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学部教職科目「教育史」授業実践の成果と課題Results and Tasks of for Improving Undergraduate Teaching Subject ʻ

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『就実大学大学院教育学研究科紀要 2018(第3号)』 抜刷 就実大学大学院教育学研究科 2018年3月10日 発行

学部教職科目「教育史」授業実践の成果と課題

Results and Tasks of for Improving Undergraduate Teaching Subject ʻ History of Education ʼ

渡 邊 言 美

(2)

就実大学大学院教育学研究科紀要 2018(第3号)

学部教職科目「教育史」授業実践の成果と課題

渡邊言美

Results and Tasks of for Improving Undergraduate Teaching Subject ʻHistory of Educationʼ

Kotomi WATANABE

抄録

本稿は、2大学における筆者の学部教職科目「教育史」の授業実践報告を通して、新教 員免許法下における教育史教育の意義と課題について検討することを目的とする。2大学 の事例はそれぞれ講義形式、演習形式であり、人数や時間配当等の形態も異なる。それぞ れの実践を通して、学生が教育史についての知識を習得し、自分なりにその事象について 考えを深め、多角的に思考することができたと考えている。しかし、学生の学修意欲喚起 や集中力維持、プレゼンやレポートといったアカデミックスキルの修得、新免許法で求め られるアクティブラーニングを用いた知識習得にむけて、今後解決すべき課題も多くある ことを指摘した。

キーワード:教育史 教職科目 歴史的思考力 批判的思考

はじめに

近年の大学教育のアクティブラーニング化の要請により、大学の新しい授業方法の模索 が行われている1)。特に教職科目については、2019年度実施予定の新教職課程で新たな基 準や方向性が示され、それを遵守した実施が課程認定審査のもと求められている。現在の 時代的要請に応えうる教職課程教育のありかたについて、あらためて整理・検討の必要を 痛感している。

教職課程担当者にとって、特に原理系科目(教育原理、教育史、教育哲学等)は、重要 な科目と認識されるにもかかわらず、学生の学修意欲喚起に苦労する科目ではないだろう か。特に本講で取り上げる「教育史」という、ともすれば暗記中心の「つまらない」と見 なされがちな科目では、その傾向が顕著ではないかと推察する。

白石(2016)は、「教員養成における教育史教育の有用性については、問題史的通史教 育によって将来の教職生活における問題解決に資する教職教養を形成するところに、おお よそ共通認識が出来ていた。しかし、その具体的なあり方や実現手段については、今でも なお十分に検討されていない」と指摘し、今後の状況について「教育史教育を単独科目と

(3)

して維持するどころか、必修科目の内容事項の中に位置付けることも容易でなくなる可能 性がある」と指摘している2)。現在の所、本稿で紹介したA・B大学では、いずれも新課 程において「教育史」科目が存続する見通しとなっている。教育史を学び教える者として は、僥倖というべき状況かもしれない。

本稿は、2大学における筆者の学部教職科目「教育史」の授業実践報告を通して、新教 員免許法下における教育史教育の意義と課題について検討することを目的とする。今回事 例として紹介するのは以下の①②の実践である。

①A大学における学部中等教職科目「教育学概説」(「教育史」相当)(教職必修科目)

これまで3年間実施

②B大学における「教育の歴史」(初等教育学科は教職選択科目、他学科は自由選択科目)

これまで4年間実施

Ⅰ 教育史授業の実践例

・古屋野(1988)は「教育史」授業において文学作品6種(文庫本で入手可能なもの)を 選定し、受講生に読ませて読書感想文のミニレポートを科し、その内容を受けて講義を行っ ている。対象は学部中等教員免許取得希望者。教材として文学作品を導入した理由は、学 生に文庫本の小説を読む習慣を持つ者が多いこと、学生が苦手とする論理的体系的な説明 とは異なり、主人公の個人的体験の状況や制度についての、ひとまとまりのイメージとい うかリアリティーを獲得できることを期待している。論文では作品中『坊ちゃん』と『田 舎教師』について、日本近代教育史の検討・理解の上でもつ意味について検討している3) たとえば『坊ちゃん』では、主人公の学歴と中等学校教員の受給、中学校生と師範学校生 との対立、教員の宿直制度に特に注目して解説した。授業の成果として、学生が作品中か ら今日と同質の問題点について自ら関心を持つようになったことを指摘している4)

・大矢(1991)は、短期大学「幼児教育史」授業での実践について紹介した。授業の特徴 として①歴史を学んでいない、あるいは不十分な学生にも理解できるようにするために、

