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難聴児の療育

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難聴児の療育

山下裕司1) ,森田訓子2) ,氏田直子3) 1)山口大学大学院 医学系研究科 耳鼻咽喉科学分野 2)帝京大学 耳鼻咽喉科 3)国立障害者リハビリテーションセンター病院 第二機能回復訓練部 要旨:1.聴覚スクリーニングの体制 海外および国内の新生児聴覚スクリーニングの変遷と現状を報告した。両側難聴の発生 頻度は乳児1000人に対して0.7∼1.5人であった。また,ローリスク児とハイリスク児の両 側難聴の発生頻度は,それぞれ乳児1000人に対して0.4∼0.5人,4.8∼22人であった。日 本耳鼻咽喉科学会が推薦した全国の耳鼻咽喉科への調査によると,精査受診した乳児の 75%は生後3カ月までに聴覚的および医学的評価を受けていた。またこれらの乳児の 15.6%が早期療育サービスを受けていた。一方,新生児聴覚スクリーニングはパスしてい たが耳鼻咽喉科を受診した乳児の14.3%に難聴がみられた。 日本で法定化されている3歳児聴覚検診の変遷と現状についても報告した。2007年には 848,218名の子どもが聴覚検診を受けていた。その内627名(0.07%)に難聴を認めた。 2007年の両側感音難聴児数は1997年の数と同じであった。 両報告から,新生児聴覚スクリーニングに引き続いて再スクリーニングを行う必要があ ることが明らかになった。 2.乳幼児難聴の聴覚的および医学的評価 乳幼児の聴覚的および医学的評価は成人のそれとは大きく異なる。聴覚的評価について は,適切な方法を選択するためには発達評価も必要である。行動聴検(聴性行動反応聴力 検査,条件詮索反応聴力検査,ピープショウテストおよび遊戯聴力検査)と聴性脳幹反 応,聴性定常反応,耳音響放射について方法と要点について説明した。 医学的評価は以下の如くである : 診察,現病歴,小児期からの難聴の家族歴,早期ある いは遅発性の難聴を伴う症候群の確認および画像,生化学的検査。 小児の難聴の総合的,包括的な評価を行うためには,耳鼻咽喉科医に小児難聴の知識が 要求される。 3.難聴児の療育 難聴児の療育の現状は,様々な問題もあるが,以前に比べれば,難聴児とその家族が療 育施設や方法を検討できる可能性が広がってきた。さらに療育の目標も単に聞こえる人に 近づくことを目指すのではなく,聞こえにくさを抱えたまま,難聴児として様々な可能性 を持って生きていくことへと徐々に成熟してきている。 −キーワード− 乳幼児難聴,新生児聴覚スクリーニング,聴覚検診,精密検査,療育

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は じ め に 新生児聴覚スクリーニングの普及などにより,難 聴児の療育を取り巻く環境は大きく変化している。 本総説では,難聴児の療育における最近の状況や問 題点を整理するために,乳幼児難聴の発見体制,乳 幼児難聴の診断,難聴児の療育の実際,の3点につ いて解説した。これらの点を踏まえて,今後の展望 について考察した。 乳幼児難聴の発見体制 乳幼児の難聴は,保護者や子どもにかかわる周囲 の人にわかりにくい障害である。このため,従来は ことばを本格的に話し始める2歳以降に難聴が発見 される傾向がみられた。難聴発見のきっかけは,保 護者や子どもにかかわる周囲の人が,子どものきこ えやことばの異常に気づいて医療機関を受診する場 合と,新生児聴覚スクリーニングや乳幼児健康診査 における聴覚検診で要精密検査となり,医療機関を 紹介される場合がある。難聴を早期に発見し,こと ばの遅れを最小限にとどめるためには,乳幼児難聴 の発見体制を充実させる必要がある。 以下,新生児聴覚スクリーニングおよび乳幼児健 康診査における聴覚検診について,それぞれの体制 の変遷,現状および今後の課題について述べる。 1.新生児聴覚スクリーニング 1)新生児聴覚スクリーニング体制の変遷 新生児に対する聴覚スクリーニングの試みは1960 年代からお こ な わ れ る よ う に な っ た 。1969年 , Downs MPらは17,000名の新生児に 90dBSPL の帯 域雑音(2500∼3500Hz)をきかせて眼瞼反射の有 無を観察し,15名(0.09%)の難聴を検出したと報 告した1)。さらに1970年に,Downs MP は新生児の 聴覚スクリーニングに関する13の報告を検討し,難 聴のリスク因子を持つ子ども達の聴覚スクリーニン グを提唱した2)。1973年に,当時の米国耳鼻咽喉科 学会,米国小児科学会および米国言語聴覚学会によ る 合 同 協 議 会 で あ る Joint Committee on Infant Hearing(JCIH)から難聴のリスク因子5項目が示 され3),難聴のリスク因子を持つ乳児の聴覚スクリ ーニングが推奨されるようになった。1990年代にな って,検査結果をコンピューターで自動解析するこ

