身体感覚の自覚と適応感との関連 [ PDF
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(2) の 3 側面を想定し、各からだとの関係性が全体的な感情 状態に及ぼす影響を検討することを目的とする。また、先 行研究 (山口, 1989 など) を踏まえ、性差にも注目する。 ここで、客観・注意と客観・軽視に関しては、過度にか らだに注意・関心がむく心気的な状態や、からだを全く省 みずこころとからだが切り離された状態も懸念される。す なわち、各からだとの関係性が感情状態に及ぼす影響は、 単に直線的なものではなく、何らかの心理的要因の違いに よって、影響の及ぼし方が異なる(交互作用の)可能性が考 えられる。したがって、本研究はひとの病理的な側面に焦 点づけたものではないが、健康な人のからだとの関係性を 考える際にも、何らかの適応指標を考慮して方が良いと思 われる。そこで、本研究では、全般的な心理的適応の指標 として「青年用適応感尺度」 (大久保,. 2005)を用いる。適応. 感とは、 「個人が環境と適合していると意識していること」 である(大久保・青柳, 2003)。 方法 対象者:大学(院)生 214 名(男 113 名,. 女 96 名, 不明 5 名). 手続き:調査は主に講義時間内に実施。2005 年 11 月。 質問紙構成:ⅰ)からだとの関係性 操作的定義: 「主体が 自分のからだに対して意識を向けたときに現れる主体が主 観的に捉えるからだへの関わり方のあり方」 。 尺度項目は、 独自に作成。受容的信頼関係はフォーカシングや体験を扱 った先行研究を参考。客観・注意関係と客観・軽視関係は、 筆者(小田,. 2003)や山崎(1997)を参考。受容的信頼. 14 項目、. 客観・注意 13 項目、客観・軽視 6 項目、全 33 項目。 「全く 当てはまらない」 ∼ 「非常に当てはまる」 の 5 段階評定。 ⅱ) 適応感 大久保(2005)の「青年用適応感尺度」の 24 項目。 個人と環境が適合しているときの認知や感情に焦点を当て た適応感を測定できる(大久保, 2005)。 「全く当てはまらない」 ∼「非常に当てはまる」の 5 段階評定。 ⅲ)感情状態 小 川ら(2000)の「一般感情尺度」の 24 項目。現在感じている 感情状態を測定できる(小川ら, 2000)。 「全く感じていない」∼ 「非常に感じている」までの 4 段階評定。 結果と考察 ● ● 尺度項目の作成 ⅰ)からだとの関係性 因子分析(主因子法, Varimax 回転)。 「受容 的信頼」 「客観・注意」 「客観・軽視」の 3 因子構造。因子 間の相関は r=.13∼.16 と低く、各からだとの関係性は、個 人の内面の中で打ち消しあうことなく共存している可能性。 ⅱ)適応感 因子分析。大久保(2005)と同様の 3 因子構造。 ⅲ)感情状態 因子分析。小川ら(2000)と同様、 「肯定的感情」. 2. 表1.使用した変数の項目内容と因子分析結果 因子負荷量 項目 からだとの関係性 <受容的信頼>(α=.75) .67 .07 .19 Ⅰ-19)自分の体を信頼している .60 - .15 .08 Ⅰ-11)自分の体は安定している .60 - .02 .04 Ⅰ-12)地に足がついた感じがする Ⅰ- 8)自分が感じていることを“こう感じて .51 .14 - .09 いるんだなぁ”とありのままに受けいれてい .47 .06 - .10 Ⅰ- 1)自分の感じたものを信頼している .06 - .19 Ⅰ-25)自分の体をありのままに受け入れている .46 .44 .06 - .12 Ⅰ- 3)自分の気持ちに正直に行動する Ⅰ- 