若者と年金問題
佐々木 一 郎
■アブストラクト
昨今のわが国では,親の収入・学歴・職業と,子の収入・学歴・職業との 関連性が顕著に高まるなど,階層固定化傾向が強まり,格差社会が進展しつ つあることが先行研究から指摘されている。一見すると,年金問題(とりわ け若者の年金未加入未納問題)は,この格差社会の問題とは無関係にみえる かもしれない。しかし,親の年金意識の 格差 から,子の年金未加入・未 納率に顕著な差が生じている可能性もあり,年金問題は格差問題と深いかか わりがあることも考えられる。本研究では,大学生対象のアンケート調査デ ータから,親の年金意識の格差と,子の国民年金未加入との関係を分析した。
分析の結果,親の年金意識の格差は,子の国民年金未加入に顕著な影響を及 ぼしていることが明らかになり,年金問題には,格差問題の一端が反映され ていることが示唆された。
■キーワード
若者の年金未納問題,階層固定化,年金教育
Ⅰ.格差社会の進展の影響
現在わが国では,さまざまな面で格差社会が進展しつつあることが指摘さ れている。所得格差については,不平等度の指標であるジニ係数の値は1980 年代後半以降増大し,人々の間の経済的な格差が広がりつつある。また,親
*平成19年10月28日の日本保険学会大会(桃山学院大学)報告による。
/平成20年9月20日原稿受領。
の収入・学歴・職業が,子の収入・学歴・職業に影響する傾向が高まり,親 子間の階層固定化が強まってきている。
さて,このような格差社会の進展は,現在深刻な社会問題となっている年 金問題(とりわけ若者の年金未加入未納問題)と深いかかわりを持ち,かつ,
大きなインパクトを及ぼしている可能性がある。若者の年金未加入未納は,
将来の低給付から老後の貧困をもたらしやすく,老後の経済格差拡大を助長 することが考えられるからである。また,若者にとって年金制度は複雑でわ かりにくいので,身近な親の意見を参考にしている可能性があり,親の年金 意識の格差が子(若者)の年金未加入未納行動にダイレクトに影響している ことも考えられるからである。
本研究では,格差ファクターとして 親の年金意識の格差 に焦点を当て,
大学生対象のアンケート調査データに基づき,子からみた親の年金意識の格 差が,子自身の年金未加入決定にどのようなインパクトを及ぼしているかを 明らかにすることを研究目的とする。
Ⅱ.先行研究と本研究の位置づけ
⑴ 年金未納者の経済的ポジション
①老後の経済不安の高まり
バブル経済崩壊後の長引く不況に伴う失業者や低所得者の増大,長寿化に よる高齢期の医療・介護費用の増大などを背景にして,老後の経済不安をか かえる人々の割合が近年高まってきている。
内閣府の 国民生活に関する世論調査 によると,およそ3人のうち2人 が,日常生活において悩みや不安を感じている。しかも,悩みや不安の内容 として最も大きなウェイトを占めているのが老後の経済面にかかわる不安で あるという。
同調査結果から,老後の経済面にかかわる不安を感じる人々の割合につい て,その推移を10年ごとにみていくと,1985年が27.4%,1995年が37.1%,
2005年が48.3%であり,顕著に増加傾向にあることが示されている。
②老後の経済的安心と国民年金
近年,老後の経済不安を感じる人々の割合が増加傾向にあるが,その不安 を緩和するうえで,国民年金は重要な役割を果たしている。
平成19年国民生活基礎調査の概況 (厚生労働省)によると,65歳以上 の高齢者世帯について,総所得額の平均は約306万円であるが,そのうち公 的年金・恩給が約209万円であり,総所得額のおよそ7割を占めている。ま た,公的年金・恩給が所得のすべてであるという世帯は,65歳以上の高齢者 世帯の実に61.5%にも達している 。公的年金(国民年金)がなければ,わ が国の高齢者の経済生活は立ち行かなくなってきている。
さらに, 家計の金融資産に関する世論調査(平成18年) (金融広報中央 委員会)は,老後の経済不安の有無とその理由を調査しているが,心配がな い理由として最も大きな要因が 年金(公的年金,企業年金,個人年金)や 保険があるから という理由である。公的年金,企業年金,個人年金のうち,