とが可能な自動聴性脳幹反応検査(automated audi-tory brainstem response : AABR あ る い は 自 動 ABR)や耳音響放射(otoacoustic emissions : OAE) の機器が出現したことにより,難聴のリスク因子を 持たない新生児に対しても聴覚スクリーニングをお こなうことが可能になった。1993年に,National In-stitute of Health(NIH)が,NICU 入院児は退院ま でに,その他の全乳児は生後3カ月以内に聴覚スク リーニングを受けることを推奨した4)ことにより, 全乳児を対象とした聴覚スクリーニングの体制作り が始まった。2000年には,JCIH から難聴の早期発 見および療育プログラム(early hearing detection and intervention programs : EHDI programs)の原 則とガイドラインが出され5),難聴の早期発見と家 族支援を含む早期療育の詳細な指針が示された。こ のガイドラインの中で,聴覚スクリーニング検査 は,NICU に入院している新生児および乳児は退院 までに,その他の全新生児は退院前あるいは生後1 カ月以内におこなうよう推奨されており,全新生児 聴覚スクリーニング(universal newborn hearing screening : UNHS)の考え方が打ち出された。そ の他,スクリーニングをパスしなかった乳児は少な くとも3カ月以内に精密聴力検査を受けること,難 聴が確定した場合には少なくとも6カ月以内に療育 プログラムを受けること,スクリーニングをパスし た乳児のうち,難聴のリスク因子を持つ子どもは, その後も聴力検査やコミュニケーションの発達評価 などのフォローを受けることなど,8項目の原則が 示された。2007年には,JCIH から難聴の早期発見 および療育プログラムの原則とガイドラインが更 新6)された。基本的な内容は2000年のガイドライン と変わらないが,聴覚スクリーニングの対象とすべ き難聴に auditory neuropathy/dyssynchrony 等の難 聴も追加すること,NICU に入院した子どもとそれ 以外の子どものスクリーニング検査方法を分けるこ と,難聴のリスク因子を持つ子どもは,その後の難 聴発現のリスクに応じてフォローの頻度を変えるこ と,その他,医学的評価,早期療育サービス,発達 や言語評価,情報基盤の整備など,きめ細かいガイ ドラインが示された。 わが国においては,1997年に自動 ABR が輸入さ れるようになり,産科や新生児科に入院中の新生児

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に対して,聴覚スクリーニング検査がおこなわれる ようになった。1998年に,新生児聴覚スクリーニン グに関する厚生科学研究班が発足し,新生児10,000 名を対象に,新生児期の効果的な聴覚スクリーニン グ方法と療育体制に関する研究がはじまった7) 2000年には,旧厚生省において年間5万人規模の 「新生児聴覚検査モデル事業」が予算化された。旧 厚生省および厚生労働省では,新生児聴覚スクリー ニングに関する事業を「新生児聴覚検査事業」と称 しているため,以下旧厚生省および厚生労働省にお ける同事業に関しては,「新生児聴覚検査事業」と 記載する。これを受けて,2001年に岡山県,神奈川 県,栃木県,秋田市で同モデル事業が開始され, 2005年までに17都道府県・政令都市で実施されるよ うになった。しかし,旧厚生省における新生児聴覚 検査モデル事業は2005年3月で終了し,新生児聴覚 検査事業は2005年4月から,厚生労働省の母子保健 医療対策等総合支援事業(統合補助金)の中に組み 込まれ,国庫補助による助成が実施されるようにな った。その後,同助成は2007年3月に廃止され,新 生児聴覚検査事業は2007年4月から,少子化対策措 置として予算化された各市町村の一般財源で対処さ れるようになり,今日に至っている。 新生児聴覚スクリーニングの実施方法に関して は,2000年に旧厚生省児童家庭局から各都道府県知 事および各指定都市市長宛に,新生児聴覚検査の実 施要綱の通知(平成12年10月20日付,児発第834号) が,また各都道府県および各指定都市の民生主管部 (局)宛に,新生児聴覚検査実施の留意点について の通知(平成12年10月20日付,児母第57号)が出さ れた。この中で,新生児聴覚検査事業の目的,実施 主体,検査対象,検査機種と検査方法,要精査時の 対応,関連機関等の連携,保護者等への周知,経費 の補助,事業結果の報告および事業実施の協議につ いて,具体的な指針が示された。また,厚生科学研 究班から「新生児聴覚検査事業の手引き」8)が出さ れ,新生児聴覚検査や精密聴力検査についての実施 方法および保護者への説明方法,難聴乳幼児とその 保護者に対する早期支援体制,各関係機関との連携 体制などについて,具体的な内容が示された。新生 児聴覚検査は,NICU 入院児は在胎36週以降,退院 前に,その他の新生児は出生病院入院中あるいは生 後1カ月以内におこなうことが示された。「新生児 聴覚検査事業の手引き」は,2007年に「新生児聴覚 スクリーニングマニュアル」9)に改訂され,療育に 関する新たな情報等が追加された。 2)新生児聴覚スクリーニングの現状 新生児聴覚スクリーニングの実施率は,米国では 2007年の時点で95%であった6)。欧州では国による 差が大きい(98%∼10%以下)が,2004∼2006年の 時点で90%以上の実施率であった国は,オーストリ ア,クロアチア,イギリス,ルクセンブルグ,オラ ンダ,ポーランド,スエーデンであった10)。わが国 における新生児聴覚スクリーニングの普及状況は, 日本産婦人科医会が2005年におこなった調査による と,分娩取扱い機関における新生児聴覚スクリーニ ングの実施率は全体では62%,診療所では約70%, 大学病院では40%であった11) 両側中等度・高度難聴の発生頻度は,Thompson DCらによる新生児聴覚スクリーニングの Review12) によれば,0.07∼0.11%であった。このうち,難聴 のリスク因子を持たない群(ローリスク群)の発生 頻度は0.04∼0.05%,難聴のリスク因子を持つ群 (ハイリスク群)では0.48∼1.16%であった。わが 国では,厚生科学研究班が全国17施設の産科・新生 児科の新生児19,071名に新生児聴覚スクリーニング 検査をおこなっており,両側中等度・高度難聴の発 生頻度は0.15%,ローリスク群では0.05%,ハイリ スク群では2.2%であった13)。また,日本耳鼻咽喉 科学会福祉医療・乳幼児委員会が平成15年度に全国 の耳鼻咽喉科地方部会に対しておこなった新生児聴 覚スクリーニングに関するアンケート調査では,ス クリーニング実施児総数73,343名における両側難聴 の発生頻度は0.08%であった14) 新生児聴覚スクリーニングの精密聴力検査機関に 対する全国規模の調査としては,日本耳鼻咽喉科学 会の福祉医療・乳幼児委員会による「新生児聴覚ス クリーニング後の精密聴力検査機関の実態調査」が あり,2年に一度実態調査がおこなわれている。平 成19年度の同実態調査は,2006年2月に日本耳鼻咽 喉科学会が推薦した「新生児聴覚スクリーニング後 の精密聴力検査機関リスト」15)に掲載されていた190 施設,および新たに精密聴力検査機関として申請の あった5施設の計195施設に対しておこなわれた。

