• 検索結果がありません。

宮 下 輝 雄

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "宮 下 輝 雄"

Copied!
20
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

131

特集 共 生社会 の法 と政 治〉

ア ン ソ ニ ー ・ギ デ ン ズ の 政 治 理 論:

第 三 の 道 」

一 共 生社 会 の政 治 的指 針 を求 め て

宮 下 輝 雄

目 次

1.は じ め に

2.新 自 由 主 義 と古 典 的 社 会 民 主 主 義 3.グ ロ ー バ リ ・ ビ ー シ ョ ン

4.新 しい 個 人 主 義

5.機 会 の 平 等 と結 果 の 不 平 等 6.民 主 主 義 の 民 主 化

7.ポ ジ テ ィ ブ ・ウ ェ ル フ ェ ア 社 会 8.ま と め

1.は じ め に

ア ン ソニ ー ・ギ デ ンズ(AnthonyGiddens、1938‑)は 、 わが 国 で も よ く知 られ て い る よ うに、 現在 、 ロ ン ドン大 学 のEconomicandPoliticsの 学 長 と し て 、 ま た 現 代 社 会 学 会 の 重 鎮 と して 、 そ の執 筆 活 動 は多 岐 に わ た り、 わ が 国 で

も多 くの翻 訳 書 が あ る。 彼 の研 究 対 象 は広 く、 当 然 、 政 治 の世 界 に も及 ん で お り、1997年 に、 そ れ まで 長 い こ と野 党 に あ った 、 労 働 党 が 大 勝 し、 第 一 次 ブ レ ア政 権 が 誕 生 した と き、 理 論 的 ブ レー ン と して 活 躍 した こ とは よ く知 られ て い る。 政 治 学 の 分 野 で最 初 に大 きな影 響 を与 えた著 書 は 『第 三 の道 』(丁 加Third

i)

Way,7〕 舵Rθ%θ ωα10fSocial1)emocracy,1998)で あ る。 も っ と も そ の 著 書 に 対 す る批 判 が 、 と りわ け イ ギ リ ス 国 内 か ら多 く発 せ ら れ た た め 、 そ れ ら の 批 判 に 答 え る と い う必 要 性 も あ っ た ろ うが 、 よ り0層 深 く 自 己 の 主 張 を 展 開 す る

(2)

2) た め に、2000年 に 『第 三 の道 とそ の批 判 』(7'heThirdWayandZtSCYZtZCS)

を刊 行 し、 著 者 の 主 張 が 強 固 で あ る こ とを示 して い る。 そ の 著 書 の 表 紙 に は ブ レア に よ る、̀Animportantcontributiontothedebate'(議 論 へ の 重 要 な貢 献)な る̲̲̲..文が 添 え られ て い る。

と こ ろで 本 論 の 目的 な い し、 私 の 関 心 は、 多 様 に解 釈 され て い る ア ン ソニ ー ・ ギ デ ンズ の政 治 理 論 の 本 質 を見 出 し、 そ れ を 純 理 論 的 に整 理 す る こ とにで もな

く、 また 単 に彼 の 理 論 を網 羅 的 に羅 列 す る こ とに で もな く、 この 現 代 的 閉 塞 状 況 を打 開 す る に あ た って 、 有 益 と思 われ る政 治 理 論 を彼 の 中 か ら導 き、 そ れ ら

の 主 要 な もの を、 内 容 を 損 な う こ とな く啓 蒙 的 に紹 介 す る こ とに あ る。 彼 の 政 治 理 論 が 、 社 会 主 義 の挫 折 と新 自由 主 義 が 生 み 出 す 矛 盾 の 中 か ら生 まれ た 経 緯

か ら して 、 この よ うな試 み に反 対 す る も の は あ る ま い 。

行 き着 く先 が どの よ うな 内容 の もの で あ るか も知 らせ ず 、 単 に 「聖 域 な き構 造 改 革 」 を主 張 す る指 導 者 、 また それ を無 批 判 に受 け入 れ る よ うな、 国 民 で あ っ て は な らな い 。21世 紀 の 現 在 は、 選 択 肢 に大 き な誤 りが あ っ て は な らな い ほ ど に、 相 対 的 に狭 め られ た環 境 の 中 で わ れ わ れ は生 きて い る。 指 導 者 や 市 民 の意 識 改 革 こ そが 望 まれ て い る状 況 に あ る。

日本 の 近 代 化 過 程 は、 欧 米 と比 較 して 極 め て特 異 で あ っ た とい え よ う。 儒 教 に裏 打 ち され た 身 分 社 会 の幕 藩 体 制 、 主 と して 政 治 家 や 官 僚 に コ ン トロ ー ル さ れ た 明 治 初 期 か ら第 二 次 世 界 大 戦 後 の 時 代 、 そ して 戦 後 に お い て も持 続 され た それ ら旧体 制 の残 存 物 の 動 向 は、 い ず れ の 時 代 も上 か ら下 へ の 、 い わ ゆ る トッ プ ダ ウ ン的 政 治 体 制 、 社 会 構 造 で あ っ た 。 何 百 年 も続 い た そ う した形 態 は、 日 本 人 の 精 神 構 造 の 骨 格 形 成 に決 定 的 影 響 を 与 えた に相 違 あ る ま い。 た とえ技 術

や 物 作 りは、 模 倣 や 改 良 に よ っ て 、 世 界 に通 用 す る よ うに な っ た と して も、 世 界 に誇 れ る文 化 、 世 界 に輸 出 で き る文 化 は育 って い る とは い え な い 。 現 に 「日 本 は信 用 で き な い 」 とさ え 、 近 隣 諸 国 か ら公 言 さ れ て い る。 真 剣 に な って 自 ら に 問 うべ き課 題 で あ る。 国 内 的 国 際 的 に信 用 され な い 国 家 か らは 、 歴 史 に 耐 え う る よ うな文 化 や 民 主 主 義 は形 成 され な い。 や は り権 威 主 義 、 官 僚 主 義 か らは、

自立 し、 独 立 した個 人 と連 帯 は 育 た な い 。 と こ ろが 権 威 主 義 や 現 代 社 会 と し て の 官 僚 制 」 は 、 日本 の 隅 々 で 生 き なが らえ て い る。 私 に は、 これ らが 日本 政 治 や 日本 社 会 の諸 悪 の根 源 で あ る よ うに 思 わ れ て な ら な い。 主 体 性 の あ る人 間

(3)

ア ン ソ ニ ー ・ギ デ ン ズ の 政 治 理 論:「 第 三 の 道 」 133

を育 て な い か らだ 。 そ の よ う に い う こ とは、 日本 に 民 主 主 義 が 全 く存 在 しな い とい う こ とで は な い 。 そ こで 必 要 に な っ て くる主 要 な 条 件 は 、 ア ン ソニ ー ・ギ デ ンズ の い う 「民 主 主 義 の 民 主 化 」 とい う こ とで は な い か と思 う次 第 で あ る。

そ の こ とにつ い て は後 で 論 じ る。

2.新 自 由 主 義 と古 典 的 社 会 民 主 主 義

イ ギ リス 労 働 党 は、 サ ッチ ャ.̲̲̲、メ ー ジ ャー の保 守 党 政 権 が 推 し進 め る新 自 由主 義 の も とで 、 野 党 に あ り何 とか して 政 権 を奪 回 し よ う と して 党 内 論 争 を展 開 して い た 。 た ど り着 い た 結 論 は、 国有 化 に 重 点 を置 い て きた これ まで の党 綱 領 を改 正 し、 制 限 つ き な が ら経 済 活 動 に お け る 自 由競 争 と市 場 原 理 を導 入 す る

こ とで あ った 。 い わ ゆ る 「第 三 の 道 」 で る。 綱領 改 正 の 結 果 、1997年 の総 選 挙 に お い て 、 労 働 党 は圧 勝 した 。 そ れ 以 来2001年 、2005年 の三 回 の総 選 挙 に お い て 勝 利 して い る。

サ ッチ ャー二政 権 が 推 し進 め た 、 い わ ゆ る 「小 さ な政 府 」 に よ っ て も た ら され た 、 民 営 化 政 策 の 負 の 側 面 、 つ ま り能 力 主 義 や 福 祉 切 捨 て に よ っ て 顕 著 に現 れ た 、 失 業 や 格 差 社 会 に対 す る国 民 の 不 満 が 労働 党 の 改 正 され た 政 策 に賛 同 した の で る。