個々人にとって金額面で最も大きなウェイトを占めているのが公的年金であ ることが多いことを踏まえると,老後の経済不安を緩和するうえで,公的年 金(国民年金)がいかに大きな役割を果たしているかということが示されて いる。
③年金未納者と老後の貧困
だが現実には,老後生活における国民年金の重要性は大きいにもかかわら ず,若者を中心に多くの未加入・未納が社会問題化している。国民年金未納 者は,国民年金に加入しなくても十分なだけの私的老後準備を行ったうえで 未納者になっているのか,それともそのような備えもないまま未納者になっ ているのであろうか。そのいずれであるのかを識別することは,年金未納者 の老後の経済的ポジションを考えるうえで重要なポイントになると思われる。
次に示すように,多くの年金未納者が,国民年金以外の有力な私的準備が ないにもかかわらず年金未納者になっていることが考えられる。そして,こ
1) 65歳以上の高齢者世帯について,公的年金・恩給が総所得の80〜100%未満の 世帯は9.6%,60〜80%未満の世帯は11.4%などとなっている。
れらの若者が数十年後にいっせいに老後を迎えた時,無年金・無貯蓄の貧困 者が多数出現し,大きな社会問題になることも懸念される。以下では,所得
(経済力),個人年金,企業退職金の3つに焦点を当て,年金未納者が老後準 備を十分に行うことはかなり困難であることを考察する。
まず第1に,年金未納者の現時点での所得(経済力)については,社会保 険庁[2005]が参考になると思われる。同調査は,国民年金第1号の納付者 と未納者について,本人所得と世帯所得を調査している。図1−1,1−2 を参照されたい。本人所得の平均額について,納付者は約158万円,未納者 は約105万円である。また世帯所得の平均額について,納付者は約505万円,
未納者は約323万円である。未納者は,本人所得と世帯所得の両面において,
納付者のそれを大きく下回っており,老後を安心できるだけの潤沢な個人貯 蓄を蓄えることは容易ではないと思われる。
第2に,個人年金については,社会保険庁[2005]によると,納付者の加 入率が18.7%であるのに対して,未納者の加入率は7.5%にしか満たない 。 国民年金未納者については,国民年金の代わりに個人年金に加入することで 老後対応しているわけではないことが示されている。
第3に,企業退職金については,社会保険庁[2005]から,年金未納者の 場合,無職と非正規雇用の割合を合計した値は57.5%であり,企業退職金を 受け取れない人々の割合が高く,企業退職金による老後対応も困難であるこ とがわかる。
年金未納者は,老後に無年金・低年金になるだけではなく,現時点での所 得(経済力)がそもそも低く,さらに,個人年金や企業退職金など,老後の 私的な経済基盤も非常に脆弱であることが示されている。
2) 生命保険加入率については,納付者は65.5%,未納者は46.7%となっている。
図1−1 年金未納者の本人所得
(出所) 平成17年国民年金被保険者実態調査結果の概要 (社会保険庁)
(出所) 平成17年国民年金被保険者実態調査 結果の概要 (社会保険庁)
図1−2 年金未納者の世帯所得
⑵ 本研究の位置づけ
以上のように,国民年金の未納者は,老後の経済的な安心を得ることが非 常に困難である。にもかかわらず,なぜ多くの若者が年金未加入・未納者に なるのであろうか。
これまでの先行研究においては,若者の年金未加入・未納に影響する要因 として,①低所得,②短命予想,③年金不信などのファクターに着目してき た(鈴木・周[2001],阿部[2003],塚原[2004],藤田[2004],鈴木・周
[2006],駒村・山田[2007]など)。これらのファクターをもつ人々ほど年金 未加入・未納者になりやすいのではないかという仮説を立て,個票データな どにもとづき計量的に検証している。
鈴木・周[2001]などの研究は,低所得者ほど年金未加入・未納率が高い ことを明らかにしている。また,鈴木・周[2001]や塚原[2004]の研究な どから,短命を予想する人ほど未加入・未納率が高いことが示されている。
さらに,年金不信による影響については,相反する分析結果が提示され,議 論の余地が残される結果となった。
さて,このような多くの先行研究のアプローチには,1つの限界がある。
