登った」、「花の蜜 を吸う」割合は 30%未満であった

2

。谷村(2005)

3

は、

1991 年と 2001 年の 2 回にわたり動植物に対する体験や 認識を小学生で調べた結果、採集経験率、及び名前の認 識度は 2001 年の方が低下したと報告している。このよ うに、子どもが自然とかかわる状況はより厳しくなって おり、自然体験不足は今後も進行すると推測される。

自然体験が生命認識や生物概念の発達を促した報告は 多くみられる。自然体験は、「自然や動植物に関する知 識や理解」ともっとも強い相関がみられ

、金魚の飼育 の経験がカエルの理解にも援用された

。幼児がムシを 飼育すると動物の生命の概念の発達や思いやりのある言 葉が観察され

、幼児がエダマメの根や双葉の発生過程

で生命を認識した

。Klemmer ら(2005)

は、栽培学 習経験者の方が未経験者よりも理科の試験の得点が明ら かに高かったと報告している。

生命認識や生物概念以外では、保育所での栽培経験に より保育指針の 5 領域「健康」、 「人間関係」、 「環境」、 「言 葉」、「表現」のすべてにおいて園児によい影響がみられ た報告

、ビオトープでの遊びによって、子どもが「自 立的になる」「持続力がつく」「造形場面での自己主張が 強まる」などを観察し

10

、学習者が主体的に動くことで 疑問や不思議と思う気持ちがわき、ひいては学習意欲に つながり、その学習効果は、「仲間とのコミュニケーシ ョン」で醸成され、聴覚、視覚など五感を使った活動が 森の生物や仲間との「共生」を理解することにつながっ た報告

11

がある。

共同作業の効果は、小学校で農業体験の班学習により

「われわれ集団」が形成され、班長の自覚、作業の認識、

栽培植物への愛着がみられ

12

、1 年間にわたるグループ の農業体験学習で自己認識の値が体験前より有意に上昇 した

13

また、野外体験、調理体験、工作体験が豊かなほど負 けず嫌いで、積極的に班長やリーダーを引き受け、何か をするときに自分が中心となって決定し、ものごとの計 画や準備などをすすめることを好む傾向は高くなった

14

。 長期の自然体験活動に参加した者のいのちの大切さ、自 然に対する感性、達成意欲は、活動終了後に向上し

15

、 問題解決力は、自然体験が豊富な方が高く

16

、少なから ず自立性にも影響を及ぼした

17

。日常において遊びや体 験活動の機会の多い子どもほど事後に変容をみせ、豊か

高校生の幼少期の自然体験と現在の社会性

山 本 俊 光 

(三井中央高等学校)

1 自然体験と社会性の育成について述べた 2006 年中央教育審議会の中間まとめの主な部分(p37 ~ 39)を記す。自然体験の多い青少年の 中には、道徳観・正義感があり学習意欲・課題解決意欲の高い青少年の多いことや、集団による長期キャンプは、積極性や協調性を高め判断 能力を育てるといった社会性の育成に効果の高いことが明らかとなっている。これは、自然という、人間が完全にはコントロールできない環 境の下で、仲間や指導者に支えられながら一緒にさまざまな課題や困難に立ち向かう中で、社会性は育成されていくものであるためと考えら れている。

(2)

な経験の蓄積が、情操や情意面の発達に大きく関与した 報告

18

がある。

このように、自然体験と子どもの発達との関係につい て多方面にわたる報告がみられ、その効果は体験の継続 性に影響を受けると考えられている。

都市部ばかりでなく、自然の豊かな地域でも子どもの 自然とのかかわりが減少している現状

19

を考え合わせ ると、現代の子どもは、自然とのかかわりばかりでなく、

人間とのかかわりも薄れてきていると推察される。

1980 年以降、急速に増加しはじめた不登校のおもな 原因の一つは、友達や先生との問題

20

であり、いじめ は人間性と深く結びついている

21

。不登校やいじめにみ られる「関係喪失」は、現代人の大きい問題

22

である。

ゴールマン(D.Goleman)(1996)

