大規模乗合代理店と所属保険会社の責任
遠 山 聡
■アブストラクト
平成26年保険業法改正において,保険募集人に対する体制整備義務が新設 された。この背景にあるのが保険募集チャネルの多様化・大規模化である。
保険業法283条は,保険募集人の加害行為について所属保険会社の損害賠償 責任を規定したものであるが,独立的な立場で保険募集業務を行う,銀行や 来店型ショップといった大規模な乗合代理店等が登場するに至り,同条が本 来予定していた状況とは大きく異なっているのが現状である。本稿は,同条 の解釈適用に関するいくつかの問題について検討したものである。結論とし ては,同条の責任を広く認めたうえで,求償権を適切に行使することによっ て,最終的な負担調整を行うことが望ましいのではないかと考えている。し かし,実質的な指揮監督関係にない大規模乗合代理店の加害行為に対する責 任を認めることは問題も多く,立法論としては適用範囲や免責となる場合を 明確に規定することが必要である。
■キーワード
保険募集人,体制整備義務,損害賠償責任
⚑. 問題の所在
平成26年⚕月23日に⽛保険業法などの一部を改正する法律⽜が成立し,平 成28年⚕月29日に施行された。改正保険業法は,保険商品・サービスの提供 等の在り方に関するワーキング・グループ(以下,金融審議会 WG)の報告
/ 平成28年⚘月31日原稿受領。
書1)を踏まえた内容となっている2)。保険募集規制のあり方が問題となる背 景的状況の一つが,保険募集チャネルの多様化と大型化である。従来,生命 保険については営業職員,損害保険については代理店という対面型のチャネ ルが中心であったところ,現在では,テレマーケティングやダイレクトマー ケティング,インターネットを利用した通信販売など,いわゆる直販型の非 対面型チャネルの割合が増加している。とりわけ生命保険については,銀行 窓販の解禁による金融機関の保険販売への参入や,来店型保険ショップとの 提携などによって,法人の乗合代理店が増加する傾向にある。このような,
大規模な乗合代理店の登場は,比較情報の提供や比較推奨販売が行われるこ とで顧客の保険商品選択に資することが期待される一方,保険会社と保険募 集人との間の指揮監督関係といういわば従属した関係から,独立・対等な当 事者関係への変化を示唆するものでもあり,従来のように,ある特定の保険 会社が保険募集人の業務内容を把握し,管理指導を行うという想定が当ては まらない状況が増えつつあることが指摘されている3)。
以下では,保険業法において保険募集人が負う義務の内容,とりわけ乗合 代理店の比較推奨販売を行う場合の体制整備義務を中心に概観したうえで,
民法715条に関する判例や学説の考え方を参考にしつつ,保険業法283条の射 程および解釈のあり方について検討する。
1) 金融審議会・保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキング・グ ループ⽛新しい保険商品・サービス及び募集ルールのあり方について⽜(以下,
WG 報告書)(平成25年⚖月⚗日)。
2) 改正保険業法の保険募集規制の概要につき,井上亨⽛平成26年保険業法改正 における保険募集規制の見直し⽜生命保険論集188号91頁(2014),山下徹哉
⽛保険募集に係る業法規制について 平成26年保険業法改正を中心に ⽜生命 保険論集193号71頁(2015)等参照。
3) WG 報告書⚘頁。
⚒. 保険募集人の体制整備義務
⑴ 保険業法における保険募集人の義務
従来,保険業法においては,保険業法300条⚑項に基づく禁止行為を通じ た規制と同法100条の⚒に基づく保険会社の体制整備義務を中心に,保険募 集・販売の適正化が図られてきた。すなわち⽛契約条項のうち重要な事項を 告げない行為⽜を禁止行為として定める300条⚑項⚑号の規定から重要事項 の情報提供・説明義務が導かれ,保険会社に対する体制整備義務を課す100 条の⚒により,保険会社による管理・指導を通じて,情報提供・説明義務の 適切な履行を担保するというものである。さらに,平成18年の監督指針の改 正により,重要事項の説明にかかる関係書類として⽛契約概要⽜および⽛注 意喚起情報⽜が明確化され,翌年には意向確認書面の導入,比較情報の留意 点等が監督指針に盛り込まれることによって,情報提供・説明義務の内容は 一段と具体的かつ明確なものとなった。平成26年改正保険業法は,294条に 基づく情報提供義務,294条の⚒に基づく意向把握義務を,法的義務として 明確に位置づけている4)。
