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人類学と開発研究 : 「障害と開発」研究との対話

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(1)

九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

人類学と開発研究 : 「障害と開発」研究との対話

亀井, 伸孝

愛知県立大学

https://doi.org/10.15017/2344491

出版情報:九州人類学会報. 38, pp.89-94, 2011-07-10. 九州人類学研究会 バージョン:

権利関係:

(2)

人数学を/で豊かにすること(伊蕨・電#・呑H・飯嶋・計塚・後藤)

人類学と開発研究

‑「障害と開発」研究との対話一

亀 井 伸 孝 ( 愛 知 県 立 大 学 )

キーワード: 「障害と開発」研究、生態人類学、身体の差異、

自文化人類学、雇われ人類学者

I .  

はじめに

文化人類学者が、異分野・異なるテー マと出会う経験は、「相手の分野に何らか の貢献をする」だけでなく、新しい民族 誌の可能性をもたらすという意味で、「文 化人類学それ自体を豊かにする」ことが できる、またとないチャンスである。

筆者は、

2 0 0 5 ‑ 2 0 0 9

年の

4

年間にわた り、日本貿易振興機構アジア経済研究所 の「障害と開発」をテーマとしたふたっ の共同研究に関わる機会を得た。開発研 究における新たな方法論を提言するとと

もに、並行して、人類学における新しい 民族誌のあり方を模索してきた。

本論では、筆者の 4 年間におよぶ共同 研究への関与を総括しつつ、「参与観察と いう調査法がマイノリティの人間開発研 究に寄与した面」と、「それを通してかえ って文化人類学の側が得ることができた 示唆の面」の双方を紹介しつつ、新たな 民族誌の領域を開拓するための戦略につ いて検討したい1)

I I .  

アジア経済研究所の共同研究

「障害と開発」研究への参加

筆者は、

1997

年から西・中部アフリカ 諸国で、ろう者コミュニティと手話言語 に関する研究にたずさわってきた。第一 義的には、現地のろう者コミュニティに おいて共有されている言語と文化を、フ ィールドワークを通じて明らかにし、そ れらに関する民族誌的記述を行うという、

狭義の文化人類学的な営みである[亀井

2006

ほか]。

一方、これらの調査の成果に関連づけ るかたちで、「障害と開発」をテーマとす る国際開発の共同研究への参加の依頼を 受け、成果や手法を開発研究に応用する

ことを要請された。

「障害と開発」は、最近、急速にその 存在感を増している国際開発の研究/実 践 の 一 分 野 で ある[森編

2 0 0 8 ;2010

ほ か]。近年では、人間開発の概念の普及に 伴 い 、 開 発 途 上 国 の 女 性 [NUSSBAUM

2000=2005]

や 言 語的・文化的マイノリ テ ィ [UNITED N A  TIO NS DEVELOPMENT  PROGRAMME 

2004=2004]

など、対象社会 の中におけるさまざまな差異に敏感な開 発研究/実践が取り組まれる傾向が見ら れる。そのような潮流の中で、途上国の 障害をもつ人びとも、開発の議論の中に 位置づけられるべきであるとの認識が生

じた。

このような認識に加えて、「障害が貧困 を生み、貧困が障害を生む」という正の フィードバックが存在していることも指 摘されており[森編

2 0 0 8 ]

、障害の問題 を避けていては貧困削減全般を論じるこ とはできないとの認識も浸透しつつある。

これらの背景とともに、「障害と開発」は、

国際開発の全体像に影響を与えうる重要 な領域として注目が集まっている。

人類学と国際開発研究/実践とがクロ スする領域に着目することは、かねてか ら行われているが [NOLAN

2002=2007

ほ か]、「障害と開発」をめぐってはこの種

(3)

人類学を/で豊かにすること(伊藤・電#・券H・飯嶋・計塚・後藤)

の議論が行われたことはなかった。人類 学と他領域との接点で、視点や方法をめ ぐる豊かな相互作用が得られたこの経験 を紹介することは、人類学で他領域を豊 かにするだけでなく、人類学自体を豊か にするヒントとなるであろう。

