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放 射 化 学

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放 射 化 学

解説

   J-PARC / ANNRIにおける即発ガンマ線分析法開発   113番新元素の合成

  113番元素の命名権、日本へ!

  

特集

  2015年度学会賞

  2015日本放射化学会年会 若手優秀発表賞受賞者による研究紹介   研究室紹介−2015若手の会から−

(2)

目次

解説

 J-PARC / ANNRIにおける即発ガンマ線分析法開発(藤 暢輔)……… 1  113番新元素の合成(森本幸司)……… 10  113番元素の命名権、日本へ!(工藤久昭)……… 17 特集 2015年度学会賞

 学会賞(日本放射化学会学会賞選考委員会)……… 23  学会賞受賞者による研究紹介(鄭 建)……… 25 特集 2015日本放射化学会年会 若手優秀発表賞受賞者による研究紹介

 福島第一原発事故で放出した放射性粒子の生成プロセス(佐藤志彦)……… 35  ウシの歯のSr-90とCs-137濃度を指標とした環境中からウシへの取り込みの

      時間変化の解析(小荒井一真)……… 37  105番元素Dbの化学実験のためのAliquat 336樹脂を用いたNb, Taのフッ化水素酸中

      からの固液抽出(佐藤大輔)……… 41  MA/Ln分離におけるmono-triazinyl-phenanthroline系抽出剤の合成とその性能評価

      (亀澤明憲)……… 43  東京湾と千葉県都市河川の底質における福島第一原発事故由来の放射性セシウムの

      鉛直分布(添盛晃久)……… 45  陽電子消滅時刻運動量同時測定法によるArガス中でのPs熱化過程(佐野陽祐)……… 48 特集 研究室紹介−2015若手の会から−

 2015日本放射化学会年会・第59回放射化学討論会 若手の会(小森有希子)……… 52  広島大学放射線反応化学研究グループ(金子政志)……… 53  徳島大学大学院放射線理工学分野先端放射分析化学研究室(武田晋作)……… 55

33

平成28年(2016年)3月28日

(3)

会議報告

 原子力総合シンポジウム2015開催報告(松岡 猛)……… 58

 第4回環境放射能除染研究発表会・国際シンポジウム(森田昌敏)……… 59

 第54回核化学夏の学校(横山明彦)……… 60

 2015放射化学会年会・第59回放射化学討論会 実施報告(関根 勉)……… 62

 大阪大学医・理・核物連携「新規医療イノベーションのためのシンポジウム2015」(篠原 厚)…… 68

 第10回高崎量子応用研究シンポジウムの報告(山﨑翔太)……… 71

 第2回核医学治療国際シンポジウム(鷲山幸信)……… 73

 Pacifichem2015シンポジウム「The Expanding Periodic Table: New Discoveries &       Chemistry of the Heaviest Elements」(永目諭一郎)……… 76

 Pacifichem2015シンポジウム「Isotope Production-Providing Important Materials for       Research and Applications」(初川雄一)……… 78

 Pacifichem2015シンポジウム「Fukushima and Radiological Contaminated Environments       World-wide: The Important Role of Environmental Chemistry and       Radiochemistry in Remediation and Restoration」(佐々木隆之)……… 80

 Pacifichem2015シンポジウム「Nuclear Probes in Nanoscale Characterization」(山田康洋)…… 82

 Pacifichem2015シンポジウムExperimental and Theoretical Actinide Chemistry: From       Fundamental Systems to Practical Applications(矢板 毅) ……… 84

 Pacifichem2015シンポジウム「Radioactive Contaminants and Waste Management in the       Environment」(大貫敏彦) ……… 86

 Pacifichem2015シンポジウム「Science with Beams of Radioactive Isotopes」(羽場宏光) ……… 88

時過ぎて  Gregory Robert Choppin先生(1927-2015)(薬袋佳孝)……… 91

情報プラザ(国際国内会議)……… 94

学会だより ……… 95

「放射化学」論文編集委員会規定 ……… 101 賛助会員リスト

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表紙の説明

 113番元素の同位体278113α壊変を繰り返していく様子(提供:理化学研究所)。

(4)

1.はじめに

 中性子ビームを試料に照射すると、中性子が試 料中の原子核と捕獲反応を起こす。その際に放出 する即発ガンマ線を測定すれば、ガンマ線のエネ ルギーから定性分析、その本数から定量分析を行 うことができる。この分析法は中性子放射化分析 法の一つであり、中性子即発ガンマ線分析、もし くは単に即発ガンマ線分析(prompt gamma ray analysis: PGA)と呼ばれている。PGAは非破壊 で多元素同時定量が可能であり、透過力の高い中 性子とガンマ線を利用しているため、バルク試料

の分析に用いることが出来る。また、ガンマ線の エネルギーは元素(核種)毎に異なるため、多元 素(核種)を同時に定量することが出来る。これ らの特長から、貴重な試料(例えば隕石、土器、

金属器など)や破壊分析が困難な試料(例えばガ ラス、プラスチックなど)等の分析に有効であり、

宇宙化学・環境・考古学・材料など幅広い分野で 重要な研究成果をもたらしてきた[1,2]。

 中性子と標的核が持つエネルギーと複合核の励 起準位のエネルギーが等しくなる場合にきわめて 強い反応、いわゆる共鳴反応が起こる。この共鳴 J-PARC / ANNRIにおける即発ガンマ線分析法開発

Development of prompt gamma ray analysis at J-PARC / ANNRI 藤 暢輔、海老原充、黄 明輝、木村 敦、中村詔司、原田秀郎

1日本原子力研究開発機構 原子力基礎工学研究センター、2首都大学東京大学院理工学研究科)

Yosuke Toh1,*, Mitsuru Ebihara2, Minghui Huang1, Atsushi Kimura1, Shoji Nakamura1, and Hideo Harada1

1Nuclear Science and Engineering Center, Japan Atomic Energy Agency

2Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Metropolitan University

要旨

 中性子即発ガンマ線分析(PGA)は、中性子捕獲反応に伴って放出される即発ガンマ線により 元素分析を行う方法で、迅速に多元素を非破壊分析出来るという特長がある。そのため、宇宙化学・

環境・考古学・材料など幅広い分野で用いられ、多くの研究に貢献している。PGAはこれまでに 同時計数法や反同時計数法によって検出限界や峻別性能の改良がおこなわれてきたが、大強度陽 子加速器施設(J-PARC)の物質・生命科学実験施設(MLF)における大強度パルス中性子ビーム によって、飛行時間法を用いた即発ガンマ線分析(TOF-PGA)の利用が可能となった。本稿では 同時計数法による即発ガンマ線分析(MPGA)のほか、MLFに設置された中性子核反応測定装置

ANNRI)の概要と本装置によって可能となるTOF-PGAについて解説する。

キーワード

即発ガンマ線分析、飛行時間法、パルス中性子ビーム、大強度陽子加速器施設、物質・生命科 学実験施設、中性子核反応測定装置 (ANNRI)

