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自立活動とは

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(1)

第3章 重度・重複障害教育のポイント

重複障害者は,感覚障害と知的障害を併せ有する者や,感覚障害と肢体不自由

を併せ有する者,肢体不自由と医療的なケアを要する者など,その障害の様相は

多岐にわたっています。さらに,こうした重複障害者は,その障害の実態が重度化し

ている場合も多く,特別支援教育の分野では「重度・重複障害者」という用語を用い

ます。

この章では,重度・重複障害の状況にある児童生徒(以下「重度・重複障害者」と

いう)への指導のコツや,ポイントについていくつか述べています。

1 重度・重複障害者の実態把握から目標設定について

2 「課題関連図」による目標の設定方法について

3 目標を設定する際に考慮することについて

4 常に目標を見直しましょう

5 日々の授業での具体的な目標について

6 自立活動の指導の前に

~事前に備えておきましょう~

7 自立活動の指導の中で

~授業中に配慮しましょう~

コラム 目標・問題・課題をどうとらえるか?

8 自立活動実践事例報告のススメ

資料:平成 29年度版 自立活動実践事例記入様式

コラム 改訂に伴う個別の指導計画」の作成手続きについて

コラム ルーブリック 自立活動の評価について

(2)

1 重度・重複障害者の実態把握から目標設定について

特別支援教育においては,個々の児童生徒の教育ニーズを的確にとらえ,指導内容に 反映させていくことが前提となります。その際に最も重要になるのは指導目標の設定ですが, その設定の論拠となるものは,個々の児童生徒の実態から導き出される個々の教育的課題 です。それゆえ,的確な実態の把握なくして,適切な指導内容の設定とは成り得ません。重 度・重複障害者の実態把握では,心理発達諸検査等の活用が困難なため,聞き取りや観察に大きく依存しており,と もすれば障害状況の詳細な記述や,医学的情報,身体状況や,運動機能面などの情報に偏ることもしばしばです。 そこで,まずはバランスよく全般にわたって広く情報を収集していくことがスタートとなります。ここでは,重度・重複 障害者の特徴として,周囲環境の影響を大きく受けること,時間による状況の変動が極めて大きい場合があること,障 害は相互に干渉して更なる困難さを生み出す場合もあることなどに注意をはらうことが重要です。 児童生徒の実態を把握していくことは,単に児童生徒に関する情報を収集することだけではありません。実態把握 の目的とは,児童生徒に関する情報を収集して分類整理することから始まり,得られた情報の自立活動の6つの視点 を関連付けた影響分析を経て,適切な指導目標の設定がなされることにあります。 このように,実態把握は特別支援教育の根幹をなす大切な要素であり,常に見直すことが必要となります。 実際には①情報収集からすぐに④指導目標を導き出そうとするケースが多いようですが,②分類整理→③分析を 経て,基本的な行動を遂行するために不足している力と,学習上・生活上の困難さを明らかにする二つの観点,さら には将来の目指す姿をイメージして,児童生徒の中心課題を明らかにする作業が不可欠となります。 そして,中心課題を改善する指導仮説に基づいて,自立活動の6区分 27 項目と関連付けて具体的な指導内容を 設定することが必要です。 ・3年後の姿 ・1年後の姿 ・学部卒業後の姿 ・目指す児童生徒像 ・卒業後の生活 ・身につけて欲しい力

①情報を収集

②分類整理

③分析

④指導目標

・医学的情報(健康の保持) ・身体運動機能(身体の動き) ・作業動作(身体の動き) ・感覚機能(環境の把握) ・視知覚機能(環境の把握) ・認知理解力,学力 ・情緒(心理的な安定) ・コミュニケーション ・社会性(人間関係の形成) ・発達評価 ・医学的所見 ・興味関心 ・生育暦,既往歴 ・学習状況 ・運動,動作,移動 ・摂食,呼吸等 ・人間関係 ・健康状態 ・生活習慣,環境 ・各種検査結果 適宜項目に分類整理することによって焦点化され,指導目標設定の指標となる 具体的方法・・・各種検査は難しい場合が多く,聞き取りと行動観察によることが多い 基本的な行動を遂行するために不足している力と,学習上・生活上の困難さを明らかにする 的確な実態把握 ↓ 指導目標の設定 ↓ 適切な指導内容 自立活動の6つの内容と相互に関連付け,具体的な指導内容(段階的)を設定する。 ・身体運動機能の問題 ・作業動作の問題 ・感覚,入力系障害 ・視知覚の問題 ・認知理解力の問題 ・学力 ・情緒 ・社会性 ・コミュニケーション ・発達評価 膨大な情報を集めること はできたが,どう活用した らいいのだろう・・・? ・発達的,教育的視点 ・自立活動の6つの視点に照 らして影響の関係を分析し, 中心課題を明らかにする ・自立活動の6区分の視点 ・感覚機能等の入力の視点 ・運動機能等の出力の視点 ・認知理解力等の視点 などに大別してみましょう ・中心課題から導かれる ・指導仮説に基づく

⑤指導内容

幾つかの指導目標の中で優先する目標,今何を指導する必要があるのかを考えて設定。 ・健康の保持 ・環境の把握 ・心理的な安定 ・身体の動き ・人間関係の形成 ・コミュニケーション 6区分の内容の中から必要 とする項目を選定する。

(3)