2  共同研究「開発問題と福祉問題の 相互接近」

4

年間

( 2 0 0 5 ‑ 2 0 0 9

年)にわたり、日本 貿易振興機構アジア経済研究所・研究会 委員として、ふたつの共同研究に参加す

る機会をもった。

ひとつ目の共同研究「開発問題と福祉 問題の相互接近:障害を中心に」

( 2 0 0 5

年 4 月— 2007 年 3 月、主査:森壮也)は、

その目的を以下のように示している。

「開発途上国の貧困問題の解決のために は、貧困者の中で

20%

から

30%

を占める と言われる身体障害者の問題の解決は不 可避である。」

「こうした問題に対し、福祉・慈善的な アプローチではなく開発アプローチの観 点から取り組んでいくことは現在、喫緊 の問題であり、それに資する研究を以下 のような社会科学的観点から行う。」

「開発途上国の障害者についてのアプロ ーチの整理と問題点一世界的な障害観の 医学モデル(障害は個人の問題で治療す べきものである)から社会モデル(障害 は社会がそれに対応していないことから 問題となるのであって、社会的な問題で あり、社会の側での変革も必要とされる)

への転換の動きと開発途上国での実践に 与える影響を分析する。」[日本貿易振興 機構アジア経済研究所

2 0 0 6 ]

ここでは、障害観をめぐる医療モデル から社会モデルヘの転換がうたわれてい る。「医療モデル」とは、「個人の身体の 中」に障害の要因を発見し、それらを除 去、軽減することを志向する障害観であ

る。そこでは、治療やリハビリテーショ ン、予防などを講じることが想定されて いる。

一方の「社会モデル」は、「個人を取り 巻く環境の中」に障害の要因を発見し、

それらを除去、軽減することを志向する 障害観である。医療モデルとは異なり、

バリアフリーや情報保障などを講じるこ とが検討される。社会環境の中にこそ存 在する障害を明らかにするとともに、障 害をもつ個人/集団におけるよりよい資 源利用と環境適応のあり方を提言しよう

とするものである。

従って、「障害の社会モデル」の発想に 根ざした国際開発とは、障害をもつ人び と自体を疎外してしまう「障害の撲滅」

の発想ではなく、障害をもつ人びと自身 が人間開発に主体的に関与していける方 途を考えるという発想に立っている。

3  共同研究「障害者の貧困削減」

ふたつ目の共同研究「障害者の貧困削 減:開発途上国の障害者の生計」

(2007

年 4 月— 2009 年 3 月、主査:森壮也)は、

その目的を以下のように示している。

「各国の政策の具体的提案の前提となる データについては、センサスの中での取 り組みも含め、まだ不十分な状況にある。

貧困層も多い障害者全般の生活の実態は その生計の様子、就労状況を含め、その 実態は詳らかとなっていない。」

「本研究は、これら従来の問題を克服で きるデータの構築・分析を目指す。また このデータによる障害者家計における就 業者や貧困状況の把握、および生活実態 の把握を行う。」[日本貿易振興機構アジ ア経済研究所

2 0 0 8 ]

ひとつ目の共同研究で確認された視座、

つまり、障害に関与する国際開発は、医 療モデルによる障害の撲滅を目指すので はなく、社会モデルによる環境の改善を

(4)

人類学を/で豊かにすること(伊藤・危#・券

H

・飯嶋・計塚・後藤)

目 指 す と い う 方 針 に基づいて、具体的な 実 態 調 査 を 行 い 、 デ ー タ に 基 づ い た 議 論 を 行 う こ と を 目 指 し た の が 、 ふ た つ 目 の 共同研究であった。

m .  

成果:「障害と開発」研究における 生 態 人 類 学 の 応 用

生態人類学と「障害の社会モデル」

の 類 似 性

ア ジ ア 経 済 研 究 所 の 共 同 研 究 で 求 め ら れ て い た こ と は 、 障 害 を も つ 個人を取り ま く 環 境 の 調 査 を し 、 そ れ に 関 わ る 定 量 的 な デ ー タ を 収 集 す る こ と で あ っ た 。 こ れ は 、 生 態 人 類 学 の 視 点 ・ 手 法 と 酷 似 し ていることが分かった。

生 態 人 類 学 と は 、 人 間 集 団 と 環 境 の 関 係 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と す る 人 類 学の一領域である。おもに、狩猟採集民、

農 耕 民 、 牧 畜 民 な ど 、 伝 統 的 な 生 業 集 団 の 調 査 を 中 心 に 、 世 界 各 地 の フ ィ ー ル ド で研究が行われてきた。生態人類学では、