23

は、人間社会をう まくやっていくために重要なのは、集団に近づいていく ときに情動のメッセージや人間関係のサインに気づき、

解釈し、反応できる能力であるという。サル社会では集 団生活をして子どもたちは群れて遊ぶ中で関係の構築の 仕方を身につけていく

24

。人間同士の関わりにおいても、

非常に小さい時期から学習していく必要がある

25

。この ように、仲間つくりは本能ではなくて生まれたときから の学習によってその能力を培うのである。

また、人が生きていくためにはお互いに助け合わな くてはならない。その結果として利己的ばかりでは ない利他性をもつ社会が存在する。アイゼンバーグ

(Eisenberg,N)・マッセン(Mussen,P.H)(1991)

26

は、向 社会的行動(prosocial behavior)を「他人あるいは他の人々 の集団を助けようとしたり、こうした人々のためになる ことをしようとしたりする自発的な行為のこと」と定義 するが、利他性を向社会的行動の一つの特殊なタイプと し、価値や自己報酬といった内発的な要因に動機づけら れた行為と捉えている。

向社会的行動が引き起こされるプロセスには状況の 認知、意思決定、行動の段階があり、認知と意思決定 を媒介する要因として、相手の感情や行動の予測に かかわる共感(empathy)や役割取得が考えられる

27

。 M.L. ホフマン(2001)

28

は、共感を「自分自身よりも 他人の置かれた状況に適した感情的反応」と定義し、

共感は他人に対する人間的関心の芽生えであり、社会 生活を可能にする接着剤であるとする。菊池(1988)

29

は、対人関係を円滑に運ぶためには技術(スキル)も 関係すると述べている。

このように、共感や役割取得など相手を理解しようと する心を育み、より社会的な行動とみられる向社会的行 動を表現、及び表現できるスキルを身につけることは、

よりよい社会生活には必要と考えられている。

以上のような社会性(共感及び社会的スキル)の獲得 に前述した幼児や児童期(以後幼少期という)の自然体 験が関連しているかについて成長後に調査した報告はほ

とんどみあたらない。そこで、大学生を対象に上記の点 を検証した。以下に修士論文

30

の概要を記す。

大学生の幼少期の居住環境では住宅地が 68%ともっ とも多く、公園で遊んだ人は 75%、山や川など自然が 豊富な場所で遊んだ人は 35%以下であった。自然体験 の種類は人によって偏りがあり、クラスター分析により 体験が乏しいグループから体験が豊かなグループまで4 つのグループに分類された。中学生以降は、どのグルー プも体験量は減少するものの、幼少期と同様な傾向の体 験を行っていた。

「自然体験を豊富に経験」した大学生は、家庭で学業 や行動を干渉されず、よく受容され、自分の考えで行動 するように諭され、手伝いを行い、美術館や観察会に連 れて行ってもらうような養育をされた者に多かった。と くに、美術館や観察会に連れて行くような教育的配慮を する家庭が、 「自然体験の豊富」な学生の 74%を占めた。

自然体験と社会性との関係では、「草花遊びや野山遊 びをよくした」グループと、「自然体験の豊富」なグル ープに、「想像力」の豊かな人が多かった。一方、養育 態度との関係では、「美術館や観察会に連れて行っても らった」グループに共感の下位尺度「共感的配慮」や「視 点取得」、社会的スキルの下位尺度「問題解決」や「ト ラブル処理」の平均値は有意に高かった。

このように、社会性の育成に親の養育態度の強い影響 がみられ、養育態度は自然体験とも密接な関係にあった。

自然体験による社会性の発達をみるには、養育態度の関 与を考慮しなければならないことがわかった。言い換え ると、幼少期の自然体験は親の養育態度が深く関わって おり、また親の養育態度は大学生の共感や社会的スキル にも影響していた。

