食肉の知識
栄養教諭のための
編 集 社団法人全国学校栄養士協議会 編集協力 独立行政法人農畜産業振興機構
改訂版
知 識
総 監 修 藤巻 正生
(第 3 章及び総合)東京大学名誉教授・お茶の水女子大学名誉教授
監 修 吉田 忠
(第 1 章)京都橘女子大学教授・京都大学名誉教授
柴田 博
(第 2 章)桜美林大学大学院教授・東京都老人総合研究所名誉所員
品川 邦汎
(第 4 章)岩手大学農学部獣医学科教授
表紙に使用した「絵画」について
平成 16 年夏、財団法人学校給食研究改善協会では、「栄養教諭制度」実現・「学校給 食法」制定 50 周年を記念して全国の公立小学生から「学校給食に関する絵画」を募集し ました。
応募総数 7,537 点の中から 100 点が入賞しました。
入賞作品の中から、カレーライスを題材にした絵画を 3 点選び、表紙に使用しました。
上・鹿児島県国分市立国分北小学校 6 年 折田 昌吾 さん 中・香川県三木町立平井小学校 5 年 大北 昴斗 さん 下・愛知県額田町立豊富小学校 4 年 萩原 元 さん
Part 1 食肉の日本史
●2
Part 2 食肉の効能をさぐる
●10
1. 食肉と寿命の関係 2. 体格の変化と動物性食品 3. 食肉の摂取と疾病構造の変化
Part 3 食肉の栄養と健康
●17
1. 食肉のたんぱく質 2. 食肉の脂質 3. 食肉のビタミン 4. 食肉のミネラル
Part 4 食肉の安全性・衛生
●23
1. 安全性確保の仕組み
2. 安全な食肉はこうしてつくられる
―と畜と食肉加工 3. 流通プロセスの安全性
C O N T E N T S
1.バラエティ豊かだった縄文人の食生活
人類は、およそ 1 万年前の新石器時代に食糧生産革命の時代を迎えます。
家畜を飼育する牧畜や穀物を栽培する農耕の始まりによって、生活基盤が安 定すると、人口が加速度的に増加するようになります。言語的・民族的集団 が形成されはじめたのも、この時期から、といわれています。
新石器時代は、日本の縄文時代にあたります。狩猟や海浜漁労、採集で食 糧を確保し、土器を使うことで料理のレパートリーが広がりました。獲物の 肉を加熱するだけの「火食」段階から、煮炊きなどの料理ができるようにな ると、それまで硬くて食べられなかったドングリやトチの実も食糧になり、
加工した食糧を備蓄するようになります。
動物の内臓も食べていました。そのせいか縄文人の食事は栄養学的にも優 れています。
旬を大切にして季節に応じた山や海の幸を巧みに食用としていたのです。
世界に類がないほど 12000 年近くも長く続いた文化の背景にこのような優 れた食文化がありました。
エネルギー 2390.0kcal 食塩 9.0g
ビタミンB2 5.2mg
ビタミンC 17.1mg
ビタミンB1 2.5mg
たんぱく質 64.9g
ビタミンA 2790.5IU
炭水化物 351.6g
カルシウム 12491.0mg リン 3455.2mg
鉄 503.5mg
「バランスのとれた食生活を送っていた縄文人」中野益男より
図 1-1 宮城県鳴瀬町の遺跡、里浜貝塚縄文人と現代人 の1日分の摂取食品の栄養成分比較(円形部分が現 代人の栄養摂取量)
縄文時代
(約1万年前)(新石器時代)
(農耕の始まり)
食糧の加工や備蓄。
肉食(主にシカ、イノ シシ、マガモ等鳥獣肉 の内臓)の始まり。
他に魚介、海草、木の 実等多彩な食生活。
一般に経済的な豊かさは食肉などの動物性食品の摂取量に反映さ れるといわれます。
日本の場合はどうであったのでしょうか。
それは私たちの健康と栄養の道すじを探ることでもあります。
2.ブタやニワトリが飼われた弥生・古墳時代
紀元前 4 世紀頃に北九州にはじまり、わずか 200 年という短期間に普及し た水田稲作は日本列島に大変革をもたらします。しかし、稲作に適さない多 くの台地や水利のよくないところでは、依然として粟や稗、黍(きび)、豆、
蕎麦などの穀物や数少ない野菜が畑作栽培され、狩猟や漁労採集が頻繁に行 われていたことが、銅鐸(どうたく)に彫られた猟犬を使った狩猟の図や、
遺跡から出土する多量の石鏃でわかります。狩猟の獲物ではシカやイノシシ が多く、鳥類では鵜、鴫(しぎ)、鷺(さぎ)、鳩、鳶などが食されています。
弥生後期になると、運搬や農耕に重要な役割を果たしたウマやウシ、狩猟 に役立つイヌのほかに食用のブタやニワトリを飼っていたことがわかってい ます。しかし四方を海に囲まれ豊富な魚介類に恵まれていたため肉食の習慣 は定着しませんでした。
3.仏教がもたらしたタブー
4 世紀になると、諸豪族の連立政権によって日本列島のかなりの範囲が統 一されます。竪穴住居にも竈(かまど)が設置されて調理技術が発達します。
加工食品を貯蔵する穴や置場も整備されるようになると、肉料理のバリエー ションも広がります。
農耕が広く普及して主食と副食が分離します。と同時に動物の内臓を食べ る食習慣は途絶え、精肉を食べるようになっていたようです。内臓から摂っ ていた塩分の不足は、海水から塩の結晶を取り出して食塩を調味料として利 用する食文化を呼び起こします。
肉料理では、家畜を煮たり焼いたりする料理に加え肉汁の利用や、貴族の 弥生時代の銅鐸、右は銅鐸の獲物の絵の部分(東京国立博物館蔵)
弥生時代【前期】
(紀元前 300 年〜1世 紀初頭)
水田稲作の開発と普及
弥生時代【後期】
(1 世紀後半〜 3 世紀 前半)
肉食習慣民族の渡来と 共に食用家畜(豚、鶏 等)の飼育。
以降肉食の習慣が江戸 時代まで定着しなかっ た。(豊かな魚介)
Part 2
● 食 肉 の 効 能 を さ ぐ る
Part 3
● 食 肉 の 栄 養 と 健 康
Part 4
● 食 肉 の 安 全 性 ・ 衛 生 Part
1
● 食 肉 の 日 本 史
古墳時代
(3 世紀後半〜 4 世紀 初頭)
調理技術の発達と共に 農耕が普及、主食と副 食の分離。
内臓の食用が途絶え精 肉の食用へ。
仏教伝来(殺生禁断)
→肉食の忌避
大陸との交流が盛んになり、538 年仏教が伝来します。仏教には、殺生禁 断という教えがあり、「生き物を殺生すると仏罰が当たる」とされていまし た。この教えが一切の衆生(しゅじょう)に及び、人間のみならず、禽獣な ど生命のあるものすべてに対する殺生が「良くないこと」とされるようにな ります。この仏教の教えは、日本人が古くから持っていた血穢(けつえ)、
死穢(しえ)というけがれ忌避意識と結びついて、肉食を忌避する風習を生 み出します。
天武天皇は 676 年の詔勅で、ウシ・ウマ・サル・ニワトリの肉を食べるこ とを禁じ、漁労で魚にわなを仕掛けたり、銛でつくことも禁じます。
4.薬猟で守った肉食の習慣
