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多糖シゾフィランを利用したメッセンジャーRNA 分離システムの開発

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Academic year: 2021

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多糖シゾフィランを利用したメッセンジャーRNA 分離システムの開発 

木村太郎*1

 

Development of a novel separation system for messenger RNA by using schizophyllan

Taro Kimura  

多糖類の一種シゾフィランが核酸と複合体を形成することが明らかとなった。この現象を利用すれば,シゾフィランを 利用して新規な核酸分離システムを構築することができると考えられる。本解説論文ではバイオテクノロジー上需要の高 いメッセンジャーRNA の分離について概要を述べた。 

 

1  はじめに 

シゾフィランはスエヒロタケから産生される多糖であ る。近年,このシゾフィランが1本鎖の DNA や RNA と選 択的に複合体を形成することが発見された。一般に核酸 と相互作用する高分子といえばポリリジンやスペルミン のようなカチオン電荷を有するものか,ペプチド核酸の ような相補的塩基を有するものに限られていた。しかし,

シゾフィランはグルコースのみで構成される単純な構造 の多糖であり,これが核酸と複合体を形成するという現 象は極めて興味深いものである。 

本研究では,シゾフィランを用いた新規核酸分離シス テムを開発することを目指している。シゾフィランの核 酸に対する特異的な相互作用を利用すると,従来の製品 とは異なるタイプの分離システムを構築できることが期 待される。本研究では,真核生物のメッセンジャーRNA を効率よく分離抽出するためのシステムを構築すること を目標とした。メッセンジャーRNA はタンパク質の遺伝 情報を直接コードする核酸であるため,様々なバイオテ クノロジーで分離抽出の需要が高い。特にマイクロアレ イ等の遺伝子発現解析産業の進歩に伴い,今後も市場の 拡大が期待される。 

 

2  研究背景 

2−1  核酸レセプターとしてのシゾフィランの性質 

シゾフィランと核酸の複合体形成は水素結合と疎水的 相互作用を主な駆動力としていると考えられている。

元々シゾフィランは天然産成時は3本鎖でらせん構造を 形成しており,核酸との複合体形成能はない。しかし,

人為的に1本鎖に解離させたシゾフィランを核酸を含む

水溶液に加えると規則的な複合体を形成する。つまり,

1本鎖のシゾフィランが水中で 3 本鎖らせん構造に戻ろ うとする過程で核酸を取り込むというメカニズムが推察 されている。 

シゾフィランが1本鎖の DNA や RNA と複合体を形成す る際,核酸の塩基組成に対して選択性を持つことが知ら れている。これまでの研究では,合成核酸の場合,無塩 中性条件下においては poly(dA),poly(dT),poly(C),

poly(A)とは複合体を形成するが,poly(dC),poly(dG),

poly(U),poly(G)とは全く複合体を形成しないことが明 らかとなっている(図−1)。このような選択性は,主と して核酸の高次構造やらせんパラメーターの違いにより 発現すると考えられている。 

一方,天然のヘテロ核酸はシゾフィランとの親和性は 極端に弱く,現在のところ合成核酸の様にシゾフィラン と複合体を形成するものは特定されていない。しかし,

今回分離対象とする真核生物のメッセンジャーRNA

(mRNA)には 3ʼ末端に 50-150 量体の poly(A) tail と 呼ばれる領域が存在することが知られている。シゾフィ ランは poly(A)配列との複合体形成能を有しているため,

mRNA の poly(A) tail 領域と複合体を形成し,これによ 

図2.

SPGの核酸に対する選択性とmRNAの構造

メッセンジャーRNAの構造

本体 :遺伝情報

poly A tail Poly A ○ Poly C ○ Poly G × Poly U △

RNA Poly dA ○

Poly dC × Poly dG × Poly dT ○

DNA

メッセンジャーRNAの構造 本体 :遺伝情報

poly A tail

Poly A ○ Poly C ○ Poly G × Poly U △

RNA Poly dA ○

Poly dC × Poly dG × Poly dT ○

DNA

-1

*1 生物食品研究所 

(2)

 

り選択的な分離抽出が期待される。 

 