近時における募集チャネルの多様化・大規模化に伴い,保険募集を取り巻 く環境が変化し,保険会社による管理・指導を通じた保険募集の適正化を図 るという枠組みにも修正が必要であるとの観点から5),改正保険業法は,保 険募集人に対する独自の体制整備義務(294条の⚓)を新設した。乗合代理 店の募集形態や販売実績等を把握するため6),一定規模以上の保険募集人に ついては,帳簿書類の備付け(保険業法303条)や事業報告書の提出(同304 条),業務委託先に対する立入検査権限なども規定された。
4) すでに,情報提供・説明義務を法令のレベルに引き上げるべきことは学説に おいても主張されていたところである。出口正義⽛保険募集規制のあり方に関 する一考察 ドイツの保険募集規制と比較して ⽜生命保険論集168号33頁
(2009)は,本来的には,保険法に規定すべきことを指摘される。
5) WG 報告書⚘頁。
6) WG 報告書20頁。
保険会社と保険募集人の体制整備義務を比較すると,保険会社は,①顧客 に対する重要事項説明,②顧客情報の適正な取扱い,③委託先における当該 業務の的確な遂行その他の健全かつ適切な運営を確保するための体制整備
(100条の⚒)が求められるのに対して,保険募集人は,上記の①~③に加え て,④複数の保険会社の商品についての比較情報提供・比較推奨販売,⑤保 険募集人指導事業を実施する場合の実施方針の適正な策定及び当該実施方針 に基づく適切な指導についても,健全かつ適切な運営を確保するための措置
(294条の⚓第⚑項)が求められている。監督指針は,保険募集人が,社内規 則等を定めて,適切な教育・管理・指導を行うとともに,監査等を通じて実 態等を把握し,不適切と認められる場合には,適切な措置を講じるとともに 改善に向けた態勢整備を図ることを要求している7)。WG 報告書では,体制 整備義務は⽛その業務の規模・特性に応じ⽜た体制整備が求められるとされ たが,294条の⚓はとくにそのような制限を設けていないものの,保険募集 人,とりわけ保険代理店については,規模や業務の内容は様々であり,求め るべき体制整備のレベルは異なりうる8)。
保険会社は①重要事項説明などについての体制整備義務を負っている以上,
保険募集人は保険会社の社内規則やマニュアル等に従って募集業務を実施す ることとなり,保険募集人は保険会社から完全に独立した形で管理や教育・
指導を行うわけではない。他方で,④比較情報提供・比較推奨販売について は,保険会社の体制整備義務の内容とされていないことから,保険募集人の 独自業務として,社内規則の策定や代理店の従業員等への管理や教育指導の 実施が求められることになるが,情報提供等の側面では保険会社の管理・指 導を受けることは同様である。
7) 保険会社向けの総合的な監督指針(平成28年⚘月)(以下,監督指針という)
Ⅱ 4 2 9。
8) 井上・前掲注2)論文122頁等。
⑵ 乗合代理店の比較情報提供・比較推奨販売
複数の所属保険会社を持ち,それぞれの会社の保険商品を販売できる乗合 代理店は,中立的な立場で,複数の保険会社の商品の中から顧客のニーズに 合致する商品を選択して推奨することをイメージさせ,顧客の側にもそのよ うな期待を生じさせることがある9)。しかしながら,あくまで保険業法上は,
保険会社からの委託を受けて保険募集を行うものであって,保険会社から独 立した立場で保険商品の推奨等を行う保険仲立人とは異なり,推奨行為の中 立性や公平性が担保されているわけではない10)。そのため,乗合代理店が比 較情報の提供や比較推奨販売を行う場合につき,追加的な規制が設けられた。
保険募集人が負うべき情報提供義務として,保険業法294条⚑項は,保険 募集人等に,内閣府令で定めるところにより,⽛保険契約の内容その他保険 契約者等に参考となるべき情報⽜の提供を行うべきことを義務づけている。
その中で,乗合代理店が比較情報提供・比較推奨販売を行う場合については,
同法施行規則227条の⚒第⚓項第⚔号(特定保険契約につき,同規則234条の 21第⚑項第⚒号)は,⽛二以上の所属保険会社等を有する保険募集人⽜すな わち乗合代理店について,①所属保険会社等が引き受ける保険に係る一の保 険契約の契約内容につき当該保険に係る他の保険契約の契約内容と比較した 事項を提供しようとする場合には,当該比較に係る事項の説明を求めるとと もに,②二以上の比較可能な同種の保険契約の中から顧客の意向に沿った保 険契約を選別することにより,保険契約の締結又は保険契約への加入をすべ き一又は二以上の保険契約の提案をしようとする場合には,当該二以上の所 属保険会社等を有する保険募集人が取り扱う保険契約のうち顧客の意向に沿 った比較可能な同種の保険契約の概要及び当該提案の理由を説明することと し,③二以上の所属保険会社等が引き受ける保険に係る二以上の比較可能な