それでも肉食の習慣は消えることはありませんでした。古くから肉食の味 に親しんでいた人たちの間では、必要に応じて山野に猟に出かけ、鳥獣の肉 を楽しむ風習が続いていました。これを「薬猟」と称していたようです。
5.「薬食い」で肉食を堪能していた武家政権
たくましい生活力と軍事力を武器にした武士階級は、戒律を守って極楽浄 土を願う貴族階級と異なり、狩りによって得た獣肉を食膳で楽しみ、獣肉に 対する禁忌とは無縁でした。
忠節・武勇・礼儀・質素をモットーとする武家文化のなかで、有名な「曽 我兄弟の仇討ち」の舞台となった富士の裾野のような「狩場」は、軍事演習 のためだけではなく、貴重なたんぱく源を確保する場所としても珍重されて いたのです。
大和時代
(593 〜 710 年)
肉食禁止令により狩猟 による山肉(野獣肉)
の食用。
飛鳥・平安時代
〜鎌倉時代
(593 〜 1185 年)〜
1399 年
武士を中心とした動物 性たんぱく質の豊富な 食生活。
狩 に よ る 獣 肉 の 食 用
(狩場は貴重なたんぱ く質源の確保)。
『百錬抄』と禅宗にみる食物
鎌倉時代の初期には朝廷からは狩猟の禁止令が発布されている。しか し、鎌倉時代末期の公家の日記などを抜粋した『百錬抄』には、大勢 の武士たちが京都の六角西洞院の境内にシカの肉を集め、「宍肉(し しにく)」とよんで喜んで食べていた様子が、「洛中不浄、只この事に あり」と記されている。
鎌倉時代の禅宗は、武家の食品選択に影響を与える教義はほとんどな く、宗教的な戒律にとらわれない風潮が支配的だったようだ。しか し、長く続いた宗教上の規制は人々の生活に深く浸透し、禽獣の肉 は、健康維持や病人の体力回復のために、薬代わりに少しずつ消費す る「薬喰い」と婉曲な表現が用いられ、そのための狩猟を「薬猟」と 称していた。
Part 2
● 食 肉 の 効 能 を さ ぐ る
Part 3
● 食 肉 の 栄 養 と 健 康
Part 4
● 食 肉 の 安 全 性 ・ 衛 生 Part
1
● 食 肉 の 日 本 史
6.魚鳥肉が尊重された室町時代
室町時代は、みそやしょうゆなどの調味料を初めとした、現在につながる 日本風の食品や食生活が形づくられた時代です。このなかで、魚や鳥類の肉 を上品な食物とする風習が生じ、獣肉はそれらに比べると下級なものと考え られるようになったことが『庭訓往来』や『尺素(せきそ)往来』などに記 されています。
室町時代も後期になると、肉や魚を除いた禅林風の食べ物が武士の食生活 にも浸透します。寺院や海から遠い京都などでは肉類を用いない精進料理が 発達し「日本料理」の原型もつくられます。
7.仏教の「殺生戒」からの解放と牛肉・豚肉の食用
ヨーロッパから鉄砲が伝来し、宣教師が布教に訪れるなど「南蛮文化」が 流入した安土桃山時代には、一日の食事回数がそれまでの朝夕の二食から三 食になるという、食生活史上重要な変化が起きています。
南蛮人との交易を契機にして、キリスト教に改宗する大名たちは九州から 近畿に広がります。領地の庶民は仏教の「殺生戒」から解き放たれ、牛肉や 豚肉が食用として受け入れられるようになります。
後に、秀吉は「伴天連追放令」でキリスト教を禁じ「牛馬をと畜して食用 に供すること」も禁止しています。
8.江戸時代の食卓と養生肉
江戸時代は、三代将軍家光によって「鎖国令」が発せられ、「島原の乱」
を契機に肉食に関係の深かったキリスト教や南蛮文化との関係もあって、生 牛馬のと畜禁止令は江戸幕府の定法となります。
鎖国下の天下泰平を背景に食生活が豊かになり伝統的な食文化の中に南蛮 や支那料理の要素を和風に消化して日本料理が完成した時代です。
獣肉食を忌む傾向は根強かったものの南蛮や支那料理の影響を受けて食肉 をあじわう機会は少なくなることはありませんでした。
「犬公方」といわれた五代将軍綱吉は、イヌをはじめとする動物を徹底的 に保護する「生類憐れみの令」を出しますが、ちょうどその頃、近江の彦根 藩では生牛と畜が黙認され、牛肉の味噌漬けや干し肉による「薬喰い」が考
室町時代
(1399 〜 1573 年)
日本料理の原型が形づ くられる。
上品な食物として魚鳥 肉を尊重(獣肉は下級 な食)。
安土桃山時代
(1573 〜 1600 年)
食事回数が1日3食に。
仏教の「殺生戒」の解放 豚肉、牛肉の食用化→
キリシタン追放令(肉 食の禁止)へ。
ワカ
当時を回顧した文献には「京衆牛肉をワカと称してもてはやせり」と あるが、「ワカ」という音は、ポルトガル語で牛肉を意味する vaca が なまったものと考えられている。
江戸時代【前期】
(1600 〜 1730 年)
日本料理の完成期。
牛肉の味噌漬け等保存 食を病気を治す養生肉 として食用を許可。
肉食を説き、その後蘭医が肉食を勧めたこともあって、近江では公然とウシ のと殺が行われ、彦根藩役人の指揮下で牛肉の味噌漬けや乾肉が生産される ようになります。近江の名産品となった養生肉は、江戸中期以降、彦根藩主 井伊家の「寒中お見舞い」の貢物として将軍家や御三家、老中などに献上さ れています。
9.外食の普及と庶民の肉食
元禄や文化文政の時代になると、上方や江戸で町人文化が花開き、食生活 も豊かで贅沢になっていきます。交通網が整備され街道筋の宿場などに居酒 屋や飯屋が軒を並べるように
なり、人口が集中する都市部 の下町では繁華街が出現し、
飲食店が立ち並びます。
自宅ではなかなか料理でき ない食肉が、一部の飯屋や飲 食店で堪能できるようになり ます。いわゆる外食文化の登 場です。「山くじら」の看板 を出す店でイノシシの肉の鍋 料理に舌鼓を打ち、「ももん じ屋」ではイノシシのほか にシカ、タヌキ、鳥肉など の獣肉も楽しむことができ ました。
禁令下の肉食
二代将軍秀忠は、1612 年に「牛を殺すこと禁制なり。自然死するも のは、一切売るべからず」という牛肉食禁止令を出す。この禁止令は 三代将軍家光の牛馬のと畜禁止同様、農業を振興させるために田畑の 労役に使うウシの繁殖を奨励するという実利的な理由があり、それま での仏罰を恐れたのとは大きく色合いを異にしている。中国、朝鮮、オ ランダとの交易が許されていた長崎の出島では、中国人がブタを飼い、
オランダ人が豚肉やハムを食べていた。薩摩ではブタが飼育され、江 戸近郊の一部の地域でもブタが飼育されていたという記録がある。
「山くじら」の看板で野獣や野鳥の肉を食べさせて いた「名所江戸百景(びくにはし雪中)」
(江戸東京博物館蔵)
江戸時代【後期】
(1730 〜 1867 年)
町人文化が開花。
外食文化が登場し、家 庭で料理できない食肉 は外食化。
Part 2
● 食 肉 の 効 能 を さ ぐ る
Part 3
● 食 肉 の 栄 養 と 健 康
Part 4
● 食 肉 の 安 全 性 ・ 衛 生 Part
1