人物史を中心に行った。②教員による講義形式と学生によるグループ発表形式を融合した 授業を行った。発表導入のねらいは、取り上げる6人の人物のうち1人でもよいから深く 理解して欲しいこと、1年次前期の学生同士の仲間関係を密接なものにすることにある。

②の実践は、大矢によると「必ずしも成功したとはいい難い」。原因は「学生による発表 の稚拙さ」「発表形式の授業のつまらなさ」「教員の事前指導の不十分さ」であるという。

解決の方策として、発表内容の焦点化と、学生の事前学習環境整備(グループの人数削減、

十分な時間)を提示した5)

・浅野(1994)は、「教育原理」の実践で、討論のある授業づくりの前段階として近代学 校の成立史をふまえて学校の性格を考えるセクションを設定した6)。テキスト該当章に出 てくる重要用語をカード化し、それを用いて近代学校成立過程の構造図をつくるグループ

(4)

課題を課す中で、個人が自分の意見をもち、グループメンバーに出す作業を行った。こう した取り組みの蓄積を経て、授業開始当初より全体討論が成立する状況となったという。

・根本・石原(1996)は、聴覚障害者学生を対象とした、日本・欧米の聴覚障害教育の歴 史に関する授業(2コマ)の実際について紹介した。視覚教材として図や写真のOHP、

ビデオ映像、図書等を用いて「学生に具体的なイメージをもたせることが出来た」。1コ マごとに課題を出し、学習事項の定着を図った。欧米・日本の聴覚障害教育の歴史年表を 作成させることは、「自分の力で学習した内容を整理させる方法として極めて有効であっ た」という。また授業の進行に学生自身が主体的にかかわるようにさせる方策として、「も し過去の時点に自分自身が置かれたらどうであったか、歴史を作ってきた人たちに対して どういう間考えを持つか」等の問いかけをし、自分自身の問題として考えられるようにし むけた7)

・梶井(2015)は、大学院修士課程の史料演習での実地調査をもとに、道徳教育の地位的 展開について論じている8)。史料演習では「一次史料を通じて教育の過去を知り、その理 解をふまえて現在を把握する仕方を実践」し、「過去を理解しようとする態度は、現在を より精確に理解しようとする態度に通じる」と主張している。

・白石(2016)は、自らの5大学での原理・理論系科目での問題史的教育実践を紹介して いる9)。特に短期大学「教育原理Ⅰ」(後半は問題史的通史教育)「教育原理Ⅱ」(教育の 歴史と思想によって構成)では、たとえば「幼稚園と保育所とがなぜあるのか」という日 本保育史特有の問題を問い直す機会になっており、学生たちは熱心に受講していたように 思う、とふりかえっている。

また今回、日本教育史研究者による教育史授業実践について多くの興味深い例を拝見し た。たとえば梅村佳代は、講義で「知られていない事実を伝えながら、それぞれの時代の 人々の思索と思いや決断を伝え、しかしそれは何をもたらしたかなど、それぞれの登場人 物の立場を考えながら講義する。自分だったらどう決断し何を選択するかを投げかける」

という10)。単なる事項の説明にとどまらないための工夫の為に参考にしたい。授業方法の 工夫では、山口和宏は映像視聴に班学習を取り入れ、疑問点を発表させたり、穴埋め問題 の解答を班で考え発表し、加点するという工夫を行っている11)。教育史授業でのアクティ ブ・ラーニングの貴重な実践報告となっている。

以上いくつかの先行実践事例を紹介した。いずれも教育史授業担当教員の努力(と苦労)

がしのばれる内容となっている。実践の意図の共通項を筆者なりにまとめると、

学生が授業に主体的に参加すること 教育史について関心を深めること 学生が自分なりに考える力をつけること を主な目標としていると思われる。

いずれも筆者も実践の中で苦心してきた事柄である。どのような内容・形態の工夫をな しうるのか、授業実践によりいかに学生の主体性や意欲が喚起できるか、学生の思考力の

(5)

形成ができるか、今後の教育学学修に向けた自己課題発見ができるかが課題となっている と考える12)

