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2 正項級数の収束/発散判定
2.1 あまりにもいい加減な計算に対する警鐘
ここまで細かいことは気にせずに勢いで計算してきましたが、当然問題があります。
例えば最初の等比級数の和の式ですが、
1
1−x= 1 +x+x2+· · · (2.1) ここで両辺x=−1とすると
1
2 = 1−1 + 1−1 +· · ·
となってしまいますが、これはどう考えてもおかしいですよね。私たちはどこかで間違 いを犯したのでしょうか、最初からきちんとやってみましょう。
初項1、公比rの等比数列の第n項までの有限和Snは、簡単な計算:
1 +r+r2+· · ·+rn= 1 +r(1 +r+r2+· · ·+rn)−rn+1 (1−r)(1 +r+r2+· · ·+rn) = 1−rn+1
から、r6= 1の場合は以下のように計算されます:
Sn =1−rn+1 1−r .
そして次に無限和ですが、もちろんものを無限に足す事は人間には出来ませんので何 らかの方便が必要になるわけですが、普通は『有限和の極限値として無限和を考える』
事にします。つまり、|r|<1ならばlimn→1rn= 0でしたからlimn→1Snは存在して
nlim→1Sn= 1 1−r
となっていますね(|r|>1のときは収束しません)。これを象徴的に書いて 1 +r+r2+· · ·= 1
1−r (|r|<1 )
とするわけです。今までこの条件|r|<1をきちんと考えずにいたわけです。
良いですか、等式(2.1)が成り立つのは|x|<1の時に限られるのです。従って、上 で考えた様な『両辺x=−1とする』ことは出来ないわけです。
x=−1とするのがダメなことは了解しましたが、でもそれだったら前回にMadhava- Gregory-Leibniz級数を導き出した時に、
Tan−1x=x−1 3x3+1
5x5− · · · (2.2)
で両辺x= 1としましたがこれもダメなのではないでしょうか。だって(2.2)は|x|<1 でしか成り立たない等比級数の和の公式を出発点として得られたものだったわけですか ら当然x= 1で成り立つとは保証されていません。
結論から言えば、その通り、単純にx= 1と代入して求めたやり方は正しくありま せん。しかし厳密な計算(少々難しい数学になります)をすると実はこの級数はx= 1 の時も収束していることが分かり、同じ結果が正しい方法で導き出されます。
同じように、(2.1)においてxを−xで置き換えてから両辺を積分する事によって 1
1 +x= 1−x+x2−x3+· · · log(1 +x) =x−1
2x2+1
3x3− · · ·
となる事は認めるとしても、ここで直ちにx= 1とする事は出来ません。しかしきちん と計算すればこの式はx= 1でも成り立っていることが分かり
log 2 = 1−1 2+1
3−1 4 +· · · が得られます(難しい数学になります)。
しかしこの級数の足す順番を微妙に入れ替えると、奇妙な事に µ
1
∂
−1 2−1
4+ µ1
3
∂
−1 6−1
8+ µ1
5
∂
− 1 10− 1
12+ µ1
7
∂
− 1 14− 1
16+· · ·
= µ
1−1 2
∂
−1 4+
µ1 3−1
6
∂
−1 8+
µ1 5− 1
10
∂
− 1 12+
µ1 7− 1
14
∂
− 1 16+· · ·
= 1 2−1
4+1 6−1
8+ 1 10− 1
12+ 1 14− 1
16+· · ·
= 1 2
µ 1−1
2+1 3−1
4+· · ·
∂
= 1 2log 2
となってしまいます。つまり、足す順番を変えると総和が変わってしまうのです。
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2.1.1 参考:他の並べ替え
更に別の並び替えを試してみましょう。
µ 1 +1
3−1 2
∂ +
µ1 5+1
7−1 4
∂ +· · ·+
µ 1
4k+ 1+ 1
4k+ 3− 1 2k+ 2
∂ +· · ·
と並べ替えてみると総和はどうなるでしょうか。
任意の正の整数p, m, nに対して Jp,mn =
Z 1 0
xm−1(1−xpn) 1−xp dx と云う積分を考えます。すると、