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195施設のうち188施設(96.4%)から回答が得られ ており,新生児聴覚スクリーニングに関する全国調 査として信頼性の高い調査であったと考えられる。 平成19年度の同実態調査に関する報告16)による と,回答の得られた施設を精密検査の目的で初診し た子どもの総数は2,745名であった。紹介元は,ス クリーニング検査機関が74%を占めていた。スクリ ーニングの検査機器は,自動 ABR が55%,OAE が 33%,両者の併用が5%であった。精密聴力検査機 関の初診時年齢は生後3カ月以内が75%を占めてお り,スクリーニング検査機関との連携体制は比較的 整備されていると考えられた。精密聴力検査の結 果,両側難聴は666名(24.3%),片側難聴は618名 (22.5%)であった。両側難聴児666名のうち療育施 設に紹介された子どもは429名(64.4%)であり, 新生児聴覚スクリーニング後の精密聴力検査機関を 精査受診した子ども全体の15.6%が療育支援を受け たことが明らかとなった。療育施設に紹介された 429名のうち,生後6カ月以内に補聴器装用を開始 した子どもは235名(54.8%)であった。新生児聴 覚スクリーニング検査を両側パスしていたが精密聴 力検査機関を精査受診した子どもは,初診児総数 2,745名中244名(8.9%)であった。この244名のう ち難聴と診断されたのは35名(14.3%)であり,新 生児聴覚スクリーニング検査を両側パスしても,そ の後難聴が発見される例があることが示された。 難聴乳幼児の療育機関に対する全国調査として は,全国の聴覚特別支援学校(旧ろう学校)と難聴 幼児通園施設に対して,新生児聴覚スクリーニング を受けた子どもの在籍状況を調査した研究17)があ る。この研究では,平成14年,16年および18年の調 査結果が比較検討されている。0歳在籍児につい て,それぞれの年に新生児聴覚スクリーニングを受 けていた子どもの数と,0歳在籍児全体に対する新 生児聴覚スクリーニングを受けた子どもの割合(カ ッコ内)は,平成14年が94名(37%),平成16年が 239名(60%),平成18年が323名(62%)であり, 年々新生児聴覚スクリーニングを受けていた子ども が増加する傾向が示された。一方,新生児聴覚スク リーニングを受けていなかった0歳児数は,平成14 年が161名,平成16年が161名,平成18年が194名で あり,減少傾向はみられなかった。新生児聴覚スク リーニングが普及しても,新生児聴覚スクリーニン グ以外の経緯で難聴が発見される子どもは一定の割 合で存在することが示唆された。 3)今後の課題 2007年3月に新生児聴覚検査事業に対する国庫補 助が廃止され,同事業の主体は市町村に移った。産 科においては,近年自施設での分娩を中止する診療 所が増加している。このように新生児聴覚スクリー ニングをめぐる情勢は変化しつつある。今後は,各 市町村と都道府県および新生児聴覚検査事業に関係 する各関係機関のネットワークをどのように再構築 し維持していくかが課題である。また,新生児聴覚 スクリーニング以外の経緯で発見される難聴児が一 定の割合で存在することや,新生児聴覚スクリーニ ングをパスしてもその後に難聴が発見される例があ ることから,新生児聴覚スクリーニング後の難聴発 見体制の整備が必要である。 2.乳幼児健康診査における聴覚検診 1)乳幼児健康診査における聴覚検診体制の変遷 乳幼児健康診査は,母子保健法に基づいて実施さ れている。母子保健法第12条により,市町村は満1 歳6カ月を越え,満2歳に達しない幼児の健康診査 (1歳6カ月児健康診査),および満3歳を越え,満 4歳に達しない幼児の健康診査(3歳児健康診査) をおこなわなければならないと規定されている。ま た,同法第13条では,第12条の健康診査のほか,市 町村は必要に応じて妊産婦または乳児もしくは幼児 に対して健康診査をおこない,または健康診査を受 けることを勧奨しなければならないと規定してい る。乳児健康診査は2回を基準とし,3∼6カ月と 9∼11カ月と記載されている。 聴覚検診に関しては,3歳児健康診査においての み規定されている。平成2年8月2日付で各都道府 県知事・政令市市長・特別区区長宛に出された旧厚 生省通知(児発第638号)「“三歳児健康診査の実施 について”の一部改正について」の中に,総合的健 康診査として一層の充実を図るという観点から,視 覚検査と聴覚検査の実施について新たに予算措置を 講じ,平成2年10月1日から適用することとした旨 が記載されている。また,同日付で各都道府県・政 令市・特別区の母子衛生主管部(局)長宛に出され た旧厚生省通知(児母衛第22号)に,「三歳児健康