● 食 肉 の 日 本 史
10.文明開化と「肉食のススメ」
明治 2(1869)年に海軍が牛肉を栄養食として採用し、同 5 年に明治天皇 が初めて牛肉を食されると、新聞が肉食を奨励・賛美するようになり、牛鍋 屋は「官許」の文言を幟、看板などに記します。
仮名垣魯文の『安愚楽鍋』によれば、牛肉を食べることが文明開化の洗礼 を受けることであり、現在の「関東風すき焼き」のルーツともなる牛鍋のブ ームが起こります。明治 6 年には浅草・神田界隈で 74 軒でしたが、4 年後に は東京で 558 軒が軒を競っています。
牛肉は西洋料理の材料として普及し、30 年代にはウスターソースが市販さ れ多数の料理本も出版されるようになって肉料理は家庭料理の仲間入りしま す。こうした需要をまかなうために近畿地方や中国地方の肥育牛が鉄道輸送 され、明治末期には山形の米沢牛が陸送されるようになります。
福沢諭吉は幕末の頃から、「牛肉は滋養によい。牛肉は夜の明けるに従い 誰でも食用するようになる」とと畜場建設を奨励しています。福沢諭吉は学 問だけでなく「食肉ノススメ」にも貢献していたのです。
明治時代【前期】
(1868 〜 1890 年)
海軍が牛肉を栄養食と して採用。
明治5年天皇が初めて 牛肉を食す。→肉食を 奨励、賛美→家庭料理 の仲間入り。
食肉料理は鍋物が主流だった
ペリーが開国を要求して黒船が浦賀に到来して以降、横浜に居留するよ うになった外国人に対する牛肉調達の必要性が生じた。近畿や中国地方 のウシが、家畜商の仲介で神戸港に集められて横浜に運ばれ、慶応 3
(1867)年には幕府の御用達で芝白金にと畜場が作られた。ビーフステ ーキを好む外国人にとって、シロヌカや豆腐粕で肥育され船で運ばれて きた「コーベビーフ」の評判は格別だったようだが、江戸町民たちには 鍋料理としてひろまった。特に人気の高かった牛鍋は、ももんじ屋で人 気のあったカモ鍋や牡丹鍋のように、ぶつ切りの牛肉とザク(雑具:付 け合せの長ネギ、コンニャク、焼き豆腐など)を味噌で煮ていた。
洋食が入ってきた「横浜異人屋敷之図」(神奈川県立博物館蔵)
11.日本三大洋食の登場
やがて、安価な豚肉を材料にしたトンカツ、カレーライス、コロッケとい う「日本の三大洋食」が登場し、大衆的な中国料理として人気を呼んだ支那
(中華)そばのチャーシューにも豚肉が使われるようになります。
12.食肉料理の普及
肉料理がハイカラなものとして普及した大正から昭和初期にかけては、ハ ムやソーセージなどの加工食肉技術が欧米の技師から伝えられ、食肉加工業 界も大きく成長し始めます。明治時代に一世を風靡した牛鍋は、関東大震災 をきっかけに、関西風に卵をつけて食べることが多くなったすき焼きと、大 衆食堂で親しまれる安価な牛丼に分化していきます。
13.食生活の欧米化と食肉の国産化
太平洋戦争が勃発した昭和 16 年になると、肉牛の出回りがさらに悪化し て、大都市では食肉の配給も難しくなり、肉食の普及は大きく後退します。
敗戦直後の食糧難時代には食肉は手に入れることが難しくなります。昭和 24 年になってようやく小売店で自由に買うことができるようになりました が、食肉の消費量が戦前の水準を越えたのは昭和 31(1956)年になってか らのことです。
この年、日本経済は復興から高度成長に移ります。
経済大国と呼ばれるようになった昭和 55(1980)年の『厚生白書』では、
伝統食に酪農製品を含む動物性食品、野菜、果物をバランスよく摂取する
「日本型食生活」を、多様な主要栄養素をバランスよく摂取できる理想的な 食生活としています。
食肉の生産にも大きな変化が現れ、牛肉では、小規模経営を脱して設備の 機械化・近代化を可能とする大規模経営に転換し、より栄養価の高い飼料が 利用されるようになって若齢肥育が普及します。豚肉の生産も、戦前のピー クに戻った昭和 31 年以降著しく伸びて大規模な養豚経営への転換が加速し ます。経営規模の拡大にともなって、残飯養豚から濃厚飼料による肥育への 転換も図られます。
昭和 33 年に戦前のピーク時の飼養羽数を超えた養鶏も、肉専用のブロイ ラー生産が始まりました。
明治時代【後期】
(1890 〜 1912 年)
豚肉を使った3大洋食
( ト ン カ ツ 、 カ レ ー 、 コロッケ)の登場。
大正、昭和初期 時代
(1912 〜 1940 年)
欧米より加工食肉技術 の伝来、食肉加工業界 が成長。
昭和時代【中期】
(1940 〜 1970 年)
大平洋戦争により肉食 の普及が一時後退。
昭和 30 年以後アメリ カの食文化の積極的な 導入により食肉の消費 拡大→食肉の国産化、
大規模飼育経営へ転換 鶏肉も専用ブロイラー 生産が開始、供給基盤 の確立。
Part 2
● 食 肉 の 効 能 を さ ぐ る
Part 3
● 食 肉 の 栄 養 と 健 康
Part 4
● 食 肉 の 安 全 性 ・ 衛 生 Part
1
● 食 肉 の 日 本 史
14.肉食の大衆化と高級化・産地化
肉食の大衆化は、国内の食肉消費量を急速に増加させ、70 年代初頭には、
外国肉が輸入されるようになります。
それまでは簡単なランク分けやサイズ別で売られていた牛肉が、消費者ニ ーズにマッチするように用途別、部位別に売られるようになりました。また 現在では、牛肉や豚肉、鶏肉に高級銘柄品が登場して、そのおいしさが消費 者に高い人気を博すようになりました。
豚肉も産地化が進み、薩摩の黒豚など野趣に富んだ特定ブランド豚肉が、
消費者の注目を集めるようになります。生産者は、できるだけ自然に近い状 態で飼育して品質を高め、また脂肪の少ない輸入種との交配でより消費者の 嗜好に適した商品の開発をめざしています。鶏でも、同じように名古屋コー チンや比内鶏などの銘柄地鶏を、より自然で安全な環境で飼育して、より付 加価値の高い商品を開発する試みが進んでいます。
肉に依存しない伝統的な食文化の中で、日本人は敏感で奥行きの深い味覚 で食を判断してきました。そのためか、日本人は量をたくさん食べるという 側面にではなく、肉の質やおいしさを重視するところにその価値をおいてい るといえるようです。
昭和後期〜現在
(1970 〜 2005 年)
肉食の大衆化が進み、
外国産肉の輸入が始ま る。
食肉需要が高級化し、
本物志向や栄養バラン スを考慮した新メニュ ー時代の到来。
部位別、用途別の販売 が進む。
食肉のおいしさ、質、
安全性が重視されるよ うになると共に産地化 が進む。
1934〜1938平均
1951 1960
1970
1980
1990
2000
2003
牛肉 61 13 67 0 141 6 282 33 431 172 555 549 520 1055 505 743