Ⅱ 筆者の教育史授業実践報告

①A大学

3年間の実施、単独担当。集中講義 A大学は多数の学部を有する総合大学であり、筆者 が担当したのは教育学部以外の複数学部所属学生である。取得希望教科は国語、英語、社 会、数学、理科等と多岐に亘り、受講生も80名から110名程度と、大人数での授業となっ ている。内容は教育史であるが、2016年度以降の科目名称は「教育学概説」の1科目となっ ている。2015年度・2017年度は夏期休暇中、2016年度は春期休暇中に集中講義で実施して いる。1年次前期配当であり、教職科目の教育学関係科目では最初に受講する。大講義室 での講義形式。座席指定はなく、受講生は学部も専門も関心も多種多様である。開放制教 職課程科目であり、アクティブ・ラーニングを導入するには多くの困難を伴う。2015年度 は90分授業15コマ配当であったが、20162017年度は、60分授業を一日8コマ、4日間で 30コマ授業に加えて試験実施と、前年の1.3倍もの授業時間となった。集中講義での長時 間授業であり、いかに学生に集中力を持続させ、単調な構成にならないようにするかが工 夫のしどころといえる。

・平常点20点、最終試験(自筆ノート、プリント持ち込み可)80点で採点した。平常点は 挙手や発言、出席確認用の提出課題で採点した。最終試験は大問3問程度の論述式で行っ た。採点のポイントは以下の通りである。

・資料の引き写しにならず、自分なりにまとめているか

・授業内容を理解できているか

・自分の考えが根拠を持って明確に叙述できているか

・授業構成

紙幅の制限上、特に学生に作業、活動を指示した部分のみ具体例を示した。

第1講 教育の誕生と学校教育

・ギリシャ・ローマの教育

・中世の教育

ブリューゲルの絵画「子どもの遊戯」を提示し、衣服や顔、遊びの内容等について考え る。

・子どもの発見と近代教育思想

スゥオッドリングの画像を提示、感想やメリット・デメリットを考える。

2枚の子どもの遊ぶ画像(「理想のこども部屋」1825、「子どもの遊び」1774)を対比さ

(6)

せ、違いや共通項を考える13)

・近代学校制度

分岐型の学校制度のモデル図を書く14)

・新教育運動

・脱学校論・ホームスクール

ホームスクール・右傾化するアメリカ(NHK 2005)を視聴し、感想を書く。意見を述 べる。

第2講 日本の子どもと学校

・近世の児童の出生順別性比の表を見て、数値の違いの理由についてグループ討議・発表 する15)

・新聞の4コママンガ(寺子屋の新入生)を見て、間違いを考え指摘させる(例:一斉授 業、教科書が全員同じで洋綴じ、掛け図がある)16)

・小学校の特別教室がどの順序でできたかを、学校の見取り図をヒントに考え、班で発表 する17)

・戦時下小学校の映像(国策映画「戦ふ少国民」第4部(大都会))、1944年 約15分を視聴。

感想を書く18)

・成城小学校と公立尋常小学校のカリキュラムの違いを指摘し、特徴について考える19) 第3講 現代の子ども

第4講 テーマ史

①桃太郎像の変遷20)

・現代(平成29年)現在、学生の考える桃太郎(理想の子ども)はどんな子供かを書く。

②教科書の歴史

・国民学校教科書の2枚の差し絵を見て、教科と単元を当てさせる。当時の時代背景につ いて考えさせる。21)

・戦後国定教科書の目次を提示し、教科名を当てさせる22)

以上のように、おおむね講義形式であるが、長時間授業に変化をもたせるための作業や発 表を盛り込んだ内容となっている。出席確認のため半日ごとにコメント(配布プリント作 業の回答や感想)を記入・提出させた。

②B大学

教育学部初等教育学科1年次配当科目である。4年間実施、単独担当。他学科履修制度に より、教育学部他学科および他学部中等教員免許志望者含む)も若干名履修する。初等教 育学科の履修指導で1年次の「教職論」「教育学概論」を修得後に履修するよう求めており、

実際に履修するのはほとんど2−4年次生である。おおむね履修人数は10名ほど。選択科 目ということもあり、意欲の高い学生が履修することが多い。少人数のため、プレゼンテー ションを中心に、討議型の授業を行っている。ほとんどが小学校・幼稚園等の教職、保育 士志望者である。

(7)

B大学でプレゼンを導入した理由は、かつて他大学の10名以下の少人数授業で同様の実 践を行い、活発な議論に手応えを感じたことにある。教育学部生でないにもかかわらず、

当該授業で発表した内容を後日卒業論文テーマとして選びまとめた受講生もいたと聞き、

充足感を得ることができた。

・平常点30点、発表50点、レポート20点で採点した。平常点は挙手や発言、平常の提出課 題で採点した。

・例年90分授業15コマ配当。4月から7月に毎週実施。前半は教員による講義と質疑、後 半は学生による個人発表と質疑。

・最終課題としてインタビューとレポート作成を課した23)

