日本小児循環器学会雑誌 13巻/号 101〜103頁(1997年)
第10回九州小児不整脈研究会 日 時1996年11月2日〜3日
場所グリーンピア(福岡県黒木村)
代表世話人 田崎 考(佐賀医科大学小児科)
助言者新村一一郎先生(横浜市)
1.特別講演(座長 田崎 考)
ボルター心電図と不整脈
九州大学医学部名誉教授・高木病院 矢永 尚士先生 心電図は,中枢神経一代謝・内分泌一心臓・血管・
肺・腎など生体内部と,環境刺激や日常生活行動の総 和である.すなわち,環境変化に対して内部環境の恒 常性を保つためのhomeostasis機構と,この恒常性を 保ちながら一定の周期1生をもって繰り返す生体リズム があり,この両機構が相まって環境へのスムーズな適 応が可能になる.最近では,循環器分野でも心事故の 好発時間帯・口内変動・日内リズムなど自律神経の関 与に関心がもたれてきた.この時間生物学的研究の歴 史をふりかえって,心拍変動性をR−R間隔非スペクト ル(時系列)解析としてRR50を提出した経緯をのべ た.また,スペクトル解析において低周波成分が交感 神経活動を反映し,とくにL/F比は一層強く表現し,
心不全・高血圧・心筋梗塞さらに突然死などにそれら の上昇がみられることが知られてきた.米国のスタ ディーでβプロッカーの有用性が報告されているこ ととあわせ興味あることである.そして,長年の臨床 経過から,個々の症例を大事にすることと自然歴観察 の重要性を強調したい.たとえば,かつて深夜2時に 急死した特発性心室細動(Brugada type)を経験した が,残された約1カ月前のホルター心電図テープを再 検討し,この現象が確認された.ホルター心電図によ るリスク評価が広く臨床に応用されることを期待す
る.
II.症例検討一1
(座長 九州厚生年金病院小児科 城尾 邦隆)
1.心房粗動と洞不全を合併した幼児例 福岡大学医学部小児科 橋本 淳一 5歳女児.発熱と頻拍を主訴に受診.心電図で右脚
別刷請求先:(〒806)北九州市八幡西区岸浦2 1 −1
九州厚生年金病院小児科 城尾 邦隆
ブロック・右軸偏位(稀少型)の頻拍(250/分)を認 めたため,特発性心室頻拍をうたがいVerapami1静注 を行ったところ心拍数は130/分となり心房粗動(AF)
が顕在化した.Procainamide, disopyramideの静注を
行ったがAFは停止しなかったためdigoxinにてHR
100〜120/分のrate controlを行ったところ,6病日に 徐脈となり,最長心停止時間5秒を認めた.2日後,徐脈による心不全徴候を認めたため一時ペースメー カーを挿入し,心不全は改善した.約3週間経過観察 したが,自己脈のみでは徐脈による心不全が再度出現 したため,27病日永久ペースメーカー(VVI)植込み を行った.その後,AFに対してdisopyramideの内服 を試みたが無効で,aprindineに変更し改善した.原因 として心筋炎を考えたが,酵素学的・ウイルス学的に は否定的であった.なお,頻拍発作時にATPを試みる のも診断上有用であったと考える.
2.心臓ペースメーカー治療中に合併症を経験した 4症例
九州厚生年金病院小児科 渡邊まみ江 最近のペースメーカーの技術革新はめざましいもの があるが,反面,管理も難しくなっている.われわれ は過去10年間に,心臓ペースメーカー治療中の20例の うち4例に比較的重大な合併症を経験した.症例1;
6歳CAVB. P/O TOF.特に問題なく経過中,学校 給食中に突然死した.リード破損が原因と考えられた が詳細は不明.症例2;10歳CAVB. P/O Common Ventricle(SV Type C). Adams−Stokes syndrome と思われる症状で来院したが,安静時心電図・ホルター 心電図ではPM不全なし. Generator故障が否定でき ず交換を余儀なくされたが,本体には異常は認められ なかった.緊急モードへの変更歴があり調査したとこ ろ通学路上での電磁障害が疑われた.症例3;8歳 CAVB. P/O VSD.初回植込み2カ月後にペースメー カーポケット感染合併.8歳時の定期検診で,VOO
モードの心電図が記録されPMのSensing不全とさ
れた.Generator交換後の検討により本体のSensingPresented by Medical*Online
102. (102)
回路に故障が確認された.症例4;4歳Congenital CAVB.発熱のため外来受診したと,心電図上Pacing を認めず.原因はリードの断線であった.それぞれが ペースメーカー治療を管理していく上で重要な症例と 思われたので報告した.