Key words

  Prompt gamma ray analysis, time of flight, Pulsed neutron beam, J-PARC, MLF, Accurate Neutron Nucleus Reaction Instrument (ANNRI)

解 説

* [email protected]

(5)

捕獲反応を用いる分析法は中性子共鳴捕獲分析

(neutron resonance capture analysis: NRCA)と呼 ばれ、飛行時間法によって中性子のエネルギー弁 別を行い、得られる共鳴ピークのエネルギーとそ の強度から分析を行う。NRCAはPGAほど普及 していないが、PGAと同じく多元素を同時に非 破壊で分析する事が可能であるため、考古学や材 料などの分野で用いられている[3,4]。

 PGAとNRCAは共に優れた特長を有する元素 分析法であり、検出限界や峻別性能の更なる向上 を目指した研究開発も行われてきた。本稿では、

まずPGAに同時計数法を適用した多重即発ガン マ線分析(MPGA)の特長を従来法との比較を交 えて解説し、PGAとNRCAを組み合わせた新し い即発ガンマ線分析法について述べる。

2.多重即発ガンマ線分析

 JRR-3Mのビームホールには、熱中性子ビーム ラインT1-4-1にPGA装置[5,6]、冷中性子ビー

ムラインC2-3-2にMPGA装置[7]が設置され

ているが、全く異なるアプローチによってシグナ ル・ノイズ比の改善が行われている。PGA装置 では、ガンマ線のスペクトルからコンプトン散乱 による連続バックグラウンドを取り除くための BGO検出器と厚い鉛によるガンマ線遮蔽によっ てGe検出器が覆われており、試料を照射する本 体部の内側は中性子遮蔽としてLiFのタイルが張 られている。また、試料からGe検出器までの距 離は25cm程度とってあり、その間に鉛製のコリ メータなどを挿入することによってバックグラウ ンドガンマ線を押さえ、試料から放出されるガン

マ線だけを効率的に検出できるように設計されて いる。つまり、シグナルの強度をある程度犠牲に し、可能な限りノイズを小さくすることによって 高いシグナル・ノイズ比を達成している。MPGA とは同時計数法を適用したPGAである[8-10]。

MPGA装置ではコンプトンサプレッサーとして のBGO検出器と中性子遮蔽のためのLiFタイル を設置しているところは同じであるが、試料から Ge検出器までの距離は約5cmと非常に試料に近 接して設置されている。このような検出器体系で は試料からのガンマ線の強度(ガンマ線の検出効 率)は高くなるが、試料以外からのバックグラウ ンドガンマ線も高くなってしまうことがある。そ のため、MPGA装置のシングルスペクトル上の ガンマ線ピークのシグナル・ノイズ比は、PGA 装置と同じか、それよりも小さくなる。これは MPGA装置がコインシデンススペクトル上のシ グナル・ノイズ比が出来る限り大きくなるように 設計されているためである。このことはシングル スペクトル上のシグナル・ノイズ比がMPGAに おいて重要でないという事を意味するものではな く、むしろ重要なパラメータである。それにも関 わらずシングルスペクトル上のシグナル・ノイズ 比をある程度犠牲にしたセットアップとなってい る理由は、コインシデンススペクトル上における 検出限界においてガンマ線の検出効率がもう一 つの重要なパラメータとなっており、シグナル・

ノイズ比(ほぼPeak to total:P/Tに比例)と検出 効率を同時に向上させることが難しいためであ る[7]。Fig. 1はガンマ線の検出効率が1%の時 にPGAによって一定時間測定した場合の検出限

Fig. 1 Normalized detection limits of PGA and MPGA are shown; (a) Peak to total ratio =0.5; (b) peak-to-total ratio = 0.2

(6)

界に規格化し、検出効率によってPGAとMPGA による検出限界がどのように変化するかを示した ものである(ガンマ線の分岐比やエネルギーによ る検出効率の変化は考慮していない)。Fig.1aは P/Tが0.2、1bは0.5の場合であるが、どちらの 場合においてもPGA、MPGA共に検出効率が大 きくなるにつれて検出限界が改善されることが 分かる。P/Tによる違いは明らかで、P/Tが小 さく(0.2)、かつ検出効率が低い場合にはMPGA がPGAよりも検出限界が悪くなってしまってい る。開発コストを無視できればP/Tと検出効率 の両方を向上させることも可能であるが、MPGA 装置ではコストパフォーマンスも勘案して、適 度な値となるように設計されている。このよう にMPGA装置による測定では、理想的な場合に おいてコインシデンススペクトルを解析すること によって検出限界を向上させることが出来る[11-

13]。しかしながら、MPGAの利点は検出限界の

向上だけではなく、むしろ後述する高確度化の方 が重要である事を強調しておきたい。そのため、

P/Tが低く、かつ検出効率が小さい測定体系で あってもMPGA測定を行う意義は大きい。

 Fig. 2に国立環境研究所の精米標準試料(CRM

 No.10)を測定した際に得られたスペクトルを

示す。この精米には1.82ppmのCdが含まれるた め、Cdのピークが558および651keVに検出さ れた。その他、図中に示すようにK, Cl, S, C, Nな どの元素のピークも確認できた。PGAとMPGA

のスペクトルを比較するため、欧州標準物質・測 定研究所の標準プラスチック試料BC681のCd の558keVピーク近傍のスペクトルをFig. 3に示 す。PGAスペクトルもMPGA装置で得られたス ペクトルであり、MPGAのスペクトルはPGAス ペクトルと比較するために558keVのガンマ線と ペアとなる651keVのガンマ線でゲートをかけた 射影スペクトルとなっている。Cdのピークに注 目するとMPGAではPGAに比べてシグナル・ノ イズ比が改善されていることが分かる。

 MPGA装置のもう一つの特長は、峻別性能が 高く確度の高い結果が容易に得られることであ る。学術・産業利用を問わず、分析結果の間違 いは深刻な問題を引き起こしかねない。常に正 しい結論を導くためには確度の高い測定が必要 不可欠であるため、高確度測定はMPGAの特筆 すべき利点であると言える。Fig.4a に欧州標準物

Fig. 2 MPGA spectrum of NIES Certified Reference Material No.10 CRM No.10 Rice Flour- Unpolished .

Table 1 Candidate gamma rays in Fig.4.

