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荒川水域における水質汚濁の解析

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荒川水域における水質汚濁の解析

著者 村上 和雄

雑誌名 東京家政大学研究紀要 2 自然科学

38

ページ 177‑186

発行年 1998

出版者 東京家政大学

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010644/

(2)

〔東京家政大学研究紀要 第38集 (2),p.177〜186,1998〕

荒川水域における水質汚濁の解析

  村上 和雄

(平成9年10月2日受理)

Analysis of Water Pollution along Arakawa River

      Kazuo MuRAKAMI

       (Received on October 2,1997)

1.はじめに

 日本における河川の水質汚濁はかっての公害列島とい われた頃と比べると極めて改善されきれいな水になった といわれている.しかし,これは人口が集中している中 流から下流の状況である.上流では間違いなくわずかず っであるが汚濁は進んでいる.また,最近は廃棄物特に,

摩業廃棄物の廃棄場を水源に近い山深い地に設けること を自治体が許可していることに問題がある.水源に近い 場所にこれら廃棄場をっくればどんなことが起きるか考 えるべきで環境への配慮不足といわざるを得ない.東京 都日の出町の処分場問題では,組合側はまったく破れな いゴムシートの上に廃棄物を棄てているので廃棄物から の汚濁は流出しないと強調してきたが実際は明らかに周 辺への環境汚染は進んでいる.大量の廃棄物が棄てられ ればいくら丈夫なゴムシートも破れるのは当然である.

たとえ,最初は破れなくとも時間がたてば百%破れ汚濁 水は流れ出る.組合が公表している環境データだけでも それを裏づけているが,それがさらにはっきりする電気 伝導度のデータの存在を否定している.しかし,この処 分場の環境データは組合が測定しているわけではなく専 門の環境分析会社が担当しており,そんな手落ちをする わけがなく電気伝導度のデータはあると断言できる.そ れを裏づけるように組合側はペナルティーのお金を払っ ている.環境測定データは全面的に公開するのが原則で

ある.

 これに対して都道府県や大きな河川を擁する自治体は その地域の河川の汚染状況測定点を決めて定期的に測定 し,その結果をすべて公開している.河川の汚濁状況は 時々刻々変化するものであり,極めて異常値が出たとき は問題となりその原因追求が行われる.しかし,通常は

問題ない汚濁状況であるというデータの公表にすぎない そこで著者は秩父盆地を水源とし,埼玉県内から東京都 内を流れて東京湾へとそそぎ込む荒川の上流から下流ま での過去10年間(昭和60年から平成6年まで)の水質汚 濁の変化を埼玉県と東京都の測定データを基にグラフ化 しその原因を検証した.その中から興味ある結果が得ら れたものを報告する.

環境情報学科 環境有機化学研究室

2.荒川流域の地理的・社会的背景

 荒川の水源山地は古生層が主体の地質構造であるため 保水機能が低く,その上標高2000mを越える水源山地に も関わらず降水量が年間1200〜1300mmと少なくしかも降 水量の大部分が6月〜9月に集中しており,雪解け水も 期待できない.そのため年平均水量は流域面積100㎞1以 上の河川の中では,荒川は網走川に次いで2番目に少な い河川で,包蔵水力は6.8万kwにすぎない.

 荒川は水源地を出ると秩父盆地と狭陰な谷底を流れ寄 居付近から平野に入り,熊谷付近からは蛇行を繰り返し ながら埼玉県内を流れ,都内に入ると岩淵水門で隅田川 と荒川放水路に分かれる.図1は荒川の主要河川と水質 測定地点を示した.荒川水系97河川といわれるように荒 川には支流が非常に多く,このうち最も大きな支流は入 間川で荒川流域の25%を占める.荒川本流と入間川の合 流する付近は灌概を中心とした水田地帯であるが安定し た取水も難しい状態である.また,表1には河川の生活 環境項目の基準と荒川各測定地点の所属類型を示した.

