研究ノート
許容限度を超えた国勢調査の信頼性低下
原 田 康 平
《要 約》
個人情報に対する意識の高まりなどを背景に,国勢調査では2010年から調査書の封入提出や郵送,
インターネット回答などが導入されてきた。この結果,「不詳」とされる無効データが急増し,特に就 業者数の精度が大きく低下して,労働力調査との乖離が拡大している。2015年国勢調査では,年齢不詳,
労働力状態不詳および産業分類不詳の合計が1,182万人にも達している。本論では,不詳の発生が性別 や年齢層,市町村規模などに依存している実態を示した上で,性,
5 歳階級年齢,市町村別に按分する
補正法を示し,労働力調査との対比や分析結果への影響を検証している。目 次 はじめに
1 .データについて
2 .国勢調査結果に含まれる「不詳」
2.1 年齢「不詳」
2.2 労働力状態「不詳」
2.3 産業分類の「不詳」
2.4 従業地の「不詳」
3 .就業者数の補正について
3.1 補正の必要性 3.2 補正方法4 .議論
おわりに 参考文献
はじめに
2015年末,内閣府は『まち・ひと・しごと創生総合戦略』[1]を発表し,「人口減少が地域経済の縮小 を呼び,地域経済の縮小が人口減少を加速させるという負のスパイラルに陥るリスクが高い」という認 識のもとに,若年雇用を中心とする対策を打ち出した。その一方で,我が国には「人口減少は怖くない」
を主張する少なくない識者がおり,毎年,かれらの著書が出版され,それなりに受け入れられているよ うに見える。間もなく30年になろうとする「失われた10年」も,荒廃が広がりつつある地方都市の中心 市街地も,かれらにとってさほど注目に値しないらしい。この30年,GDPにせよ人口にせよ,年平均 で見ると,その変化はたかだか
1
%ほどでしかない。地域経済の縮小を日常的に体感することは難しく,事態の深刻さが見えにくいのも確かである。
それだけに,政策や研究に携わる者にとって,緻密なデータ検証が不可欠というべきであり,手遅 れになる前の警鐘と対応が求められる。就業に関していえば,わが国には国勢調査と労働力調査とい う
2
つの代表的な調査があり,詳細な結果が公表されている[ 2, 3 ]
。前者が全数調査を原則とするのに 対して,労働力調査はおよそ 4 万世帯,10万人を対象とする標本調査であることから,国勢調査結果こ そが高精度のデータとして,大きい信頼が寄せられてきた。しかしながら2010年以降,調査方法の改訂 による精度の低下が指摘されている [4]。たとえば2005年と2015年の国勢調査結果の数字をそのまま用 いると,「この間,就業者数は6,151
万人から259
万人減って,5,892
万人となった」となる。一方,労働 力調査 [5]では「2005年の6,356万人から2015年の6,401万人まで就業者数は45万人の増加となった」と真 逆の結果が導かれる。この違いの原因は,国勢調査において労働力状態「不詳」が2005年の336万人か ら2015年には721万人まで増え,就業者数が過少に評価されていることにある。このように,近年の国勢調査の精度低下はもはや許容範囲を逸脱しているといわざるを得ず,これま で信頼感が強かった分,その弊害も大きい。とはいえ,終わった調査はいかんともしがたく,何らかの 工夫によってデータの有効活用を図るしかない。ここでは,これまでの国勢調査における回答不詳の実 態を検証し,特に就業に関するデータを対象として,単純な按分による補正方法の有りようについて考 察する。
付言すれば,本論の目的は不詳増加の原因探索や改善策の提言ではない。それは調査主体のなすべき ことと考える。
1 .データについて
本論では,総務省統計局統計センターのホームページ『国勢調査』[2] および『労働力調査』[3] で公 表されているデータを用いている。前者については,1980年以降の分がディジタルの形で公開されてい るが,
2005
年前後に全国で実施された市町村合併などにより,一部を除いて,市町村レベルでの連続性 はない。このため,ここでは2015年の行政区分で再集計した数値を用いている。また,2015年のデータ には,震災による避難区域を抱えた 9 市町村が含まれており,市町村単位での集計からはすべて除外し た。具体的に検証した項目は以下の通りである。
1980
年以降の全国の男女別人口と年齢不詳人数から求めた年齢不詳率 2005年以降の市町村単位での人口と年齢不詳人数から求めた年齢不詳率1980年以降の全国の男女別15歳以上人口と労働力状態不詳の人数から求めた労働力状態不詳率 2005年以降の市町村単位での15歳以上人口と労働力状態不詳の人数から求めた労働力状態不詳率