豚肉 58 0 50 0 149 6 779 17 1430 207 1536 488 1255 952 1274 1145
鶏肉 21 0 12 0 103 0 496 12 1120 80 1380 297 1195 686 1239 585 単位:千トン 上:国産 下:輸入 表 1-1 牛肉・豚肉・鶏肉の食料需給の年次推移
1.食肉と寿命の関係
日本人の平均寿命が延びた最大の要因は、食生活と栄養の改善によって国民の健康水準 が向上したことです。病原体に対する抵抗力が強くなり、結核などの感染症も激減し脳卒 中も減少しました。こうした傾向をもたらした食生活で注目されるのが、食肉や牛乳・乳 製品に代表される動物性食品の増加です。戦後まもなくから現在までの動物性たんぱく質 の摂取内容を見ると、増えているのは陸産性のたんぱく質、すなわち食肉です。
明治、大正時代の写真をみると、衣装風俗だけでなく、体つきや 顔つきまで現在の私たちとは違うように見えます。当時の平均寿 命は 50 歳に満たず、欧米の先進国と比べるとかなりの短命国で あったといえます。
日本の平均寿命が 50 歳を越えたのは食肉の国産化が進んだ昭和 中期の 1947 年です。そのあたりから平均寿命が延びはじめ、同 時に親より子、子より孫の身長が高くなってきました。食生活が 豊かになり、今では日本は世界一の長寿国であり、体つきも半世 紀前とは比べものにならないほど変わってきています。
Part 2 食肉の効能をさぐる
75
65
55
45
35
25
20 60 100 140 180g
1人1日当たり脂肪消費量 137カ国/男(多重相関γ=0.78)
平 日本 均寿 命
(歳)
「Sinnnett P, lord S, Proceedings of 2nd Regional Congress, International Association of Gerontology, Asia/Oceania Region, 1983
図 2-1 世界各国の脂肪消費量と寿命の関係
脂肪消費量1 人1 日125gの水準までは消費量の多い国ほど寿命が 長く、それ以上の水準では消費量と寿命の関係が逆転傾向を示す。
0 10 20 30 40 50 60 70 80 14
10 平成5 60 55 50 45 40 35 30 昭和25
(単位g)
資料:厚生労働省国民栄養調査(平成14年は速報値)
8.4 12.0
18.7 29.5
42.5
64.2 67.9
71.7 73.7 77.5 77.5
図 2-2 食品摂取量(肉類)の年次推移
(1 人 1 日当たり)
戦前の日本では、動物性のたんぱく質と脂肪の摂取が極端に不足して、食塩は取りすぎ ていました。大正 7 年のある地方の、経済レベル中程度の農村におけるある記録では、4 人家族の平均的な食生活は、漬物やみそ汁をおかずに毎食 5 合のご飯を食べていました。
カロリー摂取量は 2100 キロカロリーで現在より多いものの、油脂類はほぼゼロ。塩蔵の 魚を週に 5 回食べていましたが、動物性食品は 1 日に換算すると 15g に過ぎません。こう した穀類中心の粗食が、感染症の多発を招いていたのです。
増えたたんぱく質と脂肪の摂取
第二次世界大戦の後になると、たんぱく質と脂肪の摂取状態は大きく改善されます。
Part 2
● 食 肉 の 効 能 を さ ぐ る
Part 3
● 食 肉 の 栄 養 と 健 康
Part 4
● 食 肉 の 安 全 性 ・ 衛 生 Part
1
● 食 肉 の 日 本 史
明治時代と変わらない エネルギー摂取量
日本人の食生活の変化で特徴的なのは、
動物性たんぱく質や脂肪の摂取が増加 したにもかかわらず、1日のエネルギ ー摂取量が変化していないことで、現 在の1日 2000 キロカロリーというの は明治時代とあまり変わっていません。
欧米先進国では 20 世紀に入って、エネ ルギー摂取量が 1.5 倍と 3000 キロカ ロリーを超え、カロリーの摂取過剰が 問題になっています。
76
1955
1960 1965 1970
1975 1983 1980
19851995 74
72 70 68 66 64 62
15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 平均
寿 命︵ 歳
︶
脂肪摂取量(g/day)
76
1960
1965 1970
1980
1955
1975 1985 1995 74
72 70 68 66 64 62
68 70 72 74 76 78 80 82 平均
寿 命︵ 歳
︶
たんぱく質摂取量(g/day)
家森幸男教授(現・京都大学名誉教授。循環器疾患予防国際共同センター長)が国民栄養調査より作成したもの。
図 2-3 脂肪・たんぱく質摂取と平均寿命の関係
日本における食生活の改善で最も特徴的な脂肪とたんぱく質の摂取量の推移と平均寿命の関係を示したもの。
大正10〜14(1921〜1925) 42.06 43.20 15〜昭和5(1926〜1930) 44.82 46.54 昭和10・11(1935・1936) 46.92 49.63 22(1947) 50.06 53.96 25〜27(1950〜1952) 59.57 62.97 30(1955) 63.60 67.75 35(1960) 65.32 70.19 40(1965) 67.74 72.92 45(1970) 69.31 74.66 50(1975) 71.73 76.89 55(1980) 73.35 78.76 60(1985) 74.78 80.48 平成 2(1990) 75.92 81.90 7(1995) 76.38 82.85 12(2000) 77.72 84.60 平成14(2002) 78.32 85.23
厚生労働省「簡易生命表」「完全生命表」より
男 女
表 2-1 日本人の平均寿命の推移
1947 年の国民栄養調査の初統計によると 1 日の摂取量が 68 gに過ぎなかったたんぱく 質は、60 年に 69.7g になり、80 年には 78.7g、94 年になると 79.7g というように増加 しています。同じく 1950 年にわずか 18g しか摂っていなかった脂肪も 80 年には 55.6g になり、94 年になると 50 年当時の 3 倍強の 58g になります。
日本人の食物摂取パターンが大きく変化したのは 65 年以降ですが、これに伴うように コレステロールの不足が原因のひとつである脳卒中による死亡が減りはじめ、男性の場 合、2000 年には 1964 年の 5 分の 1 にまで減少しています。
2.体格の変化と動物性食品
