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アイデンティティの不在と楽園の追求 −『ワーナ ー』における人間関係の力学−

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アイデンティティの不在と楽園の追求 −『ワーナ ー』における人間関係の力学−

著者 門田 守

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 49

号 1

ページ 81‑92

発行年 2000‑11‑10

その他のタイトル The Absence of Identities and the Pursuit of Paradise −The Dynamics of Human

Relationships in Werner−

URL http://hdl.handle.net/10105/1401

(2)

奈良教fik学紀要 第4し)巻 第1号(人文・社会)平成12年 Bull. Nara LIniv. Educ,Vol. 49, No. 1 (Cult. &Soc), 2000

アイデンティティの不在と楽園の追求

一『ワ‑チ‑』における人間関係の力学‑

門 川   守 (奈良教育大学英米文学教室)

廿Me v2年IIはボ=受理)

キーワード: バイロン、リーナ‑、アイテンデでティ

1 は じ め に

ロマン派的精神性の顕著な特質は、白花のAf裂と己に 囲おる諸々の関係性の修復への徒労なる読みにあると言 わねばならない二,ここで関係性とは、他者との関係、自 己白身との関係、自己を取り巻く歴史や社会との関係.

自然や風景との関係等、暖味な彬でしか言い表しようが ない̲,マク7‑「‑‑ランド(Thornと1ゝMeFailatld)は、事物 をそして人間関係を分裂の桐でLか見ようとしないロマ ン派のw神性を表すのにデ1ス)、ラウション(di叩arac‑

tion)という用語を考案した(4‑5)デfスノ、ラクショ ンは「分離する、 ''>裂させるー の意=寸こをもつギリシャ語 の「ディアスノ、ラクトス」 ''JHtげ7:"'.OCiKTU三rrから派生させ た用語でJoる ‑T ′Jp「・‑・‑一蝣‑'}ント」日巨蝣ff'ni'k‑'j‑y: c "r y‑′、

ラタデfヴ(LIiusparactive,をもって、ロマン派の感性 をこのように論じている

The 、el‑Se oflong川s ‑ which lゝ 」in innerti川1‑i oi the per ception of reality 〜 dl'山1‑aractive ‑‑ saturates

Ronu川ticism. These are e¥plicit ti。rmulとIS. a11〔I maily Of them. Such as Friedrich Schletrel'S I"Sehilhtlellt llこ.ich dem

Ullend】ichen" ‑‑ loneilla for the lnlmite; Such as Schleiermaeher's "Gefuhl einer unbefriediどten Sehlisucht" ‑ feelina oi、an unゝat)ゝtied川Igin昌. (7,)

永遠への渇仰の酎刺には常に満たされぬ熱望が息づいて いるというロマン派的デ(スバラクションは、われわれ にI一つのロマン派観を強いるように思われる‑ それは荷 にロマン派において'k達は川根であり、無限空間は閉魔 性を帯びているということである̲,

バイロン(GeorgeG川・J川iNoelBvron)の劇講『l‑7‑ナ 一二(Wの 1822)もまた、われわれに永遠性を悪起さ せる作品である,̲ だが、それはただの永遠性ではない それは永久にわれわれは既に固い込まれ、盲「wこ態で昔

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悩の道を辿らねばならぬという意味での永遠である̲,そ れは、人に対して苗に既視感(デジャヴユ)につきまと われて.いつもこの道は既に辿った道ではないかと思わ せる永遠性である,̲ その閉塞性の源が運命であるか、あ るいは血であるかなどとは、ここでは問うまい̲ ただ T7‑十一 においては,主要登場人物たちの自我は脆 く、彼らはいつでも自己日身/、、の存在感の欠如に戦いて いる 彼らの人間関係は細い糸で繋がれたビ‑ズに出て いる  つの関係の糸が切れてしまえば、皆がバラバラ に分断されざるを得ない,あるいは、彼らの関係はIf十 が互いを見つめることによって発生する鏡像的なもので あると言‑了〔もよい̲,彼らのアイデンテ1ティは侶手に 受け取られた自分の姿を確認することによって得られる のであり、洋として自らの立場を積極的に主張することに よってもたらされるものではない一 二のJril'晶IHこされた アイデンテ1テfの末&7封Jこ態をデ「ス)、ラクテイヴな 人間存在と呼んでもよいであろう  ワ一十一』の登場 人物たちは、父でありかつ父でなく、母でありかつ母で なく,また患Jノーでありかつ息子ではないからだ‑,この人 間関係のマニエリスム的未決状態を詳細に辿ることによ り、 『「7‑ナ‑‑』におけるアイデンテfテTの不在の在 りようと、その不在の解消が楽園の追求への意志に基づ くものであることを論じたい

2 揺れ動くアイデンティティ

『T7‑ナー』は最初、シレジア(Sileヽia)地方の貴族 の館に舞台が設定されている,一時は深私外は嵐である 何やら心が落ち首かなIM‑/\公ワ‑十一と彼を宥めよう とする妻Gr)ジョ七フf‑ヌ 目し)sephinc)が登場する 最 初の場面は、劇全体のプロ・ソト展閲の原動力が何である かを明かしているように思われる,‑,それは、私は過去の

(3)

力であると思う̲,この夫婦の最初のやV)とりを見てみよ う二

JOSEPHINE.Mylove.becalmer!

WERNER.Iamcalm.

JOSEPHINE.Toille‑

Yes.butnottothys亡If:thypaceishurried.

Andnoonewこl】ksachamberliketoours Witl‑stepslikethiilewhenhisheartisatrest.

Wereitagarden,Ishoulddeemtheehappy, Andsteppingswiththebecfromflowertoflower二 Butherel.(I.i.1‑7)

ワ‑ナ一につきまとっているのは過去の庄J」である,ニ心 穏やかならぬ彼は、帝に自分の行ったある決定に翻弄さ れている̲.それは父に反対されてまで行った現在の妻と の結婚であった.̲,妻はその血筋がイタリアの貴族に繋が っているとはいえ、亡命者の娘であったE̲その許されざ る婚姻とそれに至る放潟生活への後悔の念、それかいつ までも彼に取り.I酎1て離れないのだ′‑しかしながら、被 を放蕩へと向かわせた力は何であろうか一,そして、身分 違いの女を愛した息子を意剛 也なまでに嫌った父の頑迷 さの原因は何であろうか.それは人を縛る永遠の過去か ら受け継がれた血の力を悪起させる.妻のジョセフィー ヌも、常に過去を想起させる女である̲,彼女を最もよく 表す特質は楽園との類縁性であるしこ夫を庭園に誘えるの であれば、彼を幸福へと導くことができると彼女は言う, 内面に常にわだかまりがあり、自己白身と和解すること ができない夫は、精神的にも外面的にも放浪者である、.

