福岡県大島産アカモクにおける粘性多糖類含量の季節変動
上田 京子
*1木村 太郎
*1黒田 理恵子
*1赤尾 哲之
*1篠原 直哉
*2後川 龍男
*2深川 敦平
*2秋本 恒基
*2A Quantitative Analysis of Polysaccharides of Brown Algae Akamoku Collected off the Oshima Island (Fukuoka Prefecture)
Kyoko Ueda, Taro Kimura, Rieko Kuroda, Tetsuyuki Akao,
Naoya Shinohara, Tatsuo Ushirokawa, Atsutoshi Fukagawa and Tsuneki Akimoto
最近,福岡県において海藻アカモクを地域の新しい特産品とする試みが精力的に行われている。そこで,福岡県 大島産のアカモク
Sargassum horneriについて粘性多糖類であるフコイダン,アルギン酸の含有量の分析を行った。
フコイダンやアルギン酸は免疫の賦活化など様々な生理活性を有し,消費者の関心も高い物質である。分析の結果,
フコイダン,アルギン酸はそれぞれ乾燥藻体100gあたり最大8.3g, 34.1g含まれていることが明らかとなった。ま た,季節変動について検討したところ,アルギン酸の含有量はアカモクの成長過程を通じでほぼ一定であったのに 対し,フコイダンは生殖器床出現後に劇的に増加することが明らかとなった。これはフコイダンが生殖活動に密接 に関連していることを示唆している。
1 はじめに
アカモクはヒバマタ目ホンダワラ科に属する褐藻の 一種であり北海道東部を除く日本列島のほか,朝鮮半 島から香港までに広く分布している(図1(A))。全国 的に藻場として魚類の産卵場や稚魚の成長の場として の役割を担っている。また,流失後は流れ藻として魚 介類を保護するとも言われている。
一方でアカモクは,一部地方では食品資源としても 利用されている。秋田県,新潟県ではアカモクを「じ ばさ」,「ぎばさ」と呼び伝統的に食品として利用して きた。特に,交通手段が十分でなかった時代において は,冬に採取出来る海藻類は野菜の代用品として重宝 されてきたと考えられている。しかし,流通機構が発 達し食生活も豊かになった近年において,この様な意 味合いは薄れつつある。むしろ,海藻類が含む機能性 成分や低カロリーといった特徴が注目され,健康によ い食品として全国的に関心を集めつつある。例えば,
九州地方ではこれまでアカモクを食用としていなかっ たが,最近福岡県において地域の特産品としてアカモ クを評価する活動が精力的に行われている。アカモク の食品としての特徴の一つに粘り気のある食感が挙げ られる。藻体をミンチ状にした後,湯通しすると非常
に強い粘りが生じる(図1(B))。この粘り気はフコイ ダンやアルギン酸といった粘性多糖類によるものと思 われる。フコイダンはモズクやガゴメコンブにも含ま れており,それらを用いた研究において抗血液凝固活 性
1),コレス テロールの低 下作用
2),抗腫瘍効果
3)等 を示すことが知られている。またアルギン酸は,褐藻 類に広く含まれ血圧低下作用,整腸作用等の効果があ る
4,5)。従って福岡県産アカモクについても同様の健 康への効果が期待されるが,一般的に海藻の化学成分 は採取場所,時期,水深等の条件により大きく変動す るため一概に判断することは出来ない。そこで,本論
図1 採取されたアカモク (A) 及びアカモク加工品
(ミンチ状にして湯通ししたもの) (B)
(A) (B)
*1 生物食品研究所
*2 福岡県水産海洋技術センター
2005 . 2. 14
2005 . 2. 28
2005 . 3. 28
2005 . 4. 21
2005 . 5. 11 2004
. 11. 10 2004
. 12. 16 2005
. 1. 19
■ 全長
□ 重量
0 100 0 0 0 500
0 100 200 300 400 500
全長 / m 重量 / g
2005 . 6. 24 採取日
20 30 40
文ではこれまで食用とされてこなかった福岡県産アカ
モクについて,フコイダンとアルギン酸を定量した。
また,採取時期の異なるアカモクを比較することで,
アカモクの成長と多糖含有量の変化について検討を行 った。
海藻乾燥粉末 5 g
85 %メタノール脱脂
(70 ℃、500 ml x 3 、2 時間ずつ)
0.01 N塩酸で抽出(室温、500 ml x 2 、6 〜12 時間ずつ)
中和、減圧濃縮 透析 凍結乾燥
フコイダン
1 %炭酸水素ナトリウム水溶液で 抽出(室温、500 ml x 2 ) 透析
凍結乾燥
アルギン酸 (粗抽出)
CPCによる精製
海藻乾燥粉末 1 g
85 %メタノール脱脂
(70 ℃、500 ml x 3 、2 時間ずつ)