本報告では、比較的恵まれていると考えられる大学生 に対して、学力格差が著しい高校生における幼少期の自 然体験と高校生の社会性、自然体験と親の養育態度、親 の養育態度と社会性の関係について解析し、高校間で差 異がみられるかどうかを調べた。

1.調 査 方 法

     

2011 年 10 月及び 12 月に福岡県内の 3 校の高等学校 にアンケート調査を依頼し、2 週間後に回収した。回答 人数の多かった順に A 校、B 校、C 校とする。2012 年 度の A 校の四年制大学に合格した者の割合は約 15%で、

B 校は約 40%、C 校は約半数の者が国公立の四年制大 学に合格した。学力水準からみると C 校が最も高く、A 校が最も低いといえよう。

男子生徒の人数が少なかったこと、及び大学生の調 査で自然体験に性差がみられた

31

ことから、女子生徒 について解析した。内訳は、A 校 126 名(2 年生 99 名、

3年生 27 名、回答率 97%)、B校 49 名(すべて 1 年生、

(3)

回答率 100%)、C校 25 名(すべて 1 年生、回答率 100%)

の合計 200 名であった。

調査項目は、幼少期の自然体験の頻度、幼少期の親の 養育態度、調査時点での共感と社会的スキルを測る設問 である。設問はいずれも 4 件法で行い、「まったくない:

1 点」、「あまりない:2 点」、「ときどきある:3 点」、「よ くある:4 点」とし、逆転項目については得点を逆にし て数的処理をした。以下に詳細に説明する。

園児にとっての自然は、遊びと生活という形態を通し て体得される自然の事象及び生態など環境全体

32

といわ れる。そこで、本報告では自然体験を遊び及び生活のな かで体験する自然とふれあう活動すべてとし、自然体験 の項目は、海津ら(1997)

33

の調査を参考に遊び及び飼育、

植物の栽培からなる 13 項目とした。親の態度では「愛情」

と「干渉」

34

に社会的スキルに影響を与えるとみられる 親のソーシャルサポート

35

を合わせて作成した 15 項目 とした。共感では、日本語版多次元共感測定尺度(Davis

(1983)IRI の日本語版)

36

4 下位尺度全 28 項目のうち予 備調査のうえそれぞれ 2 項目を除いた全 20 項目につい て調査した。社会で円滑な関係を築くための技能は、対 人的技能、あるいは社会的スキルとよばれる。本報告で は、 Kikuchi's Scale of Social Skills : 18 items(Kiss-18 と称 する)

37

3 下位尺度全 18 項目のうち予備調査のうえ 17 項目について調査した。

親の養育態度及び共感、社会的スキルの分析には 2008 年 5 月に調査を行った女子大学生 263 名を加えて 因子分析(主因子法、Promax 法)を行い、固有値 1 以 上を基準にして因子を抽出した。その因子の負荷量が 0.40 以上の項目によって下位尺度項目を構成し、下位 尺度の内的整合性の検討のために信頼度係数(Cronbach のα係数)を求めた。各尺度の下位尺度名は、桜井(1988)、

菊池(2007)の結果と照らし合わせ、それぞれ相応した 命名を行った。下位尺度の因子得点を用いてグループ間 の平均値の差の検定、及び相関で検討した。統計処理は SPSS で行った。

2.結 果 と 考 察

1.幼少期の自然体験

女子高校生の幼少期の居住環境は、女子大 学生の場合

38

と同様に、住宅地がもっとも多 く 143 名(72%)、つぎは農山村で 53 名(27%)、

合計 196 名(99%)を占めた。漁村や商業・

工業地域は各 1 名(0.5%)であった。詳細 には住宅地の割合が最も高かったのは C 校で 92%、最も低かったのは B 校の 62%、A 校 は 72%であった。学校間の差は 1%水準で有 意であった。