Eγ / keV Iγ / % Nucleus

514.00 37.66 Ir-194

514.20 70.16 Ce-136

514.80 7.89 Rb-85

514.84 12.5 Ra-226

514.86 100.0 Yb-174

515.02 7.09 Pd-108

515.11 10.71 Ir-194

515.60 29.41 Os-186

516.00 31.78 Ar-40

516.04 5.19 Se-74

516.36 6.42 Sm-150

516.60 13.40 Pr-141

516.72 7.12 Sm-152

516.78 11.18 Nd-146

517.07 85.09 Cl-35

517.11 18.69 Pt-196

517.18 6.72 Os-192

517.29 7.46 Te-126

517.44 9.70 Nd-148

517.60 24.0 W-186

517.78 6.96 Ge-70

517.95 8.33 In-115

(7)

質・測定研究所の標準プラスチック試料である

BCR680を測定して得られたスペクトルの一部を

示す。PGAスペクトルでは、電子・陽電子の対 消滅ガンマ線である511keVの強いピークが観測 される。その対消滅ピークの高エネルギー側に もピークが確認されるが、このガンマ線の候補 となる核種は多く、ガンマ線のエネルギーから だけでは特定が困難である。Table.1に候補とな りうるガンマ線のリストを示す。これはNational nuclear data center (NNDC)のThermal Neutron Capture Gamma's (CapGam)において514keVか

ら518keVまでで相対強度が5%以上であるガン

マ線だけを示したものであるが、それでも多く の核種が該当する。Fig. 4bと4cにそれぞれB7、

BCR680試料を測定した際のMPGAスペクトル

を示す。どちらも中央に511keVの対消滅ピーク とコンプトン散乱成分による縦断する線が確認さ れる。Fig. 4bのB7試料では、511keVの高エネ ルギー側に1つのピークだけが確認され、ペアと なるもう一方のガンマ線エネルギーが838keVで あることから、Arのガンマ線であることが同定 される。一方、Fig.4cのBC680試料では、高エ

ネルギー側に2つのピークが観測され、ペアとな るガンマ線のエネルギーが、838keV、768keVで あることから、それぞれArとClのガンマ線ピー クであることが同定出来る。つまり、BCR680の 場合、PGAスペクトルでは1つのピークに見え るものがMPGAスペクトルでは2つのピークに 分離している。このように、複雑な元素構成を持 つ試料を測定した場合にはPGAスペクトル上で 2-3本のガンマ線ピークが重なる事もあり解析ミ スの原因ともなりかねないが、MPGAによる解 析を行えばミスを大幅に低減することが出来ると 考えられる。

 これらの特長のため、MPGAは宇宙化学や環 境試料などの測定に用いられており[14-18]、今 後もこれらの研究や原子力分野などにおいて成果 が得られるものと期待される。

3.中性子核反応測定装置(ANNRI)

 大強度パルス中性子ビームを用いた即発ガンマ 線分析法を解説する前に、本手法を実現可能と した装置である中性子核反応測定装置(ANNRI)

[19,20]の概略を述べる。中性子核反応測定装置 Fig. 3 Comparison of a PGA and b MPGA spectra of CRM No.10.

Fig. 4 Comparison of a PGA and b,c MPGA spectra of IRMM Certified Reference Materials BCR-680 and B7 Polyethylene .

(8)

(ANNRI)は大強度陽子加速器施設(J-PARC)の 物質・生命科学実験施設(MLF)のBL04に設 置されており(Fig. 5)、主に核データ測定、天 体核物理と元素分析に用いられている[21-27]。

MLFのモデレータは3種類あり、結合型、非結 合型、ポイズン型モデレータと呼ばれているが、

ANNRIではその中ですべての中性子エネルギー

領域で最も高い強度が得られる結合型モデレータ を利用している[28]。また、ANNRIのビームラ インはストレートラインであり、幅広いエネル ギーの中性子を利用する事ができる。モデレータ から21.5m位置に7個のGe結晶から構成される クラスターGe検出器が2台と同軸型Ge検出器 8台、及びコンプトンサプレッサーとして用いて いるBGO検出器から構成されるガンマ線測定装 置が設置され、27m位置にはNaI検出器が設置 されている。Ge検出器とNaI検出器は、検出器 の特性と測定可能な中性子エネルギー領域から相 補的に利用されているが、Ge検出器は主に元素 分析のほか核データ、天体核物理、基礎物理実験 に用いられ、NaI検出器は主に核データ、天体核 物理実験に用いられている。

 検出器の上流部分には中性子ビームを成形する ための装置が設置されており、上流側から説明する。

 モデレータから11.5m位置にはXステージコ リメータが設置されている。27mmφ と15mmφ の大きさのコリメータがあり、主に中性子のビー ム強度が強すぎる場合に、その強度を低減するた

めに用いられている。

 13mの位置にはT0チョッパーが設置されてお り、鋼鉄製の厚いブレードによってガンマフラッ シュと高速中性子をカットする事ができる。

 14m位置には12.5mmと25mm厚のPbおよび 適度な厚さのMn,Co,In,Ag,Cd,Alの板か ら構成されるフィルターユニットが設置されてい る。これらの板はそれぞれ独立にビームライン上 に挿入でき、Pbの板はガンマフラッシュの抑制 のために用い、その他の板は中性子バックグラ ウンドを決定する際に用いる。Mn, Co, Inなどは 適度なエネルギーと大きさの共鳴を持っており、

ビームライン上に入れた状態で使用した場合、そ れらの主要な共鳴のエネルギーを持った中性子が 透過出来ない厚さを持っている。そのため、それ らの板を挿入した状態で測定すると、飛行時間ス ペクトル上で共鳴による凹み(ノッチ)が観測さ れる。中性子のバックグラウンドが無い理想的な 場合にはその凹み部分のイベント数はゼロとなる ため、凹み部分のイベント数からバックグラウン ド中性子の量が決定できる。この装置は、そのス ペクトルの形状からノッチフィルターとも呼ばれ ている。

 15m位置にはダブルディスクチョッパーが設 置されている。本装置は半円形のアルミ板に炭化 ホウ素を塗布した板が2枚重なった構造をしてお り、ビームライン上でパルス中性子と同期させて 回転させ、2枚の板によって開口角度を調整する

Fig. 5 Cut-away, schematic drawing of the ANNRI facility.