妻はもともとは南の峻かい、燦然たる陽の降り注ぐ楽園 的なイタリアの故郷トスカナ(Tubcany)地方から追わ れたのであったE̲彼女とて、楽園を追われた放浪者なの である‑.具体的な彼女の故郷の地名はコズモ(Coslno) である.‑,その語源は言わずもがな、稚序(ordel・)を意味 する一原初的秩序からの離脱を、彼女の楽園追放が表し ていると言ってよい.1

『ワ‑チ‑』の序文においてバイロン白身告白してい るように、彼がこの請劇の構想を締ったのは1815年の苦 に遡るrJただその構想のII

[I[発点は、ゴシ・ソク小説家とし

て名高いハT)エット・リー(HarrietLee)とソフfア・

リー(SophiaLee)の姉妹の手になる『カンダベリー物 語』(ThピCant什buryTale,ゞ.1801)に収められた「クルイ ソナー、あるいはあるドイツ人の物語J(‑Kruit/nei∴Or TheGerman'sTalelに範を取っているニつ既にバイロン自 身の手によって焼却されてしまったが,彼は13歳のとき に『アルT)ックとイ)Lヴ1ナ』{Uh・〔indllvino)という 標題で既に『ワ一十一』の前作を書いていたのであるEJ

『ワ‑ナ‑』自体はバイロンが34歳のときの晩年の作品 である.̲(バイロンは36歳でギリシアのミソロンギ [Missolonghi]に没しているJとすれば、m噸からの

個人的思い入れ‑あるいは、わだかまり‑がたっぷり

『ワ‑ナ‑』には込められていることになるだろう,̲.事 実、多少なりともバイロンの伝記に接している読古には、

この劇詩のプロット展開が請人の家系の特徴をなぞって いることがわかるだろう,‑ バイロンの父親ジョン(John) は「気違いジャ・・ノク」 "MaCJack"と呼ばれた名うての 放泊者であった,請人の祖父ジョンは「嵐のジャック」

"Foulweather Jack",と揮名された海埠の副提督であっ た.彼が航海に['冊ロゴ、嵐轟きだったからであるL=,ただ し、被が岡にLがったときの醜聞も絶えることがなかっ た,そのジョンの兄ウfリアム(William)は粗暴で有 名であり、親類のウ fリアム・チャワ‑ス(William Chaworth)をロンドンのクラブで決闘中に殺している, 彼の揮Frは「悪党バイロン卿」 "theWickedLordByroi‑rr) であった(Marchand3‑8),この二人の先祖に、ワーナ‑

の'」!!迷な父用、 '/<;上蝣iI事り'7一十‑i i‑q‑、血iO症仕う患子 のアルリ、ソクを重ねてみれば、その関連性は明瞭だろう,̲, JIイロン自身の放骨性や粗暴性を考え合わせれば、被は 常に『ワ‑チ‑』において自己を念頭において書いてい るということが言えそうである,I

その『ワ‑ナ‑』の正接的な作品上の関連性は、 『マ ンフレッド』 (Manfred181釦 に置かれるべきである,

『マンフレリド』の前半は1816年にア)Lブス山中で書か れたのであり、 1815年の Fワ一十‑』の再執筆を開始し た時期の直後のことである.‑ 劇の冒頭で深夜・人でラン プの灯りを見つめる孤独な超人マンフレ、ソドの姿は、己 の過去に煩悶するり一十一を予想させる,̲,マンフレ、ソド にも愛人アスターテ(A軸xrte)との忌まわしき過去があ ったのである,彼女を手ではなく心で殺してしまったと いう過去が̲.

さて、ワ‑ナ一にはアイデンテfディが不在である,A 日分の妻にさえ、被はこう言うニ,

‥ what I a111,

Thou knowest: wh山I mi^ht or should have been.

Thou knowest not: but still I love thee, nor Shallauiihtdivideus. ( I. i. 15‑18)

今、彼女の目の前に見えている彼は本当の彼の実体であ ろうか.こ 少なくとも、彼女には被のあり督べき姿が見え ていないらしいIt ということは、彼女には被の本質がわ かっていないことになるこ,本質がわかっていない人間に 愛が抱けるだろうか‑ 彼女の愛は誠であるか否か、さっ ぱりわからなくなる,‑̲ また、彼女の自分への埋解の程度

を疑った後の"but still I love thee, nor / Shall aught divide us"という彼の発言はいかにも弱々しい愛の告白である一, 彼自身が妻を愛しているのかもわからない、̲このことは、

劇の最終部分でアルリ・ソクが愛していると言いながら も、許嫁のアイダ・ストラレン′、イム(IdaStxalenheim) をいとも簡単に捨て去ってしまうことに対応しているよ

(4)

アイデンテ(ティの不在と楽園rn追求

うに思う‑ 先取りして言えば、アイダは宿敵ストラレン ハイムの娘である‑,劇の最後でようやくわかることであ るが、実はアルリ・ソクはストラレン′、イムを殺した張本 人であるのだ,殺した男の娘と雇を育むことが、果たし て可能であろうか、誰にも明かさず密かに殺した男を義 理の父親と呼べる人間がいるであろうか.̲,アルリ、・Jクは 日でこそアイダヘの豪を誓うが、実はまったく彼女を愛 してはいないと言わざるを得ない̲.われわれ読者は、奇 妙な回転する感覚を抱くのではないだろうか,‑ ワ‑ナ‑

夫妻の弱々しい愛が、アルりックとアイダとの形だけの 愛に彬を変えて伝えられているではないだろうかとL‑,

ワ‑チ‑のアイデンティティの不安定性は、彼の社会 的身分の曜昧さからも理解されよう,‑,彼は自らを形容し

て"I have been a soldier, / A hunter. and a iravell打. and am /

Abeg* つ1 83‑35)と語り、少なくとも凹つの社会 的自我を認めている。,しかし、そのどの つも彼の本質

を言い表してはいないつ可故ならば、彼は己をどの一つ の自我にも国定されてはL刈るからだEJ帝に明かしてはな らない過去、すなわち父親のジーゲンドルフ伯爵 (Count Siejjendorf)から勘当され、放浪しつつ、自らを つけ狙うストラレンハイムのIIをくぐって蕃らさねばな らないという境遇の占如二、彼は多重の白花を常に用意し ておかねばならないのだE̲ ただ、問題の木質はワ‑ナ‑

が父親の意向を裏切ってジョセフイ‑ヌと夫婦の契りを 結んだという事実に止まらない̲.問題は結婚という社会 的形態を選んだことを越えているのだ̲ 次のワ‑ナーの 二つの妻への発言に注目しよう,

Something beyond our outward sufferings (thoLlgh These were enough to grlaw into our souls)

Hath stung me oft, aild. mot・c than ever, now.日工46‑48)

