神戸女子大学文学部紀要 49 巻 151-163 2016
特別支援教育における造形教育の教材と指導方法Ⅲ
伊 都 紀美子・木 戸 里 香
Teaching Materials and Methods in Art Education for Special Needs Students Ⅲ
Kimiko I
TOand Rika K
IDO1.問題と目的
平成24年(2012)12月に公表された「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的 支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」(文部科学省,2012)の調査は、平成14年(2002)
に実施された「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調 査」の再調査でもある。平成24年の調査は、平成14年の調査とは対象地域、学校、児童生徒の抽出方 法が異なる理由から、安易に比較検討することは困難とされている。しかしながら、この十年の間に、
発達障害者支援法(2004)、発達障害者支援法施行令(2005)、発達障害者支援法施行規則(2005)な どが整えられ、発達障害者の地域支援体制(発達障害者支援センター運営事業《註1》の推進、子ど もの心の診療ネットワーク事業《註2》)の確立、発達障害者への支援開発や普及活動(発達障害・重 症心身障害者の地域生活支援モデル事業《註3》、巡回支援専門員整備事業《註4》、発達障害研修事業《註 5》、発達障害情報・支援センター《註6》、「世界自閉症啓発デ―」《註7》普及啓発事業)の実施、さ らに発達障害者の就労支援(若年コミュニケーション能力要支援者就職プログラム《註8》、発達障害 者就労支援者育成事業《註9》、発達障害者・難治性疾患患者開発助成金《註10》)の推進など、多く の展開がされてはいるものの、学習や行動面で著しく発達障害的特徴を示すと判断される児童生徒が 全体で6.5%(小学校7.7%、中学校4.0%)約61万人いるという結果は、10年前の結果6.3%(推定68万人)
と合わせてみても重く受け止めなければならない。また、この6.5%の児童生徒の支援状況に関して は、小学校、中学校で71,519人(平成26年5月1日現在、84,000人)が通級による指導を利用し、個 別の指導計画作成は1割弱にとどまり、学級担任が個別の配慮や支援を44.6%行っていることがしめ された。このことから、いまだに支援体制が十分とはいえない学校の中で、通常学級の学級担任の個 別の配慮のみで指導するには限界がある状態が続いているという現場の様子が明らかにされている。
筆者が着目したのは、この依然として変わらない厳しい現状と、調査対象が学級担任ということで ある。LD、ADHD、高機能自閉症などにみられる学習・行動特徴を顕著に示す児童生徒について、
発達障害の専門家による判断や、医師による診断に測ったものではなく、日常的な関わりによって直
接子どもたちを観察できる学級担任、つまり現場の指導者の判断による回答の中に「より豊かな実態 把握と、現状の課題が明らかにされるのでは」という文部科学省をはじめとする専門家らの期待が込 められた評価ともいえるであろう。筆者はこれまで、発達障害の児童生徒の特別のニーズに対応しう る造形教育の教材や指導方法について必要な要因の検討を重ね、発達障害のタイプに分けて現場にお ける工夫と課題の整理を試みた(伊都, 2010, 2014)。その目的は、学校現場において多忙を極める学 級担任に対して、個別の指導計画に生かせる補助資料として、それぞれのタイプに応じた教材や指導 方法を提示することである。そこで、現場の指導者の数多くの体験の中に問題解決の糸口が見えてく るのではないかという仮説をたて、「実験的に単純化した質問から得たリアルで多様な回答を内容分 析することにより、帰納的に指導者の経験知を分析する」ために、特別のニーズを必要としている子 どもの造形教育指導経験者を対象にインタビュー調査を実施した。その結果、多くの現場の工夫や課 題が明らかにされた(伊都, 2010, 2014)。この調査によって得た回答は、医師による診断に測ったも のは少なく、ほとんどが指導者の判断によるものであった。また、回答には「タイプ別」と「タイプ 不明」があり、比較すると「タイプ不明」が格段に多くみられた。この「タイプ不明」は、タイプが 把握できないという意味と解釈した。「タイプ不明」の回答数が多い要因として、指導者の発達障害 に関する理解が困難とされているのではないかと推測されたが、前述の文部科学省の調査対象に着目 しつつ、内容を分析していく中で、いろいろなタイプの子どもたちと接してきた指導者にとって、タ イプに分けて回答することの意味や重要性が認められていないのではないかと考えるに至った。
そこで本論は、これまで着目していた自閉症、アスペルガー症候群、LD、ADHD以外の「タイプ 不明」の回答の中に、タイプに分ける意味を超越した複合的な現場の工夫や課題が見えてくるのでは ないかという仮説のもとに、「タイプ不明」に視座をおいて、特別支援教育における造形教育アプロー チについて検討したものである。
2.方 法