・学生発表 1年次生やプレゼン経験のない学生がいたため、2017年度は1コマ2人発表 とした。発表1週間前までに、発表内容を教員に報告し指導をうけることとした。

本稿では2017年度実践の内容を報告する。

第1回 授業概要、アンケート 授業内容や進め方について説明。

目的:教育史は、教育という営みを歴史的に分析し、現代の教育問題の根源や解決にむけ ての方策を見いだすための手がかりとする学問領域である。「教育の歴史」では制度の通 史的概説のみならず、学生の作業や調査、発表を通して、教育の歴史についての理解を深 める。教育史は決して語句や年代の暗記の為に学ぶものではない。基本事項の修得も重要 であるが、学修を通して現在や未来の教育の在り方を自ら考えるようになることを目的と する。

教育史についての関心事項や既習知識の確認のため、以下の内容を記入させ、その場で 何人かに紹介させた。

Q:今から100年前(1910年代)の小学校や幼稚園、中学校(高等女学校)の姿を想像し てください。児童や教員、教室、教科書などなんでもいいので記入してください。

A1の例:子どもたちはみな和服。貧富の差が激しい。みな筆で文字を書いている。

Q2:学校や教育の歴史について、疑問や知りたいことをいくつでも記入してください。

(例)幼稚園と保育園の違いは何か、それぞれどのように設置されたのか。特別支援教育 はいつごろから制度化されたか。

A2の例:世界で初めての学校はどのようなものだったか。なぜ女子大があるのに男子大 がないのか。

これらについては、第2回でいくつかの質問については答え、テーマとして可能な項目に ついては発表テーマと設定するよう勧めている。

(8)

教育の歴史 発表概要

1:自分の知りたいテーマについての調査・検証結果を報告。

2:発表形式は自由。レジュメ、パワポなど

資料は必ず配布のこと。コピーはコピー票を使用(無料)

3:発表内容(例)

・問題関心(なぜ調べようと思ったか、問題意識)

・概要 (背景、年次推移、法制など)

・調べて分かったこと

・自分の考え、疑問

4:引用文献は明記。インターネットの情報は使用しても良いが、出典のはっきりしたも のを使用。Wikipedia 等は厳禁。アドレスを明記。各発表1週間前に内容について報告す ること。

まず知りたいことを探す手がかりとして、適宜紹介するのは以下の文献である。

佐藤秀夫(1987)『学校ことはじめ事典』小学館

苅谷剛彦(2005)『学校って何だろう 教育の社会学入門』ちくま文庫 新谷恭明(2006)『学校は軍隊に似ている』海鳥社

池田隆英・楠本恭之・中原朋生編著(2015)『なぜからはじめる教育原理』建帛社24)

第2回以降の講義では、基本全ての学生が質問や発言を行うようにこころがけた。

第2回 教育の始まり 教育の概念(講義)・発表テーマ決定 第3回 西洋古代中世の教育の歴史(講義)

第4回 日本の教育の歴史(近世)(講義)

第5回 日本の教育の歴史(近代)(講義)

第6回 学校制度の歴史(講義)

第7回 教科書の歴史(講義)

第8回 学外授業 近くの県立博物館にて特別展を実施していたため、急遽学外授業を実 施した。地元地域の江戸時代の教育について多面的に展示がなされており、学生たちも興 味をもって鑑賞していた。学芸員の解説をお願いしたところ、展示についての熱意のこもっ た解説を頂戴したのみならず、教員として児童生徒を引率する際の注意点についても丁寧 にお話いただいた。

第9回テーマ史 桃太郎像の歴史(講義)

第10回以降の発表では、全員必ず発表について

・良い点、悪い点の指摘

・質問

を行うよう指示した。

第10回テーマ史 土曜授業の歴史・義務教育の歴史(発表)

第11回テーマ史 幼稚園・保育所の歴史・学校制服の歴史(発表)

(9)

第12回テーマ史 ダンス教育・学校劇の歴史(発表)

第13回テーマ史 運動会・黒板の歴史(発表)

第14回テーマ史 倉橋惣三の思想(発表)

第15回テーマ史 学校図書館・中高一貫教育の歴史(発表)、総括

総括では、14回に以下の課題を課し、記入してきた内容を報告させた。これは2017年度に はじめて実施したことである。

1:授業全体の感想(他者の発表、教員の講義をうけて学んだこと、考えたこと)