I have been full oft

The chahe offortLIne二now she hath oertakcil

Myspiritwhereitcannotturnathay.‑‑ 1.i.61‑63) どちらとも、今現実にある彼ら夫婦の酎遠はその卑賎な る現状を越えて、部分的にせよ超越的な佃に属している という心情の吐露である一. 'K遠に既にこうなるべきもの として定まったルートの上をr十分は辿っているという認 識がここにはある̲.ただ、私はこの苦難の)L‑トは螺旋 状を成していると思う̲ 少なくとも未来に対しては、こ の螺旋状の運命の曲線が*遠に開かれているという暗示 を読者に与えるように、テクスト上ではプロット偶成が 組み立てられている。後に詳しく分析することになるが、

プロ、ソトだけをここでは思い描いておこう.ワ‑ナ‑が ジーゲンドルフ伯爵に変身した後、ほどなくアルリツタ はストラしン7、イム指しが発'u'し、城を後にして消え去 ってしまう̲ ジーケンドルフ伯爵の死後は、さてどうな るであろうか.‑. fl'l爵の耕類による爵位'争奪合戦が行われ

Ll:1

るであろうが、実の子アルリ・ソクが絡んでくることは確 実である しかるに、アルリ、ソクは没落貴族や敗残兵を 率いている無頼のMiである 彼は表向きは華やかな宮廷

生活に対応でき、父粗に従順な孝行息子である.1ところ が、裏側では(おそらく実体としては)船争を起こし、

敵対者は抹殺しなくてはおられない荒れ果てた内面をも っている。こ アルリツタ自身のアイデンティティも揺れ動 き、しかとは確定しがたい‑ 父親の死後に内乱の発生は 予想され得るし、仮にすんなりアルリックが爵位を継い だ場Uでも無頼者集団が休廷生活を混乱させることは必 至である,こ 諸国の貴族閲でも争いが起こることが予想さ れる̲,螺旋状のルートはもう ‑InJ転し、ジーゲンドルフ の家系は血塗られた運命を辿ることになる‑ ジョセフィ ーヌが夫に対しで'it hとis beeilとI LTこinker in / Thy heart from the besinnins‑r(I.i.134‑35)と言うとき、彼の心には運命 の食い入るような痛みがあったのだと言わねばならな

ワ一十一の自我のマニエリスム的唾tl和牛についてはH月 瞭であろうが、それは見かけと実体のjrE雛という現象を もたらす.:,彼は市ある毎に己の見かけと本質の関係につ いで言及するニ,たとえば、こうであるL=,

Who would read in this form The hiEhsoul of the son of along line?

Who, in this garb, the heir of princely lands?

Who, in this sunken, sickly eye. the pride Orralnk and ancestry? in this worn cheek、

And farlline‑hollow'd brow̲ the (汀d of halls,

Whichdaily feastathousaHdvassこils? ( I. i. 114‑201

もちろん、・who..:‑という呼びかけは反語である,̲だが、

この呼びかけはワ‑ナ一に苦悩をもたらすn いわゆるア イデンティティ・ギャップというrVI'lilである,‑ 今ある自 我と本来あるべき自我との格‑Jh:は、たまたま病に冒され ていることもあり、彼をますます鬱属した状態に陥れるL‑

ジョセフィーヌが彼の発言に受け答えて言う台詞は面白

But for these phantoms of thy feudal mthei一S.

Thou mightlbt have earn'd thy bread, as thousand earn it二

Or. if that seem too humble, tried by commerce.

Or othercivic means, to amend thy fortunes.( I.i.138‑41) 彼女が言いたいことは、身分を拒めるという条件下でも アイデンティティ・ギャップが埋められるのならば、人 は幸榔二なり得るということである一、わは、己白身の 実体とアイデンテヤデイの 一致こそが手短をもたらして くれると言えるのであるE 思うに、そうしたアイデンテ ィテ1の一致とは究極的には自意識の消失を、少なくと もその軽減をもたらしてくれるのではないだろうか。ア イデンテfティとは本来的に社会的な概念であるし それ は己が己に対して抱く社会的イメージである,また、そ

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れは他者に対してこう見える、あるいはこう見せたいと 思う己の姿と言ってもよい,楽園とは自己を振る舞う必 要がなく、ありのままの姿が他人の日に触れることを許 す姿勢に圭った、人の存在の在りようをいうのかもしれ ない ジョセフ†‑ヌが示唆することは、 f=仕u二もわた る父祖たちの亡霊のような影響力が取れれば.ワ‑ナー は自'jナらしく振る舞うことができ、そのまま辛仙二なれ るということである,取りも軽さず、それは被の家族が 家族としての繋がりを復興し、伸睦まじく暮らすことが できる状態を表す̲ 家族のアイデンテ1ティの復興.チ れがワ‑チ‑が目指すべき楽園であった̲,

3 ストラレンハイムとワ‑ナ‑

オーデル河(the Oder)の氾濫がもたらしたものは、

ジーゲンドJLフ家の遺産拙繍l".」題に関与・する大開たちの 超克であった,̲ それは言い換えると、アイデンテfテf に不安をもつ者たちの出会いでもあった‑ オーデル河と はチェコ東部に犯し.ポーランドとドイツ国境を北流し てバJL卜海に注ぐ河川である:この河は増水してストラ レン′、イム男爵の一行を飲み込み、彼の乗った馬亜は流 されてしまう,紙I一重のところで彼を救ったのは「7‑ナ ーの息子ア)Lリ、ソク(Ulric;と′、ンが」‑人の猛者ガボ ール(Gabor)であった̲,そしてストラレンハイムはシ レジア地方のJ媒材にある日壬の蹄にかつぎ込まれるので ある,その折を切り盛りしているのは、地方監督官 (intendant)のアイデンシュタイン(Idenstein)であった,‑

ガボ‑jLにしても、アイデンシュタインにしても、劇の 進行を助けるだけの人物である,= 何故ならガボ‑JLは劇 に混乱と変化をもたらす典型的なトリ‑′タスク‑であ り、自身はまった十r、′国別'Jな変化を蒙らないからだ‑ 彼 は終始諮り高い猛者であ古1、アルリ・、′クの徒党の‑Flと なっている‑ アイデンシュタインは卑小な俗物であり、

金の亡者である 劇の後半近くで7‑ナ一に宝石で日収 されても、何故‑ の乞食がこのような高価な宝物を所 有しているのかについて被は深く追求したりしない,ニ 彼 もまった(JF′吊獅'J変化を蒙らないのである‑,そこで、こ こではジーゲンドルフの家系に関わる古たちを申し、にし て、彼らの関係を論じてみよう,

まず、ストラしン/、イムとワ‑十一は追いつ、追われ つの関係にある̲,追跡者ストラレン′、1ムは先代のジ‑‑

デントルフ伯爵の遠縁に当たり、本来f白爵家のw産は勘 当されたとはいえ‥良子のT7‑ナ‑が継ぐ ヾきことにな っている̲,ワ‑ナ‑は自分から身分を明かすことはでき な圧 漂泊の身分のため、彼の言うことを誰も信用しな いであろうから.また、それは彼の身をストうレンノ、イ ムの放つ刺客の目に晒すことになり、危険この上ない行 為でもある̲,さらにストラレンハイムは政治的手腕を用

