銀行監督者の名声重視と銀行規制
著者 永田 邦和
雑誌名 研究論文集−教育系・文系の九州地区国立大学間連
携論文集−
巻 2
号 2
発行年 2009‑03
URL http://hdl.handle.net/10232/00030049
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja
銀行監督者 の名声重視 と銀行規制 *
永 田 邦 和
1
.は じめに銀行業 は,非常 に厳 しく規制 されている。 しか し,多 くの国々が銀行危機 を経験 したことを踏 ま え る と, 銀行規 制 が有効 に機 能 して い た とは言 い難 い。 銀 行規 制 の有効 性 に関 して は,Me
r t on ( 1 977)を始 め と した預 金保 険 の研 究 や,Ki n a ndSa nt ome r
o( 1 988)や Ge nnot ea ndPyl e( 1 99
1)等 に よる 自己資本比率規制 の研 究,DaisadMc ns(9 ve n Mau 19
1)や Malt niahadMetr(94 se 19 )
等 の銀 行 閉鎖政策の研究がある 1。 これ らの研 究 による と,銀行規制 の導入や運営 において,銀行の イン セ ンテ ィブが考慮 されていなか ったため に,銀行規制 は,高 い リス クを選択 しようとす るインセ ン テ ィブを,銀行 に与 えて しまった。銀行規制が有効 に機能す るため には,監督当局 は,規制 を課すときに,銀行の イ ンセ ンテ ィブを考慮 しなければな らない。
これ らの研究 では,監督当局 は,社 会厚生の最大化 を目的 に行動す ると仮定 していた。 この仮定 を修正 し,銀行規制 を担 当 している銀行監督者が,私 的利益 も考慮 している と仮定 して,銀行規制 の有効性 を分析 した研 究 には,ca pe, hn adMaio(92
m bl l° a, n rn 19 )や B o n otadT ao 19 ) hkr(93
,蘇 原( 20) 00
,永 田 ・三隅(00 20 )
,永 田(02 20 )があ る
2。 C m bl a pe e l ta .
l.(92 19 )と藤原 (00 20)は,
銀行監督の成果が,監督者の努力水準 に依存す る とき,私 的利益 を追求す る銀行監督者が,低 い努 力水準 を選択す る可能性 を取 り上げている。努力水 準 を引 き上 げる と,監督者の私 的 コス トが増加 す るので,銀行監督者 は,高 い努力水準 を選択 しない。Campbel le t .a
L( 1 992)で は,監督者の報
酬 と銀行監督の成果 を連動 させ るような報酬体系の もとで,銀行監督者が,社会的 に最適 な高 い努 力水準 を選択す るか どうか について分析 している。藤原( 2000)は, 日本の銀行監督 において,賄
賂が,検査 官に対す る能力給 の役割 を果 た していた ことを指摘 している。銀行経営者 は, 自行の不 健全性 に関す る情報 を隠蔽 して もらうため に,検査官 に賄賂 を渡そ うとす る。銀行の不健全性 を見 抜 くと賄賂が手 に入 るので,検査官 は努力水準 を高 め,銀行 の情報 を入手 しようとす る。 しか し, 検査官が努力水準 を高め,銀行の私 的情報 を入手 して も,その情報 は銀行監督 には生か されないの本稿 は
,2 0 0 2
年度 日本金融学会春季大会 (横浜市立大学)及び2 0 0 4
年度西 日本理論経済学会第1 2 8
例会 (久留 米大学)における報告論文 を修正 した ものである。本稿の作成過程 において,小川英治 (一橋大学),清水啓 輿 (一橋大学),三隅隆司 (-橋大学),安 田行宏 (東京経済大学)の各先生方 と,2 0 0 2
年度 日本金融学会春 季大会 における討論者の酒井良清先生 (横浜市立大学),西 日本理論経済学会第1 2 8
例会における討論者の後 藤尚久先生 (北九州市立大学)か ら有益 な コメン トをいただいたこ とに,深 く感謝いた します。-また,本稿 は,文部科学省科学研究費補助金 (若手研究(B),課題番号1 4 7 3 0 0 7 0)
による研究成果の一部であ る。銀行閉鎖政策とは,銀行の存続 ・閉鎖に関する意思決定である。
この分野の研究に関する詳細は,永田
( 2 0 0 0)
を参照。経 済 学 論 集 第
70
号で,社会厚生 は増加 しない。
銀行監督者が考慮す る私的利益 には,監督者 の能力 に関す る名声 ( 評判) もある 。Ka n e( 1 9 8 9 , 1 990) は,米国の事例 をもとに,銀行監督者が,名声 を守 るために,破綻 した銀行 を存続 させ た可 能性 を指摘 した。銀行監督者が 自己の名声 を重視す るのは,名声が高い と,退職後 の再就職先で ( 天下 り先で上 高い報酬 を得ることがで きるか らであるQ また,戸谷 ( 20 03) が指摘 しているよう に,監督当局が,組織存続の危機 に直面 した ときに,国民か らの評判 を重視す る可能性 もある。
銀行監督者が社会厚生だけでな く, 自己の名声 も考慮 していると仮定 した研究には,銀行閉鎖政 策 を取 り上 げた Bo o ta ndTh a k o r ( 1 993) や永 田 ・三隅 ( 2000) ,銀行監督 を分析 した永 田 ( 2002) が ある。銀行が破綻 し閉鎖 されると,過去の監督や情報収集において,銀行監督者が失敗 した可能性 が高いと判断 されるので,監督者の名声 に傷がつ く 。Bo o ta ndTh a k o r ( 1 99 3) や永田 ・三隅 ( 2000) は,銀行監督者が名声 を重視する と,破綻 した銀行 を閉鎖す ることに消極的になることを示 した。