5)言葉では表現できないことも、体を介 .39 .13 .02 して直感的に分かる <客観・注意>(α=.66) - .04 .54 - .08 Ⅰ-22)自分の体重を気にする .03 .54 - .10 Ⅰ-23)自分の内面に耳を傾ける .51 .08 Ⅰ-14)自分の漠然とした気分に注意をとめている.10 - .02 .50 .06 Ⅰ- 2)自分の体重の増減が分かる .06 .45 - .26 Ⅰ-33)体がリラックスしているか気にかける Ⅰ-30)自分の体のことで“こうあるべきだ” .15 .36 .09 ということがある .03 .35 - .10 Ⅰ-21)呼吸に注意する <客観・軽視>(α=.62) - .01 .00 .70 Ⅰ-18)体の疲労は気にしない - .26 - .25 .57 Ⅰ-15)自分の体調のことは気にかけない .11 - .01 .42 Ⅰ-29)風邪は気合で乗り切れると思う - .22 - .24 .42 Ⅰ- 7)自分の体に気を配るのは面倒である .04 .40 Ⅰ-16)体調よりも頭の働きのほうが重要である - .26 .28 .05 .37 Ⅰ-20)体調を崩しても、何とかやり過ごす 適応感(α=.94) Ⅱ-10) 安心する Ⅱ- 9) 自分と周りがかみ合っている Ⅱ- 8) リラックスできる Ⅱ- 2) 周囲となじめている Ⅱ-22) 自由に話せる雰囲気である Ⅱ-17) 周囲に溶け込めている Ⅱ-23) 周りに共感できる Ⅱ-15) 周りの人と楽しい時間を共有している Ⅱ- 6) ありのままの自分を出せている Ⅱ-11) 周りと助け合っている Ⅱ-16) 成長できると感じる Ⅱ- 4) やるべき目的がある Ⅱ-19) これからの自分のためになることができる Ⅱ- 1) 充実している Ⅱ-18) 熱中できるものがある Ⅱ-21) 好きなことができる Ⅱ-12) 将来役立つことが学べる Ⅱ-13) 周りから頼られていると感じる Ⅱ-20) 周りから期待されていると感じる Ⅱ-24) 周りから必要とされていると感じる Ⅱ-14) 存在を気にかけられている Ⅱ- 7) 良い評価がされていると感じる Ⅱ- 3) 周りから関心をもたれている 感情状態 <肯定的感情>(α=.90) .77 .18 - .07 Ⅳ-14) 元気な .77 .16 .00 Ⅳ-20) 楽しい .75 .05 - .05 Ⅳ- 1) 活気のある .69 - .07 - .02 Ⅳ- 2) 充実した .69 .20 .02 Ⅳ-18) 愉快な .68 .02 - .08 Ⅳ- 8) やる気に満ちた .68 .26 - .06 Ⅳ- 4) 陽気な .63 .36 - .19 Ⅳ-23) 快調な <安静状態>(α=.88) .10 .79 - .15 Ⅳ-12) ゆったりした .03 .79 - .11 Ⅳ-17) ゆっくりした .12 .78 - .13 Ⅳ-19) 平穏な .27 .74 - .19 Ⅳ-22) くつろいだ .23 .73 - .04 Ⅳ-11) のどかな .21 .61 - .07 Ⅳ-24) のんきな .12 .50 - .21 Ⅳ- 7) 平静な - .27 .40 - .05 Ⅳ- 9) 静かな <否定的感情>(α=.85) - .11 - .16 .74 Ⅳ-21) 動揺した - .30 - .09 .67 Ⅳ-10) びくびくした - .24 - .09 .66 Ⅳ- 5) 恐ろしい .09 - .24 .66 Ⅳ-13) そわそわした - .12 - .07 .64 Ⅳ- 3) うろたえた .24 - .09 .62 Ⅳ-16) どきどきした - .07 - .24 .60 Ⅳ- 6) 緊張した .07 .02 .53 Ⅳ-15) 驚いた.
