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url: http://www.math.ryukoku.ac.jp/ iida/lecture/lecture.html
プリント中の
¨
§
¥
高木p.1¦=⇒“高木隆司,「力学(I)」(裳華房)”の p.1
¨
§
¥
和達p.1¦=⇒“和達三樹,「物理のための数学」(岩波)”の p.1 を参照。
¨
§
¥
香中p.1¦=⇒“香取真理,中野徹,「物理数学の基礎」(サイエンス社)”の p.1 を参照。
を参照しています。
物数I.1
1 3
次元のベクトルとその演算
1.1 ベクトルとスカラー ¨§高木p.4¥¦
¨
§
¥ 和達p,20¦
¨
§
¥ 香中p.2¦
始点 を O, 終点 を P とする矢印を, ベクトル −→
OPという. A~=−→
OP などとかく.
この矢印のように, 大きさ と 向き の両方を持つ量を ベクトル という.
大きさだけのある量を, ベクトルに対して スカラー という.
大きさと向きが両方等しければ, (始点 が違っても)ベクトルは等しい. つまり, 平行移動 して重なるようなベクトル は等しい.
A~ =−→
OP =−→
QR.
Ar
ベクトルの例: 風(風向きと風力). スカラーの例: 気圧.
記号の使い方
• ベクトルは r や Aのような傾いた太い字で(また は ~r や A~のように矢印をつけて)表わす.
• ベクトル A~ の大きさ(矢印の長さ)を |A~| と書く.
|A~|はスカラーである.
• スカラーは r のような傾いた細い字で表わす.
• 点の名前や単位は O,P,Q,R, m, kg のように立った
細い字で表す. 戸田盛和,「力学」(物理入門コース1) (岩波, 1982)
【注】「物理数学・演習I」の配布資料ではベクトルの記法として矢印A~を使います.演習の解 答ではどちらの記法を用いてもかまいません.
1.2 ベクトルの演算 ¨§香中p.3¥¦
¨
§
¥ 和達p.21¦
ベクトルの和
一般に, ベクトルC~ =A~+B~ とは, A~ と B~ を2辺とする平行 四辺形の対角線に対応するベクトル.
A r
Br
A B+ r r
ベクトルとスカラーの積 ベクトルのスカラー倍ともいう.
ベクトル A~ と スカラー c の積B~ =c ~A は, ベクトルであり,
• 大きさは A~ の |c| 倍.
• 向きは, c >0 なら同じ向き c < 0なら逆向き.
c= 0 なら, あとで出てくるゼロベクトルになる.
Ar
−A r
2A r
ベクトルの差
ベクトル A~ とベクトル B~ の差 C~ =A~−B~ とは, ベクトルであり,
C~ =A~−B~ =A~+ ((−1)B~) (2.1) ゼロベクトル ~0
A~−A~ や, 0A~ は, ゼロベクトル~0 である.
ゼロベクトルは, 大きさは 0で,向きはない.
0 A~ = 0 B~ =A~−A~ =B~ −B~ =~0. (2.2) ベクトル, スカラーについては, 普通の数であるかのように展開して計算してよい.
例: 2(3A~−B) =~ −2B~ + 6A.~
1.3 2次元のベクトルの座標表示(成分表示) ¨§高木p.5¥¦
¨
§
¥ 香中p.9¦
ベクトルを, やっぱり,絵じゃなく数字で表わしたい! まず,2次元のベクトルについて考える.
図のように, 原点 O で垂直に交わる x-軸, y-軸を平面に描く. x-軸, y-軸には向きがあり, x-座 標,y-座標がある. x-軸, y-軸に垂線を下ろして x-座標,y-座標をよみとる.
この
A~ =
2 3
=
Ax Ay
x-成分 y-成分
(2.3) を ベクトルの座標表示 または 成分表示 という. 2 を x 成分 , 3 を y 成分 という.
横に A~ = (2,3)のように書くこともある.
x y
O
A=( )23
+ 2
-2
-2 + 2
P
物数I.3 成分で書いた ベクトルの和とスカラー倍
ベクトル
A~ =
Ax Ay
, B~ =
Bx By
(3.1)
とスカラー c に対して, A~+B~ =
Ax+Bx Ay +By
c ~A=
c Ax c Ay
(3.2)
である. まとめると
x y
O A
B
A+ B
-A
α
Ax Ay
+β
Bx By
=
αAx+βBx αAy +βBy
. (3.3)
1.4 3次元のベクトルの座標表示(成分表示) ¨§和達p.22¥¦
¨
§
¥ 香中p.13¦
3次元のベクトルの座標表示には,互いに直交する x,y,z の3つの座標軸を使う.
