1
研 究 結 果 報 告 書
平成28年1月14日 公益財団法人 長野県学校科学教育奨励基金
理事長 小根山 克雄 様
学校名 長野工業高等学校 校長 森本 克則 印 1 研究テーマ 「座屈現象の測定について」
2 研究グループ名 「長野工業高等学校 機械班」
西村神之将、丸山颯斗、酒井達也、塚田郁哉
3 指導者 土屋 善裕
4 研究の動機及び目標
工業・機械科の教科書「機械設計」には様々な公式が記載されているが、なかには式の由来につい て説明もなくいきなり出てくる場合もあり日常生活の実体験とイメージしにくいものがある。実体験 のほとんどないことを理解させようとすることは生徒に学習を強いているようにも感じられ、ややも すれば公式の羅列で苦痛すら与える危険性もあるかと思う。そこで実体験的に実験を行い現象の規則 性を式に表現できれば公式の表現が何故そうなるのかにつながっていき、また昔の人がどのように法 則を式として表現したのか考えるきっかけになると思う。“座屈”現象は“応力”や“ひずみ”の説明 よりも現象としては理解できるところであるが最も優先して学んでもらう箇所ではなくそれゆえ簡単 に通過してしまうところであるがここを実験的に学ぶきっかけになればと考えた。
5 研究内容の概要
木材の断面形状を一定にして、長さを変化させ万能試験機で圧縮をかける。圧縮をかけると万能試 験機に圧縮変位と荷重値の変化が記録されるがその値は木材が折れ曲がる直前に最大値となる。同じ 長さの木材をいくつか実験してすべての荷重値を記録してその大きさがある範囲のなかにどれくらい あるかグラフにまとめる。長さを変えてこれを繰り返し、長さと荷重値の最大値の平均とをグラフに 関連づける。この結果が数式でどのように表現できるか検討する。本来であれば鉄など等方性である 金属で実験をすれば良いが廃材の処理など問題が有るので燃やせば燃料にもなる木材を使用すること にした。
1.始めに
工業「機械設計」には様々な公式がある。その中で部材に荷重をかけた時に起こる現象として座屈 がある。座屈荷重の式が木材のどうような数値(断面形状、長さ等)に関係しているかを検討した。
万能試験機で試験片の座屈荷重を測定しその長さ、断面形状および木材弾性率との関係を調べる過程 を通して公式の誘導について実験結果から類推してみた。
2 2.実験方法
ヒノキ板を断面形状を高さ8mmおよび16mmの2種類 としいずれも幅 25mm として用意した。試験片長さを 100mm、200mm、300mm、400mm、500mmに切断し、
写真1,2のように万能試験機で垂直になるように設置後、
圧縮荷重をかけ最大圧縮荷重値を最大座屈荷重値としてデ ータを収集した。折れ曲がる位置はほぼ板の中心であるが 厳密に中心とはならない。少し上であったり下であったり する。また折れ曲がる方向も予測がつかない。写真ではダ イヤルゲージをあて変位を測定しようと試みたがこのよう な理由で変位の測定はあまり意味がなかった。木材は年輪 など変化の要素が非常に多く実験結果のばらつきも多かっ た。
この結果は図 1(長さ 200mm、断面 16× 25mm)の様に万能試験機に記録される。この グラフの場合14.5kNくらいが最大荷重値とな って記録された。この値は材料の長さが大きく なると小さくなり、材料の長さが小さくなると 大きくなる。この値を実験数を増やしてデータ として採る。
写真1
写真2
0 1 2 3
0 4 8 12 16
荷重値[kN]
圧縮変位[mm]
図1
3
0 2 4 6
100mm
0 2 4 6
200mm
0 2 4
300mm
0 2 4 6
400mm
0 2 4
データ区間
500mm 3.実験結果
実験結果の整理はそれぞれの試験片の最大荷重値を0.5kNから22.5kNまでを1kN刻みの階級に分 けた。座屈荷重最大値の階級における実験結果の発生頻度をたて軸に、座屈荷重値の階級を横軸にヒ ストグラムにまとめた。図2がヒストグラムである。図2-aは板の厚さ8mm、図2-bは板の厚さは16mm の実験結果である。
0 5 10 15
100mm
0 5 10 15
200mm
荷重値 単位[kN]
図2-a 図2-b
幅8mmの長さ500mmは材料が十分にそろえることができなかったためデータ数は少ない。