も ち ろん イ ラ ク戦 争 へ の 不 確 か な情 報 に よ る参 戦 に よ っ て ブ レ ア政 権 の 人 気 は下 降 して い る。 それ で も 「第 三 の 道 」 の 掲 げ る政 治 指 針 は変 え られ な い もの

と私 は信 じて い る。

長 い こ と経 済 の 王道 とさ え信 じ られ て きた 、 ア ダ ム ・ス ミス(AdamSmith、

1723‑90)の 『国 富 論 』(・4π.lnquiryinto1勿matureandCausesofthe

Wealth(ゾ 八耽 競 ∫,1776)の もた ら した結 果 は、 そ の 自由放 任Cレ ッセ フ ェ ー ル)に も とつ く弱 肉 強 食 的 本 質 の帰 結 と して、 戦 争 、 恐 慌 へ と突 き進 ん で い っ た 。1914年 に は 第 一 次 世 界 大 戦 、1929年 に は世 界 的恐 慌 が 引 き起 こ され た 。 そ の 間 隙 を ぬ っ て 社 会 主 義 の 思想 が 出 現 し、1848年 に は マ ル クス とエ ンゲ ル ス に よ る 『共 産 党 宣 言 』(KarlMarx&FriedrichEngeels,漁%舵s'der

κo吻 〃z%痂∫≠ε6加η 勿7≠8∫,)が 出版 され 、1917年 に は、 レ ー ニ ンの 指 導 に よ る

『国 家 と革 命 』 に よっ て ロ シ ア革 命 が 引 き起 こ され た。 レー ニ ン は労 働 者 の 解 放

(4)

を説 い た の で あ る。 ソ連 の 崩 壊 後 も社 会 主 義 の 思 想 は全 面 的 に は 、 そ の 意 義 を 失 っ て は い な い 。 現 に、 ロ シ アや 中 国 は、 社 会 主 義 を 放 棄 した とは 明 言 して い

な い。

他 方 、 不 況 と失 業 に悩 む ア メ リカ は、 ニ ュ ー デ ィー ル 政 策 に よ り、 これ らの 難 題 を乗 り越 え よ う と した 。 この 政 策 の 理 論 的役 割 を果 た した の は、 既 に1926 年 に 『自 由 主 義 の 終 焉 』(TheEnd(ゾ 五α∫∬6飲Eα 舵)を 現 して い た 、 ケ イ ン

ズ(JohnMaynardKeynes、1883‑1946)の 雇 用 、利 子及 び貨 幣 の一 般 論 』 (TheGeneralTheory(ゾE吻 ρ10ッ吻θ%あ肋 ≠θ%234andIUIoney,1936)で あ っ た。 この著 書 の 主 要 な 主 張 は、 低 金 利 、 減 税 、 公 共 投 資 に よ り経 済 に誘 い水 を 注 ぐ こ とに よ っ て 有 効 需 要 を高 め完 全 雇 用 を達 成 す る こ とに あ っ た 。 有 名 な政 策 の 一 つ はTVAで あ る。

こ の ケ イ ン ズ の 政 治 が 経 済 や 社 会 に介 入 す る とい う政 策 は、 社 会 主 義 や フ ァ シ ズ ム に対 抗 す る とい う要 請 も あ っ て 、 っ い に は 「ゆ りか ごか ら墓 場 まで 」 と い わ れ る よ うに な っ た 国 家 指 導 型 の福 祉 国 家 に 向 か っ て い った 。 結 果 的 に は、

ソ連 を 中 心 とす る社 会 主 義 国 家 とア メ リカ を 中 心 とす る資 本 主 義 の 両 体 制 は、

思 想 も体 制 も質 的 に 異 な る に もか か わ らず 、 皮 肉 な こ とに、 国 家 中心 的 政 策 を 志 向 す る とい う こ とで は 、 類 似 す る性 質 を もつ もの に な っ て い っ た。

冷 戦 中 の 東 西 両 陣 営 の核 開 発 競 争 の結 果 は、 ま さ に 人 類 滅 亡 の 危 機 に まで 到 達 して し ま っ た 。 心 あ る両 陣 営 の 指 導 者 達 の 並 々 な らぬ 努 力 の結 果 、 また 世 界 世 論 の 反 対 に よ っ て 、 よ うや くに して核 削 減 へ と こ ぎつ け る まで に い た る こ と が で きた 。

そ ん な 中 に あ って 、1989年 に東 西 冷 戦 の象 徴 的存 在 で もあ っ た 、 ベ ル リ ンの 壁 が 崩 壊 し、 つ い で1991年 に ソ連 は解 体 した。 そ の こ とは ア メ リカ の体 制 が 正 し く、 結 果 と して 、 ア メ リカ が 勝 利 した か の よ うに考 え る の は 、 明 らか な誤 認 で あ る。 ア メ リカ とて ま た世 界 中 の 国 々 が 今 日な お進 む べ き指 針 の探 求 に励 ん で い るの で あ る。

東 西 冷 戦 終 結 後 、 世 界 は激 動 した が 福 祉 国 家 へ の要 請 の 度 合 い は ま す ます 強 ま り、 ア メ リカ に お い て も、 財 政 の 赤 字 と貿 易 収 支 の 赤 字 の双 子 の 赤 字 に 直 面 し、 政 治 や 経 済 に 対 す る批 判 や 不 満 が 高 ま っ た 。 この こ とに 対 す る批 判 は か な

り以 前 か ら存 在 し、 ハ イ エ ク(FriedrichAugustvonHayek,1899‑1992)は

(5)

ア ン ソ ニ ー ・ギ デ ン ズ の 政 治 理 論:「 第 三 の 道 」 135

1944年 に 『隷 属 へ の 道 』(TheRoadtoSerfdom)を 現 し、 全 体 主 義 と共 産 主 義 を 批 判 し た 。 ま た フ リー ドマ ン(Milton&RoaseFriedman,1912‑2006)

選 択 の 自 由 』(FreetoChoose,1980)は 、 政 治 が 経 済 や 社 会 に介 入 す る の を 批 判 した 。 ハ イ エ ク は1976年 版 の 序 言 に お い て 次 の よ う に 述 べ て い る 。

「き わ め て 一 般 的 に 思 想 と制 度 に つ い て の 現 代 の 傾 向 を さ ら に研 究 す る と、 私 の 抱 い て い た 恐 れ と憂 い は 、 ど ち らか と い え ば 増 して い る の で あ る。 社 会 主 義 的 思 考 の 影 響 と、 全 体 主 義 的 権 力 を 支 持 す る 人 々 の 善 意 へ の 素 朴 な 信 頼 感 、 こ

3)

の 両 者 は私 が 本 書 を著 して 以 来 い ち じ る し く増 大 して い る。」 と。 この よ うに全 体 主 義 的権 威 へ の 限 りな い疑 念 を表 明 して い る 。

また ブ リIwrドマ ン は、1980年 の 「日本 の 読 者 へ 」 に お い て 次 の よ うに述 べ て い る。

政 府 が 果 た す役 割 の 面 にお い て 、 日本 とア メ リ カ合 衆 国 との 間 に お い て は、

(一 約 一)重 要 な相 違 が存 在 して い るの に もか か わ らず 、 国 民 の 経 済 活 動 を管 理 し国 民 の所 得 を再 分 配 す るた め の 政 府 の 役 割 を い っ そ う増 大 させ て い く とい う、 ア メ リカ合 衆 国 が これ まで た どっ て き た の と同様 な道 を 、 日本 もす で に か な りの 期 間 に わ た っ て た どっ て きた 。 も ち ろ ん そ う は い っ て もア メ リカ 合 衆 国 よ り日本 の ほ うが 政 府 支 出 の た め、 国 民 所 得 の 少 な い 部 分 しか 吸 い上 げ て い な い とい う事 実 に よ っ て 証 明 され て い る よ うに 、 日本 は す で に こ の道 を そ れ ほ ど 遠 くまで す で に き て し まっ た とい うわ けで は な い 。 しか し、 日本 は い ま や 明 ら

4)