2:自身の発表に関しての感想

例:自分の発表と他者の発表との比較  自分の発表の良かった点

自分の発表の課題・反省  発表以降調べた点、わかった点 発表を通して自身が成 長した点

など

受講生は、皆筆者が驚くほど詳細に記入してくれた。例を挙げる。

1:昔の教授法と今の教授法を比べて分かったことがたくさんあります。もともと今の 教え方になっていると思っていたけれど様々な考え方があっての現在だと言うことが分 かりました。

1:座学として学ぶ知識としての教育史ではいまいち掴めないようなところを、自分の 中で一度かみくだいて考えるため、当時の教育がどんなものだったか理解しやすかった。

今の教育は昔の教育としっかりつながっていて、改善、変更を重ねて、少しでも良い教 育にしていこうという思いが詰まっているんだと思った。

2:自分の調べたことに興味をもってくださり、そこについて質問をお互いにしあうこ とでよりその内容についての知識を深めることができました。このような学びの広がり はこれからも何らかの場面でつなげていきたいです。

2:(発表について)本当にたくさん調べてからえらんでまとめていかないと、質問に 対応できるものはできないと学んだ。

2:今回の経験で学んだことは全て教師という職のみでなく今後の人生で役立つことだ と思う。

慣れない発表や討議、レポートに苦慮しながらも、自分で課題を新たに発見していったこ と、短期間ではあるが大きな成長が見られたことがうかがえた。

(10)

過去3カ年分の発表は以下の通りである。

2014年度 2015年度 2016年度

教育課程の歴史 保育所・幼稚園の歴史 義務教育の歴史

保育所・幼稚園の歴史 授業料の歴史 家庭教育としつけの歴史 日本の学歴社会の歴史 運動会の歴史 教育基本法の歴史 男性保育士の歴史 学校給食の歴史 ゆとり教育の歴史

運動会の歴史 学校制服の歴史 養護教諭の歴史

ベーゴマ、おもちゃの歴史 黒板の歴史 不登校の歴史 特別支援教育の歴史 部活動・体育の歴史 いじめの歴史 英語教育の歴史 戦時下教育の歴史 体罰の歴史 学校図書館の歴史

傾向として、小学校教員志望者が多いため、小学校教育に関連する題材が多い。また幼稚 園、養護教諭など、自分の志望学校種に関連しての報告もある。学生の興味関心が、自ら の学校教育体験と結びつけられていることがわかる。各学校園にかかわる事項が、自分の 進路に関連づけられて論じられやすいのだと思われる。

・レポート課題

題目:自由につける 表紙には題目・番号・氏名 書式・分量 :A4サイズ 分量自由

内容:自分の異世代の方 1名以上に聞き取り調査を行い、内容をまとめる。インタビュー を通して自分が発見したこと、考えたことも末尾に記入。

聞き取り内容:対象者の10代の頃の学校教育・学びの体験

*特定の事項(例:国民学校、高等小学校、学徒動員、二部教室 など)で知らないこと があった場合調べて註記すること。出典は明記すること。

*プライバシー保護のため、固有名詞(氏名、地名、学校名等)すべてを明らかにする必 要はないが、筆者との関係・インタビュー時点の年齢は明記。

*貴重な資料(通知表、日記など)があった場合、了承が得られればコピーを付すこと。

*本レポートの内容は渡辺が採点の目的にのみに用い、外部に公表することはない。

質問例(あくまでも参考に)

・10代の頃の日常生活で印象に残っていることはありますか

・学校ではどの教科や活動がおもしろく感じられましたか

・英語はどのような授業を何時間くらい学びましたか

・どうしてその学校に進学しようと思ったのですか

(11)

・どうしてその職業につこうと思ったのですか

・人生に大きな影響をあたえた教師はいらっしゃいますか

・現代の教育について、自分の時代と比較して改善すべき点や良い点はありますか

・今の10代の若者に伝えたいことはなんですか

インタビュー対象者は、自身の両親や祖父母など多彩である。おおむね対象者との語らい を通して、対象者の新たな面を知ったと感想を述べることが多い。

Ⅲ 授業実践の成果と課題

①の成果

・多くの学部、分野から集まった学生であり、教員養成系学生とは異なる視点からの意見 が出た。筆者が気づかなかった点への指摘もあり、大いに知的刺激を喚起された。

・大人数であるにもかかわらず、真面目に私語もなく参加していた。

①の課題

・学生の積極的な参加を促すため、挙手、および自発的な発言はすべて点数化して加算し た。しかし3年間通じて、挙手発言は一部の熱心な学生に集中しがちであった。意欲のな い学生が後方で伏して寝ている状況を改善する効果はなかった。