(3) 「安静状態」 「否定的感情」の 3 因子構造。 分析では、適. と適応感の積(X1Z, X2Z, X3Z) 重回帰式: Y1∼3 = b1X1+b2X2+b3X3+b4Z. 応感は全項目を、からだとの関係性・感情状態は各因子の. +b5X1Z+b6X2Z+b7X3Z+b0 (b:偏回帰係数). 項目得点の合計を、それぞれの項目数で割ったものを用い た。表1に各尺度項目の内容と因子分析結果、信頼性係数 Cronbach のαの値を記載する。. 受容的信頼の影響 女性:交互作用なし。肯定的感情と 安静状態において主効果(t=2.47, p<.05; t=2.74, p<.01)。 男性:. ● ● 変数の性差の検討 t 検定の結果、複数の変数で性差。い. 交互作用なし。 安静状態と否定的感情において主効果(t=1.81,. ずれも女性の得点が高い。表2。! 男女別に検討. p<.10; t=−3.92, p<.01)。. 女性は、適応感に関わらず、自分のからだと受容的信頼. 表2. 使用した変数の記述統計量と性差の検定結果 平均値(標準偏差) 全体(N=208). 女性(N=96). 男性(N=112). 3.42(0.63). 3.43(0.56). 3.42(0.68). 関係にあるほど、肯定的感情と安静状態が高まる傾向が示. t値. 唆された。一般に、女性は、周期的な身体的変化を背景に、. からだとの関係性 受容的信頼. 自分のからだを不安定なものとして捉える傾向がある(山口,. 0.10. 1989)。そうした中で、自分のからだやからだで起こること. **. 客観・注意. 3.17(0.70). 3.34(0.58). 3.03(0.75). 3.30. 客観・軽視. 2.72(0.66). 2.66(0.59). 2.77(0.70). - 1.24. 3.30(0.67). 3.43(0.66). 3.19(0.66). 2.63 **. 肯定的感情. 2.71(0.60). 2.77(0.64). 2.66(0.57). 1.25. 安静状態. 2.64(0.64). 2.58(0.58). 2.69(0.63). - 1.27. 否定的感情. 1.88(0.57). 1.98(0.57). 1.80(0.55). を受容的に受けとめ、からだとの信頼関係を築けることは、. 適応感. 身体的変化に振り回される感覚を和らげ、ゆっくりくつろ いだ感覚を感じやすくなる、あるいは振り回されないこと. 感情状態. **. で充実した感覚を抱きやすくなることが示唆される。 一方、男性においても適応感の影響は認められず、自分. 2.36 *. のからだと受容的信頼関係にあるほど、安静状態が高まり、. *. p<.01 p<.05. 逆に否定的な感情が弱まる傾向が示唆。男性の場合、社会 的な要請もあり外に対して気を張って生きているというの ● ● 変数間の相関 性別に変数間の相関を検討。表3。. が現状。そうした中で、自らの内にからだという“よき導 き手” “よき同伴者”を感じられることは、不要な緊張や不. 表3. 変数間の相関 (3). (4). (5). (6). (7). 安を和らげることにつながり、また、ゆっくりくつろいだ. (1) 受容的信頼. (1). --. (2). .19. - .14. .36 **. .38 **. .29 ** - .11. .12. --. - .24. .29 **. .04. 感じといった自分の内面の穏やかな感情の動きについても. (2) 客観・注意 (3) 客観・軽視. - .13. - .10. - .13. .22. - .18. - .09. - .05. - .08. --. .59. .30 **. - .15. .57 **. --. .45 ** - .26 *. .22 **. --. - .36 **. - .26 **. --. .61. .39 **. (6) 安静状態. .27 **. - .07. - .09. .19 *. - .44 **. .15. .07. - .24 **. **. .15. --. (5) 肯定的感情. (7) 否定的感情. .04. **. (4) 適応感. **. - .05. .29. **. - .14. よく察知できるようになると考えられる。. 客観・注意の影響 女性:肯定的感情および安静状態に おいて交互作用が有意(t=1.79, p<.10; t=3.02, p<.01)。図1、図2 に適応感の高低による客観・注意と肯定的感情および安静. *. p<.01 p<.05. 状態との関連を示す。. 右上の三角部が女性、左下の三角部が男性. 単純傾斜の検定の結果、肯定的感情では適応感が−1SD の場合で、客観・注意の単純傾斜が有意(B=−.30, ● ● からだとの関係性が感情状態に及ぼす影響. p<.05)であった。安静状態では適応感が−1SD. からだとの関係性が感情状態に及ぼす影響を検討するた. 観・注意の単純傾斜が有意(B=−.40,. t=−2.35,. の場合で客. t=−2.94, p<.01)であった。. め、性別に重回帰分析を行った。適応感を考慮し、交互作. 男性:交互作用なし。肯定的感情・否定的感情において主. 用項を投入した。多重共線性の問題を回避するため、変数. 効果(t=1.83, p<.10; t=2.43, p<.05; t=3.19, p<.01; t=3.66, p<.01)。. を中心化。交互作用がある場合は、適応感により場合分け. 女性は、適応感が低い場合、からだへの注意が高まるほ. slope)の検定(cf.. ど、肯定的感情と安静状態が弱まる傾向。本研究の結果か. し、各からだとの関係性の単純傾斜(simple Aiken & West, 1991)。. らも、女性は、体重や容姿など自分のからだに注意を向け やすいことが分かっているが、そこに適応感が伴わない場. 従属変数: 各感情状態(Y1∼3). 合、からだへの注意・関心の高まりは、ポジティブな感情. 独立変数: 各からだとの関係性(X1∼3). に対して抑制的に働く可能性が示唆された。他方で、女性. 適応感(Z). は、メディアをはじめめとする様々な社会的要因によって、. 交互作用項: 各からだとの関係性. 3.