9) 監督指針Ⅱ 4 2 9⑷は,とくに乗合代理店に限定せず,⽛公平・中立⽜
という表現から顧客の誤認を生じさせるおそれがある点を留意させる。
10)WG 報告書18頁。保険募集人である乗合代理店は,保険業法上,保険仲立人 に課されるような誠実義務(保険業法299条)を負う立場にはない。
同種の保険契約の中から②の規定による選別をすることなく,提案契約の提 案をしようとする場合には,当該提案の理由の説明を求めている。①は比較 情報提供であり,保険業法300条⚑項⚖号に基づく規制の対象となる。他方,
②と③は比較推奨販売として,⽛顧客の意向に沿った保険契約の選別⽜を伴 うか否かで区別される。
⽛顧客の意向に沿った保険契約の選別⽜を行う比較推奨販売について,保 険業法施行規則は⽛比較可能な同種の保険契約の概要⽜と⽛当該提案の理 由⽜の説明を求めている。監督指針では,より具体的に,顧客の意向に沿っ た商品のラインナップの提示,その中から当該乗合代理店が推奨する商品の 提案という⚒つの段階を想定したうえで,前者の段階では,乗合代理店が取 り扱う商品の中から,顧客の意向に沿った比較可能な商品の概要を明示し,
顧客の求めに応じて商品内容の説明が要求される11)。この段階での説明はあ くまで商品の全容であるから,従来の⽛契約概要⽜等の説明書類に基づく情 報提供を想定しているものと思われる12)。さらに,乗合代理店がそれら比較 可能な商品のうち絞込みを行って具体的に商品提案をする場合には,商品特 性や保険料水準などの客観的な基準や推奨する理由等についても説明が求め られる。ここでの絞込みは,保険募集人の⽛判断⽜に基づく商品提案である ため,上記のような商品概要の説明にとどまらない推奨理由,アドバイスが 規制レベルで求められている13)。推奨する商品の優位性を表示するにあたっ ては,保険業法300条⚑項⚖号の規制もあわせて,公平・中立の担保が求め られる。
11) 監督指針Ⅱ 4 2 9⑸。
12) 監督指針は,自らが勧める商品の優位性を示すために他の商品との比較を行 う場合には,当該他の商品についても,その全体像や特性について正確に顧客 に示すとともに自らが勧める商品の優位性の根拠を説明するなど,顧客が保険 契約の契約内容について,正確な判断を行うに必要な事項を包括的に示す必要 がある点を留意させる。
13) 江澤雅彦⽛保険募集規制の展開⽜早稲田大学保険規制問題研究所編⽝保険販 売の新たな地平 保険業法改正と募集人規制 ⽞152頁(保険毎日新聞社,
2016)。
乗合代理店の比較推奨販売等において,公平・中立の観点からとくに懸念 されるのが,いわゆる手数料バイアスである。金融審議会 WG では,乗合 代理店の手数料開示規制を設けるべきかが議論されたが,乗合代理店による 保険商品の比較販売については,一定の適切な体制が整備・確保されると考 えられるとして,規定の新設は見送られた14)。とはいえ,形式的には商品の 推奨理由を客観的に説明しているように装いながら,実質的には,例えば保 険代理店の受け取る手数料水準の高い商品に誘導するために商品の絞込みや 提示・推奨を行うものではないようにすべきことは,乗合代理店の体制整備 義務として当然に要求されるところである15)。
⽛顧客の意向に沿った保険契約の選別⽜を行わずに商品提案をする場合に ついても,当該提案の理由の説明が必要である。この点について,監督指針 は,商品特性や保険料水準などの客観的な基準や理由等に基づくことなく,
商品を絞込み又は特定の商品を顧客に提示・推奨する場合には,その基準や 理由等(特定の保険会社との資本関係やその他の事務手続・経営方針上の理 由を含む。)を説明することが必要であるとする16)。保険募集人の負う情報 提供義務や意向把握義務を前提とすれば,提案理由は,当該商品の全体像や 特性について正確に示したうえで,これが顧客のニーズとの合致しているこ とが中心となるものと思われる。監督指針は,各保険会社間における⽛公 平・中立⽜を掲げる場合には,商品の絞込みや提示・推奨の基準や理由等と して,特定の保険会社との資本関係や手数料の水準その他の事務手続・経営 方針などの事情を考慮することのないよう留意すべきことを求めている。当 該保険募集人が乗合代理店である以上,顧客には公平・中立な商品提案が行 14) 比較販売手法について問題が存在するおそれがある場合などには,必要に応 じて,手数料の多寡によって商品の比較・推奨プロセスが歪められていないか について,当局の検査・監督を通じた検証を行うことが重要であり,今後の状 況如何によっては手数料開示の義務づけが改めて検討されることとされた。
WG 報告書20頁。
15) 監督指針Ⅱ 4 2 9⑸②注(1)。