こ れ ら の 人 び と の 資 源 利 用 の 実態を明ら か に し 、 環 境 へ の 適 応 の あ り 方 を 記 載 し ようとする。

こ の 視 点 と 方 法 は 、 そ の ま ま 「 障 害 の 社 会 モ デ ル 」 に 根 ざ し た 開 発 研 究 に 適 用 で き る こ と が 、 両 者 の 比 較 に よ り 明 ら か になった[亀井

2 0 0 8 ]

。生態人類学と「障 害 の 社 会 モ デ ル 」 は 、 い ず れ も 対 象 と な る 人 び と を 資 源 利 用 と 環 境 と の 関 係 に お い て と ら え よ う と す る 点 で 、 視 点 を 共 有 している。その結果として、「末開」「非 正 常 」 な ど の ネ ガ テ ィ ブ な ま な ざ し を 反 転 さ せ る 効 果 を も た ら す こ と も 共 通 し て いる。

「障害の社会モデル」に根ざした国際 開 発 研 究 で は 、 開 発 途 上 国 に お け る 障 害 を も つ 個 人 を 診 察 す る の で は な く 、 そ の 個 人 が 営 む 日 常 生 活 に お け る 環 境 の 中 の 障 害 要 因 を 抽 出 す る こ と を ね ら い と し て い る 。 複 雑 き わ ま り な い 、 し ば し ば 事 前 に 想 定 の で き な い 環 境 要 因 を 明 ら か に す

る に あ た っ て 、 質 問 紙 調 査 の み で は 限 界 も 多 く 、参与観察調査はきわめて有効な アプローチとなる。

2  コ ー ト ジ ボ ワ ー ル 現 地 調 査 の 実 施 このような着眼点とともに、

2008

1 0

月 3~21 日 (19 日間)、西アフリカのコ ー ト ジ ボ ワ ー ル 共 和 国 ア ビ ジ ャ ン 市 に お い て 、 障 害 ( 聴 覚 障 害 、 視 覚 障 害 、 肢 体 障 害 ) を も つ 人 び と の 生 活 と 労 働 の 実 態 を 明 ら か に す る こ と を ね ら い と し た 現 地 調査を行った。

こ れ は 、 人 類 学 的 な 要 素を含む試行的 調 査 と な っ た 。 す な わ ち 、 共 同 研 究 の 中 で 多 く 用 い ら れ て い た 統 計 資 料 収 集 、 質 問 紙 調 査 な ど の 手 法 と 並 行 し て 、 筆 者 は 人類学的な参与観察の手法を採り入れた。

聴 覚 障 害 の 床 屋 、 視 覚 障 害 の 電 話 交 換 手 、 下 肢 障 害 の 石 け ん 工 場 設 立 者 、 下 肢 障 害 の 靴修理屋など、インフォーマント た ち の 生 活 と 労 働 の 現 場 を 訪 ね 歩 き 、 そ れ ぞ れ の 環 境 と 資 源 利 用 の 実 態 を 明 ら か にした。

また、生態人類学の手法にならって、

対 象 と な る 人 び と を 直 接 観 察 す る と と も に、定量的なデータを取るよう心がけた。

さらに、文化、価値観、幸福感に関する 語 り を 収 集 し た り 、 行 動 を 観 察 し た り し た(結果の詳細は[亀井

2 0 1 0 ]

で紹介し たため、本論では割愛する)。

N. 副 産 物 と し て の 相 互 作 用

人 類 学 が 開 発 研 究 に 寄 与 し た こ と 生 態 人 類 学 と 「 障 害 の 社 会 モ デ ル 」 に 根ざした開発研究が類似しているという 認識を前提に、筆者は、第一義的には、

生 態 人 類 学 的 な 参 与 観 察 と 計 量 的 な 分 析 手 法 を 、 障 害 を も つ 人 び と の 環 境 利 用 の 調 査 に 応 用 す る こ と を 主 張 す る ス タ ン ス

をとった(人類学から開発研究へ)。

た と え ば 、 事 故 で 片 腕 を 失 っ た 女 性 の 語 り か ら 明 ら か に な っ た 文 化 依 存 的 な 障

(5)

人類学を/で豊かにすること(伊藤・危#・春月・飯嶋・針塚・後藤)

害、バリアの多い職場で勤務する下肢障 害の男性の生活戦略など、質問紙の項目

に沿った調査では抽出することが難しい、

環境の中のさまざまな障害要因とそれら への対処のしかたなどを、多く発見する

ことができた[亀井

2 0 1 0 ]

