口腔 腫瘍5巻3号297∼302頁1993 症 例
口 腔 内 に 発 生 した 疣 贅 状 癌 の3例
坂 下 英 明
宮
田
勝
宮 本
日 出
車
谷
宏**
要 旨:高 分 化 型 扁 平 上 皮癌 の1亜 型 で あ る疣 贅 状 癌 は,1948年 にAckermanに よ っ て最 初 に報 告 さ れ た 。 日本 に おい て は,1990年 に浅 海 らが52例 を報 告 してい る 。 われ われ は,頬 粘 膜,舌,下 顎 歯 肉 の3例 の 疣贅 状 癌 を 報 告 した 。 頬 粘膜 お よび 舌 の2例 は 切 除 し,下 顎 歯 肉 の1例 は レー ザ ー 切 除 と蒸 散 を お こな った 。 本 腫 瘍 に お い て は,未 分 化 転 換 が しば しば 起 こ るた め,化 学 療 法 と放 射線 治 療 は 一 般 的 には 行 な わ れ な い 。 わ れ わ れ の3例 で は,外 科 療 法 が 選 択 され,局 所 制 御 が 得 られ た 。 キ ー ワ ー ド:疣 贅 状 癌,口 腔,レ ー ザ ー 手 術 緒 言 疣 贅 状 癌 は,1948年 にAckermanに よ っ て 提 唱 さ れ た 腫 瘍 で あ り,Ackerman tumorと も呼 ば れ て い る 。 本 腫 瘍 は,疣 状 あ る い は 乳 頭 状 の 外 方 性 増 殖 を 呈 し,臨 床 的 に も病 理 組 織 学 的 に も悪 性 度 の 低 い こ と を 特 徴 とす る 扁 平 上 皮 癌 の 一 亜 型 で あ る 。 今 回 わ れ わ れ は,本 腫 瘍 の3例 を 経 験 し た の で, そ の概 要 を 報 告 す る 。 症 例 症 例1 患 者:66歳 ・男 性 主 訴:右 側 頬 粘 膜 の腫 瘤 初 診:1991年3,月14日 既 往 歴:約35年 前,胸 膜 炎,約8年 前,狭 心 症 の治 療 を受 け る。 家 族 歴:特 記 事 項 な し 現 病歴:1981年 ご ろ よ り,右 側 頬 粘 膜 の 白斑 と 疼 痛 に気 づ くも放 置 してい た 。1984年1月24日, 当科 を受 診 した 。試 験 切 除 に て,紅 色 扁 平 苔 癬 と 診 断 し,副 腎皮 質 ホ ル モ ン軟 膏 の塗 布 に て症 状 は 軽 快 した ので 通 院 を中止 した 。数 か月 前 よ り,再 度疼 痛 が 出 現 した た め,不 安 に な り再 度 当科 を受 診 した 。 現 症:右 側 頬 粘 膜 か ら口角 の直 前 に か けて,約 18×10mmの 白色 で 疣 贅 状 の腫 瘍 を認 めた(写 真 1)。 また,所 属 リンパ 節 には 異 常所 見 は認 めな か っ た。 X線 所 見:異 常所 見 な し 臨床 診 断:頬 粘 膜 悪 性 腫 瘍(TINOMO) 処 置 お よび 経 過:試 験 切 除 にて 疣 贅 状 癌 と の診 断 を得 た た め,4.月1日 に腫 瘍 周 囲 に約5mmの 安 全 域 を も って切 除 した。 現 在 ま で,再 発 お よび 転 移 を認 めな い。 病 理 組 織 学 的所 見:角 化 傾 向 が強 く,異 型 性 に 乏 し く,核 分 裂 像 もほ とん ど認 め な い重 層 扁 平 上 皮 が 下 方 へ 棍棒 状 に増殖 して い た 。 しか し,基 底 膜 は破 壊 され ず,pushingmarginを 形成 し,下 部 へ の浸 潤 は認 め られ な か った(写 真2)。 また, 扁 平 上 皮 の一 部 で は,癌 真珠 の形 成 が認 め られ た 。 