16) 監督指針Ⅱ 4 2 9⑸③。
われたものという期待が生じうるのであり,そのような疑念を排除しうるだ けの説明が必要であろう。保険募集人の体制整備義務の反映として,保険募 集人は,このような乗合代理店の商品推奨行為に関連して,商品の提示・推 奨や保険代理店の立場の表示等を適切に行うための措置について,社内規則 等において定めたうえで,定期的かつ必要に応じて,その実施状況を確認・
検証する態勢が構築することが求められている17)。
⚓. 乗合代理店の不法行為と所属保険会社の責任
⑴ 保険業法283条の適用範囲
以上のような保険業法や同法施行規則,監督指針等における規制内容を踏 まえて,同法283条に基づく所属保険会社の責任の範囲を考察する。同条⚑
項は,所属保険会社等は,保険募集人が保険募集について保険契約者に加え た損害を賠償する責任を負う旨を規定している。これは,旧保険募集の取締 に関する法律(以下,旧募取法)11条の規定を承継したものであり,民法 715条の使用者責任と同様,報償責任の原理18)を基礎とする。所属保険会社 の保険募集人に対する管理・指導等の責任を負わせるにあたり,民法715条 では委託関係にある損害保険代理店等の不法行為に基づく所属保険会社の責 任を導くことが難しいために設けられた規定であり,保険募集人の賠償資力 を考慮したものと説明される19)。
保険業法283条⚑項にいう⽛保険募集について⽜の意義についても,民法 715条にいう⽛その事業の執行につき⽜の解釈と同じく,保険募集すなわち
⽛保険契約の締結の代理又は媒介⽜(⚒条26号)そのものに限らず,これと密 17) 監督指針Ⅱ 4 2 9⑸④。
18) 幾代通(徳本伸一補訂)・不法行為法195頁以下(有斐閣,1993)。
19)保険研究会編・コンメンタール保険業法438頁(財経詳報社,1996),安居孝 啓・最新保険業法の解説〔改訂版〕958頁(大成出版社,2006),石田満・保険 業法2015〔補訂版〕645頁(文眞堂,2016),山下友信・保険法159頁(有斐閣,
2005),関西保険業法研究会⽛保険業法逐条解説(XXVIII)⽜生命保険論集176 号119頁以下〔竹濵修〕(2011)等)等。
接な関連のある行為を含むと解されている20)。保険募集人の行為が保険募集 と密接に関連するか否かは,保険募集人と所属保険会社の内部関係や主観的 意図によるのではなく,客観的な行為の外形が標準となる。このいわゆる外 形標準説によれば,使用者の業務の執行である行為,あるいはそれと密接に 関連する行為であるとの信頼を基礎とするため,行為の相手方が右の事情を 知りながら,または,少なくとも重大な過失により右の事情を知らないで,
当該取引をしたと認められるときは,使用者の責任は否定される21)。旧募取 法11条に関する下級審裁判例も,職務権限を超える行為,あるいは職務濫用 行為については,被害者である顧客に悪意または重過失があるか否かに着目 して,その適用の可否を判断することで一致している。近時の事例として,
東京高判平成20年11月⚕日判タ1309号257頁は,顧客が手広く会社経営を行 い経済的常識を十分に備えており,取引の違法性も十分に認識し得たとして,
顧客の重過失を認めて,所属保険会社の責任を否定した。他方,山口地萩支 判平成27年⚓月23日判時2278号119頁は,代理店の提案内容は特段に不自然 ではなく,顧客が金融取引等に精通しているとまではいえないこと等から重 過失を否定し,所属保険会社の責任を認めている(ただし,損害の⚔割につ いて過失相殺)。
このように,保険募集人による職務逸脱や濫用行為などのケースでは,保 険契約者側の主観的な態様,すなわち職務逸脱や濫用行為であることにつき 悪意または重過失の有無によって判断されるとしても,保険募集業務を超え た営業上のサービスやアドバイスなどについて,所属保険会社の責任が生じ
20) 鴻常夫監修・保険募集の取締に関する法律コンメンタール156頁〔落合誠一〕
(安田火災記念財団,1993),安居・前掲注19)958頁,前掲注19)逐条解説〔竹 濵〕123頁,山下友・前掲注19)160頁等。
21) 最一小判昭和42年11月⚒日民集21巻⚙号2278頁。重過失の意義につき,最一 小判昭和42年11月⚒日民集21巻⚙号2278頁。民法715条について,被害者に職 務逸脱や濫用行為に対する悪意・重過失がある場合には,外形標準説の根拠が 外形に対する被害者の信頼や使用者の支配領域にある損害の公平な分担という 見地から,学説もおおむね判例を支持する。