「障害と開発」研究における参与観察 調査の効用として、環境要因を広く見渡 し て 調 査 す る こ と が で き る こ と 、 文 化 的・社会的要因を抽出できること、個人 の主観的幸福感を含めた理解が可能とな ること、相手と同じ言語を話すことによ りラポールを形成し、回答のバイアスの 軽 減 が は か れ る こ と な ど が 挙 げ ら れ る 叫

一方、共同研究の中での議論において は、国際開発研究に参与観察調査を用い ることの短所も指摘された。サンプルが 少ないこと、時間がかかること、参与観 察が許可されない国・地域では実施が困 難であること、開発プロジェクトの中に 文化・主観.感情が含まれることの功罪 などである。このような対話を経つつも、

参与観察調査の手法の意義は、国際開発 の共同研究の成果として一定程度受容さ れた。

2  開発研究が人類学に示唆したこと 一方で、筆者は、開発研究ではすでに 用いられていながら、人類学が十全に取 り入れることができていないいくつかの 重要な方法と視角を見いだし、それらを

「人類学の側に持ち帰る」ことを意識す るようになった(開発研究から人類学へ)。

とりわけ重要なポイントとして、次の 二点が挙げられる。

(1)「だれを調査するのか」:文化相対主 義が従来扱ってこなかった、身体の差異 およびそれに関わる相対主義を、民族誌 的研究の中に公式に導入すること

(2) 「だれが調査するのか」:ネイティ ヴ・アンソロポロジー(自文化人類学)

の振興に関連し、開発研究が進める当事 者参加の調査から人類学が学ぶべきこと

(1)  だれを調査するのか

開発研究では、障害をもつ人びとに対 して、「開発の担い手」としての役割が期 待されている。このため、調査において も、障害をもつ本人に直接アプローチす ることが重視されている。

一方、人類学では、障害が民族誌の対 象として含まれることがあるが、一般的 には民族誌における脇役にすぎない。障 害をもつ本人たちの側へと入り込む参与 観察は、めったに行われてこなかった。

異なる身体をもつ人びとが、マジョリテ ィを含む当該社会の環境をどうとらえ利 用しているのかが明らかにされないまま となっている。文化人類学は、今なお、

自他の「身体の差異」というこれまで渡 られることのなかった川を前にして、向 こう側へと参与することを躊躇し続けて いるかのようである。

言語的な差異、文化的な差異を乗り越 えてきた文化人類学は、「身体の差異」お よびそれに関わる相対主義を、民族誌的 研究の中に公式に導入することができる であろうか。この問いが、文化人類学の 側に残された。

(2)だれが調査するのか

開発研究では、障害をもつ本人にアプ ローチし、問題発見を容易にするために、

類似の障害をもつ研究者や調査員を投入 することに積極的である。実際、アジア 経済研究所のふたつの共同研究を組織し た主査は、ろう者であった。また、この 共同研究の一環として、フィリピンにお いて、障害をもつ現地調査員たちの研修 と大規模な質問紙調査が実施されている。

これにならい、筆者が実施したコートジ ボワールでの調査でも、調査を円滑に進 めるために、現地のろう者の調査助手を 雇用し、手話によるインタビューを行う

など、インフォーマントが回答しやすい 調査環境作りにエ夫をこらしていた。

(6)

人類学を/で豊かにすること(伊藤・危#・赤H・飯嶋・針塚・後藤)

一 方 、 人 類 学 で は 、 こ の よ う に 身 体 的 に 多 様 な 民 族 誌 の 書 き 手 を そ ろ え て い る で あ ろ う か 。 民 族 誌 の 対 象 の み な ら ず 、

「 人 類 学 者の側の多様性」を確保する努 力 を し て い る と 言 え る で あ ろ う か 。 ネ イ テ イ ヴ ・ ア ン ソ ロ ポ ロ ジ ー の 振 興 ( 桑 山

2 0 0 8 )

は 、 言 語 的 ・ 文 化 的 な ネ イ テ イ ヴ に限らず、「身体条件に関する当事者」の 存在も忘れるべきではないであろう。

こ の こ と は 、 文 化 人 類 学 教 育 を 行 っ て い る 大 学 や 、 研 究 者 コ ミ ュ ニ テ ィ で あ る 学 会 が 、 障 害 を も つ 学 生 、 研 究 者 を 十 分 に 受 け 入 れ よ う と し て き た か ど う か と い う 、 構 造 的 問 題 と 関 わ っ て い る 可 能 性 も 指摘できる。