石 川 県 立 中 央 病 院 歯 科 口腔 外 科(主 任:坂 下 英 明 医 長) *石 川 県 立 中 央 病 院 病 理 科(主 任:車 谷 宏 医 長) 〔1993年9月30日 受 付 〕298口 腔 腫 瘍5巻3号1993 坂 下 英 明ほか 写 真1症 例1の 初 診 時 口腔 内 写 真 写 真2症 例1の 病理 組 織 像(HE染 色 ・中 拡 大) 写 真3症 例2の 初 診 時 口腟 内 写 真 写 真4症 例2の 病 理 組 織 像(HE染 色 ・中 拡 大) さ らに,上 皮 下 に は リンパ球 お よ び形 質細 胞 の 浸 潤 が認 め られ た 。 病理 組 織 学 的 診 断:贅 疣状 癌 症例2 患者:65歳 ・男性 主訴:右 側 口腟 底 部 の突 起 物 初診:1991年3月27日 既 往 歴 お よび家 族 歴:特 記 事 項 は な し 現病 歴:約10目 前 よ り,歯 牙 様 の突 起 物 が右 側 口腔 底 に露 出 し,義 歯 の使 用 の 障害 に な った 。 こ の た め,26目 に某 歯科 を 受診 し当科 を紹介 され た 。 27日 に 当科 を受 診 した 。顔 貌 所 見 と して は,右 側 顎 下部 に軽 度 の腫 脹 を認 め た 。 口腔 所 見 と して は, 右 側 顎 下腺 の開 口部 よ り約22x8mmの 黄 色 の 唾 石 が 口腔 内 に突 出 して い た 。 さ ら に,開 口部 よ り 少 量 の膿 汁 の排 泄 を認 めた 。 また,左 側 舌 側 縁 に, 約20×35mmの 白色 隆起 状 の腫 瘍 を認 め た が,所 属 リンパ 節 に は 異常 所 見 は 認 めな か った(写 真 3)。 X線 所 見:顎 下腺 開 口部 よ り,口 腔 底 に か け て, 長 さ約48mmの 唾 石 様 構 造 物 を認 め た。 臨床 診 断:右 側 顎 下腺 管 内唾 石 症 お よ び 舌 癌 (T2NOMO) 処 置 お よび 経 過;3刀28日,局 麻 下 に 口腔 内 よ り,唾 石 の存 在 す る部 位 の直 上 に切 開 を加 えて, 唾 石 を摘 出 した。 ま た,舌 腫 瘍 の試 験 切 除 をお こ な っ た。 病 理 組 織 学 的 に,疣 贅 状 癌 と の診 断 を得 た。4月12日,腫 瘍 の周 囲 に約1cmの 安 全 域 を 設 定 して,舌 部 分 切 除 術 を施 行 し,遊 離 前 腕 皮弁 に て再 建 した 。 現 在 まで,再 発 お よび 転 移 を認 め な い。 病 理 組 織 学 的 所 見:角 化 傾 向 が 強 く,異 型 性 に 乏 し く,核 分 裂 像 もほ と ん ど認 めな い重 層扁 平 上 皮 が下 方 へ著 明 に増 殖 して いた 。 下 方 へ の増 殖 は 指 状 で あ り,一 部 で は棍 棒 状 に肥 大 した部 分 も認 め られ た 。 しか し,基 底 膜 は破 壊 され ず,pushing marginを 形 成 し,下 部 へ の 浸 潤 は認 め られ な か っ た(写 真4)。 さ らに,上 皮 下 に は軽 度 の小 円 形 細 胞 浸 潤 が認 め られ た。 病 理 組 織 学 的 診 断:疣 贅 状 癌 症 例3 患 者:84歳 ・女 性
口腔内に発生 した疣贅状癌 の3例 口腔 腫 瘍5巻3号1993299 写 真5症 例3の 初 診 時 口腔 内 写 真 写 真6症 例3の 病 理 組織 像(HE染 色 ・中拡 大) 主 訴:右 側 下 顎 歯 肉 の腫 瘤 初 診:1992年10月21日 既 往歴:約10年 前 お よび約6年 前 に心 筋 梗 塞 に て 治 療 を受 けた 。約3年 前,両 側 白 内障 に て 手術 を受 け た。 家 族歴:特 記 事 項 な し 現 病歴:1992年8月 ご ろ よ り,右 側 下 顎 歯 肉 の 腫 瘤 に気 づ くも放 置 して い た 。最 近,義 歯 の不 適 合 に よる疼 痛 が 出現 して きた た め,10月21日 某 歯 科 を受 診 して 当科 を紹 介 され た。 