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診査フローチャート」,「三歳児健康診査のお知らせ とお願い」,「お子さんの耳に関するアンケート」が 示された18)。その後,平成10年4月8日付けで各都 道府県・政令市・特別区の母子保健主管部(局)長 宛に出された旧厚生省通知(児母第29号)に,3歳 児健康診査における聴覚検査として,「お子さんの 耳に関するアンケート」(改訂版)と,新たに設け られた「保護者が行う絵シートによるささやき声検 査」の具体的な項目と実施方法が示され,今日に至 っている。あらかじめ家庭において保護者がアンケ ートとささやき声検査の結果を記入し,健診会場に 持参するシステムになっている。 2)3歳児健康診査における聴覚検診の現状 3歳児健康診査における聴覚検診に関する全国規 模の調査としては,日本耳鼻咽喉科学会の福祉医 療・乳幼児委員会による3歳児聴覚検診実態調査が あり,毎年「3歳児健診アンケート全国調査集計 表」が作成されている。平成20年度の「3歳児健診 アンケート全国調査集計表」19)によると,3歳児健 康診査受診率が80%以上であったのは42都道府県で あった。また,厚生労働省通知によるアンケートと ささやき声検査を採用していた自治体の割合が80% 以上であったのは41都府県であった。わが国におけ る3歳児健康診査の受診率は高く,また聴覚検診実 施率も高いことが推察された。一方,精密健診受診 率は,80%以上であったのは11道県,70%以上でも 26道県のみと低くかった。精密健診の結果,「難聴 あり」と報告されたのは627名であり,3歳児健康 診査受診児総数848,218名の0.07%であった。「難聴 あり」と報告された627名のうち難聴の種類が判明 したのは312名(49.8%)で,両側難聴が219名,片 側難聴が93名であった。 平成20年度の「3歳児健診アンケート全国調査集 計表」には,平成9年度,15年度,19年度および20 年度の3歳児聴覚検診実態調査結果を比較した表が 記載されている。これによると,わが国に新生児聴 覚スクリーニングが導入される前の平成9年度と, 導入後の平成15年度,19年度および平成20年度の両 側感音難聴児数(3歳児聴覚検診で初めて発見され た児の数)はほぼ同数であり,新生児聴覚スクリー ニングが普及しても新生児期以降に発見される難聴 児は一定の割合で存在することが示唆された。 3)今後の課題 今後の乳幼児聴覚検診の目的は,新生児聴覚スク リーニングを受けなかった子どもの難聴の発見と, 新生児期以降に生ずる難聴の発見である。言語発達 の観点からは,3歳より低年齢の乳幼児健康診査に おけるきこえの確認が重要である。1歳6カ月児健 康診査は母子保健法第12条で法定化されており,受 診率も高い。今後は3歳児健康診査とともに1歳6 カ月児健康診査におけるきこえの確認の体制を充実 していくことが大切である。さらに,新生児期から 就学時までの経時的なきこえのチェック体制を整備 するには,保護者および健康診査関係者に対する継 続的な啓蒙活動も必要である。 乳幼児難聴の診断 乳幼児は,自ら「きこえた」と意思表示をするこ とが困難であるため,難聴の診断にあたっては成人 とは異なる聴力検査が必要である。新生児聴覚スク リーニングの普及により,0歳代で精密聴力検査を 受ける子どもが増加しており,乳幼児の聴力検査と 難聴の診断が可能な精密聴力検査機関の整備が不可 欠である。 1.新生児聴覚スクリーニング後の精密聴力検査機 関 日本耳鼻咽喉科学会は,平成14年に新生児聴覚ス クリーニング後の精密聴力検査機関として190施設 の推薦をおこなった。施設選定の基本的条件は,① 施設に日本耳鼻咽喉科学会認定の耳鼻咽喉科専門医 が勤務している。②専門医は日本聴覚医学会会員で ある。③施設は乳幼児などの難聴の検査機器を有 し,その検査に一定の経験をもつことを本委員会が 承認している。④施設は原則として国公立の病院ま たは医育機関とする。ただし,本委員会が慎重に検 討して,上記以外の施設を選定することはありう る,の4条件である。新生児聴覚スクリーニング後 の精密聴力検査機関は,2年ごとに見直しがおこな われており,改訂される毎に新たな「新生児聴覚ス クリーニング後の精密聴力検査機関リスト」が,日 本耳鼻咽喉科学会会報および日本耳鼻咽喉科学会の ホームページに掲載されている。平成20年3月21日 現在,同リストには170施設が掲載されている20) 新生児聴覚スクリーニング後の精密聴力検査機関

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リストが日本耳鼻咽喉科学会のホームページに掲載 されたことにより,新生児聴覚スクリーニング検査 がリファーとなった場合に,居住地周辺の精密聴力 検査機関を紹介しやすくなった。また,精密聴力検 査機関でフォロー中の難聴児が転居する場合,全国 どこでも一定の基準を満たす精密聴力検査機関を紹 介することが可能となった。今後は,精密聴力検査 機関従事者の人事異動等も考慮し,日本耳鼻咽喉科 学会の推薦機関リストの基本的条件を維持できるよ うに,定期的な講習会の開催などが必要と考えられ る。 2.乳幼児難聴の診断 乳幼児の難聴を診断する際に,鼓膜や鼻腔,咽 頭,口腔などの視診,頭部顔面奇形その他難聴を合 併する症候群に特徴的な身体所見の有無の観察,現 病歴,難聴の家族歴,頭部外傷や髄膜炎,ムンプス などの既往歴,妊娠中や出生時の異常の有無などの 聴取は欠かせない。診察場面における親子あるいは 兄弟姉妹とのやりとりの様子の観察も重要である。 また,難聴の病態の検討や診断後の治療あるいは療 育を考える為に,X線検査,CT,MRI などの画像 検査を必要に応じておこなう。遺伝子検査について は,慎重な対応が望まれる。 乳幼児難聴の診断には聴力検査が必須である。乳 幼児は検査音の提示に対して自ら的確な応答をする ことができないため,聴力を評価する際には,子ど もの聴性行動を観察する聴力検査と子どもの聴性行 動観察によらない聴力検査を組み合わせて実施する 必要がある。以下,乳幼児の聴力検査について解説 する。 1)子どもの聴性行動を観察する聴力検査 子どもの聴性行動を観察する聴力検査には,聴性 行動反応聴力検査(behavioral observation audiome-try : BOA),条件詮索反応聴力検査(conditioned orientation response audiometry : COR),ピープシ ョウテスト(peep show test)および遊戯聴力検査 (play audiometry)がある。 聴性行動反応聴力検査(BOA)は,太鼓,カス タネット,鈴など音の出る玩具やスピーカーから出 力される震音や白色雑音,帯域雑音などに対する聴 性反射や探索反応,定位反応などを観察する聴力検 査で,新生児期から幼児期に至るまでのいずれの年 齢にもおこなう事ができる。大まかな聴力の推定 と,他の聴力検査の結果と矛盾がないかの確認に役 立つ。 条件詮索反応聴力検査(COR)は,スピーカー からの刺激音に対する探索反応や定位反応を光刺激 によって強化して条件付けをおこない,聴力を測定 する検査である。生後6カ月頃からピープショウテ ストや遊戯聴力検査が可能となる年齢までが適応年 齢であるが,一般的には1∼2歳児に適する検査で ある。発達遅滞児では刺激音に対する条件付けの成 立が遅れるため,実施可能となるのは発達年齢でお よそ10カ月である21)。BOA や COR などで観察され る聴性行動は,子どもの発達,特に運動,探索,認 知などの発達と密接に関係する。表1は,子どもの 月齢による,音への聴性反応および震音(warble tone)に対する聴性反応の閾値の変化を示したもの である22)。BOA や COR の反応を観察する際の目安 となる。 ピープショウテストは,スピーカーから音が出て いる時にだけスイッチを押すと,報酬としてのぞき 窓から子どもにとって楽しい玩具が見られる検査 で,2∼3歳以上の幼児に適用される。遊戯聴力検 査は,受話器を装着して,音がきこえたらおはじ き,さいころ,数遊び玩具の玉などを一つずつ移動 させることによって検査をおこなう。3歳以上の幼 児に適用される。遊戯聴力検査は左右別の聴力検査 が可能であるが,マスキングが出来るようになるの は早くても5歳以降であり,聴力の左右差が大きい 場合には正確な聴力の評価は困難である。 当科を受診した0歳から5歳までの子ども324名 について,年齢別に実施可能であった聴力検査の種 類(BOA,COR,ピープショウテスト,遊戯聴力 検査)とその割合を図1に示す。子どもの聴性行動 を観察する聴力検査は,発達年齢を考慮して検査法 を選択することが必要である。 2)子どもの聴性行動観察によらない聴力検査 子どもの聴性行動観察によらない聴力検査には, 聴性脳幹反応(auditory brainstem response: ABR), 聴 性 定 常 反 応 ( auditory steady state response : ASSR),耳音響放射(otoacoustic emissions : OAE) などがある。これらの検査は子どもの鎮静あるいは 安静が必要であるが,乳幼児のどの年齢であっても