さらに,永田 ・三隅 ( 20 00) では,銀行の閉鎖 に関す る二 回の意思決定 を想定 している。 この想定 の もとでは,-回 目の意思決定 において,現在の意思決定の失敗が将来明 らかになるの を恐れて, 将来の意思決定 を放棄す るような決定が なされる可能性がある。それは,現在,銀行の状態 を観察 で きず,銀行 を存続 させ るのが最適であって も,将来,銀行が支払不能状態であることを知 ってか ら閉鎖す る と名声 を失 うので, 現 時点 で銀行 を閉鎖 す るの に積極 的 にな る こ とで あ る。 永 田 ( 2002) は,銀行監督者が名声 を重視す る と,能力の低い監督者が選択する努力水準 は,社会厚生 を最大 にす る最適 な水準 を上回ることを示 した。高い名声 を得 るためには,銀行 の破綻 を回避 しな ければな らないので,能力の低い監督者 は,社会厚生が減少す るほどの監督 コス トを発生 させてま で も,努力水準 を引 き上げようとす る。
銀行監督者の名声重視 を分析 した Bo o ta ndTha k o r ( 1 993) や永 田 ・三隅 ( 2000 ),永田 ( 2002) で は,銀行監督 と銀行閉鎖政策 を個別 に取 り上げてお り,監督者が銀行監督 と閉鎖政策の両方で意思 決定 を行 う状況 を考察 していない。 しか し,監督者 は,銀行規制 に関す る単一の業務 だけでな く, 複数の業務 を担当 している可能性がある。特 に,銀行の閉鎖や存続 を決定する権限を持つ監督者で あれば,事前の銀行監督に関 して も重要な意思決定 を行 っていると考 えられる。そこで,本稿では, 銀行監督者が,銀行監督の努力水準の選択だけで な く,閉鎖政策の意思決定 も行 うとい う状況で, 監督者の名声重視が,銀行監督 と閉鎖政策にどの ような影響 を与えるかを分析する。 また,複数の 規制 を取 り上げることで,戸谷 ( 2003) で指摘 されているような,監督当局全体の名声重視 も分析 す ることがで きる。
銀行規制 に関す る研究では,各種の規制 を個別 に取 り上げることが多 く,規制間の相互関係 を分 析 した ものは,それほど多 くない。 しか し,銀行の破綻 に対処する事後の閉鎖政策やセーフティネッ
トは,銀行 の破綻 を防止す るための事前 の規制 に影響 を与 える
3。本稿では,銀行監督者の名声重 清水 ・堀内 ( 1 9 9 7 ) は,事後のセーフティネットが,事前の規制に与える影響を分析している。日本のセーフ ティネットは,預金者だけでなく,ほとんどの資金提供者を保護するように運営されていたので,銀行-の 市場規律を阻害 していた。そして,競争制限的規制を通 じてレントを与えることで,銀行のリスクテイク ・
インセンティブを抑制していた 。1 9 8 0 年代以降の金融自由化により,レントが減少したために,銀行が高い
リスクを選択するようになった可能性がある。
銀行監督者の名声重視と銀行規制
視 によ り,銀行 閉鎖政策が非効率 になるときに,その非効率性が,事前の銀行監督 にどの ような影 響 を与 えるかを考察す ることがで きる。
本稿の構成は,以下の通 りである。第
2節では,本稿 のモデルの概要 を説明す る。第
3節では, 銀行監督者が社会厚生の最大化 を目的に している最善のケースを考察す る0第 4 節では,銀行監督 者の名声重視のケースを考察す る。第 5 節では,本稿 の考察結果 を整理す る。
2.モデルの概要
本稿では,銀行監督 と閉鎖政策の担当者 を,銀行監督者 と呼ぶ。銀行監督 は,監督者が,銀行 を 監視 し,問題があれば経営 に介入 し,裁量的に指導す ることである。銀行 閉鎖政策は,監督者が, 経営状態に応 じて,銀行の閉鎖 ・存続 を裁量的に決定す ることである。
本稿 のモ デルは,以下の ような 2 期 間モデルである。第 1期 に,銀行監督者は,銀行監督 と閉鎖 政策 を担当 している。第 2 期では,監督者 は,政府部 門を退職 し,民 間企業 に再就職す る。本稿で は,名声 を重視す る監督者が,銀行監督 と閉鎖政策 において, どの ような意思決定 を行 うかを分析 す るので,第 1 期 の意思決定 に焦点 を当てるQ簡単化のために,第 2 期では,銀行監督者は意思決 定 を行わない もの とす る。
2.1.第 1 期 :銀行監督 と銀行閉鎖政策
第 1期では,以下の ような 3 時点のモデルを想定す る。時点 0において,銀行監督者の タイプが 決 まる。監督者の タイプには, タイプ H とタイプ Lの二種類があ る。 それぞれの タイプが決 まる 確率 ( 事前確率) は ,0. 5 であるO時点 1 で,監督者 は銀行監督の努力水準
qを選択 し,銀行 は, 預金 によ りβ の資金 を調達 し,企業 に貸 し出す。簡単化のために,銀行の 自己資本 を考 えないの で,企業- の貸 出総額 もβ になる。銀行貸出は,時点 3 で返済 され,預 金 も,時点 3 で払い戻 さ れる。なお,本稿 では,銀行監督者 の意思決定 を分析す るので,銀行経営者 による資金調達額や リ スクの選択 を考 えない。
時点 2 で,銀行 の経営状態が実現す る。銀行の経営状態 は,状態 Gか状態 βの どちらかである。
どちらの状態が実現す るかは,銀行監督者が時点