0.05N 硫酸で硫酸化多糖類を除
去(室温、500 ml x 2 、6 〜12 時 間ずつ)
2 研究,実験方法 2-1 試料
アカモクは福岡県宗像市大島松ヶ下沖水深3mの定点 で2004年11月10日から2005年6月24日の間に採取した ものを用いた。毎回20個体を採取し,全長,重量測定 を行った。また,生殖器床の有無を目視で確認し,生 殖器床を有する個体数が全体に占める割合を成熟度と 定義した。
2-2 フコイダン及びアルギン酸の抽出
フコイダン,
3,6,7)アルギン酸
3)の抽出は既報の論文 を参考としてアカモクに適した操作条件を確立し,図 2に示すスキームに従い抽出した。試料は,藻体を凍 結乾燥し粉砕器で粉末化したものを使用した。
フコイダンはアカモク粉末(5.0g)を85%メタノー ル水溶液に加え,70℃で加熱撹拌することで脱脂,脱 色素した。その後,残さに10mM塩酸水溶液を加えフコ イダンを抽出した。得られた溶液を透析した後凍結乾 燥により粗フコイダンを得た。この粗フコイダンを水 に再溶解し,塩化セチルピリジニウム(CPC)を加え 沈殿させることで精製フコイダンを得た。
アルギン酸は,アカモク粉末(1.0g)を50mM硫酸中 で撹拌し,硫酸化多糖を除去した後,残さに1%炭酸ナ トリウム水溶液を加え抽出した。得られた溶液を透析 した後凍結乾燥した。この重量を測定しアルギン酸量 とした。
2-3 フコイダンの糖組成分析
精製したフコイダン1mgを蒸留水(100μl)に溶解 し, ト リフ ル オロ 酢 酸(200μl) を加 え ,100℃で3 時間加熱加水分解を行った。得られた溶液を一旦乾固 し,70%アセトニトリル(100μl)に再溶解すること で測 定 試料 と した 。 これ を 高速 液 体ク ロ マト グ ラフ
(Waters: YMC-Pack PolyaminⅡ, 250x4.6mm. 溶離条 件: 70%アセトニトリル, 30℃. 流速:0.8ml/min. 検 出器: RI)により分析し,フコース,グルコース,キ シロースの存在比をピーク面積から決定した。
2-4 ウロン酸,硫酸基の定量
ウロン酸はカルバゾール硫酸法の改良法によって定 量し,530nmの吸光度からガラクツロン酸を標品とし て算 出 し た
8)。ま た ,硫 酸 基はDodgson Price法に よ り定量した
9)。
図2 アカモクからのアルギン酸及びフコイダンの抽 出スキーム
3 結果と考察
3-1 アカモクの成長と成熟
アカモクは1年生の褐藻である。今回の採取地点で ある福岡県宗像市大島松ヶ下沖水深3mでは11月頃から 成長を開始し翌年5月には消失した。図3にアカモクの 全長及び藻体湿重量の推移を示す。これによると2004 年11月10日の時点では全長7.9cm,湿重量2.0gであっ たのが2005年3月28日には全長467cm,湿重量441gまで 成長した。その後は全長,藻体湿重量共に減少に転じ ている。
また,アカモクの成長過程における形態変化の一つ に生殖器床の出現が挙げられる。この生殖器床は配偶 子を放出する為のものであり,形状の違いはあるもの の雄株,雌株ともに有する。この生殖器床を有する個
図3 福岡県大島産アカモクの藻体全長及び湿重量の
季節変化(水産海洋技術センター調査)
体が全体に占める割合を“成熟率”と定義し調査を行 ったところ,2005年2月14日には成熟株は全体の20%に すぎなかったのに対し,2週間後の同28日には95%まで 急激に増加した(図4)。これらのことから,アカモク の全長や湿重量が成長に合わせて徐々に増加するのに 対し,成熟は特定の短い時期において劇的に変化する ものであることが分かる。
0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0
2005 . 2. 14
2005 . 2. 28
2005 . 3. 28
2005 . 4. 21
2005 . 5. 11 2005
. 1. 19
含 量
/ g採取日
図4 福岡県大島産アカモクの成熟率の季節変動(水 産海洋技術センター調査)
3-2 フコイダン含量の季節変動
採取したアカモクのうち2005年1月19日から同5月11 日の試料についてフコイダンを抽出し,藻体に含まれ るフコイダン量を定量した。抽出操作は2回行い,良 好な再現性を確認している。また,後述の糖組成分析 の結果から,得られたフコイダンはほぼ純粋であるこ とが明らかとなっている。結果を図5に示す。これに よると2005年1月19日及び同2月14日採取のアカモクに はほとんどフコイダンが含まれないが2週間後の2月28 日には急増し,乾燥藻体100gあたり7.5gのフコイダン が含まれていることが明らかとなった。その後,3月 28日に最大値(8.3g/乾燥藻体100g)を示し,それ以 降は若干減少したが6.6‒6.8g含まれていた。この急激 な増加はアカモクの成熟率が急増する時期と非常に良 く一致している。また,アカモク加工関係者の間でも 生殖器床の出現以降に藻体及び加工品の粘り気が増す ことが経験的に言われていた。従って,今回の結果は