3次元のベクトル A~ の始点を原点に置いたとき, 終点の 座標を A~ の x, y, z 成分といい,Ax, Ay, Az と書く.
A~=
Ax Ay Az
x-成分 y-成分 z-成分
(3.4)
ふつうは, 右手を開いたときの親指方向を x,人指し指方向を y, 中指方向を z 軸の正の方向に とる. ( 右手座標系(右手系) と呼ぶ.通常こちらを使う.)
左手を使うと, z軸の向きが逆になる. (左手系と呼ぶ.特に理由がなければ使わない.)
3次元のベクトルの和やスカラー倍を成分で表すと
α
Ax Ay Az
+β
Bx By Bz
=
αAx+βBx αAy +βBy αAz+βBz
(3.5)
となる.
ベクトルA~ = (Ax, Ay, Az)の大きさは成分を用いて
¯¯¯A~¯¯¯=|(Ax, Ay, Az)|=
√
A2x+A2y+A2z ¨
§
¥
和達(2.2)¦ (4.1)
となる.
点Pの座標を(x1, y1, z1),点Qの座標を(x2, y2, z2)と すると,点Pを始点とし,点Qを終点とするベクトル−→
PQ の成分表示は以下となる:
−→PQ = (
x2−x1, y2−y1, z2−z1 )
. (4.2)
2点間の距離
2点P,Qの間の 距離 はベクトル−→
PQの大きさなので,座標を用いて 2点P,Qの間の距離=|−→
PQ|=√
(x2−x1)2+ (y2−y1)2+ (z2−z1)2 (4.3) と表される.
位置ベクトル ¨§高木p.4¥¦
¨
§
¥ 和達p.23¦
¨
§
¥ 香中1章と2章の間¦
3次元空間に物体P があって運動している. 例:飛行機, ボール,蚊,. . . 座標系 xyz と原点O は固定する。
ある瞬間の物体 P の位置は, 始点 を O, 終点 を P とするベクトル−→
OP で指定される。
これを P の 位置ベクトル という.
空間を物体P が時間t とともに,移動していくときP の位置ベクトルは時間の関数なので,~r(t) のように書く. たとえば
−→OP =~r(t) =
x(t) y(t) z(t)
=
cost+ 2 2 sint+ 2
t/3
(4.4)
はらせん状の運動を表す位置ベクトルである. x
y z
O rr(0)
rr(3 )π
(3 / 2)
rr π
物数I.5 1.5 基本ベクトル ¨§和達p.22¥¦
¨
§
¥ 香中p.14¦
単位ベクトル : 大きさが 1 のベクトル.
x,y,z 軸の正の向きの単位ベクトルを 基本ベクトル と
いい,
~i=
1 0 0
, ~j =
0 1 0
, ~k=
0 0 1
(5.1)
と書く. これらを用いると,
A~ =
Ax
Ay Az
=Ax~i+Ay~j+Az~k ¨§和達(2.1)¥¦(5.2)
となる.x, y, z 軸を右親人中指にとるとき, ベクトルの3 個組 h~i,~j, ~ki は 右手系 だという. (h~i,~j,−~ki は左手系 になる.)
1.6 内積(スカラー積) ¨§高木p.6¥¦
¨
§
¥ 和達p.24¦
¨
§
¥ 香中p.4¦
2つの3次元ベクトル A, ~~ B に対して, 次の式で計算され るスカラー A~·B~ のことを 内積 という:
A~·B~ =|A~| |B~| cos(θ), 05θ 5π . (5.3) ここで,|A~|,|B~|はそれぞれA~とB~の大きさを表す.ま た,θはA~とB~ の間の角度を表す.
ベクトル A, ~~ B, ~C, スカラー cに対して, 普通の数の場合と同じように, (2A~+c ~B)·A~ = 2A~·A~+c ~A·B~
のように展開してよい.
基本ベクトル~i,~j, ~k は互いに直交していて大きさ1なので,
~i·~i=~j·~j =~k·~k = 1. (5.4)
~i·~j =~j·~k=~k·~i=~j·~i=~k·~j =~i·~k= 0 (5.5) となる.
内積 A~·B~ の成分表示 ¨§香中p.16¥¦
A~·B~ =(Ax~i+Ay~j+Az~k)·(Bx~i+By~j+Bz~k)
=(AxBx~i·~i+AxBy~i·~j+AxBz~i·~k) +(AyBx~j·~i+AyBy~j·~j+AyBz~j·~k) +(AzBx~k·~i+AzBy~k·~j+AzBz~k·~k)
=AxBx+AyBy +AzBz ¨§和達(2.3)¥¦
(6.1)
(参考)仕事(スカラー)は, 力(ベクトル)と変位(ベクトル)の内積.
