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中国保険市場の現状と外資保険戦略の 課題

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Academic year: 2021

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(1)

中国保険市場の現状と外資保険戦略の 課題

沙 銀 華

■アブストラクト

中国では民間の保険事業は1980年代後半に再開されてから急速に成長し,

2011年現在も成長を続けている。2010年の国際的なデータを見ると,中国は,

収入保険料ベースで,世界6位(2005年は11位)生保は5位(2005年は8 位),損保は7位(2005年は12位)に位置している。

2010年末時点での外資系生保会社の収入保険料は591.5億元で市場全体の 5.6%に留まっており,外資系損保会社の収入保険料も42.8億元で,市場全 体の1.1%と足踏みの状態が続いている。

高成長を続ける中国保険市場の発展にはまだ大きな潜在力があり,GDP の高成長という基盤の上に,これから更に成長していくことが期待できるが,

外資保険が国際戦略を展開する際に直面する課題も少なくない。

■キーワード

中国保険市場,外資系保険会社,人材戦略

1.はじめに

中国では改革開放路線が実施されるまで,近代的な保険事業はほとんど展 開されておらず,特に個人を対象とする生命保険・損害保険はほとんど販売 されていなかった。中国では改革開放以降,1980年代から近代的な保険事業

*平成23年10月22日の日本保険学会大会(神戸学院大学)報告による。

/平成24年1月20日原稿受領。

(2)

が本格的に始まったと言える。民間の保険事業は1980年代後半に再開されて から急速に成長し,2011年現在も成長を続けている。

2000年以降の中国保険市場を観察すると,収入保険料は2桁成長を維持し ており,2011年の収入保険料は生損保合計で前年比30.4%増の1兆4528億元 となった。そのうち,損保( 財産保険 )は前年比35.5%増の3896億元とな り,生保( 人寿保険 )は前年比28.7%増の1兆632億元となった。2001年 から2010年の10年間,生損保合計の保険料収入の平均成長率は25.2%となり,

そのうち,損保は20.9%で,生保は27.8%であった。

保険会社の資産総額は,近年急増している(図表−2参照)。2001年から 2010年までの10年間,年平均30.9%のスピードで増加し,2006年末の資産総 額は5兆482億元(日本円換算約61兆円)に達した。これは2001年末の資産 総額の約11倍に相当する。

図表−1 財産保険と人寿保険の収入保険料の推移(2001−2010)

出所: 2002年版から2011年版のデータより作成。

(3)

2010年の国際的なデータを見ると,中国は,収入保険料ベースで,世界6 位(2005年は11位)生保は5位(2005年は8位),損保は7位(2005年は12 位)に位置している(図表−3参照)。

ここでは,高成長を続ける中国保険市場について,データを用いて概観す るとともに,外資保険が国際戦略を展開する際に直面する課題を分析・検証

図表−2 資産総額の推移と成長率(2001−2010)

図表−3 2010年度の中国収入保険料と他の国との比較

出所:

Sigma Swiss Re

(2011年第2号)

(百万ドル) 順位 生損保合計

1,166,142 1

2 557,439 イギリス 3 310,022 フランス 4 280,082 ド イ ツ 5 239,817 6 214,626 9 114,422

イ ン ド 11 78,373 イ ン ド 9 67,810 71,131 8

122,063 6

イタリア

142,999 5

192,428 4

フランス

213,831 3

イギリス

440,950 2

1 506,228

順位

順位 損

659,915 1

ド イ ツ 2 124,949 3 116,489 イギリス 4 96,191 フランス 5 87,654 7 71,628 10 43,219 イ ン ド 19 10,562 出所: 2002年版から2011年版のデータより作成。

(4)

し,今後を展望することとしたい。

2.外資による保険市場のシェア拡大が難航

⑴ 保険会社数が急増

1999年1月当時,中国の保険会社は僅か19社しか存在しなかった。そのう ち,中国系の保険会社は12社,外資系保険会社は7社(AIGグループ傘下 の会社が4社,日本,スイス,カナダの保険会社各1社)となっていた。そ の後,中国市場は大きな成長を遂げ,2010年末時点での保険会社数は121社 にまで増加している。