Jp,mn = Z 1
0
xm−1n
1 +xp+x2p+· · ·+x(n−1)po dx=
n−1X
k=0
Z 1 0
xpk+m−1dx=
n−1X
k=0
1 pk+m となっていて、級数の和の計算に利用することができます。具体的にはJ4,1n , J4,3n ,2J4,4n を考えて
n−1X
k=0
µ 1
4k+ 1+ 1
4k+ 3− 2 4k+ 4
∂
=J4,1n +J4,3n −2J4,4n
= Z 1
0
(1 +x2−2x3)(1−x4n) 1−x4 dx
= Z 1
0
(2x2+x+ 1)(1−x4n) (1 +x)(1 +x2) dx
ですが、ここで ØØ
ØØ Z 1
0
(2x2+x+ 1) (1 +x)(1 +x2)dx−
Z 1 0
(2x2+x+ 1)(1−x4n) (1 +x)(1 +x2) dx
ØØ ØØ=
ØØ ØØ
Z 1 0
(2x2+x+ 1)x4n (1 +x)(1 +x2) dx
ØØ ØØ
≤ Z 1
0
ØØ
ØØ(2x2+x+ 1)x4n (1 +x)(1 +x2)
ØØ ØØdx
≤ Z 1
0
4x4ndx
= 4
4n+ 1→0 asn→ 1 から分るように
X1 k=0
µ 1
4k+ 1+ 1
4k+ 3− 2 4k+ 4
∂
= lim
n→1 n−1X
k=0
µ 1
4k+ 1+ 1
4k+ 3− 2 4k+ 4
∂
= Z 1
0
2x2+x+ 1 (1 +x)(1 +x2)dx
となって無限和は最後の積分値に等しくなります。これを計算すれば X1
k=0
µ 1
4k+ 1+ 1
4k+ 3− 2 4k+ 4
∂
= Z 1
0
µ 1
1 +x+ x 1 +x2
∂ dx
=
∑
log(1 +x) +1
2log(1 +x2)
∏1
0
=3 2log 2 となる事が分ります。今度は32倍になってしまいましたね。
以上のように
負の項を含む無限和は足す順序を入れ替えると合計が変わってしまう
ことがあります(実は上手く入れ替えれば合計をどんな値にでも出来てしまいます)か ら、とんでもない事にならないように扱う上では(特に収束するのかしないのかと云う 点について)細心の注意が必要になります。
2.2 無限級数の和の定義
べき級数だけでなく一般の級数について次のようにその『和』を定める事にします。
定義2.1 実数の形式的な無限和のことを(無限)級数(infinite series)と言い、
X1 n=0
pn=p0+p1+p2+· · ·
第n項までの部分和をSnとして得られる数列{Sn}nが有限値Sに収束している とき、級数P
pnは収束すると言います。またこのとき級数の和はSであるとも 言って象徴的に次のように書きます:
p0+p1+p2+· · ·=S.
部分和が収束しない場合のうち、特に lim
n→1Sn= +1の時はこの級数は+1に 発散すると言い、これも象徴的に
p0+p1+p2+· · ·= +1. と書きます(−1の場合も同様)。
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2.3 調和級数
もしも級数P
pnが収束することが分かっているなら、その極限値をSとすれば、
pn=Sn−Sn−1→S−S= 0 asn→ 1
となるはずで、収束する級数の項はどんどん小さくなって行かねばなりません。逆に言 えば(論理的には対偶)、ある限度以上小さくならないものを無限に足すと発散してし まいます。だから先ず項pnを見て、 lim
n→1pn6= 0であれば和はそもそも収束しないこ とが分かりますね。
事実 2.2 級数P
pnが収束するならば lim
n→1pn= 0です。
ではその逆は成り立つでしょうか。例として調和級数 H1 : 1 + 1
2+1 3+· · · を考えてみましょう。この級数は lim
n→1pn= 0を満たしていますが、収束するでしょう か発散するでしょうか?
感じを掴むために有限部分和をHn= 1 + 12+· · ·+n1 として計算してみました。
H100= 5.18738. . . H10000= 9.78761. . . H1000000= 14.3927. . . H1000= 7.48547. . . H100000= 12.0901. . . H10000000= 16.6953. . .