動物性食品が増え、栄養状態が改善された昭和 30 年生まれくらいから、日本人は急速 に体格が大きくなります。体格の変化には、食べ物だけでなく、畳に座る生活習慣が椅 子を利用する生活に変わるなど、さまざまなライフスタイル全体の変化も影響を及ぼし
危険な粗食礼賛
肥満や心筋梗塞に悩むアメリカやヨーロッパでは、世界一長寿国の日本の食生活に見習い、取 り入れようとする動きがあります。この考え方をそのまま逆輸入して、「われわれ日本人も、昭 和 30 年代の食生活に戻ろう」という主張や、「長寿には穀物や野菜を中心とした粗食こそが好 ましい」とする意見も散見されます。
こうした見解は栄養学をまったく無視したもので、健康に悪影響を与える危険があります。昭 和 30 年代といえば平均寿命は男女とも 60 台半ばで、低栄養が原因の脳卒中がまだ死亡原因の トップを占めていた時代です。昭和 30 年の肉類摂取量は 1 日当たり 12g で平成 13 年の 1/8 ぐ らいです。日本人の長寿化は、その後の栄養状態の改善によってもたらされたものです。
健康で長寿のための動物性食品の摂取量
平均寿命が延び高齢化が進む日本では、65 歳以上の人口が全人口の 14 %をはるかに超える「超 高齢社会」となっており、高齢期の生活の質(QOL)を重視した社会政策が求められています。
桜美林大学大学院教授の柴田博氏らが行った調査で、食肉類、野菜・果物類を積極的に食べて いる人のほうが、QOL の重要な要素である日常の「生活満足度」が高く、うつ状態が少ないこ とが明らかになりました。多彩な食材をバランス良く食べることが、心身ともに健康を維持す るために重要であることを強く示唆する結果といえるでしょう。
では、バランスのよい食生活では、どのくらいの動物性食品を摂る必要があるのでしょうか。同 教授によると、体格や活動量によって個人差はあるものの、一般に 70 歳以上の高齢では、1 日 に薄切り肉 2 枚(50g)、魚 1 切れ(80g)、牛乳 1 本(200g)、卵 1 個(50g)が目安です。中 高年では、これより肉・魚の量が少し多くなります。
歳をとったからといっても、人間に必要な栄養のバランスが変わるわけではありません。
ていると考えられています。
骨の成分はその 65%がカルシウムですが、骨の土台となっている骨基質という部分は コラーゲンからできています。コラーゲンは動物の皮膚や腱、軟骨などの結合組織の主 成分ともなっている繊維状のたんぱく質で、骨基質は骨の成分の約 30%を占め、網状の 骨基質にカルシウムが絡まる形で骨はできています。骨の基部の生成にたんぱく質が関 わっているので、動物性のたんぱく質の摂取と骨密度には深い関係があると考えられて います。
脂質も骨密度と深い関わりがあります。脂溶性ビタミンであるビタミン D などが骨のカ ルシウム代謝に重要な役割を果たしています。
Part 2
● 食 肉 の 効 能 を さ ぐ る
Part 3
● 食 肉 の 栄 養 と 健 康
Part 4
● 食 肉 の 安 全 性 ・ 衛 生 Part
1
● 食 肉 の 日 本 史
脳出 血 発 生率
︵ 人口 千 対/ 年
︶
脳出 血 発 生率
︵ 人口 千 対/ 年
︶ 4
3
2
1
0
150 170 190
血清総コレステロール値(mg/dl)
(昭和40年代)
秋田
(井川十石沢)
群馬(平井)
群馬(上野)
長野 福岡
熊本 高知 大阪(八尾)
大阪(現業)
大阪
(事務・管理)
4
3
2
1
0
150 170 190
血清総コレステロール値(mg/dl)
(昭和50年代)
秋田(石沢)
秋田(北内越)
福岡
高知 16
20 14 21 419 13
11 17
15 1 18 22*
8 2
23*
5
*40〜59歳
秋田(井川)
長野
大阪(八尾)
大阪
(現業)* 大阪
(事務)*
昭和40年代と50年代の両方ある集団 昭和40年代のみ、または50年代のみの集団
(小町喜男:環境要因とくに栄養学的要因と脳卒中・虚血性疾患との関連に関する共同研究)
栄養状態の指標の一つである血清総コレステロールの値と脳出血発生率の関係をみると、
コレステロールが増えると脳出血の発生が低くなっていることが分かる。
図 2-4 血清総コレステロール平均値と脳出血発生率(40 − 69 歳、男)−昭和 40 年代と 50 年代との比較−
脳 梗塞 発 生率
︵ 人口 千対
/ 年︶
脳 梗塞 発 生率
︵ 人口 千対
/ 年︶
3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 動物性脂肪摂取量(kcal%)
(昭和40年代)
秋田(井川十石沢)
群馬(平井)
福岡
熊本 高知
大阪(八尾)
大阪(現業)
大阪(事務・管理)
6 5 4 3 2 1 0 6
5 4 3 2 1 0
動物性脂肪摂取量(kcal%)
(昭和50年代)
秋田(石沢) 秋田(北内越)
福岡 高知
20 14
21
21 13 4 16 17
19 11 15 8
23*
18
*40〜59歳
秋田(井川)
長野
大阪(八尾) 大阪(現業)* 大阪(事務)*
昭和40年代と50年代の両方ある集団 昭和40年代のみ、または50年代のみの集団
(小町喜男:環境要因とくに栄養学的要因と脳卒中・虚血性疾患との関連に関する共同研究)
動物性脂肪の摂取量と脳梗塞の発生率の関係をみると、一方が増えれば他方が減るという関係であること、
図 2-5 動物性脂肪摂取量と脳梗塞発生率(40 − 69 歳、男)−昭和 40 年代と 50 年代との比較−
3.食肉の摂取と疾病構造の変化
食肉に含まれている成分には、虚血性心疾患をはじめ、がんやストレス、感染症など のリスクを軽減し、骨密度を高める効果があることがわかっています。コレステロール 値の改善やうつ病(単極性気分障害)の予防に対する食肉の役割について調査する研究も 盛んになっています。特に脳の血管を強くすることに効果があったことが認められてい ます。
食生活が変えた日本人の死亡原因
脳卒中は、栄養状態が中程度に進んだ国に多発する病気といわれています。日本でも、
栄養状態が劣悪だった 1950 年までは結核が死亡率のトップで、その後、高度経済成長を 経て栄養面でも先進国の仲間入りをする 30 年間は、脳卒中が死亡率のトップになります。
この傾向はアメリカやヨーロッパでも同じで、かつては脳卒中による死亡率が高く、
国民の栄養状態が改善するにともなって低下しています。栄養過剰になっているアメリ カでは、現在は動物性脂肪の過剰摂取による虚血性心疾患がもっとも深刻な問題となっ ています。
低コレステロールの食生活が血管を弱くする
脳卒中が、中進国のレベルの栄養状態で多発する病気だということがはっきりしてき たのは、それほど古いことではありません。日本でも、1960 年あたりまではアメリカで 多発していた心筋梗塞と同じように、高血圧とともに高コレステロールが原因であると 考えられていました。