現 症:右 側 下顎 歯 肉 臼歯 部 に約3.5×1.5cmの 疣 贅 状 腫 瘤 を認 め た(写 真 一5)。 腫 瘤 よ り頬 側 に 約2.5×2cmの 白斑 を,ま た腫 瘤 の やや 前 方 に も 約1×1cmの 白斑 を認 めた 。 さ らに,所 属 リン パ節 に は異 常 所 見 は認 め な か っ た。 X線 所 見:下 顎 骨 に骨 吸 収 像 は認 め な か っ た。 臨床 診 断:下 顎 悪 性 腫 瘍(T2NOMO) 処 置 お よび経 過:術 前 に は試 験 切 除 は お こ な わ ず,11,月13日 に局 所 麻 酔 下 に てCO2レ ー ザ ー に よ っ て腫 瘍 周 囲 に約5mmの 安 全 域 を もって 腫 瘍 を切 除 し,そ の後 に周 囲組 織 と腫 瘍 下 部 の組 織 を 蒸 散 した 。 こ の際 腫 瘍 は ほぼ 骨 膜 下 で切 除 し, 残 存 した組 織 も下 顎 骨 の骨 皮 質 が 露 出 す る ま で CO2レ ー ザ ー に て蒸 散 した。 術 中迅 速 病 理 に て, 疣 贅 状 癌 の診 断 を得 た。 また,手 術 断 端 にお ける 腫 瘍 細 胞 の有 無 を確 認 した 。 術 中 に は,下 顎骨 に 骨 吸 収 は認 め られ な か った 。 手術 創 には植 皮 な ど の特 別 な 処 置 は お こな わず 開 放 創 と して,抗 生 物 質含 有 ガー ゼ に てtieoverし た 。抗 生 物 質 含 有 ガ ー ゼ は 術後7日 に て 除去 した が ,下 顎 骨 は露 出 し 同部 が上 皮 化 す る ま で に は約3カ 月 を要 した。 現 在 ま で,再 発 お よび 転 移 を認 めな い。 病 理 組 織 学 的 所 見:隆 起 性 の腫 瘍 で,表 面 は全 体 的 に平 担 で は あ る が,一 部 で は乳 頭 状 で あ った 。 表 層 は錯 角化 が著 明 な重 層 扁 平 上 皮 で あ っ た。 扁 平 上 皮 は,棘 細 胞 症 と不 規 則 な棍 棒 状 の下 方 へ の 延 長 を示 して い た。 一 部 で は基 底 膜 の 不 明 瞭 な 部 分 が あ る もの の,全 体 と して は基 底 膜 は破 壊 され ず,pushingmarginを 形 成 し,下 部 へ の 浸潤 は 認 め られ な か っ た(写 真6)。 上 皮 細 胞 は 大 きい もの の,異 型 性 は ほ と ん ど認 め られ ず,基 底層 に 少 数 の核 分 裂像 を認 め る のみ で あ った 。 また,上 皮 の下 層 の一 部 で は,変 性 した小 細胞 巣 に石 灰 沈 着 を認 め た。上 皮 下 に は,小 円形 細胞 浸潤 を認 め た。 さ らに,前 方 部 の 白斑 部 の表 層 は錯 角化 を示 し,扁 平 上 皮 は棘 細 胞 症 と上 皮突 起 の軽 度 の 下方 へ の延 長 を示 す も の の,悪 性所 見は認 めなか った。 病理 組 織 学 的 診 断:疣 贅状 癌 お よび 白板 症 考 察 1941年 に,Friedellらllは 疣 贅 状 扁 平 上 皮 癌 の 8例 を 報 告 し た 。1948年,Ackerman2)は 口腟i内 に 発 生 す る 特 異 な 臨 床 病 理 学 的 所 見 を 示 す 高 分 化 型 扁 平 上 皮 癌 の31例 を 報 告 し て,疣 贅 状 癌 と 命 名 した 。 こ の た め,本 腫 瘍 はAckerman tumorと も呼 ば れ て い る37。 す な わ ち,本 疾 患 の特 徴 は 以 下 の 点 で あ る2,47。 (1)高 齢 者 に 好 発 す る 。 (2)頬 粘 膜 お よ び 歯 肉 部 が 好 発 部 位 で あ る 。 (3)男 性 に好 発 す る 。