2 「課題関連図」による目標の設定方法について

“1 重度・重複障害者の実態把握から目標設定について”で述べたように,目標の設定に当たっては,的確な実態 把握と分析を経ることが必要ですが,具体的にはどのような手続きによるのでしょうか。 自立活動の指導では,教科のように細目的・具体的な指導目標が規定されているわけではなく,大綱的・抽象的で あり,指導する内容の系統性や順序を明らかにしていません。同時に全ての内容を指導することも求められてはおら ず,何をねらい,どの時期にどのような内容で指導していくのかといった指導は,現場の指導者(多くは担任)に委ねら れています。従って,なぜ,その指導目標を設定したのか,どのような視点や手順から導かれたのか,どのような指導 内容により,どのような指導の順序でいつまでに目標に到達させるのか,といった指導全般に関わる全てのことについ て,根拠に基づき説明することが求められます。 このように自立活動の指導では指導者の裁量が極めて大きいこともあり,根拠に基づいた個別の指導計画の作成 が必須となります。自立活動の指導は,幼児児童生徒一人一人の障害の状態等に応じたきめ細かな指導に取り組む ために,必ずこの計画に基づいて行われます。 その為には,根拠のある目標を設定するという問題を 解決するために,実態把握の際に収集した情報を有効 に活用し適切に整理することが大切です。 情報を整理し問題を解決に導く技法としては,右のよう な方法をあげることができます。 6区分の視点から詳細に実態把握し浮き彫りになった児童生徒の困難さは,そのままでは複雑に絡み合い指導課 題の核心に至ることは困難です。その解決の一つとして,因果法によって目標設定のプロセスを明らかにした「課題 関連図」の作成を通じた取組(古川・一木,2016)があります。 次に,実態把握から指導目標・内容の選定にいたる手続きについて①~⑥でその概観を示します。 方法 特徴 演繹法 情報の原則から特定の事実を推し量る 帰納法 経験や事実の情報から原則を導き出す 因果法 因果の関係性によって情報を整理する 時系列法 時間の流れに沿って情報を整理する 代表的な情報整理の方法 (ア) 自立活動の6区分から捉えた 把握 (イ) 現在の生活や進路に関する 希望の把握 (ウ) これまでの学びの履歴の把握 (エ) 3年後にめざす姿を想定 (ア) 自立活動の内容から目標 設定に必要と考えられる 項目を選定 (イ) 具体的な指導内容の設定 (ウ) 設定した指導内容の吟味 ① 実態把握 ② 課 題 の 抽 出 ③ 課 題 関 連 図 ④ 指 導 仮 説 ⑤ 年 間 指 導 目 標 の 設 定 ⑥ 指導目標を達成するために必 要な内容の選定と指導内容の設定 <健康の保持> 日中の覚醒が不安 定である。 <人間関係の形成> 声掛けに応答することも あるが不安定である。 <身体の動き> 手を動かして玩具に触る ことはできるが,物を握る ことはできない。 6区分でカード化する (イ)~(エ)を描き出す (A)できる,できない, もう少し,要援助でカー ドを分類する。 (B)できること,①-(イ) から数年かけても習得 に至らないと判断され ること,①-(エ)との関連 が弱いこと,指導者の配 慮で対応できること,こ れらのカードを課題ス テージから外す。 課題関連図の作成 によりカードから 中心課題を導く 課題関連図をもとに「現在の姿」とその背景について解釈 し,①-(エ)を踏まえ「どのような姿を目指して」指導す るのか?「今,なぜこの指導目標なのか?」中心課題が改 善すると,どう変容すると判断したのかを明らかにする。 指導仮説に基づ き,3年後の姿 を実現するため の1年後の姿を 描き,具体的に 文章化し年間目 標とする。 授業で行う具体的な指導内容を設定する。 (ア) 26 項目に照らして設定した指導目標に 関連する項目を選定する。 課題関連図の各課題に関する区分が含 まれている。 (イ) 学習活動と混同しないように具体的な 指導内容を設定する。 (ウ) 設定した各指導内容が中心課題と関連 していることを確認する。 ※発達初期には6区分全てが関連すると整理し がちだが,どの力を育む指導内容なのかを明確に するためには,項目を絞る視点も大切である。 「学びの履歴」と「卒業までに身につけてほしい力」を踏まえた課題の抽出

(4)

<身体の動き> 安定した学習姿勢が限定的 である。(車いす,仰臥位, 側臥位,横抱き等) <心理的な安定> 指を口に入れる自己 刺 激 様 の 行 動 が 多 い。(指しゃぶり) <身体の動き> 左右にはらうような簡単な 手の動きに限られて,動作 が拡大していない。 <コミュニケーション> 声が出ることはあるが,人 からの関わりに対する応 答は乏しい。 <身体の動き> 手を動かして玩具に触る ことはできるが,物を握る ことはできない。 <身体の動き> 後方からの支援を受けての座位 は可能だが,頭部の保持が難し く倒れ込み,体幹も併せて傾く。 <環境の把握> 音や音楽に対して の喜ぶ様子がみら れない。 <環境の把握> 動いているものはよく見て,頭 部を動かすこともあるが,静止し ているものへは気付きにくい。 <健康の保持> 摂食は全介助,嚥下は良 好だが捕食時に開口が小 さく,咀嚼の動きも少ない。 <人間関係の形成> 人からの関わりへの気 付きが 少ない,人の 違 いを意識していない。 <身体の動き> 安定した学習姿勢が限定 的である。(車いす,仰臥 位,側臥位,横抱き等) <環境の把握> 触覚を手掛かりとし た探索様の動きが ある。 <心理的な安定> 快が表情に表れにく く,感情を表出する手 段に乏しい。 <健康の保持> 体 温調節 が苦手 で , 体温が上昇しやすい。 <環境の把握> 視覚情報を手掛か りとしたリーチング は不安定である。 <健康の保持> 日中の覚醒が不安 定である。 ・矢印の意味 原因 結果,相関関係 <環境の把握> 突然の音刺激には 驚 愕 を示 し,発 作 をおこす。 <環境の把握> 小豆やビー玉をかき まわして触るなど繰り 返しの刺激を好む。 <心理的な安定> 音刺激によって興奮 し情緒が不安定とな ることがある。 <人間関係の形成> 声掛けに応答することも あるが不安定である。

( ア) 自 立 活 動 の 6 区 分 か ら 捉 え た 把 握 (イ)現在の生活や進路に関する 希望の把握 体調は安定しており休みは少ない。 もっと遊べるようになってほしい 卒業後は生活支援サービス等を利 用して社会参加したい。 (ウ)これまでの学びの履歴の把握 生活の大部分を後傾座位と仰臥位で 過ごしてきた。 手を使った感覚遊びの拡大と共に指 しゃぶりは減少してきた。 視覚を活用するようになってきた。 (エ)3年後にめざす姿を想定 抗重力姿勢で過ごすことができる。 人との関わりの中で応答し感情を表 出できるようになってほしい。 様々なことに興味・関心をもち遊び の領域が拡大してほしい。