同報Ⅰ、Ⅱ(伊都, 2010, 2014)の通り、調査の対象は、発達障害の児童生徒に対する造形教育の指 導の経験がある者50名(男性17名、女性33名)、経験年数の平均25.8年(男性平均25.8年、女性平均 25.8年)であった。最年長の経験年数42年の回答者に関しては、42年前に自閉症、アスペルガー症候 群、LD、ADHDなどの概念は知られておらず、回答者の「学習場面において学習者と指導者の双方 とに学習をすすめる上で困難をともなった経験に基づく判断によるもの」を発達障害の判断基準とし た。回答者が関わった発達障害の児童生徒は、精神医学的に確定診断された子どもと、回答者の「学 習場面において学習者と指導者の双方とに学習をすすめる上で困難をともなった経験に基づく判断に よるもの」の両方を含む。
インタビューの質問項目は、臨界事象法(金井, 1988)の視点から発展させて作成した。質問内容は、
指導経験において「よかった」または「よくなかった」と感じられた教材と指導方法についてリアル に思いつくままに答えてもらうものであった。インタビュー中に、筆者がデータの等質性を確保する ために、必要に応じて質問を行った。インタビューの内容は、回答者の同意を得て録音記録された後、
逐語記録した。探索的インタビュー調査の標本数の基準について、Wilson(1959)は、回答者が意欲 をもって自分の考えを的確に表現すれば、多くても50例で十分であり、20例でおおよその傾向が明瞭 になるとしており(遠藤, 1997)、本調査ではWilsonの基準を満たした。
筆者ら4名の心理学・美術教育者が、逐語記録されたものを「よかった」または「よくなかった」
と実感した教材と指導方法に分類した(表1)。さらに、KJ法によって「美術の授業の構成」(東山, 1986)(付録1)の項目に照らし合わせて分類した。
表1.タイプ別の事例内訳
タイプ(N) よかった(N) よくなかった (N)
自閉症 (56) 導入(22) 制作(17) まとめ(1) 導入(7) 制作(9) まとめ(0)
アスペルガー (27) 導入(8) 制作(5) まとめ(0) 導入(9) 制作(5) まとめ(0)
LD (6) 導入(1) 制作(2) まとめ(0) 導入(0) 制作(3) まとめ(0)
ADHD (53) 導入(14) 制作(18) まとめ(1) 導入(9) 制作(10) まとめ(1)
精神遅滞(85) 導入(26) 制作(44) まとめ(1) 導入(7) 制作(7) まとめ(0)
聴覚障害 (7) 導入(5) 制作(1) まとめ(0) 導入(1) 制作(0) まとめ(0)
不登校 (7) 導入(1) 制作(6) まとめ(0) 導入(0) 制作(0) まとめ(0)
タイプ不明 (123) 導入(45) 制作(43) まとめ(2) 導入(19) 制作(14) まとめ(0)
付録.1 「美術の授業の構成」(東山, 1986)
導 入 題材把握 題材・資料の提示
題材の意図、特徴、条件の提示 内容を把握・深化・集団思考
・経験の想起・観察
・特徴・条件をまとめる・意欲の喚起 題材の課題の把握
発想
発想を広げるための働きかけ
・新たな資料・情報
・動作化、文章化などで内面を引き出す 個々のイメージを尊重
自分の考え、主題を明確化 知・情・意・技の面からの深化
制 作 構想 主題、場面を形に表現
・形、構図上の注意
・表現技法
・用具、技術、技法をおぎなう 構想に構図があっているか
表現
表現上の助言、技術技法の指導
・形、色、構図のアドバイス
・技術、技法の説明、指導
・作品資料の提示
・意欲、想像工夫の喚起 知・情・意・技からの追求
まとめ 鑑賞・評価
完成の喜びを味わう配慮
展示、活用、鑑賞の方法を考える 反省、評価
次時の予告
3.結 果
本報では、タイプ別の事例内訳(表1)の中でも、最も事例数の多い「タイプ不明」について報告 する。なお、事例は、臨場感のある状況を連想しやすいように、指導者の実感のこもった表現に修正 を加えることを控えたいと考えたが、個人情報に留意した上で合成し、筆者が作成したものを( ) で表記した。事例の順番は、事例数などの根拠はなく、列記したものである。
まず「よかった」と回答された事例について、具体的な工夫を検討することによって個別の指導に 生かせる補助資料としての有効性を考える。
導入:題材把握・題材の提示(全体説明のときに、選択肢をあげる。制作方法は具体的に提示す る。)(ちょっとした、何気ない工夫や思いつきの提示で、作品に偶然のおもしろさが出てきたことも ある。)(じっと座っている子には「絵でも描くか?」という声かけをするだけで、最初は「うーん」
と気乗りしない様子でも、8割の子がのってくる。)(骨や腕の発達を見ることは、すごく大事である。
身体に合った題材をタイミングよくポンと出すと、小さい子でもグンと伸びる。)(酒井式《註11》で 指導している。「こういう描き方をするよ」とは言うが、「こんな絵を描きなさい」とは言わない。絵 の苦手な子も入っていきやすい。具体的に「今日はこんなことを描くよ。この時間にこれだけのこと をするよ」と言う。子どもは迷わずに集中する。)
導入:題材把握・内容を把握、集団思考(1日でもいいから、集中して絵を描かせてみる。その経 験を積み上げていく。)(絵の具の基本的な使い方を教える。いい絵を見ることによって、絵を描く力 がついてくる。)(グループ制作では、気になる子の担当場所を、本人が言いたくても言えない時は「こ の場所は、○○さんの場所にあげてね」と、本人の代わりに指導者が言う。その子のスピードででき るように配慮する。小学校高学年になると、みんなで役割分担するグループ制作を好む。)