いて、ブランデンブルグ選定侯(Brunde‑1burgh's elector) から当時クつしイソナー(KruitznC1・)と名乗っていたワ一 十一の逮捕許可を得ていたL= 逃走者ワ‑十一は、まさに 闇から闇に葬られかねない流浪の身であった,

だが、 TI‑十一つお堂走者から解放される機会を逸した,‑

ワ一十一は偶然自分の部屋の壁に穿たれた秘密の通路を 発見し、その迷宮的な適路を歩き、これまた偶然にスト ラしンハイムの寝室に入り込んでしまうのである,‑ 彼は 護身FIJのナイフを持っていた,‑ 溺れ死ぬところを助けら れたストラレン′、1ムは、熟睡状態である,彼はやすや すと柚敵を殺すことができたはずだ しかも.秘密の越 路の存在は誰にも知られていない̲,自分の部屋と宿敵の 帰室は遠く離れており、矩時間でffき来することはその 通路を使わない限り不EII能である,しかも当然、ストラ レンハイムの部屋には鍵がかけられている、 T7‑ナ‑の アリバイは完全に保証されていると言ってよい= しかも、

もしストラレンハイムを生かしておくと、ワ‑チ‑自身 の命が確実になくなるはずである v一十一とストラレ

ン′、イムが不意に出会って、最初に相手が誰であるのか を悟る細まワーナーである‑,ストラレン)、イムは幾分刷 散臭く思いつつも、川手をワーナ‑とは認知できない

もちろん、り‑チ‑は服装を変え、身分を胆め、しかも 病気にMoているのが原因であろう̲ しかし、ほどなく 身加二似合わぬ高貴さ、振る舞い、物怖じしない態度等

から、ストラレン′、fムはついにワ‑ナ一に出会ったこ とに気づく,だから、逮捕状をもつストラレン′、イムが ワ一十一をすぐに捕まえてしまうIl摘紺三もあったはずで ある,一 昨I‑そうLなかった理巾は、即席にその場で、ワ ーナーがストラレンハイムの伯爵位を某奪する計画を明 かしてしまうかもしれないという危険性があったからに 違いない,ストラレンハfムが最も恐れていることは、

ワ‑チ‑がジーゲンドjLフ伯爵の位を相続できると公に 宣言し、晴れて伯爵の嫡子だと認められることである だから、あくまでT7‑ナーは闇から用へと別の人格とし て葬り去られなければならないのだ.しかしながら、と にかく力関係はストうレンハイムが断然に上であったこ とは間違いない いわば、ストラレンハfムも男爵とい う社会的肩書きがあるとはいえ、アイ子ンテ1デイの不 碓定な人間であると言える̲ 非常に微妙な仕方ではある が、ストラレンハイムはワ‑ナ一に白己存在の意義を依 存している一 種はワーナーを追跡しているときにこそ、

己の残虐性、欺晒性、権威欲を最高度に満たすことがで きる,̲ 追跡という動きの中でこそ、欽望は活性化され、

ストラレンハイムのストラレンハイムたる凶百の性質が 存在意義をもち、命を得ることができるのだ

では、何故ワ‑チ‑はストラレンハイムを殺さなかっ たのだろうか‑ 彼がしたことはこの宿敵の貴族の金貨 巻きをテーブルの上から奪っただけだった̲,被は実に卑

(6)

TでテンテTテ1tの不在と楽園n追求

しいこそ泥に成(1卜かったのである,その金を使って、

彼はまた逃走劇を再開しようという魂胆だった,彼が宿 敵を生かした埋¥¥Iは、もちろん彼の性楢の弱さに帰する ことができる̲ たた、それだけだろうか,̲,もし彼が宿敵 を持してしまえば、彼は本当の意味でジーゲンドルフ伯 爵に成りきることができないのである,穀ノ書者という消 すことのできない過去を背負いつつ、り一十‑は決して 己の安定したアイデンテfテfを雫現した楽園的状況に 落ち省くことはできないはずである‑ 逆説的に聞こえる かもしれないが、 T7‑ナ‑は逃げるという行nを適して 己の過去の罪業による責めを負い轟け、痛みを感じ続け ることにおいて罪滅ぼしを継続することができる,‑ 相手 を持すという決定的な楽園からの堕落を迂回しつつ、骨 に死と隣り合わせではあっても逃走し続けることによっ て彼はアイデンテfテf 蝣1ライシスの地獄から逃れる

I‑綾の道を維持することができるのだ,

もう‑一つ、 「7‑ナ‑は結果的に解放への機会を逸して しま‑‑)た そ抽まストラレンJlイムの金貨が盗まれ、そ (/">甘蝣j);;iV;‑‑fi人をガ*・‑>l :')一陣‑、ているとき、彼封帖十I Lま‑:)たことである,̲ もとより,金貨をi霊んだのはT7‑

ナー自身である‑ しかし血の気の多いガボ‑ルはアイテ ンシュタインと馬が合わず、この守銭奴の執事にストラ しンハイムの金を取ったことを疑われTいる̲ 男の誇り つで生きているようなガボールである,彼は即座に激 怒し、 Pj宙の金を奪ったことを否7Eする,‑ 当然ながら、

ガボールがこうした罪を犯した証拠はどこにもないL‑ 唯 I‑il'IiT法で犯人探しを行えば、ガボー)Lが最も疑わしい だけのことである‑ ガボー)Lという人間自体がプロ・ソト 居間に寄与するだけの薄っぺらなキャラFjクリゼ‑ショ ンしか受けていない 彼の卜1)、・ノクスター性はL明瞭であ ろう 連の悪いガボールは言われなき罪を背負い、屋敷 rTlを逃げまどう,,彼が最後に逃げ込んだのは、ワ‑ナ‑

の部屋であった。何故、ワーナーは自分の妻と息子を除 いては誰からも疑われているこの男を助けたのであろう か̲ ここでも、ワ‑チ‑のアイデンティテロ乃問題が絡 んでくると思う̲.つまり白'itが盗んだのにもかかわらず、

他人にその罪を押しつけたのであれば.板に伯爵位を継 承しても、本物の伯爵とはな5月等ないということである, アイデンテ1テ1の 一致という祝福された状態には、一 時的な井を逃れ得たとしても、決して内ifiiにわだかまEl を残した状態では至り得ないのだ̲

この請劇では楽園とはアイデンテ(ティのI‑放てある と私は述べてきた 楽園と最も類縁性の高い人物はジョ セフf‑ヌである,‑ 彼女の言葉を探っていけば、この作 品中の楽園の意峠をどう捉えたらよいのかがよりはっき りLてくるだろう,̲ 彼女は自分のF仁まれ故郷の楽剛、生を このように酵存する,