自然体験 13 項目の体験頻度を「まったくない」+「ま れにした」グループ、「ときどきした」+「よくした」

の 2 グループに分け、χ二乗検定を行ったところ、いず れの体験も 3 校間で大きな差はみられなかった(第1 表)。全体で体験率の高い体験は、 「ままごと・かくれんぼ」

(94%)で、つぎは野山遊び(62%)であった。3 校を 比較すると、A 校では「哺乳類の飼育」が 59%と最も 高く、 「植物の栽培」 「ハイキング・登山」は最も低かった。

B 校では、「クラフト」が 51%と最も高かった。C 校で は「植物の栽培」「ハイキング・登山」は他校より 10%

以上高く、「草花遊び」「哺乳類の飼育」「魚釣り・ザリ ガニ採りなど沢遊び」は最も低かった。女子大学生と比 べて、女子高校生の「草花遊び」「植物の栽培」「魚釣り・

沢遊び」「キャンプ」は 10%以上低かった。

女子大学生と比べて低かった体験はそれぞれの高校 の生徒の事情が影響しているとみられる。C 校の生徒の 92%が住宅地に暮らしており、「草花遊び」や「魚釣り・

沢遊び」を行える環境が乏しく、「哺乳類の飼育」も住 宅事情の制約があったと推察される。山本の報告(2012)

39

では農山村で育った子どもの自然体験率は高かったこ とから、B 校において他校より体験率がとても低い自然 体験がみられなかったのは、3 校の中で農山村の割合が 最も高かったことによると考えられる。

C 校では、ほとんどが住宅地に住んでいるにもかかわ らず「栽培」「ハイキング・登山」は他校より 10%以上 高かった。C 校の生徒の居住環境から制約を受ける自然 体験もあったが、全体として C 校の自然体験は低いと はいえない。一方、A 校では「植物の栽培」 「ハイキング・

登山」の体験率が最も低かったことをふまえると、C 校 の生徒には自然体験を体験する環境があった、すなわち 親など大人が子どもの自然体験を支えていたと推察され る。反対に A 校では「植物の栽培」「ハイキング・登山」

を共に行う大人が多くはなかったと考えられる。

高校生の自然体験の多少を、自然体験の総得点から 3

第1表 . 女子大生と女子高校生の自然体験(%) .

自然体験 女子

大学生 女子

高校生 A 校 B 校 C 校 ままごと・かくれんぼ

野山遊び

ごっこ遊び・基地つくり 草花遊び

哺乳類の飼育

昆虫・哺乳類以外の飼育 クラフト

植物の栽培 昆虫採集 昆虫の飼育

魚釣り・ザリガニ採りなど沢遊び ハイキング・登山

キャンプ

90 57 63 67 50 42 32 51 40 22 38 33 34

94 62 57 54 53 47 40 36 35 30 28 25 20

93 60 56 54 59 48 36 33 35 29 29 18 18

94 63 59 59 47 46 51 35 35 33 32 31 25

100 68 56 44 36 48 36 48 32 32 12 44 24

人数 263 200 126 49 25

(4)

グループ、すなわち下位 3 の 1 を体験の少ないグループ、

中位 3 分の 1 を中くらいのグループ、上位 3 分の 1 を多 いグループとして表し、学校間で体験の差がみられたか どうかをχ二乗検定で調べたところ、自然体験の少ない グループに A 校の生徒が多く、自然体験の多いグルー プに C 校及び B 校が多く、学校間に 1%水準の有意な 差がみられた(第2表)。B 校、C 校の自然体験に比べ て A 校が少ないことが確かめられた。

つぎに、自然体験がどのような関連で体験されていた かについて、自然体験間の相関をみたところ、どちらを 独立変数にしても有意な相関がみられたのは、「野山遊 び」と「ごっこ遊び・基地つくり」、「野山遊び」と「昆 虫採集」、 「ごっこ遊び・基地作り」と「昆虫の飼育」、 「ご っこ遊び・基地作り」と「昆虫採集」、 「昆虫の飼育」と「魚 釣り・沢遊び」、 「昆虫の飼育」と「昆虫採集」、 「昆虫採集」