導入:発想・発想を広げるための働きかけ(図工が苦手な子には、リラックスできるような音楽を かけると、とにかくよかった。逆に、図工の好きな子には、音楽が邪魔になり、気が散ってできなかっ たという子もいる。)(立体観念の弱い子でも、反立体のお面づくりはできる。)(何も見せずに「自分 の作りたいものを作るように」は難しいが、見本を見せるとできた。)(指導者自身の頭を柔らかくし ないといけない。例えば、スプーンやフォークの上下を反対に使う等、身の回りの何気ないものが一 番いい教材や教具になる。)(無気力な子に対して原因を見極める。原因が劣等感のときは、得意なと ころを見つける。一つの分野に興味をもつと、他にも興味が広がることが多い。「こんなことは役に 立たないだろう」ということも、意外に役立つことが多い。)(色塗りの時に、実物をいっぱい見せて 塗らせる。例えば「葉っぱにギザギザあるね。色もいろんな色があるね」と実物を見せると、子ども の絵が変わる。)(何を描いていいのかわからない子には、食べたい物や、好きな食べ物を描かせる。
それから、その周りに人やレストランの風景、または外でお弁当食べている様子等、イメージを広げ ていくようにアドバイスする。)(自分の好きな「宝物」を目の前に置いておくと、それだけで集中し て最後まできちんと描くことができる。)
導入:発想・個々のイメージを尊重(準備をしっかりした時よりも、思いつきでやった方が、子ど
もは夢中になることが多い。)(いい絵というものがわかってくると、いい絵の真似をし始める。)(お 絵かき唄で、描く練習をする。他の子の絵を見て、自分もやる気が出てきて描くようになる。何を描 いていいか分からなかった子や、枠の中を塗ることさえ難しかった子でも、きちんと描けるようになっ た。図工の時間に限らず、朝の時間にいろんな力をつける。)(触ったり、切ったり、作ったりするの が好きなので、粘土や工作を好む。スケッチブックを渡すと、指示する前にすぐに描き始める。友達 から「下手」と言われてやめてしまう子もいるが、それでも描いたり作ったりし続けている子は、か なり努力している。)
導入:発想・自分の考えを明確化(教室内の雰囲気にざらーっとしたものを感じた6年生に、卒業 の近い時期に自画像を描かせた。普段は机をつけてグループで制作していたが、この時は、一人ずつ の机で描かせた。すると、本当に静かに描き出した。卒業を自覚して「自分さえしっかりしていれば いい」ということがわかってきたと思った。)(「今、何をするのか」がちゃんと伝わっているかが大 きなポイントである。描き始めてすぐに「何を描いていいかわからない」、「もうできた」と言うよう な子には「今、何をしているの?あなたはどこにいるの?」という声かけが必要である。)(自分の思 いが表現できない、作業がはかどらない子には、材料を揃えて、選択できるものがあり、その時にで きること、やりたいことが合えば「自分でやってみる」という意欲がでる。)
導入:発想・情、意の面からの深化(指導者が、子どもをなめてかかってはいけない。指導者は、
下手なわかったような答えを出さない。わかったような答えを出すと、子どもは、そこにレベルを合 わせる。)(集中できるような座席を さり気なく、他の子どもたちに気付かれないように配慮する。
教材を考える前に、環境を整えることが大事である。必要なものだけ出して、子どもの集中力を下げ ないようにする。集中力を高めるための環境づくりとして、掲示物、道具の種類、道具の出し方、タ イミングを考えると、発想、想像が同時に膨らむ。子どもの作ったものには、かわいいものが多く、色々 とにぎやかで、ついつい見たい気持ちにさせる。これが、指導者の話に気が散って集中できない原因 となる。学習環境はスッキリ片づけることが大事である。板書は、ダラダラ書かずに、大きさを考え、
ねらいをはっきりと書く。)(表現というのは、自分が落ち着き、自己肯定感がないと出せない。荒れ たクラスでは、友だちに責められるのではないかと恐れて、出したくなくなる。安心していられる場 が大事である。)(発達に合ったもの、安心して使いこなせるもの、ちょっと頑張ればもっと難しいこ ともできるような、チャレンジ精神を生かせるものがよい。)(図工は、教えてはいけない。ねらいだ けは、はっきりと伝えて、子どもに「ここでは何をしてもいい」という安心感をもたせる。安心でき る場をつくる。「こんなことをしては、ダメ」とは言わない。「形がゆがんでいてもいい」と言うと、
子どもは自信をもつ。美術なんてルールはない。できる限りのことをさせるのが大事である。)(真っ 白の画用紙は、子どもに怖い感じを与えるようである。背景は、後から塗るよりも、先に色を塗らせ ておくと安心して絵を描く。そうすれば、途中でやめて完成までいかなくても一応作品にはなる。)(感 じないと絵は描けない。「こう描きたいけど、どうしたら描ける?」と聞いてきた子には、技術は教 えられるが、何も感じていない子には「自分で考えてみよう」と返す。その子には、何かを感じるテー マや、考え出せるきっかけを与えると真剣になる。)
制作:構想・主題を形に表現【形、構図上の注意】(「花を描きなさい」と指示しても、どこから描 き始めていいのかわからない子には「好きな花を描きましょう」と指示をすると描き始める。)(自画 像のように、しっかり見て描くこともできるが、画用紙が大きい場合は、集中が続かない。四つ切よ りも八ツ切の方が集中できる。)
制作:構想・主題を形に表現【表現技法】(水、糊、絵の具を入れた中に、ティッシュペーパーを浸し、