それは,年金未加入・未納決定を,若者が単独で行うという仮定を暗黙のう ちにおいており,親や友人やマスメディアなどの周囲による影響を十分には 分析に取り込んでいないことである。
拙稿[2007]では,親による影響を考慮した分析を行ったが,親にかかわ る格差ファクターのうち,どの要因がどの程度効いているのかを個別に識別 できないという難点があった。そこで本研究では,この難点を解決し,周囲 による影響をより詳細に解明するため,後述するように,新たにアンケート 調査を設計・実施した。そのうえで,子からみた親の年金意識をダイレクト に調査することで,親の年金意識格差が及ぼす影響を個別に識別・分析して いる。
なお,本研究では,年金未加入未納の若者を取り巻く様々な周囲のうち,
とりわけ親による影響に焦点を当てることが重要であると考える。その理由
は,若者の年金知識は特に乏しく,不足する年金知識を最も身近な存在であ る親から補い,その際に未加入・未納について大きなインパクトを受ける可 能性があるからである。
社会保険庁[2004]によると,低年齢の若者ほど,年金知識が乏しいこと が示されている。図2を参照されたい。基礎年金の国庫負担に関する周知度 は,50代では50.1%であるのに対して,20代では29.9%と低い水準となって いる。また,年金受給要件に関する周知度についても,50代では79.7%であ るのに対して,20代では49.7%であり,低年齢者ほど年金周知度が低い 。
そして,Tversky and Kahneman[1974]にはじまる行動経済学の研究 成果を参考にすると,意思決定は身近な人から影響されやすく,不足する情 報等はより身近な人から収集し,その意見を参考にする傾向があることが示 されている。国民年金に当てはめて考えた場合,低年齢の若者ほど年金周知
3) このほか,基礎年金の財政に関する周知度は,20代は52.8%,50代は77.0%
である。また,保険料免除制度に関する周知度は,20代は49.6%,50代は64.9
%であり,いずれも低年齢層ほど周知度は低い。
図2 公的年金制度の周知状況〜基礎年金の国庫負担に関する周知度〜
(出所) 平成16年公的年金加入状況等調査結果の概要 (社会保険庁)
度が低いため,若者は単独で年金加入・納付決定を行うことは容易ではない。
その決定に際して,最も身近な親から不足する知識を吸収し,その意見に左 右されている可能性がある。そのため,親の年金意識の格差によって,子が 年金未加入・未納者になる確率にも違いが出てくることも十分に考えられる。
昨今のわが国においては,親の学歴・職業・収入が,子の学歴・職業・収 入に大きく影響しているのと同様に,親の年金意識の格差が,子の年金未加 入・未納にダイレクトに影響し,格差問題の一端が年金問題にも反映されて いる可能性がある。
本研究では,格差ファクターとして 親の年金意識の格差 に焦点を当て,
大学生対象のアンケート調査データに基づき,子からみた親の年金意識の格 差が,子自身の年金未加入決定にどのようなインパクトを及ぼしているかを 明らかにすることを研究目的とする。
Ⅲ.データ
本節では,次節の分析で使用するデータに関して,調査の概要と標本属性 を説明する。
⑴ 調査の概要
本研究で用いるデータは,筆者が行った調査に基づくものである。調査期 間は,2006年7月である。アンケートの実施については,男女比などの基本 属性に関して日本全体の社会科学系の大学生の分布比率にできるだけ近づく ように設計した上で,各大学の講義担当者に調査協力を依頼している。各大 学の所在地は,中国・四国地方で,アンケート実施校数は合計4である。ア ンケート回答者は,各大学における当該講義の履修学生である。調査対象学 生の所属学部は,主に経済・経営・商学部等の社会科学系である。
まず筆者が,アンケート調査協力について承諾を得た各大学の講義担当者 へ,アンケート調査票を送付した。次に,各大学の講義担当者が講義時間中 に調査票を学生へ配布し,その場で学生が回答したものを一括回収し,筆者
へ返送するという形式をとっている。
回収した総サンプル数は,544である。本研究では,国民年金の加入対象 である20歳以上の社会科学系学生であること,アンケートのすべての質問項 目に答えていること,の2つの基準から,最終的に220のサンプルを選択し ている。