1で選択 した努力水準
qに依存す る。状態
Gは, 銀行の経営が健全 であるような状態である。状態
Gが実現す る と,時点
3で貸 出が確実 に返済 さ
れ,銀行 は Y t >D) の収益 を待 て,預金 を払い戻す。一方,状態 B の もとでは,時点 3 になると,
確率
pで,貸出が返済 され,収益 Yが得 られるが,確率
1-pで,貸出は返済 されない。時点 3で
貸出が返済 されない と,銀行が破綻 し,預金 を払い戻す ことがで きな くなる。状態 βの もとでは,
資産か ら得 られ る収益 の現在価値 は預金額 を下 回ること,つ ま り ,pY<D を仮定す る。時点 Zに
おいて,状態 βの銀行 は,資産の現在価値 が預金額 を下 回ってい るので,支払不能状態,あるい
は債務超過状態 に陥っている。時点 2 で,銀行監督者 は,銀行の経営状態 を観察 し,銀行 を閉鎖す
るか どうか を決め る。監督者が銀行 を閉鎖 したな らば,時点 2 で,銀行 の破綻処理が行われる。本
経 済 学 論 集 第
7 0
号塙 では,銀行の預金は,政府 によ り全額保護 されている と仮定する。時点
2で,銀行が閉鎖 された 場合,政府 は銀行の資産 を売却 し,その収入 をもとに,銀行 に代 わ り,預金者 に預金 を払い戻す。
銀行の資産の売却収入が預金額 を下回る場合,政府は,不足分 と同額の公的資金 を投入 しなければ な らない。時点 2 で存続が認 め られた銀行が,時点 3 で破産 した場合,政府 は,預金額 β と同額 の公 的資金 を負担 しなければならない。 なお,預金は全額保護 されているので,預金金利は安全金 利 と等 しくなる。簡単化のために,預金金利 をゼ ロと仮定する。
2.1.1.銀行監督
銀行監督者 は,時点 1で,銀行監督 の努力水準 q を選択す る。 ただ し
, q∈[q ,q
],0 <
旦くす<1 とする。銀行監督者が タイプ H の場合,時点 2 において,確率 q で状態 G が実現 し,確率 1-q で 状態 Bが実現す る。 タイプ Lの場合,確率 eq で状態 Gが実現 し,確率 1- eq で状態 Bが実現す る。銀行監督者が どちらの タイプであ って も,努力水準 q を引 き上げる と,状態
Gが実現する可 能性 は高 くなる。本稿では ,
o<
β<1を仮定する。同 じ努力水準 を選択 して も, タイプ 〝の銀行監 督者 は, タイプ上の監督者 よ りも,状態 G を実現 させ る確率が高い。 タイプ 〝 の監督者 は, タイ
プ上の監督者 よ りも有能 といえる。
銀行監督 にはコス ト ( 監督 コス ト)が伴い,監督 コス トは,銀行監督者の選択する努力水準 q に 依存する。監督 コス トを C() q で示 し ,C() ' q > 0と C 〝q >Oを仮定す る。 この監督 コス トは,銀行 () 監督者のみが負担する私的 コス トと解釈で きるが,銀行監督 に伴 う社会的 コス トとも解釈で きる。
銀行監督の過程では,監督者 に提出す る資料の作成や,経営改善 に関する監督者 との交渉等 に,銀 行 は経営資源の一部 を投 入 しなければな らない。 これ らの資源が本来の業務 に投入 されたな らば, 銀行 は, より質の高いサー ビスを提供す ることがで き,高い収益 をあげることがで きる。 また,企 業や預金者 も,銀行 との取引か らよ り多 くの利益 を得 ることがで きる。銀行監督のために銀行の資 源の一部が費や され,社会的な利益が失 われて しまうことも,銀行監督 に伴 う社会的 コス トである。
本稿では,監督 コス ト
C(q)は,銀行監督者の私的 コス トと,社会的コス トの合計 と仮定する
4。2.1.2.銀行閉鎖政策
時点 2 で,銀行監督者 は,閉鎖政策に関する意思決定 を行 う。実現 した銀行 の経営状態 を観察 し, 監督者 は,銀行 を存続 させ るか,閉鎖す るか を決め る。上述の ように,時点 2 で状態 G が実現す る と,時点
3で,銀行貸出は確実 に返済 され るので,預金 も払 い戻す ことがで きる。状態
Gが実 現 した ときには,銀行 を閉鎖する必要が ない。銀行監督者が,銀行 を閉鎖するか どうか を決めなけ ればならないのは,銀行が支払不能状態 に陥 っている状態 βが実現 したときである。
時点 2 で状態 βが実現 し,銀行が 閉鎖 される と,政府 は,銀行貸 出 を,企業再生 ファン ド等 に 売却す る。貸出 を売却 した ときに得 られる資金 を
Lとす る。 ただ し, Y>D>L>pYを仮定する。
1
本稿では,銀行監督者の目的関数を,社会厚生と名声からの私的利益の合計 と仮定するので,監督コス トの
内訳を明確にしなくても,特に問題はない。
銀行監督者の名声重視と銀行規制
L>pY より,銀行貸出の購入者は,収益 の現在価値 よりも高い価格 を支払 うことになる。本稿では, 貸出の購入者 は,企業再生 に優れてお り,銀行 よ りも,貸出先の経営 を立 て直す可能性が高い と仮 定する。 この仮定の もとでは,収益 の現在価値 を上回る価格であって も,貸出を購入 しようとする。
政府 は,貸出の売却収入 と公的資金 を用いて,預金者 に預金 β を支払 う。
一方,時点 2 で状態 B の銀行 を存続 させ る と,政府が負担す る公的資金の規模 は,時点 3 で貸 出が返済 され るか どうかに依存する。貸 出が返済 された ときには,銀行 は破綻 しないので,政府 は 公 的資金 を投 入する必要 はない。 しか し,時点 3 で貸出が返済 されない場合,政府 は預金額 β と 同額の公的資金 を投入 しなければならない。