3  結果と考察 

3−1  シゾフィラン修飾カラムによる mRNA の分離抽出  はじめにアフィニティーカラム形式による核酸の分離 実験を行った。シゾフィランの還元末端を還元アミノ化 法により AF-Amino TOYOPEARL と反応させ,シゾフィラン 修飾ゲル担体を合成した。これをカラムに充填すること によりシゾフィラン修飾カラムを調製した。 

  このシゾフィラン修飾カラムを用いて実際に天然由来 の試料を用いてメッセンジャーRNA の分離抽出を試みた。

酵母から抽出した RNA 混合物(total RNA)をシゾフィラン 修飾カラムに加え,12 時間 5 ℃で熟成後,溶出操作を 行った。この時の溶出曲線を図−2(A)に示す。その結果,

total RNA に含まれるほとんどの RNA はカラム中に保持 されることなく速やかに溶出した。そして後半の溶出液 には微量の RNA が含まれるのみであった。これは total  RNA の主成分がシゾフィランと相互作用しないことが予 想されるリボソーマル RNA であり,一般に mRNA は全体の 5 %以下しか含まれていないことを考えると妥当な結果 である。次に,この溶出操作で得られた各フラクション についてノーザンブロット実験を行った(図−2(B))。こ こではプローブとして Dig 標識 oligo(dT)を用いたので,

mRNA が含まれるフラクションを発色により検出できる。

その結果,前半のフラクションにはほとんど mRNA は含ま れていないことが明らかになった。そして,後半の画分 には強い発色が観察された。これらの結果は,total RNA に含まれる mRNA 以外の核酸はカラムから速やかに溶出 されるが,poly(A) tail を有する mRNA はシゾフィラン と複合体を形成することでカラム中に保持されたことを 示すものである。ゲル電気泳動の結果から,得られた mRNA の純度は 82−86 %と決定された。これは,既存の mRNA 分離法である oligo(dT)法によって得られる mRNA の純度 が 65−90 %であることを考えると,良好な結果である といえる。 

 

3−2  フィルター分離法による mRNA の分離抽出    先に述べたように,シゾフィラン修飾カラムにより mRNA の分離を行うことができた。しかしアフィニティー カラム方式では,操作が煩雑で操作時間も長い(12 時間)

といった欠点があり,実用化を目指す上での障害となっ ている。そこで,これらの欠点を抜本的に改善するため

に新しい分離システムとしてフィルター分離法を考案し た。これはシゾフィランと total RNA を溶液中で混合し た後,フィルター濾過することでシゾフィラン−mRNA 複 合体のみを分離する方法である。この方法では,複合体 形成を液相中で行うため熟成時間を大幅に短縮できるこ と,分離をフィルター濾過で行うため,操作が非常に簡 便である,といった利点がある。実際に本法を用いて実 験を行うと,収率は低いものの mRNA を短時間(約 1 時間)

で簡便に分離抽出することができた。 

 

4  まとめ 

本研究ではシゾフィランを用いて mRNA を選択的に分 離抽出することに成功した。多糖による mRNA の分離抽出 は今回が初めてと思われる。シゾフィランの様な単純な 構造の多糖が,遺伝情報を満載した mRNA を精度良く識別 することは大変興味深い。今後はよりシステムを洗練し,

純国産のバイオテクノロジーとして実用化できるよう努 力を続けていきたい。 

A260

1 2 3

4

5

6

7 8 9 10 1112 13 14 15 16 17 18 19 20 70 oCpH 6.5

phosphate buffer (50 mM)

70 ℃ リン酸緩衝液 (pH 6.5 50 mM)

0 0.5

0.1 0.2 0.3 0.4

14 15 16

17 19 20

1 2 3 4 5 6

7 8 9 10 11 12

13

18

10

0 20

溶出体積/ ml 低温溶出

30

高温溶出

図3. シゾフィラン修飾カラムからのtotal RNAの溶出

曲線(A),及び各フラクションのノーザンブロット(B).

-2

 

5 掲載論文 

NEWS  LETTER

  (日本化学会生体機能関連化学部会誌),  18 (3), 10-13 (2003). 

参照

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