るかはなお問題である。東京地判平成⚖年⚓月11日22)は,損害保険代理店が 自動車保険契約の手続後に,保険料額や支払い方法などの通知を怠ったこと につき,信義則上の保護義務違反の責任があるというケースで,保険会社の 旧募取法11条⚑項に基づく責任を否定した。判旨はその理由として,⽛…募 取法11条⚑項に該当するには,損害保険代理店が⽝募集につき⽞保険契約者 に損害を加えたことが必要であるところ,代理店の義務違反行為は,保険契 約締結後に生じたものであって,募集行為とはいえないし,…顧客及び代理 店との具体的な事情のもとで発生した信義則上の義務違反であるから,これ を募集と密接な関連のある行為とすることもできない⽜と述べている。
更新契約の締結手続が⽛保険募集⽜に当たる(それ故に重要事項説明義務 がある)ことは疑いないが,上記の裁判例では,同手続外の事情であること よりも,顧客と代理店との個別具体的な信頼関係から発生した信義則上の義 務に過ぎないことから,保険募集またはそれとの関連性が否定されたものと 解される23)。この点につき,東京高判平成⚓年⚖月⚖日24)は,26歳未満不担 保特約に関する保険募集人の説明義務違反の有無が争われた事案において,
傍論ではあるが⽛どのような内容の契約を締結するかは,契約者が,その必 要に応じ,その意思で決めるべきものであって,保険契約の募集に当たる者 のすべきことではなく,特段の事情のない限り,後者の告知義務は,各契約 の内容を誤りなく理解させるに必要な説明をすることに止まり,それ以上に どのタイプの契約が相手の家族構成に応じて最も適当であるかは,契約を勧 めるうえでのサービスないしは営業上の配慮に止まるものと解さなければな らない⽜と判示している。仮に,保険募集における信義則上の助言義務を生
22) 判時1509号139頁。
23) その後の松山地今治支判平成⚘年⚘月25日(保険毎日新聞(代理店版)平成
⚙年⚔月14日付)や前橋地高崎支判平成⚘年⚙月⚕日(保険毎日新聞(代理店 版)平成⚘年12月⚙日付)においても,契約更新時の信義則上の義務違反によ り無保険状態となったことにつき保険代理店の責任が認められたが,所属保険 会社の責任は否定されている。
24) 判時1443号146頁。
じさせる⽛特段の事情⽜ありとされた場合には,保険募集ないしその関連行 為との評価は肯定されるものと思われるが,顧客の立場からは,契約の締結 に関する助言と契約の維持継続に関する助言との違いは大きなものではない。
⽛保険募集⽜は保険業法上,⽛保険契約の締結の代理又は媒介⽜(⚒条26号)
と定義されているが,契約締結に至るまでの一連の行為を含み得るものと解 されており25),監督指針も保険募集および募集関連行為の概念を細かく定義 している26)。しかしながら,保険業法283条⚑項にいう⽛保険募集について⽜
の概念は所属保険会社等の帰責性が及ぶ範囲を画するものであり,上記の定 義とは必ずしも整合的である必要はない。保険募集人と顧客との関係は,現 実的には,当初の保険契約が無事に成立すればそれで解消されるわけではな く,他の保険契約の勧誘はもちろん,当該契約の更新に向けて継続的に行わ れることが少なくないであろうから,保険募集人がサービスとして行った 様々な配慮は,保険募集業務とは無関係のものではなく,少なくとも⽛外形 上⽜は募集に関連する行為というべきであろう。また,このような営業上の 配慮ないしサービスによって保険取引関係が維持継続されることによる利益 は,代理店のみならず保険会社も享受するのであるから,報償責任の見地か ら,所属保険会社の責任が肯定すべき場合もありえよう27)。
銀行などの大規模な乗合代理店については,所属保険会社の指導教育を受 けるものの,独自の営業方針や施策,リスク管理などを行う面が強く,もと もと前提としていた実質的な指揮監督関係があるとは必ずしもいえない状況 がある。また,保険募集人の大規模性は,それ自体,保険募集人の賠償資力 を勘案する必要性が小さいことも示すものであり,このような大規模な乗合 25) 山下友・前掲注19)159頁,安居・前掲注19)940頁等。なお,前掲東京地判平 成⚖年等を含め,裁判所における⽛保険募集⽜概念の解釈は狭いものとなって いる。なお,大阪地判平成⚙年⚗月31日判時1645号98頁参照。
26) 監督指針Ⅱ 4 2 1⑴⑵。
27) 木下孝治⽛保険料の不払いと保険会社による保険免責の主張の可否⽜ほうむ 49号71頁(2003年)。出口正義⽛判批⽜損害保険研究58巻⚒号233頁以下(1996)
も,当該事案については旧募取法11条の責任を認める余地があるとする。