実際の事例

小学部2年生 男子 肢体不自由と重度の知的障害

② 課題

の抽出

③ 課題関連図

できること,①-(イ)から数年かけても習得に至らないと判断されること,①-(エ)との関連が弱い こと,指導者の配慮で対応できること,これらのカードを課題ステージから外す。 「学びの履歴」と「卒業までに身につけてほしい力」を踏まえた課題の抽出 <心理的な安定> 指を口に入れる自己刺 激 様 の 行 動 が 多 い 。 (指しゃぶり) <身体の動き> 左右にはらうような簡単手 の動きに限られて,動作が 拡大していない。 <コミュニケーション> 声が出ることはあるが,人 からの関わりに対する応 答は乏しい。 <身体の動き> 後方からの支援を受けての座位 は可能だが,頭部の保持が難し く倒れ込み,体幹も併せて傾く。 <環境の把握> 動いているものはよく見て,頭 部を動かすこともあるが,静止し ているものへは気付きにくい。 <人間関係の形成> 人からの関わりへの気 付きが 少ない,人の 違 いを意識していない。 <環境の把握> 触覚を手掛かりとし た探索様の動きが ある。 <環境の把握> 視覚情報を手掛かり とした リ ーチ ン グ は 不安定である。 <健康の保持> 日中の覚醒が不安 定である。 <環境の把握> 小豆やビー玉をかき まわして触るなど繰り 返しの刺激を好む。 <人間関係の形成> 声掛けに応答することも あるが不安定である。 視覚情報を有効に活用でき ていないことが口腔内への 自己刺激の要因か? 触 覚 刺 激 に 依 存 し た 遊 びが多い。 車いすの背もたれが後方に 倒れており,手を使った学習 が十分できていなかった。 指を口に入れている時は,外部 からの関わりに興味を示さず, 反応もほとんどみられない。 <心理的な安定> 快が表情に表れにく く,感情を表出する手 段に乏しい。 関係の 解釈 中心課題

(5)

ここでは,年間の 2 つの指導目標のうち,《目標①》のみを例示しましたが,《目標②》についても同様の手続きによ り,中期目標(例:学期単位等)となる⑧具体的な指導内容を導いていきます。

⑥指導目標を達成するために必要な内容の選定と指導内容の設定

(ア) 区分 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション 項 目 ( 1) 生 活 のリ ズム や生活習慣の形 成に関すること ( 1 )他者と のかか わりの基礎 (1)保有する感覚の 活用に関すること ( 1 ) 姿 勢 と 運 動 ・ 動 作 の 基 本的技能に関 すること (1)コミュニケーションの 基礎的能力に関する こと 選定された項目 を関連付け具体 的な指導内容を 設定 ⑧具体的な 指導内容 ア 教師の促しに応じ て身体各部を動か した後,横抱きされ た状態で体幹を起 こした抗重力姿勢 を 30 分間保つこと ができる。 イ ベンチ椅子上で 後方より十分な 支援を受けて, 抗 重 力 姿 勢 を 30 分以上とるこ とができる。 ウ ベ ン チ 椅 子 上 で 後方の教師に寄り かかり体を傾けて 重心を移動させる 運動を 30 分以上 行うことができる。 エ 車 椅 子 上 で テ ー ブ ル や ク ッ シ ョ ン 等 の 体 幹 を 支 持 する支援を受け, 抗重力姿勢で,30 分 間 安 楽 に 過 ご すことができる。 オ 車椅子上でテーブ ルやクッション等の 体幹を支持する支 援を受け, 抗重力 姿勢で,50 分間安 楽 に 過 ご す こ と が できる。 【3年後の姿】 小学部第5学年 ○抗重力姿勢で一日を過ごし,様々なことに興味・関心を持ち遊び の領域が拡大してほしい。 ○人との関わりの中で応答し感情を表出できるようになってほしい。

④ 指導仮説

⑤ 年間指導目標の設定

【1年後の姿】 小学部第3学年 《目標①》1 時間程度,適度な緊張状態を保ち,車いす上で抗重力姿勢を保ち学 習することができる。 《目標②》指導者の支援を受け,手を活用した感覚遊びの種類を拡大する中で, 声掛け,音及び教材の提示に気付いて視線を向けることができる。

【課題関連図に基づく現在の姿の解釈】

姿勢を制限されているわけではないが,安定して学習できる姿勢のバリエーションが少なく,これまでの多くは,車いす上の後傾し たチルトの深い姿勢で,仰臥位に近い形で学習することが多かった。手を対象まで導くと左右に動かして,かき回すような動作で繰り 返し触って楽しむ様子がみられるが,音と触刺激で楽しんでいるようである。対象を自発光する素材など,視認性の高いものを提供 すると視覚情報に気付いて手を伸ばし,触って遊ぶこともできるようになってきたが,対象にまで正確に手を動かすことは稀である。 また,入学時より口腔内の自己刺激が多く,その状況に陥ると,外界の情報は指導者の働き掛けも含めて,ほとんど入らなくなり反 応も乏しくなる。現在も,何も関わりの無い状態では,その状況になりやすい。

【指導仮説】

抗重力姿勢でも安定して学習できるように座位姿勢での学習時間を確保することにより,覚醒が上がり,併せて上肢の操作性 も高まると思われる。座位姿勢の安定により,手を使った様々な感覚遊びを眼前で展開できるようになり,視覚情報を活用した目 と手の協応動作や,主体的な遊びの拡大をねらうことができる。 これまでも,感覚遊びが増えてきたことで,自己刺激様の指しゃぶりは少しずつ減少してきたことから,遊びの充実による外界 への興味・関心の高まりが,その状況から脱却できる糸口となるのではないか,と考えている。 さらに,主体的な遊びの充実の中で2項関係を構築し,そこへ介入することで指導者の存在に気付かせて,人間関係の基礎を 育むことに取り組む。そして,将来的には遊びの中での共同注意や他者を意識した表出に発展させることもねらうことができる。

《目標①》 1 時間程度,適度な緊張状態を保ち,車いす上で抗重力姿勢を保ち学習することができる。

⑤ ④に基づき指導目標を設定 課題同士の関係を整理する中で今指 導すべき指導目標として ⑥ ⑤の指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定 選定した項目を関連付けて具体的な指導内容を設定⑧ 具体的な指導内容を設定する段階(3~6 個程度) 引用・参考文献 ・古川 勝也・一木 薫編著,自立活動の理念と実践~実態把握から指導目標・内容の設定に至るプロセス~,ジアース教育新社,2016 ・日本肢体不自由児協会発行,肢体不自由教育 実態把握に基づいた授業づくり 229,日本肢体不自由児協会,2017 (ウ) 設定した指 導内容の吟味 関連付け線を記す ⑦ 項目と項目を関連付ける際のポイント