1980
年以降の全国の男女別就業者数と分類不能の産業人数から求めた産業不詳率2005年以降の市町村単位での就業者数と分類不能の産業人数から求めた産業不詳率 2015年の市町村単位での就業者数と従業地不詳人数から求めた従業地不詳率
さらに,2005~
2015年の産業別就業者数について,不詳人数の比例按分による補正値を次のデータか
ら求めた。市町村別男女別 5 歳階級別人口
市町村別男女別
5
歳階級別15
歳以上人口と就業者数 市町村別男女別 5 歳階級別産業別就業者数2 .国勢調査結果に含まれる「不詳」
2 . 1 年齢「不詳」
従来,国勢調査は,調査員が世帯ごとに手渡しで調査票を渡し,チェックした上で回収する方式が原
則であったが,2010年以降は,封入した調査票の提出,調査票の郵送,インターネット回答が順次導入 され
[6]
,これとともに回答精度も低下を余儀なくされてきた。図 1 は,1980年以降の国勢調査における年齢不詳の割合を示している。2010年以降,不詳率は大きく 上昇し,2015年の不詳数は全人口の 1 %を超え,1,453,758人に達している。
ただし,市町村別に見ると,状況は少し異なる。図 2 に示しているように,1709市町村1の平均は
2010年以降に大きく上昇したが,中央値は2015年でも0.17%にとどまっている。また,2015年の平均
図 1 1980年以降の男女別に見た年齢不詳率の推移
(出所:総務省統計センター,『国勢調査』[2]のデータより作成)
図 2 1980年以降の市町村別不詳率の上下四分位(Q1,Q3),中央値および平均の推移
(2015年行政区分で算出)(出所:総務省統計センター,『国勢調査』[2]のデータより作成)
1
三宅村は,2000年に火山噴火による全島避難で人口がゼロとなったことから,ここでは全区間で除外してい る。0.43%も,全体での不詳率1.1%を大きく下回っている。つまり,不詳数は全体で一様に増えていると
いうより,いくつかのまちで突出して増えたところがあって,これが全体の不詳率を押し上げている。
ちなみに年齢不詳率のトップは福生市の13.9%であった。
図 3 は,1710市町村について求めた2015年の人口と年齢不詳率の両対数プロットであり,次の 2 点が 導かれる。
人口が少ないまちほど年齢不詳率が低い傾向にある
不詳率が図抜けて高い自治体が
1000
人規模から100
万人規模の広い範囲に少数ながら存在して いるこのような不詳の地域的な偏りについては山田茂による検証があり [6],独り住まいや集合住宅の多さ などの係わりが指摘されている。確かに若者の独居世帯や集合住宅は都市部に多いと考えられるから,
これが人口と不詳率の正相関をもたらした可能性は十分に考えられる。ただし,少数の不詳率が突出し た自治体の存在までがこのような一般的な要因で説明できるとは考えられず,もっと直接的な理由の存 在が疑われる。
2 . 2 労働力状態「不詳」
表
1
は2015
年国勢調査における労働力状態に関する数字であり,総数1
億975
万人は各歳人口から求 図 3 2015年における1710市町村の人口と年齢不詳率(両対数)(出所:総務省統計センター,『国勢調査』[2]のデータより作成)
めた15歳以上人口と一致する。つまり,年齢不詳であった145万人は,ここでは最初から除外されている。
さらに,労働力人口と非労働力人口の合計は
15
歳以上人口総数より7,208,394
人少なく,これは労働力 状態「不詳」に分類されている。ここに挙げられた就業者数58,919,036人は,これら年齢不詳,労働力 状態不詳を除いた上での数ということになる。表 1 2015年における15歳以上人口と労働力状態別の人口
総数 労働力 就業者 完全失業者 非労働力
109,754,177 61,523,327 58,919,036 2,604,291 41,022,456
(出所:総務省統計センター,『国勢調査』[2] のデータより作成)
図
4
は1980
年以降における労働力状態不詳割合の推移であり,1995
年まで1
%未満であった不詳率は2010年以降に急上昇している。
ここで国勢調査の不詳数を次のように按分してみよう。
①全人口
127,094,745
②年齢不詳 1,453,758③=①-② 年齢の判明している人数 125,640,987 ④15歳以上人口 109,754,177
⑤=④+②×④
/
③ 年齢不詳を按分した追加15
歳以上人口1,269,936
⑥労働力人口 61,523,327図 4 1980~
2015年における労働力状態不詳の割合の推移