3.長距離走中に胸痛を訴える2:1房室ブロック 山口日赤病院小児科 大淵 典子 15歳男子.1歳時に川崎病に罹患したが,心臓カテー
テル検査で冠動脈病変は認めていない.中学生のとき から長距離走を得意とし,高校では駅伝部に入部した.
しかし,走行中のズキッとする胸痛と頭のふらつきに 不安をおぼえて受診した.安静時心電図でWondering pacemakerの所見.トレッドミル運動負荷検査で運動
中止直後に1拍分の洞停止に続く2拍の異所性Pに
よる補充収縮を認め,迷走神経の緊張充進が疑われた.
ホルター心電図では,走行中に急に約10秒間の2:1 房室ブロックを生じており,心拍数の半減にともなう 循環動態の変化が胸痛の原因と思われた.今後,運動 を制限する方向で指導し,起立負荷や薬物を使用して 運動負荷・ホルター心電図をくりかえし検討する必要 があると考えられた.
4.無症状の高度房室ブロック
産業医科大学小児科 神代万壽美 16歳男子.症状なく,13歳からバスケット部で活躍
中.11歳の心臓検診でPR延長0.48secのため初診.13 歳で2度房室ブロック(1型),15歳からさらに高度の 房室ブロック(3:1ブロックまたは問歌性完全房室
ブロック)の混在をみるようになり,夜間の心拍数は 平均35/分前後である.胸部レ線や心エコーに異常な し.Treadmill運動負荷(Bruce 16分)心拍数166/分 でPR O.14secと短縮し1:1伝導になる,また,運動 負荷時,多源性と思われる心室性期外収縮をみたこと もあったが,その後再現性なし.成因として迷走神経 緊張充進などの神経ホルモン的影響,刺激伝導系の器 質的変化など考えられ,atropineなどの薬物負荷や電 気生理学的検査も必要と思われるが,必ずしも予後の 指標にはならないという報告もあり,慎重な経過観察 が必要である.
5.顔面浸水負荷心電図でnon−sustained VTを誘 発した学童例
鹿児島生協病院小児科 西畠 信
小学校1年の学校心臓検診で心室性期外収縮
(PVC)を指摘された7歳男児.単源性単発性のPVC が1分間に8回以上出現するために,Treadmill運動
日小循誌 13(1),1997 負荷心電図と顔面浸水負荷心電図検査を施行した.運 動負荷ではPVCは出現しなかったが,20℃顔面浸水
を行ったところ,VT rate 100〜HObpmで30連発の non−sustained VTを誘発した.これまでのヒ【常生活で は意識消失・動悸などの症状をまったく認めていない ため,学校の水泳中の潜水のみを禁止して経過観察中 である.無症状の顔面浸水負荷で誘発されたPVCの 管理を論じた.