・おおむね私語はなく、スマホは使用禁止と断ったためか、明白に使用を発見するにはい たらなかった。しかしあまり興味を示してくれない学生が一定数おり、内容に興味がもて ないのか、それとも教職課程履修自体に意欲がわかないのか、長時間の集中講義が苦痛で あるのかは気になるところである。

・教育学関連科目の履修経験がない学生が大多数で、、こちらが当然既習だと思っている 内容を知らないことが多くあった。大学ごとの科目履修形態に合わせた内容の工夫の必要 性を痛感した。

・「教育学入門」的な要素をもっと取り入れたほうが、学生の理解や関心が深まる可能性 がある。クイズや映像等の工夫を行いたい。

②の成果

以下に2017年度実施の学生授業評価アンケート結果を提示する。

特にQ2が「主体的かつ熱心に取り組んだか」を問うているが、9割が「4」(そう思う)

と回答してくれたのは喜ばしい。

Q8が総合評価であり、「4」(良い)が最高評価となる。総合評価は3.8であった。自 由記述では以下のような肯定的回答があった。

・発表主体の講義は大学では新鮮でした。

・先生がただ教えるだけでなく、(地名)教育の歴史について博物館に行かせていただ

(12)

いたり、自分たちが学校にまつわる歴史について調べ、発表するという授業内容があっ たりと、いろいろな視点から学ぶことが出来たのでとても良い授業であったと思います。

・一人ひとりに発表の機会があり、聞いて終わりにならず、考えることができた。

おおむね好評であると考えるため、今後もプレゼンとレポートという形式は継続したい。

②の課題

・さきの授業評価アンケート結果で、Q1(週当たりの学修時間)への回答が、2(1時 間以内)が6割、3(1時間~3時間)が4割となった。発表およびレポート準備にかけ る時間をもうすこし取って欲しいと願う。

・発表では個々の受講生の意欲と努力、文献引用方法の習得の有無、パワーポイント習熟 の有無等によって、内容に大きなばらつきが出た。準備のため多くの文献を探索して、文 献による記述・主張の違いに気づいたり、発表に工夫をこらしてクイズを導入した例もあ る一方、あらかじめ指導したにもかかわらず、ネット上の発言をそのまま自分の意見とし て紹介したり、wikipedia等の情報を無批判に引用したりといった、研究・発表そのもの のあり方にかかわる課題もあった。

・少数ながら履修する1年次生は初年次教育において発表やレジュメ作成技法を学ぶ過程 にあるため、発表に苦労している様が伺えた。2019年以降の新カリキュラムにおいては、

履修年次を2年次以上とする予定である。

(13)

・発表内容とレポート課題内容が必ずしも関連づけられて論じられていない。これはレ ポートと発表を学生が別物として認識しており、特にこちらからも関連づけるよう指導し ていないことに原因があった。またインタビュー対象者の経験と発表内容に関連がそもそ もない場合は検討対象にできない。

・発表時に質問や指摘を受けて新たに生じた課題について、各自が調べるよう指示はする ものの、おそらくこれまで他の授業や課題に追われ、そのままになってしまっていたと思 われる。2017年度ははじめて、第14回に提出課題を配布し、第15回に発言を求めた。この 1週間のあいだに一部学生は調べることができていた。学生のその後の主体的な学修や卒 業論文等への関心につなげるための方策を考えたい。

・選択科目ということもあり、興味をもって履修する学生が多い一方で、たまたま空きコ マで履修する学生もいる。シラバスに「発表を課す」と明記しているにもかかわらず、発 表することに驚く学生もいる。

・少人数で互いの顔も名前もよくわかる状況で毎回発言や質疑を全学生に求めるため、自 分の意見を出しにくい学生には抵抗感があるようだ。

・第8回の学外授業で驚いたのが、受講生全員が当該博物館見学は初めてと答えたことで ある。B大学では近隣諸館の学生観覧料無料の制度が導入されていることすら知らない学 生もいた。これは大学全体での近隣施設との連携や学生への積極的な働きかけとが必要に なる事案である。

Ⅳ 教育史授業実践の今後の方向性

1 大学で教育史を学修する意義

大学で教育史を学習することの意義について、まずB大学での個人発表をふりかえった ある学生の感想をとりあげたい。「最もためになったことは、『教育的多角的視点』が身に 付いたことである。教育史にふれたことで、現代に生きる私たちが持っている固定観念を 取り除くことができ、回数を追うごとに、そもそも今の教育は本当にはこれでいいのかと 自問自答できるようになった」という。これまでの様々な試みが、学生に伝わっていたこ とは何よりの励みである。筆者は現時点で、教育史を大学教職科目で学ぶことの意義は、「教 育史的思考力」を育成することではないかと考えている。このような用語は存在しないが、