(出所:総務省統計センター,『国勢調査』[2]のデータより作成)
⑦非労働力人口 41,022,456
⑧=⑥+⑦労働力状態が判明している人数
102,545,783
⑨=④-⑧ 労働力状態不詳人数 7,208,394⑩ 就業者数 58,919,036
⑪=⑨×⑩/⑧ 労働力状態不詳を按分した追加就業者数 4,141,678
⑫=⑤×⑩
/
⑧ 年齢不詳による追加15
歳以上人口をさらに按分した追加就業者数729,659
⑬=⑪+⑫ 年齢と労働力状態の不詳により漏れたと推定される就業者数 4,871,337 ⑭=⑩+⑬ 推定総就業者数 63,790,373すなわち,「年齢不詳ゆえに抜け落ちたと想定される就業者数」
73
万人,「労働力状態不詳ゆえに抜け落 ちたと想定される就業者数」414万人,合わせて487万人が2015年の国勢調査における過少評価分と推定 される。図 5 は2015年における1710市町村の人口と労働力状態不詳率の関係であり,人口が多いほど不詳率が 高くなる傾向は年齢不詳率と変わらない。
では,年齢と労働力状態の調査不詳を左右する共通の要因が存在するのか。図 6 右は両者の両対数プ ロットであり,これから緩やかな相関の存在が導かれる(相関係数=0.58)。この結果もまた不詳率が 低い,いうならノーマルな領域では両者を左右する共通の要因が存在するのに対して,
1 %以上の不詳
率が突出したケースでは,それぞれに個別の原因があることを示唆している。図 5 2015年における15歳以上人口と労働力状態「不詳率」(両対数)
(出所:総務省統計センター,『国勢調査』[2]のデータより作成)
ちなみに,労働力状態不詳率の上位は特別区部21.9%,沖縄市20.6%,大阪市18.2%,北谷町17.5%,宜 野湾市16.0%,豊見城市15.8%,那覇市15.3%,武蔵村山市15.1%,浦添市15.0%,狛江市14.2%であり,トッ プテンに沖縄県の
6
自治体が入っている。図
7
は,1995
年以降の年齢階級別労働力状態不詳率を示している。20
歳代の不詳率が急上昇しており,全体の不詳率を押し上げている。
2 . 3 産業分類の「不詳」
国勢調査では,
2000
年まで第10
回,2005
年は第11
回,2010
年以降は第12
回の標準産業分類が用いられ ているが,いずれにも「分類不能の産業」という項目があって,その該当数は1995年の40万人から2015 年には316万人まで激増している。「分類不能」は「主に記入のミス」とされていることから,ここでは図 6 年齢不詳率と労働力状態不詳率(右は両対数プロット)
(出所:総務省統計センター,『国勢調査』[2]のデータより作成)
図 7 1995~
2015年における年齢階級別労働力状態不詳率
(出所:総務省統計センター,『国勢調査』[2]のデータより作成)
産業分類「不詳」と呼ぶ。
表
2
は,1995
年調査以降の産業分類不詳数と割合であり,2010
年以降は5
%を超え,その数は就業者 数の対前回増減をはるかに凌いでいる。表 2 1995年以降の就業者総数と産業分類不詳数および割合
1995 2000 2005 2010 2015
総数
64,182,000 63,032,000 61,530,202 59,611,311 58,919,036
対前回増減-1,150,000 -1,501,798 -1,918,891 -692,275
分類不詳数395,000 761,000 1,167,533 3,460,298 3,161,936
割合0.6% 1.2% 1.9% 5.8% 5.4%
(出所:総務省統計センター,『国勢調査』[2] のデータより作成)
図 8 は,2015年の年齢階級別の産業分類不詳率で,年代によって大きい差がある。
産業分類不詳率が
10
%以上の自治体は16
,5
%以上が221
で,最高は三鷹市の22.6
%となっている。年 齢不詳などと同じく,一部の市町村で不詳率が突出して高いといえる。2 . 4 従業地の「不詳」
就業者数には「住んでいるまち」で集計した「常住地就業者数」と「働いているまち」で求めた「従 業地就業者数」があり,いずれも公開されている。ただし,国勢調査は「居住者」を対象とした調査ゆ えに,「常住地が分かって,従業地が不詳」はあっても,「従業地が分かって,居住地が不詳」という項 目はない。図 9 は,人口規模で見た従業地不詳率であり,ここでも人口規模が大きいほど不詳率が高く なる傾向を示している。
図 8 2015年における年齢階級別の産業分類不詳率
(出所:総務省統計センター,『国勢調査』[2]のデータより作成)
