責任無能力者の加害行為と監督義務者の責任
──認知症高齢者の事例を中心に──
[ 4 ]「JR東海事故訴訟」最高裁判決 本件は、旅客鉄道事業を営む会社であるX(平成₂₆年(受)第₁₄₃₄号上告 人・同第₁₄₃5号被上告人)が、認知症患者のA(当時₉₁歳)が駅構内の線路 に立ち入り、Xの運行する列車に衝突して死亡した事故(以下「本件事故」 という)により、列車の遅れが生ずるなどして損害を被ったと主張して、A の妻Y ₁ (平成₂₆年(受)第₁₄₃5号上告人)及びAの長男Y ₂ (平成₂₆年(受) 第₁₄₃₄号被上告人)に対し、民法₇0₉条または₇₁₄条に基づき、損害賠償金 (₇₁₉万₇₇₄0円)及び遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。 ( 1 )事実関係 原審が認定した事実関係は、要約つぎのとおりである。 (ⅰ)AとY ₁ は、昭和₂0年に結婚し、以後同居していた。両者には ₄ 人 の子がいるが、このうち長男Y ₂ 及びその妻Bは昭和5₇年にAの自宅(愛知 県)から横浜市に転居し、他の子らもいずれも別居独立している。 (ⅱ)Aは、平成₁₂年頃より、食事後に「食事はまだか」と言い出したり、 昼夜の区別がつかなくなったり、平成₁₄年になると、晩酌したことを忘れて 何度も飲酒したり、寝る前に戸締まりをしたのに夜中に何度も戸締まりを確 認したりするなど、認知症の症状を示すようになった。