と「魚釣り・沢遊び」、「昆虫の飼育」と「哺乳類・昆虫 以外の生物の飼育」、「野山遊び」と「草花遊び」、「草花 遊び」と「栽培」、「野山遊び」と「クラフト」、「クラフ ト」と「ハイキング」、「ハイキング」と「キャンプ」間 であった(第1図)。

そのほか、「ままごと・かくれんぼ」と「ごっこ遊び・

基地つくり」、「栽培」と「野山遊び」、「哺乳類・昆虫以 外の生物の飼育」と「野山遊び」、「哺乳類・昆虫以外の 生物の飼育」と「ハイキング」、「ハイキング」と「昆虫 の飼育」、「魚釣り・沢遊び」と「ハイキング」、「栽培」

と「ハイキング」、「キャンプ」と「クラフト」間にも有 意な相関がみられた。

以上をまとめると、調査項目は大きく 2 つのグループ、

すなわち「野山遊び」から「昆虫採集」「ごっこ遊び・

基地つくり」「昆虫の飼育」「魚釣り・沢遊び」「哺乳類・

昆虫以外の生物の飼育」のグループと、「野山遊び」か ら「草花遊び」「栽培」「ハイキング」「キャンプ」「クラ フト」のグループに分けられた。これらのグループを結 んでいる体験は「野山遊び」と「哺乳類・昆虫以外の生 物の飼育」「ハイキング」である。

大学生の調査

40

では、「ハイキング」は「野山遊び」

及び「栽培」とだけ関連した日常の自然体験とは異なっ た体験と解釈された。本調査では、 「ハイキング」は、 「昆 虫の飼育」及び「哺乳類・昆虫以外の生物の飼育」、その 他の日常的な自然体験とも関連しており、大学生とは異 なる結果となった。そこで、女子高校生の自然体験の関 連性を高校別に調べたところ、C 校において「ハイキング」

は、 「草花遊び」「ごっこ遊び・基地つくり」「野山遊び」「昆 虫の飼育」 「クラフト」 「キャンプ」 「ままごと、かくれんぼ」

などと関連がみられた。このことが「ハイキング」が他 のさまざまな自然体験と関連性をもつ要因になったと考 えられる。つまり、ほとんどが住宅地に居住していた C 校の生徒たちのなかで「ハイキング」を体験した生徒は その他の自然体験も多かったと考えられる。

また、大学生の調査

41

と同様に本調査でも「哺乳類の 飼育」は他の自然体験と関連がみられなかった。「哺乳 類の飼育」は、大学生の場合と同様に哺乳類をペット(愛 玩物)として飼育した人が多かったと推察され、そのこ とが他の自然体験との関連を小さくしたと考えられる。

3.幼少期の自然体験、親の養育態度及び 社会性の関係

1)親の養育態度

(1)親の養育態度の因子分析

幼少期の親の養育態度の検討のために女子大学生及び 女子高校生について因子分析を行い、項目の因子負荷量 が、0.40 以下、及びα値を下げていた 2 項目を除外し、

14 項目について再度、同様の因子分析を行い、固有値 の減衰状況、解釈のしやすさ、項目内容から、4 因子が 抽出された。抽出された因子と、それに含まれる項目、

負荷量、α係数、因子間相関をまとめたものが、第3表 である。

第Ⅰ因子は 5 項目、「わたしが困ったとき、母親は 助けてくれた(くれると思う)(0.74)」、「家の人はあ なたの話をよく聞いてくれた(0.69)」、「家の人はあな たがすることを認めてくれていた(0.68)」、「家の人は 自分を楽しませるようなことをいろいろ考えてくれた

(0.62)」、 「わたしが困ったとき、父親は助けてくれた(く 第1図 . 女子高校生が体験した自然体験の相関関係 .