人 類 学 は 、 い っ そ う 「 身 体 条 件 が 異 な る 人 び と 」 の 文 化 と 社 会 に 対 し て 直 接 ア プ ロ ー チ し 、 そ の 記 述 を 行 う こ と が で き るであろう。また、「身体条件が異なる」

人 類 学 者 、 民 族 誌 の 書 き 手 の 育 成 を す る こ と も で き る で あ ろ う 。 こ れ ら は 、 い ず れ も 文 化 人 類 学 の 研 究 方 法 や 対 象 、 教 育 の あ り 方 、 理 論 的 な 枠 組 み に ま で 影 響 を 及ぼしうる、重要な「帰り道の手みやげ」

となった。

V. お わ り に : 人 類 学 の 雑 種 性 の 伝 統 と 実 践 志 向

今 日 、 人 類 学 の 「 実 践 」 を め ぐ る 指 向 性 が さ か ん に 論 じ ら れ て い る 。 ま た 、 実 践 の あ り 方 も 、 開 発 ( の ) 人 類 学 を 典 型 と す る 「 調 査 地 ・ 調 査 対 象 集 団 に 関 す る 人 類 学 的 な 知 見の活用」にとどまらず、

学 校 や 博 物 館 、 地 域 社 会 や

NPO

での関 与 と 共 働 な ど 、 す そ 野 は 広 が っ て い る と 見 ら れ る 。 こ れ ら に お い て は 、 人 類 学 的 な 方 法 と 知 見 を 他 領 域 に 輸 出 し 、 学 術 界 や 関 連 領 域 に お け る 人 類 学 の プ レ ゼ ン ス を 高 め 、 人 類 学 者 が 職 域 を 拡 大 す る こ と が想定されているかもしれない。

た だ し 、 歴 史 を 振 り 返 れ ば 、 文 化 人 類 学 は 、 隣 接 諸 領 域 、 た と え ば 生 態 学 、 民

俗 学 、 宗 教 学 、 社 会 学 、 農 学 な ど か ら 方 法 、 知 見 、 人 材 を 取 り 込 み 、 そ の 「 雑 種 性 」 を 長 所 と し て 発 展 を 遂 げ て き た 。 近 年 で は 、 む し ろ そ の 雑 種 性 の 低 下 を 危 惧 する見解も見られるほどである。

近年の「実践諸領域との出会い」は、

人 類 学 の 変 節 と 見 る べ き で は な く 、 む し ろ 人 類 学 の 「 雑 種 性 の 伝 統 」 の 上 に あ る と 見 る こ と が で き る で あ ろ う 。 人 類 学 が 他の領域に「与えつつもらう」ために、

同 時 代 の 新 し い 要 素 を 採 り 入 れ る 試 み が いっそう奨励されてよいはずである。

人類学者が雇われて仕事をすることも、

ま た 、 多 く の 素 材 が 魅 力 的 な エ ス ノ グ ラ フ ィ ヘ と 還 流 し て い く 好 機 に ほ か な ら な い 。 民 族 誌 を い っ そ う 豊 か に し て い く た め に も 、 人 類 学 が 隣 接 領 域 の 業 務 を 積 極 的 に 受 け 入 れ 、 関 与 し 、 そ こ で 得 ら れ た 知 見 を 民 族 誌 の 成 果 と し て 還 流 さ せ て い

くことが望まれる。

謝 辞

本 論 は 、 日 本 貿 易 振 興 機 構 ア ジ ア 経 済 研 究 所 ・ 共 同 研 究 「 障 害 者 の 貧 困 削 減 一 発 途 上 国 の 障 害 者 の 生 計 」 お よ び 「 開 発 問 題 と 福 祉 問 題 の 相 互 接 近 一 障 害 を 中 心に」(いずれも主査:森壮也氏)への参 加経験の中で得た示唆をもととしている。

ま た 、 第8回九朴1人 類 学 研 究 会 オ ー タ ム セ ミ ナ ー セ ッ シ ョ ン

( 2 0 0 9

1 1

7

日) お よ び 日 本 文 化 人 類 学 会 第

44

回 研 究 大 会 分 科 会

( 2 0 1 0

6

12

日)(いずれも 企画担当:伊藤泰信氏)における発表、

討 論 に 基 づ い て い る 。 さ ら に 掲 載 に あ た っ て は 、 匿 名 の 査 読 者 お 二 方 か ら 丁 寧 な コ メ ン ト を い た だ い た 。 関 係 各 位 に 感 謝 したい。