症例検討一2
(座長 九州大学医学部小児科 福重淳一郎)
6.無症状のPSVTをどこまで管理すべきか 大分医科大学小児科 山田 克彦 9歳男児.生来健康.小学1年の検診で脈不整を指 摘され来院した.安静時心電図に異常なく,胸部レ線 で心胸廓比0.41,心エコー検査でも基質的疾患は否定 された.しかし,トレッドミル運動負荷(Bruce法)
により容易に発作性上室性頻拍が誘発された.ステー ジ1までは非持続性,ステージ2以上では持続性.頻 拍時の心拍数は洞調律の1.3〜1.6倍で毎分150〜238と なり,中止後1分で自然に洞調律に復帰した.この間,
動悸や疲労は訴えなかった.各QRSにはP波が先行 し,その電気軸から左房高位に起源があると推定され た.Disopyramide内服中も同様に誘発されたが, Pro−
pranolol内服中にはステージ4まで頻拍がみられず 有効と判定された.ホルター心電図では,PAT with
Block(2:1)や発作の始まりに変行伝導による
Wide QRSなども観察された.運動制限のほかPro pranololによる抑制を試みたが,理解と協力は得られ なかった.無症状で良性と思われる頻拍性不整脈の管 理指導について検討した.7.胎児腹水・胎児頻拍から観察しているAcceler・
ated Junctional(Idioventricular)Rhythmの6歳 児例
鹿児島生協病院小児科 西畠 信
胎児期から観察しているAccelerated
Idioventricular Rhythmの6歳児例.症例は,妊娠25 週の胎児期に腹水貯留と頻拍(220/分)により気づか れた.digoxin, verapalnilの母体投与は無効だった.
胎児エコーで接合部性頻拍(JET)もしくは心室頻拍
(VT)と診断して経過観察したが,胎児水腫への進行 はみられず35週まで待機し帝王切開で娩出した.出生 直後に腹水400mlの穿刺排液を行ったが,それ以降は 特に治療を要さずに成長した.心電図は,出生時には 150〜190/分のJETと左軸偏位をともなう洞調律が混
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平成9年1月1日 103−(103)
在していたが,現在は,1)LAD, LBBB patternの QRSで逆行性PをともなうIdioventricular Rhythm
を基本調律とし,2)LAD, RBBBpatternの洞調律が やや頻拍時にみられ,3)LAD, RBBB patternのQRS に逆行性PをともなうIdioventricular Rhythmが運 動後などに混在し,時にPVCがみられるが, Wide QRS Tachycardiaの発f乍などの症状は認めていな い.しかし,多彩な不整脈は広範な伝導系障害による
と考えられ,慎重な経過観察が必要である.
症例検討一3
(座長 鹿児島生協病院小児科 西畠 信)
8.マイコプラズマ肺炎を契機に気づかれた難治性
VTの1例
九州大学医学部小児科 肘井 孝之 16歳男児.13歳時,マイコプラズマ肺炎で入院中 non−sustained VTに気づかれる.症状はなし. mex iletine・βプロッカー(propranolol)・disopyramide・
verapamilおよびこれらの併用はいずれも有効とはい えず,運動制限のみ無投薬で経過観察であった.14歳 時,散歩中に失神あり.propranololを増量して再開
(110mg/day)しある程度有効であったが,副作用(鼻 閉)のため中止.aprindine・fiecainideを使用してい たが,次第にVTは増悪し持続性となった.次の手段
として,β・プロッカーでも臓器選択性のある
acebutololへの変更や, propranololの少量療法が議論された.しかしなお,不変もしくは増悪のある場合,
alniodaroneの使用やカテーテルアブレーションも考 慮される.
9.深夜の痙攣で発症したQT延長症候群の1例 九州厚生年金病院小児科 仮屋園秀彦 17歳女性.小学1年の心臓検診でQT延長を指摘さ れ経過観察としていたが,小学4年以来来院していな かった.高校1年の心電図検診では異常を指摘されな かった(心拍数75以上でQT時間が無視される判定基 準).本年7月深夜3時ごろ,数10秒の身体硬直があっ たが意識は保たれていた.10月13日やはり深夜3時に 数分間の意識消失と痙攣が出現したので急患として受 診し,入院した.この時,不整脈はなく,意識は鮮明 で麻痺など残していなかった.いずれの発作も直前に 覚醒し気分不良であったという.入院時の心電図で QTc時間は0.526秒と著明に延長し, QT dispersion も認めた.家族歴で失神や突然死はないが,母親の心 電図に同様のQT延長をみとめたので, Romano−
Ward症候群と診断した.なお,発作が深夜・安静時と 非典型的なのでJackmanのいうPause dependent型
との鑑別が必要と考え,Isoproterenol負荷試験を行い 心拍上昇とともにT波の変形とQTcの延長を,さら にこれらの変化がβプロッカー(propranolol)により 抑制されることを確認した.現在,propranolol 90mg/
日の内服中で,再発作はない.