• 検索結果がありません。

傷害保険における外来性の要件

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "傷害保険における外来性の要件"

Copied!
20
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

傷害保険における外来性の要件

2つの最高裁平成19年判決以降の下級審の動向を踏まえて

勝 野 義 人

■アブストラクト

傷害保険等における 外来性 の解釈及び立証責任について平成19年の2 つの判例が一定の結論を出して以降も,これに関して多くの裁判例が出され ているところであり,これら裁判例を分析していくと,判例を前提とした上 でも 外来性 や 因果関係 を否定し,保険金支払義務を否定したものも 多くみられる一方, 疾病免責条項 等の免責規定の適用については,平成 19年判例以前の多数説・実務運用( 請求原因説 )の考え方を前提とした場 合と異なる判断が下され,その免責が否定されているものが多く見受けられ る。

疾病免責条項 が存在していても,それによる免責が認められる事案が 少ないことに鑑みれば,疾病による免責に関する規定の文言についてはより 踏み込んだ検討が必要であり,割合的な認定及び支払を行える規定の仕方が,

裁判所の審理及び当事者の立証の衡平に資すると考える。

■キーワード

外来性,疾病免責条項,主張立証責任

1.はじめに

外来性 の要件については,平成19年に出された2つの最高裁判決(最

*平成25年3月15日の日本保険学会関東部会報告による。

/平成25年4月19日原稿受領。

(2)

二小判平成19年7月6日民集61巻5号1955頁,最二小判平成19年10月19日判 時1990号144頁 。(以下,便宜上,まとめて 平成19年判例 ということも ある。))により,その解釈及び立証責任について,最高裁の一定の結論が出 されている。

これら判例を前提とする場合,実務に対する影響は大きく,とりわけ,今 後 外来性 を約款にどのように規定していくかについても検討がなされ,

既に変更を加えている保険会社も多々ある。また,上記2つの判例以降も,

関連する下級審判決が多数確認できる。

そこで,本稿では, 外来性 の規定等が問題となる紛争において,上記 2つの判例以降のいくつかの裁判例を概観し,裁判実務上どのように扱われ 審理されているかにつき分析を加えた上で, 外来性 についての約款規定 のあり方について考察をするものである 。

2. 外来性 の一般的定義

外来性という要件については, 傷害の原因が被保険者の身体の外部から 作用することをいう という点について異論はない 。

また,この要件が, 身体の疾患等内部的原因に基づく事故を保険給付の 対象から除外する趣旨 である点から,従来の裁判例には,請求者の側が,

1) なお,最一小判平成19年7月19日(平成18年(受)第961号)の事案におい ても, 外来性 の要件につき同様の結論を導き出しているが,本稿では,検 討の内容上,同判例の引用は割愛する。

2) 本稿では,保険者及び共済者を 保険者 と,被保険者及び被共済者を 被 保険者 と総称することとする。また,保険金及び共済金についても, 保険 金 または 保険給付 と総称し,その請求をするものを 請求者 と総称す る。なお,扱う殆どの事案において被保険者が死亡しているため,事故等によ り被保険者に生じた結果を,単に 死亡 と表現することもある。

3) 従来の学説及び裁判例に関する分類としては,中村心・最判解民事篇平成19 年度 540〜543頁(2010)参照。

4) 江頭憲治郎・商取引法〔第6版〕521頁(弘文堂,2010),山下友信・保険法 454頁(有斐閣,2005年), 阿憲・保険法概説288頁(中央経済社,2010)等。

(3)

傷害が外部からの作用によって生じたことに加え,当該作用が疾患等の内 部的要因によって生じたものでないこと ,すなわち, 専ら 外部的作用 が原因で傷害が生じたこと まで立証することを求めるもの(以下, 請求 原因説 という)が多くみられた 。

3.平成19年判例の概要

⑴ 最二小判平成19年7月6日民集61巻5号1955頁(以下, 平成19年7月 判例 という。)

災害補償費(規約内容は傷害保険約款と同様。疾病免責条項あり)に関す る事案であり,パーキンソン病の既往歴を有する被共済者Aが,もちをのど に詰まらせて窒息し,後遺障害が残った事案であり ,この事案において,

最高裁は,以下のとおり判示した。

本件規約…にいう外来の事故とは,その文言上,被共済者の身体の外部 からの作用…による事故をいうものであると解される。そして,本件規約は,

この規定とは別に,補償の免責規定として,被共済者の疾病によって生じた 傷害については補償費を支払わない旨の規定を置いている。 このような本 件規約の文言や構造に照らせば,請求者は,外部からの作用による事故と被 共済者の傷害との間に相当因果関係があることを主張,立証すれば足り,被 共済者の傷害が被共済者の疾病を原因として生じたものではないことまで主

