厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 分担研究報告書
先天角化不全症の診療ガイドラインの策定について
研究分担者 村松秀城 名古屋大学大学院医学系研究科小児科学 講師 研究協力者 若松 学 名古屋大学大学院医学系研究科小児科学 医員
A.研究目的
原発性免疫不全症候群、および先天性造血 不全症候群の一つである、先天角化不全症の 診断基準・重症度分類および診療ガイドライン 作成することが目的である。
B.研究方法
先天角化不全症に関してこれまでに得られ ている臨床知見に基づいて、診断基準を策定 した。
C.研究結果
●診断基準
先天角化不全症の臨床診断は、皮膚・粘膜 における三徴(爪の形成異常・レース状の皮膚 色素沈着・口腔内白板症)と骨髄不全症の評 価によるのが基本であるが、このほかに、免疫 不全症、精神発達遅延・肺線維症・食道狭窄・
若年性白髪・悪性腫瘍の合併など、多臓器に わたる症状がみられる可能性がある。検査所見 として、リンパ球数の減少(特にB細胞とNK細胞 数)の減少とその機能低下を認め、進展した骨 髄不全症の合併例では汎血球減少を呈する。
表1に、本疾患の診断基準を示す。また本疾患 で同定されている病的遺伝子の一覧、Flow-FIS
H法によるテロメア長の測定、および診断のフロ
ーチャートをそれぞれ、表1-2, 図1-3で示す。
●重症度分類
本疾患に合併する骨髄不全症の重症度は、
再生不良性貧血の重症度に準じて分類する。
また、古典的な先天角化不全症の他に、Hoyer aal-Hreidarsson syndrome(HHS)やRevesz症 候群といった最重症型、ほかに再生不良性貧 血患者や家族性肺線維症患者に潜んでいる不 全型が存在する。最重症型のHHSは発症年齢 が低く、古典的3徴候が診断時に認めない場合 もあるが、多くは時間の経過とともに出現する。
D.考察
骨髄不全症を合併した先天角化不全症では、
再 生 不 良 性 貧 血 、 Fanconi 貧 血 、 Schwachman-Diamond症候群、先天性無巨核 芽球性血小板減少症、Pearson症候群などの疾 患と鑑別を要する。それぞれ特徴的な臨床像が あるため、まず臨床像から鑑別を行うが、網羅 的遺伝子解析による、迅速かつ正確な遺伝子 診断が必要である。治療方法として、骨髄不全 の重症度が中等症であればアンドロゲン治療が 望ましい。一方で、重症例であった場合も、移植 後に移植片対宿主病や肺障害のリスクが高けれ ば、移植適応を慎重に検討し、アンドロゲンによる 治療も選択肢に含めた方がよいと考える。移植を 行う際には、造血幹細胞移植の前処置について は、強度減弱前処置が望ましいと考えられる。
E.結論
先天性角化不全症の診断基準を作成した。
研究要旨 原発性免疫不全症候群の診断基準・重症度分類および診療ガイドラインの確立 に関する研究にあたり、先天性角化不全症を担当した。先天性角化不全症は、テロメア長 維持に関与する遺伝子群の変異により発症する先天性造血不全症候群の一つである。古典 的な皮膚・粘膜における三徴は、爪の形成異常・レース状の皮膚色素沈着・口腔内白板症 であるが、これらの身体異常がそろわない不全型が存在する。本症の合併症として、骨髄 不全症、肺線維症、白血病、頭頸部・肛門・性器の扁平上皮癌の発症リスクがある。診断 基準作成にあたっては、これまでの文献知見をまとめた上で、欧州免疫不全症学会(ESID) における診断基準等を参考にした。
F.研究発表 1. 論文発表
1) Mori M, Hira A, Yoshida K, Muramatsu H, Okuno Y, Shiraishi Y, Anmae M, Yasuda J, Tadaka S, Kinoshita K, Osumi T, Noguchi Y, Adachi S, Kobayashi R, Kawabata H, Imai K, Morio T, Tamura K, Takaori-Kondo A, Yamamoto M, Miyano S, Kojima S, Ito E, Ogawa S, Matsuo K, Yabe H, Yabe M, Takata M. Pathogenic mutations identified by a multimodality approach in 117 Japanese Fanconi anemia patients. Haematologica.
2019 Oct;104(10):1962-1973.
2) Murakami N, Sakai T, Arai E, Muramatsu H, Ichikawa D, Asai S, Shimoyama Y, Ishiguro N, Takahashi Y, Okuno Y, Nishida Y. Targetable driver mutations in multicentric reticulohistiocytosis. Haematologica. 2020 Jan 31;105(2):e61-e64.