(6)

3 目標を設定する際に考慮することについて

重度・重複障害者の教育目標の設定については,その実態把握の難しさもあって適切な指導目標の設定には苦 慮するところです。そこで,自立活動の指導目標を設定する際には,次のような点に考慮しましょう。

(1)

目標は個々の実態から設定されること

(個々のニーズに応じることが基本) 実態把握から個々のニーズに応じた目標が導かれることは当然のことですが,実際には指導者によって,その目 標が大きく変わってしまうことがあります。その多くは,実態把握における事象の解釈が指導者によって異なっている ことに起因しています。学習指導要領の具体的な指導例の中には,“幾つかの指導目標の中で優先する目標とし て”,という但し書きがあります。ここでは,目標設定の際には,優先して選択した根拠を実態把握に基づいて説明 できることが求められています。そもそも,個々の実態は,その時においては客観的なものであり,自立活動の視点 で的確に分析した結果については,指導者の勝手な解釈の余地はありません。 すなわち,実態把握が的確である限りは,指導の開始となるスタートは自由に動かせるものではないということで す。その指導のスタート位置が変わる時は,実態が変わりニーズが変わった時となるはずです。

(2)

目標の具体性に示すこと

(“△△によって○○できる”といった動作を伴うものが分かりやすい) “目標は具体的に示すことが必要です”と,常に提唱されていますが,その“具体的”とはどのようなことを意味して いるのでしょうか。重度・重複障害教育の現場では,未だに目標の中に楽しむ,感じる,味わう,といった具体的では ないフレーズが散見されます。これらは,実態を無視しても使用可能となるフレーズであり,これらは指導者が実現 困難な問題に直面するときに頼りがちな言葉です。具体性が無い目標に陥ってしまうことは,指導者の専門性と指 導力の問題であることに気付いてください。

(3)

達成可能なものであること

(発達的視点,わずかな支援,少しの努力で実現可能なもの) これまでの学びの履歴を調べると,順調に伸びてきている領域,変化の全くみられない領域など,その学びの状 況は障害の実態によって大きく差があります。目標を設定する際には実態を踏まえた指導仮説に基づいて,達成可 能な目標を導くことが重要です。できたり,できなかったりする不安定さや,わずかな支援や頑張りで可能になること などは,目標として達成できる可能性が高いと判断できます。

(4)

評価が可能であること

(要注意ワード:感じる,味わう,楽しむ,慣れる,意欲的,・・・など) 指導が評価不能に陥ると授業改善への道筋が失われてしまいます。具体的で明確な評価指標が設定される目 標であるべきです。上に示した言葉は,使用上注意を要する,すなわち評価がそのままでは困難な言葉です。その 場合は,必ず,“「楽しむ」→「楽しんで笑顔になる,笑い声を出す・・・」”のように,誰にでも分かる評価指標を明記し ましょう。

(5)

期間が設定されること

(達成までを見通すことでスモールステップ化が可能となる) 指導の時間は有限です,今現在から卒業までの期間を見越して,どのような期間(スパン)を踏まえて指導目標を 配列していったらよいのか考えることが大切です。目標達成までの期間が明らかになることによって,目標を細かくス テップ化しやすくなります。計画の修正の際にも常に期間(スパン)を意識しましょう。

(6)

段階的な目標設定が可能なもの

(短期・長期目標の関連が明確になるように) 本ガイドブック P28 コラム 目標・問題・課題をどうとらえるか?に示してあるように,目標の達成のためには,ス テップを刻むことが有効です。従って,目標を設定する際には,その前段階の学習内容,達成した後の学習内容, つけた力がどの学びの基礎になるのか,といった,学びの系統性を常に明らかにして細かく分割しておくことが必要 です。この小さなステップの繰り返しが,定められた期間を経て短期・長期期目標の実現につながるように設定して いきます。

(7)

4 常に目標を見直しましょう

個別の指導計画は年度当初に作成されることが多いため,指導目標が前年度からの慣例主義に陥ってしまうことや, 実態把握の機会が十分でない場合は,本来の個のニーズに応じた目標から外れてしまうこともあります。また,重度・ 重複障害者は,健康や身体状況において短期間で大きく変動することも珍しくありません。特に医療機関との連携内 容や,医療的なケア等は直接,指導目標へ影響を及ぼしてくるので細心の注意を払うことが必要です。 このような理由から,個別の指導計画に設定されている指導目標は,実態が変化することを前提として継続的に実 態を把握する中で,個の実態に応じた適切な指導目標となっているのかを常に検証し,修正を繰り返していくことが大 切なことであり,これらの地道な取組がより良い指導につながっていきます。

5 日々の授業での具体的な目標について

指導の目標は可能な限り具体的で分かりやすくあるべきです。漠然とした指導目標では,日々の授業目標までもが 抽象的になりやすく,授業評価が困難となり,その結果,授業改善も図りにくくなります。このままの状態では,基となる 個別の指導計画の長期目標に到達することは難しくなります。 長期目標の達成のためには,日々の授業の目標を設定する際,個別の指導計画に示されている長期目標を念頭 に置き,以下のような観点で改善を図ることが大切です。 (ア) 様々な活動を通して,経験を拡大する (イ) いろいろなものに触れ,様々な感触を味わう (ウ) 楽しい雰囲気の中で過ごす (エ) 野菜を植え,土の感触に慣れる (オ) 図書室で絵本を選んで読もう (カ) 世界の人々の暮らしを知る (キ) 畑の収穫物を味わおう(調理) (ク) 粘土(木工)に触れて○○をつくる (ケ) みんなで協力して行事を成功させる (コ) 支援機器を活用し調理実習する (サ) 友達を意識して行事に参加する (シ) 見通しを持って活動を楽しむ (ス) 積極的に参加する中で体験する (セ) 活動の意欲を高める (ソ) 責任を持って係りの仕事をやり遂げる (タ) 心地よい雰囲気を共有する ★

野菜を植え,土の感触に慣れる

色々なものに触れ,様々な感触を味わう

・手立てのみで終わっていないか ・単元名称を転記していないか ・小中の教科目標そのものでないか ・抽象的でないか ・漠然としていないか ・観念的ではないか ・目標が高すぎないか ・誰でも可能で目標が低すぎないか ・評価指標が不明でないか ・範囲が広すぎないか ・指導者の目標となっていないか ・複数の目標が含まれていないか ・前後の系統性はあるか

目標設定改善の観点の例

複数の目標 手立て 評価が困難 観念的 ・自分から苗に手を伸ばす,落とす,土をかける・・・ができる ・一定時間○○に触れていることができる,笑顔が出る・・・ ・自分から土を握る,土中を手で探索する・・・等 漠然としている 前後の系統性は? 何を目指すのか?