 荒川下流は明治10年(1910年)の大洪水を契機に隅田 川と荒川放水路を分脈することが計画実行され,昭和5 年(1930年)に完成し,二っの川にはさまれた三角地帯 が荒川下流デルタ地帯といわれた.この三角地帯には水 路が縦横にめぐらされて交通手段として利用され,日本 有数の工業地帯が形成された.用水型の重化学工業が中 心であったため地下水を水源とし,大量に地下水を汲み

(3)

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(4)

荒川水域における水質汚濁の解析

表1 河川の生活環境項目の基準と荒川の測定点の対応

項目

類型

pH

BOD SS DO 荒川測定点

6.5以上 1㎎/1 25㎎/1 7.5㎎/1 二瀬ダム,

AA 8.5以下 以下 以下 以上 中津川

合流点前

6.5以上 2㎎/1 25㎎/1 7.5㎎/1 親鼻橋,

A 8.5以下 以下 以下 以上 正喜橋

6.5以上 3㎎/1 25㎎/1 5㎎/1 久下橋〜

B 秋ケ瀬

8.5以下 以下 以下 以上 取水堰

6.5以上 5㎎/1 50㎎/1 5㎎/1

C 笹目橋

8.5以下 以下 以下 以上

6.5以上 8㎎/1 100㎎/1 2㎎/1 戸田橋〜

D

8.5以下 以下 以下 以上 葛西橋

ゴミなどの

6.0以上 10㎎/1 2㎎/1

E 浮遊が認め

8.5以下 以下 以上

られないこと

上げたため急激な地盤沈下をまねき,最も激しい地点で は累計沈下量が4.6mにも達した.そのため昭和40年に 江東地区,昭和46年に城北地区に地下水汲み上げ規制な

ど地盤沈下対策が実施されるようになった.

 このように荒川は水量が少ないことと化学工業を含む 多くの産業が発展したことから公害のひどい時代には隅 田川,荒川放水路は水質汚濁が進み2っの川からの悪臭 で周辺住民は悩まされた.その後の排水基準の規制、下 水道の普及,排水処理技術の進展などにより現在の状況 までにいたったのである.

3.荒川水系の水質汚濁データとそのグラフ化  解析の基となるデータは埼玉県環境部水質保全課の

「公共水域及び地下水の水質測定結果(資料編)」と東京 都環境保全局水質保全課の「公共水域の水質測定結果

(資料編)」の昭和60年より平成6年までの10年分である.

測定地点は埼玉県内12(上流から二瀬ダム,中津川合流

点,親鼻橋,正喜橋久下橋御成橋開平橋治水橋

秋ケ瀬取水堰,笹目橋,戸田橋,新荒川大橋)と東京都 内4(江北橋,堀切橋,平井大橋葛西橋)の合計16地 点で検討した.汚濁状況を知る環境測定項目は生物化学 的酸素要求量(BOD),化学的酸素要求量(COD),全 窒素濃度,全リン濃度,水素イオン濃度指数(pH),溶 存酸素,浮遊物質量(SS)の7項目である.上記のデー タをマイクロソフト社のEXCELL(ver.5)に入力しグ

ラフ化した.

4.結果及び考察

 水質汚濁が引き起こされるのは,一っは直接河川が汚 濁される場合で,人間が故意または,過失で河川に汚濁 物質を放出するか,自然界から汚濁物質が流れ込むとき である.もう一っは河川の周辺に故意または,過失で放 置された汚濁物質となるものや自然界からの汚濁物質に なるものが大雨など天候の影響で河川に流れ込む場合で

ある.

4.1 天候の水質汚濁への影響 4.1.1 台風による水質汚濁の影響

 秋雨前線と台風の影響による水質汚濁の変化の例であ る.図2と3は平成3年10月15日に測定した荒川流域上 流から下流までの16測定地点のBOD, CODおよびSSの データである.10月15日前の天気は,10月5日以降秋雨 前線の影響で断続的な雨が続き,また大型台風21号と小 型の台風22号が影響しあい動きを遅らせ,その結果秋雨 前線に台風からのしめった空気が流れ込み前線の活動を 活発化し大雨となった.台風21号は13日午後に関東の南 海上を通過している.表2は平成3年10月11日〜13日ま での埼玉県各地の降水量を示した.各地とも大量の雨が 降ったことがわかる.