教育史学修を通した思考力形成への試みを行っていきたいと考えている。歴史学習につい ては、永松(2017)が、今後「『歴史を知っていること』をどう使って、現代的な課題に 取り組んでいくかが問われることになる」と指摘し、「歴史的思考力」の構成要素を以下 の4点あげた25)

(1)過去の社会的事象に関する様々な資料から、その内容を科学的に適切に読み取る 力(2)過去の社会的事象に関して、他の事象との因果関係や、時間の推移に伴う変化

(14)

などを論理的に考察し、その意義や意味を解釈する力(3)過去の社会的事象に関して、

多面的・多角的に考察し、複数の解釈が成立することに気づき、解釈の根拠や論理を説 明する力(4)過去の社会的事象に関して、その意義や意味を総合的に表現するとともに、

新たな課題を見つける力

こうした指摘を参考にしながら、授業内容の工夫をしていきたい。

2 コアカリキュラム上の教育史

教育史は2017年夏に公表された「教職課程コア・カリキュラム」では、教育の基礎的理 解に関する科目「教育の理念並びに教育に関する歴史及び思想」に位置づけられている

26)。全体目標は「教育の基本的概念は何か、また、教育の理念にはどのようなものがあり、

教育の歴史や 思想において、それらがどのように現れてきたかについて学ぶとともに、

これまでの教育及び学校の営みがどのように捉えられ、変遷してきたのかを理解する」と され、教育史については以下のように設定された27)

(2)教育に関する歴史

一般目標:教育の歴史に関する基礎的知識を身に付け、それらと多様な教育の理念との 関わりや 過去から現代に至るまでの教育及び学校の変遷を理解する。

到達目標:1)家族と社会による教育の歴史を理解している。 2)近代教育制度の成 立と展開を理解している。 3)現代社会における教育課題を歴史的な視点から理解し ている

2019年度以降のカリキュラムにおいては、上記目標に即した授業構成を行う必要がある。

全体として、教育史の知識定着を図る内容となっており、通史的講義で対応可能な内容で あると見受けられる。筆者は特に到達目標の3)に着目し、学生が現代の教育課題に結び つけて自ら考えることのできる授業を開発したい。

3 教員採用試験 教職教養科目としての教育史

ここ数年の全国教員採用試験問題(教職教養)の出題傾向を見ると、教育史は「教職教 養全体のうち出題される割合としてはそう高くないが、コツさえつかめば確実な得点源と なる領域」と紹介されている28)。主として人物と著書と名言、実践の組み合わせ、日本の 教育制度の変遷等が問われやすい。まさに暗記科目として扱われている29)。各年の教育史 問題出題状況はどのようになっているだろうか。分析データを見ると、2011年実施(2012 年度採用)試験から2016年実施(2017年度採用)までの6年間について見ると、教職教養 問題を課している52自治体中、6年間で一度も教育史の出題が確認できないのは、福島県・

石川県・長野県・京都府・京都市・岡山市(2016年から実施)・広島県の8自治体のみで ある30)。大多数の自治体で、教育史の基本知識修得を教員の資質としてとらえていること になる。ご当地問題として地元藩校等の施設や人物が出題される例もある。

教職課程履修の学修動機づけや採用試験受験不安解消のために問題を紹介し、解答解説

(15)

を行うなど、利用する方法を模索したい。しかし教育史は逆に語句の暗記をすればすむ科 目という認識をもたれる懸念もあり、悩む。

以上3つの観点から、教育史授業実践の方向性について述べた。いずれもうまく取り上 げながら、授業改善を目指し、内容の充実を図りたい。

1)中央教育審議会(答申)(2012)「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて

~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~」では、「教員と学生が意思疎 通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を 創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラー ニング)への転換が必要である」とされている(2017.12.5文部科学省HP閲覧)。

2)白石崇人(2016)「教員養成における教育史教育」『広島文教女子大学高等教育研究』第 2号、pp.29-48.

3)古屋野素材(1988)「教育史教材としての文学作品」明治大学『教職・社会教育主事課 程年報』第10巻、pp.19-27.