ベクトルの大きさ(内積の使い道1)
|A~|=
√
A2x+A2y +A2z =
√A~·A~ ¨§和達(2.4)¥¦. (6.2)
内積の使い道2: ベクトル A~ と B~ のなす角度 内積の定義の式 (5.3)を逆に使うと,
cos(θ) =
A~·B~
√A~·A~
√B~ ·B~
= AxBx+AyBy+AzBz
√A2x+A2y +A2z√
Bx2+By2+Bz2 (6.3)
で,ベクトル A~ と B~ のなす角度 θ が計算できる.
(例) A~ = (1
10
) , ~B =
(0
11
)
とする. A~·B,~ |A~|,およびA,~ B~ のなす角 θ は?
(答)
A~·B~ = 1×0 + 1×1 + 0×1 = 1, (6.4)
|A~| =
√A~·A~ =√
12+ 12+ 02 =√
2, |B~|=√
2, (6.5)
cos(θ) = √21√2 = 12, (
05θ5πなので θ = π 3
)
. (6.6)
物数I.7 1.7 外積(ベクトル積) ¨§高木p.126¥¦
¨
§
¥ 香中p.6¦
2つの 3次元ベクトル A, ~~ B に対して, 次の式で表わされるベクトル C~ = A~ × B~ のこと
を 外積(ベクトル積) という.
この記号 ‘×’ は新しい記号.
(実数のふつうの ‘かける’ とたまたま同じ文字だが意味は異なる).
C~ =A~×B~ =|A~| |B~| sinθ C ,~ˆ 05θ 5𠨧和達(2.6)¥¦ (7.1)
ただし, C~ˆ は,A~ と B~ の両方に垂直な単位ベクトルで, hA, ~~ B,C~ˆi が右手系をなすようなもの.
別の言い方:
C~ ⊥A,~ C~ ⊥ B~ で, C~ の向きは, A~ か ら B~ に回る右ねじが進む向き.
大きさは|C~|=|A~||B~|sinθ =A,~B~ のはる平行四辺形の面積.
A , ~~ B , ~A×B~ は右手系をなす.
¨
§
¥ 和達 図2-4¦
外積(ベクトル積)と内積(スカラー積)を混同しないよう注意
A~×B~ :ベクトル , A~·B~ :スカラー (7.2)
A~×A~ =~0 , A~·A~ =|A~|2 (7.3) A~×B~ =−B~ ×A~ , A~·B~ =B~ ·A~ (7.4)
( ) をはずすときはふつうの数であるかのように展開してよい.
計算例(2A~+ 3B)~ ×A~ = 2 A~×A~+ 3 B~ ×A~ =~0−3 A~×B~ (8.1)
基本ベクトルの間の外積
~i×~i=~0, ~j×~j =~0, ~k×~k=~0. (8.2)
~i×~j = +~k, ~j×~k = +~i, ~k×~i= +~j, (8.3)
~j×~i=−~k, ~k×~j =−~i, ~i×~k=−~j. (8.4)
~i,~j, ~k が 循環的 (cyclic)に入れ替わってることに注意.~i→~j →~k →~i.
外積 A~×B~ の成分表示 ¨§高木p.127¥¦
¨
§
¥ 香中p.16¦
¨
§
¥ 和達p.26¦
基本ベクトル間の外積から,任意のベクトルA~とB~ の外積は A~×B~
=(Ax~i+Ay~j+Az~k)×(Bx~i+By~j+Bz~k)
=(AxBx~i×~i+AxBy~i×~j+AxBz~i×~k) + (AyBx~j×~i+AyBy~j×~j+AyBz~j×~k) + (AzBx~k×~i+AzBy~k×~j+AzBz~k×~k)
= (AyBz−AzBy)~i+ (AzBx−AxBz)~j+ (AxBy−AyBx)~k.
(8.5)
となる.あらためて,まとめると
Ax Ay Az
×
Bx By Bz
=
(A~×B~)x (A~×B)~ y (A~×B)~ z
=
Ay Bz−Az By Az Bx−Ax Bz Ax By−Ay Bx
(8.6)
となる.
【注】 上の式が使えるのは右手系の座標系を用いた場合.
(8.6)の2つ目の等式の左辺(A~×B)~ aと右辺中のAb Bcの a, b, c がx→y →z →x. の順序に 現れていれば+,逆回りのx→z →y→x. の順序に現れていれば−,と考えると覚えやすい かも.
物数I.9 (例)
A~ =
2 3 0
, B~ =
−1
−4 +5
に対して, 外積B~ ×A~ を計算しよう.