それを持ち上げると色が混ざる。色の混色を楽しんだ後で、それを丸めてお団子をつくる。感触が気 持ちいいので、どの子も喜んで何度も繰り返す。)
制作:構想・主題を形に表現【用具、技術、技法をおぎなう】(きれい好きな子は、糊や絵の具を 使う時に、側にお手ふきを用意しておくと安心する。)(筆を使いにくい子には、パレットではなく、
小さい手の中に入る大きさのもの、例えば給食に出た容器等を利用して、絵の具だけ入れて指で塗ら せた。容器は、指で混ぜても絵の具がこぼれない大きさを吟味する。)
制作:表現・表現上の助言【形、色のアドバイス】(発砲スチロールを使った題材は、「こういうも の作ろう」と想像するのが難しい子には、やっているうちに形ができ上っていくので大変喜んだ。)(パ ズル的なことがみえない子には、少しずつパズルやブロックの数を増やしていくと、好きになって楽 しんでできるようになった。絵を描くよりも、工作関係が入りやすいのではないか。)(ステンドグラ スの時、下絵を描けない子には、単純な形、例えば「○、△、□、ハート、星、ダイヤ等の形を組み 合わせて表現する」というテーマに変えると形を作れるようになる。)(右のものを左に、対象物を写 せない子には「校舎を描こう」というテーマだけでは、他の子の作品と比べて優劣がつく作品になっ てしまう。「どっしりとした校舎を描こう」や「大きな校舎を描こう」といった具体的な言い方の工 夫をすると対象物の特徴をつかみやすい。)(竹の子を描く時は、細長い紙を与える。細長いものを描 く時の工夫である。先にギザギザを描き、次に下の丸いツブツブ、そして斜めに線をひく手順をしめ すと描きやすい。斜めの線は難しいので、描ける子と描けない子がいる。)(塗ってはいけないところ は、指導者がセロテープを貼ってふさいでおき、子どもに好きに塗らせた後ではがす。途中で口うる さく言わなくてもその子なりの作品ができる。)
制作:表現・表現上の助言【技術、技法の指導】(スチロールカッターは、糸鋸よりも扱いが簡単 である。)(はさみは、手の器用さが関係するので、使える子と使いにくい子の差がでる。苦手な子が 多いが、はさみを好きな子は多い。はさみを使った紙を組み立てる工作や、粘土を使うことは好き。
はさみを使えない子には、色々な形のクラフトパンチや、手動のシュレッダーを使う。)(カッターは、
導入として、刃の出し方、刃の折り方や、日本人が発明したものであるという話をする。そして、安 全に直線を切る、カーブを切る、10センチ四方の紙の隅をホッチキスで留めて切ることを体験する。
力の入れ具合は、紙を一枚切る、二枚切ることで感覚を知る。使い方に慣れてきたら、色紙を使って、
アンパンマンの顔や案内状を作る。)(小3以上になると、スティック糊、水糊を使う。最近、フエキ 糊は使っていない。糊は、チューブかスティックを使い、それでも苦手なら両面テープを使う。糊は すぐに乾かないので、セロテープやホッチキスを使う。ホッチキスは、使える子が多い。)(6人ずつ のグループ制作。12色の染料を12の紙コップに入れ、12本の筆を用意すれば、一人一人が筆洗のバケ
ツを用意するよりも、筆洗が苦手な子がいても、色も道具もぐちゃぐちゃにならない。みんなが見て いるからできる。6人なら順番を待つこともできる。)(粘土を使う場合、丸めたり、ひねり出したり、
いろんなことをする。「どうやったら、もろくならないか」というゲームをした後は、安定した力強 いものを作る。)(工作のパズルとブロックなど、組み合わせるものを、とても好む。)(プリンの容器、
空き箱など、小さな形を組み立てて、風で走るものや、公園を作る題材を好む。)
制作:表現・表現上の助言【意欲の喚起】(酒井式《註11》で、ちょっとした声かけをすると、集 中の苦手な子には大体うまくいく。)(少し抵抗感がないといけない。簡単すぎると飽きる。楽しかっ ただけでは、学びにならない。少し難しければ楽しくなる達成感が違う。難しすぎるものは、やる気 をなくす。)(土粘土の場合、思い切り力を出せるので、体当たりで打ち込める。感触がいいので好む。
作品を仕上げて納得するというよりも、作って満足して、つぶして、また作って、つぶすことを何回 も繰り返すことが楽しいようである。)(油粘土を好む。制作の途中でも、比較的片づけが簡単である。
油粘土遊びを「○○ができたら油粘土で遊んでもいいよ」とご褒美的なものとして使うことが多い。
粘土は、感触もいいし、自分の思う形になり、いうことを聞いてくれる存在である。子どもの好きな 重量感もある。もし間違っても、すぐに直せるという安心感があるので、喜んで取り組む。)
制作:表現・情、意からの追求(荒れていた6年生が、ドールハウスを制作した。出来上がった作 品は、目の玉や人間に釘を刺したり、血を流した不気味な作品だった。心理の先生に相談すると、「授 業の中で、これが出せることが大事、出せる環境であることが大事」、「出し切らせない、見守りなさ い」と言われた。できれば、汚いものを作っても途中でやめさせないで、作らせた後で「吐き出して、
もう終わりにしよう」と言って、終わらせるようにした。)(血生臭い交通事故の絵を描いた子。その 子に「なんで、こんな絵描いたの?これ何?」と聞くと、「先生、また聞いてほしい」と言われた。
先生が作品を見て、絵のことについて聞いてくれたことが嬉しかったのだと思う。)(「何をしても、
他の子と比べられない」ということが、子どもの心を開けるようになる。できない子は、教室の中で