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䂾䋺1.5ᱦએਅ䈪䈲䋬ⴕേ෻ᔕ䉕ᜰᮡ䈫䈚䈢⡬ജᬌᩏᴺ䈮䉋䉎㑣୯䈱⊒㆐⊛ᄌൻ 䃂䋺ABR䈱Χᵄ䉕ᜰᮡ䈫䈚䈢㑣୯䈱⊒㆐䈮䉋䉎ᄌൻ ASSRの閾値と遊戯聴力検査または標準純音聴力検 査の聴力レベルとの相関は低周波数ほど低いといわ れている。また,ASSR の閾値は高度難聴では比較 的正確に聴力レベルを反映するが,正常聴力や軽度 難聴では聴力レベルとの乖離を認める傾向にあると いわれている23)。OAE は内耳機能検査であり,蝸 牛より中枢側の難聴の評価はできない。 3)乳幼児難聴の診断に関する留意点 乳幼児の聴力閾値は,経時的に変化することがあ る。BOA や COR の反応閾値は,低年齢,特に0歳 代では聴力正常児においても高く,月齢とともに 徐々に閾値が改善する傾向がある。そのため,乳児 では BOA や COR の反応閾値と ABR Ⅴ波閾値との 間に乖離を認める傾向がある。図2に,聴性行動反 応閾値と ABR のⅤ波閾値の経時的変化を示す24) ABRに関しても,初回検査のⅤ波閾値が上昇して いても,経過とともに閾値が改善することがある。 一方,総合的に聴力正常と診断された子どもでも, その後聴力低下を来たすことがある。聴覚障害の家 族歴を有する例,先天性横隔膜ヘルニア,胎便吸引 症候群,新生児仮死,等による新生児遷延性肺高血 圧症,前庭水管拡大症,先天性サイトメガロウイル ス感染症など,難聴のリスク因子を有する場合に は,きこえやことばの発達に疑問を感じた時には受 診するよう保護者に説明しておくことが必要であ る。 重度発達遅滞児の場合には,ABR の波形が不明 瞭であったり,BOA や COR の反応が不確実である ことが多く,難聴の診断に苦慮することが少なくな い。日常の聴性行動の様子や発達経過を参考にしな がら,丹念に経過をみていく必要がある。 乳幼児難聴は確定診断までにある程度の期間を要 することが多く,保護者の心理的負担は大きい。保 護者の同意が得られ,通うことが可能であれば,療 育機関の乳幼児教育相談サービスを利用することに より保護者の心理的負担が軽減し,母子関係や育児 が円滑になることが多い。 乳幼児難聴の診断は,各種の聴力検査,発達検査, 画像検査などの結果を照合し,総合的に判断するこ とが必要である。保護者が日常生活の中でいだく子 どものきこえの印象,診察場面での子どもの聴性行 動やコミュニケーションの様子なども参考にし,専 門的な検査の結果と矛盾がないか常に考える姿勢が 重要である。また,1回の検査結果のみで判断せ ず,経時的に検査をおこなって聴力閾値を確認する ことも大切である。 難聴児の療育の実際 難聴児の療育については,従来からすでに様々な 報告がなされている。25) 難聴児の乳幼児期の療育・教育を担当するのは, 福祉施設である難聴幼児通園施設や乳幼児相談室, 図2 正常乳幼児の聴性行動反応閾値と ABR の閾値の比較(加我27)より引用)