なお,本アンケート調査は,試験的な性格を有しており,国民年金第1号 被保険者に対応するわが国の大学生全体を代表するうえで多くの課題をかか えている。サンプルの数や収集方法を改善したうえでのより一般的な調査・
分析については,今後の研究課題である。
⑵ 標本属性
アンケート回答者の基本属性は,表1の使用データの記述統計量にまとめ ている。
回答者の性別比については,男性が70.9%,女性が29.1%である。文部科 学省 平成20年度学校基本調査速報 を参考にすると,日本全体の社会科学 系大学生の男女比は68.3%:31.7%であり,本アンケート調査の男女比は全 国平均にほぼ近い値となっている。
学年は,1年生,2年生,3年生,4年生,5年生以上がそれぞれ0.5%,
28.2%,56.8%,11.8%,2.7%である。本研究では20才以上を分析対象と しているので,2年生,3年生,4年生の割合が多くなっている。回答者の 年齢については,20歳,21歳,22歳がそれぞれ63.2%,22.7%,7.3%であ り,全体の約9割を占めている。
国民年金の納付状況については,年金納付は24.6%(本人支払:4.1%,
親支払:20.5%),年金未納は5.9%,学生納付特例は69.5%である。なお,
全国の学生を対象とした社会保険庁[2002]の調査では,年金納付は33.5%,
年金未納は14.1%,学生納付特例は49.7%,申請免除は2.7%である。
表1 使用データの記述統計量
変数名 分類 標本数 構成比(%)
70.9 29.1 63.2 22.7 7.3 3.2 3.2 0.5 0.5 28.2 56.8 11.8 2.7 1.4 9.1 35.0 33.6 20.9 69.5 4.1 20.5 5.9 30.9 69.1 30.5 69.5 51.8 48.2 56.4 43.6 64.1 35.9 25.0 75.0 25.0 75.0 91.4 8.6 42.3 57.7 21.4 78.6 73.6 26.4 14.5 85.5 156
64 139 50 16 7 7 1 1 62 125 26 6 3 20 77 74 46 153 9 45 13 68 152 67 153 114 106 124 96 141 79 55 165 55 165 201 19 93 127 47 173 162 58 32 188 男
女 20才 21才 22才 23才 24才 26才 1年生 2年生 3年生 4年生 5年生以上 2人 3人 4人 5人 6人以上 学生納付特例 年金納付(本人支払)
年金納付(親支払)
年金未納 未加入 加入 自宅 自宅外 平均未満 平均以上
国民年金に加入すると損になると 思う
思わない ある ない
受けたことがある ない
多いと思う 少ないと思う 高いと思う 低いと思う 推奨する 推奨しない する しない 高いと思う 低いと思う
フリーターになると思う 思わない
性別
年齢
学年
世帯人員数
調査時点の国民年金納付 状況
国民年金未加入
(任意加入を想定)
通学区分 予想寿命 損得計算
加入義務意識 年金教育 年金知識 親の年金納付意識 親から子への 加入納付の推奨 年金に関する 親との会話 年金への親の関心 フリーター志向
任意加入を想定した場合の国民年金加入率については,加入が69.1%,未 加入が30.9%である。
Ⅳ.分析
⑴ クロス集計にもとづく分析
①大学生の年金知識
先の社会保険庁[2004]から,20代の低年齢の若者ほど年金知識が乏しい ことが示された。では,本研究の分析対象である20代の大学生は,自分の年 金知識の度合いをどのように認識しているのであろうか。図3を参照された い。本アンケート調査では,平均的な大学生と比較して,国民年金制度に関 する自分の知識量はどの程度だと思うかをたずねている。集計の結果,自分 の知識量は多いと思うと回答したのは25.0%,少ないと思うと回答したのは 75.0%である。20代の大学生は,年金知識が少なく,しかも本人がそのこと を実感している。大学生自身にそのような自覚があるため,周囲とりわけ身 近な親などに相談し,その際に,年金加入・納付行動について親の年金意識 の影響を受けていることも考えられる。
図3 大学生の年金知識〜自分の年金知識は多いと思うか少ないと思うか?