. our all‑ripe and guゝhintr 、・こdieI,′S

85

Made poverty more cheerful, where each herb Was in itselfa meal, and every vine

RこIin'd. as it were, the be、′erこ唱e、 which 】rtakcb glとId

The heart ofmこln‥  I. i. 711‑15

また、ア)lUソクと再会したときの喜びを、彼女はこの ように表現するI

Thisiゝinde亡dthv [H亡aven'sJ W(‑止! ‑‑ Atsuchanhour,too, Hecome…。t…IyaSaゝし川but、avioui∴ (n. ii. 7‑8)

i紺1二主の到来とは楽園復興を暗示する‑ そして復興とは この場合、取りも正さず,ジーゲンドルフ家の復興なの である̲ 家族が家族をお互いに認め合うこと、言い換え れば家族のアイデンテ(テfの確立こそが楽園のFH茜築 なのである̲ だが、そうした家族間のfIIS認識は可能で JOらうか

やはり鍵になるのは、ワ一十‑とアルリ、.Jクの男系の 親子関係である‑ というのは、ワ‑チ‑は父であって、

父ではないからである,I 純は放蕩癖とジョセフィーヌを 婁ったために父親によって勘当され、ア)l])ソJJとの縁

を切った格好である,‑,この場合、アルリ、、ノクには何の責 任もない‑ しかしながら、アルリ、ソクは自らジーゲンド ルフ家を捨てるのである̲ この親了寸二は螺旋的な行動の 類縁性がある,̲ ワ‑ナ‑は息子の失路を自/Jiの責任のよ

うに言う,̲ このようにである,

Since his strange disapp亡こirance trom my tとltllcr's.

Entailing, as it were・ my sins upon

Himself, no tidinsS have reveal'd his course. ( I.i.91‑931

このような詩行を見る限り、ワ‑チ‑はあまりにもL'J分 の封T:に対Lて敏感になっているようである̲ 彼には息 子の失綜には責任がないように思われる,というのは、

息子は糾父の厳格さに息を詰まらせ、自由で勝ち*¥な性 格を誼歌するために没落貴族の軍匝1を指揮して森に詮も

るようになったのであるつ乗して、父親ワ‑チ‑の淫潟 が尾を引いているわけではないEー だが、やはり息子は息 子であって、息子ではない,‑ 息子のアイデンテ(ティに ついては次章で分析しよう

1アルリックの裏切りの構図

アルリ・ソクは父親を根本的なところで裏切っていたは ずである その裏切りは父親を父親として拒絶するとい う意志に発している̲ そもそも、彼がワ一十一夫Mの元 に戻って来てからの様子が変であ‑‑}た̲ 母相との再会は 喜んでいるようにはえながらも、ア)Lリ・ソJjは父親には 彼の愛情に関して疑念を抱いているように思える= この 組子の最初のやりとりを見てみよう‑,

WERNER‥ ‥ 11こid I seen thこIt ft.ll‑111[ulric's form]; llid

ten thousand

Youth oi the choicest, my heart wou一d have chosen

(7)

This formy son!

ULRIC.    Arld yet you knew me not!

WERNER. Alas! I hav亡had that upoil nly soul Which makeゝ me lookon all men withan eye

That州Iy knows the evil at first glance. ( II.ii.28‑33)

アJLリ、ソクは父親との再会を喜んではいないL ただ彼は 最初にあったときに、自分を息子として認識してくれな かった父親に嫌みを言っているだけなのである.こうし た最初から父を拒絶するような性向は、マ二ング(peter .J.Manning)のフロイド心理学からの読みを支えるよう に思われる(159‑70)A(ただ、アルリ、ソクがfrl用丈最後は 母まで捨てて無輔の世界に戻るのかは、この読みでは解 釈できないだろうつ 何でもないようでありながら、ア ルりツタと父親の相互認識は;L'ツーナ‑』の中で基本的 なアイデンティティの構造を示してくれている、つまり、

この請劇中、アイデンティテIとは相互に認め合うこと によってしか発生しないということである̲ 桐引二父親 として、また息f・として全幅の信頼をおいて認め合わな ければ、この親日まジーゲンドルフ家の血を継いだもの としてアイデンティティを確立できないのである.父親 は一万人の強健なる若者たちの中からでも、息子を見分 けることができると.言う,̲ ア)Lリ、ソクが先ほどは白'Jlを 認識できなかっただろうと問いつめる、その姿勢自体が 合理的に過ぎるとも言えるし、また心の奥底では父親を 拒絶しているとも考えられる 1‑ナーの返答は陳腐そ のものである,‑,誰でも疑ってかかる性質が逃亡生活中に 心に染みついてしまったとは、ただの弁解に過ぎないか asm

ア)Lり・ソクは劇全体を眺めわたす優位な抑ji,を得てい る,:,ある・点を除いては、彼は劇のプロ、ソト展開をすべ て支配下に置いていると言ってよいLニ その 点について は、後ほど考察することにしよう̲ さて、アルリ、ソクの 優位性の理「川まストラレンハイムが彼のアイデンテfテ ィがわからず、図らずも自/))を溺死、mr'fのところを救助 してくれたことから、彼に全幅の信頼を置くようになっ たことにあるし ストラレンノ、イムはワ‑ナ‑のアイデン ティティに気づき、こともあろうか

.. Keepyoureyeonhim [Werner] !

The man avoids me. knows that I now know him. ‑‑

Watchhim! ‥ II. ii. 365‑67)

というように、彼の監視役をアルリックに頼むのだ.ス トラレンハイムは、プラハ(praeuej の近くにあるジー ゲンドルフ城に向かう途上にある.̲ 彼は城に到着後、死 んだジーゲンドルフ伯爵の財産を相続する予定である̲, これを聞いたアルリツタは、こう受け答える:.

ULRIC. And this sole, sick, and miserLible wretch [Werner] ‑

This way‑worn stranger‑stands between you and

This Parとidise? (Il. ii. 384‑i

繰り返すが、 ′\うダイスはアイデンテfデイの確立と表 裏一体の境地にある,= そのアイデンテヤティ確立の瀬戸 際にワ‑チ‑とストラレンハイムが吸い寄せられるよう にジーゲンドルフ城に接近するのは、意味がある現象な のだ.ニ 何故なら性格がまったく異なっており、かつ同じ 血を分け合ったこの二人は、たとえ矛盾するように思え ても、アイデンティティの確立には互いを必要とし合う 関係にあるのだから,̲ ワ‑ナ‑がストラレンハイムを殺

しては、ジーゲンドルフ伯爵としてアイデンティティを 確立できないことは既に述べたll.ジーゲンドルフ家の名 に泥を塗った己の過去がある二r それに親戚殺しの良心の 叫責をつけ加えては、彼には社会に向かって胸を張って 伯爵としてのアイデンティティを誇示することはまった く無理であるLニ ストラレンハイムには神経症的なワ‑ナ ーと完全に違って、良心のかけらもないように思える,̲, だが,彼はワ‑ナーを殺してはジ‑ゲンドルフ伯爵にな れないように思える‑,何故だろうか,‑,ここで、アjL・リ、ソ

クの存在が′E:.きてくるのだE‑ たとえ内面的に仲違いして いようとも、父粗は父親である。血気盛んなアルリ、ソク が、父親を殺されて黙っているとはとても思えないE二,ス トラレンハイムには、早晩死があるのみであるニ,この意 味でアルリ、tJクに己の爵位墓奪の計画を話し、彼の協力 を乞うことは、自ら己の死を招く,・a行であった、

それでも、ストラレンハイムの発言はアルT)、ソクに 定の両面変化に関わる影響山を与え続ける=,被はアルリ

ックのアイデンティティを誘導するような発言をする‑.