表2 埼玉県各地の平成3年10月11日〜13日までの降水量(田m)1

観測所

      3日日の

P1日  12日  13日      総欠フ量 三 峰 1 5 9       6 5    2 1        2 4 5

秩 父 1 7 4       5 6     2 5        2 5 5

寄 居 1 2 2.5    3 6     2 0.5     1 7 9

熊 谷 1 2 3       4 0     2 0        1 8 3

浦 山 1 6 2       4 7     2 0        2 2 9

飯 能 1 1 2       3 7     2 6        1 7 5

浦和 1 1 6       2 4      3 7      1 7 7

(5)

村上 和雄

i+BOD(皿g/1)

i+COD(㎎/1)

1+BOD環境基準値(mg/1)

      ワロ      ド      りむ         濃 度 0乙     ーエ    nU 葛西橋平井大橋堀切橋江北橋新荒川大橋戸田橋笹目橋秋ヶ瀬取水堰治水橋開平橋御成橋久下橋正喜橋親鼻橋中津川合流点前二瀬ダム

         測 定 地 点

図2 平成3年10月15日測定の荒川流域のBOD, COD

(mg/1)

環境基準値

  180

  160

  140

  120

濃100

度80

        治水橋

        開平橋

        御成橋

        久下橋

        正喜橋

        親鼻橋

60@ 40  20  0        日 秋ケ叢水堰地醗       点の 笹目橋   剤        硫 戸田橋    域        の        ss 新荒川大橋 江北橋 堀切橋 平井大橋 葛西橋

       測 定

図3 平成3年10月15E

      (180)

中津川合流点前

二瀬ダム

(6)

荒川水域における水質汚濁の解析

 水質測定は台風通過2日後に行われている.図2はB ODとCODのデータであるが,河川の汚濁指標であるB ODはどの測定地点でも環境基準は越えていないが,水 質汚濁の動きは笹目橋より下流では増加している.これ は上流で大雨により汚濁物質が流れ込みそれが2日たっ て,ここまで流下してきたと考えられる.また,親鼻橋 の値は中津川合流点の約4倍に増加しているが,これは 中津川合流点で荒川本流に赤平川が合流しているからで ある.赤平川周辺には比較的多くの畜産農家があり,畜 産排水や畜舎周辺の汚濁にっながる物質を含んだ水が流 れ込んだためである.正喜橋から秋ケ瀬取水堰までは低 い値を示しているが,これは汚濁物質が流下し終わって きれいな水になった値である.

 CODは河川の汚濁指標ではないが, BODのデータと 非常によい対応を示しているがその値はBODに比べる とかなり大きい.これはCODが有機物と共に被酸化性 の無機物質(アンモニア,硫化物,第一鉄など)の量も 含んでいるためである.

 秋ケ瀬取水堰より下流のCOD値が大きいのは汚濁水 がここまで流下してきていることを示している.また,

親鼻橋での急激な測定値の増加は,赤平川周辺の畜舎か らでる家畜のアンモニアを多く含んだ糞尿の水が台風の 通過後も流れ込んでいることが予測できる.

 図3はSS,すなわち河川水中の浮遊物質の指標であ る.環境基準は親鼻橋から堀切橋まで越えている.これ から大雨後数日でここまで汚濁水が流下していることが わかる。数値が高いのは当然のことで大雨の後は種々の 物質が流れ込み河川水は濁る.上流から下流までのこの データはBOD, CODの場合とほぼ対応している.

 最上流の二瀬ダム,中津川合流点のSSの値が低いの は大雨後二日で落ちっいてきたことを示し,親鼻橋以後 の増加は支流が流れ込むことによる.ひとつは赤平川に 原因がある.赤平川流域には,畜舎の他に砂利プラント が多くありここから浮遊物質が流れ出ていることが推測 できる.また,中津川合流点前と親鼻橋の間では横瀬川 も荒川本流に流れ込むが,この流域には石灰石の採掘場 がありここからも浮遊物質が河川に流れ込んでいること がわかる.

4.1.2 集中降雨による水質汚濁の影響

 図4は平成6年7月19日に測定した荒川上流から下流 までのBODとCODの測定結果である.この年の夏は猛 暑が続き,その上雨が少なく7月22日から8月21日まで

44%という厳しい給水制限が行われた.

 平成6年7月18日の朝日新聞には, 「荒川地域の三峰 地点で79mmの雨量を記録するなどまとまった降雨により 荒川の流量が毎秒120㎡(年平均69㎡)に回復した」

と述べている.また19日の夕刊には,「19日午前,東京 都江東区の荒川河口から上流の船堀橋付近までの数キロ にわたりハゼ,ボラ,セイゴなど魚約1万匹が死んだり 浮いたりしているのが見っかった.東京都環境保全局が 水質測定した結果,水中の酸素が1リットルあたり 0.7㎎(通常5㎎)しかなく,酸欠状態であることがわ かった.同局は前日の大雨で川底の汚泥が巻き上げられ バクテリアなど有機物の酸素消費が増えたところに連日 の猛暑による水温上昇が加わったのが原因と見ている」

と報じている.