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教育機関である聾学校幼稚部,さらに病院・リハビ リテーションセンターなどの医療機関,一部の民間 機関と多岐にわたっている。就学後は,聾学校,公 立学校の中にあるきこえとことばの教室(特別支援 学級・通級指導教室)など教育機関が中心となり, 加えて病院やリハビリテーションセンター,民間機 関が担当している。 視覚障害や発達障害を合併する場合を除けば,難 聴は,確かに,本質的には五感のうちの聴覚という 入力回路の問題のみによって起こる障害である。そ れゆえ,「音声や環境音が聞こえにくい・聞こえな い」といったことのみが問題であると考えられやす く,入力回路を補償する補聴機器の使用によって, 問題のほとんどが改善するような印象を受けやす い。 しかし実は,先天性や言語獲得前・言語獲得中に 発症した難聴は,言語やコミュニケーションの獲得 に重大な支障をきたすのはもちろん,社会性や認知 発達にまで様々な影響を及ぼす。言語獲得後の障害 でも,障害を持つ期間が長期にわたれば,コミュニ ケーションや社会性に影響を与える。難聴児・者へ の支援は発症早期から開始し,長期的な視点で実施 される必要があるとされるのはそのためである。 療育に使用する方法は,聴覚による単感覚法,聴 覚―口話法,トータルコミュニケーション,文字言 語の利用など,様々である。また,聾者の言語であ る,日本手話を第一言語とする学校法人も存在する ようになり,一層の多様化が進んでいる。しかし, 乳幼児の場合の療育・教育は,居住地域の近隣に通 うことになるので,実際には,限られた選択肢から 選ばざるを得ないのが実情である。一方では,イン ターネット等の普及によって,様々な情報が入って くるものの,それらの情報は,実は,膨大ながら断 片的であり,整理しきれないまま,困惑したり,子 供が受けている療育等に不安を抱いたりしている保 護者が増加している現状もある。 そこで本稿では,難聴児の療育全般については, 成書を参照していただくこととして,近年の難聴児 の療育に関する話題を整理してみる。 1.新生児聴覚スクリーニングと難聴児の療育につ いて 本邦において新生児聴覚スクリーニング(NHS) が始まってから,10年近くが経過した。早期発見の 効果が報告される一方で,早期に難聴が発見される ことの問題点も指摘されている26)。例えば,適切な 支援を欠けば,出産直後の母親に必要以上に大きな 不安を与え,幸福なはずの母子関係に軋轢をもたら す場合がある。不安な母親の育児を支援する,幅広 い視野を持った教育者や言語聴覚士の数が少ないこ とも原因である。 一方,最早期ハビリテーションを行う施設の数が 少なく,療育の体制が整っていないため,せっかく 早期に発見されたにもかかわらず,療育開始までに 間が空いてしまったり,充分な対応ができていない 地域も存在することが以前から指摘されている。 また,療育機関が存在していても,NHS によっ てより早期からの療育が可能になった分,そこで療 育対象となる乳幼児が増加したため,結果的に対応 できる人数を超え,充分な療育の時間を確保するこ とが困難になってきている場合もある。 さらに,従来であれば2歳を過ぎてから発見され たような軽度・中等度難聴が早期に発見された場 合,日常行動では音や音声への反応が見られるた め,保護者が我が子に難聴があることを認めにくい 場合がある。その結果,難聴幼児通園施設や聾学校 ではなく,幼稚園や保育園での集団教育や保育を受 ける難聴児が増えている。このため,難聴の理解が かえって難しかったり,補聴器装用などの聴覚ハビ リテーションに,高度難聴児よりも時間がかかった りする傾向がある。このような場合,言語聴覚士な ど難聴の専門家と一般幼稚園や保育所との連携が, 一層必要になる。しかしながら,早期療育支援機関 では,現状の人員は不十分で,結果的に十分な支援 ができなかったり,対応できる業務量を超え,大き な負担となったりする事態が生じている。 2.補聴機器の進歩 近年は補聴器のデジタル化が進み,従来は補聴器 の使用が困難な乳幼児にも使用可能な小型の補聴器 や,高音急墜型の聴力や軽度難聴にも対応しうる補 聴器が,多くの補聴器メーカーから多種類販売され るようになった。デジタル補聴器では調整をパーソ ナルコンピューターの専用ソフトウェアを使用して 行うことが多く,調整にはさらに専門的な知識が必 要となっている。雑音抑制や指向性なども乳幼児に

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は不要とされているが,発達に合わせて,どの時期 からどのように調整していくのかという検討も早急 に必要である。 少数のメーカー,少数の機種でスタートした人工 内耳についても,現在では,多メーカー,多機種と なってきており,個々の機種の特性を理解したうえ での調整が不可欠である。加えて,装用児の全体的 発達と聴覚的な発達とを併せて検討し,長期的な視 野に基づいた調整をしていくことも重要となる。こ のような人工内耳の調整には,技術だけでなく経験 も非常に重要になる。特に人工内耳の埋め込み手術 年齢の低年齢化の傾向が強い現状では,乳幼児の聴 性行動や反応をきめ細かく観察できる技術と,人工 内耳のきこえとその限界を保護者や周囲に丁寧に伝 えていく指導力の両方が,人工内耳手術病院の言語 聴覚士に求められている。無論,補聴器を用いる場 合もこうした技術や指導力が必要なのは同様である が,人工内耳は相対的に導入から日が浅いため,担 当者も相対的に経験の浅い者が多く,こうした技術 や指導力が不足している傾向がある。 また,重複障害も人工内耳の適応になってきてお り,重複障害の有無の見極めや,重複障害がある場 合の人工内耳の調整についてなど,発達障害全般に ついても広い知識と対応が求められる。 ところが,現実には先の当委員会の報告にもあ る27)ように,耳鼻咽喉科領域における言語聴覚士の 人数や技術の水準は,これらの補聴機器の調整に必 要な専門的な知識や技術と経験,さらに発達障害に ついての広い知識などに対して,残念ながら充分と はいえない。 3.療育機関の問題 1)難聴幼児通園施設 2008年2月現在,全国の難聴幼児通園施設は25施 設で,当然,全都道府県に存在するわけではなく不 足している。2006年に施行された障害者自立支援法 は,単純に施行以前との比較だが,難聴児家庭には 経済負担の増加,施設側には,経営的な困難や施設 指導員の非専門的業務の増加などをもたらしてい る。NHS の導入や人工内耳の手術時年齢低下およ び適応基準改定による聴覚活用施設との連携の必要 性により,従来に比べ通園人数が増加する傾向があ るにもかかわらず,専門的な対応が十分できず,低 年齢化や,通園期間長期化にも対応しきれなくなっ ている。 2)聾学校 2007年4月からは学校教育法などの改定により, 聾学校,盲学校,養護学校(知的障害・肢体不自 由・病弱・身体虚弱)が特別支援学校として,複数 の障害種に対応することになり,通常の学級に通 園・通学する児童を含めて,特別支援教育を行うこ ととなった。現段階ではまだ,移行中ではあるが, 聾学校が地域に開かれた存在になるという反面,聴 覚障害児教育という専門性が維持できるのかという 問題や「聾」という言葉に誇りを持っている卒業生 からは,聾学校という名称を残して欲しいという意 見もある。 また以前に比べると,聴覚―口話法よりは手話を 中心にして教育を行っている聾学校が増えて,校内 でのコミュニケーションが充実してきている一方 で,聾学校で使用している手話から,どのように日 本語の書記言語を獲得できるかの結論は未だ出てい ない,という問題点も少なからずある。 3)病院・リハビリテーションセンター 病院では NHS をはじめ,早期の難聴診断・手帳 交付や補聴器適合,難聴の説明,保護者へのカウン セリング,療育機関への橋渡し,人工内耳の適応判 断,手術後の機器の調整と装用指導,インテグレー トした装用児の教育相談など,従来以上に多様な難 聴児に対するサービスが言語聴覚士に求められてい る。 しかしながら,言語聴覚士養成の規定カリキュラ ムの時間数がそもそも十分かという問題があり,加 えて,各養成校にまかされる教育の具体的な内容や 質において,格差がみとめられる。聴覚を担当する 現任者も人数が少ないうえに,研修会等も非常に少 ない。また聴覚分野の言語聴覚士の雇用は,非常勤 勤務や任期付きの常勤職員といった不安定な形態が 明らかに多く,長期に安定したサービスを提供する ことを困難にしている。 4.補助機器や情報補償機器の進歩 2007年8月の電波法改正により FM システムで 169MHz帯が使用可能になった。これにより受信機 の小型軽量化が進み,通信距離も約 30m と大幅に 改善しており,補聴器や人工内耳の装用児にとっ