5) 福岡高判平成8年4月25日判時1577号126頁,東京高判平成9年9月25日判 タ969号245頁,東京地判平成12年9月19日判タ1086号292頁,大阪高判平成19 年4月26日判時2006号146頁等。

これに対して,保険金請求者は, 身体への外部からの作用があること の みを主張・立証できればよく, 傷害の原因が疾患等内部的原因によらないこ と まで主張・立証する必要はなく, 内部的原因によること は,保険者の 側で,疾病免責を主張する際に,主張及び立証がなされるべきだとする見解が,

抗弁説 と呼ばれる。

6) 裁判所による事実認定上は, パーキンソン病の患者にはえん下機能障害の 症状が出ることがあるが,被共済者については飲食に支障はなく,医師から食 事に関する指導等はされていなかった。 となっている。

(4)

張,立証すべき責任を負うものではない 。

本件事故がAの身体の外部からの作用による事故に当たること及び本件 事故と傷害との間に相当因果関係があることは明らかであるから,Aは外来 の事故により傷害を受けたというべきである。

⑵ 最二小判平成19年10月19日判時1990号144頁(以下, 平 成19年10月 判 例 という。)

自動車保険の人身傷害補償特約(疾病免責条項なし)に関するもので,自 動車運転中の被保険者Bが,車両ごとため池に転落して溺死した事例である。

なお,Bは,狭心症の発作による意識障害のために車の適切な運転操作がで きなかったのではないかと疑われる事案であった 。この事案において,最 高裁は,以下のように判示した。

本件特約にいう 外来の事故 とは,その文言上,被保険者の身体の外 部からの作用による事故をいうと解されるので(…〔筆者注:平成19年7月 判例引用〕),被保険者の疾病によって生じた運行事故もこれに該当するとい うべきである。本件特約は,傷害保険普通保険約款には存在する疾病免責条 項を置いておらず,…運行事故が被保険者の疾病によって生じた場合であっ ても保険金を支払うこととしているものと解される。 このような本件特約 の文言や構造等に照らせば,保険金請求者は,運行事故と被保険者がその身 体に被った傷害…との間に相当因果関係があることを主張,立証すれば足り る 。

本件事故は,Bが本件車両を運転中に本件車両ごとため池に転落したと いうものであり,Bは本件事故によりでき死したというのであるから,仮に Bがため池に転落した原因が疾病により適切な運転操作ができなくなったた めであったとしても,…〔保険者〕が本件特約による保険金支払義務を負 う 。

7) 本件事故時に,狭心症の発作による意識障害が発生したか否かについては裁 判所に事実認定されていない。

(5)

⑶ 平成19年判例についての分析

平成19年判例は,従来の多数説及び実務運用であった 請求原因説 の立 場と異なり, 抗弁説 を採用したものと評価されている 。すなわち,

外来性 とは,単に 傷害の原因が被保険者の身体の外部から作用するこ と をいうものであると結論付けた。上記判例は,従来の裁判例の多くとは 異なり,外来性と疾患等の内部的原因とを, 表裏一体のものとしてとらえ ていない と指摘される 。したがって,上記判例を分析するならば,その 主張・立証責任の分配は,

請求原因事実(請求者)

① 被保険者の身体の外部からの作用による事故

② その事故と傷害との間に相当因果関係があること 抗弁(保険者)

③ 疾病免責条項 (規定がある場合に限る)の要件該当事実

という構造となる 。

このような考え方は,近年の消費者保護重視の立法が多くなされている背 や,それに伴う裁判所の発想に沿うものといえよう 。

8) 前掲注5)参照。

9) 阿憲・保険判例百選85頁参照。

10) ・前掲注4)291頁。

11) 最高裁の立場は,約款解釈における主張立証責任の分配に関して,法律要件 分類説に忠実なものといえる(前注3)546頁参照)。

12) 平成13年施行の消費者契約法以降の種々の消費者保護に関する立法や,保険 法における片面的強行規定の採用(萩本修編・一問一答保険法20頁(商事法務,

2009)参照),また,現在法制審議会でなされている債権法改正における約款 に関する議論(法務省HP参照)等を参照。なお, 行き過ぎた契約者保護

(消費者保護) に警鐘を鳴らすものとして,嶋寺基 保険法施行から3年を迎 えて 共済と保険・657号24頁参照。

13) 西嶋梅治 外来性要件の再検討 損害保険研究第70巻2号11頁は,平成19年

(6)