 水質測定は集中降雨のあった次の日に行われている.

図4は4.1。1と同じように汚濁水が下流に流下していく ようすがわかる.この場合,降雨後一日あとに測定して いるので4.1.1のときより汚濁水は上流にある.BODは 治水橋までの上流では環境基準を越している.また,

BOD, CODとも4.1.1とくらべると大きな値を示してい る.これは,上流ほど川幅が狭く流量が少ないこと,さ らに渇水で例年よりも水量が少ないことで数値が高くなっ ていると考えられる.また,秋ケ瀬取水堰より下流の BOD, CODの増加は中流に近い上流部及び中流から流 入した汚濁物質によると考えられる.この地域では荒川 本流に,久下橋付近で工業団地,熊谷市の排水が流れ込 んでおり,さらに御成橋〜開平橋間では支流の市野川が 流入している.この川は東松山の都市,し尿処理廃水が 流れ込んでいる.また開平橋〜治水橋間では,入間川が 流入している.入間川は武蔵工業団地,入間基地,流域 市街地の排水が大量に流入している.そしてやはり渇水 のため荒川本流に流入する支流の河川水の汚濁程度も高 かったと言える.

 下流では,朝日新聞が報じるように渇水から一転して 川底の微生物の活動が盛んになり酸素を多く必要とした ことと気温上昇により酸素の水に対する溶解度が大きく 落ち込んだためと考えられる.

4.1.3 春の気候変化による水質汚濁への影響  一般に,冬から春にかけては水量が少ないため汚濁は 他の季節と比べ高い.図5は平成2年3月12日に測定し た荒川上流から下流までのBOD, CODの測定値である.

このときの気候の状況を3月12日の朝日新聞夕刊は次の

(7)

村上 和雄

(㎎/1)

(㎎/1)

環境基

++

12

10

ボ馬

4

2

葛西橋平井大橋

堀切橋江北橋

新荒川大橋

戸田橋

笹目橋 秋ヶ瀬取水堰

−治水橋・開平橋

 御成橋

 久下橋

 正喜橋

 親鼻橋

        測 定地 点

図4 平成6年7月19日測定の荒川流域のBODとCOD

中津川合流点前

二瀬ダム

14

+BOD(皿g/

一■−COD(mg/

+BOD環境

12

10

ボ馬

4

2

葛西橋平井大橋

堀切橋江北橋

新荒川大橋

戸田橋笹目橋

      占荒秋ケ瀬取水堰地勿

治水橋

開平橋御成橋

久下橋正喜橋

親鼻橋

        測 宗

図5 平成2年3月12日測定の 川流域のBODとCOD       (18

 中津川合流点前

 二瀬ダム

0

(8)

荒川水域における水質汚濁の解析

ように報じている.「東日本は12日午前,ポカポカ陽気 から一転,早朝から強い風と雨に見舞われた.気象庁に よると,日本海で発達中の低気圧が東北東に進んでいる ため,東京では最大瞬間風速18。6mを記録雨量も20mm を越える」.この日の東京の気温は15.7℃,最低気温 12.7℃と5月中旬なみの陽気であった.この程度の雨量 であると上流への影響は少なく,むしろ下流に見られる.

秋ケ瀬取水堰より下流で鴨川,笹目川,菖蒲川,芝川,

そして全国ワーストワンが20年近く続く綾瀬川などが埼 玉県南部及び東京東部の人口密集地を流れている.埼玉 県の下水道普及率は45%程度であり,生活雑排水は処理 せずそのまま河川に流れ込んでいることが多い.BOD,

CODとも新荒川大橋江北橋堀切橋付近で大きい値 を示している.これは当然20mm程度の雨により汚濁のひ どい支流の水が流れ込んだこと,川底から巻き上げられ た有機汚濁物質が測定値を上昇させたと考えられる.

4.2 事故による水質汚濁への影響:シアン流出事故    による水質への影響

 図6は昭和63年4月29日に測定された荒川上流から下 流までの全窒素濃度を示したものである.事故はD社の 狭山工場で濾過器のバルブを締め忘れ7000ppmのシア

ン化ナトリウム溶液500リットルが入間川に流出し,そ れが荒川本流に流れ込んだものである.そして,埼玉,

東京の水道を供給する浄水場は取水をストップ,また埼 玉県川口市にあるビール工場でも取水を停止している.