3 .就業者数の補正について
3 . 1 補正の必要性
図10は,国勢調査と労働力調査による就業者数の推移であり,
2005年以降,
両者の乖離は確実に広がっ ている。国勢調査の場合,全数調査を謳っているだけに,調査結果がそのまま掲載され,勢い我々もそ の数字をそのまま使うことになる。これまでの数字を少しまとめてみよう。いずれも福島県の 9 市町村を除いた数字である。
図 9 2015年の市町村人口と従業地不詳率
(出所:総務省統計センター,『国勢調査』[2] のデータより作成)
図10 国勢調査および労働力調査による就業者数の推移
(出所:総務省統計センター,『国勢調査』[2]および『労働力調査』[3]のデータより作成)
総人口は127,033,893人 うち年齢不詳は1,452,630人
15歳以上人口は109,699,415人(年齢不詳145万人は除外されている)
うち労働力状態不詳は
7,207,784
人就業者総数は58,8,888,172人(労働力状態不詳721万人は除外されている)
産業分類不詳は3,161,444人 従業地不詳は2,273,715人
したがって,仮に「従業地別産業別の就業者数」を調べる場合,まず年齢不詳分145万人と労働力状態 不詳
720
万人の就業者相当分が抜け落ち,さらに産業分類不詳と従業地不詳の少なくとも300
万人余りが 対象から除外されている。年齢不詳,労働力状態不詳および産業分類不詳の合計は1,182万人,産業分 類不詳を除いた就業者数は5,573万人であるから,産業別就業者数に関して 2 割が対象からもれている ことになる。これが均一に分布しておればまだしも,地域による偏りも大きい。表
3
は,不詳数を按分した推定不足数(産業別就業者数合計からもれている人数)と不足率の上位を示 している。特別区部で 4 割も過少に評価されている一方で,1710市町村の半数では 3 %以下となっている。表 3 推定不足率上位10市町
①総数 ②就業者数 ③年齢不詳 ④労働力 状態不詳
⑤産業分類
不詳 推定過少数 推定過少率 特別区部
9,272,740 3,979,836 184,331 1,769,213 550,087 1,612,333 40.5%
大阪市
2,691,185 1,120,195 44,391 428,602 146,061 384,924 34.4%
沖縄市
139,279 49,997 796 23,299 6,108 16,567 33.1%
福生市
58,395 24,773 8,109 3,032 1,662 7,503 30.3%
立川市
176,295 74,695 15,193 15,497 5,914 21,658 29.0%
三鷹市
186,936 94,138 2,931 7,773 21,301 27,019 28.7%
北谷町
28,308 10,676 155 4,045 1,132 2,992 28.0%
市川市
481,732 217,193 42,127 42,957 14,110 60,700 27.9%
宜野湾市
96,243 37,853 1,803 12,428 3,758 10,326 27.3%
那覇市
319,435 127,621 5,934 40,300 13,164 34,761 27.2%
(推定不詳数=(③+④)×②/(①-③-④)+⑤,不詳率=推定不詳数/②)
(出所:総務省統計センター,『国勢調査』[2]および『労働力調査』[3]のデータより作成)
ここまで見てきたように,労働力状態「不詳」は人口規模や年齢によって偏りがあり,ランダムに生 じているわけではない。したがって,「不詳」を按分によって補正するにせよ,全体で比例按分では済
まないと考えられる。
3 . 2 補正方法
年齢や性別による偏りを考慮して,ここでは次のような処理を行う。
年齢不詳は市町村別,男女別に 5 歳階級人口に按分して加える
労働力状態不詳は市町村別,男女別に 5 歳階級人口に按分し,その階層の就業率によって就業数 を推定する
図
11
に示すように,補正によって差は大きく縮んでいる。次に産業別就業者数については,次のように補正する。
年齢不詳,労働力状態不詳の補正による就業者増加率を産業別就業者に乗じる 産業分類不詳を市町村別,男女別,
5 歳階級別に産業別就業者数に按分する
最後の按分について,不詳がそれぞれの産業で同じように発生すると考える根拠はないが,ほかに情報 がない以上はやむを得ない措置と考える。
表 4 に結果を示している。労働力調査がおよそ0.1%標本調査である以上,その数字が正解というこ とにはならないが,補正によって多くの産業で差が小さくなっている。