2.2.第 2期 :銀行監督者の私的利益
第 2 期 になると,銀行監督者は,政府部門を退職 し,民 間企業 に再就職す る。銀行監督者が有能 であると,監督者が民間企業で担当する業務か らの生産性 も高 くなると仮定する。民間企業 は,有 能な銀行監督者 には高い報酬 を支払い,そうでない監督者 には低い報酬 しか支払わない。民間企業 の人事担当者 は,銀行監督者が有能であるか どうかを観察で きない と仮定する。人事担当者は,莱 1 期の成果 に応 じて,銀行監督者の能力 に関す る事後確率 ( 信念) を形成 し,この事後確率に従 っ て,監督者 に報酬 を支払 う。
本稿では,民 間企業の人事担当者 を,評価者 と呼ぶ。評価者 は,第 1 期の成果 に応 じて,第 2 期 の初 めに,銀行監督者が タイプ
Hである とい う事後確率 ( 信念) を形成する。評価者が形成す る 信念 を 'とす る r
O民 間企業は,銀行監督者 に対 して,確率 'で報酬 r
wlを支払い,確率 , 1 - 7で報酬 T
wL
を支払 う。 ただ し
, w lI≧ wLである。評価者の信念が,銀行監督者の能力 に関す る名声 にな り, 第 2 期で得 る報酬が,監督者の私的利益 になる。銀行監督者の名声 ( 評価者の信念)が高 まるほど, 高い報酬が手 に入 る可能性 も高 くなるので,監督者の私 的利益 は大 きくなる。
2.3.情報構造 と均衡概念
最後 に,本稿のモデルの情報構造 と均衡概念 について述べ る。銀行監督者の タイプの事前確率は, すべての経済主体 に とって観察可能であるが,銀行監督者の タイプは,監督者 自身 も含 めて,すべ ての経済主体 にとって観察不可能である。銀行監督者が選択する努力水準 と実現 した状態は,監督 者だけが観察で きる。評価者が観察で きるのは,銀行監督者の タイプの事前確率 と,時点
2で銀行 が閉鎖 されたか どうか,時点 3 で銀行が破綻 したか どうかである。評価者は,監督者の タイプの事 前確率 と観察可能な情報 にもとづ き,監督者が選択す る努力水準や銀行 を閉鎖する確率 を予想 し, ベ イズ ・ルールに従 って,銀行監督者が タイプ 〟 である とい う信念 を形成する。
銀行監督者 は,期待効用関数 を最大 にするように行動すると仮定する。銀行監督者の期待効用関 数 EUは ,Bo o ta n dTh a k o r( 1 9 9 3 ) に従 い,
EU-SW+L EW
(1)経 済 学 論 集 第
7 0
号とす る 。SW は社会厚生であ り,社会厚 生は,銀行 と預金者の利益 の合計か ら,公的資金の投入額 や監督 コス トを差 し引いた ものである 。EW は,銀行監督者が第 2 期 に得 る報酬の期待値であ り, 監督者の私的利益である。銀行監督者は,社会厚生だけでな く,名声か らの私的利益 も考慮 しなが ら,意思決定 を行 っている。 人( ≧0) は,私的利益 に対する銀行監督者の ウェイ トであ り,監督者 が私的利益 をどれだけ重視 しているかを示 している。銀行監督者が私的利益 を重視すればするほど,
人は大 きくなる。銀行監督者が社会厚生のみ を目的に行動する場合,
A-0 になる。
本稿の均衡概念 は,永 田 ・三隅 ( 2000) に従 う。本稿で用いる均衡概念 は,逐次的均衡であ り, それは,以下の条件 を満足する銀行監督者の努力水準 と閉鎖政策 に関する意思決定,監督者の能力 に関する評価者の信念の組み合わせである。
条件 1 :評価者の信念 を所与 として,銀行監督者が選択する努力水準や閉鎖政策は,監督者の期 待効用 を最大 にす る。
条件 2: 評価者 は,ベ イズ ・ルールに従 って信念 を修正する。
3.最善の均衡
この節では,銀行監督者が社会厚生の最大化 を目的に行動す るケースを取 り上げる。 このケース では,最善の意思決定が行 われる。
3.1.
最善の銀行閉鎖政策
最初 に,時点 2における銀行 閉鎖政策 について考察する。状態
Gの もとでは,銀行 は確実 に預 金 を払い戻す ことがで きるので,銀行 を存続 させ ることが最適 になる。状態 βの銀行 を存続 させ ると,時点 3 で,確率
pで,銀行が預金 を払い戻 し,確率 1
-pで,銀行が破綻する。銀行の存続 を認めるときの社会厚生 は,
p(Y-D)+(D-D)-(llP)D
=
pY-D( 2)
となる。式 ( 2) の左辺の第 1項 は,銀行の期待利潤である。第 2 項 は,預金者の収益 である。預金 は全額保護 されているので,預金者 の収益 はゼ ロになる。第 3 項 は,政府の収益 であ る。状態
βの銀行 を存続 させ ると,政府 は,確率
1-pで,預金額 D と同額の公的資金 を投入 しなければな ら ない。
一方,状態 βの銀行 を閉鎖 し,貸出を売却すると,政府は上の資金 を得 る
。 上<β より,政府は, 資産の売却収入 と,
刀-上だけの公的資金 を用いて,預金者 に預金 β を支払 う。状態 βの もとで, 銀行 を閉鎖 した ときの社会厚生 は,
(D-D)-(D~L)- L~D
( 3)
となる。式 ( 3) の左辺の第 1項 は,預金者の収益 であ り,第 2 項 は,政府の公的資金投入額である。
銀行監督者の名声重視 と銀行規制
L>pY よ り,銀行 を閉鎖す る と,社会厚生が大 き くなる。状態
Bが実現 した ときには,銀行 を閉 鎖す ることが最善 になる。
3.2.