代理店について,所属保険会社による代位責任を肯定することが必要かとい う点には疑問の余地もある28)。しかしながら,保険募集業務,とりわけ情報 提供義務の履行については,保険会社による管理・指導に従う部分がないと はいえず,保険仲立人のように,賠償資力の確保が法的に担保されているわ けでもないのであるから,少なくとも保険業法283条の解釈としては,独立 性が強く,賠償資力の十分な保険募集人であっても,これを適用除外とする ことは容易ではないように思われる。
⑵ 所属保険会社の免責
上記のとおり,改正後の保険業法においても大規模乗合代理店の不法行為 について,所属保険会社の責任を一般的に否定することは難しいと考えるが,
このような解釈は,保険契約者の保護には資するものの,保険募集人の違法 行為を抑止する効果が弱められるとの懸念もある。そこで,このような場合 には,同条⚒項の免責を積極的に認めるか29),あるいは同条⚓項の求償権を 行使させることによる調整を行うことが考えられる。
保険業法283条⚒項は,所属保険会社等が保険募集人の選任・雇用・委託 について相当の注意をしたこと,ならびに保険契約者に加えた損害の発生の 防止に努めたことを要件として,所属保険会社等の免責を認めている。この 283条⚒項の免責については,民法715条⚑項但書の免責と同じく,制限的に 解されてきた。まず,所属保険会社等が保険募集人の選任・雇用・委託につ いて相当の注意をしたか否かについては,単に募集人資格等を有する者を選 任したというだけでは足りず,その者の募集活動についての具体的な適格性 の有無などに対する調査や日常的な教育・指導も要求される30)。保険募集人 28) 木下孝治⽛募集チャネルの多様化と保険募集規制の課題⽜保険学雑誌588号 75頁以下(2005),山下徹・前掲注2)99頁等以下は疑問を提示しつつも,賠償 資力の確保の必要性に言及し,あるいは免責や求償権行使による調整を示唆す る。
29) 木下・前掲注28)75頁以下。
30) 前掲注20)コンメンタール〔落合〕158頁。
の選任等と損害との間に因果関係がないことを立証しないかぎり,免責は認 められない。次に,保険契約者に加えた損害の発生の防止に努めたとの要件 についても,単に内部的な規律を設けたり,委託契約の中にそのような条項 を入れるだけでなく,当該具体的な状況のなかで,損害の発生防止に通常必 要とされる行為を実施していなければならないとされる。具体的には,日常 的な教育・指導などの管理が十分であったかが問われるのであり31),一定の 行為を一般的に禁止していても,本条の責任を免れることはできない。
このような制限的な解釈は,民法715条⚑項但書に基づく免責がほとんど 有名無実化し,使用者責任が実質的な無過失責任として理解されている32)こ と整合的である。しかしながら,民法715条は,被用者に十分な賠償資力が あることを想定していないのであり,保険業法283条の前提となる所属保険 会社と保険募集人との関係は相当異なっている。その一方で,保険業法283 条も,民法715条と同じく報償責任を反映したものである点では共通してお り,保険契約者の保護という要請があることを考慮しても,保険会社による 免責の立証は容易に認めないとする従来の考え方を積極的に変更すべきかは なお慎重な検討が必要である。保険契約者の保護を考慮しつつ,保険募集人 と所属保険会社との最終的な責任負担につき公平を確保する手段としては,
加害行為をした保険募集人に対する所属保険会社への求償権を適切に行使さ せるほかないように思われる。
⑶ 所属保険会社の求償権
金融審議会 WG では,乗合代理店が一社専属の保険募集人に比べて,保 険会社による管理・指導が及びにくいことを踏まえ,保険会社によるこうし た規律付けを補完する観点から,保険会社が保険業法283条に基づいて保険 募集人が顧客に与えた損害を賠償したときは,当該保険会社が当該保険募集
31) 石田・前掲注19)647頁。
32) 潮見佳男・不法行為Ⅱ〔第⚒版〕34頁以下(信山社,2011),幾代・前掲注18) 209頁等。なお,国家賠償法⚑条参照。
人に求償権を行使することを義務づけるべきではないかという指摘がなされ たが,前述した手数料開示規制と同様,一定の行為規制や体制整備義務が課 されることなどによって保険募集人に対する規律が強化されることを理由に,
求償権行使の義務づけは見送られた33)。とはいえ,保険募集人の多様化・大 規模化という状況を踏まえれば,適切な求償権行使によって最終的な責任負 担の調整を図ることは,より積極的に検討されるべきである。
保険募集人の不法行為によって被害者である顧客に対してその損害の賠償 を行った所属保険会社は,保険募集人に対して求償権を行使することで,最 終的な責任を保険募集人に帰属させることができる。問題は,保険業法283 条についても,従来,民法715条と同様,最一小判昭和51年⚗月⚘日民集30 巻⚗号689頁に依拠する形で,所属保険会社の求償権は⽛信義則上⽜制限さ れる余地があるとされる点である34)。同判例は⽛使用者は,その事業の性格,