しかし、疫学的な調査から実際に脳卒中が多発しているのはむしろコレステロールが 低い食生活を送っている地域であることがわかりました。その後もさまざまな調査・研 究が行われ、脳卒中には「動物性たんぱく質や脂質が不足している低栄養と高血圧」が 関連していることがわかったのです。
血圧の上昇を抑える動物性たんぱく質
高血圧は脳卒中の重要な危険因子ですが、動物性たんぱく質に含まれている物質には 血圧の上昇を抑える働きがあることが、さまざまな研究でわかっています。
図 2-6 は、食塩と動物性たんぱく質が、どのように血圧に影響を与えるかを、高血圧の 遺伝的素因を持つグループ(+)と持たないグループ(−)に分けた臨床実験結果です。+
のグループは 26g という高食塩摂取に敏感に反応(第 2 週)しますが、高たんぱく質を 摂った場合には、食塩の量は同じなのに血圧の上昇はほとんどありません。動物性たん ぱく質に食塩を尿にすばやく排泄する働きがあり、その作用で遺伝因子を持つ人でも血 圧が上昇しなかったと考えることができます。
毎日の食事に動物性たんぱく質を摂取するように心がけることで脳卒中発症の危険性 を少なくすることができます。
がんと脂肪・コレステロール
長い間、脂肪の摂取量とがん発症の間には相関関係があるのではないかといわれてき ました。しかし、1993 年にローマで開かれた WHO(世界保健機関)と FAO(国連食糧農 業機関)の合同会議で行われた精度の高い疫学研究報告では、従来と異なる結果が「脂 質と脂肪酸」と題して報告されました。
合同会議では、乳がんと動物性脂肪摂取の間にはまったく相関関係がみられないとい うアメリカの調査結果が紹介され、5 年刻みでがん死亡率と動物性脂肪摂取量との関連を 調べた日本の調査も同様の結果を示しています。(図 2-7)
アメリカでは脂肪摂取量が多いほど大腸がんの発症リスクが高いという報告がありま すが、日本の疫学調査ではかならずしも大腸がんの増加につながるとはいえないという 報告があります。
現在では、大腸がんの発症原因は、むしろ食物繊維の摂取量の減少が問題ではないか とする見解が支配的です。
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● 食 肉 の 効 能 を さ ぐ る
Part 3
● 食 肉 の 栄 養 と 健 康
Part 4
● 食 肉 の 安 全 性 ・ 衛 生 Part
1
● 食 肉 の 日 本 史
100
(mmHg)
90
80
第1週 第2週 第3週 第4週
動 物 性
たんぱく質
食 塩 平 均 血 圧
素因(+)
素因(−)
90
95
84 83 84 83
90 91
6 6
(g/日)
(g/日)
40 40 40 110
26 26
家森幸男教授(現・京都大学名誉教授。循環器疾患予防国際共同センター長)による臨床実験 の結果をグラフにしたもの。高血圧の素因のある人たちは 26 gの高食塩摂取に敏感に反応し 血圧が上昇する(第2週)が、高たんぱく質を摂ると血圧の上昇がみられない。動物性たんぱ く質には摂取された食塩を素早く尿により排出する働きがあるからだと考えられている。
図 2-6 高血圧の素因と食塩・たんぱくの影響
がんとコレステロールの関係についてもさまざまな医学調査が行われていて、コレス テロール値が高いほどがんにかかりにくいと報告されています。
このように動物性食品とがんの関係にはまだ不明な点は多いのですが動物性食品が不 足して血清コレステロール値が低くなるような食事はがんの抑制に効果があるとされる 脂溶性ビタミン A や E の不足を招くのも事実です。
痛風と食肉
この 10 年間で、その多くが中年男性である痛風患者は 50 万人と 2 倍に増えました。遺 伝的要因に加えて、食事やストレス、飲酒などが誘発する病気といわれる痛風は、代謝 障害による高尿酸血症が原因で発症します。これまで食肉、卵、いくらなどプリン体を 多く含む食品のとり過ぎが原因といわれていたため、つい最近まで肉類などを抑え、野 菜をたっぷりとるという食事指導が行われていました。
しかし現在では、痛風の原因はアルコール類の飲み過ぎ、激しい有酸素運動などの筋 肉運動、精神的ストレスが有力なリスクファクターと認識されています。つまり、痛風 には、食肉はあまり関係ないことがわかっています。
2 1.5 1 0.5
1 2 3 4 5
相 対危 険 度
動物性脂肪摂取の程度 アメリカ 結腸がん(150例)
乳がん(979例)
300 250 200 150 100 0
1955 1965 1975 1985 年齢
訂 正死 亡 率︵ 人 口 10万 人 対︶
日本
乳がん死亡率
結腸がん死亡率 脂肪摂取量
図は 1993 年にローマで開かれた WHO と FAO で報告されたアメリカの疫学研究成果によるもの。乳がんと 動物性脂肪の摂取量との間には相関関係がみられない。日本でも 5 年刻みでがんによる死亡率と脂肪摂取量 の関係の調査研究がある。これも相関関係が認められないことを示している。
図 2-7 結腸がんと乳がんの発生頻度と脂肪摂取の関係
1.食肉のたんぱく質
必須アミノ酸のバランスに優れた食肉
食肉のたんぱく質には必須アミノ酸が豊富にバランスよく含まれています。体内で合 成できない必須アミノ酸は食品から摂取しなければなりませんが、食品に含まれるたん ぱく質の栄養価は、含まれる必須アミノ酸量の相対比率がもっとも低いものに規定され るという特徴があります。
人体に理想的なアミノ酸価を 100 としたときは、それぞれの食品に含まれているアミ ノ酸価は食肉が 100 で大豆の 86、精白米の 65 を大きく上回っています。また、食肉に 含まれているたんぱく質には調理による損失がほとんどなく、しかも体内で吸収されや すいという特徴も備えています。
このような良質な食肉のたんぱく質は、生命現象の営みを根底から支え、ストレスを 解消し免疫システムにも重要な役割を果たしています。
2.食肉の脂質
脂質は、肥満や生活習慣病の原因と考えられがちですが、単にエネルギー源となるだ けではなく、体の機能を維持するために不可欠な役割を果たしています。
脂肪酸をバランスよく摂る
脂質の大部分は中性脂肪の形をしています。中性脂肪に含まれている脂肪酸には、化 学的に安定して酸化されにくい飽和脂肪酸と、化学的に不安定で酸化されやすく融点の 低い不飽和脂肪酸があります。
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1
● 食 肉 の 日 本 史