最善 の銀行監督
次 に,時点 2 において,最善の閉鎖政策が行 われる とき,時点 1で選択 される銀行監督 の努力水 準 を導 出す る。銀行監督者 は,名声か らの私 的利益 を一切考慮 しないので,監督者の 目的関数は, 社会厚生関数 と同一 になる。社会厚生関数 は,
SW 05q O )Y D) 051 q 1 = .(+ q (- + .(- + le) q(- L D) C() - q
=0・ 5( q+O q) Y+0 ・ 5 ( 1-q+1-Oq) L-D-C( q)
(4)となる。最大化 の一階の条件 は,
0 .(+0) 5
1 ( - ) C() Y L - 'q (5)であ る。左辺 は,銀行監督者が努力水準 を引 き上 げた ときの,時点 1で評価 した社会厚生の増加分 であ り,銀行監督 の限界収益 になる。 それは,状態 G が実現す る確率が ,0 _(+0) 5
1ほ ど高 くなる ことと,状態 Gの もとで は,状態 Bよ りも Y-Lほ ど社会厚生が大 きい ことか ら成 り立つ。一方, 右辺 は,銀行監督者が努力水準 を高めた ときの限界費用であ り,監督 コス トの増加分であ る。それ は,監督者 が努力水準 を高めることで被 る限界不効用 と,銀行監督 に対 して より多 くの資源が配分 され るこ との社 会的 コス トの増加分 の合計 であ る。式 ( 5) を満 たす
qを
qF Bとす る と
, qFBは,社会 厚生 を最大 にす る最善の努力水準 になる。
4.
銀行監督者の名声重視 :名声均衡この節で は,名声か らの私的利益 も重視 している銀行監督者が,銀行監督 と閉鎖政策 において, どの ような意思決定 を行 うかを考察す る。
銀行監督者 は,式 ( 1 )の ような期待効用 関数 の最大化 を目的に行動 している。本稿で は,時点 2 にお ける閉鎖政策 の均 衡戦略 として,状態 Gの とき,銀行 を必 ず存続 させ,状態 βの とき,確率 γ で銀行 を閉鎖 し,確率
1- γ で,銀行 を存続 させ ることを仮定す る。時点 1では,銀行監督者 は, 時点 2 における監督者 に とって最適 な意思決定 ,つ ま り,期待効用 関数 を最大 にす るような閉鎖政 策の もとで,銀行監督 の努力水準 を選択す る。
4.1.
銀行監督者の私 的利益
最 初 に,銀行監督者 の上述 の意思決定 に対 して,評価者が形成す る信 念 ( 銀行監督者 の名声) ,
つ ま り,監督者 が タイプ H である とい う事後確 率 を導 出す る。銀行監督者が時点 2 で銀行 を閉鎖
した ときの名声 を 7 T c とす る。時点 2で存続 を認 め られた銀行 が,時点 3で預金 を払い戻 した とき
経 済 学 論 集 第
7 0
号の名声 を
7Tsとし,時点 3 で破綻 した ときの名声 を
7rJとす る.それぞれの名声 は, 0.(- ) 5I qY (- ) 1 q
7r
c
(q)0. 5 (
1-q) Y+0. 5 (
I-鞄) Y ( 1 -q)+
(1一句) (6)7Ts(q,
Y
)= o・ 5
(q
・(1-q
)(I-Y
)p
)0.( (- 5q
+I q
)(1-Yp +0. )) 5
(q +(ll句)I Yp (- )) q+( I -q) ( ト Y) p
q
+(ト q) ( ト Y) p
+ag+(llag)(1-Y) p
J()
O
・5
(I-q) ( 1l
Y)
(I-p) ( I-q)
2Tq0. 5
(-1q( )
ll
Y()
llP) 05
+.( 1 1
句)(- ) I
Y(-Ip ) (- ) I q+
(-I 鞄)となる。
名声の大小関係 は,
7 T(,
sqY ) > 7cq r() 方()
=′q
である。銀行が破綻 しなかった ときの名声が最 も高 くな り,銀行が時点 2 で閉鎖 された ときの名声 と,時点 3で破綻 した ときの名声 は等 しくなる。時点 3で銀行が破綻 しない ときは,時点 2で状態 Gが実現 した ときか,存続が認め られた状態 βの銀行が,預金 を払 い戻せ た ときの どち らかであ る。一方,銀行が時点 2 で閉鎖 される ときは,状態 βが実現 した ときだけである。 時点 3 で銀行 が破綻す る ときも,状態 βの銀行が存続 させ られた ときだけである。評価者 は,時点 3 で銀行が 預金 を払 い戻 したこ とを観察す ると,状態
Gが実現 した可能性がある と考 えるC銀行監督者が タ
イプ Hであるとき.状態 Gが実現す る確率 は高 くなるので,評価者 は,監督者が タイプH である という信念 を強 くす る。一方,時点 2で銀行が閉鎖 された ときと,時点 3で銀行が破綻 した ときに は,状態 βが実現 していたことが評価者 に対 して明 らかになる。銀行監督者が タイプ上である と き,状態 Bが実現す る確率 は高 くなるので,評価者 は,監督者が タイプH であるとい う信念 を弱 くする。
式
( 7) を γ で微分する と,
旦生垣 4
,0
∂γ
となる。状態 βの ときに銀行が閉鎖 される確率が引 き上 げ られ る と,時点 3 まで銀行が存続す る ときには,状態
Gが実現 している可能性 は さらに高 くなる。評価者 は,時点
3で銀行が預金 を払 い戻 したの を観察す る と,銀行監督者が タイプ〃 である とい う信念 を強 くす る。
なお .