「自分はできない子」ということを自覚している。人よりも遅れている引け目を感じているので、時 間がかかってもいいと伝えて安心させる。)
まとめ:鑑賞・活用(図工関連の図書を図工室におくと鑑賞の時間に役立つ。本に載っている絵を よく見ている。)(鑑賞の対話型は、頭をたくさん使う。説明型ではなく、対話型で頭を悩ませること をさせないと記憶できない。聞くスキル、話すスキル、聞きたくなるスキル、話したくなるスキルを 伸ばし、話すのが苦手な子には書いて、思いを表出するチャンスを与える。)(何でも表現できる環境 が大事である。)
「よくなかった」と回答された事例について、以下の記述は否定的なものになってはいるが、課題 を検討することによって、問題解決の手がかりとして用いられる可能性を考える。
導入:題材把握・題材の提示(こちらが指示し続けると、うまくいかないことが多い。絵を描いて いても、途中でやめてしまう。活動に入る前の心のあり方、気持ちの持ち方、その子がどういう状態 であるかを捉えていなければならない。子どもは、求めている時に指導がピタッとこないと、そこか
ら逃げてしまい活動しなくなる。)(粘土や、ボンドのベタベタ感を嫌がる子がいる。グチャグチャし た正体のないものや、クニャクニャ、ドロドロの中に手をつっこむようなことは絶対しない。)
導入:題材把握・題材の特徴、条件の提示(刃物を、持たせたくない感じのクラスでは、刃物の安 全ガードの取り扱いを慎重に、丁寧な説明をする。刃物を使う経験が浅い者は、怪我するのは当たり 前のことで、怪我をすることは「切ってはいけない」というだけではなく、小さい怪我をして、どん どん刃物の取り扱いに慣れることが重要である。「これだけ切ったら、こんなに痛い」ことや、傷を 触って「切ったら、こうなる」ということを知ることが大事である。)(「自由に作る」という「自由」
は難しい。ある程度の枠を作ってあげないといけない。枠の取り方や、指示の仕方で、子どもたちの 取り組み方が変わってくる。)
導入:題材把握・内容を把握、深化、経験の想起(セットものや、つまみ食い的なものを使ってい ると、子どもは全く成長しないし、作品に思い入れがないので、完成してもすぐに捨ててしまう。)(「何 かを想像して、思い出して描きましょう」では、どうしてよいかわからず固まってしまう。経験が乏 しいということもある。出かける経験が少ない子や、家族で出かけた経験が全くない子もいる。見て きたものを絵にするということにつながらないので、段階を追って手伝い、抵抗を少なくして取り組 むようにする。)
導入:題材把握・題材の課題の把握(現在は、感覚遊びや感情遊びが流行している。技術をなくす 傾向がある。ねらいがはっきりしないので、指導が難しい。)
導入:発想・発想を広げるための働きかけ(発達障害の子は、形がとれない。さらに、生活体験の ない子は、何も描けず固まってしまう。)(記号化されたものを与えられたら、簡単に発想することが できる。自然物のように雑多な中から自分で読み取り、自分の形を作るところがうまくいかないい。)
(「自分の町を作ろう」という題材の、絵画表現は豊かにできるのに、立体的な観念がない子や、弱 い子は、家の中は作ることはできても、建物、人、木が作れない。ゲームの世界の中の惨殺現場しか 作れない子もいる。鳥瞰図というイメージがないので、上から見たような感じがつかめない。配置の 観念が弱い。)(自分の頭の中でイメージできるまで長い時間がかかる。イメージをつくるのに4時間 かかり、決まれば20分で描き上げることもある。)(目の前に対象物があれば、それを指でなぞりなが ら「どんなカーブか」、「丸みはどうか」、「まっすぐなのか」と問うと、絵は描けるが、抽象画は難し いので、固まる場面が多い。)
導入:発想・自分の考えを明確化(いろいろなものが、頭の中にインプットされていない。全体を 見ても、部分が見えないこともある。)
導入:発想・情、意の面からの深化(自画像が描けない子は、自分のことを一番嫌っている。鏡を 見ない、見ることができない子もいる。)(等身像に耐えられない子は、全部見ることができない。片 目だけしか描けない子もいる。自分に抵抗があり過ぎると、描けないこともある。自分の目を人形の ように描くか、点で表現する子もいる。長い時間、鏡を見て自分を描くのは、しんどい子もいる。自 分を自分で受け入れていない子だと思う。逆に、好きな子は夢中になる。)
制作:表現・表現上の助言【形、色のアドバイス】(混色の時、パレットに「こんな色、あんな色」と2,
3色以上出して、何も考えずにカーっと卵を溶くような感じで混ぜる。すると、黒に近い色になる。
作品を仕上げるというよりも、絵の具が混ざっていく感じや、手ごたえが好きで感触を楽しんでいる だけのように見える。混色の学習は、絵の具よりも、色セロファンを使うとよい。)
制作:表現・表現上の助言【技術、技法の指導】(絵の具をつかうのは、嫌いな子が多い。筆を自 分の思うように使いこなせないからだと思う。絵の具を塗る、筆を洗う、筆を雑巾で拭くという作業 が苦手ということもある。手で描いた方が楽しいと思う子や、筆は必要ないと思う子は、手で描いた 方がいい絵を描く。)(油粘土は、指の力が弱いためか、とても苦労する。平べったい作品を作る子が 多い。立体にするのが難しい。少しの粘土を使って「できた」と平面的な作品を作る。)(土粘土で、