なお,この二つの最高裁判決によっても,保険契約の種類に関して,各々 の判例の射程の問題が議論されているところであり,また,二つの判例とも,

疾病先行型 の事案に関するものであるといえ,他の類型の事案について どのように判断がなされるべきかという点では議論の余地がある。

4.平成19年判例以降の下級審裁判例の分析

以下,平成19年判例以降の下級審裁判例を分析してみたい。(裁判例一覧 表を文末に記載。なお,以下,一覧表に沿って裁判例を①〜 として引用す る。)

一連の裁判例を概観していくと,以下のようないくつかの視点からの検討 が考えられる。

外来の事故 が認定される場合の処理

何らかの 外来の事故 が証拠上認定されている事案(②④⑤⑧⑨

)については,次の段階として,2つの方向性があり得る。

ア 因果関係の問題に移行して因果関係を否定したもの

1つ目は, 外来の事故 が,死亡(死因)に対してどのように影響した かという,因果関係の問題についての審理に移行するものであり,認定され 判例の評価として, 外来性の要件を既存の判例学説から飛躍的に拡大された ものとし,傷害保険金支払いの対象を狭い範囲に制限しようとする約款制定者 の意図を粉砕して,事実上これを骨抜きにして消費者の保護を強化しようとし てものと評価することもできよう としている。

14) 疾病と傷害事故が競合する場合として,①被保険者の直接の死因は発作性の 疾病であるが,当該疾病の発作が何らかの外部的なきっかけによって生じたと 認められる場合(本稿では 事故先行型 と呼ぶ。),②被保険者の死亡を招来 した原因は外部からの作用による事故(溺水・転倒等)であるが,これらの事 故を引き起こした原因が被保険者の身体疾患にあると認められる場合(本稿で は 疾病先行型 と呼ぶ。),③被保険者の死亡が,外来の事故と身体内部の原 因とが共同して生じたものである場合(本稿では, 同時競合型 と呼ぶ)に 類型化される。これによれば,本件二つの最高裁判決は,この内の②の類型で あるといえる( 阿憲・損害保険研究65巻3・4号435頁参照)。

(7)

た 外来の事故 によって,通常死亡しないであろうことが認定されれば,

因果関係が否定されることとなり,保険金支払義務は否定される(②⑤の判 旨) 。この場合には, 事故の軽微性 が認定されることが多く,被保険者 の外傷の程度や事故態様,事故現場の状況等の事情が考慮されることが多い。

因果の流れとしては, 疾病の発症→事故の発生→死亡 という一連の出来 事の内,

→事故の発生→

という部分がなくても,死亡していたとするも のである 。

②⑤は,死因等が,事故の衝撃とは無関係であるとまでは断言していない が,相当因果関係という枠組みの中で, 本件事故からその結果(保険金支 払事由である死亡等)が生じるとはおよそ考えられない という発想に基づ き,請求者の因果関係についての立証が尽くされていないことを理由に,保 険金支払義務を否定したものといえる。裏を返せば,一般的に およそ考え られない因果関係の存在 が問題となる事例においては,請求者の側が,単 なる可能性にとどまるような因果関係の立証をするだけでは足りず, 本件 では因果関係が認められる特殊事例であること まで主張・立証しなければ ならないことを表しているものであると評価できる。この点,外来性の要件 も否定した①も,②⑤の認定と同趣旨と考えられる。

なお,②⑤ともに,判決の中では平成19年判例を引用していないが,相当 因果関係に関してどのように解すべきかについて平成19年判例が一般論を述 べているわけではないことからすれば,従来の一般的な相当因果関係の考え

15) このような認定のなされる類型は,自動車事故の類型が多い。すなわち,自 動車事故類型においては,身体の外部的作用が(その大小を問わなければ)認 められる場合が多く,このような場合には,因果関係の問題にする方が,説明 がしやすいためと思われる。もっとも,①は,因果関係と 外来の事故 の双 方を否定している。

16) 一部約款には, 疾病または体質的な要因を有する被保険者が軽微な外因に より発症し,またはその症状が増悪したときは,その軽微な外因は…外来の事 故から除きます として,軽微外因による傷害(死亡)が発生した場合は 外 来の事故 とは認めないとしているものがあるが,ここに掲げる裁判例と,そ の発想は同じといえよう。

(8)

方によって判断をすれば足りるという考えの下認定したものと推測される 。 (なお,①は,仮定的因果関係を判断することについて言及している。)

イ 疾病免責条項等の適用に移行するもの

2つ目は, 外来の事故 により死亡することが通常認められるとして,

相当因果関係も認定された場合であり,この場合には, 外来の事故が発生 した原因が疾病であること という,疾病免責条項の適用の有無が審理され ることとなる(④⑧ )。