か に ア メ リカ 合 衆 国 に追 い つ き は じ め て お り、 同様 な 困 難 に 陥 っ て きて い る。」

この よ うな 状 況 が よか れ と思 っ た福 祉 国 家 か ら生 じ よ うが 、 社 会 主 義 体 制 か ら生 じ よ うが 、 長 期 間継 続 す る間 に、 国 民 の 側 に お い て は 、 自立 心 の低 下 、 モ ラー ル の 低 下 、 犯 罪 の 多 発 、 責 任 感 の 低 下 、 貧 困 の 増 大 、 政 治 意 識 の低 下 、 家 庭 内暴 力 や 不 登 校 な どの混 乱 した 社 会 状 態 を生 む に い た るで あ ろ う。 他 方 、 政 治 家 や 官 僚 あ る い は研 究 者 や 評 論 家 に い た る まで 腐 敗 と怠 惰 と傲 慢 に裏 打 ち さ れ た 厚 顔 無 恥 な活 動 へ と変 遷 す る。 これ ら両 者 の 関 係 は悪 循 環 して 、 果 て しな き悲 惨 な結 末 へ と国 家 や社 会 を既 め て い く。 これ はR.ミ ヘ ル ス が主 張 す る 「

5)

頭 制 の鉄 則 」 を こ え る もの とな ろ う。

現 代 社 会 を よ く観 察 す る とき この こ とは 明 瞭 で あ る。 マ ス コ ミの理 念 や 哲 学 な き報 道 内 容 も 目 に余 る もの が あ る。 ア メ リカ の 軍 需 力 と戦 争 に よ る問 題 解 決

(6)

策 の 誤 り とテ ロ行 為 を聖 戦 とす る 自爆 テ ロ な どは 、 決 して長 い 目で 見 て 問題 の 解 決 策 に は な らな い 。 もっ とそ の原 因 に ま で さ か の ぼ っ て 対 策 を 練 る以 外 に根 本 的 な 問 題 解 決 策 は見 出 せ な い で あ ろ う。 取 り返 しが つ か な くな る まで 事 態 を 放 って お くほ ど人 間 は お ろ か で あ る とは思 い た くな い 。

こ こで 議 論 を よ りわ か りや す く進 め るた め に 、 ア ン ソ ニ ー ・ギ デ ン ズ に した が い な が ら古 典 的 社 会 民 主 主 義 とサ チ ャ ー リズ ム ・新 自由 主 義 の 特 徴 の相 違 点

s>

お よ び 類 似 点 を一 覧 表 に して み る。

古典 的社会 民主主 義(旧 左派 〉

社 会 生活 や経 済生 活へ の広範 な国家 の関

社 会 よ りも国家 が優 位 集 散 主義(collectivism)

ケイ ンズ主義 的需 要管理 と協 調組合 主義 (corporatism}

市場 の役 割 は限定 的、 す なわ ち混 合経済 あ るい は社 会 的経 済

完全雇 用

強 固 な平 等主 義

完 ぺ きな福祉 国家 、 すな わち 「ゆ りか ご か ら墓場 まで」 市民 を保 護

単線的な近代化 環境保全への無関心 国際主義

二極対立の世界 を前提 に据 える

サ ッ チ ャ リズ ム ・新 自 由 主 義(新 右 派) で き るだ け小 さな政 府

自立的 な市民社 会

伝統 的 な ナシ ョナ リズ ム

道徳 的権威 主義 と強 力 な経 済 的個 人 主義 市場原理主義

他 の市場 並 み に労働 市場 の需 給 をバ ラ ン ス させ る

不平 等 の容認

セ ー フテ ィーネ ッ ト(安 全 網)と して の 福祉 国家

単線的な近代化 環境保全への無関心

国際秩序 についての現実主義的理解 二極対立の世界 を前提 に据 える

この 比 較 は決 して 厳 密 な 比 較 とは い え な い が 、 それ で も両 体 制 の 特 徴 の判 別 に は 有 効 で あ る。

まず よ くい わ れ る 「小 さ な政 府 」 にっ て い え ば、 古 典 的 社 会 主 義 が 社 会 や 経 済 へ の 国 家 の 介 入 を認 め て い る 「大 きな政 府 」 で あ るの に対 して 、 新 自由 主 義 で は 、 い う まで も な く 「小 さ な政 府 」 で あ る。 また 平 等 の面 で は 、 古 典 的社 会 主 義 が 強 固 な 平 等 」 を主 張 して い るの に対 して 、 新 自 由主 義 で は、 「不 平 等 」

の容 認 で あ る。 福 祉 国 家 にっ い て は、 古 典 的社 会 主 義 が 完 壁 な 「福 祉 国 家 」 を 目指 して い る の に対 して 、 新 自 由主 義 で は 「セ ー フ テ ィ ー ネ ッ ト と して の福 祉

(7)

ア ン ソ ニ ー ・ギ デ ン ズ の 政 治 理 論:「 第 三 の 道 」 137

国家 」 に と どま っ て い る。 さ らに両 体 制 と も、 「環 境 保 全 」 に対 して は無 関 心 で あ る し、 両 体 制 と も 「二 極 対 立 」 の世 界 を想 定 して い る。 こ こで 注 意 して も ら い た い の は、 ケ イ ンズ 流 の 国 家 体 制 も先 ほ ど指 摘 した よ う に、 国 家 の 社 会 へ の 介 入 とい う点 で は 、 ほ とん ど古 典 的 社 会 主 義 体 制 に類 似 して い た とい う こ とで あ る。 この 点 に関 して 、 ア ン ソニ ー ・ギ デ ンズ は次 の よ う に述 べ て い る。

ケ イ ンズ は、 社 会 主 義 者 で は な か っ たが 、 マ ル ク スや 社 会 主 義 の主 要 な見 解 の い くつ か に共 鳴 して い た 。 マ ル クス と同様 に 、 ケ イ ンズ も また 、 資 本 主 義 が 非 合 理 な こ とを認 め た が 、 こ う した非 合 理 を制 御 す る こ とに よ り、 資 本 主 義 を 救 う こ とが で き る と確 信 して い た 。 マ ル クス もケ イ ン ズ も、 資 本 主 義 経 済 の 生 産 性(技 術)を 所 与 とみ な す傾 きが あ っ た 。 ケ イ ンズ 理 論 が 経 済 の供 給 サ イ ド を軽 視 しが ち だ っ た とい う点 は、 社 会 民主 主 義 者 の 通 念 と うま く符 号 して い る。

市 場 経 済 を安 定 化 させ るた め に、 いか に して 需 要 を管 理 す れ ば よ い の か 、 どの

7)

よ うな混 合 経 済 体 制 を構 築 す れ ば よい の か を ケ イ ンズ は 示 した 。」

と こ ろで ア ン ソニ ー ・ギ デ ンズ に よれ ば 、 新 自 由主 義 が 含 む 二 つ の 主 柱 で あ る、 「市 場 原 理 主 義 」 と 「保 守 主 義 」 は 内部 矛 盾 を来 た して い る と して 、 次 の よ う に述 べ て い る。

社 会 的変 化 と経 済 的 変 化 に 対 して 、 保 守 主 義 は 、 常 に慎 重 で あ る と同 時 に 、 プ ラ グマ テ ィ ック に 対 処 し よ う とす る。 フ ラ ンス 革 命 の救 世 主 的 主 張 を 前 に し て 、 バ ー クが とっ た 態 度 が ま さ に それ で る。 伝 統 を守 る こ と こそ が 、保 守 主 義 の 保 守 主 義 た る ゆ え ん な の で あ る。 伝 統 は 、 過 去 の叡 智 の 蓄 積 を 包 含 して い る が 、 ゆ え に未 来 へ の 指 針 とな りう る。

他 方 、 自由 主 義 を万 能 視 す る思 想 は、(個 人 主 義 と)市 場 の 力 を 自由 に解 き放 つ こ とに よ っ て か な え られ る、 は て しな き経 済 成 長 に 、 そ の 希 望 を託 す る とい

8)

う、 ま っ た く(両 者 は)異 な っ た 見 方 をす る。」 「新 自 由主 義 は 、 自 由 な 市 場 の 力 を 、 伝 統 的 な 制 度 、 な か ん ず く家 族 と国 家 の 擁 護 と結 び つ け る。 経 済 に 関 し て は個 人 の イニ シ ア チ ブを発 揮 させ るべ きだが 、 他 の社 会 的 活 動 領 域 で は、 個 々 入 は 義 務 と責 任 を果 た さな け れ ば な らな い。 社 会 的 秩 序 を 維 持 す る た め に は 、 伝 統 的 国 家 と同 時 に 、 伝 統 的家 族 を擁 護 しな けれ ば な らな い 。 単 身 家 族 、 同性 愛 者 の 同居 等 伝 統 的 で な い 家 族 は 、 社 会 を頽 廃 させ る元 凶 で あ る。 国 の 統 合 を 揺 るが す も の は何 で あ れ 同様 の 非 難 を浴 び せ られ る。 新 自由 主 義 の 立 場 に 立 っ

(8)