単純にみて短い材料ほど座屈荷重値は大きくなっていることが確認できた。それぞれの実験結果の 分布であるが残念ながら標準的な正規分布になることを期待したがこの数ではならなかった。特に厚
さ8mmの長さ200mmの試験数は32であるがこれでも正規分布にはならなかった。ただし個別の実
験結果をもう少し細かく範囲をくぎれば正規分布に近づくが全体を比較しなければならないのでヒス トグラムの範囲はこんなものかと思う。全体の傾向はよくでた結果だとは思える。
0 5 10 15
300mm
05 1015 20
400mm
0 5 10
データ区間
500mm
4 200mm
15.6625 0.439499 16.06875
#N/A 1.389819 1.931597 0.797919 -1.02909 4.475 12.7125 17.1875 156.625 10
300mm 14.39875 0.544851 14.675
#N/A 1.72297 2.968627 0.695665 -0.87411 5.6625 10.8875 16.55 143.9875 10
400mm 11.55875 0.624644 10.69375
#N/A 1.975299 3.901807 -0.52963 0.964056 5.25 9.75 15 115.5875 10
500mm 9.945833 0.561059 10.1875
#N/A 1.683177 2.833086 -0.21161 0.095338 5.225 7.6375 12.8625 89.5125 9 100mm
平均
19.22833標準誤差
0.335143中央値 (メジアン)
18.8最頻値 (モード)
#N/A標準偏差
1.298002分散
1.68481尖度
-0.3388歪度
0.74439範囲
4.3625最小
17.525最大
21.8875合計
288.425標本数
15表1-aは厚さが8mm、表1-bは16mmのそれぞれの実験データの平均値、標準偏差その他の値であ る。
表1-1(図1-a)
長さ
100mm 200mm 300mm 400mm 500mm平均
8.4048077 5.80625 3.5609375 1.85 1.3069444標準誤差
0.2630389 0.2424392 0.1200428 0.0897131 0.0868805中央値 (メジアン)
8.8375 6.0375 3.5375 1.875 1.3875最頻値 (モード)
9.05 #N/A 2.6875 2.0375 #N/A標準偏差
1.3412405 1.3714433 0.5880873 0.4661627 0.2606416分散
1.798926 1.8808569 0.3458466 0.2173077 0.067934尖度
0.6243053 -0.248453 -0.280089 -0.450858 -0.774261歪度
-1.131677 -0.347602 -0.083379 0.1228999 -0.011551範囲
5.15 6.025 2.3875 1.825 0.7875最小
4.8875 2.525 2.3375 0.975 0.95最大
10.0375 8.55 4.725 2.8 1.7375合計
218.525 185.8 85.4625 49.95 11.7625標本数
26 32 24 27 9表1-2(図1-b)
断面の高さ16mmの実験は多くの材料を入手できなかったため試験数が少ないため標準偏差が大きく 断面8mmと比較してやや信頼性にかける危険性もあるかもしれない。これより各データ単純平均値は 表2のようになった
表2―1(図1-a) 表2-2(図1-b)
長さ(mm) 荷重値(kN)
100 8.4
200 5.81
300 3.56
400 1.85
500 1.31
長さmm) 荷重値(kN)
100 19.2
200 15.7
300 14.4
400 11.6
500 10.0
5
それぞれの長さの試験片の座屈荷重値の平均値と試験片長さの関係を図3のグラフにした。