疾病免責条項の適用の有無に関しては,外来の事故が 疾病によって生じ た可能性がある ということまでしか立証できない場合には,適用が否定さ れると判断しているものが多くみられる(適用を否定したものとして,④⑧

)。

この点が,平成19年判例以前と以後の判断が,大きく異なった点といえよ う。従来の裁判例は,請求者の 外来性 立証の点で, 疾病→外来の事故 の発生 という点について, 疾病によって生じた可能性 が払拭できない 際には, 外来性なし との判断をしていたものが多い 。しかしながら,

平成19年判例以降は,この点に関しては 可能性 では足りず, 特定の疾 病により外来の事故が発生したこと までの立証を求めているものといえる。

一方で, は,疾病免責条項の適用を認めたが,判決文を読む限りでは,

④⑧ に比して容易に 疾病による外来の事故の発生 を認めているよう に読める。④⑧ が, (特定の)疾病によって外来の事故の発生したこ と 等の高度な立証まで要求していると読める一方, は,事故状況等の間

17) 因果関係の考え方については,山下・前掲注 )382頁以下,竹濵修=木下孝 治=新井修司編・保険法改正の論点292頁〔松田武司〕(法律文化社,2009),

中村・前掲注3)548〜550頁を参照。

なお,前掲注3)550頁では,平成19年7月判例は, その説示に照らして相当 因果関係説を採用するものと考えられる が,同事例の因果関係は, いかな る説を前提にしても肯定されると思われるため…内容については踏み込んだ判 断をしていない と解説されている。

18) 東京高判平成9年9月25日・判タ969号245頁(上告棄却)等。

(9)

接事実から推認を重ねて,疾病免責条項の適用を認めている。これは,いわ ゆる風呂溺事案の特殊性 を加味したものと考えられ,類型上,疾病免責 条項の適用が認められる可能性が高いことを示しているといえよう。(もっ とも, 判決も, 可能性のみで足りる と判示したものでなく,推認を重 ねた上で,疾病の特定に関する事実認定は行っている。)

特殊なものとしては,⑨が挙げられ,厳密には疾病免責条項の適用の有無 ではなく, 保険事故から除外される事故 を認定したものであるが,この 事案の約款文言の解釈上,外来の事故を引き起こした直接の 疾病の特定 まで認定できなくとも,その疾病を引き起こす可能性の高い,さらに間接的 な アルツハイマー型認知症 という疾病を立証できれば,保険金支払義務 がないと判断したものであって,約款の規定が違うにしろ,その考え方につ いて上記裁判例との整合性についての検討が必要と考えられる。(後述 ⑷ 参照)

⑵ 外来性についての立証・反証

外来の事故 について争いがあるもの(①⑥⑩ )について は,前提となる認定事実により,下記の4つに分類できる。この点,ここで の議論は,疾病免責条項の適用の段階( 特定の疾病→外来の事故 )とは異 なり, 外来の事故→結果の発生 という段階に関するものであることに留

19) 風呂溺事案の特殊性については,我が国の現状について判示した の判決文 参照。また,入浴中に死亡したケースのうち,溺水吸引による窒息が原因とな っておらず,脳又は心臓疾患が死因となっている非溺死のケースが相当数存在 すること,水中病死により浴槽内で死亡しているのが発見された場合にも 溺 死 として処理されるケースがあることが指摘されている(西嶋梅治・損害保 険研究65巻1・2号27頁)。また,石田清彦・保険判例百選201頁も参照。

20) 裁判例 は,外来の事故を引き起こした特定の疾病についての事実認定を行 っているように判決文からは読めるものの,実質的には,従来の裁判例(東京 地判平成12年9月19日・判タ1086号292頁)と同程度の立証でも,疾病免責条 項の適用により,保険金支払義務を認めなかったものとの評価も可能であると いえる。

(10)

意すべきである。

ア 死体検案書等の死因の記載が 疾病 に基づくものと考えられるもの

(死因の記載が 不詳 のものも含む)

は,死体検案書等の死因が,① 虚血性心疾患 急性心筋梗 塞 や 不詳 とされていたものであり,このような類型では, 外部か らの作用によって死亡した可能性がある という程度では,請求者は 外来 性 の要件を立証できていないと判断されている。保険者が反証を尽くした 結果外来性が否定されたものではなく,請求者が 外来の事故 の存在の立 証を尽くせなかった事案であるといえる。