4)古屋野によれば、伊ヶ崎暁生(1974『文学でつづる教育史』、民衆社)は、『坊っちゃん』

は管理色の強い教員の服務規律や給与の段階制について、今日と同質の問題点が読み取 れると指摘しているという。

5)大矢一人(1991)「講義形式と発表形式を融合した教授方法に関する一考察―「幼児教 育史」の授業を通じて―」『作陽音楽大学・作陽短期大学研究紀要』第24巻1号、pp.55- 65.

6)浅野誠『大学の授業を変える16章』大月書店、pp.65-70.

7)根本匡文・石原保志(1996)「聴覚障害学における「聴覚障害教育の歴史」の授業につ いて『筑波技術短期大学テクノレポート』第3巻、pp.5-10.

8)梶井一暁「1950年代初期日本における道徳教育の地域的展開―教育史演習授業使用史料 の検討から―」『岡山大学大学院教育学研究科研究集録』第160号、pp.11-18.

9)前掲白石。

10)日本教育史研究会「日本教育史往来」no.122, 1999.11.

11)1日本教育史研究会「日本教育史往来」no.148,2003.10.その他、同会報掲載の実践報告

は多数読ませていただいた。

12)佐藤秀夫(2000)『新訂 教育の歴史』放送大学教育振興会、pp.9-11. 佐藤(2000)は、

教育史を学ぶ理由について、以下の2つをあげた。「社会関係のもとに成立する事象の 意味や役割を根源的に考察するためには、「過去の類似事例との比較検証」が必要であ ること」

「教育の科学的考察に、過去の類似した実践例についての可能な限り客観的な検証、つ まり実証性を伴う歴史の考察を適用すること」特に前者の検証について、学生自身に考 えさせる取り組みが有効ではないだろうか。

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13)参照したのは井上豊久・勝山吉章編著(1995)『教育っていったい何だろう』福村出版、

pp.30-31。

14)佐藤秀夫(2000)『新訂 教育の歴史』放送大学教育振興会、p50. 森秀夫(2008)『要 説教育制度』三訂版、学芸図書株式会社、p14.

15)鬼頭宏(2000)『人口から読む日本の歴史』、講談社学術文庫、p211. 小針誠(2007)『教 育と子どもの社会史』梓出版社、pp.6-7の引用を参考にして授業に導入した。

16)森栗丸「おーい栗之助」、神戸新聞4コマ漫画、2012.4.5付け。地方紙各紙掲載。

17)千葉保(2011)『はじまりをたどる「歴史」の授業』太郎次郎社エディタス、pp.10-28.

18)村松邦崇(2003)「小学校の授業6年 国策映画『戦ふ少国民』を使って」『歴史地理教育』

661、pp.42-45を参考にした。

19)前出小針、p81.

20)すでに桃太郎像の授業実践については、拙稿(2016)「『桃太郎』を用いた『教育学概論』

授業実践」『就実論叢』第45号で示した。この授業は所属校での1年次「教育学概論」

で実施している。桃太郎像は多面的な思考力を育成したり、「子ども」をめぐる言説に ついて検討したりするための好個の素材であると考えており、今後も授業の充実をはか りたい。

21)平田宗史(1998)『教科書でつづる近代日本教育制度史』(第三版)北大路書房、 

pp.112-114.

22)大田邦郎(2011)『問題形式で考えさせる』東信堂、pp.120-128.

23)レポート要領については、立花隆・東京大学教養学部立花隆ゼミ(2002)『二十歳のこ ろ〈1〉1937−1958―立花ゼミ『調べて書く』共同製作』、新潮社(新潮文庫版)を参考 にした。

24)第5章「学校教育制度の変遷―なぜ、学校が普及したのか―」は筆者が執筆した。初学 者に事項端的に平易に伝えることの困難さを痛感した。

25)永松靖典編(2017)『歴史的思考力を育てる―歴史学習のアクティブ・ラーニング―』

山川出版社、pp6-14。歴史的思考力を育てる先行指導方法として、「知識構成型ジグゾー 法」「解釈型歴史学習」鳥山・松本らによる「歴史的思考力を伸ばす授業づくり」例も 紹介している。

26)教職課程コア・カリキュラム(2017.12.5閲覧)。

27)同上。

28)『教職課程』201710月号、協同出版、「教職教養~何を勉強したらいいの?」(p33)。

29)前掲大矢。受講生の半数が「歴史の授業は暗記教科として嫌いである」と答えたという。

30)『教員養成セミナー』実務教育出版、2016年2月号、pp.24-25.同2017年2月号、pp.24-25 を参照。その他各号を適宜参照。

参照

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