「藻体の粘り気」,「生殖器床の出現」,「フコイダン含 量」が密接な関連を持つことを裏付けるものとなった。
つまり,フコイダンの生成はアカモクの成長よりもむ しろ成熟に関連しているといえる。
2005. 2. 14 2005. 2. 28
2005. 3. 28 2005. 4. 21
2005. 5. 11 2004. 11. 10
2004. 12. 16 2005
. 1. 19 0
20 40 60 80 100
成熟率/%
採取日
図5 福岡県大島産アカモク中のフコイダン含量の季 節変動(乾燥藻体100gあたり)
また,得られたフコイダンについて糖組成分析を行 ったところ,特に採取時期間による大きな変動は観察 されなかった(表1)。全体的に,ウロン酸量は2〜3%
程度と低く,抽出画分にアルギン酸を含まないことを 裏付けるものといえる。また,硫酸基量は27%前後で あった。一般にフコイダンには硫酸化度の異なるもの が存在するが,今回得られた画分は比較的高い硫酸化 度のものと考えられる。
また,フコース,キシロー ス,グルコース間の構成糖比率から,本多糖はフコー スが主体であることが示唆された。更に,グルコース は ほ と ん ど 確 認 さ れ な か っ た こ と か ら ラ ミ ナ ラ ン
(β-グルカン)等のグルカン類が適切に除去されて いることを意味する。以上のことから今回福岡県産ア カモクから得られたフコイダンは,硫酸化度が高くウ ロン酸の少ない真正フコイダンであると推測される
10)。
表1 フコイダンの構成成分の季節変動
フコイダン中の 含有量 / %
構成糖比
ウロン 酸
硫酸 基
フコース
:キシロ
ース
:グルコース
2005. 2. 28 2.9 28.6 1.00 : 0.02 : 0.01 2005. 3. 28 2.2 27.0 1.00 : 0.01 : 0.01 2005. 4. 21 2.8 27.1 1.00 : 0.02 : 0.02 2005. 5. 11 2.9 26.0 1.00 : 0.02 : 0.023-3 アルギン酸含量の季節変動
フコイダンと同様にアルギン酸についても季節変動 の評価を行った。結果を図6に示す。これによると,
アルギン酸は2005年2月14日に最大値(34g/乾燥藻体 100g)を示し,その後僅かに減少する傾向が見られた。
これは,アルギン酸が細胞間充填物質として機能して いるために,成長が盛んな時期に多く含まれると考え られる。しかしながら,今回の採取期間内においてア ルギン酸量は25‒35g/乾燥藻体100gの間で推移し,極 端な変動は観察されなかった。浅川ら
11)は英虞湾のア カモクに含まれるアルギン酸量の季節変動について報 告しているが,同様の傾向が確認されている。同じ多 糖類であるフコイダンが生殖器床の出現と共に大きく 含有量が変動するのとは対照的である。
図6 福岡県大島産アカモク中の粗アルギン酸含量の 季節変動(乾燥藻体100g あたり)
4 まとめ
一般に海藻に含まれる糖類は生活サイクルに応じて 変動することが知られている。福岡県産アカモクに含 まれるフコイダン量も採取時期により大きく変動し,
生殖器床の出現後に急増することが明らかとなった。
同じ粘性多糖類であるアルギン酸に大きな変動が観察 されなかった事とは対照的である。このことから,ア カモクにおいては,フコイダンは配偶子の保護など生 殖活動に何らかの役割を果たしているのではないかと 推測される。
また,水産資源保護の観点において,今回得られた 知見はアカモクの持続的な利用に役立つと考えられる。
多糖類が豊富で食品としての価値が高い藻体のみを採 取することで乱獲を防ぎ,藻場への影響を最小限に抑 えることが出来る。更に,アカモクの商品化にあたり 一定の品質の物を安定的に供給するための漁業者への 情報提供にも有効といえる。
5 参考文献
1)酒 井 武 , 加 藤 郁 之 進 : 化 学 と 工 業 , Vol. 58, pp.
580 -582 (2005)
2)上原めぐみ, 田幸正邦, 川島由次, 福永隆生, 尚 弘 子 , 知 念 功 , 本 郷 富 士 弥 : 応 用 糖 質 科 学 , Vol.
43, pp. 149 ‒ 153 (1996)
3)松田太一, 佐々木甚一, 栗原秀幸, 波田野六男, 高 橋 是 太 郎 : 北 大 水 産 彙 報 , Vol. 56, pp. 75 ‒ 86 (2005)
0 10.0 20.0 30.0 40.0
2005. 2 . 14
2005 . 2. 28
2005 . 3. 28
2005 . 4. 21
2005. 5 . 11 2005
. 1. 19