1) 「障害」と「障がい」のいずれの表記を採 用するかについては、さまざまな見解があ る。アジア経済研究所の研究会が依って立 つ 「 障 害の社会モデル」では、障害は個人

(7)

人類学を/で豊かにすること(伊藤・亀#・春fJ・飯嶋・針塚・後藤)

に 属 す る の で は な く 個 人 を 取 り 巻 く 社 会 環 境 の 側 に あ る と 考 え る た め 、 「 害 」 の 漢 字 を あ え て 用 い る こ と に 積 極 的 な 意 義 を 見 い だ す 論 者 が 多 い 。 本 論 も そ の 立 場 を 踏 襲し、以下「障害」の表記を用いる。

2) ::::rー ト ジ ボ ワ ー ル 共 和 国 に は 70種 類 を 超 える民族諸語が分布しているが、植民地期 に 導 入 さ れ た フ ラ ン ス 語 が 公 用 語 と し て 学校教育などで用いられている。耳の聞こ える調査協力者に対してはフランス語を、

ろ う 者 の 調 査 協 力 者 に 対 し て は フ ラ ン ス 語 圏 ア フ リ カ 手 話 を 用 い て イ ン タ ビ ュ ー などを行った。

参 照 文 献 亀 井 伸 孝

2006  『アフリカのろう者と手話の歴史一 A. 

J

・ フ ォ ス タ ー の 「 王 国 」 を 訪 ねて』明石書店。

2008  「途上国障害者の生計研究のための 調 査 法 開 発 一 生 態 人 類 学 と 「 障 害 の 社 会 モ デ ル 」 の 接 近 」 森 壮 也 編

『 障 害 者 の 貧 困 削 減 ー 開 発 途 上 国 の 障 害 者 の 生 計 中 間 報 告 書 』 日 本 貿易振興機構アジア経済研究所、

pp. 31‑47。

(http:/ /www.ide.go.jp/Japanese/ 

Research/Project/2007 /113.html)  2010  「コートジボワールの障害者の生計 ー 公 務 員 無 試 験 採 用 制 度 の 達 成 と 課 題 を 中 心 に 」 森 壮 也 編 『 途 上 国 障 害 者 の 貧 困 削 減 ー か れ ら は ど う 生計を営んでいるのか』岩波書店、

pp. 187‑211。 桑 山 敬 己

2008  『ネイテイヴの人類学と民俗学一知 の世界システムと日本』弘文堂。

日本貿易振興機構アジア経済研究所

2006  「開発問題と福祉問題の相互接近一 障害を中心に」

(http:/ /www.ide.go.jp/Japanese/ 

Research/Project/2006/ 429.html)  2008  「障害者の貧困削減:開発途上国の

障害者の生計」

(http:/ /www.ide.go.jp/Japanese/ 

Research/Project/2008/113.html)  森 壮 也 ( 編 )

2008  『障害と開発一途上国の障害当事者 と 社 会 』 日 本 貿 易 振 興 機 構 ア ジ ア 経済研究所。

2010  『途上国障害者の貧困削減ーかれら は ど う 生 計 を 営 ん で い る の か 』 岩 波書店。

NOLAN, R. 

2002  Development Anthropology. 

Westview Press.  (=2007、 関 根 久 雄 ・ 玉 置 泰 明 ・ 鈴 木 紀 ・ 角 田 宇 子 訳 『 開 発 人 類 学 一 基 本 と 実 践 』 古 今書院)

NUSSBAUM, M . C. 

2000  Women  and  Human.  Development,  Cambridge  University  Press.  (=2005、 池 本 幸 生 ・ 田 口 さ つ き 訳

『女性と人間開発ー一潜在能カアプ ローチ』岩波書店)

UNITED NATIONS DEVELOPMENT  PROGRAMME 

2004  Human Development  Report  2004:  Cultural Liberty in  Today's Diverse  World.  (=2004、 横 田 洋 三 ・ 秋 月 弘 子 監 修 『 人 間 開 発 報 告 書 2004ーこ の 多 様 な 世 界 で 文 化 の 自 由 を 』 国 際協力出版会)

(2011年 531日 掲載決定)

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