著述 家 や政 治家 の言説 に は、 外国 人嫌 い の傾 向が はっ き り見 て取 れ る。多 文化

9)

主 義 を 最 も厳 し く非 難 す る の も彼 らな の で あ る。」

付 け加 え るな ら ば ア メ リカ で 主 張 され て い る新 自 由主 義 と新 保 守 主 義 は ほ と ん ど同 じ意 味 に解 され て い る。 そ れ に伝 統 主 義 は 、 歴 史 的 に見 て権 威 主 義 につ な が り、 そ の権 威 主 義 が 民 主 主 義 の も とで 培 わ れ た もの で な い な らぼ 、 それ は

同意 を獲 得 し う る能 力 」 とい う正 統 性 の あ る権 威 で は な くな る。 そ うで な い な らば有 無 を言 わ せ な い 上 か らの 押 し付 け 的権 威 とな りや す い 。 そ こで は個 人 の 自立 も、 主 体 性 も真 の連 帯 さ え も育 た な い 。 と ころ が 、 わ が 国 を覆 っ て い る閉 塞 感 の主 要 な原 因 も この よ うな 背 景 を前 提 に して い る よ うに思 わ れ て な らな い。

他 方 、 ア ン ソニ ー ・ギ デ ンズ に よれ ば 、 社 会 民 主 主 義 は1970年 代 後 半 の 挫 折 を経 験 す る まで は、 どの 国 で も、 社 会 民 主 主 義 者 は 、 単 線 的 な近 代 化 モ デ ル で

社 会 主 義 の へ の 道 」 を追 及 して きた 、 と して 次 の よ うに述 べ て い る。

イ ギ リス に お け る、 福 祉 国 家 の生 成 に 関 す る社 会 学 的 研 究 の 第 一 人者 で あ る T・H・ マ ー シ ャル は、 単線 的 な近 代 化 モ デ ル に対 し、 説 得 力 に富 む解 釈 を与 え て い る。 市 民 権 の長 期 にわ た る進 化 の 過 程 の 到 達 点 と して 、 福 祉 国 家 を位 置 付

け る こ とが で き る。 戦 後 間 も な い 頃 の 論 客 ら し く、 マ ー シ ャル は、 経 済 発 展 と 市 民 権 の 尊 重 との 調 和 を 図 ろ う とす る結 果 、 福 祉 制 度 は ま す ます 拡 充 の0途 た ど るで あ ろ う と予 測 した 。

総 じて 言 え ぼ、 旧式 の 社 会 民 主 主 義 は、 環 境 保 全 派 を 敵 視 しな い ま で も、 友 好 的 関 係 を築 く こ とが で きな か っ た。 協 調 組 合 主 義 、 完 全 雇 用 、 福 祉 国 家 等 を 重 視 す れ ぼ す るほ ど、 環 境 問 題 に真 っ 正 面 か ら取 り組 む こ とが 難 し くな るか ら で あ る。 しか も、 旧式 の 社 会 民 主 主 義 は、 そ の実 践 に お いて グ ロ ー バ ル な視 点

を欠 い て い た 。 社 会 民 主 主 義 は、 国 際 主 義 を志 向 して い た が 、 そ の 意 味 す る と こ ろ は、 グ ロー バ ル な 問題 に真 正 面 か ら取 り組 む とい う構 え で は な く、 志 を 同

10)

じ くす る政 党 との 国 境 を越 えて の 連 帯 で しか な か っ た 。」

以 上 の よ う に、 ア ン ソニ ー ・ギ デ ンズ は 新 自由 主 義 の 内部 に並 存 す る 内部 的 な 思想 の 混 乱 を鋭 く解 明 し、 そ の 混 乱 の原 因 を 指摘 して い る。

(9)

ア ン ソ ニ ー ・ギ デ ン ズ の 政 治 理 論;「 第 三 の 道 」 139

3.グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン

今 日、 国家 レベ ル で あれ 、 国 内 の さ ま ざ まな 分 野 で グ ロー バ リゼ ー シ ョ ンは 、 無 意 識 の う ち に進 ん で い る こ とを疑 う もの は あ る ま い 。 そ の 主 要 な原 因 は科 学 技 術 、 と りわ けIT産 業 の 目覚 しい進 歩 に起 因 して い る とい え よ う。 イ ン ター ネ ッ

トは、 地 球 上 の これ まで 如 何 と も しが た い もの と思 わ れ て き た 、 距 離 と時 間 の デ ィ メ ン シ ョン を ほ とん ど無 き もの に して し ま っ た 。 コ ミュ ニ ケ ー シ ョン手 段 が 先 行 す れ ぼ 、 物 事 は 多 少 の 時 間 は か か っ て も成 就 す る。

他 方 に お い て 、 環 境 問題 もわ れ わ れ が 毎 日、 テ レ ビ で 見 て い る よ うに 、 台 風 や ハ リケ ー ン に乗 っ た 雲 や 風 雨 の 動 き は、 す こぶ る早 く世 界 中 を一 飲 み に す る か の よ うで あ る。 当 然 に 同 時 に酸 性 雨 や 二 酸 化 炭 素 、 窒 素 酸 化 物 な どは 国 境 を 越 えて 拡 散 す る こ とは 明 らか で あ る。 そ の意 味 で 、 今 日 に お い て 、 環 境 問 題 を 抜 き に した 産 業 も健 康 も教 育 も文 化 も考 え られ な い 。 そ れ らは環 境 倫 理 学 に収 敏 して い る。 この環 境 問題 に 新 自 由主 義 も古 典 的社 会 民 主 主 義 も熱 心 に取 り組

も う と しな か っ た。

ア ン ソニ ー ・ギ デ ン ズ に よれ ば 、 グ ロー バ リLl一 シ ョン に は、 次 の よ うな 三 つ の機 能 が あ る。

(1)グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ン は、 経 済 的 な 相 互 依 存 関 係 だ けで は な く、 日常 生 活 に お け る時 間 と空 間 を変 更 す る効 果 を も ち、 は るか 遠 くの 出来 事 の 影 響 が 直 接 的 に 、 間 髪 を入 れ ず に私 た ち に及 ん で くる。 そ の こ とは個 人 と して の私 た ち の 意 思 決 定 が グ ローバ ル な 意味 を持 つ もの で もあ る。 それ が た め に グ ロー バ リゼ ー シ ョン は、 往 年 の 国家 が 持 っ て い た さ ま ざ ま な力 を 削 が れ つ つ あ る とい う意 味 で 、国民 国 家 か らの離 脱 現 象 を促 して い る。(2)そ の反 面 、グ ロ ーバ リゼ ー シ ョ

ン は、 新 規 の 内需 を 喚起 す るだ け で は な く、 地 域 の 独 自性 を再 生 す る可 能 性 を も、 そ の う ち に秘 め て い る。 た と え ばイ ギ リス に お け る最 近 の ス コ ッ トラ ン ド 民 族 主 義 の 台 頭 を、 カ ナ ダ の ケ ベ ッ クや カ タ ロニ アで 進 行 中 の動 き と、 同種 の 構 造 変 革 へ の反 応 と理 解 す る こ ともで き る。(3)グ ローバ リゼ ー シ ョン は 、 横 へ の 広 が る可 能 性 を も秘 め て お り、 国 民 国 家 の 国境 を横 断 して 、 新 しい経 済 圏 、 文 化 圏 をつ く り出 す こ と も あ る。 た とえ ば 、 カ タ ロニ ア の 一 部 で もあ り、 ス ペ イ ン の一 部 で もあ るバ ル セ ロ ナ は、 フ ラ ンス 南 部 の経 済 圏 に含 まれ る。 こ の よ

(10)

うな グ ロ ーバ リゼ ー シ ョン の三 方 向 へ の 進 展 は 、 「世 界 中 の 国家 の 地 位 と権 力 に

lI)

影 響 を及 ぼ しつ つ あ る。」

した が っ て 、 統 治 す る政 府 は 、 現 に あ る国 家 の 統 治 機 構 と必 ず し も一 致 しな くな り、 も っ と多 彩 な もの とな り、 ガ バ メ ン ト(政 府)で は な く、 ガ バ ナ ン ス (統 治)の 方 が 、 行 政 や 規 制 の担 い 手 を表 す 言 葉 と して は、 よ り適 切 な もの に な るで あ ろ う。