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て,教室や体育館などでのきこえの向上が可能にな った。また,情報補償機器であるパーソナルコンピ ューターを使用した要約筆記では,無線 LAN と小 型ゲーム機を組み合わせることでスクリーン上だけ でなく,手元で要約筆記の内容を確認できるように なった。携帯電話によるメールの普及も,難聴児の 遠隔地とのコミュニケーションを容易にした。この ような,機器の進歩により,難聴児が社会生活を送 る際のハードウェア上の障壁は減少してきている。 今後の展望 乳幼児難聴の発見体制や診断については,少しず つではあるが,着実に整備されてきた。新生児期か ら就学時までのきこえの確認の体制については,方 向性は確立されてきたと考えられる。今後は,地域 格差,少子化などの社会情勢の変化,社会保障制度 改革などに,どのように対処していくかが求められ る。聴覚医学会としては,保護者および健康診査関 係者に対する啓蒙活動を率先して行うことにより, 乳幼児難聴の発見体制や診断の重要性を社会的にア ピールする必要がある。 難聴児の療育については,療育施設の問題など厳 しい状況もあるが,難聴児とその家族が療育施設や 方法を検討できる可能性が広がってきている。それ は,必ずしも「聞こえる人に近づく」ことではな く,「聞こえにくくても,聞こえなくても,その人 らしく,様々な可能性を持って生きて行く」ことを 目標とする療育・教育とはなにかを模索する,現場 における必死の試みの成果である。聴覚医学会とし ては,言語聴覚士の活動をサポートしながら,聴覚 分野を専門とする言語聴覚士の育成に貢献していく 必要があると考える。 日本聴覚医学会 聴覚・言語委員会の先生方のご 協力をいただいたことに感謝致します。特に,ご高 閲をいただいた,岡本牧人担当理事に深謝致しま す。

Rehabilitation in children with hearing loss Hiroshi Yamashita1), Noriko Morita2), Naoko Ujita3)

1)Department of Otolaryngology, Yamaguchi Graduate School of Medicine

2)Department of Otorhinolaryngology, Teikyo University School of Medicine

3)Department of Communication Impairments, National Rehabilitation Center for Persons with Disabilities Hospital

1.Hearing screening systems

The transition and the present situation of worldwide and domestic newborn hearing screening are reported. The incidence of bilateral hearing loss was about 0.7∼1.5 in 1,000 infants. About 0.4∼0.5 and 4.8∼22 in 1,000 low―risk and high― risk infants had bilateral hearing loss, respectively. According to the survey questionnaire that was sent to all domestic department of otolaryngology which were recommended by the Otorhinolaryngological Society of Japan, 75% of the infants referred to the department of otolaryngology accepted audiologic and medical evaluations before 3 months of age and 15.6% of them had early intervention services. On the other hand, 14.3% of the infants who passed newborn hearing screening but were referred to the department of otolaryngology had hearing loss. The transition and the actual situation regarding hearing screening for three― year ― old children which is legislated in Japan are also reported. Eight hundred and forty―eight thousand, two hundred and eighteen children underwent hearing screening in 2007. Six hundred and twenty―seven of them(0.07 %)had hearing loss. The number of children who had bilateral sensorineural hearing loss in 2007 was the same as it was in 1997. Both reports clarified that hearing rescreening systems subsequent to newborn hearing screening should be provided.

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2.Audiological and medical evaluation for infants, toddlers and preschoolers

Audiological and medical evaluation for infants, toddlers and preschoolers is quite different from such evaluation in adults. As for audiological evalu-ation, developmental assessment is also necessary to arrive at appropriate measures. The procedures and points in mind for behavioral audiometry(be-havioral observation audiometry, conditioned orien-tation response audiometry, peep show test and play audiometry), auditory brainstem response, auditory steady state response and otoacoustic emissions are explained. The medical evaluation is as follows : physical examination, clinical history, family history of childhood and onset of permanent hearing loss, identification of syndromes associated with early― or late―onset permanent hearing loss and radiologic and laboratory studies. Knowledge of pediatric hearing loss is mandatory so that otolaryngologists can evaluate synthetic and comprehensive hearing loss in children.