・特定の刺激(○○○)に対して,安定した注意反応が生じる ・お湯に手をつけて,笑顔を表出できる(快刺激の受容) ・ザラザラのおもちゃに触り,嫌な表情で応答する・手を引く ・刺激の有無で応答する,呼吸数や心拍数が変化する・・・等 手立て 観念的 評価が困難 抽象的 漠然 誰でも可能 目標の基本は“知る”“分かる”“できる”です。児 童生徒が主体の“○○する””○○できる”という 動詞に置き換えてみると分かりやすい。

改善の例

(8)

6 自立活動の指導の前に

~事前に備えておきましょう~

(1) 感覚の実態把握はできていますか?

児童生徒は感覚を通じて,外部からの働きかけや周囲環境を認知していきます。したがって感覚の実態を正 確に把握することが必要となります。個々の実態によって,視覚,聴覚,臭覚,味覚,前庭感覚,触覚,圧覚,痛 覚,冷覚,温覚,運動感覚,触覚防衛反応・・・様々な感覚機能の違いがあり,優位性も個々の状態に大きく依 存します。また,感覚の一部は部位によって閾値い き ち(反応の起きる最小の刺激の強さ)が大きく変化します。 大切なことは,感覚の実態把握は単なる感覚の機能検査ではなく,外部からの情報が感覚を通じて,どのよう に入力され認知されているのかを明らかにすることです。

(2) 運動機能の実態把握はできていますか?

学習の中では様々な活動が取り入れられていますが,その多くが動作を伴うものです。筋力,姿勢保持能力, 関節の可動域やその状態等は,支援方法や指導内容に影響するのみならず,活動量,時間,集中力といったこ とにも配慮が必要となり,指導全般に大きくかかわってきます。

(3) 児童生徒の状態はどうですか?

重度・重複障害者は,覚醒レベル,身体状態(安楽,快適,緊張,呼吸,体温),精神状態(理解,期待感・・・) において大きく変動することがあります。それは昨日とは様子が異なるといった日変化ばかりだけではなく,一日 24 時間の中でも,数時間単位,あるいは数十分単位でも状態が変わってくるものです。

(4) これからの活動の目標と手立てが明確になっていますか?

授業全体の目標を達成するための手立ては,順序立てられており明確であることが大切です。また,それらの 手立てが,個々の児童生徒の目標達成と関連付けられており,個の目標達成が,授業の全体目標につながるよ うにしましょう。

(5) 実態と学習内容に応じた姿勢と呼吸が確保されていますか?

学習の場面で児童生徒の能力を最大限に活用するためには,その身体状態を踏まえた姿勢保持と呼吸管理 の支援をすることが第一となります。良好な学習姿勢と安定した呼吸は覚醒を高め,認知力の向上,操作性の向 上,高い集中力,協応動作の発達等につながり,学習内容の充実にも大きく寄与します。ここでは児童生徒の負 担を考慮することが不可欠となり,状況に応じた適切な姿勢であるか,時間が長すぎないか,呼吸状態は変化し たか等,様々な角度から配慮していきます。実態によっては数種類の姿勢を前提とする場合もあります。

(6) 代替案が用意されていますか?

(3)で述べたように,たとえ 1 時間の指導時間であっても,児童生徒の状況の時間変化は極めて大きいことが あります。例えば突然強い緊張状態に陥る,覚醒が下がる,苦痛を訴える等のことは珍しくありません。こういった ことを想定して,常に臨機応変な対応が可能となるように代替案を用意し,ステップダウンされた目標を設定して おくと良いでしょう。

(7) 環境の整備ができていますか?

児童生徒の多くは周囲環境から大きな影響を受けます。例えば暑さ寒さに応じて,自在に服を着たり脱いだり することはできません。嫌な音が聞こえても耳をふさいだり,逃げ出したりすることも困難です。見えるもの,聞こえ てくるもの,触れるもの,温度や匂い,様々な周囲の環境要因が学習には影響を及ぼします。

(8) チームで情報が共有されていますか?

指導では小集団を TT で指導することが多いと思われます。教員間で本時の目標と手立ての周知,役割の明 確化,評価指標の共有等は,略案を活用して事前に行っておきましょう。

(9) 評価指標は明確ですか?

授業の実際の評価は,そこに参加している教員相互によって観察法を主として行われることが多いようです。 その場合は目標達成度の判断のために評価指標(様子,回数,時間,声,表情,身体の動き・・・)を確認してお くことが大切です。

(9)

7 自立活動の指導の中で

~授業中に配慮しましょう~

(1)

個に応じたアプローチになっていますか?

自立活動の指導は個の実態に対応することが基本です。また,授業中でも様々な要因によって,児童生徒の 体調が大きく変化し,感覚の優位性等が変動します。したがって個の状態変化に応じた適切なアプローチの改 善が必要となります。実際には児童生徒へ伝える情報量,刺激の強度,時間,頻度・・・といった観点で指導内 容を調整していくことが多いようです。

(2)

どのように伝わっているか確認できていますか?

実際の指導の場面では,アプローチがどのように伝わっているのかを常に確認しておくことが大切です。認知 力の問題から,児童生徒が何らかの応答を返すまで 30 秒以上かかることもあります。目の動きや瞬き,表情,呼 吸の変化(活発になる,止まる),姿勢の変化,全身が緊張する,常動の動きを止める,身体の動作(手など体の 一部に力が入る)など,児童生徒は実に様々な方法で応答してくれます。応答が返ってくるまで焦らず,じっくり と待ってみましょう。 近年の研究では,心拍数の変化から期待感をとらえようとする試みなどもあります。

(3)

確認できた反応を受け止めて適切にフィードバックしていますか?