このようにである‑,

STRALENHEIM.       ‥ YoLi d be sorry to

Call such[JosephineJyour mother. You have seen the

wornとln

He calls his wit'亡.

ULRIC.       Is she not so?

STRALENHEIM.         NL1 1110re Thanhe's your father... (II. ii. 393‑96)

もちろん、ストラレンハイムはゆめゆめアルリ、ソクがワ

‑チ‑夫妻の 一粒種だとは気づいていない‑ とは言って も、これはいかにも軽率な発言ではある,̲ 旅の途中で出 会った得体の知れぬ若者に、 T7‑ナ‑と己の関係を明か して協力を仰ぐとは、劇の流れにおいてはあり得ない事 件のような印象を与える‑ ただ、ワ‑ナ‑、ストラレン )、イム、アル・J‑7クが運命の糸で繋がっていることを印 象づけるには「分である=

アルリ、、Jクの欺棉ぶ(‑‖ま、父親への愛の猿芝居に見る ことができるEJ 少し長くなるが、引用しておこう。

WERNER.     Why look you so?

ULRIC Do I Behold my father, or ‑

(8)

ア(デンテ(テて′(nイイI:と楽園(/)追求

WERNER.       What'?

ULRIC. An assaSSin!

WERNER hlsaile or insolent!

LILRIC.         Reply, sir, aゝ

Your prize yL)Lir htc, or nil‑e!

WERNER.       LHVllat must Anslver?

ULRIC. Are you or are you Hot the assassin Of Stralcnheim?

WERNER.      、er was as yet

The murLIerer L)f any nlan. What mean vou?

uLRIC. Did you noHhis nishl (as the ni"hl before)

RetracC the secret pasヽage? Did you not

Again revisit Stra】enheim's ehこimber? and ‑

lLILRIC pen川。ノl、・

WERNER. Proceed.

LTLRIC.     Died he not by y。LIr hと111C1?

WERNER.      Great GUd!

ULRIC. You are iilnocent, then! n‑y father'S innocent!

Embrace llic! Yes, ‑ yom̀ ton亡‑ your lookっ′e、.'eS, II

YetW∫so! (Ill.il′.30‑4;

実はこの場面の前に、胚にアルリ、・ノクはストラレンハf ムを彼の寝室でナイフを使い殺害しているのである̲,ち ょうど、父親ができなかったことを息子が実現している という格好である,̲ 最初は父が父ではなく、暗殺者に見 えるとアルリ、ソクは演技する,‑ ワ一十一が大損Lに「見 える」はずがない,̲ 殺したのはアルりック白身であるの だから,‑ また父親が否定するやいなや、すぐに彼の無実 を宣言する態度の転換のV‑さば、劇のM¥絹を後ろから見 ればアルリ、、Jク白身の罪を暗示しているかに見える,:例 の秘密の通路の存在を知っているのは、ワ一十‑、ジョ セフ(‑ヌ、アルリ・ソク、ガボールの国人に限られるの だから、当然血気&Aなア]レリックにストラレンハイム 殺害の嫌疑がかけられても不思議ではない その自己へ の嫌疑を父親を無罪放免にすることによって、ア)Lリツ

タは免れていると考えることもできるだろう,しかし、

驚くべきことはワ‑ナ‑とストラレン′、fムJ)平行関係 ではないだろうか̲ ストラしンハイムはいつでもワ‑ナ

‑を殺すことができた,一一 ただし、白/Jiがその命奇を下し たことがばれなければの請である,オーデル河の本位が 引き始め、フランクフルト(Frankfurt)から警察を呼ぶ ことができれば、自らの手を汚すこともなく、無実の罪 でワーナ‑を始末することさえ吋能であった,‑ ワーナ‑

の命はオーデル河の水位次第であったのだ,だがバイロ ンは、決定的な逆転の手段をワ‑ナ一に与えていたので あるこ 彼はオーデ)L,河の水位が高いうちは、深夜秘密の 通路を通ってストラレンハイムの部屋に忍び込み、彼を 殺害できたはずである,,最初の夜は怖じ気づいてできな

87

かったが、思い直二し次の夜のチャンスにかけることが、

彼にはできたはずである,,だが、このチャンスをものに したのはアルリ・ソクであった̲,アルリ・ノクは何故ストラ レンノ、イムを経書したのだろうか̲ 碓実に逮捕され、幽 閉され、果ては処刑されてしまうかもしれない父親を救 うためであろうか ア)Lリ、ソクが父親に先祖伝来の宝flA を渡し、アイデンシュタインを貰収して、翌朝逃走のた めの馬車をJ丑意させるよう提′察することを考慮に入れれ ば,この解釈は説得力をもつように思われる ただし、

いずれは自分が継承することになるジーゲンドルフ伯爵 の地位を守るため、アルリ、ソクはストラレンハイムを殺 したのかもしれない いったんストラレンハイムが伯爵 に収まると、おそらくアルリツケに継承権が回ってくる

ことはないだろう‑,当然ながら、ストラレンハイムの子 孫が伯爵の地位をほしいままにするであろうから‑,つま り、アル1ト′クによるストラレンハイム持しの意図は利 己的なものでもあり得るのだ,暗殺事件の意図は市Il】川 のまま据え置かれる

アルり・ソクのfこ吋解なキャラクタリゼーションは、ス トラレン′、イムの娘アイダ(IdaStralenheinl)との婚姻 によ‑つてさらに深められる,,ワ‑十一はストラレンハイ ムの死に聞わる嘩昧模糊とした罪意識を・払拭するため に、彼の ‑大根アイダとア)Lリツタの婚姻を提案する‑

アfダは何の指摘もなくアルリ、ソクの男っふりに夢中に な‑‑)ている,,だがアJLリ、ソFjはただ父親に勧められただ けという埋‖Iで、アイダヘの愛を演じているように思わ れる,アイダのて日射二際しての、被の態度を見ておこ

う.

ULRIC. You are early, my …eet cousin!

IDA.       Ot J<>(> early.