3.Rehabilitation of children with hearing loss Although the current situation regarding reha-bilitation of children with hearing loss in Japan still presents some problems, these children and their families now have more options for a possible insti-tute and/or method for rehabilitation than before. Moreover, rehabilitation goal setting has been gradually changing, moving away from the idea of “working towards obtaining normal hearing” and rather approaching the viewpoint of “living with be-ing hard―of―hearbe-ing” so that affected children can actively seek various possibilities in their own lives.

参 考 文 献

1)Downs MP, Hemenway WG : Report on the hearing screening of 17,000 neonates. Int J Audiol 3 : 72―76, 1969

2)Downs MP : The identification of congenital deafness. Trans Am Acad Ophthalmol Otolaryn-gol 74 : 1208―1214, 1970

3)Joint Committee on Infant Hearing : Screening for infant hearing. AAP Newsletter Supplement. Oct 1973

4)National Institute of Health : Early identifica-tion of hearing impairment in infants and young children. NIH Consensus Statement 11 : 1―24, 1993

5)Joint Committee on Infant Hearing Year 2000 Position Statement : Principles and Guidelines for Early Hearing Detection and Intervention Pro-grams. Pediatrics 106 : 798―817, 2000

6)Joint Committee on Infant Hearing Year 2007 Position Statement : Principles and Guidelines for Early Hearing Detection and Intervention Pro-grams. Pediatrics 120 : 898―921, 2007 7)三科潤 : 新生児期の効果的な聴覚スクリーニン グ方法と療育体制に関する研究。平成10年度厚生 科学研究(子ども家庭総合研究事業)報告書 総 括研究報告書,156―160,1999 8)新生児聴覚検査事業の手引き。厚生科学研究費 補助金(子ども家庭総合研究事業)「全出生児を 対象とした新生児聴覚スクリーニングの有効な方 法及びフォローアップ,家族支援に関する研究」 班作成 2002 9)新生児聴覚スクリーニングマニュアル。厚生労 働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業) 「新生児聴覚スクリーニングの効率的実施および 早期支援とその評価に関する研究」班作成 2007 10)Bubbico L, Tognola G, Greco A, et al : Univer-sal newborn hearing screening programs in Italy : survey of year 2006. Acta Otolaryngol 128 : 1329―1336, 2008 11)三科潤 : 新生児聴覚スクリーニングの効率的実 施および早期支援とその評価に関する研究。平成 16年度∼18年度厚生労働科学研究費補助金(子ど も家庭総合研究事業)総合研究報告書 1―10, 2007

12)Thompson DC, McPhillips H, Davis RL, et al : Universal newborn hearing screening : summary of evidence. JAMA 286 : 2000―2010, 2001

13)三科潤 : 全出生児を対象とした新生児聴覚スク リーニングの有効な方法及びフォローアップ,家

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族支援に関する研究。平成13年度厚生科学研究費 補助金(子ども家庭総合研究事業)報告書 総括 研究報告書,254―257,2002 14)日耳鼻福祉医療・乳幼児委員会 : 新生児聴覚ス クリーニングに関するアンケート「まとめ」。日 耳鼻 107 : 529―546,2004 15)新生児聴覚スクリーニング後の精密聴力検査機 関リスト。日耳鼻 109 : 508―513,2006 16)日耳鼻福祉医療・乳幼児委員会 : 平成19年度 「新生児聴覚スクリーニング後の精密聴力検査機 関の実態調査」に関する報告。日耳鼻 111 : 463― 467,2008 17)三科潤 : 本邦の主要聴覚障害児早期支援機関へ の新生児聴覚スクリーニングの影響に関する検 討―第3報―。平成18年度厚生労働科学研究費補 助金(子ども家庭総合研究事業)「新生児聴覚ス クリーニングの効率的実施および早期支援とその 評価に関する研究」分担研究報告書,37―46,2007 18)日耳鼻福祉医療・乳幼児医療委員会 : 委員会か らのお知らせ 耳鼻咽喉科のための三歳児健康診 査の手引き 平成2年8月厚生省通達。専門医通 信 26 : 14―21,1991 19)日耳鼻社会医療部福祉医療・乳幼児委員会 : 平 成20年度(平成19年度分)3歳児健診アンケート 全国調査集計表。2009 20)新生児聴覚スクリーニング後の精密聴力検査機 関リスト。日耳鼻 111 : 468―472,2008 21)廣田栄子 : 精神遅滞児の幼児聴力検査。JOHNS 16 : 167―170, 2000 22)中村公枝 : 小児の聴覚障害。新編言語治療マニ ュアル(伊藤元信,笹沼澄子編),医歯薬出版, 東京,pp179―201,2002 23)青柳優 : 聴性定常反応(ASSR)。Audiology Ja-pan 49 : 135―145, 2006 24)加我君孝,田中美郷 : 乳幼児の聴性脳幹反応と 行動観察による聴力検査からみた発達的変化。脳 と発達 10 : 284―290,1978 25)廣田栄子 : コミュニケーションベースの言語指 導とリテラシー。音声言語医学 47 : 291―293, 2006 26)河崎佳子 : 臨床心理学からみた新生児聴覚スク リーニング検査―早期親支援のあり方をめぐっ て―。新生児聴覚スクリーニング検査を考えるシ ンポジウム記録資料集,トライアングル出版部, 2003 27)岡本牧人,他 : 聴覚・言語委員会報告書 聴覚 分野における言語聴覚士の社会的地位向上につい て―現状と日本聴覚医学会の役割―。Audiology Japan 51 : 656―660, 2008 (原稿受付 平成21.5.7) 別冊請求先 : 〒755―8505 山口県宇部市南小串1―1―1 山口大学大学院医学系研究科 耳鼻咽 喉科学分野 山下 裕司 Reprint request : Hiroshi Yamashita

Department of Otolaryngolgy, Yamaguchi University Graduate School of Medicine, Ube, Yamaguchi 755― 8505, JAPAN

参照

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