(2)で何らかの反応が確認でき,一定の再現性がある場合には,この児童生徒の反応をアプローチに対する外 部への応答として肯定的にとらえ,できるだけ高い快刺激を伴う賞賛として返していきます。これにより,児童生 徒が,自身の微細な反応によって周囲を変えることができた,賞賛を受けた,という成功体験を得ることができま す。このように指導者が反応を受け止め,適切な評価を繰り返すことで,児童生徒の記憶に蓄積され,更に成功 体験として強化される中で,「もっと○○したい!」といった欲求が生まれてきます。

(4)

状態の変化に気付いていますか?

授業時間,わずか数十分の間に児童生徒の状態は大きく変化することがあります。実際には意図した想定内 での変化ばかりではなく,急に緊張状態に陥ったり,呼吸が苦しくなったり,不快や痛みを訴えたりすることなど, 大きな身体的な変化があるものです。また,精神的にも,言葉がけひとつや周囲環境の影響などを受けて変動 することも珍しくはありません。これらの変化は指導内容に大きく影響を及ぼすような場合もあります。 常に児童生徒の状態には気を配り,変化に応じた配慮のある支援を目指すことが大切です。

(5)

快刺激で終了していますか?

指導では頑張らせる場面もあるかもしれません。しかし指導を終わる時には,できるだけ快刺激で終わるように しましょう。楽しかったこと,面白かったことの記憶の蓄積は,満足感や達成感を育むことにつながり,次回への期 待感も高まります。そして,これらの快刺激の蓄積は,“もっと味わいたい”“もう一回したい”という欲求を生み出し, 外部へ対しての自発的な要求行動へつながっていきます。

(6)

緊急時の対応を用意していますか?

いつどのような場面で緊急を要する事態となるかも知れません。事前に緊急対応マニュアル等を作成し,チー ムによる緊急対応の体制を整えておきましょう。

重度・重複障害者への指導は,支援の距離が近く,指導者の視点だけでは,なかなか児

童生徒の微細な反応や状態の変化をとらえることは難しいものです。このような場合は,指導

の場面をビデオ録画し,複数の目で分析してみると良いでしょう。

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コラム 目標・問題・課題をどうとらえるか?

目標・問題・課題,普段何気なく“目標を達成するためには”“問題を減らすためには”“課題解決 のためには”・・・のように口にしています。いずれの言葉も教育の場では多用されているものです,個々 の国語的な定義は別に譲るとして,自立活動の指導計画を作成する場合には,以下のようなイメージ でとらえたら多少は理解しやすくなるかもしれません。 目標達成を問題・課題の観点からみると・・・ 問題---目標を達成する際に阻害要因となっているもの(例:乗り越える塀,及びその高さ) 課題---目標を達成する為の積み木(例:塀を乗り越えるために積むもの) 年間目標を達成するためには,例えば,年間を長期目標とし,学期ごとに中期①~③,さらに中期 目標を実現するための月ごとの短期目標を設定して,徐々にステップアップしていきます。 ここでは,年間目標への達成を段階的に分析し,目標をステップ化できることが重要となります。 長期目標 年間目標① 中期目標 学期目標① 学期目標② 学期目標③ 短期目標 目標① 目標② 目標③ 目標① 目標② 目標③ 目標④ 目標① 目標② 目標③ 授業時数 20 25 25 25 25 25 25 15 15 10 目標を達成するためにはスモールステップが有効とされていますが,その他にも関連する重要な要素とし てスパンとステージがあり,また,ステップには段階的・系統的と並列的があります。実際の指導では,並 列的なステップを意識した取組(横の広がりを重視)が大きな成果をあげています。 ・スパン(Span:指導期間) ・ステージ(Stage:一つの目標設定までの学習のまとまり ・ステップ(Step:学習を細分化した小単位) SPAN(指導期間) GOAL(1) 中期目標 段階的・系統的なステップ 並列的なステップ GOAL(1) GOAL(3) 長期目標 GOAL(3) GOAL(2) GOAL(2) 中期目標 ② ③ ① ④ 短期目標 GOAL(1)-① GOAL(1)-② GOAL(1)-③ GOAL(2) GOAL(1)-④ GOAL(1)-① (1)-② (1)-③ (1)-④ GOAL(2)

実態

目標

課題 ① 課題 ②

問 題 ② 問題 ③

課題 ④ 細分化によるスモールステップアップ

児 童 生 徒 の 力 児 童 生 徒 の 力 課題 ③ ゴール 課題①+課題②+課題③+課題④・・・=目標到達①~④ → 児童生徒の力の向上 目標① 到達 目標② 到達 目標③到達 目標③ 到達 スタート 引用・参考文献: 「重複障害教育実践ハンドブック」 P-153 より作成 STEP START