4.新 し い 個 人 主 義

これ まで 個 人 主 義 は、 近 代 思 想 の な か で も要 の役 割 を 果 た して き た し、 現在 も そ うで あ ろ う。 こ こで は、 ア ン ソニ ー ・ギ デ ンズ が どの よ うな 意 味 で 、 また どの よ うな 必 要 性 に迫 られ て 新 しい個 人 主 義 」 な る用 語 を用 い て い るか を吟 味 して み た い 。 彼 は先 ず 、 この用 語 が グ ロ ー バ リゼ ー シ ョン に よ っ て 引 き起 こ

され た とい う。 っ ま り 「新 し い個 人 主 義 と は、 日常 生 活 か ら、 伝 統 と慣 習 を取 り除 い た も の に ほ か な らな い 。 言 い 換 え れ ば 、 新 しい個 人 主 義 は 、 市 場 に よっ て 育 まれ た 思 想 で は な く、 広 義 の グ ロ ー バ リゼ ー シ ョンが もた ら した 思 想 な の

で あ る。」 ア ン ソニ ー ・ギ デ ンズ が 言 わ ん とす る 「新 しい 個 人 主 義 」 は グ ロ ーバ ル 化 され た 社 会 、 つ ま り新 し い条 件 の も とで 生 き抜 け る個 人 を想 定 して い る よ

うに思 わ れ る。 だ か ら 「新 しい個 人 主 義 」 は、 新 自 由 主 義 の 立 場 に立 っ 経 済 理 論 が 描 く、 利 己 的個 人 で もな い。 ア ン ソニ ー ・ギ デ ンズ は 、 「新 しい 個 人 主 義 」

を説 明 す る に あ っ た て 、 社 会 学 者 の ウル リッ ヒ ・ベ ッ ク の次 の よ うな 言 葉 を 引 用 して 説、明 して い る。

そ れ は 「サ ッチ ャ リズ ム で もな けれ ば、 市 場 個 人 主 義 で もな い し、 また(全 体 を個 人 に切 り刻 む とい う意 味 で の)原 子 化 で もな い 。 む し ろ そ れ は 『制 度 化

され た 個 人 主 義 』 と名 づ け る の が ふ さわ しい。 た とえ ば 、 福 祉 国 家 に お け る権 利 と資 格 の 多 くは、 家 族 で は な く個 人 を対 象 と して い る。 そ う した 権 利 や 資 格 の ほ とん どが 、 雇 用 の 存 在 を前 提 と して い る。 そ して 雇 用 は 、 教 育 を前 提 と し て い る。 雇 用 も教 育 も、 人 の 流 動 性 を前 提 と して 成 り立 っ 。 こ う した条 件 が す べ て整 え られ て 初 め て 、 人 々 は 自 ら を個 人 と して 自覚 す る、 す な わ ち個 人 と し て 自 らの将 来 を 計 画 し、 自 らを個 人 と して 受 け止 め 、 そ して 自 ら を個 人 とい て

(11)

ア ン ソ ニ ー ・ギ デ ン ズ の 政 治 理 論:「 第 三 の 道 」141

l3)

改 造 す る の で あ る。」

さ らに 「制 度 化 され た 個 人 主 義 」 は社 会 的 連 帯 を侵 食 す る ど こ ろか 、 社 会 的 連 帯 を 生 み 出 す 新 た な 手 立 て を 見 い だ す こ とを、 私 た ち に促 す とみ る。

5.機 会 の 平 等 と結 果 の 不 平 等

一 般 的 に言 っ て、 新 自 由 主 義 は 「機 会 の平 等 」 を重 視 し、 古 典 的 社 会 民 主 主 義 は 「結 果 の 平 等 」 を 重 視 す る。 この 相 違 は 、 そ れ ぞ れ の 主 張 の全 体 的 相 違 へ と発 展 して い く根 源 的相 違 で も あ る。 こ こで 問題 を整 理 す るた め に、 ア リス ト テ レス の平 等 の 概 念 に触 れ て お き た い。 ア リス トテ レ ス は 平 等 を 数 的 平 等 」

と 「価 値 に即 した 平 等 」 とに分 け、 「わ た しは数 的 平 等 とい うの は、 数 あ る い は 量 に お け る同 一 ・平 等 の こ とで あ り、 価 値 相 応 の 平 等 とい うの は、 比 例 に 即 し

l4)

た平 等 の こ とで あ る。」 と し、 この 「数 的平 等 」 は 、 各 人 を完 全 に等 し く扱 う こ とで あ り、 それ に対 して 、 「比 例 的平 等 」 は当 該 個 人 の業 績 を考 慮 に入 れ た 分 配 で あ る。 つ ま りア リス トテ レス に お い て も、 平 等 にっ い て 無 条 件 な 平 等 を 意 味 して い るの で は な く、 二 人 の 人 が 相 等 しい条 件 の 場 合 に の み 、 彼 らが 平 等 に分 配 され る とい うの が 正 義 の 要 求 で あ る とす る。 した が っ て 。 争 いや 不 平 等 の 原 因 は 、 相 等 しい 人 び とが 不 平 等 な 分 配 を受 け、 ま た相 等 しか ら ざ る人 び とが 平 等 な分 配 を受 け る とい っ た 、 平 等 の原 則 が破 られ た 場 合 に起 こ る とい っ て い る。

ア ン ソニ ー一・ギ デ ンズ が 最 も強 く警 告 す るの は、 「機 会 の平 等 」 を認 め る に し て も、 そ れ が 結 果 の 不 平 等 」 に つ な が り、 しい て は そ れ が世 襲 化 し、 他 の 多

くの 人 び との 「機 会 の 平 等 」 さ え奪 っ て し ま う とい う こ とで あ る。 こ の 結 果 、 排 除 され た不 満 分 子 の 存 在 と相 侯 って 、 社 会 的 な結 束 をi揺るが し、 完 全 な 能 力 主 義 社 会 は、 極 度 に排 除 され た 階級 を作 り出 す 。 彼 が 指 摘 す る と こ ろ に よれ ば 、

完 全 な 能 力 主 義 社 会 は、 実 現 不 可 能 な ばか りか 、 自 己矛 盾 を内 包 して い る。 す で に理 由 を述 べ た と う り、 能 力 主 義 社 会 は深 刻 な不 平 等 を もた らす 。 そ の よ う な社 会 に お い て 特 権 を手 に 入 れ た 人 た ち は、 必 ず や 自分 の得 た 特 権 を子 ど もた

15)

ち に贈 与 し よ う とす る。 こ う して 能 力 主 義 そ の もの が 途 絶 え て し ま う。」

この よ う に述 べ なが ら も、 ア ン ソニ ー ・ギ デ ンズ は、 能 力 主 義 の 原 則 が 平 等 に とっ て 無 意 味 とい うわ け で は な く、 能 力 主 義 の原 則 は平 等 の す べ て で は な い

(12)

し、 平 等 を 定 義 す る に は ふ さわ し くな い とい う。 そ こで 第 三 の政 治 で は 、 平 等 を 「包 含(inclusion)、 不 平 等 を 「排 除(exclusion)」 と定 義 しな お して 、 こ の 問題 を分 析 す る。 包 含 とい うの は、 最 も広 い 意 味 で 、 「市 民権 の尊 重 を意 味 す る。」 も う少 し詳 し く言 う と、 社 会 の全構 成 員 が 、 形 式 的 に で は な く日常 生 活 に お い て 保 有 す る、 市 民 と して の権 利 ・義 務 、 政 治 的 な権 利 ・義 務 を尊 重 す る こ とで あ る。 そ れ は ま た 、機 会 を与 え る こ と、 そ して公 共 区 間 に参 加 す る権 利 を 保 障 す る こ と も意 味 す る。

不 平 等 、 つ ま り 「排 除 」 につ い て は、 現 代 社 会 に は二 つ の排 除 が 存 在 す る と して 次 の よ うに述 べ て い る。 「一 つ は、 社 会 の最 底 辺 に入 る人 び との うち、 社 会 が 提 供 す る雇 用 、 医 療 、 福 祉 等 の機 会 に あ りつ け な い人 び とが 排 除 の 対 象 とな り、 二 つ に は 、 社 会 の最 上 層 部 の 自発 的 な排 除 、 い わ ゆ る 『エ リー トの 反 乱 』

lfi)

で あ る。」 富 裕 層 の 中 に は、 正 業 に就 か ず 世 間 か ら隔 絶 した 生 き方 を選 択 す る人 び とが お り、彼 ら特 権 集 団 は、 社 会 か ら隔 絶 され た 要 塞 の よ うな コ ミュニ テ ィ で 生 活 して い る。 現 在 、 先 進 国 の 階 級 構 造 に影 響 を及 ぼ す 、 様 々 な変 化 が 起 こ りつ つ あ り、 こ う した 変 化 の ゆ え に、 「包含 と排 除 」 は 、不 平 等 を分 析 し、 不 平 等 に 対 処 す る上 で 欠 か せ な い概 念 とな っ た と、 ア ン ソニ ー ・ギ デ ン ズ は い う。