図11 労働力調査,国勢調査および不詳を補正した就業者数
(出所:総務省統計センター,『国勢調査』[2]および『労働力調査』[3]のデータより作成)
表 4 2015年における労働力調査,国勢調査の産業別就業者数と補正値 労働力調査 国勢調査 補正
総数
6,401 5,892 6,447
農林業
212 213 221
漁業
20 16 16
鉱業
3 2 2
建設業
510 457 496
製造業
1,056 1,004 1,086
電気等
29 30 33
情報通信
212 182 217
運輸郵便
341 322 353
卸小売業
1,075 953 1,046
金融保険
156 153 171
不動産業
123 129 144
学術専門
218 205 231
宿泊飲食
390 344 380
生活関連
234 219 241
教育学習
309 282 308
医療福祉
801 741 802
複合
60 50 54
他サービス
416 376 413
公務
235 213 233
(出所 :
総務省統計センター,
『国勢調査』[2]および『労働力調査』[3]のデータより作成)
図12 2005年と2015年における1710市町村の補正した製造業就業者数
(出所:総務省統計センター,『国勢調査』[2]のデータより作成)
ここまでの就業者数は,すべて常住地のものである。「A市に住んで,年齢が分からない人数」は把 握されていても,「
A
市で働いていて,年齢が分からない人数」はそもそも捕捉されていない。このよ うに,従業地就業者数については情報が限られており,あえて補正法を挙げると以下のような手順が考 えられる。例として,A市では次のようにA市,B市,C市の住民が働いているというケースを考える。
(a)A市の常住地就業者数aT のうちA市で働いている就業者数aA,従業地不詳am
(b)B市の常住地就業者数bT
のうちA市で働いている就業者数b
A,従業地不詳b
m(c)C市の常住地就業者数cT
のうちA市で働いている就業者数c
A,従業地不詳c
mA市の従業地不詳a
mを単純に比例按分するなら,A市にはaA(A市で働いている):aT-aA-am(A市以外で働いている)で配分したam
a
A/
(aT-aA-am)がaAに加わる。同じように,B市ではbmb
A/
(bT-b
A-bm)がbAに,C市ではcmc
A/
(cT-cA-cm)がcAに加わり,これらを合計した分だけA市の従業地就 業者数が増えることになる。表 5 2015年の福岡県内 3 市の自市内と自市外従業者の主要産業分布
自市内で従業 自市外で従業
大牟田市 久留米市 大野城市 大牟田市 久留米市 大野城市 農林業
2.1% 7.6% 0.7% 1.0% 1.2% 0.2%
建設業
8.6% 7.1% 12.3% 9.3% 5.9% 8.4%
製造業
14.8% 9.9% 10.0% 21.5% 20.2% 8.7%
情報通信
0.4% 0.7% 1.0% 1.6% 2.2% 4.4%
運輸郵便
3.6% 3.3% 3.6% 6.3% 9.7% 6.7%
卸小売業
17.1% 16.4% 21.8% 14.1% 15.7% 20.0%
金融保険
1.6% 2.3% 1.0% 2.6% 3.0% 4.0%
不動産業
1.3% 1.9% 3.7% 1.0% 1.2% 2.6%
学術研究等
1.8% 2.6% 3.3% 2.3% 2.7% 4.1%
宿泊飲食
6.1% 6.7% 6.0% 4.2% 3.2% 4.9%
生活関連
4.0% 4.2% 4.4% 4.2% 2.6% 2.9%
教育学習
4.1% 4.8% 4.4% 5.1% 5.0% 5.6%
医療福祉
20.5% 17.2% 13.5% 14.2% 14.0% 10.8%
公務
3.4% 4.4% 3.3% 2.8% 4.5% 5.9%
分類不能
2.2% 3.5% 3.6% 2.1% 2.0% 1.9%
(出所:総務省統計センター,『国勢調査』[2] のデータより作成)
さらに,産業別従業地就業者数の補正となると,産業別の「どこに住んで,どこで働いているか」と いう情報が必要となるが,これは公表されてない。このため,「
A
市に住んで,B
市で働いている就業者 数」をA市あるいはB市の産業分布で按分することになる。しかしながら,常住地と従業地の関係は産 業やまちによって大きく異なっており(表 5 に 3 市について例示している),いずれの按分を行ったと しても,相応の偏りが混入する可能性が高い。これらの理由から,従業地就業者数の補正は行っていない。4 .