300口 腟腫 瘍5巻3号1993 坂 下 英 明ほか (4)乳 頭 状 も し く は 疣 贅 状 に 増 殖 す る 。 (5)発 育 が 緩 慢 で あ る 。 (6)局 所 に お い て 深 部 へ の 増 殖 を 示 す 。 (7)再 発 が 多 い 。 (8)遠 隔 転 移 は ま れ で あ る 。 本 腫 瘍 の 発 生 頻 度 は 全 口 腔 癌 中 の1.7%5),2.2 %3),4.3%6),4.5%7),8.8%8),19.6%9)な ど と 報 告 され て い る 。 し か し,不 十 分 な 生 検 や 未 熟 な 病 理 診 断 に よ っ て,本 腫 瘍 が 単 純 な 過 形 成 や 通 常 の 扁 平 上 皮 癌 と して 診 断 され て い る 症 例 が か な り あ り,実 際 上 の 頻 度 は こ れ よ り も 多 少 高 い と の 指 摘 も あ る6'。 本 腫 瘍 の 発 生 部 位 と し て は,そ の 大 部 分 が 口 腔 領 域 で あ る が,喉 頭 な 食 道 な ど に も発 生 す る7)。 口 腟 領 域 で は 頬 粘 膜 に 好 発 し,欧 米 例376例 の 集 計 に よ る と 頬 部198例(52.7%),歯 肉99例(26.3 %),口 唇(口 角)29例(7.7%),硬 口蓋26例 (6.9%),舌20例(5.3%)な ど と 報 告 さ れ て い る6'。 本 邦 で は,湖 崎 ら10)や工 藤 ら1Dの 報 告 以 後 に,症 例 報 告 が 相 次い でい る 。 浅 海 ら121は52例 を 集 計 し,頬 粘 膜18例(34.7%),歯 肉17例(32.7 %),舌13例(25%),口 蓋2例(3.8%),口 唇2 例(3.8%)と 報 告 し て い る 。 ま た,鈴 木 ら4)は 36例 を 集 計 し,口 唇 ・口 角9例(25%),頬 粘 膜 8例(22.2%),歯 』肉 ・歯 槽 粘 膜8例(22.2%), 舌7例(19.4%),口 蓋2例(5.6%),口 底2例 (5.6%)と 報 告 して い る 。 本 報 告 で は,頬 粘 膜, 舌 お よ び 歯 肉 が 各1例 で あ り,好 発 部 位 に 発 生 し てい た 。 初 診 時 年 齢 は,本 邦 で の 集 計 で は 一 般 に60∼70 歳 代 に 多 く4,12)本 邦 で の 集 計 で は37∼95,.4'ま た は52∼89歳12》 の 年 齢 分 布 で,平 均 年 齢 は66.8歳4' ま た は68歳12)で あ る 。 ま た,こ れ ら の77%は60∼ 70歳 代 で あ り,一 般 の 口腔 癌 よ り も高 齢 者 に 多 く 発 生 す る 傾 向 が 認 め ら れ る12)。 本 報 告 で は,2例 が 好 発 年 齢 に発 生 し,1例 が 高 齢 者 で あ っ た 。 性 差 に 関 し て も種 々 の 報 告 が あ る が,本 邦 で の 集 計 で も 男 性 に 多 い と さ れ て い る4,121。 本 報 告 例 で も,男 性2例 ・女 性1例 で あ っ た 。 本 腫 瘍 の 臨 床 症 状 は,無 痛 性 腫 瘤 の 存 在 を 主 訴 と す る も の が 最 も多 く13),時 に は疼 痛 や 圧 痛,灼 熱 感 を 訴 え る7,131。 ま た,口 腔 内 の 白 斑 を 唯 一 の 症 状 と す る 場 合 も あ る6'。 本 報 告 例 で も,症 例1 が疼 痛 と 白斑 を,ま た 症 例3で は腫 瘤 を主 訴 と し, 症 例2で は 当科 で病 変 を指 摘 す る まで は 自覚 症 状 は認 めな か った 。 