衰 退 に あ え ぐ都 市 部 の ス ラ ム は社 会 的 に 排 除 され た り、 少 数 民 族 の 目立 つ 地 域 で は、 人 種 的 偏 見 が 排 除 の 対 象 とな る。 だ か ら排 除 とは、 む し ろ不 平 等 の 度 合 い に関 わ る概 念 とい う よ りは 、 い くつ か の集 団 を社 会 の 主 流 か ら切 り離 す メ カ ニ ズ ム に関 わ る概 念 とい え る。 そ の 結 果 、 社 会 の 最 上 層 部 の 自発 的 排 除 は、 公 共 区 間 や 社 会 的 連 帯 を脅 か す の み な らず 、 最 下 層 の 排 除 を誘 発 す る。 つ ま り最 上 層 の排 除 と最 下 層 の排 除 の 間 に は、 一 定 の 因 果 関 係 が 認 め られ 、 それ が た め に、 最 上 層 部 の 自発 的 排 除 を抑 止 す る こ とは、 最 下 層 の 人 び とを よ り一 層 包 含

す るた め に必 要 不 可 欠 な 営 み とな る。 この 経 済 的 不 平 等 が排 除 の メ カ ニ ズ ム と 無 関 係 で な い 限 り、 経 済 的不 平 等 の克 服 を あ き らめ る わ け に は い か な い が 、 そ れ で も市 民 的 自 由主 義 、 っ ま り公 共 空 間 を再 生 す る こ とが 、 最 上 層 部 を 包 含 す る た め に必 要 な営 み で あ る。 そ の た め に は 、 コス モ ポ リタ ン国 家 を っ くるの が 一 つ の 方 法 で あ るが 、 ま た 責 任 あ る企 業 家 精 神 を鼓 舞 す る こ とは 、社 会 的 連 帯 とい う点 で 決 定 的 な 役 割 を は た す し、公 的 教 育 の質 的 向 上 、 充 実 した 医療 サ ー ビ ス の維 持 、 安 全 で快 適 な公 共 施 設 の支 援 、犯 罪 発 生 率 の抑 止 な ど も必 要 に な っ

(13)

ア ン ソ ニ ー ・ギ デ ン ズ の 政 治 理 論:「 第 三 の 道 」 143

て くる。 「ほ とん どの 国 民 を利 す る福 祉 制 度 の み が 、 市 民 社 会 の倫 理 観 にか な う

18)

の で あ る。」

社会 の最 上層 の 自発 的排 除 と同 じ く、最 下層 で の排 除 もまた 自己増 殖 す る傾 向 があ るので、貧 困の悪循 環 を断 ち切 るた め の方 策 が講 じ られ な けれ ばな らな

]9) い 。

と りわ け貧 困層 に 対 す る技 能 教 育 、 職 業 訓 練 の 改 善 は、 多 くの 国 が 共 有 す る 課題 で あ り、 「可 能 性 の再 分 配 」 をか な え る た め の教 育 へ の 投 資 は、 政 府 が 真 っ 先 に 手 が け るべ き こ とで あ る。 そ うか とい っ て 教 育 に よ っ て だ け不 平 等 を縮 小 で き るか とは 限 らな い の で 、 様 々 な 角 度 か ら不 平 等 の 払 拭 が 試 み られ べ きで あ

る。 ま た包 含 的 な 社 会 は 、 失 業 者 の 最 低 生 活 を保 障 す る ぼ か りで は な く、仕 事 以 外 に も多様 な 人 生 の 目標 が あ る こ とを 示 唆 しな け れ ば な らな い 。

な お ア ン ソニ ー ・ギ デ ン ズ の と りわ け、 平 等 の観 念 、 の議 論 に関 して 、 ス テ ィ ヴ ・ヴ ァ ッ ク ラー とデ ヴ ィ ド ・P・ ドロ ー ウ ィ ッ ツ は、 そ れ が 、 ロ ー ル ズ の正

20}

義 論 の 内容 と類 似 して い る と論 じて い る。 そ の 詳 細 な検 討 は後 日 に譲 りた い。

V民 主 主 義 の 民 主 化

民 主 主 義 の 民 主 化 」 とい う課 題 は、 民 主 主 義 を考 察 す る場 合 に 絶 えず 付 き ま と う、永 続 的 な観 点 で あ る。 つ ま り民 主 主 義 の 内容 は 大 方 の場 合 、 そ れ は 程 度 の 問 題 に な るか らで あ る。 日本 に 民 主 主 義 が 無 い とは い え な いが 、 しか し更 な る改 良 が 要 請 され て い る とい う こ とにつ いて は、 大 方 異 論 が な い で あ ろ う。 民 主 主 義 を構 成 す る様 々 な要 素 に お い て 、 それ ぞ れ の 国 に お い て 、 更 な る改 良 が 必 要 な箇 所 は異 な るで あ ろ う。 しか し共 通 項 も あ ろ う。 ア ン ソ ニ ー ・ギ デ ンズ が掲 げ る、 自 らの 要 点 は次 の よ うで あ る。

(1)中 央 か ら地 方 へ の権 限 委譲

グ ロー バ リゼ ー シ ョ ン に対 して 、 国 家 が 先 ず 対 処 し な けれ ば な らな い の は、

構造 的 な対 応 策 で あ る。 も ち ろ ん この 内容 は下 か ら と上 か らの 双 方 向 的 関 係 の 構 築 で あ る。 分 権 化 そ れ 自体 が 民 主 化 で は な く、 民 主 化 に寄 与 す る分 権 化 を推

し進 め な け れ ば な らな い。

(14)

(2)公 共 部 門 の 刷 新

この こ とは、 近 年 、 世 界 中 の 政 府 に お い て腐 敗 が 増 加 傾 向 に あ るか らで は な

ZI}

く、 「政 治 を取 り巻 く環 境 が 質 的変 化 を遂 げ た か らで あ る。」 政 治 の 世 界 に最 も 強 い影 響 を 与 え た変 化 の 一 つ は、 政 府 と市 民 の 情 報 格 差 の縮 小 で あ る。 通 常 の 行 政 手 続 きが 市 民 の 監 視 を受 け る よ う に な っ た 。

(3)行 政 の 効 率 化

正 統 性 を維 持 す るた め に、 政 府 は行 政 を効 率 化 す る必 要 性 にせ ま られ て い る。

企 業 組 織 が 迅 速 か つ 柔 軟 に環 境 変 化 に対 応 す る世 界 で は、 ど う して も政 府 は後 れ を と りが ち で あ る。」

政 府 の 組 織 は市 場 原 理 に従 わ な い か ら、 公 務 員 は 怠惰 とな り、 サ ー ビ ス が 劣 悪 に な る と う批 判 に対 応 しな け れ ば な ら な い 。

(4)直 接 民 主 主 義 の 導 入

グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ン に と もな い 、 国 内政 治 に 対 して 政 府 は、 通 常 の投 票 な しの 民 主 主 義 が 必 要 とな る し、 また そ れ が 可 能 で あ る。 地 域 レベ ル の 直 接 民 主 制 、 電 子 住 民 投 票 。 市 民 陪 審 員制 な どの 「民 主 主 義 の 実 践 」 を通 じて 、 「政 府 と 市 民 の 関 係 は これ まで 以 上 に 緊 密 な もの とな る。」

(5)リ ス ク を管 理 す る 政 府

科 学 技 術 の 進 歩 に 一 定 の制 約 を課 し、 そ れ が もた らす 倫 理 的諸 問 題 に対 処 す

る こ とを 、 政 府 の 役 割 の 一 つ に数 え て しか るべ きで あ る。」 リス クの特 定化 を専 門家 だ け に任 せ て お い て は な らな い。 リス ク を確 定 化 す る まで の 各 段 階 に お い て 、 専 門 家 、 政 府 、0般 市 民 の 参 加 に よ る入 念 な検 討 が 加 え られ な けれ ぼ な ら な い 。

(6)上 下 双 方 向 の 民 主 化

民 主 主 義 の民 主 化 」 は、 地 方 自治体 レベ ル や 国 レベ ル に と どま らな い。 政 府 は 、 そ の 目 を世 界 に も向 け な け れ ば な らな い 。 これ ら の 点 を勘 案 すれ ぼ 、 新 し い政 府 が 目標 とす る政 府 、 新 しい 民 主 主 義 国 の あ り方 が 見 え て くる。