自分もしっかり立っていられないので、作れない。少しの量では作れないので、ドーンとした塊で作 らせる。手で触りながら変化していくから比較的好きな子が多い。つけることはできるが、ひっぱり 出すことや、安定したかたちを作るのが難しい。)(紙粘土は、うまく形になりにくい。乾くと固まる ので、一気に作らないといけないのが難しい。技術がいる。作りかけてはすぐ壊すので、それを繰り 返すと最終的に仕上がらない。ほとんど、団子作りで終わる。粘着性がないので、くっつけても、ポ ローンと落ちる。)(しゃがめない、踏ん張る力のない子が多い。踏ん張れないから、身体が揺れてく る。全てにおいてバランスが悪い、鉛筆の持ち方も変わってくる。)
4.考 察
本論で視座をおいた「タイプ不明」の事例を、これまで検討してきた「タイプ別」のものと照らし 合わせてみると、タイプの重なったケースにも対応している複合的な工夫が多くみられた。この複合 的な工夫とは、例えば、重複しやすいLD(聞き取りが苦手、手先の不器用、書くことや描くことが 困難等)とADHD(注意欠陥が優位、多動が優位、注意欠陥と多動ともに優位等)と自閉症(コミュ ニケーションをとるのが苦手、記憶力がとても優れている、認知的偏りがある、こだわりが強い、聴 覚・触覚・臭覚等の感覚過敏等)について、それぞれのケースに対応した組み合わせを指している。
これらは、指導者の「いかに指導すれば、子どもたちと楽しい造形活動ができるか」という情熱と、
現場のプロとしての意識の高さ、そして、多くの実践から得られた知識と、経験によって培われた判 断による成果であろう。
最も少なかった鑑賞や評価を主体とする「まとめ」に関する事例は、筆者らの分別の設定基準が大 きく関与していることは否めないが、他の項目にも「まとめ」に関する内容がみられた。事例を項目 に分けることは困難であることを再認識しつつ、現場での指導計画の補助資料として考えた場合、や はり、項目に分別することの意義は大きいと思われる。とくに「まとめ」は、作者と美術作品を見る 者の心の構造と知覚を反映しており、鑑賞する際の中心的トピックスである「対象はなにか」「どこ にあるか」「なにをしているか」を ひとつずつ知覚できるような言葉がけも必要であろう。
「よかった」と回答された事例では、現場で取り組みやすい工夫が具体的にしめされ、指導者として の追試意欲をかきたてられるものが多くみられた。
調査結果のひとつひとつの事例について説明記述する方法を獲得していないため、結果の項目ごと
の事例の中から抽出したものについて考察を併記した。
導入の題材把握・題材の提示(子どもの骨、腕、指の発達など身体能力をみることは、とても大事 である。子どもの身体に合った題材をポンと出すとグンと伸びることが多い。)は、丁寧に観察し、
発達障害によくみられる「バランスをとるのが困難」というような身体能力に影響を及ぼす特徴を理 解した上で考慮した題材の提案が、意欲を引き出すことをしめしている。(1日でいいから、集中し て絵を描かせてみる。その経験を積み上げていく。)は、作品を仕上げた達成感が自信となり、自己 肯定感や意欲も高めることをしめしている。一人で完成させることが目標ではなく、手伝ってもらっ てでも完成させた実感を味わうことが重要である。
導入の題材把握・内容を把握・集団思考(「大きいサイズに変更してほしい」といった希望があれば、
できるだけ対応する。)は、「サイズを大きくしてほしい」という希望が、意欲の大きさや、心身が健 康である表れであると解釈して対応したい。(グループ制作の時は、とくに役割分担は、指導者が配 慮する。)は、発達段階によっては、自尊心が傷つけられても、どのように表現してよいのかわから ずに表面に出せない場合や、出すことによって二次的に傷つくことを恐れて出せない場合があること も含めて、子どもの自尊心を傷つけない配慮が必要である。
導入:発想・発想を広げるための働きかけ(図工が苦手な子には、リラックスできるような音楽を かけると、とにかくよかった。逆に、図工が好きな子には有害になった。)は、脳が視覚刺激と聴覚 刺激の情報を処理するやり方には多くの共通点、例えば、縞やリズムのような基本的な刺激の知覚や 処理がある。リラックスできる音楽は、ゆったりとした静かなリズムとメロディーを連想させるが、
単純で基本的な音楽であれば、その印象を知識と結びつけて推論し、基本的な形にすることができる
(ロバート, 1997)ことが大きく関与していると思われる。
導入の発想・個々のイメージを尊重(準備をしっかりした時よりも、思いつきでやった時の方が、
子どもが夢中になることが多い。)は、「指導者が準備せずに指導をする、放任した方がうまくいく」
という意外な回答表現ではあったが、準備をしっかりした場合、指導者の「描かせたい、作らせたい」
思いが強くなり過ぎて、それが子どもには心理的な負荷となり、意欲が減少するのではないかと考え た結果と推測する。「指導者の思いを子どもに押しつけ過ぎないようにする」という意味に捉えると、
指導者の気持ちに添えるであろう。(朝の時間に、お絵かき歌で描くと、友だちの絵を見て、きちん と描けるようになった。いい絵がわかってくると真似をする。)は、個別指導ではない利点として、
子どもの自尊心を守りながらくり返すことができることや、友だちの絵を真似たり、参考にして相対 的に学べるので、絵を描く力をつけるためのよい習慣といえる。