さてこれを見てどう思いますか?確かにだんだん大きくはなって行きますが1千万項ま で足してまだ17程度ですからね。収束する様な気がしますが以下の計算(N.Oresme, 1350頃)を見てみると、
1 +1 2 +1
3 +· · ·= 1 + µ1
2
∂ +
µ1 3 +1
4
∂ +
µ1 5+1
6 +1 7+1
8
∂ +· · ·
>1 + µ1
2
∂ +
µ1 4 +1
4
∂ +
µ1 8+1
8 +1 8+1
8
∂ +· · ·
= 1 +1 2+1
2 +1 2+· · ·
であって、この最後の級数は明らかに発散します。するとそれよりも大きな級数である 調和級数も発散することになります。発散ですか、驚きです。
nlim→1pn = 0であるからと云って必ずしも和P
pnが収束するわけではない。
発散ということはいつか100を越えるのですが、詳しく調べると1個足すのに10−9 秒しか掛からないと仮定しても100を越えるまで計算しようと思ったら3.5×1026年 掛かることが判明してしまいます。
しかしさっき見たように偶数項目をマイナスにすると収束するわけですから微妙なと ころなんでしょうね。
2.4 比較判定法 〜d’Alembertのアイデア〜
調和級数とその偶数番目の項にマイナスを付けたものの例では前者は発散、後者は収 束でした。しかも後者は足す順序を換えると総和が変わってしまいました。
この様に負の数を含む無限和では大変デリケートな問題が発生しますので、先ずは全 ての項が正である正項級数について見て行くことにしましょう。正項級数では有限部分 和の成す数列は単調増加ですからこれは収束するか+1に発散するかどちらかしかあ りませんし、実は足す順番にも無関係であることが分かっています。
先に見たOresmeによる調和級数発散の証明には注目すべきことがもう1つあります。
発散を示した最後の議論に注目して下さい。『+1に発散することが分かっている別の 級数と比較する』ことによって級数の発散を証明していますね。
単純化して言うと、正項級数P
wn が+1に発散することが分かっていて、かつ wn ≤pnが成り立つならば、級数P
pnは『+1に発散する級数より大きい』のだから これも+1に発散すると言えるでしょう。同様に『収束する級数より小さければ収束 する』とも言えます。まとめると次のようになります:
事実2.3 2つの正項級数P vn,P
wnがあって十分大きなnに対してvn≤wnが 成り立っているとき、
(1)P
wnが収束するならばP
vnも収束し、
(2)P
vnが+1に発散するならばP
wnも+1に発散します。
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『十分大きなnに対して』しか不等号が成り立っていませんが、級数の収束/発散に 関しては級数の最初の方の項は全く関係がなく、大切なのは後の方がどうなっているか だけですからこれで問題ありません。
要するに既知の級数と比較して未知の級数を判断すると云うことですが、収束/発散 がきちんと分かっている既知の級数と言っても今のところ等比級数ぐらいしかありませ ん(等差級数は発散してしまいます)。従って必然的に等比級数と比較すると云う話に なって行きます。
18世紀の数学者Jean Le Rond d’Alembertは、もしP
pn が等比級数なら隣接項の 比:pn+1p
n は公比になるはずだからこの比が1より小さいか見てやることによって収束 判定が出来るだろうと考えました。
実際、lim
n→1
pn+1
pn
<1であれば lim
n→1
pn+1
pn
< R <1 であるようなRを取ることが出 来(1とlimの中点で良いでしょう)、十分大きなnに対しては
pn+1
pn
< R
となっていますから、十分大きなNを固定しておいてN 番目以降のpnに関しては pn= pn
pn−1 ·pn−1
pn−2· · ·pN+1
pN ·pN < Rn−NpN =° R−NpN
¢Rn と評価することが出来ます。この右辺の項をもつ級数P °
R−NpN
¢Rnは収束する等比 級数ですから結局元の級数P
pnも収束することが分かるという寸法です。
定理 2.4 (d’Alembert’s ratio test) 正項級数P
pnにおいて次の極限値:
nlim→1
pn+1
pn
が有限値として存在するとき(その値をLとして)、
(1) 0≤L <1ならばP
pnは収束し、
(2) 1< L <1ならばP
pnは+1に発散します。
また、 lim
n→1
pn+1
pn
=1であるときはP
pnは+1に発散します。
2.4.1 具体的な判定例
(1)P 1
n!: 第n項をpn=n!1 としますと隣接項の比は pn+1
pn
=
1 (n+1)!
1 n!
= 1
n+ 1 →0 asn→ 1
ですからd’Alembertの判定法によりこの級数は収束します。
(2)調和級数H1=P1
n は発散することを既に見ましたが、pn =n1 とすると、
pn+1
pn =
1 n+1
1 n
= n
n+ 1 = 1 1 + n1 →1 となってしまいd’Alembertの判定法では判定不可能です。
(3)P 1
n2: 第n項をpn= n12 としますと隣接項の比は pn+1
pn
=
1 (n+1)2
1 n2
= µ n
n+ 1
∂2
= µ 1
1 +n1
∂2
→1 asn→ 1 ですからこれもd’Alembertの判定法では判定出来ません。
で、収束するかどうかですが、実はこれは収束します。収束することだけなら証明す るのもそんなに難しくはありませんが、ではその和が幾らになるかと云うとこれは難し い問題になります(ちなみに和はπ62 です)。
この様に隣接項の比の極限が1の場合は収束することもしないこともあり、d’Alembert の方法では判定することが出来ません。しかし彼の方法を改良した他の判定法が幾つか 知られていて、そう云ったものを使うと判定出来るようになる場合があります。
Exercise
基本演習1 次の級数は収束するでしょうか? 判定して下さい。
(1)
X1 n=0
n100
2n (2)
X1 n=0
n!
3n (3)
X1 n=1
n (4)
X1 n=1
1 n3 発展演習2 定理2.4の(2)を証明して下さい。
発展演習3 P 1
n2 が収束することをy=x12 のグラフを利用して証明して下さい。