     (矢印の向きは関連する相手を示す)

▲ ▲

▲ ▲

▲ ▲

▲ ▲

▲ ▲

▲ ▲

哺乳類の 飼育

野山遊び

クラフト 草花

遊び

キャンプ ごっこ遊び・

基地つくり

栽培 ままごと・

かくれんぼ

哺乳類・昆虫 以外の生物の

飼育

昆虫

採集 昆虫の飼育

魚釣り 沢遊び

ハイキング

▲▲

第2表 . 自然体験の多少と学校間の差 .

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(5)

れると思う)(0.57)」 であった。親のサポートや受容に 関する項目であり、「受容とサポート」と名付けた。

第Ⅱ因子は 3 項目、「家の人が美術館や博物館に連れ て行ってくれた(0.84)」、「家の人が観察会や科学館な どの催しに連れて行ってくれた(0.76)」、「家の人は小 学校に入るくらいまで本を読んでくれた(0.54)」、であ った。家庭で本の読み聞かせや社会教育の場に参加する 項目で、「楽しませる態度」とした。

第Ⅲ因子は 3 項目、「家の人からよい成績をとるよう に言われた(0.75)」、「家の人から「あれはだめ」「これ はいけない」と禁止されることが多かった(0.61)」、 「家 の人から将来大学に進学するように言われた(0.61)」、

であった。学業への干渉に関する項目で、 「学業への干渉」

と名付けた。

第Ⅳ因子は 3 項目、「家の人から行儀作法や礼儀につ いて厳しく言われた(0.62)」、「家の人から自分で考え て行動するよう言われた(0.60)」、「幼い頃から家の手 伝いをしてきた(0.41)」であった。礼

儀や行動などしつけに関する項目であ り、「しつけ」とした。

各因子の内的整合性をクロンバック のα係数でみると、第Ⅰ因子から順に 0.78、0.73、0.68、0.55 であり、第Ⅳ因 子が最も低いが下位尺度の信頼性は満 足する水準にあると考えられた。

各因子間の相関は、 「受容とサポート」

と「楽しませる態度」との間が 0.43 と 最も強く、「受容とサポート」と「学業 への干渉」との間は負の相関がみられ た。子どもを認め、サポートしようと する親は子どもを美術館や観察会に連 れて行くことが多く、本の読み聞かせ

など子どもを楽しませる態度で接する傾向 があった。

因子分析により個々に付加された因子得 点を用いて女子大学生及び 3 校の生徒の親 の態度の平均値を求めた(第4表)。「受容 とサポート」及び「楽しませる態度」でグ ループ間にそれぞれ1%水準の有意な差が みられた。詳細には、 「受容とサポート」では、

C 校の平均値が最も高く、次は女子大学生で あった。女子大学生と A 校及び B 校間、C 校と A 校及び B 校間でそれぞれ1%水準の 有意な差がみられた。3 校間では、C 校が最 も高く A 校が最も低かった。「楽しませる態 度」では、C 校が最も高く、次は女子大学生 であった。女子大学生と A 校及び B 校、C 校と A 校及びB校間にそれぞれ 1%水準の 有意な差がみられた。3 校間では C 校が最も 高く B 校が最も低かった。

「学業への干渉」では、C 校が最も高く、次は女子大 学生であった。3 校間では C 校が最も高く B 校が最も 低かった。しかしながら、いずれのグループ間にも大き な差はみられなかった。「しつけ」では、C 校が最も高く、

次は女子大学生であった。3 校間では C 校が最も高く A 校が最も低かったが、いずれのグループ間にも大きな差 はみられなかった。

以上から、C 校の親は、A 校、B校と比べて「学業へ の干渉」を行い、「しつけ」に厳しかった反面、「受容し サポート」する態度で接し、観察会や科学館、美術館や 博物館に連れて行き、幼い頃から子どもに本を読みきか せていた。A 校では「受容とサポート」、「しつけ」が 3 校間で最も低く、B 校では「楽しませる態度」、「学業へ の干渉」が最も低かった。大学進学の割合の高い C 校 が女子大学生と同様の傾向を示したことは、親の養育態 度と学力が関連していることを示している。

第3表 . 女子大学生及び女子高校生の親の養育態度の因子分析 .