導入の発想・自分の考えを明確化(自分の思いを表現できない、作業がはかどらない子には、材料 を揃えて見せて、選択できるものがあればピタッとくる「自分でやってみる」。)は、イメージ能力が 弱いと言語領域の能力も弱いことが多いので、イメージや考えを言葉にする作業を手伝う必要もあ る。また、目の前にイメージできるものを並べると、無意識のイメージを可視化し具現化する手助け になる事例である。
導入の発想・情、意の面からの深化(子どもが没頭できる安心感もつことが大事である。真っ白の
画用紙は怖がるようなら、先にバックを塗らせておくと安心して描いた。)は、安心して取り組める という観点から、環境は基より、描画方法として「先に背景を塗る」一例がしめされている。背景が 枠という役目になり「枠をつける」ことで「無制限に放り出さなくてもすむ」ので、心が安定すると いうことであろう。これは、風景構成法《註12》にもみられる考え方である。
制作の構想・主題を形に表現/構図上の注意(「花を描きなさい」と指示しても、どこから描き始め ていいのかわからない子には「好きな花を描く」という指示に変えると描き始めることができた。)は、
「好き」という情緒性に訴えるとわかりやすいので、理解されやすい、受け入れやすい指示の典型例 といえる。(画用紙が大きいと集中が続かない場合は、四つ切を八つ切の方がいい。)は、大きい紙は、
小さい紙と比較すると制作時間が長くなるので、心身の状態をよく観察して、集中力に応じた大きさ を与えることも工夫の一つといえる。
制作:構想・主題を形に表現/用具、技術、技法をおぎなう(絵の具の容器も、パレットではなく、
小さい手の中に入る容器に、絵の具だけ入れて指で塗ることを好む。) は、美術には「パレットでな くてはならない」、「筆で塗らなければならない」というルールを重視するよりも、大切なことは「や る気を起こし、持続させること」、意欲を優先することが重要である。
制作の表現・表現上の助言/形、色のアドバイス)デザインで下絵を描けない子には、○△□☆ハー トなどの形を組み合わせた具体的な指示をすると形を作っていくことができた。)は、全体のデザイ ンを描くことは困難でも、知覚が容易な基本的な形から複雑な形をつくり、抽象的なレベルに進化さ せるわかりやすい描画指導といえる。(竹の子など細長いものを描く時は、細長い紙を与える。塗っ てはいけないところは、予めテープを貼って塞いでおく。) は、できあがりが明確でなければ、不安 であったり、イメージがつかめないので取り組めずにいる子には、わかりやすい指導であり、指先の 力の加減や微細運動ができない子への配慮の工夫として興味深い。
制作の表現・表現上の助言/技術、技法の説明、指導(はさみは、苦手な子は多いが、使うことは好き。
使えない子には、色々な形のクラフトパンチ、手動のシュレッダーを使う。スチロールカッターは、
糸鋸よりも簡単。フエキ糊よりも、スティック糊や水糊、両面テープを使う。) は、道具を使う技術 を身につけるよりも、ものを切る、ものとものをひっつけるという目的を達成することを優先するこ とが重要なので、苦手を補う工夫といえる。
制作の表現・表現上の助言/意欲、集中の喚起(ちょっとした声かけで集中が続く。簡単すぎると 飽きるので、ちょっとした抵抗感がないと達成感がちがう。ちょっと頑張ればできる題材を用意する。
土粘土は、感触がよいので意欲的に取り組める。)は、集中できる時間の長さ、指導者の声のかけ方、
手先の器用さなどの巧緻性や、これまでの生活経験を把握しておく。
制作の表現・情、意からの追求(どんな表現をしても、他の子と比較されない安心感があれば、子 どもの心を開けることができる。図工の時間に内面を出せること、出せる環境が大事。出し切らせて、
見守り「吐き出して、もう終わりにしよう」と終わらせる。)は、表出させた思いを受け止めてもら うことによって、十分に満たされたことが実感できれば、外に向けていた意識が少しずつ自分の内面 に向けられ、気持ちが落ち着いて自分の考えをまとめられるという造形の療法的な力を利用するもの
である。
まとめの鑑賞・鑑賞(図工室に図工関連の図書をおくと、子どもは絵をよく見ているので、鑑賞に 役立つ。対話型の鑑賞は、頭をフルに使う。説明型ではなく、頭を悩ませることをしないと記憶しな い。聞く、話す、聞きたくなる、話したくなる、話すのが苦手な子は書くスキルを育てて、表出する チャンスを与える。)は、知的能力や理解力の特徴を把握して、その能力を生かすことや、伸ばすこ とを考えて試行してみることが必要である。とくに鑑賞には、知覚の心理的側面が反映されるので、
学力が低い場合でも「この絵は好き、嫌い」といった評価性から入ることは抵抗が少なく、展開しや すい言葉がけである。
「よくなかった」と回答された事例をみると、すでに事例の中に問題解決の手がかりが示されてい ることに気付く。指導をしながら「よくなかった」と評価した時点で、「では、どのように指導すれ ばよいか」と、評価と指導を巧みに進行させている様子がみてとれる。これは、指導者の経験による 直観的判断や美的感性と、造形教育に携わる者の価値基準の幅の広い療法的な資質によるところが大 きいと考える。
今後は、「美術の授業の構成」の観点から、それぞれの項目における有効な教材や指導方法の展開 について考察し、まとめていくという作業をすすめ、「タイプ不明」と他のタイプとの比較などを検 討することを課題としたい。
註
1) 各都道府県・指定都市に設置する発達障害支援センターにおいて、発達障害児(者)またはその家族等に対 して、相談支援、発達支援、就労支援及び情報提供等を行うことを事業目的としている(厚生労働省)。