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8 自立活動実践事例報告のススメ

県内の肢体不自由特別支援学校3校(広島特別支援学校,西条特別支援学校, 福山特別支援学校)を中心として,平成 25 年度より,自立活動実践報告研究 会を行っています。研究会では,広島県全域における特別支援教育の充実と 個々の専門性の向上を図ることを目的として,3校等で取り組んでいる自立活 動の具体的な実践を共有し,意見交換をしています。また,平成 29 年度に「広 島県肢体不自由特別支援学校自立活動研究会」へ名称の変更をしました。 平成 29 年度 第 5 回の本研究会の参加者からは,以下のような感想が寄せられています。 次に,研究会でも活用されている自立活動実践事例の記入様式を次ページに掲載しています。 この様式で,自立活動の取組を整理することで,児童生徒の実態から裏付けがなされた指導を行っている か,指導による児童生徒の変容はどうかを指導者自身が振り返るだけではなく,他者にも実践を分かりやす く提示することができます。個々の教員が自立活動の取り組みを整理しまとめること,そしてそれらが事例 集となったものを複数の教員が読み,情報が共有されることで,全体の専門性の向上を目指しています。 Ⓐ 個々の幼児児童生徒の実態を的確に把握する 児童生徒の障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,生活 や学習環境等について,幅広く情報を収集していく。 Ⓑ 情報をもとに,不足している力,困難さを明らかにしていく 課題を導き出すために,基本的な行動を遂行するために不足し ている力と,学習生活上の困難さを複数明らかにする。 Ⓒ 現在の状態を,少しでもプラスの方向に発展させるための指導目標を設定する 幾つかの指導目標の中で当面どのような優先順位で指導を行うかについ て検討し,指導仮説に基づき具体的な指導目標をひとつ設定する。 Ⓓ 自立活動6区分に照らし目標を達成するために必要な項目の選定をし,具体 的な指導内容を設定する 設定された指導目標を達成するために,自立活動の内容に示されている項目 の中から,それぞれ必要な項目を選定し,それらを適宜組み合わせることによっ て,具体的な指導内容を設定する。様式中では6区分27項目から必要に応じて 各区分の(1)~(5)を転記する。そして不要な線を除去することで関連を明確に する。このことを学習指導要領には次のように記述されている。“指導目標を達成 するために必要な具体的な指導内容は,幾つかの項目が関連するもので,自立 活動の内容は,具体的な指導内容を検討する際の視点を提供しているとも言え る。”Ⓓの具体的な指導内容は,P36①②③のように,指導目標達成のためのス テップ化を図ることが望ましい。なお,ステップには段階的ステップ,並列的ステ ップの2つの方法があることに留意することが大切である。 ※本様式の作成に当たっては,文部科学省『特別支援学校学習指導要領解説 自立活動編』 第 2 章 自立活動 の意義と指導の基本を参考にしており,自立活動の内容と成果が整理されるようになっています。 Ⓐ 児童生徒の状況 Ⓑ 不足している力,学 習上生活上の困難さ Ⓒ 指導目標 実 態 把 握・ 分 析 Ⓓ 具体的な 指導内容 ・実践報告から,教師の指導の粘り強さや記録をとることの大切さを感じた。自立活動の取組,特に実態把握から目標設定 までの細かなプロセスと評価から導き出された次の支援へのつながりや指導仮説が詳しく発表されていて勉強になった。 ・広島県内の肢体不自由特別支援学校及び大学,県教育委員会が一体となって専門性の向上を目指し,協働して研修を行 うことの意義とそれに向かう先生方の情熱を間近で感じることができた。 ・3校それぞれが上肢,スパイダー,ルーブリック等の特徴のある取組をしていて,参考になった。

(12)

実 践 名

○学部○年 (キーワード)

児 童 生 徒 の 状 況 不足している力,学習上生活上の困難さ ↓ 幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓ 指導 目標 指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓ 選 定 さ れ た 項 目 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (1)~ 選定された項目 を関連付け具体 的な指導内容を 設定 具体的な 指導内容 ・ ・ ・ ○○する能力を育成する,○○により できるように,といった能力の向上,困 難さを主体的に改善できるようになる 指導目標設定とするⒸ 自立活動の項目と関 連付けた具体的な指 導内容( 教育内 容) を設定するⒹ そ こ で 障害によって,基本的な行動を遂行す る○○能力が不足している,発達が阻 害されている,あるいは○○といった学 習上生活上の困難さが発生している (実態把握)ⒶⒷ そ の た め に は 別紙「キーワードリスト」 を参考に,児童生徒の 実態(脳性麻痺,知的 障害等)や指導に関す るキー ワード( 指さし , 立位台等)を4~6つ記 入する。キーワードリスト に記載されていない語 句も記入してよい。 障害等に関すること,指 導等に関するこ とを同 数程度記入する。 ・ 基 本 的 な 行 動 を遂行するため 学習上・ 生 活上 の 困 難 を 改 善 ・ 克服するための 二つの要素があ る(解説編参照) 関連の深い項目 を関 連 付 け, 不 要な線を除去 指導目標達成のため のステップ化を図る 6 区分27項 目からコピーする。

複数のⒷの項目から指導仮説に基づき一つの具体 的な目標を導く。 障害の状態,発達や経験の程 度,興味・関心,生活環境や学 習状況などについて情報収集。 自立活動の6区分に関連する内 容 は , 行 末 に 区 分 名 を ( 健 ) , (心)等と記入する。 ⒶⒷはⒸに至るまでの プロセスを明らかにするもの 実態把握では基本的な 行動を遂行するために不 足している力と,学習上・ 生活上の困難さを複数明 らかにする。

(13)

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具 体 的 手 立 て ① ② ③

指 導 の 状 況 ① ② ③

成 果 ① ② ③ 今 後 の 展 望

・ ・ (平成○○年 ○○特別支援学校) 具体的指導内容を,「○○の教材教具を活 用,○○のように指導していく」のように記す。 指導の際にはスモールステップ的な展開が行 われることが多い。手立てを明確にする。Ⓔ それぞれの指導の場面では児 童生徒はどのような様子であっ たのか,理解や進捗状況,課 題等も含めて記す。Ⓕ 取り組みの成果はⒸの 指導目標に対して,ど のように達成できたか。 Ⓗ→今後の展望へ

平成

29 年 4 月の学習指導要領の改訂に伴

い,解説自立活動編により様式等の改訂が

行われる予定です。

(14)

コラム 改訂に伴う個別の指導計画」の作成手続きについて

今回の改訂では,個別の指導計画の作成と内容の取扱いについて,次のように述べられています。 前回の改訂では,自立活動の指導に当たっては,個別の指導計画の作成についてより一層の 理解を促すため,幼児児童生徒の実態把握,指導目標(幼稚部は「ねらい」という。以下,「指導目 標(ねらい)」とする。)の設定,具体的な指導内容の設定,評価等についての配慮事項が示された。 ①実態把握から指導目標(ねらい)や具体的な指導内容の設定までの手続きの中に,「指導すべき課 題」を明確にすることを加え,手続きの各過程を整理する際の配慮事項をそれぞれ示した。 ②児童生徒自身が活動しやすいように環境や状況に対する判断や調整をする力を育むことが重要である ことから,小学部及び中学部においては,「個々の児童又は生徒に対し,自己選択及び自己決定する機会 を設けることによって,思考したり,判断したりすることができるような指導内容を取り上げること。」 を新たに示した。 ③小学部及び中学部の児童生徒自らが,自立活動の学習の意味を将来の自立と社会参加に必要な資質・能 力との関係において理解したり,自立活動を通して,学習上又は生活の困難をどのように改善・克服でき たか自己評価につなげたりしていくことが重要であることから,「個々の児童又は生徒が,自立活動にお ける学習の意味を将来の自立や社会参加に必要な資質・能力との関係において理解し,取り組めるような 指導内容を取り上げること。」を新たに示した。(平成 29 年 4 月告示 学習指導要領解説 自立活動編P19)