本 腫 瘍 は病 理 組 織 学 的 に は,以 下 の 特 徴 を持 つ4,6,7,13-15)0 (1)外 方 性 増 殖 に よ る肥 厚 を示 し,周 囲 の正 常 上 皮 とは 明確 に境 界 され る。 (2)そ の表 面 は疣 贅 状 あ る い は乳 頭 状 で あ る。 (3)腫 瘍 は深 部 組 織 を圧 排 して棍 棒 状 ま た は指 状 に進展 し,pushing marginを 形 成 す る。 (4)個 々 の細 胞 は異 型 の な い核 と豊 富 な細 胞 質 を有 し角化 傾 向 が 強 く,核 分 裂 像 は ほ とん ど認 め られ な い。 (5)角 化 真 珠 もまれ に は認 め られ る。 (6)腫 瘍 の深 部 増 殖 が進 ん で も基 底 膜 は常 に正 常 に保 たれ る。 (7)上 皮 下 に は慢 性 炎 症 浸 潤 が著 明 で あ る。 本 報 告 例 の3例 は と もに,上 記 の基 準 を満 た して い た 。症 例3で は,一 部 で基 底 膜 の不 明 瞭 な部 分 を認 め た もの の,下 部 へ の浸 潤 は認 めず,push-ingmarginと 判 断 した 。 本 腫 瘍 との鑑:別診 断 を要 す る疾 患 と して は,疣 贅 状 高 分 化 型 扁 平 上 皮 癌,乳 頭 癌,棘 細 胞 腫,偽 上 皮 腫 性 過 形 成,疣 贅 状 過 形 成,口 腔 乳 頭 腫 症, 乳 頭 状 白斑 症 な どが挙 げ られ る4,14,15)。前 述 した よ うに,本 腫 瘍 が過 形 成 や 扁 平 上 皮 癌 と して診 断 され て い る症 例 が あ る と考 え られ る と同時 に,高 分 化 型 扁 平 上 皮 癌 の 中 に は本 腫 瘍 との鑑 別 が 困難 な 症例 が存 在 す る16)ので,注 意 を要 す る 。特 に, 生 検 組 織 の み で確 定 す る こ とは 困難 で あ る と され て い る4)。本 報 告 例 で は,3例 と もに切 除標 本 を 全 体 的 に評 価 して診 断 した。 本 腫 瘍 が,臨 床 的 に 比較 的 悪 性 度 の低 い性 格 を 有 す る こ と よ り,治 療 法 と して は,周 囲組 織 を十 分含 めて の外科 的切 除 が 行 わ れ る 。 しか し,周 囲 へ の浸 潤 が 高 度 な場 合 に は,顎 切 除 や頸 部 郭 清 が 必 要 と され る12)。これ に対 して,:放 射 線 治 療 は そ の効 果 が 疑 問 視 され て い る13)。す な わ ち,放 射 線 治 療 後 の高 率 の再 発2)や 未 分 化 転 換 が 認 め ら れ る17)ためで あ る。 こ のた め,本 報 告例 で は放 射 線 治 療 や 化 学 療 法 を施 行 しな か った 。 症例1お よび 症 例2で は,安 全 域 を も って切 除術 を お こ な い, 症例3で はCO2レ ー ザ ー に て腫 瘍 を切 除 した後
口腔内 に発生 した疣 贅状癌 の3例 口腔 腫 瘍5巻3号1993301 に,周 囲 組 織 を 蒸 散 し た 。 こ の 結 果,症 例3で は 経 過 観 察 期 間 が 短 い も の の,3例 と も に 局 所 制 御 が 得 られ て い る 。 特 に 最 近 で は,CO2レ ー ザ ー 蒸 散 を 併 用 した 治 療 法 の 有 用 性 が 報 告 さ れ て い る4)。 症 例3で は,CO2レ ー ザ ー に よ る 腫 瘍 の 切 除 と 蒸 散 を お こ な い 良 好 な 結 果 を 得 た 。 し か し, こ の 際,下 顎 骨 の 骨 皮 質 が 露 出 す る ま で 蒸 散 を お こ な っ た こ と が 創 の 治 癒 を遅 延 さ せ た と考 え ら れ た 。 