イ 死体検案書等の死因の記載が 外来の事故 に基づくものと考えられ るもの

一方,⑥ は,死体検案書等に 溺死 (⑥ ), 吐物誤嚥による窒 息死 と記載されており,外来性が認められる事故によるものと一応の推定 が働きそうな事案である が,保険者が反証を尽くした結果,死体検案書 等記載の死因以外の死因の存在の可能性を否定できない,または,それ以外 の死因の可能性が高いものとして,外来性を否定したものである。疾病免責 条項の 立証 と異なり,外来性についての立証責任は請求者側にあるため,

請求者の主張する 外来の事故 以外の原因で死亡したことの可能性を反証 すれば足りる(いわゆる真偽不明(ノン・リケット)の状態にすれば支払義 務はない)。

逆に, の事案は,死体検案書に 溺死 の記載があり,この点について は多量の水を吸引していた事実から, 外来の事故 自体の認定を覆せるも のではなかった。 では, 溺死 が 頭蓋内出血による意識障害 という 疾病に起因した転倒によるものであり,この場合には,疾病免責条項の適否 の問題(なお, の事案では疾病免責条項はなかった。)とならざるを得な

21) 吐物誤嚥事案については,それ自体に外来性が認められるのかという点が争 いになる。裁判例⑩は,吐物誤嚥自体が 外来の事故 に当たらないと判断し た。なお,後掲注22)参照。

(11)

いこととなろう。

ウ 死因が外来の事故又は疾病のどちらから発生するのか,類型的に不明 なもの

は,死因が 低酸素脳症 であったが,低酸素脳症の原因は,類型的に 外来の事故 の可能性も, 統合失調症に伴う疾病 の可能性も双方あり得 るため,疾病により生じた可能性を否定できないときは 事故の外来性 は 否定されるとしたものである。判断のなされ方としては,上記 ア の類型 に類似するといえよう。

エ 請求者主張の 外来の事故 には類型的に 外来性がない と判断し たもの

⑩は,やや特殊であり, 吐物誤嚥 自体は外来の事故にあたるものでは なく, 外来の事故 自体が存在しなかったと判断した事案であり,上記の 裁判例とは性質が異なるといえる 。

事故先行型・疾病先行型・同時競合型 による分類 ア 事故先行型

検討裁判例を前提にすれば, 事故先行型 と認定される類型について は,疾病免責条項の適用が問題とならないと考えられる。

22) 吐物誤嚥事故における外来性に関しては,最三小判平成25年4月16日(平成 23年(受)第1043号)が,外来性を肯定する旨判示した。一方,この判例とは反 対の立場のものとして, 阿憲 傷害保険における外来性の要件の判断基準―

吐物誤嚥事故の場合― 損害保険研究74巻3号1頁参照。同論文は,吐物誤嚥 の事案は,原則外来性が認められないとし,例外的に外来性を認める場合とし て, 外部から身体に対し強い物理的な衝撃が加わった場合(例えば,腹部を 第三者によって激しく殴打されたような場合) や 脳への強い衝撃により嘔 吐中枢が刺激されて嘔吐する場合…のような身体への外部からの衝撃に起因す る嘔吐の場合 を挙げる(同論文27頁)。

23) ・前掲注22)記載の,吐物誤嚥事案において例外的に外来性が認められる 類型において,吐物誤嚥による窒息自体が 疾病 と捉えられるのであれば,

まさにこの類型にあたるといえる。

(12)

すなわち,訴訟においてまず出発点とされるのは,請求者側が立証すべき 外来性 であり,この外来性の判断にあたっては, 事故→死亡 という相 当因果関係が認められるものでなければならず,他の原因により死亡した可 能性について否定できない(保険者により反証がなされた)場合には, 外 来の事故 そのものが立証できていないと判断されている事案が多い(①⑥

。なお,この点について, 判決は 外来の事故 を認定したが,

請求者の立証が確実になされていたかについては疑問がある。)。

この点, 事故先行型 と認定されるものであれば, 外来の事故→疾病の 発症→死亡 という因果が認められているものであるから,その前提として 外来の事故が 疾病を原因として発生したものではない と認定(立証)さ れているといえ,あとは専ら因果関係の問題とならざるを得ない(この因果 関係の判断につき, 判旨が参考になる)。

なお,規定の仕方にもよるが, 事故 が疾病に起因したか否かという点 について問題とするのではなく, 限定支払条項 の文言のように, 損害 (又は 傷害 )が疾病に寄与していた場合に,その寄与度に応じて保険金を 支払うという約款の建て付けになっている場合には,当該条項の該当性は問 題となると考えられる。

イ 疾病先行型

疾病先行型 (この類型が最も多いと考えられる)については, 外来 性 ・ 因果関係 ・ 疾病免責条項 のいずれの段階も,争点となると考えら れる。(前述の裁判例は,その殆どがこの類型である。)