このときの様子を昭和63年4月25日の日本経済新聞は次 のように報道している.

 「午後1時25分頃,狭山市新狭山の川越・狭山工業団 地内にあるD社の狭山工場から約35万入の致死量をもっ 大量のシアン化ナトリウムが入間川に流れ込んだ.流れ 出したメッキ液の濃度は約7000ppmであった.入間川 の岸辺には白い腹を見せたフナやオイカワなどの小魚や 60〜70cmもあるコイが浮き上がり,約2トンの魚を回収

した」.

 全窒素濃度を測定したのは事故4日後である.入間川 から荒川に入り,シアン溶液は拡散しながら下流へと流 れ入間川と同様にたくさんの魚が死んで浮いたことが予 想できる.動物性生物の体はタンパク質からできており,

死んで水中に漂った場合,タンパク質やアミンやアンモ ニアなどにかわり河川中の全窒素濃度を追跡すれば汚濁 状況がわかる例である.開平橋下流の入間川から流入し たシアンを含んだ水はゆっくり拡散しながら大量の動物

80.

70

60

50

 40

30

20

一噸一全窒素(皿g/1)

10

0

瀬ダム 中津川合流点前 治水橋開平橋御成橋久下橋正喜橋親鼻橋

測 定

笹目橋      点秋ケ瀬取水堰地 戸田橋

図6 昭和63年4月29日測定の荒川流域の全窒素濃度

新荒川大橋 堀切橋江北橋 平井大橋 葛西橋

(9)

村上 和雄

表3 埼玉県及び東京都の下水処理場と処理能九処理水の排出濃度

下水処理場名 処理水量 処理水の排出濃度 下水道普及率

(千㎡/日) BOD(㎎/1) NH、−N(㎎/1) (%)

埼玉県荒川左岸南部流域 494.0

16

6.9 69.8

下水道流域処理場

埼玉県荒川右岸流域 290.0 7.9

17

75.4

下水道流域処理場 東京都公共下水道

小菅処理区 250 1, 2串 15.5 100

葛西処理区 303 3 12.8 100

注1)下水道処理場では,処理水の窒素分の排出濃度はアンモニア性窒素(し尿が起因する窒素分の指標)を公表し    ている.河川水の汚濁データの全窒素濃度と一致しないが,下水処理場から排出される処理水中のほとんどが    し尿からくる窒素である.本稿では,アンモニア性窒毒と全窒素濃度のデータで論じたが問題はないと考える。

注2)埼玉県南のこの2っの下水処理場周辺の普及率は高いが他の地域は50%以下である.そのため埼玉県を流れる    中小河川の汚濁はかなりひどいのが現状である.

    ※ 小菅処理場は綾瀬川をはさんで東と西の施設があるため2っの数値がある.

性生物を死滅させて下流へ進んでいる様子が分かる.笹 目橋から江北橋まで全窒素濃度が高いのはこのあいだに 大量の動物性生物の死がいがあり下流に移動しているこ とがわかる.全窒素濃度が2っのピークになったのはシ アンを含む河川水が下流に進むに従い拡散し2つの塊の 流れになったか,動物性生物が偏って棲息していたこと によると考えられる.

4,3 下水処理場排水の水質汚濁への影響

 下水処理場では,各家庭や事業所から送られてくる下 水を浄化し処理水は河川へ排出するが,その量が大きく なると河川水の水質汚濁に影響を与えるという例である.

 表3は笹目橋より上流にある埼玉県の下水処理場と下 流にある東京都の下水処理場の処理水容量,処理後の排 水のBOD,アンモニア性窒素濃度及び下水道普及率を 示した.図7は平成2年から6年までの上流から下流ま での年平均BOD濃度を示した.笹目橋をのぞき他の15 地点は環境基準範囲内である.図8は同じく平成2年か ら6年までの上流から下流までの年平均の全窒素濃度を 示した.図7では,笹目橋の測定点でBOD濃度が急激

に上昇している.これは笹目橋より上流には埼玉県の大 きな2っの下水処理場があり,特に荒川左岸南部流域下 水道流域処理場のBODの排出濃度は16㎎/1と高く,し かも大量の処理水を排出しているため笹目橋までには希 釈されることなく環境基準(5㎎/1)ぎりぎりの濃度に なっている.新戸田橋,新荒川大橋と流下するに従い少 しづっ希釈され,都内に入ると大きくBODは低下する.