(出所)アンケート調査データより。
② 親の年金意識の格差 と 子の年金未加入率
子は,自分の親の年金意識をどのように認識しているのであろうか。また,
その認識のあり方は,子自身の年金未加入行動に対してどのようなインパク トを及ぼしているのであろうか。
子からみた親の年金意識については,大きく4つのファクターに焦点を当 てて調査している。親の年金納付意識の高さ,親から子への年金加入・納付 推奨の有無,年金に関する親との会話の有無,年金への親の関心の高さの4 つであり,これらのファクターと,子の年金未加入率との関係をまとめたも のが図4−1〜図4−4である。
図4−1 親の年金納付意識 と 子の年金未加入率
(出所)アンケート調査データより。
図4−2 親から子への年金加入・納付の推奨 と 子の年金未加入率
なお,親の年金意識に関する4つのファクターについては,親にアンケー ト調査をしたのではなく,あくまで,自分の親の年金意識についてどう思う かを子(大学生)にアンケート調査をして得た回答である。また,年金未加 入率とは,任意加入を想定した場合の国民年金未加入の割合を示している。
集計の結果,親の年金納付意識が高いケースでは,子の年金未加入率は 26.4%であるのに対して,親の年金納付意識が低いケースでは,子の年金未 加入率は78.9%と非常に高い数字になっている。以下,子の年金未加入率は,
親から子への加入・納付推奨があるケースでは19.4%であり,推奨がないケ
(出所)アンケート調査データより。
図4−4 年金への親の関心 と 子の年金未加入率 図4−3 年金に関する親との会話 と 子の年金未加入率
ースでは39.4%である。年金について親と会話するケースでは25.5%,会話 をしないケースでは32.4%である。さらに,年金への親の関心が高い場合は 29.6%,低い場合は34.5%となっている。
⑵ ロジット・モデルにもとづく分析
①ロジット・モデル
クロス集計からは,子からみた親の年金意識が高いほうが,子自身の年金 未加入率は低いことが示された。では,さまざまな要因を同時に考慮した場 合,親の年金意識の格差は,子の年金未加入に対して顕著な影響を及ぼすと いえるだろうか。
この点を分析するため,以下ではロジット分析を行うことにする。このロ ジット分析は,アンケート回答者の年金加入・未加入行動について,どうい う要因が影響を及ぼしているのかを明らかにするものである。分析で用いた ロジットモデルは,以下のとおりである。
y*=β+Σ β・X + u y=1 y*>0の場合
y=0 y*≦0の場合
ただし,yは国民年金の加入行動(未加入は1,加入は0のダミー変数),
uは誤差項,X〜X は説明変数,βは定数項,β〜βは説明変数X〜X の係数である。
説明変数として用いたのは,性別X(男は1,女は0のダミー変数),世 帯人員数X〜X(それぞれ世帯人員数2〜5人に該当するときはそれぞれ 1,それ以外に該当するときはそれぞれ0のダミー変数),予想寿命X(短 命予想は1,平均以上の寿命を予想は0のダミー変数),損得計算X(国民 年金に加入すると損になると思うは1,思わないは0のダミー変数),加入 義務意識X(国民年金への加入は義務と思うは1,思わないは0のダミー 変数),年金教育X(年金教育を受けたことがあるは1,ないは0のダミー 変数),年金知識X (自分の年金知識は多いと思うは1,思わないは0の
ダミー変数),親の年金納付意識X (高いと思うは1,思わないは0のダ ミー変数),親による加入推奨X (あるは1,ないは0のダミー変数),フ リーター志向X (あるは1,ないは0のダミー変数)である。
②推計結果〜親の年金意識の格差の影響〜
ロジットモデルによる推定結果については,表2に示されている。以下で は,子からみた親の年金意識の格差が,子自身の年金未加入にどのように影 響しているかを中心に考察する。
表2より,まず, 親による加入推奨 は,子の年金未加入に対して有意 な効果をもたない。一方, 親の年金納付意識 は,子の年金未加入に対し て1%水準で有意に負の効果をもつ。クロス集計にもとづく分析だけではな く,他の様々な要因をコントロールしたロジット分析においても,親の年金 納付意識が高いほど子の年金未加入率は低いことが示された。佐藤[2000]