(9)

ことによって特定のエネルギーの中性子を切り出 すことが出来る。さらに、非常に遅い中性子は、

モデレータから測定位置までの飛行中に速い中 性子に追い越されてしまう。これはフレームオー バーラップと呼ばれ、高い中性子エネルギー領域 の測定精度を悪化させてしまうため、この原因と なる非常に遅い中性子をカットするためにも使用 されている。

 17mの位置には長さ3m程度の回転式コリメー タであるロータリーコリメータが設置されてい る。ANNRIでは様々な分野の実験が行われてい るが、実験毎に最適な中性子ビームの大きさが異 なるため、それに対応して簡便にビーム径を変更 するための装置である。一度に挿入できるコリ メータは4種類であり、6mmφ,7mmφ,22mmφ,

15mm角のものが入れられている。コリメータを 変更する事も可能であり、上記の他に40mm角 のコリメータも利用可能である。

4.飛行時間法による即発ガンマ線分析

 ANNRIではMLFにある核破砕中性子源から の大強度パルス中性子ビームを利用する事ができ る。時間構造を持つ中性子ビームの大きな利点は 飛行時間法を効果的に利用する事が出来る事にあ る。そのため、ANNRIではPGAを行う事ができ るほか、高エネルギーの中性子も利用できるた め、中性子捕獲反応における共鳴を使った分析 法であるNRCAも行う事が出来る。元素(核種)

の同定のためにPGAではガンマ線のエネルギー を用い、NRCAでは中性子のエネルギーを用いる ため、PGAとNRCAでは性質の異なる情報が得 られる。もし、同じ検出器でガンマ線と中性子の エネルギーを取得すれば、それらの相関も利用し た新しい分析(TOF-PGA)もできるはずである。

しかし、これまでPGAとNRCAでは、それらの 手法に最適な種類の検出器が用いられており、同 じ検出器を用いて同時に測定することが出来る施 設は無かった。その理由の一つに、相関を利用す るという事は「共鳴毎のガンマ線」もしくは「ガ ンマ線毎の共鳴」スペクトルを解析することにな り統計が著しく悪くなってしまうため、大強度の パルス中性子ビームを必要とすることがあげられ る。PGAではその断面積の大きさから冷中性子

もしくは熱中性子を用いるため、スーパーミラー によって殆どロスすることなく遠方まで運ぶこと が可能である。一方、NRCAでは共鳴領域での測 定を行う必要があることから速中性子を用いなけ ればならないが、曲げたり収束したりすることが 困難であるため、中性子源(モデレータ)からの 距離の2乗に反比例して中性子強度が減少してし まう。しかし、PGAで用いられるGe検出器はシ ンチレータ系検出器に比べて時間特性が悪いた め、飛行時間法によって共鳴を分離した状態で測 定するためにはある程度の飛行距離が必要である ことから、J-PARCにおける大強度パルス中性子

ビームがTOF-PGAの実現には必要不可欠であっ

た。もちろん、速中性子を含むパルス中性子ビー ムがあれば、原理的にはTOF-PGAを行う事は可 能であるが、現実的にはJ-PARC程度の中性子強 度がなければ統計が悪くなり、多くの場合におい てメリットを享受できない。

 ANNRIでは大強度パルス中性子ビームの利用 に加え、多数のGe検出器を中性子ビームに近接 させて設置してガンマ線の検出効率を出来る限り 大きくしてある。その結果、中性子ダメージに弱 いGe検出器が試料等によって散乱される大強度 の高速中性子に曝されるため、出来る限り遮蔽す る必要がある。冷・熱中性子であれば、6LiFタイ ル等の6Li(n, α)3H反応によって余計なガンマ 線を出さずに簡単に遮蔽することができるが、高 速中性子の場合には6Li(n, α)3Hの反応断面積 が小さくなるため、Hとの弾性散乱などによって 中性子を減速させてからでないと十分な遮蔽が出 来ない。そのため、6LiFの他に6LiHも用いて中 性子遮蔽体を形成している。また、大強度中性子 ビームと多数のGeによってもたらされる高イベ ントレートに対応するため、VMEベースのデー タ収集系を開発した[29,30]。データ収集系は ADCとDSP(Digital Signal Processor)を搭載し たエネルギーボードとタイミングボード、FPGA

(Field-Programmable Gate Array)を掲載したコ インシデンスボードによって構成されており、

Ge検出器-Ge検出器との同時計数測定、BGO検 出器–Ge検出器との反同時計数測定、および中 性子飛行時間測定を一度に行える。これらのボー ドは高速化のためにバッファーを多段階に配置し

(10)

ており、データ収集におけるデッドタイムを求め る事が容易ではないため、ランダムパルサーを用 いたデッドタイム補正法も開発した[31]。これ らによって、PGAとNRCAを同時に行う事を可 能とした。つまり、Ge検出器でガンマ線を測定 すると同時に、飛行時間法によって中性子のエネ ルギーを決定している。飛行時間法は、加速器の トリガー、つまり陽子パルスが水銀ターゲットに 入射される時間を起点とし、Ge検出器がガンマ 線を検出した時間を終点としている。これは試料 から放出されたガンマ線がGe検出器に入る時間 は無視できるほど小さいため、Ge検出器がガン マ線を検出した時間は中性子が試料中の核種と捕 獲反応を起こした時間と見なせるためである。加 速器トリガーは実際のビームから6マイクロ秒ほ どの遅延があるが、データ収集のトリガーはガン マ線であるため時間的巻き戻しが可能であり、こ の遅延に関係なくデータを取得できる(空白時間 がない)。

 PGAとNRCAと同時に行うことによってPGA とNRCAの2つの結果が同時に得られるだけで なく、2つの分析手法の融合による相乗効果が得 られる[32]。つまり、PGAでもNRCAでも測定 が困難であるものが分析できるようになった。こ の新しい手法は前述のとおりTOF-PGAと呼んで おり、同様にTOFをMPGAに適用したものは

TOF-MPGAと呼んでいる。まとめると、ANNRI

の 測 定 で は PGA、TOF、TOF-PGA、MPGA、

TOF-MPGAの5種類のスペクトルを一度に得

ることが出来る。一般的な傾向として、PGAと TOFスペクトルは、統計精度が高いものの分解 能は低い。MPGAとTOF-PGAは、PGAやTOF

に比べて統計精度は劣るものの分解能は高い。

TOF-MPGAは最も高い分解能を持つが、統計精

度は最も悪くなる。目的元素、試料、測定条件、

妨害元素の有無などによって解析に適するスペ クトルは変わる。MPGAとTOF-PGAに限れば、

MPGAはカスケード関係にある2つ以上の即発 ガンマ線を検出しなければならないと言う制約が

あり、TOF-PGAは共鳴を持つ核種だけ適用でき

るという制約があるため、相補的な関係であると 言える。元素毎に最適なスペクトルを選択して解 析できることがANNRIの特筆すべき特長である。

また、多くの元素は複数のスペクトルで分析可能 であるため、それらの結果を比較検討することも 可能であり、その事によっても解析ミスを低減出 来ると考えられる。

 TOF-PGAで得られる相乗効果の実証実験のた め、Co, Cd, Ag, Au, Taを混合した試料の測定を 行った[32]。これらの元素は標準試料やバック グラウンド測定におけるノッチフィルターとして 用いられるものであり、単元素試料の場合、PGA でもNRCAでも容易に測定する事が出来るもの である。しかし、それらを混合してしまうと、ガ ンマ線や共鳴が重なり合ってどちらの分析法でも 解析が困難となってしまう。Fig. 6 に示すように CoはPGAとTOFのどちらのスペクトルでも重 なってしまっている。Coは他にも幾つか強いガ ンマ線を放出するが、それらも混合した他の元素 が出すガンマ線やバックグラウンドガンマ線と重 なってしまう。また、Coはカスケード関係にあ るガンマ線の強度が相対的に弱いためMPGAに あまり適さない。一方、TOF-PGAの3次元スペ クトルを Fig.7 に示す。この3次元スペクトルか

Fig. 6 a Prompt gamma-ray energy and b time-of-flight spectra of the mixed sample.