規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の 態様,加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度そ の他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と 認められる限度において,被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をする ことができる⽜とする一般論を述べたうえで,使用者が当該被用者に求償で きる範囲を,損害額の⚔分の⚑に制限した。
信義則上の制限があることを前提としても,私利を図るために行った不法 行為,例えば,前述したような保険料名目での金銭の詐取などについては,
保険契約者に悪意または重大な過失がないかぎり,所属保険会社の責任は免 れないが,当該保険代理店に対する求償権は制限されないことにはおそらく 異論はないであろう。他方,職務行為の一環として情報提供義務違反がある ような場合はどうか。具体的には,保険会社の監督面での不注意などの帰責 性があるか否か,保険募集人の独立性(指揮監督関係の強さ)や,賠償資力 の有無等によって,総合的に判断せざるを得ないであろうが,信義則に照ら
33) WG 報告書20頁以下。
34) 前掲注20)コンメンタール〔落合〕159頁,山下友・前掲注19)161頁以下等。
しても求償権を制限する必要がないとされる場合はありうる。民法715条の 責任については,任意保険への加入の有無,すなわち加害行為による損害分 散に対する配慮が問題となることが多いが,近時においては,保険代理店が 法的責任を追及されるリスクを回避する手段として,保険募集人賠償責任保 険に加入することで,保険募集人自身が損失の回避・分散を図ることが可能 となっている35)。このような事情も,一定規模の保険募集人,とりわけ大規 模な法人代理店等については,全面的な求償権行使が許容される根拠となり 得よう。
では,乗合代理店の不法行為により複数の所属保険会社が責任を負う場合 には,求償権および各自の負担部分はどのように考えるべきか。前掲最判昭 和51年が示した信義則上の制限は,使用者の代位責任を前提とするものであ り,使用者が負うべき責任の内容は被用者のそれと一致する。つまり,使用 者に加害行為について固有の負担部分があるという構成は採用していないの である。このことはその後の判例によっても確認されている36)。最二小判平 成⚓年10月25日は,⽛各使用者の責任の割合は,被用者である加害者の加害 行為の態様及びこれと各使用者の事業の執行との関連性の程度,加害者に対 する各使用者の指揮監督の強弱などを考慮して定めるべきもの⽜としたうえ で,被用者の負担部分は考慮されないとする。
このような判例の立場を保険業法283条にあてはめると,不適切な保険募 集がなされたことによって保険契約者が損害を負った場合には,所属保険会 社が損害賠償額の全額を支払った場合,保険募集人のみに不法行為が成立す る場合には全額の求償が認められるか信義則により制限されるかのいずれか しかないことになる。しかしながら,保険募集については所属保険会社と保 険募集人は,それぞれが情報提供義務や意向把握義務を負うとともに,所属
35) 山野嘉朗⽛保険代理店の責任⽜平沼高明先生古稀記念論集・損害賠償法と責 任保険の理論と実務290頁(信山社,2015)。
36) 最二小判昭和63年⚗月⚑日民集42巻⚖号451頁,最二小判平成⚓年10月25日 民集45巻⚗号1173頁。
保険会社は保険業法100条の⚒に基づき,保険募集人は同法294条の⚒に基づ き,それぞれ主体的に,適切な保険募集業務の体制を整備すべき義務を負っ ている。保険募集人の不適切な保険募集について,所属保険会社自身も情報 提供義務や意向把握義務,体制整備義務の違反の責めを負うべき場合には,
保険募集人と所属保険会社とは,いわば並列的に責任を負う主体として,そ れぞれ固有の負担部分を有するとみることができる(民法719条)。所属保険 会社の固有の負担部分がありうるとすると,保険募集人が自己の負担部分を 超えて損害賠償義務を履行した場合には,負担部分を有する所属保険会社に 対して,求償(逆求償)できることになる37)。
⑷ 不適切な比較情報提供・比較推奨販売と所属保険会社の責任