国民全体のエネルギー摂取量が減少して 2000 キロカロリーを切っています。必要な栄養を十分に摂取していない人たちもみら れます。食生活をおろそかにしていてはストレスに打ち勝ち、厳 しい時代を生きることはできません。
特に成長期の子どもたちには良質のたんぱく質や、ビタミン、ミ ネラルが大切です。中でも器官の主要成分である良質のたんぱく 質を十分に摂取することです。
食肉は必須アミノ酸をバランスよく多量に含んでいる良質のたん ぱく質で鉄分の供給源としても重要で成長期の子どもにふさわし い食品といわれています。
Part 3 食肉の栄養と健康
1.6
26.3 14.9
42.3
8.5
0.5 0.3 2.8
28.1
12.4
46.8
1.8
0.2 0.1 − −
− 0 −
10 20 30 40 50 60
豚(豚肩ロース脂身なし)
牛(和牛肩ロース脂身なし)
ミ リス チン 酸
パ ルミ チン 酸
ス テア リン 酸
オ レイ ン酸
リ ノー ル酸
リ ノレ ン酸
ア ラキ ドン 酸
E PA
D HA 脂
肪 酸 総 量 1 0 0 g あ た り の 脂 肪 酸
14:0 16:0 18:0 18:1 18:2 18:3 20:4 20:5 22:6
飽和脂肪酸(S) 一価不飽和脂肪酸(M) 多価不飽和脂肪酸(P)
ネック かた かたロース リブロース サーロイン ヒレ ともばら うちもも らんぷ すね
かたロース ロース ヒレ ばら もも
手羽 むね肉(皮なし)
もも肉(皮なし)
ささみ かわ(もも肉の)
ハツ(心臓)
レバー(肝臓)
マメ(腎臓)
ミノ(第一胃)
センマイ(第三胃)
ハラミ(横隔膜)
サガリ(横隔膜)
ヒモ(小腸)
シマチョウ(大腸)
タン(舌)
テール(尾)
きも(心臓)
きも(肝臓)
すなぎも(筋胃)
食肉・内臓中のたんぱく質は、
部位によって多少の違いはある が、各100g中に18g前後含 まれている。なお、成人女性の たんぱく質所要量は55g/日。
牛 肉
牛内臓
豚 肉
豚内臓
鶏肉等
鶏内臓
「改訂版食肉データエッセンス」(財)日本食肉消費総合センター ハツ(心臓)
レバー(肝臓)
マメ(腎臓)
ガツ(胃)
ヒモ(小腸)
ダイチョウ(大腸)
タン(舌)
トンソク(足)
コブクロ(子宮)
12.1g 15.9g
21.1g 15.9g
17.9g 13.4g
16.2g 24.0g 15.7g
16.8g 18.4g
21.0g 14.9g
20.0g
17.8g 22.8g 18.3g
24.1g 10.4g
12.7g
16.9g 17.1g 19.4g
19.5g 16.6g 13.9g
16.3g 19.4g 15.3g
21.6g 19.7g
20.5g
17.5g 19.3g 15.1g 13.3g 11.7g
13.2g
16.1g 10.8g
15.1g 15.9g
16.5g
図3-2 牛肉と豚肉に含まれている主な脂肪酸(五訂日本食品標準成分表より)
子とされていましたが、最近になって食肉に多く含まれているステアリン酸にコレステ ロール値を下げる働きがあることがわかりました。また、食肉やオリーブ油に多く含ま れている、オレイン酸にも、LDL コレステロール値を下げる働きがあるという報告があ ります。
一方、人体内で合成することができないために、食物から摂取しなければならない必須 脂肪酸が属している多価不飽和脂肪酸には、植物に多く含まれているリノール酸や、リノ レン酸、アラキドン酸のほか青背魚などに多く含まれている EPA(エイコサペンタエン酸)
や DHA(ドコサヘキサエン酸)などがあります。これらの脂肪酸には血栓予防効果やコ レステロール値を下げる働きがあることがわかっていますが、酸化しやすく、酸化すると 過酸化脂質という老化を促進する物質を形成するというマイナス面があります。
このように脂肪酸にはそれぞれ特徴があるので、バランスよく摂取することが重要で す。脂肪酸の望ましい摂取比率(SMP 比)は、飽和脂肪酸(S):一価不飽和脂肪酸
(M):多価不飽和脂肪酸(P)が、3 : 4 : 3 です。
3.食肉のビタミン
豚肉は、群を抜いてビタミン B1を多く含む食品です。ビタミン B1は、豚肉以外では米 ヌカや胚芽米、イモ類、豆などに含まれていますが、それらは調理に手間がかかったり、
必要を満たすためには量を多く摂る必要があるので、うっかりしていると不足しがちに なりますが、豚肉なら 120g で 1 日の所要量を満たすことができます。ちなみに豚肉に含 まれているビタミン B1は、生の状態を 100 とすると、ゆでれば 30 に減ってしまいます。
ただし、ゆで汁を含めると 80 を越すので、豚汁やスープなどで上手に利用して糖質のエ ネルギー代謝に関与したり筋肉のエネルギー源であるグリコーゲンを活性化して肉体疲 労に効果抜群のビタミン B1を十分に摂取したいものです。
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1
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誤解されているコレステロールの役割
従来、コレステロール値は低いほどよいといわれていましたが、実験や疫学的調査から、低す ぎるとかえって血管細胞壁が弱くなり、脳梗塞が起きやすくなることがわかりました。また、酸 化すると生活習慣病を発症させる物質にかわるために悪玉コレステロールとよばれている LDL
(低比重リボたんぱく)コレステロールも体内ではコレステロールの運搬を担っているほか、細 胞膜や神経線維などの成分でもあります。LDL コレステロール値が低いと、うつ状態やがんを 発症する可能性が高くなるという報告もあります。
コレステロールは、細胞膜の構成成分としてその流動性を調節し、神経細胞を保護して脳の情 報の伝達に貢献し、胆汁酸となって脂質の吸収を助けています。悪玉とよばれている LDL も、
ステロイドホルモンの原料となり、発育や生命の維持に不可欠な成分なのです。
リブロース サーロイン ともばら レバー(肝臓)
マメ(腎臓)
かたロース ばら レバー(肝臓)
マメ(腎臓)
タン(舌)
手羽 もも肉(皮なし)
かわ(もも肉の)
きも(心臓)
きも(肝臓)
牛
らんぷ ハツ(心臓)
レバー(肝臓)
マメ(腎臓)
サガリ(横隔膜)
牛 豚
鶏
らんぷ ハツ(心臓)
レバー(肝臓)
マメ(腎臓)
ハラミ(横隔膜)
サガリ(横隔膜)
かたロース ロース ヒレ ばら もも むね肉(皮なし)
もも肉(皮なし)
ささみ きも(心臓)
きも(肝臓)
牛
豚
鶏
ヒレ ハツ(心臓)
レバー(肝臓)
マメ(腎臓)
タン(舌)
もも肉(皮なし)
ささみ きも(心臓)
きも(肝臓)
すなぎも(筋胃)
豚
鶏