議論筆者は,これまで「地域格差拡大の背景に産業によって異なる人口特性がある」との仮説の下に,市 町村別の人口と産業別の従業地就業者数との関係について分析を進めてきた
[8]
。簡単にいうなら,「ま ちの人口とそれが生み出す就業機会=従業地就業者数」の係わりである。2010年調査結果から産業分類 不詳数が大きくなったため,その按分補正は行っていたが,年齢不詳と労働力状態不詳については対応 しかねていた。年齢不詳,労働力不詳とも定住地についての情報であり,従業地にそのまま当てはめる ことはできない。「A
市で働いている就業者」の中には,A
市の住民だけではなく,さまざまなまちの 住民が含まれており,A市の情報だけで済ませられないということである。これにどう対処するかが,本論に着手した動機であった。
結論からいえば,既述したように「きわめて困難」といわざるを得ない。常住地就業者数の補正だけ でも,年齢不詳,労働力状態不詳,産業分類不詳という
3
段階の比例按分を行っているわけで,妥当性 の根拠は,単に合計1,182万人にも及ぶ不詳を放置できないという消去法と,結果が労働力調査の数字 に近づいたという 2 点だけである。それでも,常住地就業者数の場合は,性・年齢・市町村による偏り に配慮した補正となっている。一方,補正した常住地就業者数から従業地就業者数を求めるには,「どこに住み,どこで働いているか」
という情報が必要となる。それは,たとえば国勢調査結果「従業地・通学地による人口・就業状態等集計(人 口,就業者の産業(大分類)・職業(大分類)など)」の「表00303 常住地による従業・通学市区町村,
男女別15歳以上就業者数及び15歳以上通学者数」に公開されている。しかしながら,これだけでも300 万を超えるデータとなり,加えて,年齢別や産業別のデータは見当たらない。つまり,「
B
市に住んで,A市で働く就業者」も「B市に住んで,B市で働く就業者」も,産業分布はすべて同じという条件下で
しか補正はできない。この仮定に無理があることは指摘したとおりである。
最後に,今回の補正データを用いて分析をやり直した結果からいえば,増減率などの時系列情報は大 きく変わるが,対数値を用いた回帰係数や相関係数などについては,結論を変えるほどの変化は見られ
なかった。これらについても別稿で報告したい。
おわりに
ビッグデータやオープンデータのブームが到来し,情報の重要さや価値が大いに見直されるように なってきた。国勢調査のデータも,もっとも信頼性の高い情報として,自治体の創生総合プラン策定な どに広く活用されている。しかしながら,情報に関する意識の高まりは,一方で調査の実施をより困難 なものとし,結果の信頼性を損ないつつある。年齢不詳,労働力状態不詳および産業分類不詳の合計が
1,200万人という数字は,特に時間的変化を考えるとき,全数調査としての限度を超えているといわざ
るを得ない。その改善が容易ではないことを了解した上で,何らかの対応を望みたい。参考文献
[ 1 ]
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総務省統計局統計センター,『国勢調査』,www.stat.go.jp。[ 3 ]
総務省統計局統計センター,『労働力調査』,www.stat.go.jp。[ 4 ]
たとえば小池司朗・山内昌和,「2010年の国勢調査における『不詳』の発生状況:
5 年前の居住地を中心に」
,人口問題研 究,70 [3],pp325-338,2014年。山田茂,「2015年国勢調査結果の精度について ─抽出速報集計を利用した暫定的考察─」,国士舘大学政経論叢,
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[ 5 ]
『労働力調査』「長期時系列表 2 就業状態別15歳以上人口 - 全国」。[ 6 ]
山田茂,「2015年国勢調査が把握した大都市地域の性別年齢別人口データの精度に関する考察」,国士館政経論叢,29,pp1-41,2017年。
[ 7 ]
浜砂敬郎,「方法転換期に入ったわが国の国勢調査」,日本統計学会誌,41[2],pp355-379,2012年。[ 8 ]
たとえば原田康平,「人口と経済(6)―― 人口減少下の経済成長」,第22回社会経済国際シンポジウム発表論文集,