Dear LJlnc. ifI do not interrupt yoL】・

Why do you cal一 rue 'roiisin:

ULRIC. [smiling].    Ar亡we not S日.〜

IDA. Yes, but I do not like the name二metllinks

It soLinus so cold, as it'you thL‑ught upon Our pedigree, and only weigh'd our blood.

ULRIC. [starting]. Bloc‑Ll!

IDA.  Why does y。ul、s start from yoiu  L‑h亡eks?

(TV. i. 151‑57)

確かに、彼らの関係はいとこ同I:には間違いない,そう ではあっても、許嫁に対して「いとこ」呼ばわりするの は尋常な愛の表現ではないだろう,この他人行儀な態度 には、完全に自発的な愛の発露が欠けている,̲ もう ーっ,

アルリ・、/クの血への恐怖はストラレンハイム殺害への菌二 接的な暗示を与える,作り上げられたアルリ・ソクのイメ

ージは、要するに、陰欝なる過去を背f'上った英酢という

バfロ二・ソウ・ヒーローのそれである,‑,ストラレンハイ

ム殺しによって、彼もまた父親と同様に「過去」を背負

(9)

うようになった アイダが"Ourpedigree‥‥ourblood"と 言うように、血は死の暗示とともに婚姻による血統の暗 示も与える一,延々と血は受け継がれ、ワ‑ナ‑からアル リ、・)クへとImJじ運命が繰り返されるのだElつまり、スト ラレンハイムを殺したアルリツタがアイダと結婚すれ ば、彼は義,哩の父を殺したことになる‑ 義理の父親の殺 害者は、果たして息子という呼称に値するだろうか‑,ス トラレンハイムにとって、アルリ、ソクは息子であり.か つ息子ではない̲ アイデンティティの再吊り状態はまた うち続く.I, ‑'Cousin‑1という呼び方は止めて欲しいという アイダに.アルリ、ノクは今度は"Nay, then I'llyou Sister"

(IV.I.162)と言うE‑, 「妹」とはまた、曜日末な呼びかけで あるし「煉」という根拠は、唯一‑ワ‑ナ‑が彼女を引き 取って育てているがために、 IfiJじ一家の娘、つまOft抽)

イメージを彼女が帯びているだけに過ぎない.,厳密に言 って、彼如まアルリ、ノクの妹ではないはずだ また、単 に‑sisterを親しみを能めた女性への呼称だと解釈するこ とも可能かもしれない,,だがその場合は、許嫁に対する 言葉としては、 "sister当まあまりにもよそよそしいと言わ ねばならない,‑ アイダがIlikethat name [sister] btiH worse‑ IV.i.163)と反応するのも当然である二,アイダ とアルリ、ソクの婚約者同士としてのアイデンティティも 揺らぎ始めている.

ワ一十一にしてみれば、アイダの養育を引き受け、あ まつさえ彼女を最愛の息子の花嫁として迎え入れること は己の過去を弘拭し、かつジーゲンドルフ家の親子:.R にわたる血の呪いを封じ込めるための行為であった,̲ 劇 の最終部近くでワ‑ナ‑がアルバート修道院長(Pri A】bel・t)を呼び寄せ、かつてストラレンハイムから奪っ

た金貨・巻きを寄進するのは上辺だけの過去の清算行為 であった,‑,何故なら、ワ‑ナ‑は肝心のストラレンハイ ム殺害の件は憧日毎していないのだから=,この宗教的要素 の導入は、 L7マンフレ、LJド』の中で同名のi二人公が臨終 する際に修道院長を呼び寄せる行為に似ているL マンフ レ、ソドは塊を天使に預けることを拒絶し、さりとて悪魔 に身を売ることもしなかった.1彼の魂は天田でも地獄で もない地獄の辺土リンボをfi(遠に祷但わねばならない‑

マンフレットと同様に、ワ‑ナ一にも神との御解は望む べくもない‑,被はストラレンハイムの血が自らの心を圧 迫していると己の窮状を訴えるL:彼叫彦道院長へのn(」

の場面の一部はこのようである,=,

Father! 1 hと1、′e spoken

The truth, and nought but tt‑uth. it not the whole:

Yet say I am notguilty! torthe blood

Of this tlian[Stra】cnheim]weighs on me, as it 1 shed it (F. i. 520‑23)

すべてを語ってしまえば、ワ一十‑は自己破滅を招くだ ろう̲,すべてを語り得ないが故に,被の過去との和解の

試みは徒労に綿おるように仕組まれている,ー さて、アイ ダと息子の結婚はストラレンハイム家とジーゲンドJL,フ 家のiflLを結合させ、両家の間の確執関係を利解させるは ずであった‑,だがり‑チ‑の懐梅とl司様に、この婚姻関 係も、仮にそれが成し遂げられたとしても、徒労に終わ るはずであるリつまりどんなに偉丈夫であったとしても、

自分が父祖を殺した娘と平和な結婚生活を送ることがで きるだろうか̲,アルリ・.Jクにとって、結婚̲'日舌は地建と なるよう運命づけられているニ ワ‑ナ‑は息子がストラ レンハイムを殺したとは想像もできないこ 自分勝手な息 子の縁談話をまとめようとしているとはいえ、ワーナ‑

はあくまで息了‑I二艮かれと思って15歳の幼気な娘を彼に 与えようとしている。だが、これはいわば過去のわだか まりの伝達行為である̲ 息子の婚姻が成立し、ワ一十一 の心のしこりが解けたとしよう,‑,その瞬間に、過去への 罪意識は息子に受け継がれるのである̲ 複数の名前をも ち放浪を続けたワ‑チ‑の性質は、息子に受け継がれる はずである,,アル1J 、L/ク自身が家臣ルドルフ(RLidolph) に向かい、自らを

Im th亡true camelcon.

Andlivebutontheatmo叩here ‥ (W.i.219‑2り)

と形零して、定まらぬアイデンティティを認めているの だから,̲,

ジョセフィーヌもそうだが、アイダも楽園との関連性 をもつ‑,プラハで平和を称える記念祭が催されている最 中に、出席巾のアイダはこのように平和を称える賃美歌 をw一存している‑

‥ 、 and the celestial hymilS.