7Ts
(q,Y)に関 しては,
1
方Sq (7)
1=i寺盲
q+( I -q) p ( ,)
方Sq
0q+( 1-q) p+
ag+(I-句) p
銀行監督者の名声重視と銀行規制
を満たす もの とする。
上述の名声 ( 評価者の信念)にもとづ き,銀行監督者 は,第 2 期 で報酬 を得 る。 これが,銀行監 督者の私的利益である.銀行が破綻 しない とき,監督者 は,確率
7Tsで報酬
W〟を得て,確率 1 -
7Tsで報酬 wL を得 る。銀行が預金 を払い戻せ た ときに,監督者が得 る報酬の期待値 をEWsす ると, EWsqY -T(,) (,) 2sqY
w H+
(I-T(, w7sqY) )L
( 1 1)となるO 同様 に,銀行 を閉鎖 した ときの報酬 の期待値 EW cと,銀行が破綻 した ときの報酬 の期待 値 E WIは,
EWcq () c
-7T( q)
wf+ I
(ト7rL ・ ( w q) )L EWI () JJq q = T()
wJ+l(1-T( w 7Iq) )L
となる 。7
rcq-T ) () 7I ( q よ り , EW ( cq)- EW () Jq である。
4.2.
銀行監督者の名声重視 と銀行閉鎖政策
最初 に,時点 2 における銀行監督者の意思決定 について考察す る5 。時点 2 で実現 した状態 に応 じて.銀行監督者 は銀行の閉鎖 .存続 を決定す る。状態
Gの とき,監督者 は銀行 を必ず存続 させ る。状態 βの とき,確率 γで銀行 を閉鎖 し,確率 1- γで銀行 を存続 させ る。銀行監督者 は,期 待効用関数 EU を最大 にす るように
, γを決める。状態 Bの もとで評価 した銀行監督者の期待効用
は,
EU(
Y)
=Y( L-D+
AgWc( q) ) +( 1-Y) l pY-D+A( pEWs( q, Y ) +
(l-p) EWl ( q) ) 】
-l - pY D+lp tEW (,) sqr+
(-1pEW() ) Jq
)+】yL pY l- 一 々( 7sq T(,)
Y1
7Tcq) ( ( , W ) )
wJ- L] (4 1) となる。 ここで,
W(
Y) - ( 々) Jsq T(,) T( (
YI7cq) )W
H-W) L ( 1 5)
とお く。式 ( 1 5) は,状態 Bの銀行 を閉鎖 した ときに,銀行監督者が失 う ( 社会厚生 と比較 した) 私的利益であるO時点
2で銀行 を閉鎖す ると,存続 させ た銀行が破綻 しなかった ときよ りも低い名 声 しか得 られないので,銀行監督者が第
2期で高い報酬 を得 る可能性は低 くなる。 また,
γ - b( L ,o
至塑
∂ J
wH-W)
竺 ㌍( 1 6)
となるので
,Wtγ) は , γの厳密 な増加関数 になる.
状態
Bの とき,銀行監督者が銀行 を閉鎖す るか どうかは ,L-pY と wtγ) の大小 関係芋 よって決
5
以下の考察は,永田 .三隅 ( 2 0 0 0) の考察を応用したものであるO
経 済 学 論 集 第
7 0
号まる。前 者 は,状態 βの銀行 を早期 に閉鎖 す る こ とで得 られ る社会厚 生 の増加 分 であ る。 時点
2
で状態 βの銀行 を早期 に閉鎖 す る と,時点3
まで存続 させ た と きよ りも,負担 す る公 的資 金が少 な くなる可能性 が あ る。 さらに,企業再生の専 門家 に貸 出 を売却す ることで,借 り手企業 の経営が 立 て直 され る可能性 も高 くなる。一方,w tγ)
は,銀行 を閉鎖す るこ とで失 う監督者 の私 的利益 で あ る。 監督 者 が失 う私 的利益 が大 きい と,状 態 βが 実現 して いて も,銀行監督 者 は銀行 の存 続 を 認 め ようとす る。 そ こで,以下の命題 が得 られ る。命題1 銀行監督者 の名声重視 と銀行閉銀政策
時点
2
で状 態G
が実現 した ときには,銀行 は存続 を必 ず認 め られる。状態B
の もとで は, wtγ)
が γの厳 密 な増加 関数である とき,銀行監督者 に とって最適 な銀行 閉鎖政策は,以下の ようになる。1. L-pY2 W ( 1 )
の と き,銀行監督者 は必ず銀行 を閉鎖 す る(
y '- 1)
。 このケースでは,銀行監 督者が名声 を重視 していて も,銀行閉鎖政 策 は最 善 になる。2. W ( 1 ) >L-pY>W( 0)
の とき,銀行監督者 に とって最 適 なγは,L-pY
-Wtタ)を満 たす タであ る(y'
- チ)。 このケースでは,最善の銀行 閉鎖政策 は実行 されない。3. LIPY ≦wt 0 )
の とき,銀行監督 者 は必ず銀行 を存続 させ る (Y
'- 0)
。 この ケースで は,銀行 が支払不 能状態 に陥 っていて も,存続が必 ず認 め られ る。命題
1
は,Bo o ta ndTha ko r( 1 9 93)
や永 田 ・三隅( 200 0)
の考察結果 と同 じで あ る。現 時点 で支 払不能状態 にあ る銀行 を閉鎖す る と,社会厚生が大 きくなる。 しか し,銀行 を閉鎖す ると,監管者 は高 い名声 を失 うので,将来高 い報酬 を得 られ る可能性 が低 くなる。民 間企業が支払 う報酬額の差J-WL
( w, )
が 大 きい ときや,監督者 が私 的利益 を重視 す る傾 向が強 い と ()が大 き くなる と),銀行 が支払不 能状 態 であ って も,監督者 は銀行の存続 を認 め て しまう。4.3.銀行監 督者 の名声重視 と銀行監督