(11)

らは、ガンマ線でゲートをかけたTOFスペクト ルと共鳴でゲートをかけたガンマ線スペクトルの 2種類のスペクトルが得られる。どちらのスペク トルでもほぼ純粋なCoのピークが得られ、これ を解析する事によって確度の高い分析結果が得ら れる。もちろんCo以外の元素にも適用可能であ

り、Fig.7ではTaに適用した場合に得られるスペ

クトルも示してある。Fig.6とFig.7を比べると TaもCoと同様にシグナル・ノイズ比が改善し ていることが分かる。

5.まとめ

 私達のグループでは、優れた元素分析法として 知られているPGAやNRCAを同時計数法や飛行 時間法を適用することによって高度化してきた。

ANNRIではJ-PARCからもたらされる大強度パ

ルス中性子ビームを用いて、PGA、TOF、TOF- PGA、MPGA、TOF-MPGA の5種類全てのスペク トルを一度に得る事が可能である。それぞれ異な る適用性と特長を持つため、それらを相補的に用 いる事によって高精度で、確度の高い定量が可能 になる。本手法が原子力のみならず学術、産業な どの幅広い分野において必要不可欠なツールとな り、多くの優れた研究成果が得られることを期待

している。

謝辞

 本稿で述べたANNRIの開発研究は、日本原子 力研究開発機構、東京工業大学、北海道大学、京 都大学等との共同研究、また、ANNRIにおける TOF-PGA、ならびにJRR-3におけるMPGA開発 研究は、日本原子力研究開発機構、首都大学東京、

東京大学、産業技術総合研究所等との共同研究で あり、共同研究者の方々に深く感謝申し上げます。

本研究の一部は科研費(25246038)の助成による 成果を含みます。

引用文献

[1] M. Failey et al., Anal. Chem. 51, 2209 (1979).

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[6] C. Yonezawa et al., J. Radioanal. Nucl. Chem.

Fig. 7 TOF-PGA spectrum analysis by gating on a,b TOF peaks and c,d PGA peaks of the mixed sample.

(12)

193, 171 (1995)

[7] Y. Toh et al., J. Radioanal. Nucl. Chem., 278, 703 (2008)

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[32] Y. Toh et al., Anal. Chem. 86, 12030 (2014)

Abstract

Prompt gamma-ray analysis (PGA) uses capture gamma rays, which are characteristic of each par ticular nucleus emitted from a sample while it is being ir radiated with neutr ons.

It has been used as a rapid, nondestr uctive method for per for ming both qualitative and quantitative multielemental analysis. Therefore, cosmochemical, environmental, archeological samples and samples from materials science and engineering are analyzed. Although, researchers h a v e e n d e a v o r e d t o i m p r o v e t h e a c c u r a c y and the detection sensitivity in PGA with the coincidence and anti-coincidence methods, further improvements are possible. We developed a new analytical technique (TOF-PGA) that combines prompt gamma-ray analysis (PGA) and time- of-flight elemental analysis (TOF) by using an intense pulsed neutron beam at the Japan Proton Accelerator Research Complex (J-PARC). It allows us to obtain the results from both methods at the same time. Moreover, it can be used to quantify elemental concentrations in the sample, to which neither of these methods can be applied independently, if TOF-PGA is used. TOF-PGA showed high merits, although the capability may differ in terms of the target element and coexisting elements.

(13)

1.はじめに

 どこまで重い元素が存在しうるのか?これまで 自然界に存在しない重い元素は原子炉や加速器等 を使って人工的に合成されてきた。理論的には原 子核の存在限界は更に大きな原子番号まで存在し 得る事が予測されている。質量公式の一つである KUTY公式による予測によれば、陽子数126と中 性子数184に比較的寿命の長い 安定の島 が存 在する可能性がある。人類が到達しうる最も重い 原子核を合成する試みは、自然科学における最大 の興味の一つであると言える。現在、日本のみな らずロシア、ドイツ、アメリカ等の研究機関に

より、新しい元素の生成に関する研究が精力的 に進められている。理研を中心とする研究グルー プは、2012年までに3例の113番元素の合成に 成功した。[1-3] 合成には、亜鉛(Zn:原子番号 30)とビスマス(Bi:原子番号83)の冷たい核融 合反応(209Bi(70Zn,n)278113)が用いられた。2015 年12月、これらの成果と孫娘核である266Bhの 合成の成果[4]に対し、国際純正・応用化学連 合(IUPAC)と国際純粋・応用物理学連合(IUPAP)

が推薦する委員で組織された合同作業部会(JWP)

は、278113を正式に新元素であると認定し、発見 者である理研を中心とする研究グループに命名権 113番新元素の合成

Synthesis of 113th new element

森本幸司

(国立研究開発法人 理化学研究所 仁科加速器研究センター)

Kouji Morimoto*

Nishina Center for Accelerator-Based Science, RIKEN 2-1, Hirosawa, Wako, Saitama, Japan, 351-0198

解 説

要旨

  理化学研究所仁科加速器研究センターにおいて合成された113番元素は、IUPAC、IUPAP 同作業部会により201512月、正式に新元素として認定された。今後、元素名と元素記号が研 究グループにより提案され、元素周期表に記載されることになる。この新元素は、重イオン線形 加速器からの70Znビームを209Bi標的に照射し融合反応を起こすことにより、原子番号113、質量 数278の原子核278113として合成され確認された。2012年までに、3例の278113の合成に成功したが、

2例は4回の連続したα崩壊ののち自発核分裂を起こし、残りの1例は6回の連続したα崩壊が 観測された。それぞれ既知の核に崩壊連鎖がつながっており、その崩壊様式と良く一致している。

本稿は、理研における113番元素の合成方法とその結果について解説する。

キーワード

 新元素、超重元素、冷たい核融合、加速器、ガス充填型反跳分離装置(GARIS)

Key words

new element, superheavy element, cold fusion, GARIS, Accelerator

* [email protected]

(14)

を与えるという決定がなされ[5]、アジア初、日 本初の元素が周期表に誕生する事となった。2016 年4月1日までに、研究グループにより元素名と 元素記号が提案されることになる。また、113番 元素と同時に115、117、118番元素も新元素と して認定され[5,6]、ロシアとアメリカの共同研 究グループに命名権が与えられた。Fig. 1に2016 年2月時点の元素周期表を示す。これで、元素周 期表は第7周期まですべて埋まることとなった。