「食肉データエッセンス」(財)日本食肉消費総合センター、「五訂日本食品標準成分表」(科学技術庁資源調査会編)
※ビタミンA(レチノール当量)のみ別検体 食肉はB群を比較的多く含ん
でおり、特に豚肉はビタミン B1の よ い 供 給 源 だ 。 内 臓 、 特にレバーは各種ビタミンを 豊富に含んでいる。
※成人女性のビタミン摂取基 準 ビタミンA(レチノール 当量)540 μg/ 日、ビタミン B1 0 . 8 m g / 日 、ビ タ ミ ン B2 1.0mg/ 日
●ビタミンAの多いその他の 食品
あんこう(きも) 8300 μg うなぎ(生) 2400 μg モロヘイヤ 1700 μg にんじん 1500 μg
※いずれもレチノール当量
●ビタミンB1の多いその他 の食品
小麦胚芽 1.82mg 干しのり 1.21mg 大豆(国産、乾) 0.83mg うなぎ(かば焼き) 0.75mg
●ビタミンB2の多いその他 の食品
焼きのり 2.33mg しいたけ(乾) 1.40mg やつめうなぎ 0.85mg うずら卵 0.72mg
32μg 24μg
31μg
34μg
ビタミンA(レチノール当量)
2056μg
0.24mg 0.84mg
2.57mg
0.41mg
1.79mg 15μg
21μg
23000μg
26.5μg
77μg
55μg 50μg
110μg
19000μg 130μg
0.11mg 0.44mg 0.18mg
0.14mg 0.15mg
ビタミンB1
0.29mg
0.84mg 0.88mg
1.29mg
1.00mg 0.70mg
0.1mg 0.1mg 0.11mg
0.37mg 0.15mg
ビタミンB2
0.28mg
0.86mg 3.18mg
0.44mg
1.67mg
0.19mg 0.10mg
0.80mg
0.22mg
1.78mg
図3-3 食肉に含まれている主なビタミンの部位別含有量(可食部 100 gあたり)
ビタミンの効率的な摂取という点で注目したいのは、脂溶性ビタミンの A や D、脂質の 代謝に関係している水溶性ビタミン B2を豊富に含んでいる動物の内臓です。レバーや白 物(胃、肺臓、子宮、大腸、小腸などの白い臓器)といえばヤキトリを連想する人が多 いと思いますが、長寿の沖縄では豚を余すところなく調理し、グルメの国フランスでも 内臓料理が発達しています。
同じビタミンでも、植物と動物由来では性質が異なる場合があります。たとえばビタ ミン A は、野菜などにはβ-カロテンの形で存在して必要なときに体内でビタミン A に変 わりますが、レバーなどの動物性では、はじめからビタミン A として存在しています。ま た、脂溶性なので脂肪といっしょに食べると消化がよいので、手早く補給することがで きます。
食肉や内臓は日本人が不足しがちな B1や B2をはじめ、野菜や果物では摂取しにくいビ タミン類の豊富な供給源です。
4. 食肉のミネラル
食肉に含まれる腸管吸収率のよいヘム鉄はいっしょに食べることで植物性食品に含ま れる非ヘム鉄の吸収率を高めます。
また牛や豚の内臓はミネラルを豊富に含む食品ですが、とくに注目したいのはレバー です。鉄や亜鉛をはじめ、銅、マンガンなどの微量元素を含み、栄養的に優れた食品な ので、調理にバラエティを持たせて、日常的に食卓に載せたいものです。レバーは特に 鉄の含有率が高く吸収率もよい鉄補給食品です。
不足すると味覚障害をおこす亜鉛も食肉や内臓に多く含まれていてすぐれた供給源です。
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1
● 食 肉 の 日 本 史
9つの部位があります
(すね、ネックは含まれません)
牛肉は部位の特性がはっきりしてい るので、持ち味を生かして調理しま しょう。また、へム鉄(植物性の食 品に含まれる非ヘム鉄よりも体内に 吸収されやすい)が多く含まれるの で貧血防止に役立ちます。
7つの部位があります
豚肉はどの部位も、さまざまな料 理に利用することができます。ご はんやパンなどに含まれる糖質を エネルギーに変える働きがあるビ タミン B1が豊富なので疲労の回復 に役立ちます。
5つの部位があります
牛肉や豚肉にくらべるとあっさり した味です。皮を除くと低脂肪、
低エネルギーですが、たんぱく質 を多く含みます。また、消化がよ く、レチノール(ビタミン A)が 豊富なので皮膚や粘膜を丈夫にし 肌をきれいにして、抵抗力を高め る働きもあります。
ネック かた かたロース ヒレ かたばら うちもも しんたま そともも らんぷ すね ハツ(心臓)
レバー(肝臓)
マメ(腎臓)
センマイ(第三胃)
サガリ(横隔膜)
かたロース ヒレ ハツ(心臓)
レバー(肝臓)
マメ(腎臓)
タン(舌)
●鉄の多いその他の食品 干しひじき 55.0mg 煮干し 18.0mg 切り干し大根 9.7mg
きな粉 9.2mg
●カリウムの多いその他の食品 乾燥わかめ(素干し) 5,200mg しいたけ(乾) 2,100mg あずき(乾) 1,500mg
アーモンド 770mg
ほうれん草 690mg
里芋 640mg
牛
かた うちもも らんぷ すね ハツ(心臓)
レバー(肝臓)
サガリ(横隔膜)
タン(舌)
牛
ロース ヒレ もも ハツ(心臓)
レバー(肝臓)
タン(舌)
カリウム
豚 豚
もも肉(皮なし)
きも(心臓)
きも(肝臓)
すなぎも(筋胃)
鶏 鶏
むね肉(皮なし)
ささみ きも(肝臓)
すなぎも(筋胃)
「食肉データエッセンス」(財)日本食肉消費総合センター、「五訂日本食品標準成分表」(科学技術庁資源調査会編)
※ヘム鉄のみ別検体
鉄
( )内はヘム鉄
2.7mg
2.6mg(0.3mg)
2.5mg(0.4mg)
2.9mg(0.4mg)
2.6mg(0.5mg)
2.7mg(0.5mg)
2.9mg(0.5mg)
3.1mg(0.7mg)
3.1mg(0.6mg)
2.7mg
4.6mg(0.7mg)
6.8mg(0.7mg)
6.4mg(1.1mg)
5.7mg 4.2mg
317mg 358mg 321mg 313mg 280mg 250mg
270mg 250mg
302mg 362mg 336mg 250mg
270mg 250mg 1.4mg(0.2mg)
1.6mg(0.2mg)
3.6mg(0.3mg)
4.8mg(0.6mg)
2.2mg(0.2mg)
1.0mg(0.2mg)
6.2mg(2.8mg)
2.6mg
9.5mg(1.7mg)
409mg
266mg 267mg
332mg 24.1mg(0.5mg)
図3-4 食肉に含まれている主なミネラルの部位別含有量(可食部 100 gあたり)
※成人女性のミネラル摂取基準 鉄 12mg /日 カリウム 2000mg /日