このグラフから試験片長さと座屈荷重の関 係を考えたい。グラフから負の直線関係と いうよりは反比例的関係があることが考え られる。単純に考えると“長さ”は分母の 位置にくることが考えられる。
座屈加重:Wとし 断面の何か:xとし 材料の長さ:hとすると
の関係が考えられる。
分子xを200mm2または400mm2との断面 積として分母hを100から500まで変化さ せたデータを作ると表3のようになる。
この計算結果は非常に小さすぎてグラフを満足さ せない。分子側を大きな値にするかまたは係数が必 要になる。
材料の断面はいずれも長方形で座屈は長方形の 長い辺に直角の方向に曲がり、けっして短い辺に直 角に曲がることはない。つまり単純に分子側に面積 の値を入れることはできなかったのである。
xを断面の何かと書いたが実は材料の断面に力が作用する方向に関係する“剛性“を数値化した値が 必要になる。実験では 1 種類の木材しか行っていないが例えば同じ断面積をもつ金属などの実験を行 えば座屈荷重値は別の値になるはずなのではっきりすことが予想されるがそれはできなかった。
”座屈“の分野の学習の前にはりの曲げについて学習するがそのときに曲がりにくさの指標を示す 数値に断面二次モーメントがある。材料の断面形状は幅がともに同じ25mmである。25mmを底辺に 高さを8mm、16mmとしたそれぞれの断面二次モーメン トの数値を計算する。また剛性を構成するもうひとつの指 標にたて弾性係数がある。これを実験で確認する。
材料の荷重に対する伸びや圧縮などの変形の起こりや すさ、起こりにくさを実験により求めた数値としてたて弾 性係数があるがここでは試験片をかた持ちはりとして写 真3のように荷重をかけそのたわみを測定することでた て弾性係数を得てその値ともうひとつの指標の断面二次 モーメントとを仮想した座屈荷重の式の分子側に入れて
W x
=h
0 200 400
0 10 20
座屈荷重[kN]
試験片長さ[mm]
図3
試験片長さ 断面積200mm
2断面積400mm
2100 2.0 4.0
200 1.0 2.0
300 0.7 1.3
400 0.5 1.0
500 0.4 0.8
表3
写真3
6
検討をしてみる。たわみの測定は 以下のように行った。
試験機の上側にダイヤルゲー ジを設置し試験片の下側から荷 重をかけて変位を記録した。
結果は表4-1、2である。
同じ試験片を縦横を交換して同 様に測定を行った。
似たような値になることがわ かった。荷重が小さいときの弾 性率が大きく荷重が大きくなる と弾性率は大きくなるがどのあ たりの数値を採用するかが問題 になる。
変位と荷重との関係をグラフ にすると図4のようになる。
このグラフから変位が 3mm 前 後から大きく変化していること がわかり弾性率が変化している ことになる。したがって変位が 1mmから2mmまでの3つのデ ータの平均を曲げ弾性係数とす ることにしたい。
4.7GPaとした。この値は文献な どにある範囲にある。ただし文献 の値は引張りまたは圧縮試験による値で あることが通常でありまた曲げ試験は 4 点曲げモーメントにより得たものである ことが多い。金属などの曲げ試験から得ら れた値は引張りなどの試験から得られた 数値の90%程度と言われている。したがっ てこの数値はやや低めの値と思われる。そ こできりよくこれを 5GPa として以後扱 うことにする。
荷重[N] 変位[mm] 曲げ弾性率[Mpa]
8.8 0.523 4307.443195
底辺
25mm 18.8 1.016 4736.992716高さ 8mm
27.5 1.513 4652.99238136.2 2.019 4589.980359
断面二次モーメント
42.5 2.526 4307.191284 1066.66748.7 3.012 4139.163382 52.5 3.526 3811.672431 55 4.026 3497.256568 56.2 4.521 3182.294616 58.7 5.021 2992.860369 60 5.533 2776.061964 61.3 6.021 2606.336121
表4-1
荷重[N] 変位[mm] 曲げ弾性率[Mpa]
11.3 0.523 5531.148648
底辺