 本研究は、重イオン加速器と気体充填型反跳分 離器Gas-filled Recoil Ion Separator (GARIS)[7] と呼ばれる装置を用いて行われた。GARISは森 田浩介博士により開発され、当初理研リングサ イクロトロンRIKEN Ring Cyclotron (RRC)と組 み合わされ重元素合成の研究が行われ、新同位 体197Rn, 196Rn, 200Fr, 199Fr等の発見[8-11]で主な 成果をあげた。しかし、超重元素の融合反応には RRCでは加速可能な最低エネルギーが高すぎる 事や融合反応の断面積が非常に小さい事から、よ り最適なエネルギーで、かつより大強度のビーム 供給が渇望されていた。そこで、RIKEN Linear Accelerator (RILAC)[12]の最高エネルギー向 上と大強度ビーム化への対策として18GHz-ECR

イオン源[13]、周波数可変RFQ加速器[14]、

Charge State Multiplier(CSM)加速器[15]が 新たに開発されRILACに付与された。GARISは

RILAC照射室へ移設され、同時に各電磁石間距

離を最適化することにより収集効率の改善がなさ れた。これらにより、大強度重イオンビームを利 用した効率の高い超重元素探索が可能となった。

Fig. 2に、理研重イオン線形加速器施設の概略

図を示した。2003年までに移設作業および基礎 データの蓄積を終え、RILACとGARISを利用し た113番新元素の発見を目標とする実験が開始さ れた。融合反応には鉛やビスマスを標的とする冷 たい核融合反応(Cold fusion)を採用した。この 方法はロシアとアメリカの共同研究グループが採 用している熱い核融合反応(Hot fusion)よりも 融合断面積の観点では不利と予想されていたが、

合成された核のα 崩壊連鎖が既知の核につなが る可能性が高い事を重視し採用した。まず準備実 験として、ドイツ重イオン科学研究所(GSI)の グループによって行われた108番,110番,111 番,112番元素実験の追試を行ない[16-18]、報 告されている崩壊連鎖の確認、複合核の励起エネ ルギー依存性の確認、そしてGARIS中を飛行す

Fig. 1 Periodic table of the elements in Dec. 2015. The RIKEN team have fulfilled the criteria for element 113. And the 7th row of the table will be complete.

(15)

る超重元素の平衡電荷の実験式を導出した[19]。

特に、112番元素の追試実験の成功は、GSIが報 告していた112番元素の新元素認定につながっ た。[20]。そして、2003年9月、113番新元素探 索の準備はすべて整い、9年という長期にわたる 実験が開始されたのである。

2.実験方法

 合成およびその確認は、重イオンビームを標 的核に照射し融合反応を起こし超重元素合成し、

GARISを用いて目的としない粒子から分離し、

最後に検出器へ導入して崩壊過程を観測するとい う手法により行われる。融合した重い核(複合核)

は、通常励起状態にあり、1個ないし数個の中性 子放出によって脱励起する。脱励起した蒸発残留 核は入射粒子とほぼ同じ運動量をもって標的から 飛び出す。飛行している蒸発残留核は、ビームや その他の目的としない粒子からGARISにより分 離され、飛行時間検出器で飛行時間を測定された 後、焦点面検出器内に打ち込まれ運動エネルギー が測定される。測定された飛行時間と運動エネル ギーから、質量が導出される。焦点面検出器に打 ち込まれた蒸発残留核は、検出器のほぼ同じ場所 で崩壊する。その場所で連続的に崩壊する信号を 選び出す事によって、放射性超重核の検出が行わ れる。未知の崩壊エネルギーと崩壊時間を持った 核種が崩壊して、既知の崩壊エネルギーと崩壊時 間を持った核種につながったとき、崩壊を逆にた どる事により未知各種の原子番号と質量数を同定

する事が出来る。Fig. 3に、113番元素探索に使 用した実験セットアップを示した。

 標的は、大強度ビームによって溶解する事を 避けるため回転式の標的が採用された。30〜60 μg/cm2の炭素薄膜に209Biを約500 μg/cm2真空 蒸着する事により作製された薄膜状標的は、直径

30 cmの回転式円盤に装着され毎分2000回転以

上の回転速度で使用された。ビーム強度は最大約 0.8 pμA、平均で約0.5 pμAという強度で照射さ れた。

 GARISは、D1-Q1-Q2-D2という並びの4つの 電磁石で構成されており、内部はヘリウムを充填 し使用する。蒸発残留核の初期の電荷状態からヘ リウム中を移動する際の平衡電荷に変換すること により、高い収集効率を得ることが出来る。D1 とD2はビーム粒子や標的反跳粒子と蒸発残留核 を分離する役目を持つ双極磁石であり、Q1とQ2 は蒸発残留核を焦点に収束させる役目を持つ四重 極磁石である。これらの電磁石の磁場設定を正し く行うためには、ヘリウム中での蒸発残留核の 平衡電荷を知らなければならないが、2003年ま でに行なった準備実験から平衡電荷(qav) = 0.62

× (v/v0) × Z1/3という実験式が導き出され磁場設 定に適用された。(v0は、水素原子のボーア速度

(c/137 = 2.19 × 106 m/s)を表している。) ヘリウ ムガスは、約85パスカルの圧力で充填された。

本実験の蒸発残留核の収集効率は約80 %と見積 もられている。

 検出器は一対の飛行時間測定器と箱型に組ま Fig. 2 The figure shows the RKEN RILAC facility. The GARIS was installed at the RILAC

experimental hall.

(16)

れた半導体検出器(SSD-box)により構成されて いる。飛行時間検出器は、粒子軌道中に挿入し た薄膜から放出される二次電子をMicro-Channel

Plate (MCP)で増幅し検出する仕組みになって

おり、約30 cmの距離を隔て設置されている。時

間分解能は約500 ps (FWHM)である。この飛行 時間検出器の下流にSSD-boxが設置されている。

SSD-boxは、5枚の有感領域60 × 60 mm2を持つ 半導体検出器で構成されているが、箱の底に相当 する検出器は位置検出型の検出器が採用されてい る。他の4枚の検出器は、底面検出器内に打ち込 まれた粒子が崩壊する際にα 粒子が上流方向に 飛び出す場合があるため、側面でこの粒子を同時 検出しα粒子の検出効率を高める目的で設置さ れている。SSD-boxにより、運動エネルギー、崩 壊時間、崩壊時のα粒子もしくは自発核分裂の 総合エネルギーと位置情報が検出される。底面検

出器のエネルギー分解能は、5.5 MeVのα粒子に 対して約40 keV (FWHM)である。

3.実験結果

 理研における113番元素探索実験には、209Bi 標的に70Znビームを照射しその融合核である

278113番元素を生成する反応が選択された。前

述したCold fusion反応である。生成された融合

核がα崩壊を繰り返し既知の原子核にたどり着 く可能性が高い事が予測されていたからである。

113番元素278113が合成される様子をFig. 4に示 した。入射エネルギーは、予備実験として行った

272Ds、273Rgおよび278Cnの生成断面積の励起エ ネルギー依存性から最適値が推定された。具体的 には、複合核から中性子が一つ放出された後の核 の核分裂障壁よりも約0.5 MeV高い励起エネル ギーで最大断面積となると見積られ、70Znのエネ Fig. 3 The schematic view of the GARIS and the detector setup were shown in the upper. The

GARIS consists of four magnets in a D1-Q1-Q2-D2 configuration. The detector setup consists of two ToF detectors and position scensitive Si detector box. The Photograph of GARIS, ToF detectors and Si detector box are shown in the bottom.