1992年後半から,中国政府の外国保険会社の事業活動に対する規制が緩和 され始めた。当初は上海市に限って外国保険会社の市場進出が認められたた め,アメリカの

AIA(中国名は, 友邦保険 )が,いち早く1992年9月に

進出し,2年後,東京海上が二番目の外資系保険会社として中国に進出する ことに成功した。その後,外資系保険会社も中国の

WTO

加盟後に順次進 出することができ,2010年末時点で,中国系保険会社は69社で57%を占め,

外資系保険会社は52社で43%を占めている。

図表−4 保険会社数の推移(2001年−2010年)

出所: 2002年版から2011年版のデータより作成。

(5)

⑵ 外資系保険は足踏みの状態

中国の保険市場が急成長し好調である一方で,外資系保険会社は保険市場 とともに成長するものの,そのマーケットシェアは,伸び悩んでいる。

2010年末時点での外資系生保会社の収入保険料は591.5億元で市場全体の 5.6%に留まっており,外資系損保会社の収入保険料は42.8億元で,市場全 体の1.1%と足踏みの状態が続いている。

⑶ 外資系保険の総資産は確実に伸びた

外資保険会社資産総額の成長率は,2004年以来,確実に伸びている。2004 年の資産総額は,413億元であったのに対して,2010年末時点では,2621億 元となり,6.3倍になった。

⑷ 外資系保険の市場シェアの拡大が課題

外資系損保の状況を例にとると,1990年代後半からすでに中国に進出し,

図表−5 外資財産保険と人寿保険の収入保険料の推移(2001−2010)

出所: 2002年版から2011年版のデータより作成。

(6)

一時は市場シェアの3%を占めていたが,その後年々減少している。主な原 因は,外資系保険会社のほとんどが中国に進出している自国の企業を販売の ターゲットとしており,中国系会社,市民向けのサービスをまだ本格的に展 開していないことである。また,自動車に関する強制保険の販売がまだ許可 されていないため,販売できないことも大きな原因の一つである。厳しい現 状の中,保険業界では,外資系保険会社の市場シェアが現状を維持できるか,

或いは拡大していくかが今後の重要課題の一つと考えられる。

3.外資生保のパートナーとの関係が変貌

外資保険会社の中国の進出について,中国は

WTO加盟時,外資生保は

中国のパートナーを選択し,合弁方式で中国に進出することができると約束 した。その後,外資生保は中国でパートナーを選択し,ほとんど折半(50%

ずつ)で資本金を出資し合弁生保を設立した。2008年末時点では,AIAを 除く合弁生保は23社に上るが,日系生保は1社のみである。

ところが,2008年後半より,中国の銀行業が保険分野に進出することが許 図表−6 外資保険会社資産総額の推移と成長率(2004−2010)

出所: 2002年版から2011年版のデータより作成。

(7)

可され,中国工商銀行は金盛人寿保険(AXAとの合弁)の60%を取得し,

AXA

は51%から27.5%に,中国五鉱グループは,49%から12.5%まで持分 割合を減らした。また,中国建設銀行は,太平洋安泰人寿保険(ING  Capi-

tal Life

)の51%を取得,ING  Capital Lifeはすべての持分を他社に譲渡 した。中国交通銀行は,中保康聯人寿(CMG  Life)の62.5%を取得,オー ストラリアのコモンウェルス銀行はその持分割合を49%から37.5%まで下げ た。上記のように,折半出資の合弁生保という外資生保の従来からの中国進 出方式に変化が現れており,今後,合弁生保の外国資本の持分が減少する傾 向が拡大する可能性があると考えられる。

4.激しい販売競争への外資保険の対応が戸惑い

外資系保険会社と中国系保険会社の競争は,保険販売チャネルの競争と商 品の競争に集中している。

近年,中国の保険市場で最も熾烈なのが保険販売チャネルの競争である。

現在,保険販売チャネルは多様化しており,ダイレクト販売,外務員販売,

仲介業者を利用する販売,銀行窓口販売,電話販売,ネット販売,テレビシ ョッピング販売,スマートフォン販売,カード式保険販売等がある。販売チ ャネルが多様化すると同時に,チャネルを巡る競争も激しくなっている。と ころが,外資系保険会社は,中国進出後,どのようなチャネルを使い,その 保険市場にどうやって保険商品をスムーズに販売するか,選択に戸惑うケー スが多い。外資系保険会社は本国の経営方針を貫き通すと失敗する恐れがあ るため,現地に適した保険事業の戦略を立てなければならない。