本 腫 瘍 の リ ンパ 節 転 移 は ま れ で あ り,31例 中 の 2例2),55例 中 の1例7),3例 中 の1例5)に 所 属 リ ン パ 節 転 移 が 認 め られ て い る 。 し か し,本 邦 で の 報 告 例 で は リ ン パ 節 転 移 は 認 め られ て い な い 。 ま た,遠 隔 転 移 は 文 献 的 に も認 め ら れ て お ら ず12), 本 腫 瘍 の 特 徴 の1つ と考 え られ る 。 本 報 告 例 で も, リ ン パ 節 転 移 お よ び 遠 隔 転 移 は 認 め られ な い 。 口腔 内 の 疣 贅 状 癌 の 発 症 要 因 と し て,タ バ コ と の 関 係 を 指 摘 す る報 告 が 多い1,18,19'。 さ ら に,総 義 歯 に よ る 長 期 間 の 物 理 的 刺 激 や 口腔 内 の 不 衛 生 も 本 腫 瘍 の 発 生 要 因 と し て 関 与 し て い る 可 能 性 を 指 摘 す る 報 告 も あ る4,20)。 そ こ で,こ れ ら の 点 に つい て 検 討 し た 。 す な わ ち,症 例1で は1日 約10 本 の タ バ コ を 約46年 間 に わ た っ て 喫 煙 し て い た (Blinckman指 数460)。 義 歯 は約7-8年 間 に わ た っ て 使 用 し て い た が,適 合 性 は 良 好 で あ っ た 。 ま た,口 腔 内 の 衛 生 状 態 は 良 好 で あ っ た 。 症 例2 で は,1日 約20本 の タ バ コ を 約40年 間 に わ た っ て 喫 煙 し てい た(Blinckman指 数800)。 義 歯 は 約 10年 間 に わ た っ て 使 用 し て い た が,適 合 性 は 比 較 的 良 好 で あ っ た 。 し か し,口 腔 内 の 衛 生 状 態 は 不 良 で あ っ た 。 症 例3で は,不 適 合 な 総 義 歯 を 約8 年 間 使 用 し て い た が,口 腔 内 の 衛 生 状 態 は 比 較 的 良 好 で あ っ た 。 ま た,喫 煙 歴 や 飲 酒 歴 は な か っ た 。 す な わ ち,こ れ ら3例 で は 明 確 な 因 果 関 係 は 示 唆 さ れ な か っ た 。 現 在,3例 と も に 経 過 は 良 好 で あ る が,長 期 の 経 過 観 察 の 必 要 が あ る と考 え られ る 。 結 語 疣 贅 状 癌 は,臨 床 的 に も病 理 組 織 学 的 に も悪 性 度 の低 い こ とを特 徴 とす る扁 平 上 皮 癌 の一 亜 型 で あ り,口 腔 内 の腫 瘍 と して は比 較 的 まれ な腫 瘍 で あ る。 今 回 わ れ わ れ は,本 腫 瘍 の3例 を経 験 した の で, 若 干 の文 献 的 考 察 と と もに報 告 した。 文 献
1) Friedell, H.L. and Rosenthal, L.M.: The etio-logic role of chewing tobacco in cancer of the mouth ; Report of eight cases treated with radiation. JAMA 116: 2130-2135, 1941. 2) Ackerman, L.A.: Verrucous carcinoma of the
oral cavity. Surgery 23 : 670-678, 1948. 3) Duckworth, R.: Verrucous carcinoma
present-ing as mandibular osteomyelitis. Brit J Surg 49 332-337, 1961.
4) 鈴 木 徹,松 下 文 彦,他:口 腔 粘 膜 に 発 生 し た 疣 贅 状 癌 の3例.口 腔 腫 瘍5:40-47,1993.