外来性 の点で問題となる場合には, 先行発症した疾病→結果の発生 という 可能性 を立証(反証)できれば, 外来の事故→結果の発生 と いう一連の事実について疑いを生ぜしめ,保険金支払義務を免れるものとい える(①⑥ )。

因果関係 の点で問題となる場合には, 外来の事故→死亡 という間に 相当因果関係がないことを反証(外傷及び事故の軽微性等の間接事実によ る)し,それが成功すれば,逆に,請求者側が, 本件事故→死亡 に相当

(13)

因果関係が認められるとするための特殊事情(本件事故においては死亡等の 結果が生じることに相当性があること)まで立証を尽くさなければならない と考えられる(①②⑤)。

この二点が争点となる事案では,いずれも,外傷や事故自体が軽微である ことや,事故の不自然さなどが事実認定されているものが多い。

他方, 疾病免責条項 が問題となる場合は,前述のように, 先行発症し た疾病→外来の事故の発生 という可能性までしか立証できない場合には,

適用が否定されると判断しているもの(④⑧ )が多くみられるため,こ の点が争点となる場合には, 疾病 及び 症状 についての医的な特定が 相当求められることとなろう。

ウ 同時競合型

同時競合型 というのは,観念上の概念であり,事実認定上は,上記2 つの類型に分類できると考えられる。

なお, 外来の事故 と 疾病 のどちらが原因で死亡したのか 不明 な場合については, 外来性 の立証が尽くされていないものとして,保険 金支払義務は否定されることになろう。

⑷ 保険の種類による分類と判例の射程

上記裁判例を概観していくと,保険の種類(普通傷害保険か,生命保険等 の災害割増特約に関する条項か,自動車保険における人身傷害条項か,等)

に着目して,その外来性の判断及び,疾病免責条項の判断を変えているもの とは考えられない。

この点, 判例の射程 という点では,平成19年7月判例に関して, 本判 決は,本件規約の文言,構造を判断の理由として説示していることに照らし て,約款の文言,構造が異なる保険,例えば生命保険契約の災害割増特約や,

自動車総合保険契約の人身傷害補償特約等については,直ちにその射程が及 ぶものではないと思われる とされている 。しかしながら,消費者に分か

24) 中村・前掲注3)550頁。

(14)

りやすい約款の文言や規定の仕方を求めているが故に,それに沿った形で約 款を解釈すべきであるとの発想が見受けられる平成19年判例の考え方,及び,

その背後にある近時の消費者保護の発想 からすれば,約款に 同じ文言 を使用している場合には,保険の種類が異なるからという理由のみで,当該 文言についての判断基準を異にするということは考え難い。

現に,裁判例の中では,災害割増特約に関しても平成19年判例の趣旨が及 ぶとしたもの(2つの判例を引用するものとして 。平成19年7月判例を引 用するものとして⑧。)や,傷害保険と災害割増特約とがいずれも問題とな る場合において,同じプロセスで判断するもの( ),主契約に付された傷 害特約と災害割増特約とがいずれも問題となる場合において,同じプロセス で判断するもの(⑤⑨ )などが見受けられ,下級審裁判例は,保険の種類 が違うからといって,平成19年判例の趣旨が及ばないという考え方を採用し ていないように見受けられる。

もっとも,⑨のように,昭和54年度分類提要記載の除外文言を採用してい る場合に,他の疾病免責条項の立証とは異なる判断基準が採用されることも あり得る。ただし,⑨の判旨はやや技巧的に思え,保険消費者にとってわか りやすいとはいえないようにも思える。したがって,最高裁がこの立場を支 持するものとは限らないといえよう 。

さらに,③のような 限定支払条項 の定めに関しては,その判断が異な ることがあり得る。

5.約款のあり方についての考察

平成19年判例は,保険消費者に分かりやすい約款規定の創設を求めたもの ともいえ,今後, 外来性 や 因果関係 の否認・反証以外の方法で, 疾 病を理由とする支払義務の不存在 を主張するためには,その旨約款に明確

25) 前掲注12)参照。

26) 分類提要の約款引用について否定的な立場として,山野嘉朗・保険契約と消 費者保護の法理292頁(成文堂,2007)参照。

(15)

な定めを置くことが求められる。

外来の事故 の定義付け

まず,外来性の明確な定義を置き, 外来の事故 には 疾病起因事故は 含まない 旨の約款規定を設けることが考えられる。また,このように,判 例とは違う定義規定を置くことが,保険法との関係で直ちに否定されるとは いえない 。