また,外資系保険会社は自国で販売実績の良かった商品又は自社がもつ商 品開発技術を中国に導入するケースは少なく,ほとんど中国系保険会社と同 様の商品を販売している。外資系保険会社が中国保険販売のニーズをうまく 把握し,自社の特徴ある商品の販売戦略の策定ができるかについては,今後 の課題としてまだ残っている。

(8)

5.人材競争に対応できる人材戦略の構築が急務

保険事業は人の事業であり,保険会社は大規模なインフラを持たずに,事 業の中身は人を中心としている。特に,外資系保険会社の場合,人材の 現 地化 が大きな課題である。外資系保険会社の人材戦略を構築する場合,次 に掲げることが肝要である。

第一に,人材の現地化が必要である。

第二に,中国に進出する際,現地で即戦力となる 一軍 の人材は重要で あるが,二軍のような予備軍の育成も大きな課題として無視できない。

第三に,保険専門人材の競争は激しいため,人材引き留めの措置を取るの は急務である。

6.今後の展望

中国の保険市場の高成長の背景には,中国経済の持続的な成長がある。こ うした経済成長は都市部の保険市場への資金流入を加速し,保険市場の長期 にわたる安定した成長をもたらしている。ところが,人口1人あたりの収入 保険料を示す 保険密度 ,GDPに対する収入保険料の割合を示す 保険浸 透率 については現状ではそれほど高くなく,むしろかなり低い水準にある。

図表−7 中国の保険密度・保険浸透率の他国との比較(2010)

出所:

Sigma Swiss Re

(2011年第2号)

3.8 39

中 国

5.1 30

イ ン ド

10.1 8

日 本

11.2 6

韓 国

12.4 4

オ ラ ン ダ

12.4 3

イ ギ リ ス

14.8 2

南 ア フ リ カ

台 湾 地 区 1 18.4 保険浸透率 順位

国(地区)

(単位:%)

世 界 平 均 ‑ 6.9

627.3

‑ 世 界 平 均

(米ドル) 国 順位 保 険 密 度

6,633.7 1

ス イ ス

オ ラ ン ダ 2 5,845.3 ルクセンブルク 3 5,653.2 デ ン マ ー ク 4 5,084.2

日 本 6 4,390.2

韓 国 23 2,339.4

中 国 61 158.4

イ ン ド 76 64.4

(9)

経済がある程度のスピードを保って成長している中で,このように保険密 度と保険浸透率がまだ低い状況にあるということから,保険市場の発展には まだ大きな潜在力があると言える。GDPの高成長という基盤の上に,保険 市場は高成長を実現してきたが,これから更に成長していくことが期待でき るだろう。

こうした状況の中で,今後も外国保険会社による中国進出は増えると予測 される。しかし,中国の諺 凡事予則立,不予則廃 (事前に計画を立たず,

準備をしない場合,成功できない)にもあるように,周到な市場調査と十分 な経営戦略の構築,そして保険会社の国際化が中国市場での成功への鍵とい えるだろう。

(筆者は東京海上日動火災保険(中国)有限公司勤務)

参考資料

Sigma

(

Swiss Re

,2011年第2号)

(中国保険統計出版社,2002年版から2011年版)

沙銀華 潜在力の豊かな保険市場 (金融財政事情,2009.7.20)

沙銀華 中国の保険会社の資産運用は大丈夫か? (

Insurance

,2008.10.16)

沙銀華 激しく変動する中国生保商品の販売実態と今後の動き (ニッセイ基礎研 究所レポート,2008.6)

沙銀華 中国の保険産業 現代中国産業経済論 (世界思想出版社,2007.6)

沙銀華 高成長を続ける中国保険市場 (ニッセイ基礎研究所レポート,2007.6)

参照

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