(15)

ア ン ソ ニ ー ・ギ デ ン ズ の 政 治 理 論:「 第 三 の 道 」 14S

7.ポ ジ テ ィ ブ ・ウ ェ ル フ ェ ア 社 会

最 近 、 福 祉 国 家 か ら福 祉 社 会 へ とい う言 い 方 は、 先 進 国 で は定 着 した よ うに 思 わ れ る。 第 一 次 オ イ ル シ ョ ッ ク を契 機 に、 先 進 国 で は ど この 国 で も、 財 政 難 か ら福 祉 予 算 切 捨 て の 方 向 に突 き進 ん だ 。 い わ ん や 新 自 由主 義 の 思 想 に 裏 打 ち され た 、 た とえ ば イ ギ リス の サ ッチ ャー 政 権 が 福 祉 改 革 に取 り組 ん だ こ とは よ く知 られ て い る。 ア ン ソニ ー ・ギ デ ンズ に よれ ば 、 福 祉 国 家 そ の もの が 、 そ の

23)

成 立 過 程 か ら して 、 「本 質 的 に非 民 主 的 で あ る」 とい う。 保 護 と管 理 が 福 祉 国 家 の 原 動 力 で あ っ て 、個 人 の 自 由へ の 配 慮 は決 して 十 分 で は な い し、 福 祉 事 務 所 で は、 官 僚 的 で 、 不 親 切 で 、 非 効 率 な対 応 が 目立 っ 。

ア ン ソニ ー ・ギ エ ン ズ に よれ ば、 ポ ジ テ ィ ブ ・ウエ ル フ ェ アが これ か らの福 祉 の あ り方 で あ っ て 、 そ の 主 役 は、 個 人 、 非 政 府 組 織 で あ る。 つ ま り福 祉 社 会 が 中心 で あ る とい う こ とで あ る。 そ の う え彼 は、 そ も そ も 「ウエ ル フ ェ ア とは 、

24)

経 済 的 な概 念 で は な く、 満 足 すべ き生 活 状 態 を表 す 心 理 的 な概i念で あ る。」 だ か ら経 済 的 給 付 や 優 遇 措 置 だ け で は ウエ ル フ ェ ア は達 成 で き な い の で あ る 。 つ ま り経 済 的 ベ ネ フ ィ ッ トだ けで は な く、 心 理 的 ベ ネ フ ィ ッ トを増 進 す る こ とに 心 が け な けれ ば な らな い の で あ る。 た とえ ば、 お金 を支 援 す る よ り も、 カ ウ ンセ リン グの 方 が 、 ず っ と有 効 な場 合 も あ り う る。 そ の意 味 で 、 福 祉 改 革 に 当 っ て は、 福 祉 の この よ うな 意 味 合 い を十 分 に考 慮 す る必 要 が あ る。 さ らに 「指 針 と す べ き は 、 生 計 費 を直 接 支 給 す る の で は な く、 で き る 限 り人 的 資 本(human capital)に 投 資 す る こ とで あ る。」 「福 祉 国 家 の か わ りに 、 ポ ジ テ ィ ブ ・ウエ ル

フ ェ ア社 会 とい う文脈 の 中で機 能 す る社 会 投 資 国家(sbcialinvestmentstate)

25)

を構 想 しな けれ ば な ら な い 。」

こ の よ うな 意 味 で 、 福 祉 国 家 か ら福 祉 社 会 へ の 転 換 が 要 請 され て い る の で あ る。 第 三 セ ク タ ー組 織 の 未 成 熟 な 国 で は、 それ らの 組 織 に福 祉 サ ー ビ ス を 委 ね る こ とが 望 ま し く、 トップ ダ ウ ン給 付 方 式 は、 分 権 化 され た 給 付 方 式 に 改 編 す べ きで あ る。 「も っ と一般 化 して 言 え ぼ、 福 祉 給 付 方 式 の再 編 を、 市 民 社 会 のx て 直 し計 画 とか み 合 わせ る必 要 を認 識 す べ きで る。」 つ ま り市 民社 会 の成 熟 過 程 に福 祉 給 付 の課 題 を包 含 させ るべ きで あ る とい うの で あ る。

これ らの こ とは、 社 会 の あ らゆ る レベ ル で 、 言 い過 ぎ を恐 れ ず に 言 うな らば 、

(16)

正 常 な人 た ち は も ち ろ ん、 た とえ その た め の 費用 が 必 要 で あ ろ う と も、 高 齢 者 、 軽 度 の 障 害 者 とい え ど も彼 らの 、 精 神 的身 体 的機 能 の程 度 に応 じて 、 必 要 な教

育 ・訓 練 を 行 い 、 社 会 的 に 有 益 な 貢 献 を す る こ と こ そ が 、 「福 祉 か ら労 働 へ 」 (welfaretowork)と い う第 三 の 道 の 目的 に か な う とい うの で あ る。

た とえ ば 高 齢 化 は 古 く して新 しい リス ク の 一 つ で あ っ て、 か つ て は加 齢 は仕 方 の な い こ とで 、 肉体 的 な 衰 え は受 け入 れ ざ る を え な い 仕 方 の な い こ とだ と さ れ て きた 。 そ の 見 方 は間 違 い で は な い で で あ ろ うが 、 よ りア クテ ィ ブ で再 帰 的 (reflexive)な 社 会 で は、 肉体 的 に も心 理 的 に も、 加 齢 は は るか に振 り幅 の広 い もの とな る。 つ ま り精 神 的 な 、 また 体 力 的 な ケ ア次 第 で 、 か な り有 効 な老 後 時 代 を 過 ごせ よ う。 この よ うな 事 例 を わ れ わ れ は、 既 に多 くみ て い る。 した が っ て 、 この よ うな 可 能 性 を 、 た だ 慣 習 や 自然 に ま か せ て お くので は な く、 市 民 や 社 会 の工 夫 に よ っ て 、 よ り有 効 に生 か して い こ う とい うの で あ る。 こ こで 、 ア ン ソニ ー ・ギ デ ン ズ は、 哲学 的保 守 主 義 とい う概 念 をバ ー ク の言 葉 を 引用 して 、 次 の よ うに述 べ て い る。 い わ く 「社 会 とは、 い ま生 きて い る人 だ け のパ ー トナ ー シ ッ プで は な く、 い ま生 き て い る人 、 今 は 亡 き人 、 そ して これ か ら生 まれ て く

26}

る人 の パ ー トナ ー シ ッ プ な の で あ る 。」

8.ま と め

以 上 に 述 べ て き た よ う に 、 ア ン ソ ニ ー ・ギ デ ン ズ も彼 の 理 論 を 整 然 と体 系 的 に 述 べ て い る と は い え な い 。 こ こ で 私 が 述 べ た こ と は 、 そ れ ら の 中 の 特 徴 的 な も の を 、 あ る 意 味 で は 無 秩 序 に 、 し か も 紹 介 的 に 述 べ た に 過 ぎ な い 。 た だ そ れ らの 中 に は 私 の 心 を 引 き 付 け て 離 さ な い 、 こ の 閉 塞 状 態 に 対 す る指 針 と な り う る も の が い くつ か 見 出 せ る よ う に 思 わ れ る の で あ る 。

以 下 ま と め に か え て 、 ア ン ソ ニ ー ・ギ デ ン ズ 自 身 が 第 三 の 道 」 が 目 指 す も の と し て 、 述 べ て い る も の を 、 既 に 記 述 し た も の と 内 容 的 に 繰 り返 し に な る も の も あ ろ うが 、 述 べ て お く。

ま ず ア ン ソ ニ ー ・ギ デ ン ズ は 、 「第 三 の 道 」 が 重 視 す る価 値 と して 、(1)平 (Equality)、(2)弱 者 の 保 護(Protectionofthevulnerable)、(3)自 主 性 と して の 自 由(Freedomasautonomy)(4)責 任 な け れ ば 権 利 な し(Norights

(17)