などの研究から,現在わが国では,親の学歴・職業・収入が,子の学歴・職 業・収入に大きく影響し,階層固定化傾向が強まってきていることが指摘さ れている。本研究の分析結果から,年金問題をめぐっても,親の年金意識の 格差 が,子の年金未加入に大きく影響し,子が自分の意思だけで未加入 を決めているのではなく,親による格差の影響を受けていることが示された。
年金問題には,格差問題の一端が反映されていることが示唆された。
次に,親の年金意識の格差以外のファクターについては, フリーター志 向 は,年金未加入に対して1%水準で有意に正の効果をもつ。フリーター 志向が強いほど,未加入者になりやすい傾向があることが示された。フリー ターについては,就業が不安定で低収入であり,個人貯蓄や個人年金や企業 退職金で私的に老後に備えることは難しいと思われる。よって,フリーター 志向の強い人々の間で年金未加入傾向が高いということは,これらの人々が 数十年後に老後を迎えたとき,低年金・無年金者が多数発生する可能性があ り,老後の経済格差拡大要因になることが懸念される。
最後に,年金政策へのインプリケーションとしては,親の年金意識の格差 による影響が示されたことを踏まえると,その影響を緩和するために,中
学・高校・大学などにおける年金教育の充実が重要であると考えられる。
Ⅴ.まとめ
現在わが国では,若者の国民年金未加入・未納が社会問題になっている。
これまで先行研究では,若者が年金未加入・未納者になる理由として,低所 得や短命予想,年金不信などのファクターに着目し,主に個票データに基づ く研究が蓄積されてきた。
だが一方で,先行研究においては,未加入・未納者を取り巻く周囲による 影響が考慮されることは殆どなく,未加入・未納決定は若者本人が単独で行
表2 国民年金未加入率に関する推定結果⎜ロジット分析⎜
(注) , , は,それぞれ1%,5%,10%水準で有意である。
説明変数
被説明変数:
国民年金加入状況 (未加入:1,加入:0)
係数 標準偏差
性別
世帯人員数
予想寿命 損得計算 加入義務意識 年金教育 年金知識
親の年金納付意識 親による加入推奨 フリーター志向 定数
男 2人 3人 4人 5人 短命を予想 損になると思う ある
受けたことがある 多いと思う 高いと思う 推奨している ある
0.177 3.743 1.795
−0.352
−0.165
−0.287 2.933
−2.096
−0.725 0.356
−2.933
−0.127 1.661 0.827
0.451 1.487 0.802 0.565 0.568 0.415 0.578 0.453 0.480 0.526 0.805 0.436 0.622 1.005
うものであると暗黙のうちに仮定されてきた。
しかし,社会保険庁[2004]などの調査結果から示されるように,20代の 若者の年金知識は特に乏しいため,加入・納付決定をめぐっては,本人単独 による決定ではなく,親や友人やマスメディアなどの影響を受けていること も考えられる。
そこで本研究では,特に身近な存在である親による影響に焦点を当て,親 の年金意識の格差が,子自身の年金未加入決定にどのようなインパクトを及 ぼしているのかを分析することを研究目的とした。
分析の結果,親の年金意識が低いほど子の未加入率は高いことが明らかに なった。親の年金意識の格差は,子の未加入決定に顕著な影響を及ぼしてい ることが示唆された。年金問題は,格差問題と密接にかかわっており,親の 年金意識の 格差 による影響を緩和するため,学校における年金教育の充 実が重要であると考えられる。
(筆者は同志社大学准教授)
謝辞
本稿は,広島経済大学特定個人研究助成(平成17年度)の助成を受けて執筆し たものである。ここに記して謝意を表します。
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