5) Jacobson, S. and Shear, M.: Verrucous carci-noma of the mouth. J Oral Path 1 : 66-75, 1972.
6) 金 聖 眞,長 谷 川 哲,他:口 腔VerrucousCarcino-maの 臨 床 病 理 学 的 検 討―4症 例 と 文 献 的 考 察―.
日耳 鼻91:32-40,1988.
7) Goethals, P.L., Harrison, E.G., et al.: Verru-cous squamous carcinoma of the oral cavity. Am J Surg 106 : 845-851, 1963.
8) Cooke, R.A.: Verrucous carcinoma of the oral mucosa in Papua-New Guinea. Cancer 24: 397-402, 1969.
9) Fonts, E.A., Greenlaw, R.H., et al.: Verrucous squamous cell carcinoma of the oral cavity. Cancer 23 : 152-160, 1969. 10) 湖 崎 武 敬,藤 本 孝 知,他:口 腔 領 域 に 生 じ た イ ボ 状 癌 腫 の1例.阪 大 歯 誌12:275-278,1967. 11) 工 藤 啓 吾,中 嶋 武:稀 なverrucouscarcinomaの 1例.歯 科 学 報68:1268-1275,1968. 12) 浅 海 淳 一,西 嶋 克 巳,他:口 腔 に 発 生 し た 疣 贅 状 癌 の2例 お よ び 文 献 的 考 察.日 口 外 誌36:377-384, 1990.
13) Kraus, F.T, and Perez-Mesa, C.: Verrucous carcinoma ; Clinical and pathologic study of 105 cases involving oral cavity, larynx and genitalia.
Cancer 19 : 26-38, 1966.
14) 迫 田 由紀 子,高 木 実,他:口 腔 扁 平 上 皮 癌 の病 理 組 織 学 的研 究;W疣 贅 状 癌 の組 織 診 断.口 病 誌 45:129-136,1978.
15) Batsakis, J.G., Hybels, R., et al.: The patho-logy of the head and neck tumors ; Verrucous carcinoma. Head and Neck Surg 5 : 29-38, 1982.
16) 坂 下 英 明,松 原 五 郎,他:InvertedPapilloma様 所 見 を 呈 し た 頬 粘 膜 高 分 化 型 扁 平 上 皮 癌 の1例.口 科 誌34:429-435,1985.
17) McDonald, J.S., Crissman, J.D., et al.: Verru-cous carcinoma of the oral cavity. Head Neck Surg 5 : 22-28, 1982,
18) Medina, J.E., Dichtel, W., et al.: Verrucous squamous carcinoma of the oral cavity. Arch Otolaryngol 110: 437-440, 1984.
302口 腔 腫 瘍5巻3号1993 坂 下 英 明ほか
tumor (verrucous carcinoma) of the oral cavity; AclinicoO-epidemiologic study of 426 cases. Aust
Dent J 33:295-298,1988.
20) 久 保 仁 美,松 本 和 彦,他:口 腔 内 に 生 じ たVerru-cousCarcinomaの3例.臨 皮47:197-201,1993.
Oral
verrucous
carcinoma
:
Report
of three
cases
Hideaki Sakashita, Masaru Miyata, Hizuru Miyamoto and Hiroshi Kurumaya* Department of Dentistry and Oral Surgery, Ishikawa Pref ectural Central Hospital
(Chief: Hideaki Sakashita)
*Department of Pathology , Ishikawa Prefectural Central Hospital (Chief: Hiroshi Kurumaya)
Abstract
Verrucous carcinoma, a variant form of well-cliff erented squamous cell carcinoma, was first described by Ackerman in 1948. In Japan, 52 cases were reported by Asaumi et al. in 1990.
In this paper, we reported 3 more cases of verrucous carcinoma (buccal mucosa, tongue and lower gum). Two cases, occurring in buccal mucosa and tongue, were resected, while the other case, occurring in the lower gum was treated by laser cutting and vaporization.
In the case of such a tumor, chemotherapy and radiation therapy is not commonly applied because of the frequent occurrence of anaplastic transformation. In our cases, surgical treatment was selected and local control was possible.