WhjCh seenld as it they rather came fro【n heaven

Than一一10Linted there. Th亡bursting cI jan s peal

Rollin臣‑n hiiih like an har‑1lonious thLinder... ( V.i.21‑24) 天Lと地上の祝祭の融合とは、黙′jこ録的圧nを劇に与え る効果をもつL 辺り・面のプラハの群衆と天上との交流 は、最後の審判のtj,のイメ‑ジを帯びる,=この話劇では、

女たちは楽園の記号性を担っているJ酸女たちは性格的 に変化せず、ただ美しく、ただ脆い 彼女たちが添え物 的なキャラクタリゼーションを受けていると言うつもり はないが、女たちとの誠の和合はアイデンティテfの碓 立を必要としているという点は押さえておいてよいp.そ ういう意味から、この劇中では真の男女の性愛は実現し ていない̲.り一十一は息子との険悪な関係から妻との完 全な和合は実現できないし、アルリ・リクは言わずもがな であるが、アイダを愛する気持ちはさらさらない.1楽園 の実現不可能性とアイデンティテf確立のそれは重なり あっているのである,

この詩劇をさらなる混乱を7,悪させつつ、宙吊り状態 で終わらせる役割を帯びているのはガボールである,̲ プ ラハの群衆のr恒二、り‑ナ‑はガボールの姿を不意に認

(10)

ア7Jデシテ!テロノ)不仁,と葉固(,rJ追求

める‑,不意に罪意識に捉えられたかのように、 T7‑十一 は、再桐,q興の最中に倒れてしまう,̲,平和祝典とはアイロ ニカルであった̲.何故なら.これからプラハは混乱とI'J 単組ミT,思される事態に陥ってしまったのだから‑,ガボ‑

ルはストうしン′、イムの金貨と命を奪ったという嫌疑を 受け、逃/上のHやを続けていたのだ‑,もとより正義感と 男の詰りに満ちたガポー)L占射二、彼はジーゲンドルフIL 束に憎悪の'4k.を燃やしていたのである,‑ プロ、ソトに混乱 と転換をもたらすトリ.ソクスターであるとしても、ガボ I)Lは胤の重要なモチーフである逃亡と追跡という枠組 みにしっかりと組み込まれている,‑ 最初、彼はジーデン

ドルフ家の大開に接近を試みている:種は恨みの対象を 追跡していたのである. (とは言っても、彼は警察に追 われているために自由自在に行動するわけにはいかなか った.)その後、またガボールは追われる身に転換させ られる 今度は、アJL・リ、ソクによってである̲ そのメカ ニズムを次に追っていこう‑,

ガポー)Lは秘密の通路を辿って逃走中に、不意にスト ラしンハイムの部屋に入り込んでしまった‑,そのとき、

彼はアルリ、ソクによるストラレン/、イムの甘吉現場に出 くわしてしまったのである ガボールはこう語ってい ら,̲,

The door ofwl‑ich was half ajar ‑ I saw

A nl呈m WhC> wash'd his bloody hanLIs, and ott

With stern and anxious dance gazed bとick upon

The b一eeding body ‑ but it moved no more. ( V.i.331‑34)

もちろん、殺害者はアルリ、ソクであった.,しかし、アル リ,lJクはガポー)しの目撃には気づいていない̲ 怖くなっ たガボー)Lはそのまま通路の闇へとIJlり、元のり一十一 の部屋に戻ったうえで、必死の思いで屋敷から脱走した のであった[一,しかしこの事J太以外にも、ガボー)‖よアJL/

り・ソクにまつわる興味深い謎を明かしてくれる.̲ 被はア ルリソクのアイデンティテTについて、ジーゲンド)レフ 伯爵(元はワ‑チ‑)にこう言う.

.. HcfUlncJ

Mとty have more nai‑ies than one. You lordship had so

Onceonatime‥. (V.i.172‑74)

これは、アルリI,jクも父親と同様にアイデンテfティの 危機に陥っていたことを告げているのだL‑,ガボールが最 初に知り合った境のアルリ、ソクは、匪賊の集団を束ねて いた̲L 彼は魔術を操ると噂されるほどのカリスマ性で、

屈強な男たちを惹きつけ、彼らの先頭に立っていたので ある,‑,ガボーII白身がそうした彼の磁力に吸い寄せられ ていったのである,:得体の知れないアルリ・ソクの性格に ついて、ガポールはこうも証言している,

I noted down his for111 ‑ his gesture ‑ features、

Stature and bear】ng一一and ami山t them all.

Midstい′cry natural and acquired distinction,

89

I could discern. metllC‑ughL the aS〜Lllsin s eye

And gladiator'shCart. (V. i. 264‑6釦

もとより、これは接からI引師琶したア)LリL、′クのイメー ジかもしわなIV しかし無種の男たちを指揮する能Jjが あるという点からも、彼の闘争的性格はl明らかであると 思われるL そうした彼の性格の「恒二,ガボ‑lLが晴指差 のLlの輝きを認めたとしてもあながちおかしくはない

当然であるが、このア)llJ クのイメージはマンフレ.Lj ドを悪起させる̲,マンフレ、ソドこそが魔術の障れた使い 手であり、精霊たちを自由自在に操ることができたのだ から,̲ 胴心なことは、アル1ト/クにも11に出すことがで きない過去があったということである̲,彼もバイロ二、ソ ク・ヒーローだと、 I一 言で言い済ましてしまうことはた やすいr,だが、彼が'{親リーナ‑と同様に忌まわしき過 去を引きずっていたことは強調するに値する‑ また肘二 家から出た後に、アイデンティテ1の不在を蒙っていた ことは、彼らのアイデンティテ月琴得が互いの心からの 組子関係の認知に拠っていたことを暗示しているJ

アルリ、・ノクは邪魔者ガホールを殺そうとする̲,だが、

彼を助けたのは他ならぬ父親ジーゲンドJLフ伯爵であっ たこ,バイロンは故意にトリ環的構造でこの請劇を締め括ろ うとしているように思われるニ ガポールを持そうとする 際に、このようにアルリ、ソクは'j:親に向かって自己の行 nを正当化しようとする,̲

.. If you condemninc. yet Remember who hath tausht rllC once tclo often To listen tohim! Whoproclaim'c to me

That there were crime;〜, 111ade venial bv the occasiL)n?

ThatpassionwasoLirnature?... (V.i.439‑43) この台詞は、かつてのワ一十‑がストラしンハイムの金 貨 ‑巻きを奪ったことをiTl当化しようとして、息fに述 べた次の発言と呼応している,

‑ Willyoube

More patient? Ulne! ‑‑ Ull‑ic! ‑ thereとire crimes

Made venialコy the occasu札and temptations

Which nature camlot mこisteror forbear. ( U. ii. 146‑49)

劇の前半と後半が照応し、まるで小さな取りに足らない 罪がこの親子にとって天きな災厄として自らに降りかか ってきたかのような印象を与える,‑ 金貨 ‑巻きが 一家の 崩壊をもたらすとは、高くついた犯罪であったし,ジーゲ ンドルフ伯爵はガボールを城の塔へと導き、息子と彼の 仲間から守ってやる,̲。それどころか自らダイヤモンドを ガボールの手に握らせ、逃げ道を指示してやHもする,̲, とうとうガボールは、アルリ・、Jクの追っ手から逃れまた もや脱出に成功する=.これは息子の裏切りへの、父紐か らの反逆であると解釈すべきだろう‑,というのは、スト ラレンハイムの死後、アルリックは家族をずっと偏し続 けてきたのだから,‑,とりわけ、父親は息子の猿芝居に‑

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