次 に,銀行 監督 者 の名声重視が銀行監督 に与 える影響 を分析す る。時点
2
において,命題1
の よ うな閉鎖 政 策が行 われ る とき,時点1
で評価 した銀行 監督者 の期待効用関数EU
J( q,γ' )
は,EUl (, qY) 05q '= .(+句)YID+m ( W (,' +051 q s qY) )
・(- +
1一句)'L D+M W ( Y(- cq ) ) +o
・5 ( 1 -q+
1一句) ( 1 -Y' ) 【 pY-D+i( pEWs ( q, Y' ) +
(llP) EWJ ( q) ) ] -C( q)
-05q a) 1(
'7Y+051 q
1(- ・
1-b)YLE ('
' 1(-Y) 'p
Y -)D- C() ・1w q + 05(H・w) L (7 1)
になる。式
( 4)
と比べ る と,式 (17)で は,状態βの銀行が存続 され る可能性 が あ るので,状態βが 実現 した と きの社 会厚 生が小 さ くなる。 また,式(17)の右 辺 には,銀行監督者 の私 的利益 (第 2期 に得 る報酬 の期待値)の項 も存在す る。本稿 の ように,監督者が 自分の タイプを観察で きない とい う仮定 の もとで は,時点 1で評価 した私 的利益 の期待値 は一定 にな る6。監督者 が銀行監督 の努力 水準 qを引 き上 げて も,時点 1で評価 した私 的利益 は変化 しない。 この ような状態のも とで は,級銀行監督者の名声重視と銀行規制
行監督者が努力水準 を引 き上げることはない と思われる。 しか し,以下でみるように, この ような 状況であって も,銀行監督者 は高い努力水準 を選択す る可能性がある。
最初に,時点 2 で状態
Bが実現 した ときに,監督者が,銀行 を必ず存続 させ るケース (
Y +-0)
を考察する
。y'-0 を式 ( 1 7) に代入 し,一階の条件 を導出すると,
01( 5 i +0) (
Y pY)- =C() 'q (18)となるD式 ( 1 8) の左辺 は,銀行監督者が努力水準 を引 き上 げることの限界収益である。式 ( 5) と比 べ る と,式 ( 1) 8 は,0
.(51 +
e)L pY)( -だけ大 き くなっている。時点 2 で状態 Bの ときには,銀行 は,必ず存続 を認め られるので,必ず閉鎖 される ときと比べて,社会厚生 は
L-pYだけ減少す る。
最善の閉鎖政策のケース と比べて,銀行監督の努力水準 の限界収益 は大 き くなる。式 ( 1 8) を満たす
qを q o とすると ,q>qB o F になる。
本稿では,銀行監督者の名声重視の影響 を分析 しているが,監督者は 自分の タイプが観察で きな いために,監督者の私的利益 は,努力水準 と関係 な く,一定になる。努力水準が変化 して も私的利 益が変化 しない状況では,銀行監督者が努力水準 を引 き上げることはない と思われる。 しか し,銀 行閉鎖政策が最善になるときよ りも,高い努力水準が選ばれるとい う結果が導かれた。それは,努 力水準の引 き上げが,私的利益 を大 きくす るか らではな く,非効率 な閉鎖政策による社会厚生の減 少 を回避で きるか らである。将来,銀行監督者は,自己の名声 を守 るために,支払不能状態 にある 銀行 を存続 させ る。現時点で銀行監督の努力水準 を引 き上 げると,監督者の私的利益 は増加 しな く て も,将来の銀行の破綻 を回避で きるので,社会厚生が大 きくなる。銀行監督者のタイプが,監督 者 自身にとって も観察不可能な場合,銀行監督者の名声重視は,私的利益 ではな く,閉鎖政策を非 効率 にすることを通 じて,銀行監督 に影響 を与 える。
次 に,銀行監督者が,名声 を守るために,正 の確率で状態
Bの銀行 を存続 させ るケース (
y*-夕)
を考察す る。 このケースの一階の条件 は,
0.(+ 5 1
e)Y一 夕L t -(1一夕) pYl-C() 'q(9 1) である。 タ< 1 よ り,式 ( 1 9) の左辺 は,式 ( 1 8) よ り小 さいが,式 ( 5) よ りも大 き くなる。式 ( 1 9) を 満 たす
qを q y Aとすると , q o >qプ>q 相になる。時点 2 で支払不能状態 にあ る銀行が存続 させ られる 可能性がある限 り,銀行監督者の選択す る努力水準 は,状態 βの銀行が必ず 閉鎖 され る最善の水 準 を上回る。
最後に,名声 を重視 している銀行監督者であって も,時点 2 で状態 B の銀行 を必ず閉鎖するケー ス (
y '- 1) を考察す る。 このケースでは,一階の条件 は,
0.( 5 1 +0
) Y L)- C()(
- 'qなお,評価者は,監督者の努力水準の予想を瞬時に変更できると仮定している。
6
経 済 学 論 集 第
7 0
号とな り,最善のケースの式 ( 5) と同 じである。名声 を重視 している銀行監督者であって も,時点 2 で状態
Bの銀行 を必ず閉鎖する ときには,最善のケース と同 じ努力水準
qFBを選ぶo
銀行監督者が,名声か らの私的利益 を考慮 していて も,支払不能状態の銀行 は必ず閉鎖 されるの で,社会厚生は減少 しない。現時点での努力水準の選択 は,監督者の私的利益 に影響 を与 えないの で,銀行監督の努力水準 を引 き上げることの限界収益 は,監督者が社会厚生の最大化 を目的 とする ケース と等 しくなるo Lたが って,名声 を重視 している監督者であって も,最善の閉鎖政策 を行 う な らば,銀行監督 において も最善の努力水準 を選択す る。