これは東京都の下水処理場のBODの排出濃度が1また は2㎎/1と低く,規模の大きい処理場があるため都内で BOD濃度炉低下していると考えられる.

    t

 全窒素濃度の場合,下水処理場の排水が大きく影響し ていると明確には言えないが少なからずその可能性があ るという例である.図8では,全窒素濃度は埼玉県の2 下水処理場の排水により笹目橋で上昇し,さらに埼玉県 内の支流からの流入で上昇,江北橋で最も大きくなる.

都内で荒川に放水する都の下水処理施設は小菅処理場で あるが,排水のアンモニア窒素濃度は15.5㎎/1とかなり 高く排水量も多い.また,日本一汚濁されているという 綾瀬川からの流入もある.そのため都内に入ってからも

(184)

(10)

荒川水域における水質汚濁の解析

8

7

6

5

濃度

3

2

1

0

瀬ダム

1→・−SP成2年度 1−t■一平成3年度

  平成4年度

→←平成5年度 1→←平成6年度

i+BOD環境基準値(皿g/1)

親鼻橋中津川合流点前

久下橋正喜橋 御成橋 新荒川大橋戸田橋笹目橋秋ヶ瀬取水堰治水橋開平橋

測 定 地 点

葛西橋

平井大橋

堀切橋江北橋

図7 平成2年から6年までの荒川流域の年平均BOD

12

10

8

 6

4

2

0

        −

)・一■一平成3年度I

I 平成4年度

t

i→←平成5年度

:+平成6年度}

瀬ダム 中津川合流点前 正喜橋親鼻橋 久下橋 御成橋 開平橋 治水橋 秋ヶ瀬取水堰 戸田橋笹目橋 新荒川大橋

         測 定 地 点

図8平成2年から6年までの荒川流域の年平均全窒素濃度

江北橋 堀切橋 平井大橋 葛西橋

(11)

村上 和雄

ほとんど全窒素濃度は低下することはない.しかし,堀 切橋より下流は川幅が広がり,水量も増えるので全窒素 濃度が低下するものと考えられる.

5.おわりに

 これまで述べてきたように河川の水質は常に変化をし ている.その基本要因は人間の行動と気候の変化である.

下水処理場のような公共の施設でも河川水の環境水準を 越えさせるような行動を取っていることを忘れてならな い.気候の変化は現在のところ,人間の力の及ぶところ ではないが,環境を汚染しないという人間の行動はコン トロールできる.我々は都道府県から報告される環境デ ータを検討し少なくとも人間の行動からの汚染の原因や 可能性を追求し環境への負担をかけないことはできる.

そして,我々はこの行動を取ったら環境に対してどのよ うな影響があるかを常に考えるべきである.

6.要  約

 荒川水域の水質を昭和60年から平成6年までの10年間 のデータを解析し,その汚濁原因を過去の流域周辺の気 象状況,社会状況から考察し,河川の水質の汚濁は環境 水準を超えなくとも種々の環境条件により時々刻々変化

していることを検証した.

文  献

1)埼玉県環境水質保全課編刊「公共水域及び地下水の  水質測定結果(資料編)昭和60年度〜平成6年度版」

 (1986〜1995).

2)東京都環境保全局水質保全部編刊「公共水域の水質  測定結果(資料編)昭和60年度〜平成6年度版」

 (1986〜1995).

3)毎日新聞浦和支局編「荒川一169キロのみちのり一」

 (1995).

4)埼玉県熊谷地方気象台編刊「埼玉県の気象災害  平成4年度〜平成6年度」 (1993〜1995).

5)ARA編集部編刊「ハロー荒川生活情報MAP」

 1996,No。12.

6)㈹日本河川協会編刊「1994日本河川水質年鑑」 (19  95).

7)国土庁長官官房水質資源部編刊「平成8年度日本の  水資源一水資源の有効利用一」 (1996).

8)東京都下水道局刊「小菅処理場」 1997.

9)東京都下水道局「 96東京23区の下水道」 1996.

 最後に本調査研究に協力いただいた平成8年度環境情 報専攻4年倉田優理江君に感謝する.

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参照

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