上記のような 外来の事故 の明確な定義を置いた場合には,立証責任が どのように変わるのか検討の余地があるが,上記の裁判例の傾向からすれば,

やはり保険者の抗弁事由となる可能性も十分にあり得るといえよう 。この ように考えた場合, 疾病免責条項 を規定することと何ら変わりがないこ ととなる。

外来の事故 に 疾病に起因するものは含まない という定義規定に変 更すること自体に, わかりやすさ という点では判例に抵触しないと考え られるものの,疾病起因性を除外する趣旨を,たとえ請求原因事実とされて いる定義規定に入れ込んだとしても,請求者側に立証責任を負担させること が,消費者保護との関係で是認されるかは疑問である 。

疾病免責条項 の位置づけ

疾病免責条項 について, 事故が疾病によって生じた場合には免責され る と規定される場合,保険者側の立証は,上記裁判例のとおり 可能性 の立証では足らず,その立証には 疾病及び症状の特定 まで求められる場 合もあり(④),現時点での約款規定によれば,その立証が困難な場合が多

27) 嶋寺基・最新保険事情141頁(きんざい,2011)参照。

28) この点,⑨の判旨がどのようにとらえられるかは,判然としない。

29) 竹濵ら編・前掲注17)294頁では, 保険事故条項における 外来 の定義を間 接原因を含めて 疾病によらないこと と明確に表示するのも一案であ り,

立証負担の問題をさておけば顧客にとってわかりやすい約款になると考える とされるが,やはり立証責任の分担までは踏み込んだ記載はない。

(16)

い。

もっとも,疾病免責条項が規定されている場合, 外来の事故 の原因

(死亡等の間接原因)が 疾病 であることが立証できる場合には免責が認 められるのであって, の事案などは,この免責条項があれば免責が認めら れた事案であるといえる。

なお,特に,長期型の保険において,前記⑴記載のような 外来の事故 の定義や 疾病免責条項 の新たな創設を行った結果,その適用がない既契 約については,平成19年10月判例のように 被保険者の疾病によって生じた

…事故の場合 にも,保険金を支払う趣旨だと解されるかどうかにつき,そ のような反対解釈が生じることが懸念される。

この点につき,私見では,特に長期保険において,同じ保険料率算定の対 象である契約者の団体の中にそのような2つグループがあることが認められ ることは妥当でなく,むしろ,規定の明確化により保険者の態度が明らかに なったものと考えるべきであり,上記反対解釈によって免責が認められなく なるといった結論は妥当ではないと考える 。

割合的支払可能条項 の当否

以上のとおり検討していくと,平成19年判例を前提とすれば, 外来の事 故 の明確な定義付けや, 疾病免責条項 を規定したからといって,簡単 に免責(ないし無責)が認められるとは限らない。

それは, 外来性 及び 疾病免責条項 が問題となる事案において,立 証責任を負担する者の立証の程度が,相当程度高くなってしまうためである といえる。この点,保険者が, 外来性 について否認・反証する際は, 疾 病による死亡(傷害)の発生の可能性 という点まで反証できれば良いが,

30) 約款の規定に関する変遷やその検討については,西嶋・前掲注13)22頁以下 参照。

31) ・前注4)293頁。割合的支払の可否については,佐野誠・損害保険研究65 巻3・4号409頁参照。

(17)

一旦 外来の事故による死亡(傷害)の発生 まで認められてしまうと,そ れ以上に 外来の事故 が 特定の疾病 等によって発生したことまで立証 しなければならない。すなわち,事故及び死亡(傷害)の発生に,疾病が寄 与している可能性が相当程度あったとしても,オール・オア・ナッシングの 判断がなされてしまうのである。

認定事実から,このような判断が妥当でないと考えられる場合(例えば,

④のように,被保険者が事故当時気を失っていた可能性は否定できないもの の,疾病及び症状の特定ができないため,疾病免責条項の適用が否定された もの)には,割合的認定を可能とするべきであり,そのためには,約款規定 の解釈に関し消費者保護の観点が色濃く出ている裁判例の傾向からしても,

割合的認定を可能とするための条項を約款に規定しておくべきではないかと 考える。

このような規定を前提に割合的認定を行う場合には,間接事実の積み上げ により,その原因(事故の発生及び死亡(傷害)という結果に与えた要因の 程度)が認定しやすくなるものと考えられる。すなわち,割合的認定を行う にあたっては,観念的には, 疾病免責条項 の場合のように,完全なる抗 弁事由にまわるものではなく,ひとまず 外来の事故 と 因果関係 とい う請求原因事実は認められると判断されても,その因果関係の寄与度のレヴ ェルまで,今一度立ち戻って判断が可能となるものといえる。裁判所も,損 害賠償事案における寄与度の考え方や,過失相殺の考え方になじみがあり,