最後に,乗合代理店が,不適切な比較情報提供や比較推奨販売により顧客 に損害を与えた場合には,どの保険会社が所属保険会社等として責任を負う のかという問題について言及しておきたい。違法な募集行為があっても,保 険契約が締結されなければ,通常はその募集行為ないし保険契約にかかわる 損害は発生しないと考えられることから,原則として,当該保険商品につき
⽛販売され,契約の締結にいたった保険会社等⽜が責任を負うべきであると される38)。しかしながら,比較推奨販売が行われる場合には,その判断が容 易でない場合も少なくないように思われる。
ここで,保険業法施行規則227条の⚒が想定する段階にしたがって,乗合 代理店は,①比較可能な商品A,商品B,商品Cを絞り込んだうえで,各商 品の概要について説明し,そのうえで②各商品の特性や保険料水準などの客 観的な基準や推奨する理由等を説明したうえで,実際には最適な商品はBで あったが,商品Aを推奨したと仮定する。その原因として,a)過失により
37) 鳥栖簡判平成27年⚔月⚙日判時2293号115頁(控訴審判決である佐賀地判平 成27年⚙月11日判時2293号112頁)は,いわゆる逆求償が認められることに言 及している。
38) 前掲注19)逐条解説〔竹濵〕122頁。
提供した情報が不十分ないし誤導的であった,あるいはb)商品Aを販売し た場合に受領できる手数料を取得する目的で意図的に商品Aに有利な内容の 比較情報を提供した,ということが考えられるとする。
①の段階では,具体的に提案に至っていないため,各商品の情報提供義務 違反等が問題となるにすぎないが(商品の絞り込みについて,意向把握義務 違反等の問題ともなりうる),②の段階では,乗合代理店は商品Aの募集を 行っているものと観念できるものの,a)の原因があったとすると,商品A
~Cのいずれについても保険募集人の情報提供義務違反がありうるのであり,
仮に他の商品の重要事項説明に誤りがあった場合や,商品説明に誤りがあっ たことにより複合的に,顧客の誤解が生じたと評価できる場合には,顧客が 締結した商品Aの保険会社の責任とすべきか,他の保険会社の責任も生じる かという問題に直面する。b)の原因であった場合も,もっぱら商品Aの保 険会社が責任を負うということでよいかということには疑問が残る。b)は 情報提供の適切性・十分性の問題ではなく,保険募集人として求められるモ ラルや誠実さの問題であり,そのような乗合代理店と委託契約を結んだ保険 会社すべてに帰責性があるということもできるからである。
また,各商品の重要事項説明を誤ったというだけであれば,当該商品を提 供する保険会社の管理や教育指導に不備があったとして,保険会社の体制整 備義務に結びつけることで,当該保険会社の責任を正当化できるが,比較情 報提供や推奨販売が適切に行われるための手法や客観的な比較の水準等の手 法に問題があるという場合には,前述したように,乗合代理店独自の体制整 備義務の問題である。もっぱら乗合代理店の体制整備義務違反によって生じ た保険契約者の損害については,比較の対象となった各商品を提供する保険 会社のすべてが代位責任を負うと考えるか,あるいは乗合代理店の独自業務 であり,保険会社の実質的指揮監督関係にないことを理由に283条の責任を 否定するか。後者の方がより実態に即した妥当な解決を図れそうではあるが,
同条の射程が及ぶか否かの線引きは必ずしも明確ではない。
⚔. むすびに代えて
以上,複数の所属保険会社を持つ乗合代理店,とりわけ大規模なものにつ いて,所属保険会社の損害賠償責任を定める保険業法283条の規定の解釈適 用をめぐる問題について,若干の考察を行った。大規模な乗合代理店が顧客 が期待する機能や役割という側面では,保険仲立人に類似する実質を備えて いるとはいっても,結局のところ,283条⚑項の文言ならびに同条が基礎と する報償責任の見地からは,大規模な乗合代理店であっても,一般論として はその適用を排除することは難しい。とすれば,責任の帰属についてバラン スを図るためには,所属保険会社が不法行為を行った保険募集人に対して求 償権を行使するという方法が現実的であろう,というのが本稿における一応 の帰結である。しかしながら,先に述べたように,広く所属保険会社の責任 を認めたうえで,内部関係において求償で調整しようとすれば,その責任の 所在は非常に複雑かつ不明確なものとなるおそれがある。立法論としては,
一定の大規模乗合代理店については,本条の適用対象から除外するとともに,
保険仲立人と同様,賠償資力の確保を求める規制を設けることが望ましいと 考えられるが,小規模な乗合代理店など従来型の保険募集人に過度な負担を 課すものとならないものとする配慮が必要である。これらの立法論的課題に ついては,比較法的な考察を含め,今後の課題としたい。
(筆者は熊本大学教授)