個別の指導計画の作成の手順 【解説 自立活動編 P104】

① 個々の児童生徒の実態(障害の状態,発達や経験の程度,生育歴等)を的確に把握する。

② 実態把握に基づいて指導すべき課題を抽出し,課題相互の関連を整理する。

③ 個々の実態に即した指導の目標を明確に設定する。

④ 小学部・中学部学習指導要領第 7 章自立活動 第2の内容の中から,個々の指導の目標を達

成するために必要な項目を選定する。

⑤ 選定した項目を相互に関連付けて具体的な指導内容を設定する。

個別の指導計画作成手順の明確化

今回の改訂では,個別の指導計画の作成についてさらに理解を促すため,実態把握から指導 目標(ねらい)や具体的な指導内容の設定までの手続きの中に,「指導すべき課題」を明確にするこ とを加え,手続きの各過程を整理する際の配慮事項をそれぞれ示すこととした。 指導を担う教師に委ね られる裁量が非常に大 きいという特徴 裁量が大きいので、教 師の力量が指導の質に 直結するという課題 自立活動というのは教科と何が違うの かということが十分に示せていない 各教科と自立活動の違いを明確に自覚し ないまま,子供たち,障害の状態が重たい から教科は難しいのではないかというよ うな発想で自立活動に置き換えている 自立活動というのは教科と 何が違うのかということが 十分に自立活動の理念が現 場に浸透していない 平成 11 年度に自立活動が成 立し十数年たつ中でも,十分 な理解も進んでいない 中央教育審議会特別支援教育部会議事録より抜粋 指導目標を導き出すプロ セスについて発信が必要 自立活動の授業づくりの手続というものも分か りやすく示していく,また,教師の理解促進の学 びの場を確保することが必要

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本ガイドブック P37 第3章 重度・重複障害教育のポイント 2 「課題関連図」による目標の設定方法についてと, 概ね同様の流れが例として示されています。個別の指導計画と照らし合わせると,年間目標は⑤課題同士の関係を 整理する中で今指導すべき指導目標として,学期等の中期目標は⑧具体的な指導内容を設定する段階(3~6 個程 度)に対応しています。

① 障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集 ・ ②-1 収集した情報(①)を自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション ・ ・ ・ ・ ・ ・ ②-2 収集した情報(①)を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階 ・ ※各項目の末尾の( )は,②-1における自立活動の区分を示している。 ②-3 収集した情報(①)を〇〇年後の姿の観点から整理する段階 ・

③ ①をもとに②―1,②―2,②―3で整理した情報から課題を抽出する段階 ・ ④ ③で整理した課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階 課題同士の関係を整理 する中で今指導すべき 指導目標として ⑤ ④に基づき指導目標を設定 指導目標(ねら い) を 達 成 す る ために必要な項 目の選定 ⑥ ⑤の指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定 健康の保持 心理的な安定 人間関係の 形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション 選定した項目を 関連付けて具 体的な指導内 容を設定 ⑧ 具体的な指導内容を設定する段階(3~6 個程度) ア イ ウ エ …

実態把握から具体的な指導内容を設定するまでの流れの例

(流れ図)養護・訓練から自立活動への変遷

項目間 の関連 付け ・ 〈○○するために〉 △(数)と□(数)を関連付けて設定した具体的な指導内容が⑧アである。 ⑦ 項目と項目を関連付ける際のポイント 特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 自立活動編(幼稚部・小学部・中学部)平成 30 年 3 月 P28 より

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コラム

ルーブリック

自立活動の評価について

自立活動の評価については,中央教育審議会 答申(平成 28 年)の中で以下のように示されています。 つまり,自立活動を通して,身についた力を可視化し,評価していくことが要点となってきます。 そこで,教育の分野において

ルーブリック(Rubric)

を活用した評価が注目されています。

ルーブリック(Rubric)

とは

課題についての達成レベルを観点と尺度からなるマトリックス表で評価したものを指します。 課題について達成目的(できるようになってもらいたいこと)を設定し,その達成のレベルを段階的に分 けた表で示します。医療福祉の分野や大学のレポート評価等で活用されています。 <一般的に利用されるルーブリック評価表の例> 尺度 観点 4 3(標準値) 2 1 教育分野で,ルーブリックを活用するメリット ・児童生徒の変容等を,教師の記憶や直感だけで評価することが少なくなる。 ・評価軸があることによって,教える内容を整理することができる。 ⇒きめ細やかな指導・客観的な評価に基づく授業改善が可能! ・教師間,教師と生徒,教師と保護者などの間で,どこまで力が身についたかを共有できるツールとし て活用できる。

⇒学習の進歩をマッピングができる!

ルーブリックの要素を取り入れた評価シートの例 ~本校中学部生徒Aの事例から~ 自立活動の指導目標:提示された物や人に向かって,寝返りをする。 4(標準以上) 3(標準) 2 1 対 象 へ 向 かう力 他教師や対象物への注視 や追視をして,対象へ手 を伸ばしたり,身体を傾 けたりして近づく。 教 師 や 対 象物 へ の 注 視や追視をし,手を伸 ばしたりする。 教師や対象物への注 視 や 追 視 が 見 ら れ る。 教 師 や 対 象 物 へ の 注 視 や 追 視 が 見 ら れ な い。 寝 返 り の 力 近 づ き た い 方 向 へ 回 旋 し,自力で腕を抜く。 近 づ き た い方 向 へ 自 力で回旋する。 近づきたい方向へ身 体を傾けることがで きる。 支 援 を 受 け て 身体を傾ける。

参考資料:Sue Fostaty Young, Robert J. Wilson

『「主体的学び」につなげる評価と学習方法,カナダで実践されるICEモデル』2013 年(東信堂) 引用資料: 中央教育審議会 教育課程部会 教育育課程企画特別部会 『 特別支援教育部会における議論の取りまとめ(案)』 平成 28 年7月 11 日 縦軸=評価項目:観点(評価対象を分類したもの) 横軸=レベル :尺度(達成レベルをアルファベットや数字で数段階に分けて示したもの) 「自立活動における多様な評価方法について分かりやすく記述することが必要である。その 際、子供たち自らが、自立活動を通して、学習上又は生活上の困難をどのように改善・克服 できたか自己評価する方法を工夫することなども重要である。」

参照

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・難病対策地域協議会の設置に ついて、他自治体等の動向を注 視するとともに、検討を行いま す。.. 施策目標 個別目標 事業内容

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目的3 県民一人ひとりが、健全な食生活を実践する力を身につける