(4) 心を示さず、自分のからだのことは後まわしにしようとす .10. るからだとの関係性は、どの感情状態にも影響を及ぼさな. .8. かった。これは、主体の注意が向かう先が外部環境にあり、. .6. 感情を含めた内面の動きの察知を後まわしにしているとい. 適応感高. .4. うために感情に影響が及ぼしようがないという点で、妥当. 適応感低. 肯 定 的 .2 感 情. な結果とも考えられる。. .0. ● ● 本研究で得られた示唆. −.2. ・ からだとの関係性が感情状態に及ぼす影響については、. −.4 −.6. 男女差がある。. 0.58. −0.58 客観・注意. ・ 受容的信頼関係については、適応感の影響を受けず、. 図 1. 適応感の高低による客観・注意と肯定的感情との関連. 感情をポジティブな方向に向かわせる可能性が示唆さ れた。臨床的にも重要。 ・ からだへの注意・関心の高まりは、女性の場合、適応感. .10. が伴わない場合、ポジティブな感情を弱める傾向が示. .8. 唆された。一方、男性は、からだへの注意・関心の高ま. .6. りは、内的なものへの覚知を高める可能性と否定的な. 適応感高. .4. 感情を高める可能性の二つが示唆された。今後詳細に. 適応感低. 安 静 状 .2 態. 検討する必要あり。. .0. ● ● 今後の課題. −.2. ・ からだとの関係性についての概念的な検討を進める。. −.4 −.6. ・ 受容的信頼関係については、どういった介入がそれを. 0.58. −0.58 客観・ 注意. 高めるのかについての検討が必要。セルフケアを考え. 図 2. 適応感の高低による客観・注意と安静状態との関連. た場合、生活場面で実施可能な“少しの介入(工夫) ” が望ましいと思われる。今後は、そうした介入を継続 的に行い、からだとの関係性が継時的にみてどのよう. 理想的な女性像を求める圧力にさらされているといえる. に変化するのかを検討したい。. だろう。からだへの注意・関心へのプラスのフィードバック. ・ 今回の結果からは、からだへの注意がむくことについ. がないにもかかわらず、社会的な圧力にさらされて、から. て、感情に及ぼす否定的な側面も認められた。方法を. だへの関心は高まるという流れは、感情と切り離された自. より洗練して、そのメカニズムを含めて検討する必要. 己あるいは自動化されたからだへの関心の集中といった事. がある。. 態が懸念される。. ・ 今回、からだとの関係性と感情状態の関連に適応感の. 一方、男性は、適応感にかかわらず、からだへの注意・関. 違いが影響するとの視点から検討を行い、実際に、客. 心の高まりは肯定的感情および否定的感情を高める傾向。. 観・注意において適応感の影響(交互作用)が見られた。. 全般的に内的なものへの覚知を高める可能性が示唆される. しかし、近年、日常的なセルフ・コントロールにおける. 一方で、本来外にむくはずの注意が自分の内面にむくこと. 自己効力感に注目した研究(たとえば、杉若, 1995)も見られ、. で、外から閉じこもろうとする内閉的な態度につながり、. 今後は、セルフの“ケア”や“コントロール”という. 結果的に否定的な感情が高まり、心理的な問題へとつなが. 視点を考えた場合、 「自己効力感」の要因からの検討も. る可能性も考えられる。こうした点については、本研究の. 望まれる。. 結果だけではわからないため、今後検討が必要だろう。. 客観・軽視の影響 女性:交互作用、主効果なし。 男 性:交互作用、主効果なし。 男女を問わず、からだやからだで起こることにあまり関. 4.
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