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第4表 . 女子大学生及び女子高校生の親の養育態度 . �������� �������� ���������

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区 分

(6)

(2)自然体験と親の養育態度

女子大学生と女子高校生を合わせた自然体験の多少で 分けた3グループについて、親の養育態度との関係を平 均値の差で検定したところ、全体では「受容とサポート」

「楽しませる態度」「学業への干渉」「しつけ」のいずれ の平均値も自然体験が多いグループ、自然体験が中くら いのグループ、自然体験が少ないグループの順に高く、

「楽しませる態度」「しつけ」では自然体験が少ないグル ープと比べて1%水準で有意な差がみられた(第 5 表)。

これは、女子大学生、女子高校生ともにみられ、自然体 験の多い女子大学生及び女子高校生に共通する親の養育 態度であった。

自然体験を多く体験した女子大学生及び女子高校生 は、親から受容され、観察会や科学館、美術館や博物館 に行き、礼儀や行儀をしつけられ、自分で行動するよう に諭された者が多かった。

2)共感

(1)共感の因子分析

共感をみる 20 項目の因子分析を行った。項目の因子 負荷量が、0.40 以下、あるいは、α値を下げていた 8 項 目を除外し、12 項目について再度、同様の因子分析を

行い、固有値の減衰状況、解釈のしやすさ、項目内容か ら4因子が抽出された。抽出された因子と、それに含ま れる項目、負荷量、α係数、因子間相関をま とめたものが、第6表である。

第Ⅰ因子には、4 項目が含まれ、それぞれ、

「困っている人がいても、あまり可愛そうだと いう気持ちにはならない(逆)(0.73)」、「不公 平な扱いをされている人たちを見てもあまり 可哀想とは思わない(逆)(0.64)」、「傷ついた 人を見ても冷静な方である(逆)(0.60)」、「自 分より不幸な人たちにはやさしくしたいと思う(0.40)」

であった。他者への同情や、思いやり感情に関する項目 であり、「共感的配慮」とした。

第Ⅱ因子には、2 項目が含まれ、「素晴しい映画を みると、すぐ自分を主役の人物に置き換えてしまう

(0.94)」、「劇や映画を見ると、自分が登場人物の一人に なったように感じる(0.74)」であった。仮想の状況や 場面に、自分を置き換えて想像する傾向性 に焦点をあてた、想像力に関する項目で、

「想像性」とした。

第Ⅲ因子には、3 項目が含まれ、それぞ れ、「人を批判する前に、もし自分がその 人であったならばどう思うであろうかと考 えるようにしている(0.74)」、「友達をよく 理解するために、彼らの立場にたって考え ようとする(0.64)」、「どんな問題にも対立 する二つの見方があると思うので、その両 方を考慮するように努めている(0.53)」で あった。日常生活の中で、自発的に他者の 心理を読み取る傾向性に関する項目で、「視 点取得」とした。

第Ⅳ因子には、3 項目が含まれ、それぞ れ、「緊張時にはどうしてよいかわからな い(0.65)」、「緊急の状況ではどうしようも 第5表 . 幼少期の自然体験と親の養育態度 .

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「視点取得」

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第 7 表 . 女子大学生および女子高校生の共感 .

第 6 表 . 共感の因子分析度 .