Fig. 4The figure shows the reaction schme for the 70Zn + 209Bi. The experiment was designed to produce the isotope, 278113, by the one-newtron evaporation.

(17)

ルギーが標的中心で349 MeVとなるように設定 された。

  実 験 は2003年9月 に 開 始 さ れ、3例 の 崩 壊 チェーンを観測し、2012年10月に終了した。延 べ照射日数は576日におよび、22 fb(フェムト バーン)という原子核実験としては史上最小の 生成断面積を記録する実験となった。まず、209Bi

70Zn, n)278113反応により新元素である278113を 起点とした4つのα崩壊と262Dbの自発核分裂 からなる崩壊連鎖が2004, 2005年にそれぞれ観 測された[1,2]。崩壊連鎖はすでに報告例のある

266Bhと262Dbに到達しており、その報告値と矛 盾の無いものであった。しかしながら、既知核と した266Bhと262Dbの報告例の統計が少ない事、

2例の278113の崩壊連鎖では、新元素と認められ るためには統計的に不十分となってしまう可能性 を考慮し、278113の孫娘核である266Bhを生成す る実験が計画され実行された。実験は2009年に、

248Cm(23Na,5n)266Bh反応を用いて行われた。こ

の実験により14例の266Bhを起点とする崩壊連 鎖を観測し、266Bhとその娘核である262Dbを十 分な統計量を観測することにより既知核として確 立させた[4]。観測された266Bhと262Dbの崩壊 様式(それぞれの核のα線のエネルギー、半減期、

そして262Dbのα崩壊と自発核分裂の分岐比)は、

2003, 2004年に観測された278113からの崩壊で観 測されたものと矛盾の無い値であった。その後さ らに、278113の3例目を狙う実験を継続し、2012 年8月に6つのα崩壊からなる崩壊連鎖を観測 した[3]。新たに観測された崩壊連鎖は、既知核 である258Lr, 254Mdにまで到達し、先に観測され た278113を起点とする崩壊連鎖および266Bhを起 点とする崩壊連鎖とも良く一致しており、278113 の生成を確固たる物とした。Fig. 5に278113を起 点とした3つの崩壊連鎖と、266Bhを起点とする 崩壊連鎖との崩壊様式の比較を図示した。Fig. 6 には観測された3つの崩壊連鎖の崩壊時間分布を 示した。3つの崩壊時間分布の系統性が良く一致

Fig. 5 The figure shows the decay chains related to the 278113. Three decay chains observed at RIKEN are shown in left-side. The first two decay chains consist of four alpha decays and ended by spontaneous fission of 262Db. And the third decay chain consists of six alpha decays and connected to 254Md.Right-side figure shows the comparison of the decay property originated from 278113 and 266Bh. The decay properties are fully consistent with each other.

(18)

している事から、3つの崩壊が同一の原子核から の崩壊であると結論した。

 これらの研究成果[1-4]により、278113は正 式に新元素であるとJWPにより認定される事と なった。

4.おわりに

 本研究は、理化学研究所、東京大学、大阪大学、

新潟大学、山形大学、埼玉大学、東京理科大学、

東北大学、筑波大学、日本原子力研究開発機構、

中国科学院近代物理研究所、中国科学院高エネル ギー研究所の共同研究者や大学院生が参加し遂行 されました。CSMを建設するにあたり、東京大 学原子核科学研究センターからの資金協力を得て います。また、113番元素合成に関する研究の一 部は文部科学省科学研究費補助金19002005(特 別推進研究)の助成によって実施されました。

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Fig. 6 Decay time distribution of the decay family originating from 278113 are shown. The logarithm of the decay time is taken are the abscissa. Mean life times τ determined from three decay chains. Curves correspond to single-exponential decay curves with τ.

(19)

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(19) D. Kaji,, et al., Proc. Radiochim. Acta 1, 105- 107(2011)

(20) R. C. Barber et al.: Pure Appl. Chem. 2009; 81, No 7, pp.1331-1343

Abstract

A joint working par ty of the IUPAC and I U PA P h a s r e c o m m e n d e d t h a t t h e R I K E N research group be given recognition for the discovery of the element 113. Three decay chains originated from 278113 were obser ved by using

209Bi(70Zn,n)278113 reaction. The first and second decay chains consist of four alpha decays and ended by spontaneous fission of 262Db. The third chain consists of six alpha decays connected to the

254Md. Those decay properties are consistent with known proper ties of 266Bh, 262Db and 258Lr. The experimental method and results are described in this report.

(20)

 IUPAC(国際純正応用化学連合)は2015年12 月30日に原子番号113,115,117,118の元素の発見 と同定についての報道発表を行った。これが、12 月31日早朝、IUPACから森田氏に伝えられた。

113番元素に関する発見の優先権が理研グループ に与えられるという内容のものであった。その日 の夕方に理化学研究所で記者会見があり、アジア 初の元素命名権獲得のニュースが日本中を駆け 巡った!

  実 は、 昨 年8月12日 に 韓 国 釜 山 で 開 催 の IUPAC総会の議題に「新元素113,115,117,118の 検証と命名」という項目があり、4つの新元素の 認定について何らかのアナウンスがあるものと思 われていた。しかしながらこの時は発見の優先権 の認証については報告されなかった。

 新元素発見の優先権については、新元素発見 の報告をしたグループにIUPACが要請し、そ れに応じて提出された論文について、IUPACと IUPAP(国際純粋応用物理学連合)から選ばれ た5名の専門家グループ(Joint Working Par ty, JWP)によって審査される。

 今回は、2012年の4月に新元素の発見者候補 へのコールがあり、2012年5月31日がその締め 切りであった。森田氏をリーダーとする理研グ ループもそのコールに応じて113番元素の発見の 優先権を主張していた。理研グループの基になっ た最初の論文は、2004年10月15日発行の日本 物理学会の論文誌に掲載されたものであり[1]、

209Biに70Znを照射して113番元素を合成したと

するいわゆる冷たい融合反応によるものである。

一方、オガネシアンをリーダーとするロシア・ド ブナのグループは243Amに48Caを照射して115 番元素を合成し、その娘核種が113番元素である というものであり、その最初の論文は2004年2 月2日発行の米国物理学会の論文誌に掲載された

[2]。もし両方のグループとも新元素発見の基準 を満たしているならば、ドブナグループの方がわ ずかに早く発表したことになり、優先権はドブナ グループに与えられることになる。