(答)
B~ ×A~ =
−1
−4 +5
×
2 3 0
,=
−4·0−5·3 5·2−(−1)·0
−1·3−(−4)·2
.=
−15 +10 +5
.
(参考) ベクトルの外積の成分表示(8.6)が(7.1)の内容を表していることを確認しておこう.x 軸をA~の向きにとる.また,B~ がx-y平面内にあるようにy軸をとる.すると,A , ~~ B の成分表示は
A~ =
(|A~|, 0, 0 )
, B~ =
(|B~|cos(θ), |B~|sin(θ), 0 )
(9.1) となる.ここで,θはB~ とx軸(従って,A)~ との間の角度を表す.ただし,0≤θ≤π となるように y 軸をとる.すると,(8.6)により計算したA~×B~ の成分表示は
A~×B~ =
|A~| 0 0
×
|B~|cos(θ)
|B~|sin(θ) 0
=
0 0
|A~||B~|sin(θ)
(9.2)
となる.上式の右辺が表すベクトルは,確かに大きさが|A~||B~|sin(θ) でA~にもB~ に も直交している.
(参考) 外積を使うと簡潔に書ける物理量がある:
・角運動量 ~L=~r×p~ ¨§高木(6.14)¥¦
・力のモーメント N~ =~r×F~ ¨§高木(6.13)¥¦
・フレミングの左手の法則 F~ =I~×B;磁場中の電流に働く力~
・ローレンツ力 F~ =q(E~+~v×B~);電磁場中を運動する電荷を持った物体に働く力
1.8 内積や外積についての補足
・ 平面の方程式
A~とB~をある平面に含まれるベクトルとすると,
A~ ×B~ はこの平面と直交するベクトル, つまり 法線ベクトル となる.
A r
O B
r
rr0
A B× r r
~
r0 を平面上にある一つの点を表す位置ベクトル,~r を平面上の任意の点を表す位置ベクトルと すると~r−~r0 は平面内に含まれるベクトルなのでA~×B~ と直交する;
(~r−~r0)·( A~×B~
)
= 0. (10.1)
(~r−~r0)·(A~×B)~ >0の場合,~r で表される点は平面で区切られた空間の2つの領域のうち,平 面に対して A~×B~ の側の領域にある.((~r−~r0)·(A~×B)~ <0 の場合は逆側にある.)
また,平面までの距離は|(~r−~r0)·~n| となる.ただし
~n= 1
|A~×B~| A~×B~ (10.2)
はA~×B~ と同じ向きの単位ベクトルで 単位法線ベクトル と呼ばれる.
平面
nr rr−rr0
(~r−~r0)·~n >0
平面
nr
rr−rr0
(~r−~r0)·~n = 0
平面
nr
rr−rr0
(~r−~r0)·~n <0
D=~r0·( A~×B~
)
と書くと平面の方程式は
~r·( A~×B~
)
=D (Dは定数) (10.3)
となる.A~×B~ = (a , b , c),~r = (x , y , z)としてこの方程式を成分で書くと以下のようになる:
ax+by+cz=D . (10.4)
物数I.11 内積 A~·B~ のイメージ A~ と B~ の協力度みたいなもの
• 2つのベクトルの向きが近いほど正で大きい. cos 0 = 1
• 2つのベクトルの向きが反対だと負. cosπ=−1
• 2つのベクトルの向きが直交してると零. cosπ2 = 0. A~·B~ = 0.
• ~u·B~ = A~
|A~| ·B~ は,B~ の A~ 向き成分. ~u= A~
|A~|は A~と同じ向きの単位ベクトル.
L
ur ir
i A⋅ r r
A r
x y
(i Ar⋅ r)i r u A⋅
r r
(u Ar⋅ r)ur
~i , ~uは単位ベクトル.
~i·A:~ ベクトル A~ の x 成分(~i 向きの成分) (~i·A)~ ~i: ベクトルA~ の x軸への 射影 .
~
u·A:~ ベクトルA~ の(有向)直線 L成分 (~u 向きの成分) (~u·A)~ ~u: ベクトルA~ の直線 L への 射影 .
(参考) 仕事(スカラー)は,力(ベクトル)と変位(ベクトル)の内積.
【注】「線形代数・演習I」では内積~b·~aを(~a,~b)と表している.(§2.3)
外積 A~×B~ のイメージ A~ と B~ のはった網みたいなもの
• 2本の棒A, ~~ B を使って網を張るような感じ.
• 網に直交する向きが C~ =A~×B~ の向き. (表裏あり)
• 網の面積, つまり 平行4辺形の面積 が |C~|=|A~×B~| . 2本の棒が違う方向を向いてる ほうがたくさん魚がとれる.