8mm 18.8 1.028 4681.697081高さ 25mm
26.2 1.521 4409.71632932.5 2.021 4116.760701
断面二次モーメント
37.5 2.528 3797.456203 10416.6741.3 3.024 3496.285108 43.7 3.536 3163.790781 47.5 4.034 3014.368143 50 4.525 2828.72023 53.8 5.027 2739.7565 56.2 5.536 2598.835614 57.5 6.03 2441.119883 60 6.535 2350.41329 62.5 7.029 2276.276682 63.7 7.453 2187.997829
表4-2
0 2 4 6
0 20 40 60
変位[mm]
荷重値[N]
図4
7 前述の座屈荷重値の仮定の数式
の分子を材料の曲がりにくさの曲げ弾性係数と曲がる方向の断面二次モーメントの積(曲げ剛性)に 置き換える。
I:断面二次モーメントでこの場合1066.7を使用する。
E:通常はたて弾性係数であるがこの場合5GPaで5000MPaを式に使用する。
以上から計算上の荷重値 W のデータを作ると 表5のようになる。①は分母の長さをそのまま 数式に入れ②は分母の長さの2乗を入れて計 算した。この計算結果を図3に改めて入れてみ る。それを図5とした。図では断面の高さ8mm 底辺 25mm について入れてみた。表5の計算 値の単位は[N]なので図5には[kN]に変換して ある。y 軸の範囲は図3と比較してかなり拡大 した。これで長さ300mmから500mmまでに ついては実験結果と計算結果は少し近づいた。
係数や分母の次数をいろいろ変化させればも っと実験値に近づくものと思われる。これにつ いてはグラフ作成ソフトで行ったが報告書の 量も多くなり今回の実験の報告からは少しそ れていくのでここではこのままにしたい。
改めて長さ100mm以下の実験の必要性が出 てきたがもし実験を行えば急激に上昇してい くことが予想される。つまり今回の木材の実験 はx軸y軸にかなり接近したグラフになるかと 考えられる。工業・機械科の教科書「機械設計」
のオイラーの座屈の公式は厳密には微分方程 式から誘導しているので実験データからたど り着けるかは無理があるがここまでの実験で 座屈荷重値に試験片の形状がどのように関係 しているかは十分裏付けられたと思う。オイラーの式は以下のように教科書には記述されている。
2 min
2
W n EI π l
=
分子のImin は、たて横断面の小さいほうの断面二次モーメントである。
W x
= h
① ②
=(EI)/l =(EI)/l^2
100 53335 533.35
200 26667.5 133.3375
300 17778.33333 59.26111111 400 13333.75 33.334375
500 10667 21.334
600 8889.166667 14.81527778 表5
0 200 400
0 20 40 60
図5
W EI
= l
8 6 研究のまとめと今後の問題
膨大な数の実験をひたすら行った。結果的にはまだ不足していた。長さ 100mm 以下の実験結果が 必要であった。過去の偉人たちは微分方程式から得られた理論値と実験を重ねて理論の正しさを確認 したことを想像すればやはり長さの変化はもちろんのこと材料を変えた実験数を数多くこなさなけれ ば実用に耐えるものはできなかったであろうことがわかった。
報告書は結果だけしか出てこないが膨大な実験データをエクセルで処理したのでエクセルの使い方 が向上した。もう少し実験データを数式に変換できるソフトウェアがあればいいが苦労しながら変換 していくのも勉強になった。
実験は木材を使用したがやはり等方性の材料で行ったほうがいいかと思う。金属は廃棄物の問題が あるが木材にはバラツキがあり一律に実験データとして扱うには少し問題があり、結局どちらもなか なか後々難しい問題が残ることがわかった。
7 その他
実験途中で課題が生まれ、そのための装置を急きょ作ろうとしたが時間もなく、問題もありこの部 分は中途半端になった。しかし今後の活用に向けて工夫して活用していく。