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(7)

なく不安な気持ちになる(0.55)」、「緊張事態で、ひど く援助を必要とする人を見ると取り乱してしまう方であ る(0.41)」であった。他者の苦しみに対する苦痛感や、

不快感に関する項目から「個人的苦痛」とした。

共感の各因子のα係数は、第1因子から順に 0.67、

0.81、0.65、0.54 と、やや低めではあるが、内的整合性 は認められたといえよう。

因子間の相関は、明田(1999)の報告

42

と同様に、第

Ⅰ因子「共感的配慮」と第Ⅲ因子「視点取得」間が 0.52 でもっとも大きかった。第Ⅱ因子「想像性」はどの因子 間とも相関は小さかった。

因子分析で個々に付加された因子得点をもとに女子大 学生及び 3 校の女子高校生の共感の平均値を求めた(第 7 表)。「個人的苦痛」は自己志向の気持ちとされ、社会 的関係促進とは負の関係にあり、「視点取得」は向社会 的行動と関係が深い

43

ことが知られる。これをふまえ ると、女子大学生と A 校の女子高校生間に「共感的配慮」

及び「視点取得」で1%水準の有意な差がみられた。3 校間では、「共感的配慮」、「個人的苦痛」は B 校が高く、

「想像性」、「視点取得」は C 校が高く、A 校は「個人的 苦痛」を除いて最も低かったが、学校間に大きな差はみ られなかった。共感では、大学生と高校生間に差はみら れたが、学校間の大きな差はみられなかった。

(2)幼少期の自然体験と共感の関係

自然体験を多い少ないで分けた3グループと共感の関 係を平均値の差で検定したところ、全体では「共感的配 慮」で自然体験の多いグループの平均値が体験の少ない グループの値に比べて5%水準で有意に高く、「視点取 得」では同じく自然体験の多いグループが体験の少ない グループより1%水準で有意に高かった(第8表)。女 子大学生では自然体験が多いグループの平均値が最も高 かったが、グループ間に大きな差はみられなかった。女 子高校生では、いずれも自然体験が多いグループの平均

値が最も高かったが、「視点取得」において自然体験の 多いグループが体験の少ないグループと比べて1%水準 の有意な差がみられた。学校間では大きな差はみられな かったのに対して、自然体験の多少では明らかな差がみ られた。

(3)親の養育態度と共感の関係

親の養育態度と共感の関係を相関で検討したところ、

「受容とサポート」、 「楽しませる態度」、 「しつけ」は「視 点取得」と正の相関がみられた(第9表)。長年の親の 養育態度の影響を受けながら相手を慮る姿勢を培ってい たと考えられる。

3)社会的スキル

(1)社会的スキルの因子分析

社会的スキルをみる 17 項目の因子分析を行った。項 目の因子負荷量が、0.40 以下、あるいは、α値を下げて いた 3 項目を除外し、16 項目について再度、同様の因 子分析を行い、固有値の減衰状況、解釈のしやすさ、項 目内容から4因子が抽出された。抽出された因子と、そ れに含まれる項目、負荷量、α係数、因子間相関をまと めたものが、第 10 表である。

第Ⅰ因子には、6項目が含まれ、それぞれ、「相手か ら非難されたときにそれを上手く片付けることができ る(0.64)」、「まわりの人たちとのトラブルを上手く処 理できる(0.64)」、「あちこちから矛盾した話が伝わっ てきても上手く処理できる(0.59)」、「気まずいことが あった相手と和解できる(0.51)」、「怖さや恐ろしさの 感情をうまく処理できる(0.49)」、「まわりの人たちが 自分とは違った考えを持っていても上手くやっていける

(0.46)」であり、トラブルや非難に対処する項目から「ト ラブル処理」とした。

第Ⅱ因子には、4 項目が含まれ、「知らない人でもす ぐに会話が始められる(0.81)」、「初対面の人に自己紹 介ができる(0.75)」、「他人が話しているところに気軽 第 8 表 . 幼少期の自然体験の多少でみた共感 . �������� ������������

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第 9 表 . 親の養育態度と共感の相関関係 .

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「視点 取得」

参照

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