  原 子 番 号113,115,117,118の 元 素 発 見 に 関 し てのJWPからの最終報告が、IUPAC Technical Repor tsとして2016年1月21日にオンライン版 で発表された。このレポートをもとに、113番元 素発見の優先権に関して簡単に紹介する。レポー トでは、発見の優先権を付与するにあたって、

IUPACの要請に応じて提出された2012年5月31 日までの論文によるとしている。

 発見の基準のもととなる原子番号(Z)の同定 に関しては次の様に考える。複合核の励起エネル ギーが低いので、荷電粒子の放出は起こらないだ ろうことを考えれば、Zの帰属は単純に標的と入 射粒子のZの和が尤もらしい。従って、崩壊連 鎖が既知の原子番号にたどりついていれば、疑い もなく発見の証拠は十分であることになる。もち ろん、崩壊連鎖の途中が途切れていないことが不 可欠である。一方、崩壊連鎖が、核分裂で終わっ ている場合は、基準を満たし、優先権を確立し たとするには、荷電放出に関する現在の理論の 113番元素の命名権、日本へ!

工藤久昭*

(新潟大学理学部化学科)

Hisaaki Kudo

Department of Chemistry, Niigata University Niigata, Niigata 950-2181, Japan

解 説

* [email protected]

(21)

みでは不十分である。そこで重要になってくる のが、交差反応(cross reaction)である。例え ば、283Cn(Z=112)の同定にあたって、238U+48Ca で直接合成された場合と、242Pu+48Caで生成する

287Fl(Z=114)の娘核種としての283Cn、あるいは

245Cm+48Ca反応からの291Lv(Z=116)の孫娘核種 としての283Cn(及びその子孫核)の崩壊が同じ であるならば、崩壊連鎖が仮に核分裂で終わって いる場合でも、Zの同定が信頼に足るものとなる。

交差反応とは、このように異なる標的と入射粒子 の組み合わせから同じ原子核を生成する反応を意 味する。(違う組み合わせで同じ複合核を合成す る反応、いわゆるcross bombardmentとは異な る。)

 発見を概観するにあたって困惑の一因となって いるのが、α線のエネルギーである。奇核のα線 のエネルギーは娘核の励起状態への崩壊があるこ とから、一般に幅広い分布となる。従って、数少 ない事象のときにはα線のエネルギーが違って みえることがある。

 両者の報告を少し詳しく紹介する。

[ドブナグループのデータ]

243Am+48Caの反応で288115 → 284113 → 280Rg

276Mt →272Bh → 268Dbという崩壊連鎖を3事 象観測したというのが最初の報告である[2]。こ の観測での3事象のデータ間の一致はよい。異 なるエネルギーでもう1事象観測され、それは

287115 →283113 →279Rg →275Mt →271Bh(missing α-decay)→267Db(100 mine)と同定されている。

どちらも自発核分裂で終了しており、いずれの核 種も既知のものではない。(See Fig. 1)

 2007年に237Np+48Ca反応により崩壊連鎖が2 事象観測され、282113 → 278Rg → 274Mt → 270Bh →

266Dbと同定されているが[3]、ここでもいずれ の核種も既知のものではない。また、この反応と

243Am+48Caの反応では、同じ核種を見ていない ので、交差反応には当たらないことになり、この時 点では発見の基準を満たしてることにはならない。

 2010年 に、249Bk+48Ca反 応 に よ り、5事 象 の

293117 か ら285113を 通 る 崩 壊 連 鎖 と1事 象 の

294117 から286113の連鎖が観測された[4-6]。こ れも、図1からわかるように、243Am+48Caで

Fig. 1 Part of decay chains reported by Dubna group.

(22)

観測された崩壊連鎖とは違うものである。ドブ ナ の グ ル ー プ は さ ら に243Am(48Ca,2n) 反 応 に よ り289115 →285113を 報 告 し た[7,8]。 こ れ は

293117→285113の 交 差 反 応 に よ り285113の 同 定 を証明するものであるが、以前に提案した核種

282,283,284113とは異なるものである。したがって、

優先権を確定することにはならない。ドイツの GSIでも243Am+48Ca反応により、繰り返し実験 が行われ[9]、288115のデータの補強はされたが、

既知の原子核にも届いていなく、交差反応で確認 されたわけでもないので、決定的な原子番号の同 定ができていないと見做された。

  最 終 生 成 核 種 で あ る 自 発 核 分 裂 核 種268Db

(T1/2=1.2 d)を化学分離して115番元素の合成を 証明する方法[10-12]によるZの決定能力はま だ説得力に欠ける。すなわち、化学分離に関して は、伝統的な同族元素の類似性からでは確固たる 同定とはまだなりえない。

 以上より、ドブナグループは113番元素発見の 基準を満たしていないと結論づけられた。

[理研グループのデータ]

 最初のデータは278113から274Rg、270Mt、266Bh

とα 壊変し、262Dbの自発核分裂で終わっている

[1]。(See Fig.2 chain ①) 次に2007年に報告し た崩壊連鎖[13](Fig.2 chain ②)もほとんど最 初のものと類似しているが、266Bhのα線エネル ギーの違いや、262Dbの自発核分裂の寿命の違い がみられたことと、また、それまでに報告[14] されていた266Bhの娘核種である262Dbはα崩壊 していることから、113番元素の崩壊が既知元素 にたどり着いているとは見做せないということ で、新元素発見の基準を満たしているとは言えな いとされていた。すなわち、278113の崩壊鎖中の

266Bhは既知とは見做せないということである。

 2006年、Qinらにより243Am(26Mg,3n)266Bhの 反応により生成された266Bhの崩壊が報告された

[15]。さらに、2009年、理研グループは248Cm + 23Na反応で266Bhを合成したところ[16]、Qin らデータと極めてよい一致を示し、しかも既知の 核種である258Lr[17]にたどりついている。これ は266Bhが交差反応により確認されたことになる。

これより、266Bhは崩壊連鎖の中での錨(anchor)

となりうる既知核種であることが確立された。

 そして、2012年、278113からよく知られてい る258Lrまでの崩壊連鎖が観測された[18]。(See Fig.2 chain ③)この崩壊連鎖が前の①や②と同じ

Fig. 2 Decay chain of element 113 reported by RIKEN group.

Fig. 1   Normalized detection limits of PGA and MPGA are shown;  (a)  Peak to total ratio =0.5;  (b)  peak-to-total ratio = 0.2
Fig. 2   MPGA spectrum of NIES Certified Reference  Material No.10  ( CRM No.10 )   Rice  Flour-Unpolished .
Fig. 4   Comparison of  ( a )  PGA and  ( b,c )  MPGA spectra of IRMM Certified Reference  Materials BCR-680  ( and B7 )   Polyethylene .
Fig. 5   Cut-away, schematic drawing of the ANNRI facility.
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