3) Narita A, Zhu X, Muramatsu H, Chen X, Guo Y, Yang W, Zhang J, Liu F, Jang JH, Kook H, Kim H, Usuki K, Yamazaki H, Takahashi Y, Nakao S, Wook Lee J, Kojima S; Aplastic Anaemia Working Party of the Asia-Pacific Blood, Marrow Transplantation Group.
Prospective randomized trial comparing two doses of rabbit anti-thymocyte globulin in patients with severe aplastic anaemia. Br J Haematol. 2019 Oct;187(2):227-237.
4) Kohara H, Utsugisawa T, Sakamoto C, Hirose L, Ogawa Y, Ogura H, Sugawara A, Liao J, Aoki T, Iwasaki T, Asai T, Doisaki S, Okuno Y, Muramatsu H, Abe T, Kurita R, Miyamoto S, Sakuma T, Shiba M, Yamamoto T, Ohga S, Yoshida K, Ogawa S, Ito E, Kojima S, Kanno H, Tani K. KLF1 mutation E325K induces cell cycle arrest in erythroid cells differentiated from congenital dyserythropoietic anemia patient-specific induced pluripotent stem cells.
Exp Hematol. 2019 May;73:25-37.e8.
2. 学会発表
1 )Manabu Wakamatsu, Hideki Muramatsu, Masayuki Imaya, Ayako Yamamori, Taro
Eri Nishikawa, Atsushi Narita, Yusuke Okuno, Nobuhiro Nishio, Seiji Kojima, Yoshiyuki Takahashi. A case with dyskeratosis conogenita achieved transfusion independence after eltrombopag treatment. 14/11/2019,The 61th Annual Meetings of the JSPHO, Hiroshima
2) Manabu Wakamatsu, Hideki Muramatsu, Shinsuke Kataoka, Yusuke Okuno, Yoshimi Sakai, Yoko Nakajima, Tetsuya Ito, Ikuya Tsuge, Seiji Kojima, Yoshiyuki Takahashi. Utility of Newborn Screening for Severe Combined Immunodeficiency and X-linked Agammaglobulinemia Using TREC and KREC Assays. 15/02/2020. Tokyo.
G.知的財産権の出願・登録状況 1. 特許取得
なし
2. 実用新案登録 なし
3. その他 なし
表1. 先天性角化不全症の臨床症状と診断基準 A. 骨髄不全症
一系統異常の血球減少と骨髄低形成を認める B. 大症状(皮膚・粘膜所見)
1. 網状色素沈着 2. 爪の萎縮 3. 口腔粘膜白斑症 C. 小症状(その他の身体所見)
1. 頭髪の喪失、白髪 2. 歯牙の異常 3. 肺病変
4. 低身長、発育遅延 5. 肝障害
6. 食道狭窄 7. 悪性腫瘍
8. 小頭症、小脳低形成 9. 小脳失調
10. 骨粗鬆症
骨髄不全、および1つ以上の大症状と2つ以上の小症状を満たすとき、
狭義の先天性角化不全症と診断する。
(平成28年先天性角化不全症の参照ガイド抜粋)
表2. 検査所見
Disease Gene Defect Inheritance OMIM
DKCX1 DKC1 XL 305000
DKCA1 TERC AD 127550
DKCA2 TERT AD 187270
DKCA3 TINF2 AD 604319
DKCA4 RTEL1 AD 616373
DKCA5 TINF2 AD 268130
DKCA6 ACD AD 616553
DKCB1 NOLA3 AR 224230
DKCB2 NOLA2 AR 613987
DKCB3 WRAP53 AR 613988
DKCB4 TERT AR 613989
DKCB5 RTEL1 AR 615190
DKCB6 PARN AR 616353
DKCB7 ACD AR 616553
Coats plus syndrome STN1 AR 613129
Coats plus syndrome CTC1 AR 617053
図1. TelomeraseとShelterinの構造
RNA template
AAUCCC
TERT
DKC1 NOP10
NHP2
3’
5’
TERC
TTAGGG 3’
telomere
GAR1
5’
POT1 TPP1 TIN2
RAP1
TRF1 TRF2
Shelterin
CTC1 STN1TEN1
CST complex
NAF1
TCAB1
Telomere helicase
RTEL1
t-loop PARN
Telomerase
図2. Flow-FISH法によるテロメア長の測定
図3. 診断のフローチャート
平成28年度改訂版 先天性角化不全症 診療の参照ガイド参考
再生不良性貧血を含め、
他の骨髄不全症を鑑別 テロメア長
短縮なし テロメア長
短縮あり
遺伝子解析
骨髄不全症、もしくはDCに特徴的な身体所見・検査所見を認める
Flow-FISH、サザンブロッティング、またはリアルタイムPCRによる血球テロメア長測定
臨床的にDCが 否定できない