ア ン ソ ニ ー ・ギ デ ン ズ の 政 治 理 論:「 第 三 の 道 」 147

withoutresponsibilities)、(5)民 主 主 義 な け れ ぼ 権 威 な し(Noauthority withoutdemocracy)、(6)世 界 に 開 か れ た 多 元 主 義(Cosmopolitan

pluralism)、(7>哲 学 的 保 守 主 義(Philosophicconservatisrn)、 を あ げ て い

27}

る。

これ らが 強 調 さ れ るの は、 わ れ わ れ が 直 面 す る大 きな 変 化 の 中 で、 市 民 一 人 ひ と りが 自 ら道 を切 り開 い て い く営 み を 支 援 す る こ と こ そが 第 三 の 道 」 の政 治 が 目指 す もの で あ らね ば な らな い か らで あ る。 平 等 と 自 由 は 、 相 容 れ な い場 合 も あ ろ うが 、 既 に論 じた よ うに 、 両 者 の 関 係 は、 補 完 的 で あ るの が 現 実 の 示 す と こ ろで あ る。 ま た両 者 の 関 係 が補 完 的 で あ る よ うな状 況 を作 り出す こ とが 、 今 後 の あ るべ き指 針 の 一 つ で あ ろ う。 不 平 等 の世 襲 化 は、 自 由 主 義 、 能 力 主 義

の 崩 壊 で あ り、 人 間 社 会 の 挫 折 の0形 態 で あ る。 一 般 に弱 者 とい わ れ る もの も、

そ の 時代 の物 差 しや 価 値 観 か ら由来 す るの で あ っ て 、 弱 者 を弱 者 と して 一 面 的 に取 り扱 うの は、 人 間 の可 能 性 の 追 求 の放 棄 で あ り、 しい て は 人 間 の 放 棄 に ほ か な らな い 。 彼 らが 宿 す あ らゆ る有 益 な 可 能 性 の 開 発 の た め の投 資 や 努 力 は、

人 間 の 人 間 た る証 で あ る。 それ らの 行 為 が な くな っ た と き、 人 間 社 会 は人 間 社 会 で な くな る。

そ の た め に は 、 個 人 と共 同体 ・市 民 社 会 の 関 係 を再 構 築 して、 主 と して 利 と義務 」 の あ りか た を見 直 す こ とが 必 要 とな る。 歴 史 的 に は多 くの犠 牲 を払 っ て獲 得 した様 々 な 諸 権 利 が あ るが 、 これ ま で わ れ わ れ は 、 それ らの権 利 を 当 然 な もの と して 要 求 して きた 。 そ の こ とに は あ る必 然 性 が あ る とい え る。

しか し歴 史 の 過 渡 期 に あ っ て 、 個 人 と共 同体 ・市 民 社 会 の 関 係 を再 構 築 す る に あ っ て 、 権 利 と責 任 の 関 係 を再 吟 味 す る必 要 性 が 生 じた の で あ る。 極 論 す る な らば 、 皆 が 権 利 の み を主 張 す る社 会 の行 き 着 く先 を 想 像 して み るが よ い 。 し か し要 求 す る権 利 を満 た す た め に与 え られ るだ け の も の が 蓄 積 され て い な い場 合 の 結 果 は、 お そ ら く闘 争 や 混 乱 状 態 とな るで あ ろ う。

そ こで ア ン ソ ニ ー ・ギ デ ンズ は、 この さ い 「責 任 の 裏 付 けの あ る権 利 」 を提 唱 して い る。 個 人 主 義 が 浸 透 す るに つ れ て 、 「権 利 に義 務 を 連 動 させ る」 必 要 性 が 生 じて きて い るの で あ る。 権 利 は必 ず 責 任 を伴 う とい う こ とは 、 も はや 万 人 が 遵 守 す べ き倫 理 的 原 則 で な け れ ば な らな い。 そ うで な い な らぼ 、 政 治 的権 利 が しば しば そ うで あ る よ うに、 この原 則 は と りわ け貧 しい 人 た ち に適 用 さ れ る

(18)

こ とに な りか ね な い か らで あ る。

民 主 主 義 な け れ ば権 威 な し」 とい うの は、 これ まで の伝 統 、 慣 習 が 、 社 会 の 変 化 に よ っ て 影 響 力 を 失 っ て い る こ とか らの 発 想 で あ る。 もっ とも こ こで い う 権 威 の 概 念 は 、 簡 単 に言 うな ら ば、 人 び とを納 得 させ 、 同 意 を獲 得 し う る よ う な影 響 力 を 発 し う る能 力 、 とい う意 味 で で あ って 、 決 して 上 か ら無 条 件 に押 し 付 け られ た よ うな 意 味 で の権 威 の 意 味 で な い こ と を確 認 して お きた い。 日本 の 歴 史 や 社 会 の 至 る とこ ろ に 巣 くう、 上 か らの 、 あ る い は 官 僚 的 な権 威 とは似 て も似 つ か ぬ 権 威 の意 味 で あ る。 日本 にお け る よ うな意 味 で の権 威 や 官 僚 主 義 は 、 一般 に 言 わ れ て い る こ とで あ るが、 人 び との 自立 心 を削 ぎ、 士 気 を低 下 させ 、

自己実 現 に とって 有 害 な もの とな る。確 立 され な い個 々 人 の集 合 体 も社 会 に とっ て 有 効 な もの とは な りえ な い。 この 問題 は、 現 在 の 日本 に とっ て大 きな 課 題 で あ る と私 に は 思 わ れ る。 大 方 の 先 進 国 で は、 そ の よ うな 古 い権 威 は既 に 民 主 主 義 の 社 会 に あ っ て は追 放 され て い る。

そ の 意 味 で 新 しい個 人 主 義 、 つ ま り新 しい状 況 に対 応 で き る よ うに 自 らを 改 良 す る個 人 主 義 が 必 要 に な り、 人 び との 行 動 と参 加 に よ っ て権 威 を再 構 築 す る の で あ る。 そ の場 合 に 民 主 主 義 は、 必 要 不 可 欠 な も とな る。

多 元 的 な グ ロ ー バ リゼ ー シ ョンへ の 対 応 、 科 学 技 術 の進 歩 へ の 対 応 、 人 間 と 自然 との 関 係 へ の 対 応 な ど 「第 三 の道 」 の 抱 え る諸 問 題 は、 対 応 し きれ な い ぐ らい 多 く、 か つ 難 題 で あ る。 か つ て の 伝 統 や 価 値 観 が 遠 の き、 社 会 が 大 き く変 化 した今 日、 問 わ れ る の は 、 われ わ れ は、 「い か に生 き るべ きな の か 、 い か に し

28?

て社 会 的 連 帯 を再 構 築 す る の か 、 そ して 環 境 問 題 に ど う取 り組 む べ き な の か 」 とい っ た 課 題 が 問 題 に な る。 これ らの 問 題 に取 り組 む に あ た って 、 「コス モ ポ リ タ ン 的 な 価 値 」、 つ ま り 「哲 学 的保 守 主 義 」 が 必 要 に な る。 一 般 的 に は、 近 代 化

と保 守 主 義 は相 反 す る。 しか し、 リス ク と責 任 との 関 わ りの あ り方 が 様 変 わ り し、 「伝 統 を超 えて 」、 「自然 の 対 極 に あ る」 世 界 を何 とか生 き抜 くた め に は、 近 代 化 の ル ー ツ に頼 らな け れ ば な らな い の で あ る、 とア ン ソニ ー ・ギ デ ン ズ は指 摘 す る。 こ こで 言 う 「保 守 主 義 」 は、 政 治 的 右 派 の い うそれ とは 全 く異 な るの で あ って 、 「変 化 へ の プ ラ グ マ テ ィ ッ ク な対 応 を 意 味 す る保 守 主 義 」 で あ る。 つ ま り科 学 技 術 の功 罪 を わ き まえ な が らそ れ を相 対 視 し、 過 去 と歴 史 を 尊 重 し、

可 能 な 限 り予 防 原 則 に即 して の環 境 問 題 へ の 対 処 な どで あ る。 これ らの 目標 は、

参照

関連したドキュメント

There is a bijection between left cosets of S n in the affine group and certain types of partitions (see Bjorner and Brenti (1996) and Eriksson and Eriksson (1998)).. In B-B,

“Breuil-M´ezard conjecture and modularity lifting for potentially semistable deformations after

[r]

また、同法第 13 条第 2 項の規定に基づく、本計画は、 「北区一般廃棄物処理基本計画 2020」や「北区食育推進計画」、

○○でございます。私どもはもともと工場協会という形で活動していたのですけれども、要

3R ※7 の中でも特にごみ減量の効果が高い2R(リデュース、リユース)の推進へ施策 の重点化を行った結果、北区の区民1人1日あたりのごみ排出量

Abstract: About 2,900 residential land of Kumamoto City, received a severe damage by liquefaction of