2) 様々な子どもの心の問題、児童虐待や発達障害に対応するため、都道府県における拠点病院を中核とし、地 域の医療機関並びに児童相談所、保健所、市町村保健センター、要保護児童対策地域協議会、発達障害者支援 センター、児童福祉施設及び教育機関等と連携した支援体制の構築を図ることを事業目的としている(厚生労 働省)。
3) 発達障害・重症心身障害児者及びその家族が地域で安心して暮らしていけるよう、支援手法の開発、関係す る分野との協働による切れ目のない支援等が可能となる体制を整備し、地域生活支援の向上を図ることを目的 としている(厚生労働省)。
4) 保育所等の子どもやその親が集まる施設・場に巡回支援を実施し、障害が「気になる」段階から支援を行う ための体制の整備を図り、もって発達障害児の福祉の向上を図ることを目的としている(厚生労働省)。
5) 発達障害者支援者実地研修事業をさす。発達障害者に対する支援を適切に行うためには、発達障害に関する 専門的知識を有する人材を確保するように努めるとともに、発達障害に対する理解を深め、及び専門性を高め るために研修等必要な措置を講じることが不可欠ということから、国が指定した施設において、発達障害児(者)
への専門的な支援を行う発達障害者支援センター職員等を対象とした実地研修を実施し、地域において指導的 な役割を担うことができる専門的な人材育成を行う施設に対して所要の助成を行い、もって、発達障害者の自 立及び社会参加に資することを目的としている(厚生労働省)。
6) 発達障害に関する最新かつ信頼できる情報を収集・分析し、発達障害児(者)またはその家族、全国の発達 障害者支援機関及び一般国民に対して広く普及啓発活動を行うことを目的として、平成 20 年3月に厚生労働省 内に発達障害情報センターが開設された。平成 20 年 10 月に国立障害者リハビリテーションセンターに移管さ れた(厚生労働省)。
7) 平成 19 年 12 月 18 日の国連総会において、カタール王国王妃の提案により、毎年4月2日を「世界自閉症
啓発デー」とすることが決議され、全世界の人々に自閉症を理解してもらう取り組みが行われている。わが国 でも、世界自閉症啓発デー・日本実行委員会が組織され、自閉症をはじめとする発達障害について、広く啓発 する活動を行っている。
8) ハローワークにおいて、発達障害等の要因によりコミュニケーション能力に困難を抱えている求職者につい て、その希望や特性に応じて、専門支援機関である地域障害者職業センターや発達障害者支援センター等に誘 導するとともに、障害者向けの専門支援を希望しない者については、きめ細やかな個別相談、支援を実施して いる(厚生労働省)。
9) 発達障害者支援関係者等を対象として、全国 10 ブロックにおいて就労支援ノウハウの付与のための講習会 及び体験交流会を実施している(厚生労働省)。
10) 発達障害者・難治性疾患患者を、ハローワークの職業紹介により常用労働者として雇い入れ、雇用管理に関 する事項を把握・報告する事業主に対して助成を行っている(厚生労働省)。
11) 酒井臣吾元北海道教育大学教授が考案した酒井式描画指導法をさす。
12) 心理療法家である中井久夫教授によって考え出された、描画による自己表現活動である。1969 年に創案され、
1970 年に報告された芸術療法の一技法である(皆藤 , 1994)。
【付記】
本稿は、神戸女子大学特別研究助成費の助成を受けておこなわれた。
本研究の一部は、第13回日本教育カウンセリング学会研究発表大会にて口頭発表をおこなった。
引用文献
伊都紀美子「特別支援教育における造形教育の教材と指導方法」神戸女子大学文学部紀要 , Vol.43, 2010.
伊都紀美子「特別支援教育における造形教育の教材と指導方法Ⅱ」神戸女子大学文学部紀要 , Vol.47, 2014.
遠藤裕乃「心理療法における治療者の陰性感情の克服と活用に関する研究」Journal of Japanese Clinical Psychology Vol. 15 No.4 p. 428-436, 1997
皆藤章「風景構成法」誠心書房 , 1994.
金井壽宏「臨界事象法」経営学大辞典、中央経済社 , p. 361, 1988.
東山明「美術教育と人間形成―理念と実践」創元社 , p. 137, 1986.
文部科学省初等教育局特別支援教育課「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要 とする児童生徒に関する調査結果について」2012.
ロバート・L・ソルソ , 鈴木光太郎・小林哲生訳「脳は絵をどのように理解するか」新曜社 , 1977
Wilson, C. L.(1959):The depth interview as a research tool. In R. M. Hill(Ed.), Marketing concepts in changing times. Winter conference proceedings of the American Marketing Association Series No. 10, 31-38.
謝 辞
本調査にご協力くださいました小学校、中学校、特別支援学校、絵画教室、軽度発達障害の会、美 術館、大学、教育委員会等、多くの関係者の皆様に心より感謝を申し上げます。
また、本研究調査と論文作成にあたりご指導くださいました東山直美先生(元神戸親和女子大学)
に厚く御礼申し上げます。