本稿 の考察結果は,永 田 ( 2002) とは異 なってい る。永 田 ( 2002) は,最善の閉鎖政策が行 われ ている という想定の もとで,名声 を重視する監督者 は,銀行監督の努力水準 を引 き上げる可能性 を 示 した。永 田 ( 2002) では,銀行監督者は自分 の タイプを観察で きる と仮定 しているので,監督者 が将来得 る名声の期待値は,努力水準 に依存す る。能力の低い監督者 は,監督 コス トの増加 により 社会厚生が減少することになって も,名声の期待値 を高め ようとして,努力水準 を引 き上 げようと する。一方,本稿では,銀行監督者は自分の タイプを観察で きないために,名声か らの私的利益 は, 努力水準 に依存せず,一定になる。それゆえ,銀行 閉鎖政策が最善であるならば,監督者 は努力水 準 を引 き上げ ようとは しない。
上述の考察結果 をまとめると,以下の命題
2が導かれる。
命題 2 銀行監督者の名声重視 と銀行監督
名声 を重視 している銀行監督者が,時点 2 において,命題 1 の ような銀行閉鎖政策 を行 うとき, 時点 1 で選択 される銀行監督の努力水準 は,以下の ようになる。
1.時点 2 において,銀行監督者が,支払不能状態の銀行 を必ず存続 させ る場合,時点 1で選択 さ れる銀行監督 の努力水準 は,最善の銀行閉鎖政策の もとで選択 される水準 を上 回る。 このケー スで選ばれる努力水準 は,他のケース と比べ て,最 も高 くなる。
2. 時点 2 において,銀行監督者が,支払不能状態の銀行 を,正 の確率で存続 させ る場合,時点 1 で選択 される銀行監督の努力水準 は,最善の銀行 閉鎖政策の もとで選択 される水準 を上回る。
3. 時点 2 において,銀行監督者が,支払不能状態の銀行 を必ず閉鎖す る場合,時点 1 で選択 され る銀行監督の努力水準 は,最善の銀行 閉鎖政策の もとで選択 される最善の水準 と等 しくなる。
銀行監督者が名声か らの私的利益 を考慮 しているために,閉鎖政策が非効率 になると,銀行監督 の努力水準 も高 くなる。銀行 を閉鎖す ると,銀行が支払不能状態 にあることが明 らかにな り,評価 者は,監督者が有能である可能性 は低い と判断する。高い名声 を失 うことを避 けようとして,銀行 監督者は,支払不能状態 にある銀行 を存続 させ ようとす る。銀行が支払不能状態 に陥る と,社会厚 生が大幅 に減少するので,銀行監督の努力水準 を引 き上 げることの限界収益 は大 きくなる。支払不 能状態 にある銀行 を閉鎖することに監督者が消極的になると,銀行監督の努力水準 は,最善の閉鎖 政策 の ときに選択 される水準 よりも高 くなる。
- 1 2-
銀行監督者の名声重視 と銀行規制
本稿 のモ デルで は,銀 行監督 者 の タイプが ,監督 者 自身 に とって も観察不 可 能 である と仮 定 され てい るので,銀 行監督 の努 力水準 が選択 され る時点 で は,監督者 の私 的利益 の期待値 は一定 にな り, 努力水準 に依 存 しない。銀 行監督 者が名声 か らの私 的利益 を重視 していて も, 閉鎖政策が最善 に行 われ るな らば,銀行監督 の努 力水 準 は引 き上 げ られ ない。 したが って,本稿 の考察 よ り,監督者 が 自分 の タイプを観察 で きない とき,銀 行 監督者 の名声重視 は, 閉鎖 政 策 には直接 影響 を与 えるが , 銀行 監督 に対 して は, 閉鎖 政策 を通 して 間接 的 に影響 を与 えてい る こ とが 明 らか にな った。
5.まとめ
本 稿 で は,監 督者 が ,銀 行監督 の努 力水準 の選択 だけで な く, 閉鎖政 策 の意思決定 も行 って いる 状況 で ,銀行監督者 の名声重視 が,銀行監督 と閉鎖 政策 に どの ような影響 を与 えるのか を分析 した。
)
や永 田 ・三隅 3
9 9
1 ( 2 0 0 ) 0
と同 じよ うに, 自己 の 名声 を重 視 して い る銀 行 監n
督 者 は,支払不 能状態 にあ る銀行 の存続 を認 め よ う とす る。支払 不 能状 態 にあ る銀行が早期 に閉鎖 され ないので,社 会厚生 は大幅 に減少す る。社 会厚 生 の大幅 な減少 を回避 しようと して,監督者 は, 銀行 監督 の努 力水準 を引 き上 げ よ うとす る。銀行 監督者 が ,支払不 能状 態 にある銀行 を閉鎖す る こ
とに消極 的 にな る と,最善 の 閉鎖 政策 の ときよ りも,高 い努 力水準 が選 択 され る。
本稿 では,銀行監督者 が 自分 の タイ プを観察 で きない と仮 定 した。 その ため,銀行監督 の努 力水
銀行 監督者 の名声 重視 は,銀行 閉鎖 政策 に直接 影響 を与 えるが ,銀行 監督 に対 しては,閉鎖 政策 を
ta dTh r(
準 が選択 され る時点 では,監督者 の私 的利益 の期 待値 は,努力水準 に依 存せず ,一定 になる。 この
k
a o
ような状況 で あ って も,銀行 閉鎖 政策が最善 で ない と,努 力水 準 が引 き上 げ られ る可 能性 が あ る。
通 して 間接 的 にのみ影響 を与 え る可 能性 が ある。
Boo
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