このような判断の方が比較的行いやすいものと推測される。また,保険契約 上の当事者の意思の解釈及び立証の衡平の観点からしても,当事者双方に利 益になり,当事者意思に合致するものといえる。私見としては,このような 規定の仕方が最も妥当ではないかと考える

32) 佐野・前掲注31)421頁参照。同論文は, 現に損害保険実務においても割合 的支払という和解的解決が行われているようである。 と指摘する。

33) なお,傷害定額保険の場合には割合的な支払になじまないとの指摘もあると 考えられるものの,予め約款にその旨を規定しておけば,そもそも保険契約者 もその保険商品についての契約内容に合意しているものといえるため, 割合

(18)

もっとも,割合的認定・支払を可能とする条項を規定した場合に,保険実 務においては,どの程度の割合で,いくらの保険金を支払うと判断するのか,

その基準が明確でなく,算出が困難であるという問題もあり,採用及び既定 の仕方については慎重にならざるを得ないものといえよう。

6.おわりに

本稿では,平成19年判例において示された 外来性 の要件や立証責任の 分担を前提とした裁判例を概観することで,各要件につき,どの程度までの 立証が当事者に求められるのかという点が,多少は明確になったものと思わ れる。

平成19年判例及びその後の各裁判例は, 約款における規定の仕方 に主 眼を置き,その背後にある 約款制定者の意図 というものについては,規 定上から明確に読みとれるもの以外は考慮しないという傾向にあるといえる。

保険業界に限らず,その業界内における通説というものは,一般消費者に 伝わらない,または,理解できないというものが多く存在し, 外来の事故 という文言に対する解釈論は,その最たるものといえるであろう 。

ともあれ,今後も,各保険者が,様々な形で 外来の事故 の定義や 疾 病免責条項 等の免責条項を規定ないしは従来規定の変更をしていくことが 考えられる。前記のとおり,裁判所が 約款の規定の仕方 に主眼を置いて いることからすれば,これらの新たな文言による規定が訴訟上問題となった 場合においては,裁判所の判断が異なることも十分に予想され,その都度分 析が求められるものといえるため,今後も注目していきたい。

(筆者は勝野法律事務所代表)

による段階的な定額 という考え方をとれば問題はないものと考える。

34) 多くの辞書・辞典では, 外来 とは 外から来ること などと定義されて いる。 消費者への分かりやすさ という点では,保険者側も,約款の規定を 考える際は,まずはここから出発することが求められているといえる。

(19)

(外×)

(除)

(疾×)

(偶×)

(外×)

(因×)

(疾×)

(因×)

(外×)

(疾) (限)

(災)

(人)

(災)

(搭)

(搭)

(人) H23.2.23 (判2106141頁)

H21.12.22

(W

LJPCA12228002)

H20.1.29

(W

LJPCA01298010)

H19.7.6

H24.7.10

(W

LJPCA07108015)

H24.4.25 2156138頁

H24.4.18

(W

LJPCA04188002)

H23.9.28 (判1372204頁)

H23.4.19

(L

LI/DB, ID:06650856)

H23.1.28

(L

LI/DB, ID:06650136)

H20.6.25

(L

LI/DB, ID:06350737)

H19.10.19 (参)

(並)

(20)

H22.3.12

(W

LJPCA03128002)

H20.3.13

(W

LJPCA03138001) (疾×

× (災)H23.11.30

(W

LJPCA11308003) H23.3.30

(W

LJPCA03308020) (外×)

H23.9.13

(W

LJPCA09138006) (災 (疾) (外×)H24.1.13 (自 1884166頁)

H22.3.15

(W

LJPCA03158020) (外×) (外×)H22.3.25 (自 1834166頁)

H21.3.26 (判2056143頁

(災)

(疾×)

参照

関連したドキュメント

(2)特定死因を除去した場合の平均余命の延び

児童について一緒に考えることが解決への糸口 になるのではないか。④保護者への対応も難し

されていない「裏マンガ」なるものがやり玉にあげられました。それ以来、同人誌などへ

自閉症の人達は、「~かもしれ ない 」という予測を立てて行動 することが難しく、これから起 こる事も予測出来ず 不安で混乱

「カキが一番おいしいのは 2 月。 『海のミルク』と言われるくらい、ミネラルが豊富だか らおいしい。今年は気候の影響で 40~50kg

全体構想において、施設整備については、良好

・条例第 37 条・第 62 条において、軽微なものなど規則で定める変更については、届出が不要とされ、その具 体的な要件が規則に定められている(規則第

都調査において、稲わら等のバイオ燃焼については、検出された元素数が少なか